*この話は第7話に当たります。1話~3話(作品集72にあります)、4~6話(この作品集の下の方)を読んでいないと理解しにくい内容です。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。少しファンタジーっぽい要素が出てきます。でも、剣も魔法もありません。
*秘封倶楽部の2人にはあまり出番の無いお話です。
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。
春、蝶舞う小高い丘の上に、見事な墨染桜が咲いていた。うら若き女性が、その桜を目を細めて眺めながら、隣に立つ老僧に話しかける。
「まるで妖の様ね」
「妖、とは?」
「人を吸い寄せ、言葉を奪い、気付けばまた誘われる。ふふっ、あなた様の歌のよう」
そう言って、扇で口元を隠しながら、優雅な笑みを浮かべる。方や、僧の方はと言えば、微かな苦笑いを浮かべて言った。
「拙僧の歌など。あてどなく諸国を巡り、その場その時の思いを書き留めたに過ぎませぬよ。ただ、」
「ただ?」
「この桜に妖が宿るというのは言いえて妙かもしれませぬ。現に拙僧も、40年の時を経て、ここに誘われたのですから」
「あら?てっきりお婆様に会いに来たのかと思っていたのに」
そう言うと、またくすくすと笑い始める。思いがけぬ一言に、僧の方も困り顔をするしかなかった。
「返す言葉が見当たりませぬな」
「音に聞こえる歌仙も、そんなことがあるのね?こほっ、こほっ」
女性は、再び笑みを浮かべようかと言う時に、急に顔を苦痛にゆがめ、苦しげな咳をして、その場に膝を落とした。それを見て、慌てて僧が女性を抱き起こす。少し離れて桜に見入っていた付き人たちも、駆け寄ってきた。自分の手に付いた赤いものを見て、女性が自嘲する様に呟く。
「困った桜。私の命まで誘うのかしら?」
「この状況でよくそのような戯れを。もう屋敷に戻って静養なされませ」
「少しでも長く、この桜を見ていたいのだけれどね」
「桜は来年もまた咲きましょう」
「自分の体のことは、自分が一番良くわかっています」
力なく、女性が首を横に振る。
「私が死んだら、この樹の根元に埋めてもらいたいものだわ。そうすれば、毎年桜を見て過ごすことができるもの」
「縁起でもない事を。拙僧は、自分より若い者の葬儀になど出たくはありませぬぞ?」
「70も生きて、随分と贅沢な事を」
「生きる事を諦めてはなりませぬ。この世に執着を持ちなされ」
「お坊さんが執着を勧めてどうするのよ?でも、そうね……」
そう言うと、女性は眩しい物でも見詰めるように、桜を見上げた。
『願はくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ』
歴史と伝統を感じさせる日本家屋。その縁側で、庭園を見ながら牡丹餅を食べていた女性がポツリと呟く。
「お花見がしたいわ~」
「は?」
「お花見がしたいのよ~」
突然の一言に、その脇に控えていた少女が間の抜けた声を出した。それを受けて、牡丹餅を食べていた女性が、もう一度自分の願いを述べた。が、言われた少女は困惑顔だ。
「先々週、紫先生たちとお花見してましたよね?」
「したわねぇ」
「あれから2週間経ってるんですよ?」
「それはそうでしょう。先々週と言うのは、2週間前の事を指すのだから」
何を当たり前の事を言ってるのよ?と、少女の方を見る。視線を向けられた少女は、思わず溜息をついてしまった。
「そういう意味ではなくてですね、もう散ってしまったと言いたいのです」
「まだ咲いてないのもあるわよ?」
