「ん?」
水橋パルスィはふと考えた。
自分の力で自分の嫉妬心を封じたらどうなるだろうか、と。
何故そんなことを考えたのかはわからないが、とにかくそう考えてしまったのだ。
いくら嫉妬心を操る力を持っているとはいえ、自分にもそれは効くのだろうか?
いや、できるはずだ……たぶん。
だが、それをやって成功したとしたら、嫉妬の嫉妬による嫉妬の為の妖怪たる水橋パルスィの存在意義は何処にいってしまうのか?
一度は何をバカなと思い直したが、それでも一度頭に浮かんだその考えが気になって、気になって仕方がなくなってしまった。
「ふむ……ちょっとやってみるか」
パルスィは結局その後も寝る直前まで考え続け、試してみることにした。正確には気になって眠れなかったのだが。
パルスィが力を込めると体が光だした。
「!?」
普段は自らの力を使う時はそんなことは起こったりしないのでパルスィは驚いた。
しかし、次の瞬間にはパルスィの意識は闇に消えていった。
「今日もいい天気~♪ ……地底だけど」
黒谷ヤマメが上機嫌に寝起きの散歩を始める。……ちなみに地上ではこの日は雨が降っている。
嫌われ者が多い地底の住人の中ではとても明るいため彼女は地底では結構人気がある。
道を歩いているとすれ違う者のほとんどから声をかけられる。
今日もすれ違う者から声をかけられていた。
が、今日はいつもとは違った。
「おはようございますわ」
「うん。おはよう」
聞き慣れた声の挨拶に何の違和感も持たずに挨拶をかえすヤマメ。
だが、その声の主を見たときヤマメは驚き、そして自らの目を疑った。
「パパパパパパパルパルパルパルスィ!?」
「はい。なんでしょう」
まず、ヤマメが驚く理由の一つとして普段はパルスィから話しかけてくることは全くと言っていいほどない。むしろ避けられていると言ってもいいくらいかもしれない。そのパルスィが話かけてきたのだ。
だが、それだけではそこまで驚くことではない。喜ぶべきことであるとヤマメは思うであろう。
問題なのはそのパルスィが、いつも苦虫を噛み潰したかのような顔をしているパルスィがにこやかな微笑みを浮かべて、優しい雰囲気を出して挨拶をしてきたことだ。
口調もいつもとは違い、とても丁寧で優しい。
「あー。これはあれね。夢ね。そうよ」
ヤマメは自分が見ている光景が現実とは信じられずに指で頬をつねってみる。が、一向に目は覚めない。
というか覚めるわけがない。なぜなら、もうすでにヤマメは起きていて、これは現実だから。
とうとうヤマメは壁に自らの頭を打ちつけ始める。人間(彼女は妖怪だが)は自分の脳内ではとても対応できない状況に陥ると、周りからは理解不能な行動を始めるものだ。
そんなヤマメをパルスィは慌てて止めにはいる。
「ど、どうしたのですか? ヤマメさん。そんな自分を傷つけるようなことをして。せっかくのかわいい顔が台無しですわよ」
「!? え? ええええ!?」
「一体どうしたというんですか?」
「あんたがどうしたんだあああああああああ!!」
普段のパルスィからは想像もできない言動によって思考回路が爆発する寸前までいっていたヤマメが一番したかった質問を逆にされてしまったことによりとうとう爆発してしまった。
こちらも普段のヤマメからは考えられないほどに荒れている。
パルスィの胸倉を掴み、振り回している。そのため、パルスィの首はガックンガックンと揺れている。
「ちょ、ちょっと。落ち着いてくださいよ」
「はっ!? ……ご、ごめんなさい。取り乱したわ」
「そうですか。心配しましたよ」
「……」
ようやく落ち着いたヤマメは改めてパルスィと思われる人物に目を向ける。
どこからどう見てもパルスィ本人にしかみえない。
ジロジロ見ていたのが不思議に思ったのだろうか、パルスィが首を傾けた。
「何ですか?」
「へっ!? い、いや別の何もないけど……あなた本当にパルスィ?」
「当たり前じゃないですか。見てわかりません?」
「いやー、その、いつものパルスィじゃないかなーって」
「え? やっぱりそう思いますか? 何だか私も私じゃないような気がしてるんですよ」
「記憶喪失?」
「えーと、違うと思いますけど……」
「う~ん」
「嫌ですか?」
「へ?」
「いつもと違う私は嫌ですか?」
「!? ああっ、泣かないで。嫌じゃない。嫌じゃないからね。お願いだからそんな目で私を見ないでぇ」
いきなり泣き始めるパルスィ。自分の存在を否定されたような気分にでもなったのだろうか。
全く想定外の状況にヤマメはオロオロするしかなかった。
しかし、急にパルスィが泣き止んで周囲をキョロキョロし始めた。
「どうしたの?」
「ニオイがする……わずかだけど嫉妬のニオイが……」
「えーと。そ、そう。よかったわね」
なんだかいつものパルスィに戻ったみたいなのでちょっと安心したヤマメだったが、そんなわけはない。
次の瞬間にそれを痛感することになる。
「よかったわね? よくないですよっ! 嫉妬なんて醜い感情この世にあってはいけないのですよ。それがどんなに小さくてもっ!」
「!? あ、あのー、つかぬ事を聞きますが、あなたは嫉妬を操る妖怪ですよね。パルスィさん?」
「そうですよ。私の力はこの世から嫉妬をなくす為に与えられた力なのですよ。ですからその使命をまっとうしなければならないのですっ!」
「は、はあ」
拳を握り、ヤル気を前面に出すパルスィ。
そんなパルスィの様子を見ていよいよこれは自分の手におえる状況じゃなくなってきたと思い始めた。まあ、最初から自分で解決できそうだとは思っていないだろうが。
するとそこにキスメがやって来た。随分とタイミングが悪い時に来るものだ。……いや、良いのか?
