妖精と両生類が日々繰り広げる決闘を報道することに、どれほどの意味と意義があるのか。
そんな記事を掲載し続ける新聞には、どれほどの存在価値と存在理由があるのか。
少なくとも幅広い需要があるとはお世辞にも言えず、学級新聞やら三流タブロイドと揶揄されちゃったりしているわけで。
主観的にも、客観的にも。ちょっとばかし唸ってしまう事もある。
なんつって。
「でもそれが我がじんせーだったりすんのよねえ。なんだろねえこれ、私ってさ」
大蝦蟇の閉じた口の端っこから、チルノの足だけが飛び出てる。
私が池に来たときには既に、あぶら蝉のみーんみんみんみんみーん、という声に合わせるようにして、足がじたばた動いてた。
大蝦蟇のぎょろ目が私を見てる。顎をもにゅもにゅ動かして、妖精さんを口の中で舐めてるみたい。
改めてこいつの前に立ってみると、わりと迫力があるもんだ。見下ろされる感じになるし、横幅だって私の何倍かはある。それに雑木林を貫通してくる強烈な木漏れ日のせいで、からだの表面のごつごつ感に深い影がつくられて、強面がいっそう際だっている。ちょっとした怪獣みたいなもんだ。
大蝦蟇の頭の上に小鳥が止まった。キビタキだ。
キビタキもじたばたな妖精さんの足を見てる。私とも目が合った。でもキビタキさんは特に私に脅威は感じないようで、チルノの足に引き続き、辺りの様子を観察してる。
小鳥のじんせーなんてそんなもんだ。例えばそこらを観察したりする。食えるもんねーかなー、とか、もっととまりやすい枝ねーかなー、とか、もっと風が気持ちいい所ねーかなー、とか、それが小鳥のじんせーだ。
キビタキさんが眺め回す雑木林の中はひたすらに、木漏れ日の明と、葉っぱや枝が作る影の暗のモザイク模様なありさま。木立も、腐葉土も、私の体も、全部が光と影のモザイク模様なありさまだ。
そんな光景を前にしてもう一回呟いてみる。
「いやあ、あれだねチルノ、人生って楽しくってしっかたねーやあ、ねえチルノさあ」
団扇で首筋を扇ぎながら、しみじみ、かつ投げやりに呟いてみた。蒸し暑い。とことん蒸し暑い上に、蚊が五月蠅い。痒い。虫除け持ってくればよかった。とか思いながら、刺された膝を掻いて、新たに刺されてる太股をバチンと叩きつつ、写真の構図をどーすっかなあ、とか考えてた。
十五秒くらい考えてから、じたばたチルノ足をファインダーにおさめて、シャッターを切った。
パシャリ。パシャリ。パシャリ。パシャリ。
正面+二十度くらいから煽り気味に大蝦蟇の二個の目玉が入る構図にしてみた。
撮影終了。
とりあえず妖精さんを出してやるか。と思った。
右手で掴んでみたチルノの足はひんやりしてて気持ちよかった。
引っ張ってみた。
チルノが、ぬるん、と口から出てきて、地面にべちゃりと落ちた。
大蝦蟇が一言だけ鳴いた。少し不満そうだった。
ゲコッ。
もしかしたら口に入れてると冷たくて気持ちが良いのかも知れない。
悪いけど口に入ってる写真だけ撮ってもしょーがないのよねえ。
チルノが立ち上がった。ガバっとだ。跳ね起きたとか、そーゆー感じだ。
妖精さんの体中に付いてたカエルの唾液が跳ねた。私の頬にも飛んできた。
変な臭いがした。カエル臭い。手の甲で頬を拭って、チルノたちに背を向けて池で手と顔を洗った。
水はぬるかった。蓮の葉の下には、メダカやフナやカエルやオタマジャクシが泳いでいるのが見えた。
うじゃうじゃだった。
もしコップですくえば、オタマジャクシ百匹くらい躍り食いできるかも、そんときお腹を擽られたりしたら、鼻から出るのかな、と感触を想像してちょと怖くなるくらい、うじゃうじゃいた。
その間にも、「もう一回勝負よ!」とチルノが大蝦蟇に叫んでいて、「パーフェクトフリー」
完璧なる自由、そんな技もあったのかと思ったけど、手を洗い終わって大蝦蟇の方を見てみたら、また食われてた。
宣言が終わる前に食われたらしい。大蝦蟇の口から足が出てた。
じたばたしてた。
一応もう一枚写真を撮った。
引っこ抜いた。
チルノがぬるんと出てきた。
ゲコッと不満そうに大蝦蟇が鳴いて、一秒もせずにチルノはガバっと起きあがった。
まだやる気らしい。水色の瞳に闘志をめらめらと燃やしてる。
「ふっふっふ、あんなのであたいに勝ったと思うのカエル? そうはイカのぬかはちっ! 今のはぬかっただけよ、はちが。はちのせいだからあたいは普通よ。優柔不断快適って言うでしょう? 本気のあたいを見たら、あんたなんか脱皮して自分から財布になるわっ。良い作戦を思いついたんだから、めんたま飛び出させて驚いてとびだせ!」
大蝦蟇にびしーっと人さし指を向けたチルノは、さっき攻撃を仕掛けようとした位置よりも、離れた所へ走っていった。良い作戦とはつまり、距離をとって技の宣言時間を稼ごうというつもりらしい。
チルノと大蝦蟇が睨み合う。
ボーダーオブデュエルっぽい趣がなくもないけど、何しろカエルと妖精さんだ。
緊張感は著しく無い。チルノの必死な前口上より、みんみん蝉の鳴き声のほうがまだ一夏限りの大合唱って感じで悲壮感があるし、日差しの方が百倍は過酷だし、蚊に刺された痒みのほうが五百倍は深刻だし。
私は左手でカメラを構えつつ、暑ちーなー、とか思いながら右手の団扇で胸元を扇いでた。
ついでに汗で蒸れる腋をパタパタしたりしつつだ。
チルノと大蝦蟇との間にひゅるりと滑らかな風が吹き抜けた。
チルノの髪から一滴の唾液がぽたんと地面に落ちた。
その刹那っぽい感じだった。
「パ」
だけしか聞こえなかった。もう食われた。
長い長いベロがチルノに巻き付いたのは見えた。一応写真もばっちりとった。わりと決定的瞬間だったと思う。
さっそく足がじたばたしてる。
引っこ抜いてやった。
ゲコッ。大蝦蟇が不満そうな声で鳴いた。
やっぱチルノをくわえるのが、好きなのかも知れない。
唾液でどろどろなチルノがゆらりと立ち上がった。
ちょっと溶けてる気がする。心なしか顔の造形がのっぺりしてる。
「ふっふっふ、今ので見切ったぞカエル。今はわざと食われてやった事に、あんたは気づいてない。自分から弱点をさらけ出した事に気づいてないのよ! 今すっごい作戦を思いついたんだから、聞きたい? 聞きたいでしょう? ふっふっふ、じゃあ教えてやるわっ。と思ったけど教えてあげないよーだ」
チルノはべろべろばーっとあかんべーした。清々しいくらいのスムーズなあっかんべーだった。やってみればわかるけど、実際に流れるような動作であっかんべーをするのは、難しい。目に指を入れてしまわないように注意すると、どうしても、ぎこちなくなってしまうし、舌を大きく外に向けてべろべろして見せるというのも日常ではしない動作だ。
あっかんべーをやりなれてる者のあっかんべー、それがチルノのあっかんべーだ。うん。