「そりゃ、北の方に行けば咲いていない桜もあるかもしれませんが。GWにでも北海道まで行きますか?今から飛行機のチケット取るのは大変でしょうけれども」
少女の提案に、29個目の牡丹餅に手を伸ばした女性が、ぷいっと顔を背けた。
「嫌よ、遠出するのは面倒だもの。近くが良いわ~」
「無茶を言わないでくださいよ」
また、無茶苦茶な事を……そう思った少女が、またも溜息をつく。そんな少女の方へ、30個目の牡丹餅を食べ終えた女性が姿勢を正して真面目な顔で話し始めた。
「無茶など言ってないわよ~?いいこと、妖夢…………」
語ること十数分、妖夢と呼ばれた少女が抱いた感想は『やっぱり、無茶言ってるじゃないですか』と言う物だった。だが、断れない。妖夢の家系は、代々彼女の家に仕えてきた家系だった。このご時勢にもなって、と言われるかもしれないが、彼女自身、幼い頃から面倒を見てもらっている。そうなれば、返事は一つ。
「わかりました」
「あら、嬉しい♪それはそうと妖夢」
そう言いながら彼女は空の器を差し出す。
「お代わり♪」
「年の数の倍も食べたじゃないですか!?」
「たったの34個じゃないの~」
「何をサバ読んでるんですか。ごじゅ」
「妖夢?」
そう言って妖夢を見据える笑顔は、とてもとても恐かった。
「紀貫之は~、古今和歌集の仮名序で僧正遍照の歌を、このように評したの。それじゃ~」
え~と、と言いながら教室を見渡す先生。どうせ私は指される事は無い。他の皆も、1名を除いてまるで緊張していなかった。
「今日は4月の16日だから~、出席番号4番の十六夜さん、現代語に訳してみてちょうだい?」
「……はい」
クールな表情のまま、こめかみをヒクつかせて咲夜が立ち上がった。古文の授業の度に指名される咲夜に同情したくなってくる。今月の授業は、今日を入れて後4回だ。せいぜい後15回ほどしか指名されないだろう。ちなみに、私は全科目合わせても6回しか指されていない。そのうち4回は紫だ。
「『歌の風体や趣向は良いが、実感に乏しい。絵に描いた女を見て、いたずらに恋心をつのらせるようなものだ』」
「その通り。つまり、『2次元にしか興味ないDTが、一丁前に語っても空しいんだよ』と、ネカマが批判しているのね~」
そっちの『現代』語訳はいらねぇよ。
「少し時代は下るけど、大人気ブロガーがいたり、妄想のイケメンにハァハァしちゃう未亡人が現れたり、日本人のアイデンティティが、この当時からあまり変わってないことが古文の世界からもわかるでしょ~?」
勘弁してくれ。そんなアイデンティティを古文から読み取りたくはないわよ、私は。大多数の生徒は私と似たような感想を抱いているのだろう。委員長は完全に顔が引き攣ってるし。私の斜め前で、1人真面目に頷きながらノートを取っているアリスがとても心配だ。その後も授業自体は何事もなく進み、もう一度咲夜が指名された所でチャイムが授業の終わりを告げた。
「あら、ご飯の時間だわ。それじゃあ皆、ちゃんと予習はしてきてね~?」
そう言うと、そそくさと教室を後にする先生。今はまだ1時間目だ。
「一日何食食べるのかしらね?」
「ホントにね」
「あら?霊夢だってかなり食べるじゃないの」
「それでも、1日3食しか食べてないわよ。毎時間毎時間食べてよく太らないわよね」
「そりゃ、霊夢と違って胸に栄養が行くからだろ?」
「やかましい!」
授業が終わると同時に、近くに座る3人が声をかけてくる。さとりにアリス、魔理沙だ。少し遅れて咲夜が真ん中の方から歩いてくる。まだ1時間目が終わったばかりだと言うのに、げんなりとした、疲れきった表情をしている。とりあえず、ねぎらってやるか。
「お疲れ様」
「あの人、何か私に恨みでもあるのかしら……」