「……おはよう、ヤマメ」
「ん? あ、おっはよー」
「……」
キスメとヤマメが挨拶をし合う中、パルスィが厳しい目付きでキスメを見ていた。
当然見られているキスメはそれに気付く。
「……何?」
「し、嫉妬の発信元はあなただったんですね!」
「……確かに私は暗いかもしれないけど、周囲をジメジメさせるほどじゃないと思うわ」
「うん、確かにジメジメはしてませんね……ってそれは湿気ですよ」
「……炎症等を起こした患部に貼る」
「それは湿布!」
「……取り舵いっぱ~い」
「それはシップ! SHIP。船です。私が言ってるのは嫉妬です」
「……はい。座りま~す」
「あなたワザとやっているでしょう?」
「……」
「ちょ、ちょっと待って。パルスィはキスメが誰かに嫉妬しているって言うの?」
「そうですよ」
「そ、そんなわけないじゃない。キスメは確かに引っ込み思案だけど、本当に優しい子なのよ」
「それでも意思があるかぎり、感情があるかぎり、嫉妬というものは生まれるのです」
「でもさ」
「大丈夫です。私が何とかします」
そう言うとパルスィはキスメの方を向いた。
するとキスメの体が光だした。
「……え? え? 何?」
「大丈夫です。危害を加えるようなことはしてませんので」
しばらくするとキスメの体の光はなくなり元に戻ったが、特に何か変わった様子もなかった。
……とヤマメが思ったのが一瞬前の話であり、今は目の前で起きていることに今日何度目かの驚きを感じていた。
「……ヤマメ。ごめんなさい」
なんとキスメが涙目で見上げてきたと思ったら、頭を下げて謝り始めたのだ。
突然の事態に戸惑うヤマメ。
「えっと……。別にキスメは謝ることはしてないと思うけど?」
取り合えず今思っていることを言ってみた。
何にせよ何故キスメが謝ってきたのかがわからないことには対応できない
「……私、心の中ではどこかヤマメを妬んでいたの」
「え……」
「…………ヤマメはいつも明るくて、皆から好かれていて……」
「キスメ……」
「…………いつも話していても心の中ではあなたのことを妬ましく思っていたのよ」
「え、と……」
「……ごめんなさいっ!」
「あ、ちょっと……」
キスメはどこかに飛んでいってしまった。
「行っちゃった」
「行っちゃいましたね」
「……パルスィ、あなた何したの?」
「彼女の中に存在していた嫉妬心をなくしました」
「ははは……」
ヤマメは思った。『もう誰でもいいから助けてください。三百文あげるから』と。
「ん? そこにいるのは土蜘蛛と橋姫じゃないか」
そこに鬼である星熊勇儀が現れた。
ヤマメは救世主が降臨したように思えてならなかった。
「星熊の姐さん。助けてください!」
「んん?」
「パルスィが、パルスィが……違っていて、パルパルがいつもと取り除くんです!」
「ああん!? 意味不明なんだが」
「え、えーと。その、取り合えずパルスィがいつもと違うんです」
「どう違うのさ」
「それは……」
ヤマメが勇儀に今日パルスィに出会ってからの出来事を説明する。
説明が進んでいくごとに勇儀の頭の中に『?』が増えていく。ヤマメの説明が要領を得ないこともあるが、それよりもパルスィの変貌ぶりに驚きを隠しえないようである。
ちなみに説明している間にパルスィは何処かに行ってしまったのだが、二人はそれに気付かなかった。
「ふ~む。これはアレだな。ホワスィということか?」
「ホ…ワ……?」
「ホワイト・パルスィ。つまりホワスィだ」
「はぁ? 何だか西○ドームでボールを投げていそうな名前ですね」
「ん? 何だその○武ドームというのは」
「え!? えーと……わかりません。何だか突然頭に浮かんできたものですから」
「むっ。それよりパルスィは何処へ行った?」
「あれ? そういえば……」
ここでようやく二人はパルスィが居なくなっていることに気付いた。
パルスィの様子を見たことがない勇儀はともかく、今まで散々その変わった状況を見てきたヤマメには早く見つけないと想像以上に大事になる可能性があると思えてならなかった。
だが、そんな心配も必要なかったらしい。パルスィがこちらに向かってくるのが二人からも見えた。
「パルスィ! 何処に行ってたの?」
「ちょっと、嫉妬のニオイがそこら中でしたものだから……ん?」
「どうしたの?」
「あなた……そこにいる鬼からもニオイがします」
「私か?」
「そうです。失礼ですがあなたの心の奥底に眠る嫉妬を消させてもらいます」
「ふむ。面白いことを言うね……私が誰かに嫉妬しているって? 生憎私はそんな感情を抱いたことはないね」