「へへへへー、どうだ悔しいかカエルー、いくら図体が大きくたって、力だけ強くたって、最後に笑うのは頭脳の勝利なのよ! あたいがどれだけ頭がいいか、知らないでしょーあんた、みんなあたいをバカバカ言うけど、すごいんだぞほんとは、どれくらい天才かというと、あたいが思いついた作戦を聞いて驚け! 目玉とびだせ! 作戦とはずばり!」
もっかいビシーっとチルノは大蝦蟇に人さし指を突きつけてみせた。
身長差は三倍程度。だからビシーをするにも、チルノは思いっきりお空を仰がなければならない。
一方の大蝦蟇は足下のチルノにおっきな目玉を向けて、じーっと話を聞いている。ようだ。一応。
けど、チルノは作戦とやらを言い出さない。キビタキがまた飛んできて大蝦蟇の頭の上に止まった。
「作戦とはずばり!」さらにもっかいビシーっとした。
キビタキが驚いて逃げていった。
「忘れた!」チルノが言った。「作戦忘れちゃった!」ビシーっとしながら言った。もったいぶりすぎたらしい。
大蝦蟇が鳴いた。
ゲコッ。
哀れむような鳴き方だった。
「でも、あたいには作戦なんて必要ない! だってあたいは最強なんだもの、もう一回しょうぶよカエル! パ」
強烈な木漏れ日の中でジタバタする足。
大蝦蟇の口の中から、ムキーという唸り声が、あぶら蝉の鳴き声の合間に聞こえる。
なんだか、いたたまれない気持ちになった。
引っこ抜いて、足を持った逆さ吊りのまま、妖精さんを池で洗ってあげた。妖怪なり人間なりの生き物でこれやったら、ちょっとした幼児虐待だけど、チルノの主成分は氷、だから水は体の一部みたいなもんだ。
池から引き上げてジャイアントスイングで脱水し始めてやっと、「あ、文だ」とチルノは私に気づいたらしい。
「おっす」
妖精さんを毎分六千回転くらいさせつつ一応挨拶した。遠心力と風圧のおかげで三十秒も回転させただけで、すっかり乾いた。妖精さんには蓮のにおいだけが残り、髪の毛がさかだってライオンみたいになった。
ここでこうして氷の妖精さんを、数限りなく洗濯してあげた経験上では、この方法がもっとも手っ取り早く、綺麗さっぱりにしてあげられるという事実に行き着いただけであって、別に虐めてる訳じゃない。
「アイスちょうだい」
チルノを地面に降ろしてやった途端に、手を差し出してきた。私がクーラーボックスを肩に提げてるのを見てだ。
中にはアイスキャンディーが入ってるのを妖精さんは知っている。この池で繰り広げられる密かな決闘劇を取材するにおいて、私のクーラーボックスは潤滑油的役割を担っていたりする。今まで何百本食べさせたかわからない。
妖精と両生類の決闘を日常的に記事にする私の新聞。
自分では取材する事柄を特に、これだ! と強い信念なりを持って選んできたつもりは無いのに、気の向くままにやってたらいつの間に、こーゆー隙間産業っぽい方向性に落ち着いてしまった。
自分ではどっちかと言えば、次こそは新聞大会で優勝をー! とか気合い入れてジャーナリストをやってきたつもりなんだけど、いつも最終的に記事にしてるのは事は、今日みたいな事ばっかだ。どうしてか。
この前の地底異変だって独占取材をしてみたものの、出来上がった記事は『博霊神社の巫女。妖怪猫にじゃれつかれる』やら『怪奇三本足地獄鴉あらわる』やら『図説! 温泉好きな山の神と間欠泉』だもんね。
すっぱ抜きーの、特ダネーの、大スクープりーのなはずだったんだけど。
気づいたら、ミコミコ人情どーぶつ触れ合い湯煙地底一人旅みたいな感じになってたりした。
どうしてだろうとも思う。
花の異変の時に閻魔様から説教されたことを、かたくなに守ってるっぽいつもりはないんだけど。
世間の需要と、私が供給出来るもののバランスが、やや供給過剰でありながらも、何かしらその他のファクターで均衡を保っている落としどころみたいのが、今やってるような事なんだと思う。
何かしらの他のファクター。よーするに自分に向いてるとか、好きなものとか、そーゆーものだきっと。
学級新聞? 窓拭きに便利? 鍋敷き? うん。まあそういう事もある。
私の新聞も新聞なりに人生を全うすることもあれば、非新聞的、あるいは“新聞紙”的人生を全うすることもある。
仕方ない。じんせーには必然性と偶然性に導かれた上で、選択できる事と選択できない事がある。
妖精さんにアイス食わせて記事を書くのも、選択できないことの一つだ。ま、大げさに言えばだけど。
「はい、どーぞー」
クーラーボックスから二本のアイスキャンディーを出して、苺味をチルノに渡した。私の分はメロン味。
チルノは池の畔に腰掛けて、ガリガリガリと無心で囓りだした。私も隣に座ってみた。
チルノの足が池の表面をチャプチャプと時折掻き混ぜる。
大蝦蟇が後ろから私たちを見ている。見張ってるつもりかも知れない。
「やっぱそっちのメロン味がいい。取りかえっこして文」
半分ほどの食べかけを、ずいっと押しつけてきた。うん、まあ、他人が食べてる物の方がおいしく見えるもんだ。
交換してやった。これもいわゆる選択出来ないことの一つだと思う。大げさに言っちゃえば。
「あ、やっぱこっちのがおいしー」
とか妖精さんは言ってるけど、実際には合成着色料が違うだけで、味は変わらない。果汁が入ってない安物だし。
「そんでチルノさ。大蝦蟇には勝てるようになった? 一回くらいは」一応訊いてみる。
けどまあ。案の定。チルノは不機嫌そうに水をけっ飛ばした。
飛沫が凍り細かな霙になって輝いた。
キラキラキラキラ。
そんで。
「実力的には」とむくれ顔で答えた。
実力的には、なんつっちゃってさ。どこで覚えたのか妖精さんにしては随分と歪曲的な物言いをするもんだ。
さっきみたいに、『あたいが本気だせばー』とか言ってる方がぜんぜん似合うのに。
「じゃあ結果的には?」
「けっかてきってなーに?」
「今まで一回くらいは勝てたのかって意味」
「最近気づいたんだけどね文、あたいってば実は全勝してたかも知れない」
ちょっと複雑なお顔をしちゃいながらも、なにやら含んだ笑いの妖精さん。
でーも、とりあえず意味がわからない。さっき食われてたばっかじゃん。
世間一般的にはそーゆーのは、どー見ても負けとしか言いようがないわけでえ。
「食われても勝ちなの?」
「負けるが勝ちって知らないの?」
あー。
うん。
「知ってる」
「つまりあたいは、むいしきに全勝してた!」
うおーっと雄叫びを上げる妖精さん。
大蝦蟇が私たちの後ろから鳴いた。
ゲコッ。
チルノの雄叫びに呼応してるらしい。
「発想の転換って幸せへの近道よねえ」しみじみ言ってみた。
「はっそうのかんてんって、なーに? おいしい?」小首を傾げる妖精さん。
「誰もチルノには勝てないだろうなあ、って意味」
「だよね! もう一本アイス食べても良い?」既にクーラーボックスを開けてる妖精さん。
「うん。どーぞ」
「わーい」
ガリガリガリ、と新しいアイスを囓りながらチルノは、足で蓮の葉を弄ぶ。
オタマジャクシが怖がって逃げてった。