「いや~、案外指名し続けてること自覚してないんじゃないか?」
「確かにね。『お腹空いた~』っていう顔しかしてないもの」
「勘弁して欲しいわ」
「まぁ、あと4回我慢すれば解放されるじゃない」
「自分は回ってこないからって……」
「でも、いい先生じゃない。連綿と受け継がれている日本の文化を丁寧に教えてくれてると思うわ。私、いつか国に帰ったら日本文化の講師になろうと思ってるんだけど」
「「「「やめて」」」」
あんたは間違った日本像を伝えそうだ。いや、間違いじゃないかもしれないが、伝えて欲しくない面だ。あの先生も、留学生がいるのに妙な事を言わんで欲しい。そんな事を考えながら、件の先生の事を思い浮かべる。1-C担任の古文教師、西行寺幽々子先生。薄桃色の髪と、透き通るような白い肌を持ち、いつもニコニコとしているおっとりとしたお姉さん。そして、細身とは裏腹なダイナマイトと、それの保有を納得させる食欲の持ち主。以前、先生が車から高さ50cmにはなろうかと言う五重の塔を、2つも取り出したのを見たことがある。そのとき、私は「何ですかそれ?」と尋ねたのだ。そして返ってきた答えが
「お弁当よ~?」
と言う物だった。2つ併せて10段だよ?何でも文の話によれば、朝のHR前と各休み時間に一段ずつ食べているらしい。この間の昼には隣で五段をぺろりと平らげているのを見せ付けられた。その時の食べっぷりと来たら、見ていて胸焼けがしてくるほどだった。というか、
「うぷっ」
「どうした?」
「いや、この間の昼の事思い出したら胸焼けが」
「霊夢も大概だけどね。私はもう慣れたけど」
「そうね、初めてお昼を一緒に食べた次の日、お嬢様が『霊夢に食べられる夢を見た』ってやつれた顔で仰ってたわ」
「ホント、私より小さい身体のどこにあんだけ入っていくのかしら」
そう言って皆が私に呆れた視線を向けてきた。何を言ってるんだ。私はちゃんと日本人らしい食事をしてるじゃないか。
「私は幽々子先生みたくバランスの悪い食べ方してないわよ。一日三食、ご飯一膳に一汁一菜じゃないの」
それを聞いた皆がげんなりとした顔をする。魔理沙と咲夜がどこか遠くを見詰める目で、諭すようにアリスに話しかけた。
「アリス、あれは一汁一菜じゃないからな」
「普通、味噌汁におかず、加えて漬物よ?」
「わかってるわよ、いくらなんでも」
「ほら、アリスまでわかってるじゃないの。霊夢も日本語を勉強なさいな」
さとりまで私を窘めに入った。失敬しちゃうわ。
「そんなこと私だってわかってるわよ。だからこそ、カレーライス(ご飯)と、とんこつラーメン(汁物)、キムチチゲ(おかず兼漬物)の、」
「思い出させないで、お願いだから」
咲夜が私を制しつつ、口元を押さえて顔を背けた。咲夜はあまり私たちと一緒に食べることはない。レミリアたちと食べるからというのもあるが、なんでも私と一緒に食事をすると、『メイドの矜持が汚される』らしい。和洋折衷の何がいけないのかと聞くと、『何事にも限度があるのよ』と返された。どれも深い味わいがあっておいしいのに。
「それじゃ、気をつけて帰りなさいな」
ようやく今日の授業が終わった。さて、この後どうするか、と思いを巡らせようとしたが、その前に紫に声をかけられた。
「あと、霊夢たちは少し残ってちょうだい。お願いしたいことがあるから」
そう言って、こちらにウィンクしてきた。『たち』と言うからには『秘封倶楽部』の3人に、と言うことだろう。お願い事……一体何をやらせるつもりなのやら。嫌な予感しかしてこない。隣のさとりも溜息をついている。皆が鞄を掴み教室を去っていく。これで、教室に残るのは紫と私たち3人。+アリス?