「……ヤマメさんにも言いましたが、本能のみで生きているそこら辺の動物と違い、意思があるかぎり、感情があるかぎり、嫉妬というものは生まれてくるものなのです。それが例え無自覚のものだったとしても……」
「かっかっかっ! そこまで言うのならやってみなっ!」
「では……」
パルスィがそう言うと、勇儀の体が光だした。
「お? おお?」
そして勇儀の体から光が消えた。
「!? 謝りに行かねば…、萃香に謝りに行かねば……」
「ど、どうしたんですか!? 星熊の姐さん」
「わ、私は……地上に行ってあの強い巫女達といられる萃香をどこかで妬ましく思っていたんだ。うおー! 萃香! 今謝りに行くぞ!」
勇儀は途轍もない勢いで走り去って行った。
後に残されたのは良いことをした、と笑顔になっているパルスィと、もうどうにでもなれと思い始めたヤマメだった。
「行っちゃたね」
「行っちゃいましたね」
「一つ聞いていい?」
「なんでしょう」
「あのさ、キスメといい、星熊の姐さんといい、何で真っ先に謝るの一言が出てくるの?」
「ああ、それはですね。私の力がまだ未熟なせいか、本人が嫉妬を抱いていた対象の者に謝らなければ完全に嫉妬心が消えないのですよ」
「へー、そーなのかー」
「ですから、ヤマメさんにはちょっと協力してもらいますよ」
「え!? どういうこと?」
にこやかにトンデモナイことを言い出すパルスィの言葉に顔が真っ青になるヤマメ。
嫌な予感しか沸いてこない。さっき心配する必要はなかったと思ったがそれは取り消し。取り消しますから何にも起こらないでえ! というのが現在のヤマメの心の叫びである。
「ほら、来た来た」
「へ?」
パルスィが指を指した方向を見てみると大量の妖怪達がこちらを目指して来ているようだ。
「ね、ねえパルスィ。あれは何?」
何とな~くどういうことなのかは理解していながら、それでもそれがハズレていてほしいという一縷の望みを抱いてパルスィに聞いてみる。
「あれはあなたに謝りにきている連中でしょうね」
「やっぱり……」
「あなたは地底では人気者ですからね、人気者は妬まれる。当然のことです」
「私はそんな人気者になんてなった覚えはなーい!」
叫びながら人だかり……もとい、妖怪だかりから逃げ出すヤマメ。
「あ、ちょっと、待ちなさい」
それを追いかけるパルスィ。
「ヤマメちゃーん。待ってー。謝らせてくれー」
「ヤマメー。ごめんねー」
「ヤマメー」
さらにその後ろに続く妖怪達。
この鬼ごっこは二時間以上続いたらしい。
「はあはあ……ここまで来れば……」
激闘の末にヤマメが辿り着いた場所は地上であった。
「ふふ、いくらなんでも私が地上に逃げるとは思うまい」
「そうなの?」
「ひゃあ!?」
安心しきっていたところに急に声をかけられたので必要以上に驚いてしまった。
「な、なんだ、パルスィか。驚かせないでよね」
「なんだ……じゃないですよ。皆はあなたに謝りたがっていたのに何で逃げるんですか?」
「あのねぇ……あんなに人数に一気に来られちゃ誰でも逃げると思うけど」
「そう?」
「そうよっ!」
前述の通り地上では雨が降っている。
長らく地底にいた二人にとっては雨が体に当たる感覚も新鮮に思えるだろう。
「ふーむ。何かいいわね」
「そうですね……ん?」
「どうしたの?」
「ニオイ……ニオイがする。凄まじい嫉妬のニオイがするっ!」
「ああ……またか………」
段々慣れてきたらしい。ヤマメも随分と落ち着いてきた。
「いってらっしゃ~い」
「え? 一緒に来てくれないんですか?」
「何で私が一緒に行かなきゃいけないの? 私はさっきの追いかけっこで疲れてるのよ」
「そ、そんな~。一緒にこの世の嫉妬を無くすって約束したじゃないですか」
「何時、何処で、そんな約束したかしら!?」
「……とにかく行きますよ」
「はぁ」
パルスィの先導で辿り着いたのは博麗神社であった。
「ちょ、ちょっと。ここって神社じゃないの? 見付かったら退治されちゃうよ」
「見付からないようにすればいいんですよ」
地底にいたためか、ここの巫女は仕事をしないことを知らない二人は細心の注意を払って進んでいく。
そして、誰にも見付からずに裏の森に辿り着いた。
「ここから物凄く強い嫉妬のニオイがしますよ」
「ふーん。誰かがいるようには思えないいんだけど」
二人が奥に進んでいくと、人影が見えた。
何かで木を叩いているようであるが、よく見えない。二人は近づいてみることにした。
「……消えろ………紫もやしも、機械狂の河童も、消えなさい」
何やら恐ろしいことをブツブツ言いながら、藁人形に釘を打ち付けている。
「……ね、ねえ、パルスィ。帰りましょう。私なんだか怖くなってきたわ」
「大丈夫ですよ。人間話せばわかってくれます」
「いや、人間じゃないし……私達もあの人も」
