※東方星蓮船のキャラが登場します。
けぶるような、雨が降っていた。
空はどす黒い雲に覆われ、普段なら茜色に染まっているであろう景色は、早くも暗闇に飲まれようとしている。
そしてその悪天候が、一人の少年の足取りを鈍らせ、その心をじわじわと侵食していた。
最初は、ただのかくれんぼだった。
だが子供特有の好奇心が、彼らを森へと向かわせた。
彼は反対した。しかし、自らの意見を主張して、一人だけ仲間はずれにされるのは怖かった。
結局仲間と森に向かい、隠れ場所を探しているうちに、気づけば帰り道がわからなくなっていた。鬼役にも出会えず、道のわからない森の中、一人だった。
そうして、元々機嫌のあまり良くなかった空が堪え切れずに、雨を降らし始めた。
「はあっ、はあっ」
心がどれだけ焦っても、水気をまとい始めた地面が足取りを鈍らせる。
細い雨は枝葉の隙間を抜けて落ちてくる。それは服にまとわりつき、体を重くさせた。
心細かった。
お母さん、お父さん、と心の中で呼んでみる。
実際に声に出しそうになった。でも言ってしまったら余計に寂しくなりそうで、こらえた。
どちらに向かっているかすら、もうわからない。ただ、里があるだろう方角をあてずっぽうに定め、歩いているだけ。たどり着ける確証もない。立ち並ぶ木々の幹が、張り出した根が、直進することすら妨げる。
ふと、無謀な案を押し通した友人たちの顔がよぎる。彼らはもうみんな里に帰ることができたのだろうか。憎んでいるわけではないが、多少恨めしく思う気持ちはある。帰ったらなにか一言言ってやらなければ気がすまない。
……そのためには、まず無事に森を抜けなければ。
悲しさと、心細さと、多少の恨めしい気持ちを抱いて、歩き続ける。
生い茂る木々の隙間から落ちてくる雨粒が、増えた気がする。
道は未だに見えない。
せめてこの雨さえ止んでくれれば。月明かりが、道を示してくれれば。
この時ほど、雨を恨んだことはないだろう。
希望を失いかけた眼で周囲を見渡す。なにか見えないだろうか。
そのとき、首を巡らす彼の眼が、かすかな明かりを捕らえた。前方の木々の隙間が、わずかに明るい。どうやらそちらは多少なりとも拓けているらしい。完全な暗闇になる前の、厚い雲の向こうから届いたわずかな光。もしかしたら、道に出ることができるかもしれない。
湿った枯葉を踏み潰し、そちらを目指す。暗闇に慣れた眼は、そのわずかな光度の変化を、しかし大きく捕らえた。あともう少し。
やがて、視界が開けた。
思わず目を見開く。
その光景に、息を呑んで立ち尽くす。
そこにあったのは、小さな池。
雲によって弱められたわずかな光が、木々にさえぎられずに水面まで届き、明るく見えたのだとわかった。鈍色の空を映した水面が雨滴を受け幾つもの波紋を描き、光は乱反射している。
だが、心を捉えたのはその風景ではない。
その池には、先客がいた。
晴れ渡った空のような色をした服を着て、その可憐な姿には似合わないような大きな紫色の傘を携えた、少女。
少女は踊っていた。
水面を跳ね、
飛び、
滑り、
飛び上がり、
宙返り。
そのすべての所作が美しく、無駄が無く、優雅だった。
動けない。
少女の舞を、そしてその瞳を見てしまったから。
透き通るような、それは二つの宝石にも似たオッドアイ。
その瞳に吸い込まれるように、魅了された。
疎ましく思っていた雨を、彼女は心から楽しんでいるようだった。惚れ惚れするような笑みで、雨を全身で受け止めていた。
やがて、舞が終わる。
どういう仕組みか、波紋も立てずに水面に立つと、彼女は静かに傘を差した。その所作は、先ほどまでの優雅で軽やかな運動とは反対に、成熟した女性のそれだった。
そして、少女がゆっくりと、振り向いた。
「あら」