「ちょっと、なんで私を巻き込むのよ!」
「まぁまぁ、一緒に不思議図書館を探検した仲じゃないか」
「それがあるから、今回は巻き込むなって言ってるんでしょう!?」
「1回巻き込まれるのも、2回巻き込まれるのも、もう変わらないだろ?とりあえず座れって」
「ちょっ、脱げる、脱げちゃう!スカート引っ張らないで」
フリル付きか。気の毒だが、止めないでおこう。いざと言う時に、被害が分散された方がありがたいし。一方、2人の様子を見かねたのか、担任教師が口を挟み始めた。
「魔理沙、アリスを離してあげなさいな。それと、アリスも落ち着きなさい」
「そうだぞアリス。落ち着いて話を聞くんだ」
「いいから離しなさい!」
魔理沙からようやく解放され、スカートのずれを直すアリスに、紫が重ねて声をかける。
「ねぇ、アリス?」
「なんですか?」
「欲しいもの、ない?」
「宮○路瑞穂お姉さまのフィギュアが欲しいです」
誰よそれ?マジ顔で希望を述べるアリスに、紫もさとりも魔理沙も、もちろん私も目が点になる。が、そんな紫の様子が目に入らないのか、いつの間にやら教卓に駆け寄り、今度は目をキラキラさせながら紫に迫り始める。
「くれるんですか?!出来れば、保存用と観賞用の」
「お、落ち着いて。それはそれで考えてあげるから!」
「本当ですか?!嘘じゃないですよね!」
「考えるだけ、考えるだけよ?それより、もっと切実なものがあるんじゃないの?」
アリスの迫力に押されながらも、なんとか体勢を立て直し、逆にアリスに尋ねる紫。一体何考えてんのかしらあいつ?まぁ、その答えはすぐにわかったのだが。
「何ですか?あっ、そう言えば、こないだオークションでビスク用の可愛いドレスが」
「た、ん、い♪」
「……え゛?」
「欲しくない?」
……鬼だ。そりゃ誰だって欲しいだろう。でも、職権濫用にも程があるでしょそれは。普段の様子から見るに、アリスはどちらかと言えば成績はいい方に分類されるんだと思う。餌にされなくっても、普通にやれば、まず間違いなく数学の単位はとれるだろう。となると、これは餌じゃなく脅しなわけで。案の定、アリスが反発した。
「そんな!いくらなんでもそれはあんまりじゃ」
「規則その1」
「でも、」
「その2」
「けど、」
「……ねんどろいど」
「何してるんですか?早く説明してください」
「「「「はやっ!」」」」
紫の一言の意味がほとんどわからなかった。粘土がなんなんだろう?でも、もういいや。皆席に着いたんだし、さっさと説明してもらおう。
「それで、今日は何よ?」
「もう、霊夢ったら。先生相手にその口の利き方はないでしょう?拗ねちゃうわよ?」
「今日は私たちにどのようなご用件でしょうか、八雲紫先生?」
「もう、霊夢ったら。お姉ちゃん相手にそんな他人行儀な口の利き方はないでしょう?」
「どないせっちゅうねん」
「紫先生、お話を」
「さとりんったらせっかちねぇ?まぁいいわ。今度ね、お花見をしようと思うのよ」
「お花見、ですか?」
さとりん、って部分はスルーなのね。あとで呼んでみよう。それはともかく、花見と言ったか?学園中の桜が散ったこの時期に。こないだ毛虫いたのに。となると、ここではない何処かでする、と言うことだろう。遠出となるとGWでもないと無理だ。GWの時期に桜が見ごろな場所。となれば、
「北海道に連れてってくれるの?!ラーメン三昧!」
「何時もじゃないの」
「ラベンダー畑が見たいぜ!」
「見ごろは夏よ」
「サーモン咥えたテディベア!」
「木彫りの熊はテディじゃないわ。っていうか、アリスにとってはあれも人形なの?」
「白い○人ブラックって、いい感じよね」
「先生……もう、諦めてもいいですか、ツッコミ」
それは困る。ツッコミが私一人じゃ辛すぎるもの。紫もゴメンゴメンと苦笑しながら話題を戻した。
「まぁ、そう言わずに。大体、北海道に行くわけないでしょう?もっと近場よ、近場」
「近場っつったって、関東は殆ど散っちゃったんじゃないのか?」
「ところが、まだ咲いてすらいない桜があるのよ、これが」
「あるのか?」
「えぇ。だからあなたたちには、その桜を咲かせて欲しいのよ」
「「「はぁ?」」」
咲かせて欲しいって、私たち林業専攻でもなんでもないんだけど。犬の灰でも撒けって言うのか?ただ、さとりだけは紫の言いたい事を把握したらしい。
「……だから私たちですか」
「そういうことよ」
どういうこと?いや、言わなくてもいい。その笑顔で良く判った。面倒事だ。だから続きは言わないで、
「境界の向こう側に、咲かない桜があるの。それを咲かせて皆でお花見しましょう」
言っちゃたよ。思わず頭を抱えて机に肘をついてしまった。が、そんなことはお構い無しに、紫が私たちの方へ地図持ってやってくる。
「ここから電車でちょっと行った所、幽々子の家の傍にあるんだけど、あれを見たいのよ」
「幽々子って、古文の西行寺先生ですか?」
「えぇ、中学からの同級生なの。今でも、他の同期連中と一緒によく飲みに行ったりしてるのよ。この間も勇儀や永琳と一緒に花見に行ったんだけどね」
