「ねぇ咲夜、今日は私の身の回りの世話、しなくていいわ」
レミリアは、目ざめると同時に、咲夜にそう言った。
「はぁ。いかがしましたか、お嬢様」
咲夜は瀟洒に尋ねた。自分が何かミスをしたのだろうか、と、内心首をかしげている。
「今日は虫の居所が悪いの。とってもね。何かに八つ当たりしたいくらい。身の安全を確保したいなら下がりなさい」
面倒くさそうに、レミリアは答えた。
「はあ」
もう一度ベッドに潜り込むレミリア。二度寝したいだけなのではと、咲夜は少し疑った。
レミリアは、もう一度咲夜に視線を向け、
「そういうわけだから、今日は構わない」
と言った。下手な追求はいたずらに主の機嫌を損ねるだけだろうと、咲夜は考えた。
「かしこまりました」
お辞儀をして、咲夜は部屋を出た。
「へえー、そうなんですか、お嬢様がねぇ。それで今日は見回りが早かったんですね。いやぁ失敗失敗」
あははははははは。
「そういう事。ナイフまだ刺さってるわよ」
後頭部に一本。美鈴はその金属製ちょんまげを、頬についた米粒でも取るかのように引っこ抜く。頑丈というかなんというか。
最近居眠りをしていないなと、咲夜は内心感心していたのだが、どうも違うらしかった。
今度から、門へ見回りに来る時間をランダムにしようと、咲夜は決めた。
「今朝機嫌が悪いのなら、昨日の、お嬢様の誕生日パーティーで何かあったんでしょうねぇ」
「でしょうねぇって貴女、最初っから最後まで出てたでしょうに」
たははと笑う美鈴。
「いやー、酔いつぶれてしまいまして」
溜息。どちらのものかは言うまでも無い。
「で、何か知らない? 流石に気になってねぇ」
鬼のメイド長などと周囲からは呼ばれているが、咲夜とて主人を気遣う程度の忠誠心は持っていた。
というより、咲夜ほどの忠誠心の持ち主も珍しい。
「さあ」
「さあ、って」
呆れる咲夜。
「いえね、昨日でたお酒、洋酒メインだったんですけど、その中に紹興酒がありましてね? 故郷の酒ですからね、懐かしいんですよ、私としては」
そういえば、この妖怪の出身は大陸の東の方だったかと、咲夜は思い出した。
ついでに、なんで紹興酒なんて出したんだと後悔した。
「で、これがまたねぇ、美味しくて。がぶ飲みですよ。いやー、二日酔いにならなくてよかったですよ」
あっははははははは。
手をたたいて大笑いする美鈴。まだアルコールが入っているんじゃないだろうかと、咲夜は疑う。
ちょっと顔が赤い。
「咲夜さんも呑みますか? 実はまだ詰め所にあるんですよ、こっそりガメてきた奴が。大陸産は良いですよ、大陸産は。洋酒とは比べ物になりません」
洋酒とて大陸産だろうに。
近くで会話していると、息が酒くさかった。これは入ってるなと思って、咲夜は頭を抱えたくなった。もう少し真面目になってくれないか? この門番。
「わかったわ、ありがとう。でもお酒はやめとく。仕事中だしね」
社交辞令的感謝。美鈴は少し残念がりながらも仕事に戻り、咲夜が見えなくなるとチビチビやりだした。
「仕事中に呑んでんじゃないわよ」
また金属製ちょんまげを五、六本生やす羽目になった。引っこ抜く。頑丈というかなんというか。
「へぇ、お姉さまが? ああ、そういえばそうだったかも」
地下室の掃除ついでに、咲夜はフランドールに尋ねた。そういう答えが返ってきた。
「理由、何かご存知ありませんか?」
モップ片手に質問する咲夜。
「んー、クッキーもう一枚くれたら思い出すかもね」
魔理沙と知り合ってから妙にこざかしくなった。咲夜は心の中でため息をつく。落ち着いてきたのは良いけど、変な方向に育つのは勘弁だ。
フランドールのお気に入りはA型、RHはプラスだ。最近のマイブームはチョコチップ入りで、咲夜は時間をとめてそれを持って来た。
フランドールはゆっくりそれを食べる、むぐむぐ。そして話し始めた。
「途中まではね、お姉さまも楽しそうだったのよ。というか、楽しそうなときが殆どだったわ。もしゃもしゃ」
「口に物を入れたまま喋ってはいけませんよ」
咲夜は、雑巾を絞りながらフランドールの不行儀をたしなめた。
噛み砕かれて唾液と混ざったクッキーを飲み込むフランドール。んぐんぐ、ごっくん。
「でも、最後の方から急に機嫌が悪くなって、奥に引っ込んじゃった。パーティーに出てたメイド達は気にしないで楽しんでたけど」
気にしろよと、咲夜は心の中で毒づいた。どうも細かい気配りができない連中だ。
「私、お姉さまにどうしたのって訊いたんだけど、なんでもないとしか言わなくて。プライドが高すぎるのも考え物だよね。……そういえば、咲夜はどこにいたの? 昨日、いなかったけど」
「裏方でモノの準備をしたり料理したり、忙しかったのですよ。メイド長ですので」
フランドールは、ふぅん、と頷く。咲夜の掃除がとっくに終わっていると、今になって気づいた。
「掃除はおしまい? なら弾幕しようよ」
咲夜は逃げ出した!