底を覆い尽くすくらいの数が一斉に動くもんだから、まるで黒い大きな生き物が底を這いずるように見えた。
将来あの中の何匹かがチルノに凍らされて、何匹かがチルノを食うことになるんだろうな。と思った。
そんな将来は、今私らを見張ってる大蝦蟇にしてみれば、けして愉快な物じゃないだろうけど、かといって妖精の悪戯を止めさせる手段なんて無い。懲らしめてもすぐ忘れるのが妖精だし、自然現象の化身である以上は、人間や妖怪のように、物理的に消滅させようとして出来る存在でもない。
もしかしたら、だからこの大蝦蟇はチルノの決闘ごっこの相手になっているんじゃ、なんて思うこともある。
遊び相手が居れば、その分。チルノが他のカエルに悪戯する時間が減る。
「それでね。あたい、次のステッポにスパッポアッポしようかなと、昨日考えて、良いこと思いついたんだけど」
「ステップアップ? 思いついたって何を」
私も、もう一本アイスを舐めながら聞き返してみた。
「忘れた!」
「そっか」
「でも今また思いついた!」
「ほー」
「格好良く勝ちたい! もう普通に勝つのはいいから、うおーかっけーえええ! みたいな、勝ち方する!」
「なるほどねえ。言いたい事は、わからなくはないかな。魅せる戦い方って事ね。てーより魅せる食われ方なのかな」
「文も前に言ってたじゃんさ。あたいが格好良く食われることが出来たら記事にしたいって」
「あ。あー。うん。それは憶えてたんだ。良く憶えてたね」
「うんっ。あれって、あたいが格好良く勝てるようになったら、記事にしたいって意味で言ってたんだよね!」
あー。
うん。
「なんか色々とそれでいいや。格好良く食われる事が出来たら、ある意味、革命だとおもうし」
「だからあたいは、まず格好良くならなくちゃいけないの! どうやったら格好良くなるかなあたい?」
「ん。格好良く食われるために、自分がまずは恰好良くなろうって事?」
「当たり前じゃんさ。恰好良い妖精が食われれば、格好良く食われる事になるじゃんさ」
「なるほど。うん。発想はけして間違ってはいないと思う。根本的に何かがずれてるけど」
「ずれてるって何が文?」
「幸福の価値基準って極めて内在的な概念だよね、って事よ」
「かかあでんかのかちかちやまはないじゅのこうでがんすよね、ってなーに?」
「世界中の妖怪やら人間がチルノみたいになれば、世の中から不幸が無くなるだろうなって意味」
「意味わかんないよ文?」
なーんて私の目を覗き込んでくる。頭の上にハテナマークが浮かんできそうな顔だ。
「わかんなくても、わかってんのかもねチルノは。無意識? とかでさ」
「あたいってば天才だから?」
「うん、なんかもうそれで色々いいや」
「ね、文、もっとアイス食べて良い?」
「うん」
二人でクーラーボックスを開けた。今度はチルノは檸檬味。私は蜜柑味。味は同じだけど。色は違う。
でも、もしかしたらチルノには、ほんとに檸檬の味がしてるかも知れない。
「あたいまずは、恰好が恰好良くなりたい!」
「恰好って、服とか?」
「うん。武器とか、かっこいいの」
「ああ、武器ね。剣とか盾とか?」
「うん!」
「じゃあ、ちょっと待ってて、取ってきてあげる」
どひゅん。ひとっ飛びして椛から借りてきてみた。マッハ6で飛べば往復三秒も掛からない。
「うおー、すげー、かっけー」とかチルノは騒ぎながら、早速鞘を腰に付けてみたけど、ベルトや帯をしてないから、ワンピースの左肩が激しくずり下がる。普通に地面に擦る。盾もやたらに重そうだし。
似合ってるね、とか言っちゃえば嫌みにしかならない。そんな感じだけど、本人はご満悦だ。
「ねえねえ文、あとあれがいいな、地獄鴉が右手に付けてる奴!」
どひゅん、ひとっ飛びして地底へ、と思ったけど、あそこには出来れば行きたくない。
他に何か六角柱で似てる物は、と探して、神社からおみくじの箱を持ってきた。霊夢は昼寝してたから余裕だ。
「うおー、すげえ、かっちぇー」とかチルノは言いながら、おみくじの中身を全部捨て、腕に装着した。「す、げー、ビームとかだせそー!」六角形になった腕をぶんぶん振り回して本人は至ってご満悦だ。
「ねーねー文、あと尻尾とかふさふさの九個の奴とか、耳とかうさうさしてる奴もワンワンにゃんにゃんとかも!」
どひゅん、ひとっ飛びして永遠亭とマヨヒガと再び椛の元へ、と思ったけど流石にひっこぬいて持ってくるわけにはいかない。香霖堂にその手のグッズが置いてあったのを思い出して行ってみたら、思いの外充実した品揃えで、店主さんが熱い口調で商品を説明してくれた。
なんだかんだと、兎の耳と、猫の耳と、狼の耳と、狼の尻尾と、猫又の尻尾と、狐の尻尾を全部買わされてしまった。
せっかくだから全部チルノに装着してみた。持って帰っても、自分で使うわけもなし。
「うおおおお、あたいすっげモフモフ、すっげあたいうさうさ、すげえにゃんにゃんわんわん、かこいいいいいい!」
頭に耳は六つ付けれたけど、尻尾は九尾が大きすぎるせいで、猫と狼の尻尾が背中に付けられず、仕方なくお腹のあたりにつけた。ワンピースの脚の間から、だらんと三本の尻尾が垂れてる。でも本人はご満悦だ。
「ねえねえ文、咲夜の服と魔理沙の箒とけいねの角と焼き芋神の焼き芋のにおいと腋と幽々子の@と桃も!」
全部揃えた。
チルノが何がなんだかわからない物体になった。
あえて一言で表現するなら、RX9チルノmk2汎用極地決戦V仕様試作Z九号機νリミテッドエディションZZ。
要するに、よくわからない物体だ。
ゲコッ、と大蝦蟇が鳴いた。心配そうな鳴き声だった。チルノの有様を心配してるのかも知れない。
でも本人は至極ご満悦だ。もっさもっさがちゃがちゃ走り回ってる。
「恰好を格好良くするのはこれくらいでいいかな!」
えっへん、と箒に跨りながら腰に手を当て、えばる妖精さん。
「あ、うん。いいんじゃない?」てきとーに答えてみた。本人が満足なら世の中それに越したことはない。たぶん。
しわくちゃな耳も計十二本の尻尾も誇らしげに風に揺れている。双角は直射日光を受けて鈍く光り、かたっぽには@が結ばれていて、かたっぽには桃が突き刺してあって、甘い匂いに蝿と蜂が寄ってきてる。メイド服は咲夜のサイズになってるから、裾を擦らないように思いっきりたくし上げてあって、カボチャブルマーみたいになってるけど、焼き芋の香水を染みこませてみたら、すんごい香ばしくて良い匂いになった。ちなみに腋は切り落としてある。
「だよね! これくらいでいいよね文?」
妖精さんが興奮した様子でもう一回訊いてきた。
「うん。もう色んな方向性で悔いは無いよね。そこまでやったら」
四本目のアイスをぺろぺろしつつ言ってみた。雑木林は相変わらず蒸し暑い。飛び回ったせいで、余計に暑い。
チルノの側にいるとけっこう涼しくなる。便利だと思う。試しに氷の羽に額を押しつけてみたら気持ちよかった。