「誰!?」
帰るか、帰らないかで言い合っていたら気付かれたようだ。
「出てきなさい!」
「あ~、どうも~」
出て来いと言われて素直に出て行く二人。
「見たわね?」
「ええ!? 見てないです。見えてないです。だから私達はこれにて失礼します」
「ヤマメさん。嘘はいけないですよ。あなたが何をしていたのかもわかりますし、ずっと見てました」
「そう見られたのね……また、やり直さないといけないじゃない! これ誰かに見られちゃ効果なしなのよ! ちょっと! 聞いてるの!?」
「大丈夫です。もうその必要はなくなりますんで」
「? どういう意味?」
「つまり、あなたがこんなことする理由がなくなるってことですよ」
「!?」
その人物、アリス・マーガトロイドの体が光った。
「くっ」
なんだかいつもよりも長い気がする。パルスィもちょっとつらそうだ。
だが、やがてアリスの体から光は消えていった。
「……私なんてことをしてたのかしら。謝ってこなくちゃ」
アリスはふらふらと飛んでいった。
「ふぅ。あの人は強敵でしたわ」
「そ、そう」
「さ、行きましょう」
「行くって、何処に?」
「まだまだこの世界は嫉妬で溢れています。その全てを消すまで私達の戦いは続くのですっ!」
「……」
ヤマメは『私はどうせ出来ることなんてないし、巻き添え食らうのも嫌だから帰りたいな』と思ったが、よくよく考えると帰ったとしたら謝られ地獄が待っているのでこのまま付いて行くことにした。
その後は紅魔館というところに行ったり、人里に行ったり、冥界まで行ったり、なんと天界まで行ったのだから徹底している。
そして幻想郷は家から一歩出ると、誰かが誰かに謝っているのを目撃するのが当たり前な世界となってしまったのだった。
そうなるまでかかった期間はわずか二日であった。
しばらくすると、この事態を異変であると認識した博麗霊夢が動き出した。
そして、今、水橋パルスィと黒谷ヤマメのまえにいる。
「あんた等ね。訳わからないことしているのは」
「訳わからないことじゃないですよ。この世界を平和へと導く行為です」
「あっそう。何にせよ迷惑なのよ。四六時中謝られに来られちゃ。ロクにご飯も食べられないわ」
「それはあなたを妬んでいる人が多いっていうことですよ」
「私は他人から妬まれるようなことをした覚えはないわ」
「本人がそうした覚えはなくても嫉妬というものは生まれるものです」
「ふんっ! なんにせよ、あんた等を倒したらこの事態は収まるということね」
霊夢が戦闘態勢に入り、パルスィも構える。
ヤマメはというと、
「ううぅぅ、帰りたい……」
「帰えればいいじゃない」
「帰れないんです! 帰りたくても向こうは謝られ地獄なんです!」
「そ、そう。気の毒ね。まあ、あんたも一緒に退治してあげるから大人しくしてなさい」
霊夢が今にも行動を起こそうとした時、パルスィが何かに気付いた。
「あれ? ニオイがする。ニオイますよ」
「は? ……ちょっとおおおおおお! 私の腋がそんなに臭うっていうの!?」
パルスィは嫉妬のニオイがすると言ったのだが、この腋巫女は何を勘違いしたのか過剰反応をし始めた。
「!?」
飛び掛ろうとした霊夢だったが、突然霊夢の体が光始めた。
「あなたも謝りにいきなさい」
「へ?」
パルスィがにっこりと笑うのと同時に霊夢の体の光が消えた。
「……そうよね。お賽銭が入らないのは私自身のせいだもんね。そんな小さなことで嫉妬しちゃいけないわよね。ごめんね早苗。今謝りに行くわっ!」
霊夢は飛んでいった。
「ラスボスクリアですね」
「はは……ん? そういえば」
ここでヤマメはあることに気付いた。
出会う人、出会う妖怪、全てに反応していたのに何故自分には反応しないのか。記憶が正しければ誰かに嫉妬したことが無いわけではない。
「ねえ、パルスィ。私からは嫉妬のニオイはしないの?」
「え? しますよ」
「じゃあなんで……」
「取り合えず、あなたに謝る者を全部処置してからと思っていたのですが、そういえばもう良さげですね」
聞くんじゃなった~。とヤマメが思っても後の祭りである。
ヤマメの体が光だし、その光が消えた時、ヤマメの意識は薄れていった……。
こうして幻想郷から嫉妬というものは消えた。新たに生まれてもすぐにパルスィが消しにやってくる。
そして幻想郷は誰も誰かを妬むことなんてない平和な場所になったとさ。
水橋パルスィはふと考えた。
自分の力で自分の嫉妬心を封じたらどうなるだろうか、と。
何故そんなことを考えたのかはわからないが、とにかくそう考えてしまったのだ。
いくら嫉妬心を操る力を持っているとはいえ、自分にもそれは効くのだろうか?