動けない。ただ少女を見つめることしかできない。
「う~ら~め~し~や~?」
彼女は突然、そんなお化けみたいな発言をした。首を軽くかしげ、その外見に良く似合う、あどけない笑みで。
沈黙。
突然のことに、何も反応できない。
この少女はお化けなのか? 唖然とした頭にそんな考えがよぎる。だが、幽霊なら足がないはずだ。幽霊ではないだろう。
しかしどうにしろ人間でないことに違いは無い。危険な妖怪だろうか? そうかもしれない。でも、この可憐な少女が、人を襲う姿が想像できなかった。
「うーん、やっぱり驚かないのね。しくしく」
反応を返せずにいると、今度は突然悲しむそぶりを見せた。幼い少女のようだった。本当に、表情も仕草もころころと変わる。
女の子を悲しませてはいけない。ふと、そんな親の言葉を思い出した。
だから、なんとか慰めようとした。
緊張で固まった喉から声を絞り出す。
「お、驚いたよ」
うえーんうえーんと大げさな声をあげていた少女は突然こちらを向き、動きを止めた。
「本当?」
「ほ、本当だよ。あんまりにも奇麗だったから……」
上目遣いのオッドアイを向けられた衝撃で、つい余計なことまで口走ってしまう。何を言っているんだ自分は。
次は、少女が驚く番だった。
ぽかんと口を開ける。しばらくすると、その口の形は笑みへと変わっていった。
「思いがけず嬉しいことをいわれてしまったわ」
にこにこ笑いながら、一歩一歩、池のほとりへと歩いてくる。ほんの数歩のところまで近づかれて、心拍数がどんどんと高くなっていくのが自覚できる。
「ところで、素敵な少年君は、こんなところでどうしたのかしら。人間の子供が来るような場所でも時間でもないわよ?」
「……かくれんぼで、道に迷った」
意見を主張できなかった自らのふがいなさを露呈する言葉。恥ずかしかった。笑われると思った。
「そうなの。大変ね。気をつけないとだめよ?」
しかし少女は笑わずにいてくれた。だから、素直に答えることができた。
「……うん」
空を見上げ、少女は考え込む姿勢を取る。もう夜だった。相手の顔も、段々暗闇に隠されて見えづらくなってきている。
「じゃあ、素敵な少年君には特別だ」
そう言うと彼女は、突然背後に回りこみ、片手で抱きかかえてきた。余りに突然すぎて、声も出ない。
「私が里まで送っていってあげよう」
片手に少年を抱え、反対の手に開いた傘を掲げた少女は、その姿勢のままふわりと浮かび上がった。自分の足が地面から離れる浮遊感に恐怖を感じたが、少女の腕の力は強く、落ちることはなさそうだ。見た目とは裏腹に、すごい力だった。やはり妖怪らしい。
そのまま木々の高さを越えると、里の方角へと飛び始める。
「ゆっくり行くからね、安心してて良いよ。空の旅をご堪能あれ~」
楽しそうな少女の声。抱えられている状態ではその顔は見えないが、きっとさっき見せてくれた素敵な笑顔を浮かべているのだろう。
しばらくして恐怖感も薄れると、今度は恥ずかしくなってきた。
背中には少女の小ぶりな膨らみが押し付けられ、耳元には流れる空気に混じり、微かな吐息がかかる。そして、母とも違う、若い女性の香りが、少年の鼻をくすぐる。真っ暗闇の中だが、きっと顔は真っ赤になっているだろうと思った。
早く降ろして欲しい。でもこのままでいたい気もする。なんとも言えない妙な気分だった。
そのままどれくらい飛んだだろうか。眼下の森は途切れ、見覚えのある道と、遠くに里の明かりが見えてきた。
少女は里の入り口近く目掛けてゆっくりと降下すると、最後に一度ホバリングし、地面に降り立った。
「はい、到着~」
背中から少女の体が離れる。自分の足で大地を踏みしめている安心感と、少女の体から離れてしまった悲しさ。恥ずかしくはなくなったけれど、少し寂しい。
