比那名居天子にとってこれほど友人に囲まれることは初めてのことである。
それは同時にとても心地よいものでもある。
今は神社で宴会をしている。楽しそうな騒ぎ声が聞こえてくる。声の数だけで宴会に参加している人物の数はわからない。とにかく無数にいるようである。
空を見上げると、青空が一面に広がり、大きな太陽が気持ち良い程度の陽光を注いでいる。まさに快晴である。
「……」
「なに、見上げているのさ」
誰かがくいと天子の空の色と同じ青色の髪を引っ張る。
「わあっ!」
ふいに髪を引っ張られ少女はよろめいて、そのまま倒れこんだ。衝撃を抑えるために倒れこむ瞬間に受け身すらしようとしていなかった。とてもびっくりしていたようだ。
起き上がると、頭を打った部分に手で抑え、痛そうな素振りを見せた。
そして、そのあと少し怒った顔で髪を引っ張った誰かを見た。
「やったわね。萃香!」
「あはは~」
天子は髪を引っ張った誰かの正体を知っていたようだ。顔は怒っていても声に怒りなどは含まれていないようだった。
一方萃香は笑った。謝ることすらしなかった。
そして、そのまま天子は萃香に体ごとぶつかる。萃香は笑いながらよろめき倒れる。体勢を立て直せるほどの強さだったが、敢えてそのまま倒れこんだ。
天子もぶつかった勢いでそのまま倒れこんだ。
そのあと、仰向けで倒れたまま二人は笑いあった。
まるで親しい友人同士が行う悪ふざけのようであった。いや、そのものだった。
「こら、あんた達、喧嘩なら余所でやりなさい」
霊夢の声がしたと思ったら、木の棒で突かれていた。
「痛い、痛い」
天子が笑いながら言う。隣で一緒に倒れている萃香も一緒に「あはは」と笑っている。
霊夢は最初の仏頂面から次第に楽しそうな顔になった。そして、天使と萃香と一緒に笑いだした。
「あはは。何がおかしいのよ」
霊夢が笑いながら尋ねる。そのあと、「あなたもしかして本当に」と続ける前に天子が答えた。
「楽しいから、笑うのよ。こんな宴会いつまでも続いてほしいくらいよ」
彼女たちが喧嘩していても、宴会の空気が凍りつくことはない。むしろ、時間が進むにつれて宴会は盛り上がって行った。
向うでは衣玖が踊っていた。どうやら、酔っているようだ。
「そう。楽しいから…」
倒れたまま自分が起こした異変を思い出す。
そして、その時に自分を取り巻いていた孤独について考える。
思い出すだけで胸が苦しくなり、自然と涙がこみ上げてきた。
「どうして泣いているんだ?」
萃香が心配しながら尋ねてきてもそのまま思考を続ける。
当時は誰にも相手にされなかった。同じ天人はおろか自分の両親でさえも。
そしてついに手に入れた、自分と対等な立場で話し合える者――友人を。
少々荒い方法ではあった。涙を流し少し赤かった顔がさらに赤くなった。
彼女たちは認めなくても自分のやった異変というきっかけづくりは成功した。
しかし、この場にその少々荒いきっかけを認めなかった人物はここにはいない。
八雲紫――初めて会った時のことを思い出す。厳しく、そしてどこか温かみのある人物だった。
この人が自分の母親ならと今になって思えてきた。自分の否を厳しい口調であるものの悟らせてくれた、彼女は皆が感じる母親の愛情に似ていたからだ。
まだ、謝っていないことを思い出した。
そうと決まればすぐに立ち上がった。
「どうしたんだい。立ちあがったりして」
萃香が不思議そうに尋ねる。
天子は倒れているのではなく寝転んでいる萃香を見て、ほほ笑んだ。
「忘れ物よ」
太陽の優しい陽光のように明るい笑顔であった。
「そっか。忘れものか」
萃香は意味を汲み取ったのか、笑顔で同じく笑顔の天子に言った。「頑張ってきな」という言葉が天子には聞こえた。友人同士なら言葉を聞いただけですぐにその先の言葉を察せるように、彼女たちもまた同じ関係であった。