「うんっ、あたい満足。次はする事を格好良くする番ね!」妖精さんも四本目をガリガリガリガリ。
「する事って、仕草とか?」
「異変よ!」と妖精さんが言った。
「あ、偉業とか事件とかそういう意味ねえ。異変かあ」と私は言った。
「うん、霧だしたり、雪降らせたり、満月したりしたい!」
「雪くらいは出来るんじゃないのチルノ。パーフェクトフリーズぅうう、とかやってんじゃない」
「あたいの周りだけしか雪にならないよ、それだと。幻想郷全部を雪にしないと、異変じゃないじゃん」
「それもそっか。じゃあさ、こういうのはどう? チルノがまずここで思いっきり、地上の湿度たっぷりな空気を冷やすのよ、んで私がその空気を、風を操る能力で上空まで送るわけ。どうなるかわかる?」
「わかった! よくわからない!」
「あー。うん。空が冷えるわけ。しかも、地上に比べて空は気圧が低いから、地上から送った空気は密度が薄くなって、あんたが冷やした空気はさらに冷却される。で、今、あたしらの頭の上にあるのはなんでしょうか」
「空!」
「あーうん。間違ってはないよね。けして。むしろ、ついつい大人の目線では見落としがちな、子供時代にしか見えないそれ的な感じもするけどさチルノ。どっちかっつえば、でっかい入道雲ね。入道雲がある。ほっとけば夕立になるやつ。あれが冷やされて雪が降る。がんばればたぶん、真夏に雪よ雪。立派な異変じゃない? あ、これってもしかしてー記事にもなるかも。おー、ちょっとやってみようよ、ね?」
わりと自分の目が輝いてるのを感じる。
妖精さんの両肩をがしっと掴んでゆさゆさしてしまった。
出来れば記事にする事件に関しては第三者として居たいもんだけど、異変協力者の内部告発っぽい切り口も新鮮で良いかも知れない。
「で、文、異変って何がおこるの?」
「だからー、雪が降るのよ雪。真夏に」
「す、すげー! すごいねそれ文すごい、わかった、コブレーション雪異変ね! で、あたいは何するの?」
「コラボレーションね。空気を冷やせばいいの。さあチルノ、思いっきり空気を冷やしてちょーだい」
「うんっ。冷やせばいいのね。わかったー」
チルノはずばーっと両手を広げ、眉をつり上げて気合いの表情。大蝦蟇は危険を感じたのか、遠くに離れた。
そして、「ふぉおおおおおおお」とチルノが唸り始めると、足下から霜柱がもりもりとせり上がり、それが急激に広がっていくと同時に、あたりいっぱいに細かな氷の結晶が漂いだした。瞬間的に冷やされた空気から飽和する水分が凍る人口のダイヤモンドダストだ。真夏の日光を受けて七色のプリズムを雑木林の中へと煌めかせる。
寒い。なんてもんじゃない。気づけば髪の毛がかちかちになっていて、全身の汗が凍っていた。
慌てて団扇を扇いで上昇気流を作り、チルノと私の周りの極低温な空気を空高くへと弾き飛ばした。
ちょうど入道雲よりも、少しだけ高くなる高度に加減してだ。
あとは私はこの上昇気流を維持すればいい。そうすれば気圧の加減で、自動的に地上の湿って温かい空気が私たちの周りに吸い寄せられることになり、チルノがそれを冷やし、上昇気流が空に運ぶというサイクルをキープできる。
風邪ひきそうだけど、仕方ない。上手く雪が降ればそれなりの記事になる。かも。たぶんだけど。
そうして、十五分ほどしてからだ。ほんとはもっと三十分とか四十分とか時間が経ってるのかも知れないけど、単調な作業は時間の感覚がわからなくなる。
雑木林の上空に氷の粒で出来た真っ黒い雲が、入道雲に混じって出来上がった。
さっきまで照りつけていた日の光はどこへやら。雑木林は暗ーくになってる。
「見てチルノ、雪雲だよあれ」
団扇をパタパタ操りながら指さしてみる。
「あー、ほんとだ、すげー! あたいたちすげー!」
がっはっはっはー、なんて妖精さんが悪役っぽく笑った。
「ほんとに出来ると思わなかったけどねえ。もうすぐで降り出すかなあれは。あと一踏ん張り、がんばってチルノ」
「うんっ、あたい絶対異変起こす。ふぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
とは言うものの、チルノは今にもへたりそうなほど息が上がってる。
私は空に空気を流してるだけだから、疲れるなんて事はないけど、チルノは全力稼働だから無理もない。
「ふぅおおおお……おおおぉぉぉぉ」
あからさまに出力が落ちてきてる。
「ぉぉぉぉぉ……ふ、ふ、ふぉふぉふぉふぉふぉふぉ……」
あー。だめかな。こりゃ。
「あふあふあふ、ふぉぉ……」
チルノがくらくらくら、と目を回したと思ったら、ばたん、と倒れはしない。
九尾が邪魔で倒れることは出来ずに、ぺたんと地面に座っただけだった。
遠くで大蝦蟇が心配そうに、ゲコっと鳴いた。
あらまあ。
仕方ないか。やっぱ無理かな。
なんて思いつつ、団扇で扇ぐのを止めてみたらだった。
目を閉じてたチルノの鼻っ面に、白い物がひらひらと舞い落ちてきて、乗っかったのが見えた。
もう一度、空を見上げてみた。
真っ暗な空から。空いっぱいから、白いのが降ってきてた。
もちろん雪だ。
掌で白いのを受け止めてみた。あっというまに溶けたけど、ちゃんと冷たかった。
やっぱり雪だ。
「ちょっとチルノ! 見てよ、ほらみてみてみてみてみてみてみてみてみて」
ゆっさゆっさ、揺さぶってみた。チルノの首がぐらぐら揺れた。
「見てったら、みてみてみてみてみてみてみてみてみてみてみて」
「んあ?」
妖精さんが目を開けた。つい三秒前までのチラチラなんて降り方じゃ無くなっていて、私たちの周りには、超大粒のぼた雪が、まっすぐに地面に落ちてくる。夏の雲を急激に冷やせばこうもなる。冬じゃ考えられないような降り方だ。
「雪だ」と妖精さんは言った。「雪だ、雪だ……雪だ。雪だー!」
チルノは立ち上がったけど、よっぽど疲労してるらしく、超フラフラ、しかも体中に余計な物を身につけてるから尚更で、まともに歩くことすら出来ないのに、「がっはっはっはっはっははっははっははっははは」なんて走り回るから、「はっはっは……はっははっははははあはあははははぁはあははあはあ」と、息をとぎれとぎれにさせて、今にも卒倒しそうなほど真っ青な顔になり、前のめりにべちゃ、っと転んでしまった。でもまだ笑ってる。
地面につっぷしたまま、笑ってる。がっはっはっはっはっは。なんて。
もの凄く楽しいらしい。嬉しいらしい。
「あはは」
自分の笑い声だった。気づけば普通に笑ってた。チルノの嬉しそうな笑い声と、同じ種類の声だった。
「ねえチルノ、これどれくらい降ってるんだろね。他の場所にも降ってるのかな? ちょっと空から見て見ようよ」
とか私は言ってた。
妖精さんをおぶって、木立の上まで飛び上がってみた。
そしたら。
私たちはわりと言葉を失ったりしてみた。