振り向いて、少女の顔を見る。やはり、変わらない素敵な笑顔だった。
「ありがとう、ございます」
「いやいや、お礼なんて良いよ、恥ずかしいしね」
そういって視線を逸らす少女。一つ一つの仕草が、いちいち愛らしい。
「じゃあ、早く家に帰ってお母さんとお父さんを安心させてあげるんだよ」
「うん……」
家に無事帰れることは嬉しい。でも、少女と別れるのは嫌だった。だから、また飛び上がろうとした少女に、声を掛けた。
「ねえ、また……会える?」
「縁があれば、きっと」
少し高い位置に浮かびながら、少女は答える。
そして、満面の笑みを浮かべて、言った。
「次は絶対驚かせてあげるからね!」
その手を細い腰に当て、胸を張って。
そうして、少女は夜の闇へと、消えていった。
少年はその後姿が見えなくなってもしばらく、闇の彼方を見つめていた。
少年が帰ってこないことで、近所中は大騒ぎになっていたらしい。
とぼとぼと歩いて帰ると、大泣きする両親に抱きしめられ、かと思うと勝手な行動を叱られ、さらに熱い風呂へと叩き込まれた。
次の日には、寺子屋で仲間と共に、先生に叱られた。先生の頭突きは痛かった。行動はさらにきつく制限され、里の外へもろくに出歩けなくなった。
あの夜に出会った傘の少女に会うことも、できなかった。
雨で家を出ることができない日は、いつも窓の外を眺める。
そして、彼女の舞を、笑みを思い出す。
少年は思う。
いつか、大きくなって。里の外へ出られるようになったら。
またあの少女に会いに行きたい。
どこにいるかもわからないけれど、あのときの『縁』を信じて。
きっと、素敵な方法で驚かせてくれるだろう。
こちらも驚かせる方法を今から考えておかなきゃ。
そして、いつか――
「あら、すてきな青年君」
変わらない笑顔。
「う~らめ~しやっ!」
けぶるような、雨が降っていた。
空はどす黒い雲に覆われ、普段なら茜色に染まっているであろう景色は、早くも暗闇に飲まれようとしている。
そしてその悪天候が、一人の少年の足取りを鈍らせ、その心をじわじわと侵食していた。
最初は、ただのかくれんぼだった。
だが子供特有の好奇心が、彼らを森へと向かわせた。
彼は反対した。しかし、自らの意見を主張して、一人だけ仲間はずれにされるのは怖かった。
結局仲間と森に向かい、隠れ場所を探しているうちに、気づけば帰り道がわからなくなっていた。鬼役にも出会えず、道のわからない森の中、一人だった。
そうして、元々機嫌のあまり良くなかった空が堪え切れずに、雨を降らし始めた。
「はあっ、はあっ」
心がどれだけ焦っても、水気をまとい始めた地面が足取りを鈍らせる。
細い雨は枝葉の隙間を抜けて落ちてくる。それは服にまとわりつき、体を重くさせた。
心細かった。
お母さん、お父さん、と心の中で呼んでみる。
実際に声に出しそうになった。でも言ってしまったら余計に寂しくなりそうで、こらえた。
どちらに向かっているかすら、もうわからない。ただ、里があるだろう方角をあてずっぽうに定め、歩いているだけ。たどり着ける確証もない。立ち並ぶ木々の幹が、張り出した根が、直進することすら妨げる。
ふと、無謀な案を押し通した友人たちの顔がよぎる。彼らはもうみんな里に帰ることができたのだろうか。憎んでいるわけではないが、多少恨めしく思う気持ちはある。帰ったらなにか一言言ってやらなければ気がすまない。
……そのためには、まず無事に森を抜けなければ。
悲しさと、心細さと、多少の恨めしい気持ちを抱いて、歩き続ける。
生い茂る木々の隙間から落ちてくる雨粒が、増えた気がする。
道は未だに見えない。
せめてこの雨さえ止んでくれれば。月明かりが、道を示してくれれば。
この時ほど、雨を恨んだことはないだろう。
