眼が覚めた時自分の心臓に杭が突き刺さっているのを見て彼女は流石に驚いた。
とりあえず手は動く。眼も動かせる。息も出来ている。
両手で杭を掴んで引き抜こうとした。だが、力が入らず抜けない。
痛みはなく、ただぽっかり胸の感覚が希薄でほぼ無いに等しかった。
『レミリア・スカーレット』は短く苦しそうに息を吐いた後、辺りを見渡した。
どうやらここは紅魔館で、自室である事に変りはない。
無性に首が疲れて、クタッとレミリアは再び枕に頭を預けた。
もし常人ならばこのような状況に置かれたら発狂するだろう。
ふと、レミリアの脳裏に一つの解が浮かんだ。
――ああ。殺されたんだ
きっと、そうだろう。
潔白のシーツには夥しい血が乾いて染みになっていたし、杭に血もだいぶ染みこんでいる。
きっと寝込みを誰かに襲われて自分は死んだのだと彼女は理解した。
殺されるとは、心外だなと思いながらただ天井を見渡していた。
彼女は今まで数多くの人間や妖怪を殺してきた。
だがレミリア自身『死後の世界』がどうであるかは判らない。
どのような文献を幾度となく読み返そうともそれは判らなかった。
しかし今自分が置かれているのが『死後の世界』であるという事は薄々気が付いた。
眼を瞑って考えてみる。
死んだら何処に行くのだろうか。
誰が悲しんで誰かが喜んで、誰かが絶望するのだろうか。
――思い出されたのは幻想郷の住人達の顔。
きっと死んだらフランにもパチュリーにも美鈴にも霊夢にも小悪魔にも魔理沙にもアリスにも紫にも最強だとか言ってる氷精にも阿呆そうな闇の妖怪にも立絵もない妖精にも小五月蝿い亡霊楽団にも使いっぱしりの九尾にも化け猫にも地底のやつらにも悪戯好きの因幡兎にも苦労している月の兎にも詐欺っぽい薬師にも蓬莱ニートにも殺し合い好きな蓬莱人にも嘘ネタばかりの天狗にも河童にも八坂の神にも気持ちの悪い帽子の蛙にも緑の巫女にも不憫な庭師にも大食いの亡霊姫にもワーハクタクにも説教垂れの閻魔にもサボリ魔の死神にも目立たない姉妹にも不良天人にも空気の読めない使いにも可笑しな店の店主にも咲夜にも逢えなくなるのに。
吸血鬼と呼ばれ、血を吸う鬼だと恐れられ今まで生きてきた彼女。
だが、寝込みをこんな簡単に襲われただけで死ぬのだ。あっけなく。儚く。
そう、まるで小さな芋虫のようで。
死んだら何処に行くのだろう。
地獄だろうとは、レミリアは覚悟しているのだけれど。
この五百年は彼女にとって長いようで、短かった。
自分は数え切れぬ程の夜を越えて
数え切れぬ程の朝を迎えた。
数え切れぬ者を生かし
数え切れぬ者を殺した。
数え切れぬ者に忌み嫌われ
数え切れぬ者に崇め奉られた。
数え切れぬ者を嫌悪し
数え切れぬ者の血を啜った。
数え切れぬ者を絶望させ
数え切れぬ者に失望した。
数え切れぬ者と戦い
数え切れぬ数の勝利を収めた。
数え切れぬ者を裏切り
数え切れぬ者に裏切られた。
愛した者を従者として
両手で足りぬくらいの忠誠を貰った。
愛した者と共に過して
両手で足りぬくらいの信頼を貰った。
愛した者に守護を任せて
両手で足りぬくらいの感謝を貰った。
愛した者を出来るだけ愛して
両手で足りぬくらいの笑顔を貰った。
愛した者達といくつもの時を越えて
両手でたりぬくらいの幸せを貰った。
両手で足りぬくらいの愛情を貰った。
『当たり前』に埋もれた幸せ。
『日常』という桶に零れた愛。
零れ落ちた幸せと愛を、掬う時が来たのだ。
大事な物を失くした様な感覚。
聞こえてくる『幸せ』の一片。
―――残滓の様に聞こえるは紅茶を淹れた音
今日は五人でお茶会 ――紅茶を淹れる音
居眠りをした門番に従者がナイフを飛ばした ――溜息と間抜けな声
興味の無いような魔女の一瞥 ――仲裁と加担の声
楽しそうな愛する妹の笑顔 ――少しずつ思い返すように
――幸せを数えたら、指が足りなくなってしまった。
ツ、とレミリアの頬に露が流れ出た。
与えたものより、求めたものの方が多かった。
自分は彼女たちに、一体何が出来ていたのだろう。
――我侭だけども、出来るなら
死ぬ前に『 』の淹れた紅茶が飲みたかった。
聞こえるのは懐かしい声。 ―レミリアお嬢様―
もう一度『 』にクビだと冗談を言いたかった。
聞こえるのは儚い声。 ―お嬢様―
出来るなら『 』と紅茶を飲んで本を読みたかった。
聞こえるのは淡い声。 ―レミィ―