雪雲はすっかりと、山から、湖から、竹林から、森から、里から、何から何までを覆っていて、雪の白色で景色をけむらせている。ちょっとやりすぎたかなと思うくらいに、見事に雪が降ってた。
さらに高度を上げて雲の上に出てみた。入道雪雲の雲海は異常なほど低い位置にあって、太陽はそれらを溶かそうと、ぎんぎらぎんにがんばっていたけど、今のひとときだけは私たちの勝ちらしい。もうしばらくは降り続けるはずだ。
「これ、あたいがやったんだよね」
とっても感慨深いらしい。私の背中から言った妖精さんの言葉はため息混じり。首筋にそっと冷風が吹き付けてきた。
「コラボレーションね」と一応、私は付け足した。
「文はあたいのぞうきんね」チルノは背中から身を乗り出して、顔を覗き込んできた。
「ぞーきん?」
「知らないの? ええとね、レミリアで言えば咲夜とか、幽々子で言えば妖夢とか。ぞっきんだっけ?」
「あー、側近ね」
「それそれ」
「異変の首謀者の共犯者というか、右腕的なポジションね。まー、確かにそうかもしれない」
「霊夢がこの異変を解決に来たら、文がまず戦うの」
「来るかなあ? あのめんどくさがりがさ。『わー夏に雪なんて綺麗ー』とか雪見酒でもやってそうな気がするけど。なんならこっちから、神社に殴り込みにでも行ってみる?」
「それじゃダメっ。あたいたちは、こそこそと堂々と待ちかまえて、霊夢が来たら、ふっふっふ良く来たな霊夢よ、真の恐怖をあじ玉うがいい! 海苔は一枚いくらか覚えてるかしら? 今まで食べた数は数えてるのちゃんと? あたいはゼロ枚よ、だってこんなにも海が無いから! とか言うの!」
「ふーん、あんたなりの美学っつーのがあるわけね。まあ、そっか、せっかくだしね。気の済む用にすりゃいいわ」
私たちはまた池の畔に座って、アイスをガリガリやら、ぺろぺろやら、やりだした。
雪が降り終わる前に、霊夢が来ればいいな、なんて考えながら。
犯行声明くらいは出しに行こうかと、チルノに言ったけれど、やっぱ美学に反するらしい。
あくまで異変の首謀者は、こそこそかつ堂々としているべきだと言う。
文も霊夢が来たときの台詞考えて置いてね、なんて言われてしまった。
チルノも必死に考えてるようで、ガリガリやりつつも、ずーっと真剣な顔で、まるで池の蓮の一つ一つを数えるみたいに、水面と睨めっこしてる。
雪が少し小粒になってきてる。
あれだけ降ったのに積もってない。地面は奥に夏の熱をたっぷり吸い込んでいるからか、霜柱も無くなっていて、雪も簡単に溶けてしまう。
チルノの頭や肩にだけは、溶けずに積もっているけど、このままだと、そこさえも十センチも積もるかどうかで、降り止んでしまいそうだ。
はくしょん、とくしゃみが、私たちの頭の上から聞こえた。
チルノと雁首そろえて見上げてみた。
びっくりだ。
霊夢が居た。雪空をバックに私らを見下ろしてた。
随分ご立腹でらっしゃるようで、お胸を張って腕を組んでいる。
「来たあああああああああああああああああああああああ!」大はしゃぎする妖精さんと。
「あ、ほんとに来たんだ」ちょっと呆気にとられる私。
と。
「みっけたわぅえわっくしょい!」盛大にくしゃみする巫女。
そういえばお腹出して昼寝してたっけ。急に雪が降ったから風邪ひいちゃったらしい。
「うちのおみくじ盗んだのあんたらね」霊夢はチルノが右腕に装着したあれを指さした。「どーいうつもりか知らないけど、覚悟できてんでしょうね。うちの貴重な現金収入源なんだから、それを奪うと言うことは、すなわちガチの宣戦布告の砲声であり、最も手荒な紛争解決手段によって、すべての迎撃要員とその牙城を無慈悲に粉砕してください、と博霊の巫女様にお願いしてるようなもんって事よ!」
どーせ参拝客なんかいねーじゃん。とも思うけど、なるほど、そっちの件で来たのか。雪じゃなくて。色々納得した。
「さあ我がぞうきん。文よゆけ!」でも妖精さんはノリノリっぽい。霊夢がやって来た動機についてはわりと、どーでも良いらしい。博麗の巫女が自分をわざわざ退治しに来た事自体が、すんげー嬉しいんだと思う。
「我が野望をうち砕かんとする愚かなまものを、うち砕かんとしろぞうきん文よ!」
「あ、うん」
言うや否やで、既に巫女からお札が飛んできてて、私は咄嗟に空へ飛んで避けた。
相変わらず霊夢のミコミコサーチ&デストロイっぷりは、清々するくらいだけど。
「あー霊夢、ちょっと前口上っぽい台詞あるんだけどいい? ええと」と文花帖をぺらぺらめくって、書いて置いた台詞を探す間にも。
「問答無用!」
霊夢は目を血走らせーの、迫りくるーの、お札投げーのしてきやがりなさる。
さすがに自らの生活費に直結する問題となると、そんじょそこらの異変とは必死さが違う。
しょーがない。こうなったら回避しながら台詞を言うしかない。
「夢想封印 散」
霊夢が私を追っかけながら、ずびびびびびびー、なんて具合に四方八方にお札をばらまいてきた。
いつも気になるけど、いったいこれだけのお札をどこに隠し持ってるんだろう。
まあ今はそんな事はどうでもいい。とりあえずお札とお札の間をすいすい飛びつつ。
「あら霊夢、一体今日は何の用?」台詞を言ってみる。
「さっき言ったでしょうがああ、おみくじの恨みよおお、寝ぼけた事いってんじゃないわこの。夢想封印 集!」
ずびびびびー。今度は空いっぱいに広がってたお札が私を追っかけてくる。
もちろん霊夢が夢想封印を繰り出した瞬間のシャッターチャンスは逃さずパチリ。
「いやあ、そうなんだけどさ霊夢、こっちにも台詞ってものがあるから、理解してよそこんとこ」すいすい。とまあ避けてみつつ、「まさか、この雪の正体に気づいたというのあなたは……さすが博麗の巫女と言う訳ね。」
「まさか、この雪やったのもお前らかああ!」霊夢の顔が怖い。般若ってああいう感じだっけ丁度。「風邪ひいただろこの大馬鹿天狗妖精、蝉も死んじゃって貴重なタンパク質な食べ物無くなるでしょうがあああ、お米も高くなるのよ夏が寒いと。二重弾幕結界!」
ずびばばばばー。
すいすい。パチリ。
「うふふ、あのお方のお戯れには、私も困っていたところよ。」
「あのお方ってだれだー、私の夏のタンパク質を返せえええギブミー蝉の佃煮&唐揚げぃいいい。八方鬼縛陣!」
ずびずばばあー。すいすいすい。パチリ。
「あのお方とは、チルノ様に決まってるじゃない。でもあなたはチルノ様の元へはいけない。」
「すぐそこに居るだろがああああ。めっちゃ楽しそうな顔で私ら見上げてるだろがあああ。二重大結界!」
ずずびすばー。すいすいすいすい。パチリ。
「何故ならば、あなたはここで私に倒されるから!」と団扇を構えてみたけど、なんだ。
なんか霊夢がめっちゃ疲れてる。肩で息してる。げっそりしてる。何度も何度もくしゃみしてる。
ああそっか。私が台詞言ってる間、大技連発して、それ全部タイムアウトっぽく、スペルブレイクなフィーリングになっちゃったわけね。風邪もひいてるし。もしかして撃破寸前?