いや、できるはずだ……たぶん。
だが、それをやって成功したとしたら、嫉妬の嫉妬による嫉妬の為の妖怪たる水橋パルスィの存在意義は何処にいってしまうのか?
一度は何をバカなと思い直したが、それでも一度頭に浮かんだその考えが気になって、気になって仕方がなくなってしまった。
「ふむ……ちょっとやってみるか」
パルスィは結局その後も寝る直前まで考え続け、試してみることにした。正確には気になって眠れなかったのだが。
パルスィが力を込めると体が光だした。
「!?」
普段は自らの力を使う時はそんなことは起こったりしないのでパルスィは驚いた。
しかし、次の瞬間にはパルスィの意識は闇に消えていった。
「今日もいい天気~♪ ……地底だけど」
黒谷ヤマメが上機嫌に寝起きの散歩を始める。……ちなみに地上ではこの日は雨が降っている。
嫌われ者が多い地底の住人の中ではとても明るいため彼女は地底では結構人気がある。
道を歩いているとすれ違う者のほとんどから声をかけられる。
今日もすれ違う者から声をかけられていた。
が、今日はいつもとは違った。
「おはようございますわ」
「うん。おはよう」
聞き慣れた声の挨拶に何の違和感も持たずに挨拶をかえすヤマメ。
だが、その声の主を見たときヤマメは驚き、そして自らの目を疑った。
「パパパパパパパルパルパルパルスィ!?」
「はい。なんでしょう」
まず、ヤマメが驚く理由の一つとして普段はパルスィから話しかけてくることは全くと言っていいほどない。むしろ避けられていると言ってもいいくらいかもしれない。そのパルスィが話かけてきたのだ。
だが、それだけではそこまで驚くことではない。喜ぶべきことであるとヤマメは思うであろう。
問題なのはそのパルスィが、いつも苦虫を噛み潰したかのような顔をしているパルスィがにこやかな微笑みを浮かべて、優しい雰囲気を出して挨拶をしてきたことだ。
口調もいつもとは違い、とても丁寧で優しい。
「あー。これはあれね。夢ね。そうよ」
ヤマメは自分が見ている光景が現実とは信じられずに指で頬をつねってみる。が、一向に目は覚めない。
というか覚めるわけがない。なぜなら、もうすでにヤマメは起きていて、これは現実だから。
とうとうヤマメは壁に自らの頭を打ちつけ始める。人間(彼女は妖怪だが)は自分の脳内ではとても対応できない状況に陥ると、周りからは理解不能な行動を始めるものだ。
そんなヤマメをパルスィは慌てて止めにはいる。
「ど、どうしたのですか? ヤマメさん。そんな自分を傷つけるようなことをして。せっかくのかわいい顔が台無しですわよ」
「!? え? ええええ!?」
「一体どうしたというんですか?」
「あんたがどうしたんだあああああああああ!!」
普段のパルスィからは想像もできない言動によって思考回路が爆発する寸前までいっていたヤマメが一番したかった質問を逆にされてしまったことによりとうとう爆発してしまった。
こちらも普段のヤマメからは考えられないほどに荒れている。
パルスィの胸倉を掴み、振り回している。そのため、パルスィの首はガックンガックンと揺れている。
「ちょ、ちょっと。落ち着いてくださいよ」
「はっ!? ……ご、ごめんなさい。取り乱したわ」
「そうですか。心配しましたよ」
「……」
ようやく落ち着いたヤマメは改めてパルスィと思われる人物に目を向ける。
どこからどう見てもパルスィ本人にしかみえない。
ジロジロ見ていたのが不思議に思ったのだろうか、パルスィが首を傾けた。
「何ですか?」
「へっ!? い、いや別の何もないけど……あなた本当にパルスィ?」
「当たり前じゃないですか。見てわかりません?」
「いやー、その、いつものパルスィじゃないかなーって」
「え? やっぱりそう思いますか? 何だか私も私じゃないような気がしてるんですよ」
「記憶喪失?」
「えーと、違うと思いますけど……」
「う~ん」
「嫌ですか?」
「へ?」
「いつもと違う私は嫌ですか?」
「!? ああっ、泣かないで。嫌じゃない。嫌じゃないからね。お願いだからそんな目で私を見ないでぇ」
いきなり泣き始めるパルスィ。自分の存在を否定されたような気分にでもなったのだろうか。
全く想定外の状況にヤマメはオロオロするしかなかった。
しかし、急にパルスィが泣き止んで周囲をキョロキョロし始めた。
「どうしたの?」
「ニオイがする……わずかだけど嫉妬のニオイが……」
「えーと。そ、そう。よかったわね」
なんだかいつものパルスィに戻ったみたいなのでちょっと安心したヤマメだったが、そんなわけはない。
次の瞬間にそれを痛感することになる。
「よかったわね? よくないですよっ! 嫉妬なんて醜い感情この世にあってはいけないのですよ。それがどんなに小さくてもっ!」
「!? あ、あのー、つかぬ事を聞きますが、あなたは嫉妬を操る妖怪ですよね。パルスィさん?」
「そうですよ。私の力はこの世から嫉妬をなくす為に与えられた力なのですよ。ですからその使命をまっとうしなければならないのですっ!」
「は、はあ」
拳を握り、ヤル気を前面に出すパルスィ。
そんなパルスィの様子を見ていよいよこれは自分の手におえる状況じゃなくなってきたと思い始めた。まあ、最初から自分で解決できそうだとは思っていないだろうが。
するとそこにキスメがやって来た。随分とタイミングが悪い時に来るものだ。……いや、良いのか?