その言葉の先の感情も察せるのだから、友人以上なのかもしれない。
「ありがとう」
天子は背を向けて、ふいに現れた言葉を漏らす。感謝してもしきれないくらいだった。萃香がいたからこそ成功したからだ。
そして、今ではこのように非常に親しい関係になっている。
「あら。あんた帰っちゃうの?」
霊夢が帰ろうとしている天子に向かって言った。少しぶっきらぼうな印象だ。
「忘れ物よ。とっても大事なもの…」
「大事なものねぇ。よかったじゃない。あんたにそういうものができて」
ぶっきらぼうな声に明るい色がついた。小さい頃から一緒に遊んできた姉妹はふと大きくなった自分の妹を見て、小さい頃の妹と対比させることがあるそうだ。
一人前になった妹を見て、姉はまるで自分のことのように満足するそうだ。
姉妹という親密な関係ではないものの、似た者同士な雰囲気が彼女を姉妹のように感じあったのだろう。
「いってくるわ」
そのまま、神社を駆け足で出て行った。後ろではいよいよ最後の盛り上がりを見せる宴会の声が聞こえた。
しかし、天子は振り返らなかった。いつまでもあの場にいたかったが、今はとても大事なことをしたかった。
紫は永久に自分を許さないかもしれない。不安が頭を過ったが、それで自分の走る足が止まることはなかった。
紫と初めて親しくなったときに天子は幻想郷に認められると天子は思っているからだ。
むしろ、紫とは誰よりも深く親しくなりたいと思った。
昔の自分と今の自分を大きく変えさせてもらったのは彼女だからだ。
それは同時にとても心地よいものでもある。
今は神社で宴会をしている。楽しそうな騒ぎ声が聞こえてくる。声の数だけで宴会に参加している人物の数はわからない。とにかく無数にいるようである。
空を見上げると、青空が一面に広がり、大きな太陽が気持ち良い程度の陽光を注いでいる。まさに快晴である。
「……」
「なに、見上げているのさ」
誰かがくいと天子の空の色と同じ青色の髪を引っ張る。
「わあっ!」
ふいに髪を引っ張られ少女はよろめいて、そのまま倒れこんだ。衝撃を抑えるために倒れこむ瞬間に受け身すらしようとしていなかった。とてもびっくりしていたようだ。
起き上がると、頭を打った部分に手で抑え、痛そうな素振りを見せた。
そして、そのあと少し怒った顔で髪を引っ張った誰かを見た。
「やったわね。萃香!」
「あはは~」
天子は髪を引っ張った誰かの正体を知っていたようだ。顔は怒っていても声に怒りなどは含まれていないようだった。
一方萃香は笑った。謝ることすらしなかった。
そして、そのまま天子は萃香に体ごとぶつかる。萃香は笑いながらよろめき倒れる。体勢を立て直せるほどの強さだったが、敢えてそのまま倒れこんだ。
天子もぶつかった勢いでそのまま倒れこんだ。
そのあと、仰向けで倒れたまま二人は笑いあった。
まるで親しい友人同士が行う悪ふざけのようであった。いや、そのものだった。
「こら、あんた達、喧嘩なら余所でやりなさい」
霊夢の声がしたと思ったら、木の棒で突かれていた。
「痛い、痛い」
天子が笑いながら言う。隣で一緒に倒れている萃香も一緒に「あはは」と笑っている。
霊夢は最初の仏頂面から次第に楽しそうな顔になった。そして、天使と萃香と一緒に笑いだした。
「あはは。何がおかしいのよ」
霊夢が笑いながら尋ねる。そのあと、「あなたもしかして本当に」と続ける前に天子が答えた。
「楽しいから、笑うのよ。こんな宴会いつまでも続いてほしいくらいよ」
彼女たちが喧嘩していても、宴会の空気が凍りつくことはない。むしろ、時間が進むにつれて宴会は盛り上がって行った。
向うでは衣玖が踊っていた。どうやら、酔っているようだ。