希望を失いかけた眼で周囲を見渡す。なにか見えないだろうか。
そのとき、首を巡らす彼の眼が、かすかな明かりを捕らえた。前方の木々の隙間が、わずかに明るい。どうやらそちらは多少なりとも拓けているらしい。完全な暗闇になる前の、厚い雲の向こうから届いたわずかな光。もしかしたら、道に出ることができるかもしれない。
湿った枯葉を踏み潰し、そちらを目指す。暗闇に慣れた眼は、そのわずかな光度の変化を、しかし大きく捕らえた。あともう少し。
やがて、視界が開けた。
思わず目を見開く。
その光景に、息を呑んで立ち尽くす。
そこにあったのは、小さな池。
雲によって弱められたわずかな光が、木々にさえぎられずに水面まで届き、明るく見えたのだとわかった。鈍色の空を映した水面が雨滴を受け幾つもの波紋を描き、光は乱反射している。
だが、心を捉えたのはその風景ではない。
その池には、先客がいた。
晴れ渡った空のような色をした服を着て、その可憐な姿には似合わないような大きな紫色の傘を携えた、少女。
少女は踊っていた。
水面を跳ね、
飛び、
滑り、
飛び上がり、
宙返り。
そのすべての所作が美しく、無駄が無く、優雅だった。
動けない。
少女の舞を、そしてその瞳を見てしまったから。
透き通るような、それは二つの宝石にも似たオッドアイ。
その瞳に吸い込まれるように、魅了された。
疎ましく思っていた雨を、彼女は心から楽しんでいるようだった。惚れ惚れするような笑みで、雨を全身で受け止めていた。
やがて、舞が終わる。
どういう仕組みか、波紋も立てずに水面に立つと、彼女は静かに傘を差した。その所作は、先ほどまでの優雅で軽やかな運動とは反対に、成熟した女性のそれだった。
そして、少女がゆっくりと、振り向いた。
「あら」
動けない。ただ少女を見つめることしかできない。
「う~ら~め~し~や~?」
彼女は突然、そんなお化けみたいな発言をした。首を軽くかしげ、その外見に良く似合う、あどけない笑みで。
沈黙。
突然のことに、何も反応できない。
この少女はお化けなのか? 唖然とした頭にそんな考えがよぎる。だが、幽霊なら足がないはずだ。幽霊ではないだろう。
しかしどうにしろ人間でないことに違いは無い。危険な妖怪だろうか? そうかもしれない。でも、この可憐な少女が、人を襲う姿が想像できなかった。
「うーん、やっぱり驚かないのね。しくしく」
反応を返せずにいると、今度は突然悲しむそぶりを見せた。幼い少女のようだった。本当に、表情も仕草もころころと変わる。
女の子を悲しませてはいけない。ふと、そんな親の言葉を思い出した。
だから、なんとか慰めようとした。
緊張で固まった喉から声を絞り出す。
「お、驚いたよ」
うえーんうえーんと大げさな声をあげていた少女は突然こちらを向き、動きを止めた。
「本当?」
「ほ、本当だよ。あんまりにも奇麗だったから……」
上目遣いのオッドアイを向けられた衝撃で、つい余計なことまで口走ってしまう。何を言っているんだ自分は。
次は、少女が驚く番だった。
ぽかんと口を開ける。しばらくすると、その口の形は笑みへと変わっていった。
「思いがけず嬉しいことをいわれてしまったわ」
にこにこ笑いながら、一歩一歩、池のほとりへと歩いてくる。ほんの数歩のところまで近づかれて、心拍数がどんどんと高くなっていくのが自覚できる。
「ところで、素敵な少年君は、こんなところでどうしたのかしら。人間の子供が来るような場所でも時間でもないわよ?」
「……かくれんぼで、道に迷った」
意見を主張できなかった自らのふがいなさを露呈する言葉。恥ずかしかった。笑われると思った。
「そうなの。大変ね。気をつけないとだめよ?」