呆れる程『 』を愛してあげたかった。
聞こえるのは愛しい声。 ―お姉さま―
生きたい。死にたくないと確かにレミリアは願った。
眼を開けてみたがそこにはもう闇しかなかった。
とろん、と意識が溶けて行く中でレミリアは確かに、生を叫んだ。
―お嬢様―
「お嬢様。お早う御座います。いかがなされました」
照明が妙に眩しかった。
一瞬眩しすぎて世界が反転したようになったが、彼女はゆっくりと起き上がった。
「私を呼ぶ声が聞こえましたので、お伺いしたのですが」
レミリアは答えず、シーツを確認する。
皺の無い潔白のシーツ。
胸を弄って見ても彼女の胸には杭どころか傷跡さえ無かった。
――夢
そこまで理解した時、涙が堰を切った様に溢れ出た。
従者は驚いたが、主をゆっくりと抱き寄せてその胸で眺めた。
「怖い夢でも、見たのですね」
従者はそう言って主を宥めていた。
ひとしきり泣いた後、従者は優しくレミリアに言った。
「お嬢様。お茶の準備が出来ております。参りましょう」
お茶会は五人だった。
『十六夜 咲夜』は溜息を付きながら目の前に座っている四人分のお茶を淹れた。
その音を聞き、従者と門番の喧騒を聞き、魔女の溜息を聞き、妹の笑顔を見て彼女は『帰ってきた』と感じた。
夢で見た紅茶。変らぬことのない紅茶を一口飲んでレミリアは静かに言った。
その顔は柔らかな光に包まれたように、穏やかだった。
――咲夜。貴女は私の側近。これからもよろしくお願いするわ。
「………はい。お嬢様の仰せのままに」
――美鈴。次居眠りしたら私が制裁を加えに行くわ。
「ふえー、居眠りなんてしませんよぅ」
――パチェ。貴女と私は親友よ。今までも、そしてこれからも。
「ちょ、ちょっとレミィ………ど、どうしたの、いきなり」
――フラン。明日は姉妹で過しましょう。貴女の好きな事を、好きなだけ。
「本当?! お姉さまっ、大好き!」
――咲夜。美鈴。パチェ。フラン。私は、貴方達を愛しているわ。
ありがとう。
だからこそレミリアも皆が愛しいと再確認できたのでしょうね。
面白かったですよ。
反省云々については私はなんとも。
ただ、反省をして今後こういったことがないようにするなら
それでいいのかもしれませんけども。
頑張ってくださいね。
自演に関しては、あんまり気にしないでいいと思いますよ?
自分は面白い話を読めればそれで満足
御話の内容については
もっと削れるところと掘下げられる箇所があるんじゃあないかな、って印象
読んでて気持ちの良いリズムがあると思うので内容がない話も読んでみてぇ
あと闇の妖精→闇の妖怪かと。
話は面白いのでこれからも頑張ってください!
それだけ自分の作品をみんなに読んでもらいたいのでしょう。
すでに反省してるみたいなのでこの話はここまで。
内容については個人的に最後のお茶会の所でもう一転欲しかったです。
自演をしたことは確かにダメなことです。
ですが反省をして、心新たにやり直すというなら、
それ以上咎める事はないと思います。頑張って下さい。
自演する必要を感じませんでしたよ。
確かに点数とか、出ているキャラで読まれたり読まれなかったりするみたいですね。
感想としては最初に書きましたが面白かったですよ。
個人的ですが、どうしてその夢を見たのかの切っ掛けとか最後のオチであったらもっと面白かった気がします。
ちょっと細かいですが気にになりました。
作品は十分いいものですので自演しなくてもいいんじゃないですか
>霊夢にも小悪魔にも~(中略)~咲夜にも逢えなくなるのに。
咲夜さんだけ紅魔館組から切り離して最後に持っていったのなら
レミリアの咲夜さんに対する思い入れなんかを詳しく書くと
より印象深くなったのかなという気がします。
コメント有難う御座いました。文章ではなく実際に逢って伝えたい程です。
夢は何時の間にか始って何時の間にか終る物だと考えています。
レミリアの夢。ただの夢のお話だったんです。
コメントを下さった方々。
重ね重ね感謝と謝罪を致します。
俺の嫁が抜けていたのは頂けないwww
自演をした貴方は最低だが、いい作品を書いた貴方は最高だ。
今後とも、読ませてもらうね。
ただ作品の投稿者が減ってしまうのは残念なことだ
どうせ掲示板のやつらが炙り立てたんだろ。
誤字があったんだが直ってるな。
住人を書くなら全部入れたほうがよかったんじゃないか?