「そう。楽しいから…」
倒れたまま自分が起こした異変を思い出す。
そして、その時に自分を取り巻いていた孤独について考える。
思い出すだけで胸が苦しくなり、自然と涙がこみ上げてきた。
「どうして泣いているんだ?」
萃香が心配しながら尋ねてきてもそのまま思考を続ける。
当時は誰にも相手にされなかった。同じ天人はおろか自分の両親でさえも。
そしてついに手に入れた、自分と対等な立場で話し合える者――友人を。
少々荒い方法ではあった。涙を流し少し赤かった顔がさらに赤くなった。
彼女たちは認めなくても自分のやった異変というきっかけづくりは成功した。
しかし、この場にその少々荒いきっかけを認めなかった人物はここにはいない。
八雲紫――初めて会った時のことを思い出す。厳しく、そしてどこか温かみのある人物だった。
この人が自分の母親ならと今になって思えてきた。自分の否を厳しい口調であるものの悟らせてくれた、彼女は皆が感じる母親の愛情に似ていたからだ。
まだ、謝っていないことを思い出した。
そうと決まればすぐに立ち上がった。
「どうしたんだい。立ちあがったりして」
萃香が不思議そうに尋ねる。
天子は倒れているのではなく寝転んでいる萃香を見て、ほほ笑んだ。
「忘れ物よ」
太陽の優しい陽光のように明るい笑顔であった。
「そっか。忘れものか」
萃香は意味を汲み取ったのか、笑顔で同じく笑顔の天子に言った。「頑張ってきな」という言葉が天子には聞こえた。友人同士なら言葉を聞いただけですぐにその先の言葉を察せるように、彼女たちもまた同じ関係であった。
その言葉の先の感情も察せるのだから、友人以上なのかもしれない。
「ありがとう」
天子は背を向けて、ふいに現れた言葉を漏らす。感謝してもしきれないくらいだった。萃香がいたからこそ成功したからだ。
そして、今ではこのように非常に親しい関係になっている。
「あら。あんた帰っちゃうの?」
霊夢が帰ろうとしている天子に向かって言った。少しぶっきらぼうな印象だ。
「忘れ物よ。とっても大事なもの…」
「大事なものねぇ。よかったじゃない。あんたにそういうものができて」
ぶっきらぼうな声に明るい色がついた。小さい頃から一緒に遊んできた姉妹はふと大きくなった自分の妹を見て、小さい頃の妹と対比させることがあるそうだ。
一人前になった妹を見て、姉はまるで自分のことのように満足するそうだ。
姉妹という親密な関係ではないものの、似た者同士な雰囲気が彼女を姉妹のように感じあったのだろう。
「いってくるわ」
そのまま、神社を駆け足で出て行った。後ろではいよいよ最後の盛り上がりを見せる宴会の声が聞こえた。
しかし、天子は振り返らなかった。いつまでもあの場にいたかったが、今はとても大事なことをしたかった。
紫は永久に自分を許さないかもしれない。不安が頭を過ったが、それで自分の走る足が止まることはなかった。
紫と初めて親しくなったときに天子は幻想郷に認められると天子は思っているからだ。
むしろ、紫とは誰よりも深く親しくなりたいと思った。
昔の自分と今の自分を大きく変えさせてもらったのは彼女だからだ。
紫への気持ちや、異変を起こしたときの天子の状況など
面白いと思いました。
良い感じに纏まっていると思いますし、話もスッキリと読めて私は良いと思います。
面白かったですよ。
これをベースにチョロっと調味料を加えてあげるともっと良くなるかもかも。
処女作だからこそ、飾り気の無い、ストレートな味を楽しめました。
あとがきの作者コメントがいい香辛料に。
幻想郷には憧れがつまってるもの。
いろいろな幻想郷への解釈があるけれど、穏やかで和やかな雰囲気のそれが自分は好きです。
にしても、あとがきの一行目でジーンときた。 なんでだろ。