しかし回り込まれてしまった!
「パチュリー様、紅茶をお持ちいたしました」
「あら有難う。そこに置いといて。……何か疲れてるようだけど?」
パチュリーは本から目を離さず、そう言った。
咲夜が紅茶をもって来たのは図書館掃除のついでだ。疲労は隠していたつもりだが、見抜かれた。
「弾幕しましてね、妹様と。流石に疲れます」
妹さまだものねぇ、とパチュリーはうなずく。咲夜は紅茶を置くよう指図されたテーブルを見たが、本と資料らしきもので埋め尽くされていた。紅茶の置き場など無い。
「ああ、ごめんなさい。じゃあそれ、ちょうだい、今飲むから」
咲夜はパチュリーに紅茶を渡した。
パチュリーはミルクと砂糖まみれのそれを飲み、そして本から目を離さずにしゃべる。
「レミィ、酷いのよ」
「何がです?」
「……ああ、昨日の誕生日パーティー、咲夜は出てなかったのね」
「ええ、まあ。裏方仕事でいっぱいいっぱいでしたので。最初にあったお嬢様のスピーチだけは出ましたが」
パチュリー様が何かやらかしたせいで、今日のお嬢様は不機嫌なのだな、と、咲夜は思った。
パチュリーの方は、怒り冷めやらぬといった様子で語る。
「最後に、プレゼントを渡したのよ。レミィに。みんなで」
咲夜もプレゼントは用意していた。出れなかったので、副メイド長に彼女のと一緒に渡しておいてもらったが。ちなみに当の本人は、二日酔いで休んでいる。
――馬鹿め。門番を見習え、二日酔いはしてないぞ。職務怠慢だが。
紅い満月を模した髪飾り。朝、レミリアが髪につけていたのを思い出す。やはりうれしいものだ。
「それでね、私のプレゼントを見たとたん、レミィ引っ込んじゃったのよ」
「はあ」
何を渡したのやら。咲夜は正直に訊いた。
「何を渡したのですか?」
咲夜がそう尋ねると、一寸置いてパチュリーは答えた。
「レミィ、出不精じゃない。どちらかというとね」
なるほど、と咲夜は思って、頷いた。最近はましになった方だが、それでも出かけるのは専ら博麗神社のみだ。頻度もさほど高くない。――昼間から頻繁に出歩く吸血鬼というのもどうかと思った。
というか、お前が言うな。咲夜はすごく考えた。でも本人には言わない。割と根に持つタイプだからだ。
「それで、もやしのままじゃ不健康だろうと思って、日焼けクリーム」
――いや。そりゃあ、だめだろ。
フランちゃんかわいいよ
ぱっちぇさん、あんたが出不精とかもやしとか言うなw
日焼け止めならまだ解りませんけども。
そしてクッキーを食べるフランが可愛いかったです。
そしてタイトルが見事
それとちょっとフランに吸われてくる
「暗い部屋の中でせこせこ実験?ハッ、ノーズで大爆笑ね!やるならお天道さまの真下で盛大によっ!」
なんだこの健康的な魔女(自分でやっといて言うな)
つまりはパチュレミ(良し、それならおk)
遠回しに「死んで下さい」って言ってるようなものじゃないかwww
パッチェさんwww
お嬢様が見たかったんだよ
痺れないし憧れないww
・・・・・・そういえば、緋で日焼けした健康的なお嬢様カラー出来ましたっけ?
コメの効果もあいまってしばらく笑いが止まりませんでした。
しかしこれは個人的に理想の紅魔館の雰囲気かもしれないw