「じゃあ別に良いじゃないの。2回も3回もしなくったって」
「あら?じゃあ霊夢たちは年に1度のお花見を堪能したのかしら?」
「毎日見てたわよ。ねぇ?」
「えぇ」
「だな」
「そりゃあね」
確かに、所謂『お花見』はやっていない。でも、通学路を初め、学園内にはいたる所に桜並木がある。わざわざお花見をしなくったって桜は充分に堪能できたし、それに何より、面倒なことには巻き込まれたくない。他の3人も同意見だろう。にべもない返事をした。それを聞いた紫は膨れっ面をしている。そして何を思ったか、
「い~や~!皆でお花見したいの~!」
「「「「うわぁ……」」」」
駄々をこね始めた。20台も半ばを過ぎたいい大人が。しばらく「いきたい~」だの、「皆で~」だの騒いでいたが、段々と落ち着いてきたようだ。が、今度はめそめそし始めた。
「ぐすっ、折角顧問の先生が、日頃頑張ってる部員たちを労ってあげようって言ってるのに」
「準備するの、私たちなんですよね?」
「先生は忙しいんだもん。だから、準備だけでもやって欲しいって言ってるだけなのに」
そう言うと、またしゃくりあげ始めた。ホント面倒くさい先生だな。皆で顔を見合わせると、3人とも『仕方ない』という顔をしていた。
「……わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
「やってくれるの!?」
途端に明るい笑顔を浮かべる紫。やっぱ嘘泣きかコイツ。まぁ、わかってたから別に良いんだけど。他の3人もわかっていたのだろう。魔理沙が疲れた表情で話を促す。
「で、何をすりゃ良いんだ?」
「さぁ?」
「意味がわかりません」
全くだわ。日本語で話しなさい、日本語で。日本語で喋ってる?なら、あんたは他人に理解してもらおうという心がけが足りないのよ。サッパリ意味が伝わってこないもの。『さぁ?』の一言で私たちにどう動けって言うんだ。
「順番に説明するから、そんな恐い顔しないで頂戴。最初は偶然だったのよ。メリー達と一緒に幽々子の家にお花見に行ったとき、メリーが見つけてね。見たこともないくらい見事な墨染桜の木だったんだけど、蕾すらついてなかったの。でね、幽々子の家、凄い古い家なんだけど、家捜ししたらそれっぽい文献が残ってたのよ」
「境界の向こう側なのにですか?」
「ん~、難しいところね」
さとりの質問に、手を顎に当てて思案顔をした。でも、言われてみればそうだ。メリーさんは、所謂『超能力者』だ。彼女が発見して、そこに何度か出入りするうちに、紫は出入りのコツを身につけたらしい。咲夜やパチュリーも、レミリアの屋敷に出入りするようになってコツを掴んだそうだ。それがあるから、魔理沙は初めて図書館へ行くのにパチュリーを拉致ったのだろう。今は私やさとり、アリスなども図書館へ行くようになったので、なんとなくコツというのが判った気はする。だが、その文献を残した人はどうだったのだろう?その人物もまた、特別な力を持っていたのだろうか?そんな事を考えていると、紫が口を開いた。
「全部を読んだわけじゃないらしいけれど、読んだ限りだと、当時は境界の向こう側を見た、って感じじゃないらしいのよね。近所の人たちで花見をした、みたいなことも書いてあるみたいだし。あ、古文書の類だから私は読めないのよ?読んだのはその家に仕えていた庭師の妖忌ってお爺ちゃん」
「古文書かぁ。家にもそんな感じのがあったなぁ」
「そうなの?」
「あぁ、実家は結構伝統あるみたいだからな」
「?」
古文書って言うとあれか?字が全部一本の線になってるようなやつ。N○Kの番組で見たことあるけど、あれは同じ日本語には見えなかったなぁ。それにしても、一瞬、魔理沙が暗い顔したのは気のせいかしら?まぁ、真剣に話を聞くモードみたいだし、私も続きを聞こう。
「幽々子のご先祖様の日記みたいなものらしいけど、何代かに亘って記述があるらしいのよ。見事な墨染桜で、名を『西行妖』」
「『西行』って、古文で出てくるあの『西行』ですか?」
「それは判らないわね。幽々子の苗字自体も『西行寺』だから。関係があるのかないのか」
居たっけ、そんな人?そう言えば百人一首かなんかでやったような気もするけど。まぁ、いいや。そんなことより今はその桜の話だ。
「聞いてる限り、紫も咲くのは見たこと無いんでしょ?」
「えぇ。だから見てみたいのよ」
「枯れてるわけじゃないんですか?」
「いえ、庭師さんの見立てだと、ちゃんと生きてるから咲く筈だ、って言ってたわ。だから、何かすれば咲くはずよ」
「と言われても」
「ねぇ?」
魔理沙とアリスが顔を見合わせる。微笑を浮かべながら、結構な無茶を言ってくれるものだ。不思議な墨染桜とやらを見てみたい気はするが、忘れ去られた、咲かない桜を咲かせと言われても見当がつかない。そう眉根にしわを寄せていると、紫が急に「ふふふっ」と笑い始めた。そう言えば、なんで引き受けること前提に考えてんの私?