「あーやー」地上からチルノの声。「勝ったらだめー、あたいも戦うー。勝っちゃだめー」なんか泣きそうになってる。
「あ、うん。ごめん」
また言うや否やだった。
「お、ま、え、ら、何ほのぼのしとるんじゃあああ、こちとら生活かかっとんのわかるかぼけえええ、夢想天生!」
鼻水たらしーの、ぷんすかぴーな巫女が怒鳴った。
うわぁ、必死だなあ。とか思いながら、ずびばびぼびーを食らってみた。
結構痛かった。明らかに山の異変の時よりも、力が入ってた気がする。
私はちょっくらボロボロになった。
「く……つ、強いわ。あなたなら、あのお方を止められるかも……。」
とか言いつつ地上へとフェードアウトしてみる。動き回ったらまた汗かいた。
クーラーボックスから葡萄味のアイスを出した。厳密に言えばXX味じゃなくてXX色のアイスだけど。
ぺろぺろぺろぺろ。やっぱ夏はアイスキャンディーに限ると思う。
「がーっはっはっはっはっは」
チルノが霊夢に向かって上昇してってる。がっはっはっはっはっは、とか笑いながら。
ゲコっ! 大蝦蟇が池の近くまで戻ってきてて一際大きく鳴いた。チルノを応援してるっぽい。
まあ巫女を応援してるのかも知れないけど。
心配なのは、妖精さんがあんだけがんばって考えてた台詞を、ミコミコサーチ&デストロイヤーに言わせてもらえるかどうか。
でもどうだろ。霊夢がすぐにチルノへ仕掛けるかと思ったけど、まだ動かない。
さっきので大分疲れてるようだ。前口上があるなら、休むついでに、それくらいは聞こうと思ってるのかも。
「ふっふっふ、よくぞここまで辿り着いたな霊夢よ!」
ビシーっと霊夢に指をさすRXF91チルノmk2極地決戦Z仕様V装備型νリミテッドエディションZZ。
霊夢が唾をごくりと飲み込んだのが見えた。緊張というよりは、圧倒されてるんだと思う。色んな方向性で。
あれを間近で見れば、わりと圧倒される。何しろ汎用決勝戦Z仕様V装備型νリミテッドバージョンZZだ。
「ここまで来れたがんばりは認めてやろう博麗のそれ! 花丸くらいはあげるわ、三つくらい、時空の歪みをムニムニする時は近いのよ。雪はその味噌みたいな隠し味みたいなものよ。全ての時空煮込みが完了して、あたいに跪くのよ。煮込み終わるまで、そろそろあと三分くらいだと思うわ! 急がないと大変な事になるのよ霊夢! けれどいまの霊夢は例えるならあれよ。ブタの、肉、じゃなくて、鼻とか足とかのとんそく! どうしてかと言うとね。なぜならばー!」
ごくり、と霊夢が再び唾を飲み込んだ。とんそくという単語に反応した気がしないでもない。
ひゅるり、と霊夢とチルノの間に風がまいた。二人の頬にそれぞれ雪が激しく叩き付けられたが、攻撃的な視線をぶつけ合う表情は少しも崩れない。次の瞬間にでも、どちらかが仕掛けてもおかしくない。
まさにボーダーオブデュエルだ。
まあ私が演出っぽく風起こしてみただけなんだけど。
「なぜならばー!」
もう一度ビシーっと霊夢を指さして言い直す汎用決勝戦Z仕様V装備型νリミテッドバージョンZZ。
なんというか、まあ、あれだよね。
「忘れた!」
うん。
だよね。
そうだと思ったんだ。
「とんそくなんて十年は食ってないわあああああああああああああああああああ!」
霊夢が理不尽っぽくぶちきれた。両手に溢れんばかりのお札を握りしめっぽく、チルノに向かって振りかぶる。
「博麗弾幕結界ぃいいいいい!」目がぎんぎらぎんに光ってる。人類ヒト科最強の血が目覚めたっぽく光ってる。
「あたいはとんそくよりアイスが好きなのおおマイナスKぇええええええええ!」
対するチルノが放つのは氷の散弾。標的の目前で炸裂して限りなくランダムで濃密な弾幕を形成する。けど、さすがは霊夢、技の特性を完全に見切っていて、炸裂する距離よりも内側へ切り込んで行く。マイナスKの死角へとだ。
「アイスクリームなんて、蓋しか舐めたことないわあああああああああああああああああああああああああ!」
霊夢の慟哭が雑木林に木霊した。魂が入ってる叫び声と表情だった。
なんか、かわいそうになった。
今度、カフェにでも連れってあげて、甘い物食べさせてあげようかな、と思った。
かくして夏雪異変の大ボスと博霊の巫女との最終決戦は始まったぽかった。
私はアイスをぺろぺろしながら、二人の戦いを大蝦蟇と一緒に見物した。
「そうはいかのぬかはちー、フロストコラムス!」
ずきゅーん、ばりばりばりー。
「ふん、チルノが粋がちゃって、そんなもの、当たらなければどうと言うことはないわあぁ、いけえ博麗幻影たち!」 どかどかどかーん。むちゅんむちゅんむちゅちゅちゅちゅーん。
「なんとおおコールドディヴィニティー! 風邪ひきさんは、お家へ帰っておねんねするのよぉおおお」
DOKOKOKOKO! KTOWKTOWKTOW! GEVOVOVOVO! SHCOSHCOCO!
「リバーサル? 妖精ごときが調子いのってぇ! 体調が戦力の決定的差じゃないって事を教えてやるわ。陰陽印!」
ZIP! CHUNK! DOMDOM! BUUHHH‐KOOOOOOM!
「妖精だって伊達じゃ無いなのよぉダイアモンドブリザード!」
雑木林上空を覆い尽くさんがばかりの数の氷塊が放たれた。降っていた雪と相まって視界はゼロだ。
霊夢の上空に占位していたチルノの姿は下から肉眼では見えない。
「でも見える、ざわざわするプレッシャーが、見えちゃうの私にはチルノ、ENEMYという脳裏に浮かぶ赤い文字と一緒にね……そこぉお!」霊夢が真上に向かって腕を振り上げた。「食らえ必殺、境界の内側に潜む霊と不思議な巫女!」
ぴちゅぴちゅぴちゅちゅちゅーん。
だいたいそんな感じだった。壮絶なバトルだった。いやほんとマジですごかった。すごくすごくすごかった。
まあチルノは良くやったほうだと思う。
合計十二本あった尾は今や八本までに減っていて、耳は一つしか残ってなくらいに、満身創痍な感じになりながらも、異変を起こしたという自信か満足感かは知らないけど、ひじょーにいい顔してやがる。
「勝負あったわね。おみくじ返して貰うわよチルノ」
霊夢は腕を組んでチルノに近づいた。鼻水をずるずる啜りながらだ。
「ふふふ、なかなかやるじゃんさ、博麗のソレよ。今日は負けを認めてやるわ。はなまる合格ね」
と、チルノは右腕に填めたおみくじを霊夢に向かって差し出した。
霊夢はそれを、ずぼっと抜いた。
今この瞬間に、私たちの小さな小さな異変は解決されたっぽい。
「ねー霊夢、アイス食べてかない?」とひじょーにいい顔のチルノが、親指でぐぐいっと私のクーラーボックスを示した。「異変のボスと巫女は解決後に、宴会とかするものって決まってるのよ」どーやらそーいう美学らしい。
「え、アイスクリームって」霊夢はおみくじを小脇に抱えながらも、動揺を隠せなかった。「蓋舐めさせてくれるの?」
ごくりと唾を飲み込んでいた。
異変がどうとかは、霊夢もどうでもいいっぽいみたいだ。あくまで生活防衛上の出動だったわけだし。
「アイスキャンデーだから蓋はないわ。でも六種類の味、どれでも食べ放題、文のおごりなのよ」
妖精さんは、ふっふっふとカリスマっぽく白い歯をきらりと見せて笑った。
霊夢が帰った時には、雪はすっかり止んで、雑木林は暗くなり始めていた。
木立の隙間から夕焼け空が見える。無数のひぐらしがカナカナカナカナとひたすら鳴いてる。他にやることが無いのかというくらい鳴いてる。まあ、あんまり無いんだろうけど。
クーラーボックスは空になった。霊夢はすごいと思う。風邪ひいてるってのに、残り全部食べた。
食べながら百回くらい、ありがとうと言っていた。アイスキャンディーを食べたのは三年ぶりだったらしい。
明日あたりカフェに誘ってあげよう。マジで。きっと泣いて喜ぶに違いない。
「あたいさ。異変やったんだよね」
そろそろ帰ろうかと思って私が池の畔から立ち上がると、チルノがそう言った。
私の顔を見上げて、にっこり笑顔だ。
「巫女に退治されたし、巫女にアイスも食わせたし、あたい恰好いいよね」
あれを異変と呼んで良いのか、それとも単なる悪戯なのかはともかく。
チルノの中ではもう答えが出きっている。
だったら私も、「うん。私もちょっと側近やっちゃったかな」と言ってみた。
「文も恰好よかったよ」と妖精さんが屈託の無い眼差しで言っちゃうもんだから。
「そーかな」ちょっとだけ照れて、夕焼け空に視線を逃がしてみたりも、しないでもない。
「今ならあたい、食われたら格好いいよね」
食われるってなんの話だっけ、と思い返してみれば、ああそうか。
「あー、うん。カエルに恰好良く食べられるために、異変起こしたんだっけ、私らって」
「うん!」
「良く覚えてたねえチルノ。私、ふつーに忘れてたし」
「うんっ! 天才でしょ?」
「そーかもね」
「じゃあさ、今から食われようよ二人で」
「ん、二人で?」
「二人で格好良くなったんだから、二人で食われようよ。あたいだけじゃずるいよね」
ずるい。
ずるい?