「……おはよう、ヤマメ」
「ん? あ、おっはよー」
「……」
キスメとヤマメが挨拶をし合う中、パルスィが厳しい目付きでキスメを見ていた。
当然見られているキスメはそれに気付く。
「……何?」
「し、嫉妬の発信元はあなただったんですね!」
「……確かに私は暗いかもしれないけど、周囲をジメジメさせるほどじゃないと思うわ」
「うん、確かにジメジメはしてませんね……ってそれは湿気ですよ」
「……炎症等を起こした患部に貼る」
「それは湿布!」
「……取り舵いっぱ~い」
「それはシップ! SHIP。船です。私が言ってるのは嫉妬です」
「……はい。座りま~す」
「あなたワザとやっているでしょう?」
「……」
「ちょ、ちょっと待って。パルスィはキスメが誰かに嫉妬しているって言うの?」
「そうですよ」
「そ、そんなわけないじゃない。キスメは確かに引っ込み思案だけど、本当に優しい子なのよ」
「それでも意思があるかぎり、感情があるかぎり、嫉妬というものは生まれるのです」
「でもさ」
「大丈夫です。私が何とかします」
そう言うとパルスィはキスメの方を向いた。
するとキスメの体が光だした。
「……え? え? 何?」
「大丈夫です。危害を加えるようなことはしてませんので」
しばらくするとキスメの体の光はなくなり元に戻ったが、特に何か変わった様子もなかった。
……とヤマメが思ったのが一瞬前の話であり、今は目の前で起きていることに今日何度目かの驚きを感じていた。
「……ヤマメ。ごめんなさい」
なんとキスメが涙目で見上げてきたと思ったら、頭を下げて謝り始めたのだ。
突然の事態に戸惑うヤマメ。
「えっと……。別にキスメは謝ることはしてないと思うけど?」
取り合えず今思っていることを言ってみた。
何にせよ何故キスメが謝ってきたのかがわからないことには対応できない
「……私、心の中ではどこかヤマメを妬んでいたの」
「え……」
「…………ヤマメはいつも明るくて、皆から好かれていて……」
「キスメ……」
「…………いつも話していても心の中ではあなたのことを妬ましく思っていたのよ」
「え、と……」
「……ごめんなさいっ!」
「あ、ちょっと……」
キスメはどこかに飛んでいってしまった。
「行っちゃった」
「行っちゃいましたね」
「……パルスィ、あなた何したの?」
「彼女の中に存在していた嫉妬心をなくしました」
「ははは……」
ヤマメは思った。『もう誰でもいいから助けてください。三百文あげるから』と。
「ん? そこにいるのは土蜘蛛と橋姫じゃないか」
そこに鬼である星熊勇儀が現れた。
ヤマメは救世主が降臨したように思えてならなかった。
「星熊の姐さん。助けてください!」
「んん?」
「パルスィが、パルスィが……違っていて、パルパルがいつもと取り除くんです!」
「ああん!? 意味不明なんだが」
「え、えーと。その、取り合えずパルスィがいつもと違うんです」
「どう違うのさ」
「それは……」
ヤマメが勇儀に今日パルスィに出会ってからの出来事を説明する。
説明が進んでいくごとに勇儀の頭の中に『?』が増えていく。ヤマメの説明が要領を得ないこともあるが、それよりもパルスィの変貌ぶりに驚きを隠しえないようである。
ちなみに説明している間にパルスィは何処かに行ってしまったのだが、二人はそれに気付かなかった。
「ふ~む。これはアレだな。ホワスィということか?」
「ホ…ワ……?」
「ホワイト・パルスィ。つまりホワスィだ」
「はぁ? 何だか西○ドームでボールを投げていそうな名前ですね」
「ん? 何だその○武ドームというのは」
「え!? えーと……わかりません。何だか突然頭に浮かんできたものですから」
「むっ。それよりパルスィは何処へ行った?」
「あれ? そういえば……」
ここでようやく二人はパルスィが居なくなっていることに気付いた。
パルスィの様子を見たことがない勇儀はともかく、今まで散々その変わった状況を見てきたヤマメには早く見つけないと想像以上に大事になる可能性があると思えてならなかった。
だが、そんな心配も必要なかったらしい。パルスィがこちらに向かってくるのが二人からも見えた。
「パルスィ! 何処に行ってたの?」
「ちょっと、嫉妬のニオイがそこら中でしたものだから……ん?」
「どうしたの?」
「あなた……そこにいる鬼からもニオイがします」
「私か?」