「やる気になってくれたみたいで嬉しいわ。今回は助っ人を用意してあるから、その子と協力しなさいな」
「助っ人?」
「えぇ」
そう言うと、紫は教室の扉の方を向いて声をかけた。
「妖夢、そんなところで突っ立ってないで、入っていらっしゃいな」
「みょん?!」
どうやら、誰かが立っていたらしい、4人で視線を向けると、「失礼します」と言う声と共に、小包を抱えた、小柄なおかっぱ頭の女の子が教室に入ってきた。制服からすると中学生のようだ。
「あの娘は?」
「さっき言った、幽々子のところの庭師のお孫さんよ」
「は、はじめまして!魂魄妖夢と言います!」
緊張しちゃって、可愛いなぁ。一通り自己紹介を終えた後、改めて紫の方を見る。
「それじゃ、後は頑張って。何かわかったら連絡してちょうだい♪」
「もう丸投げすんの?!」
が、あまり意味が無かった。紫は「じゃあね~♪」と言って、さっさと教室を出て行ってしまった。となると、後は私たちが頑張るしかない。まずは、この子の背負ってきた荷物だな。
「みょん、とりあえずその荷物を見せてくれ」
「みょんって呼ばないでください!」
魔理沙が冷やかし半分に呼ぶと、顔を紅くして膨れっ面になってしまった。そんな彼女にさとりが宥めに入る。
「うちの馬鹿がごめんなさいね?魔理沙、ちゃんと呼んであげなさいよ」
ここしかない!
「さとりんの言う通りよ」
言ってやった!呼ばれた瞬間に、さとりが身震いしたのを見逃さない。どんな顔してるかしら?あれ?なんか随分素敵な笑顔ね?
「ありがとう『れーちゃん』♪『まりぃ』、返事は?」
「うっわぁ……」
ちょ、鳥肌、鳥肌が!背筋ぞくっとした!魔理沙も完全に凍り付いているようだ。心なしか髪の毛がジ○リ映画みたいに逆立ってる気がする。横で聞いていたアリスも、完全にドン引きしていた。そんな私たちに、相変わらずの素敵な笑顔でさとりんが話しかけてきた。
「どうしたの?『はーりん』も『まりりん』も凍りついたみたいになっちゃって」
「なんでもないのよさとり!ほら、魔理沙!さっさと謝って!」
「わ、悪かったな妖夢!さとりの言う通りだぜ!人を変なあだ名で呼んじゃいけないよな!」
「この通りだから、魔理沙を許してあげてね?」
「は、はい」
一連のやり取りにどうすれば良いか困惑していた様子の妖夢だったが、さとりの笑顔に思わず返事をしてしまったようだ。その後、さとりがこちらに視線を向けた。
「霊夢、荷物開くの手伝ってあげたら?」
「いいですとも!」
私は慌てて荷物の開封にかかった。どうやら許してくれたらしい。今度はちゃんと呼んでくれた。二度と『さとりん』なんて呼ばないようにしよう。まだ背中に、虫かなんかが這いずり回ってるような感じがするもの。
箱を開くと、中から出てきたのは、見るからに古い本だった。どうやら、件の古文書のようだ。一冊を手に取りパラパラと捲って見る。他の3人も同じように手にとっていた。
「ふむ」
そう言って手にした本を閉じた。皆もほぼ同じタイミングで本を箱に戻した。大分方針が固まった気がするし、皆の意見を聴いてみよう。
「読めた人~」
「「「いません」」」
「はぁ……だと思いました」
くっそ、後輩に溜息吐かれた。とは言えしょうがない。古文の授業を受けていたって、書いてある文字は現代語だ。こんなミミズみたいな字が読めるわけが無い。ホントにこれ本人たちは読めたのか?すげぇな中世人。まぁいい。こうなれば方針通り動くだけだ。
「図書館へ行きましょう」