うーん。ずるくは無いと思う。むしろ食われるとか遠慮はしておきたいけど。
なんだろ。でも、ほんとにずるいと思ってるんだろうな、このチルノちゃんは。
どっちかと言えば、他人に自慢できるような事を、スゴイことをしたってわけじゃない今日は。
むしろ、他人に自慢なんかしたら笑われるに決まってるんだけど。
なんだ。この、笑顔は。
きっと。勝ってるんだろうな。何に勝ってるのかはわからないけど。
勝ち負けで語ることなのかどうかも、わからないけど。
こいつはきっと勝ってる。
「ねえチルノ、はいチーズ」
なんて一枚撮ってみた。チーズする暇さえ与えず撮ってみた。衝動的にシャッターを押してた。
誰かのこーゆー顔を撮って新聞にするためなら、私は自分の中にある色んな矛盾やら疑問やらをひっつかまえた上で、ふんじばって、黙らせ、ねじ伏せられる気がする。
意義や意味や客観って、なんだそれは、上等なもんか? 上等なもんだたぶん。
他に記事にするような出来事は他にいくらでもある。私だってそう思う。
でもいい。両生類と日々決闘するこの妖精さんの、ひじょーにいい顔を明日の一面にする。絶対に私はそーする。
新聞を見る人は馬鹿らしいと笑うかも知れない。異変だなんて、ただおみくじ盗んで痛い目に遭わされただけじゃないかと、笑うだろう。
そんな新聞は鍋敷きにされるかも知れないし、積極的に窓を拭くのに使われるかも知れないし。
学級新聞だとか三流タブロイドなんてコケにもされたっていい。
今シャッターを切ったときの感覚が、私に新聞を作り続けさせるものの正体だったりするなら。
私は一生、カエルに挑み続け食われ続ける妖精のように、私の新聞を作り続けることだろう。
笑いたいと思う。チルノみたいに。私は笑いたい。
なんつって。
でもほんとに、そー思ったんだ今。私はね。わかるのかなチルノ、あんたには?
「ねーねー、文、食われようよー」
ゲコッ。大蝦蟇もなんかやる気っぽく鳴いた。
気づけばチルノが私の背中におぶさってきてた。
「ん、なに?」
嫌な予感がしたときにはもう、チルノはにっこり笑顔で口を開けていて、「パ」
だけが聞こえた。
次ぎの瞬間っぽい。どーやら私は大蝦蟇の口の中にいるっぽかった。臭い。暗い。熱苦しい。
背中になんかメコッとした感触がした。これが世に言う目玉をへこませて獲物を飲み込もうとする感触なのかな。
うん。これは気持ち悪いかなり。しかもなんかベロで顔を舐められてる。
足をじたばたさせてみた。
足が捕まれた。足を誰かに捕まれた。引っ張られた。
ぬるん、と外に引っ張り出された。ゲコッと大蝦蟇の残念そうな声がした。
瞼を開けてみたら、逆さまになった視界に赤い袴が見えた。
霊夢が戻ってきたのかな、とも思ったけど、私は足を捕まれたまま逆さに吊られてるわけであって、人間の霊夢にはそんな力は無い。もっともっと力持ちさんの仕業だ。
「あ、もみもみー」とチルノが言った。チルノも逆さに吊られてた。椛の右手で吊られてた。
「あ、椛」と私も言った。私は椛の左手で吊られてる。
椛が私たちの逆さまな顔を、とっても不思議そうに眺めてた。
ぽかーん、っていう感じだ。
椛はぽかーんとしてる。
「何してるんですか文さん」
もっともな質問だと思う。
親友が氷の妖精と一緒に大蝦蟇に食われてたら、親友が蝿でないかぎりは最初にそう聞くのは当然だと思う。
「格好良く食われてたの!」とチルノが笑顔で宣言した。
「ん、あー、なんというか氷の妖精さんと一緒に大蝦蟇に食われてたかな」と私は控えめに説明してみた。
椛はまったく理解できないらしく、首を傾げて、どういう意味なのかなー、みたいな顔で十秒ほど思考した。
逆さまな私とチルノの、逆さまな髪の毛から、ぽたぽたと大蝦蟇の唾液が垂れてった。
まずは降ろして欲しい気がする。
「あの、文さん。パンツ見えてますよ。あと何かカエル臭いですよ」と椛は言った。
十秒強思考して出てきた結論がそれだったらしい。
どうやら椛の極まともで常識的な思考回路に、過度の負担をかけてしまったみたいだ。
大蝦蟇に私が恰好良く食われていたらしい、という理解不能な事実を後回しにして、まず目の前の出来事で、もっとも親友に忠告すべき事柄を椛は選択し、口にしたのだと思う。間違ってはいない。たぶん。
「うん、そりゃ椛さ、重力ってもんがあるからね。逆さまになってたら、そりゃ見えると思うなあ私は、ほら物体って上から下に落ちるじゃない? スカートだってそりゃ重力さんと仲良しだもん」
「あと、りんごさんとかですよね。重力と仲良しなの」
「そうそう。万有引力の法則ってやつよ」うわー、鼻の穴に唾液が逆流してきてきもいなー。
「ばんゆういんこうはぼうぼうってなーに?」
「それはねーチルノ、とりあえず椛が私らを池に放り投げてくれれば、引力に従って水の中に落下して、体を洗える上にパンツも見えなくなって一石二鳥だな、って意味よー」
瞬間。私とチルノは池に叩き付けられてた。
どばしゃーん、と水柱が高く高く上がった。
「あ、ごめんなさい文さん! わけがわからなくて、つい思いっきりやっちゃいました。大丈夫ですかー」
椛のオロオロヴォイスが水の中まで聞こえてきた。
うん。理解不能なのは痛いほど理解できたけど、もっと落ち着こうね椛。下手したら死ぬからこういうのって。
相手が妖精と天狗じゃなかったら、下手したら殺人とかになるからねこれ。鼻血出たし衝撃で私。チルノなんか底の泥に突き刺さったよこれ。どーすんの。抜く? うん抜こうねずぼっと。
とりあえず鼻に詰まったオタマジャクシを出し、池から上がって、チルノをジャイアント脱水した後で、丸太の上に座り、自分の体を団扇で扇いで乾燥させた。椛も扇いでくれた。椛は勤務が終わったから装備を取りに来たらしい。
さっきまでは夕焼け空が頭の上にあったような気がしたけど、私の服が乾いて鼻血が止まる頃には、もうすっかり暮れていた。
一番ぼーしー見ーつけたってもんだ。
チルノはいつの間にか眠ってしまっている。丸太の上で私に寄りかかってぐーすかぴーだ。
あれだけがんばれば、眠くもなる。
「それで文さん、結局何やってたんですか?」
椛はすんげい心配そうな顔してる。
私が仕事なりに夢中になると、少々無茶な特攻まがいの突撃取材やらを、やらかすのを良く知ってるからだ。
妖怪たちのスペルカードを取材することに凝ってた時は、決定的瞬間や究極の弾幕美を追い求めるあまり、何度も怪我をして、椛の世話になったりもした。世間一般から見れば、そーいう私の行動は理解しがたい奇行でもあって、親友の心配の種にもなっちゃってたりもする。私ってば友達甲斐が有りすぎて、椛に迷惑かけてる節を感じなくもない。