「そうです。失礼ですがあなたの心の奥底に眠る嫉妬を消させてもらいます」
「ふむ。面白いことを言うね……私が誰かに嫉妬しているって? 生憎私はそんな感情を抱いたことはないね」
「……ヤマメさんにも言いましたが、本能のみで生きているそこら辺の動物と違い、意思があるかぎり、感情があるかぎり、嫉妬というものは生まれてくるものなのです。それが例え無自覚のものだったとしても……」
「かっかっかっ! そこまで言うのならやってみなっ!」
「では……」
パルスィがそう言うと、勇儀の体が光だした。
「お? おお?」
そして勇儀の体から光が消えた。
「!? 謝りに行かねば…、萃香に謝りに行かねば……」
「ど、どうしたんですか!? 星熊の姐さん」
「わ、私は……地上に行ってあの強い巫女達といられる萃香をどこかで妬ましく思っていたんだ。うおー! 萃香! 今謝りに行くぞ!」
勇儀は途轍もない勢いで走り去って行った。
後に残されたのは良いことをした、と笑顔になっているパルスィと、もうどうにでもなれと思い始めたヤマメだった。
「行っちゃたね」
「行っちゃいましたね」
「一つ聞いていい?」
「なんでしょう」
「あのさ、キスメといい、星熊の姐さんといい、何で真っ先に謝るの一言が出てくるの?」
「ああ、それはですね。私の力がまだ未熟なせいか、本人が嫉妬を抱いていた対象の者に謝らなければ完全に嫉妬心が消えないのですよ」
「へー、そーなのかー」
「ですから、ヤマメさんにはちょっと協力してもらいますよ」
「え!? どういうこと?」
にこやかにトンデモナイことを言い出すパルスィの言葉に顔が真っ青になるヤマメ。
嫌な予感しか沸いてこない。さっき心配する必要はなかったと思ったがそれは取り消し。取り消しますから何にも起こらないでえ! というのが現在のヤマメの心の叫びである。
「ほら、来た来た」
「へ?」
パルスィが指を指した方向を見てみると大量の妖怪達がこちらを目指して来ているようだ。
「ね、ねえパルスィ。あれは何?」
何とな~くどういうことなのかは理解していながら、それでもそれがハズレていてほしいという一縷の望みを抱いてパルスィに聞いてみる。
「あれはあなたに謝りにきている連中でしょうね」
「やっぱり……」
「あなたは地底では人気者ですからね、人気者は妬まれる。当然のことです」
「私はそんな人気者になんてなった覚えはなーい!」
叫びながら人だかり……もとい、妖怪だかりから逃げ出すヤマメ。
「あ、ちょっと、待ちなさい」
それを追いかけるパルスィ。
「ヤマメちゃーん。待ってー。謝らせてくれー」
「ヤマメー。ごめんねー」
「ヤマメー」
さらにその後ろに続く妖怪達。
この鬼ごっこは二時間以上続いたらしい。
「はあはあ……ここまで来れば……」
激闘の末にヤマメが辿り着いた場所は地上であった。
「ふふ、いくらなんでも私が地上に逃げるとは思うまい」
「そうなの?」
「ひゃあ!?」
安心しきっていたところに急に声をかけられたので必要以上に驚いてしまった。
「な、なんだ、パルスィか。驚かせないでよね」
「なんだ……じゃないですよ。皆はあなたに謝りたがっていたのに何で逃げるんですか?」
「あのねぇ……あんなに人数に一気に来られちゃ誰でも逃げると思うけど」
「そう?」
「そうよっ!」
前述の通り地上では雨が降っている。
長らく地底にいた二人にとっては雨が体に当たる感覚も新鮮に思えるだろう。
「ふーむ。何かいいわね」
「そうですね……ん?」
「どうしたの?」
「ニオイ……ニオイがする。凄まじい嫉妬のニオイがするっ!」
「ああ……またか………」
段々慣れてきたらしい。ヤマメも随分と落ち着いてきた。
「いってらっしゃ~い」
「え? 一緒に来てくれないんですか?」
「何で私が一緒に行かなきゃいけないの? 私はさっきの追いかけっこで疲れてるのよ」
「そ、そんな~。一緒にこの世の嫉妬を無くすって約束したじゃないですか」
「何時、何処で、そんな約束したかしら!?」
「……とにかく行きますよ」
「はぁ」
パルスィの先導で辿り着いたのは博麗神社であった。
「ちょ、ちょっと。ここって神社じゃないの? 見付かったら退治されちゃうよ」
「見付からないようにすればいいんですよ」
地底にいたためか、ここの巫女は仕事をしないことを知らない二人は細心の注意を払って進んでいく。
そして、誰にも見付からずに裏の森に辿り着いた。