「え?図書館、ですか?」
「賛成」
「そうだな、パチュリーもいるかもしれないし」
「司書ちゃんに聞けば、何かヒントになるのが見つかるかもしれないしね」
意見は纏まったし、図書館へ向かうとしましょうか。一人困惑している妖夢には、実際に連れて行った方が早いだろうし。
「あの、皆で壁とにらめっこして意味があるんですか?」
中央図書館に入り、図書館の前までやってきた。とは言え、一見するとただの壁。妖夢の疑問も当然だろう。折角だから驚かしてやるとしよう。周りに人がいないのを確認して、妖夢の手を握る。ん?意外とがっしりした手だなこの子。
「!!は、博麗先輩?!」
「じゃ、私から入るわよ?」
「あぁ、後ろから楽しむぜ」
「よいしょ、っと」
「え?え?わわっ!?」
「『よいしょ』って……」
「オバサン臭いわね」
妖夢の脳裏には、きっと『死ねばいいのに』の文字が刻み込まれたことだろう。それと、さとり、アリス。聞こえたわよ?
気になりますね。
幽々子が合計十段の弁当箱や、咲夜さんだけが指名されたりと
色々と面白い部分もあってとても良いです。
この学園シリーズ好きですよ。
続きも楽しみにまってます。
今回から出てきた妖夢や幽々子たちは今後どう動いていくのか、すごく楽しみです。
次も期待して待ってます。番外編も勿論ですが。
しかし読みやすいなあ。伏線も増えてきて今後も楽しみです。
色々と試行錯誤されているようですが、頑張ってください!
次も楽しみにしてます。
相変わらず凄く面白いですw
今回も素敵な話でした
前半の文の所、面々と ではなく 連綿と ではないでしょうか
序章から一気読みしてきました。
今回も非常に面白かった、中、後編も楽しみです。
もしかしてRさんは大阪の人!?
妖夢とはハーフということで親近感がわきますねぇ(^_^)
続編楽しみに待ってます!
先生たちは2×歳の設定です。2▲で大学院を出て、最初の1年は科目だけ、2年目で初担任、と。ちなみに、勇儀は院には行ってないので4年目です。一応、先輩ですね。
>煉獄さん
公式・二次を含めた幽々子らしさ、と言うものを出そうとしたら、こんな妙な古文教師に。男子校なら滅茶苦茶モテ……るでしょうかね?
続きも頑張ります。
>9さん
永遠の美少女たちに年齢なんて無いですよね。
>想月さん
番外編、ネタは3つ4つ考えてあるので、速目に披露出来たらなぁ、と。まずは本編完成させないと。妖夢の扱いが中々難しいです。
>13さん
いつだって、リーダーよりもNo.2の方が権力があるのです。
そう言っていただけると嬉しいです。
>14さん
行き当た……試行錯誤の積み重ねなのですよ、続き物と言う奴は。
>21さん
ですね。修正しておきました。ありがとうございますm(_ _)m
>22さん
一気読み、お疲れ様です。実は徐々に長くなっていると言う罠があるのです。20話過ぎた辺りでは1話辺りが200kbに……ならないように頑張ります。
>31さん
ハーフに親近感が湧くのですか!奇遇ですねぇ。実は私も青森と北海道のハーフでして。AHAHAHAHA……orz
北海道も、青森も、大阪も住んだ事が無いですね。生まれは砂漠の国、育ちは熱帯雨林。今は首都在住です。いや、ホントに。
続編書かなきゃ。
相変わらず日常のシーンが面白くて好きです。
テンポのいいお話って読み安くて助かります。
しかし「いざよい」で出席番号4番とは、かなり熾烈な1番争いだったのでしょうねw