しかし少女は笑わずにいてくれた。だから、素直に答えることができた。
「……うん」
空を見上げ、少女は考え込む姿勢を取る。もう夜だった。相手の顔も、段々暗闇に隠されて見えづらくなってきている。
「じゃあ、素敵な少年君には特別だ」
そう言うと彼女は、突然背後に回りこみ、片手で抱きかかえてきた。余りに突然すぎて、声も出ない。
「私が里まで送っていってあげよう」
片手に少年を抱え、反対の手に開いた傘を掲げた少女は、その姿勢のままふわりと浮かび上がった。自分の足が地面から離れる浮遊感に恐怖を感じたが、少女の腕の力は強く、落ちることはなさそうだ。見た目とは裏腹に、すごい力だった。やはり妖怪らしい。
そのまま木々の高さを越えると、里の方角へと飛び始める。
「ゆっくり行くからね、安心してて良いよ。空の旅をご堪能あれ~」
楽しそうな少女の声。抱えられている状態ではその顔は見えないが、きっとさっき見せてくれた素敵な笑顔を浮かべているのだろう。
しばらくして恐怖感も薄れると、今度は恥ずかしくなってきた。
背中には少女の小ぶりな膨らみが押し付けられ、耳元には流れる空気に混じり、微かな吐息がかかる。そして、母とも違う、若い女性の香りが、少年の鼻をくすぐる。真っ暗闇の中だが、きっと顔は真っ赤になっているだろうと思った。
早く降ろして欲しい。でもこのままでいたい気もする。なんとも言えない妙な気分だった。
そのままどれくらい飛んだだろうか。眼下の森は途切れ、見覚えのある道と、遠くに里の明かりが見えてきた。
少女は里の入り口近く目掛けてゆっくりと降下すると、最後に一度ホバリングし、地面に降り立った。
「はい、到着~」
背中から少女の体が離れる。自分の足で大地を踏みしめている安心感と、少女の体から離れてしまった悲しさ。恥ずかしくはなくなったけれど、少し寂しい。
振り向いて、少女の顔を見る。やはり、変わらない素敵な笑顔だった。
「ありがとう、ございます」
「いやいや、お礼なんて良いよ、恥ずかしいしね」
そういって視線を逸らす少女。一つ一つの仕草が、いちいち愛らしい。
「じゃあ、早く家に帰ってお母さんとお父さんを安心させてあげるんだよ」
「うん……」
家に無事帰れることは嬉しい。でも、少女と別れるのは嫌だった。だから、また飛び上がろうとした少女に、声を掛けた。
「ねえ、また……会える?」
「縁があれば、きっと」
少し高い位置に浮かびながら、少女は答える。
そして、満面の笑みを浮かべて、言った。
「次は絶対驚かせてあげるからね!」
その手を細い腰に当て、胸を張って。
そうして、少女は夜の闇へと、消えていった。
少年はその後姿が見えなくなってもしばらく、闇の彼方を見つめていた。
少年が帰ってこないことで、近所中は大騒ぎになっていたらしい。
とぼとぼと歩いて帰ると、大泣きする両親に抱きしめられ、かと思うと勝手な行動を叱られ、さらに熱い風呂へと叩き込まれた。
次の日には、寺子屋で仲間と共に、先生に叱られた。先生の頭突きは痛かった。行動はさらにきつく制限され、里の外へもろくに出歩けなくなった。
あの夜に出会った傘の少女に会うことも、できなかった。
雨で家を出ることができない日は、いつも窓の外を眺める。
そして、彼女の舞を、笑みを思い出す。
少年は思う。
いつか、大きくなって。里の外へ出られるようになったら。
またあの少女に会いに行きたい。
どこにいるかもわからないけれど、あのときの『縁』を信じて。
きっと、素敵な方法で驚かせてくれるだろう。
こちらも驚かせる方法を今から考えておかなきゃ。
そして、いつか――
「あら、すてきな青年君」
変わらない笑顔。
「う~らめ~しやっ!」
少年の淡い淡い恋心…イイネ。とてもほのぼのしました。
かわええぞ、こ、こいつ