「まるでチルノさんと一緒に大蝦蟇に食べられてたみたいでしたけど」
「うん、まさにその通りっていうかさ椛ね、見たまんまというか。まー、食われてたんだよね」
ゲコっ、と大蝦蟇も同意するように鳴いた。
「そうなんですか」と椛は大蝦蟇に向かって至極納得したっぽい顔で頷いた。会話が成立してるらしい。「文さん。あれですか。また太陽のせいとかですか? 前もチルノさん背負って絶壁登りとか電卓連打とかしてましたよね」
こーいう椛のめっちゃ心配そうな顔に、罪悪感を憶えないわけじゃなけど、しょーがない。
じんせーには必然性と偶然性に導かれた上で、選択出来ない事もあるのだよ椛くん。
流れ的にいつの間に食われてた。それ以上でもそれ以下でもないのだよ。
「ううん」と否定してみた。「そーゆーんじゃなくて、取材だったんだけど普通の。気づいたら、なんか色々と、もういいや的になっててさ。巫女とかも来て、バトルったり雪降らせたりさ」
「へえ。じゃあ遊びとかだったんですね。遊びで大蝦蟇に食べられたと」
私が大蝦蟇に食われていた動機が気になって仕方ないらしい。まあ気持ちはわからなくはない。
ついに狂ったんじゃないかと。心配になるだろうなあ、そりゃ。
「食べられて楽しかったですか文さん?」
でもさあ椛さ。楽しかったんですか? っていう目で見られると、わりと困っちゃうなあ私は。
ある意味ストレート過ぎる質問じゃん? お前ついに狂ったんですか? って訊くようなもんだしさ。
もしね。私が、うん超たのしかったよー、とか言ったらどういうリアクションするつもりなのかなあ、ちょっと問いつめたいなそこのとこねえ。どうなの、もみもみさん。
「うーん。私はさあ。椛ね。食われるのはもういいかな、一回でいいや。あとの人生は出来るだけカエルに食われるのは、避けていく方向で前向きに善処して生きていけたらいいなー」
「ですよね」やっと椛は安心したみたいだ。笑った。
「椛も一回食べられてみたら? メコってなるのすんげーきもいから」
ゲコッ。大蝦蟇も食べたそうに鳴いた。
「わ、私はそういうのあんまり好きじゃないですから、ま、前向きに見当し善処するだけでいいです」
大蝦蟇が積極的すぎて椛はちょっとびびったみたいだ。
大蝦蟇くんには、次はもうちょいソフトに迫る事をお勧めしたい。もみもみはわりかし奥手なんだ。
「そっか。んじゃあ、椛、帰ろっかあ。鴉も鳴いてるし」
「そうですね」
立ち上がろうとして、自分に寄りかかって寝ているチルノに気づいた。
まあ妖精ならそこらにほっといても、とって食われるような事はないけど。
「あ、椛さ、うち来ない? 晩ご飯。私作るよ。たまには手料理」とチルノをおんぶしてみた。
ひじょーにいい顔を撮らせてもらったお礼に、晩ご飯くらい妖精さんにご馳走してあげても良い。
小さいながらも異変を起こした同志としてのシンパシーを込めて。わりと厚いかもしれない友情のしるしとして。
なんつって。
「なら、私もお手伝いしますよ。文さんだけじゃろくなの作れないですよね」
「ま、そうなんだけどねえ。あははー。カレーくらいしか、まともに作れないや。でもカレー食べたいな今日は」
「それなら、私がスパイス持っていくんで、本格的なの作っちゃいましょうよ。私、味付け得意です」
「おー、いいねいいね、さすがもみもみだねえ。お腹が鳴りそうだねえ」
私たちは雑木林から飛び立った。二番星も三番星も、もう瞬いていた。
ひぐらしに混じって夜の虫の声も聞こえてきてる。
ゲコッと、池の中から大蝦蟇が鳴いた。さよなら、と言ってるみたいだった。
椛が大蝦蟇に手を振った。私も振ってみた。
そしたら、お返しとばかりに大蝦蟇は二回鳴いた。
ゲコッ。
ゲコッ。
さらにもう一回鳴いた。
ゲコッ。
きっとチルノの分だ。
ひとによってかなり意見が分かれる作品とは思いますが、私的にはOK
どんだけ大蝦蟇に食われても挑むさまがとても良いです。
最後には文と一緒に雪降らせて霊夢に退治されるけど
やっぱり無邪気さイッパイなチルノとそれについていく文が
面白かったです。
誤字の報告
>麗夢は目を血走らせーの、
ここだけ霊夢の名前が『麗夢』になってました。
パ
あと、パ
パ
のんびりした流れが幻想郷の雰囲気にマッチしていたと思います。
特にパ
面白かったです
とりあえず流れで、パ
あと、スッ・・・(つ1000円
天狗らしく無さ過ぎる文ちゃん大好き。
そしてチルノ嬢の迷言がとてもとても素敵で御座い。
面白っかったわwwwww
文の口調が独特ですが、これはこれで良いと思わされました
まったりとしていて、それでいてカオスで、なのにそれなりにさくさく読めて
こうゆうの好きだよ
楽しい作品をありがとう。
読んでて楽しかったww
締めで妙にいい話っぽいのもまた良し。
素で「そっちかよ!」って突っ込んでしまったwwww
面白かったですw
不覚にも萌えたwwww
小説を読んだって感じです
文もチルノも霊夢も素敵だ。
パ
この作品の主役は大蝦蟇。間違いない。
とりあえずパ
パ
きっと立派なぐだぐだ青春物だからなんだろうな。
五回読み返しさせていただきました
規制が解けたら100点入れるんだって決めていました
なんか、そんな感じ。
素敵なお話でした。
各々のキャラクターが非常にらしくて、生き生きとしている様子に(若干一名アンニュイだけど)素直に感動を覚えたものです。
この作品のおかげで、安定していなかった文のキャラクターが固まった気がします。良い作品を読ませて頂き、ありがとうございました。
※チルノの死亡フラグ一つ増えました
パ(ry
そしてグダグダで格好いい。
あとパ
やっばいぞ。なんか微妙に泣きそう
パ
青春っていいものです
パ
パ
うん、いいいい、すごくいい
夏の風と雪の軽さとアイスキャンディー
ああ、これが青春なんだなーとふと懐かしく思ったり
今更も今更ってなもんですが良いものを読ませてくださってありがとうなのでした
あと大ガマいい味出しすぎw
チルノと文がかわいくてかっこよくて・・・・
ほんといいコンビですね
緩いのに芯がある
よくわからない涙が出てきました
パ
だけどびっくりするくらい面白い。うわーなんだろうすごいこれ。
gdgdとした文チルに笑わせてもらいました
パ(ry
やっぱり面白い
特にチルノの海苔のくだりw
パ