「ここから物凄く強い嫉妬のニオイがしますよ」
「ふーん。誰かがいるようには思えないいんだけど」
二人が奥に進んでいくと、人影が見えた。
何かで木を叩いているようであるが、よく見えない。二人は近づいてみることにした。
「……消えろ………紫もやしも、機械狂の河童も、消えなさい」
何やら恐ろしいことをブツブツ言いながら、藁人形に釘を打ち付けている。
「……ね、ねえ、パルスィ。帰りましょう。私なんだか怖くなってきたわ」
「大丈夫ですよ。人間話せばわかってくれます」
「いや、人間じゃないし……私達もあの人も」
「誰!?」
帰るか、帰らないかで言い合っていたら気付かれたようだ。
「出てきなさい!」
「あ~、どうも~」
出て来いと言われて素直に出て行く二人。
「見たわね?」
「ええ!? 見てないです。見えてないです。だから私達はこれにて失礼します」
「ヤマメさん。嘘はいけないですよ。あなたが何をしていたのかもわかりますし、ずっと見てました」
「そう見られたのね……また、やり直さないといけないじゃない! これ誰かに見られちゃ効果なしなのよ! ちょっと! 聞いてるの!?」
「大丈夫です。もうその必要はなくなりますんで」
「? どういう意味?」
「つまり、あなたがこんなことする理由がなくなるってことですよ」
「!?」
その人物、アリス・マーガトロイドの体が光った。
「くっ」
なんだかいつもよりも長い気がする。パルスィもちょっとつらそうだ。
だが、やがてアリスの体から光は消えていった。
「……私なんてことをしてたのかしら。謝ってこなくちゃ」
アリスはふらふらと飛んでいった。
「ふぅ。あの人は強敵でしたわ」
「そ、そう」
「さ、行きましょう」
「行くって、何処に?」
「まだまだこの世界は嫉妬で溢れています。その全てを消すまで私達の戦いは続くのですっ!」
「……」
ヤマメは『私はどうせ出来ることなんてないし、巻き添え食らうのも嫌だから帰りたいな』と思ったが、よくよく考えると帰ったとしたら謝られ地獄が待っているのでこのまま付いて行くことにした。
その後は紅魔館というところに行ったり、人里に行ったり、冥界まで行ったり、なんと天界まで行ったのだから徹底している。
そして幻想郷は家から一歩出ると、誰かが誰かに謝っているのを目撃するのが当たり前な世界となってしまったのだった。
そうなるまでかかった期間はわずか二日であった。
しばらくすると、この事態を異変であると認識した博麗霊夢が動き出した。
そして、今、水橋パルスィと黒谷ヤマメのまえにいる。
「あんた等ね。訳わからないことしているのは」
「訳わからないことじゃないですよ。この世界を平和へと導く行為です」
「あっそう。何にせよ迷惑なのよ。四六時中謝られに来られちゃ。ロクにご飯も食べられないわ」
「それはあなたを妬んでいる人が多いっていうことですよ」
「私は他人から妬まれるようなことをした覚えはないわ」
「本人がそうした覚えはなくても嫉妬というものは生まれるものです」
「ふんっ! なんにせよ、あんた等を倒したらこの事態は収まるということね」
霊夢が戦闘態勢に入り、パルスィも構える。
ヤマメはというと、
「ううぅぅ、帰りたい……」
「帰えればいいじゃない」
「帰れないんです! 帰りたくても向こうは謝られ地獄なんです!」
「そ、そう。気の毒ね。まあ、あんたも一緒に退治してあげるから大人しくしてなさい」
霊夢が今にも行動を起こそうとした時、パルスィが何かに気付いた。
「あれ? ニオイがする。ニオイますよ」
「は? ……ちょっとおおおおおお! 私の腋がそんなに臭うっていうの!?」
パルスィは嫉妬のニオイがすると言ったのだが、この腋巫女は何を勘違いしたのか過剰反応をし始めた。
「!?」
飛び掛ろうとした霊夢だったが、突然霊夢の体が光始めた。
「あなたも謝りにいきなさい」
「へ?」
パルスィがにっこりと笑うのと同時に霊夢の体の光が消えた。
「……そうよね。お賽銭が入らないのは私自身のせいだもんね。そんな小さなことで嫉妬しちゃいけないわよね。ごめんね早苗。今謝りに行くわっ!」
霊夢は飛んでいった。
「ラスボスクリアですね」
「はは……ん? そういえば」
ここでヤマメはあることに気付いた。
出会う人、出会う妖怪、全てに反応していたのに何故自分には反応しないのか。記憶が正しければ誰かに嫉妬したことが無いわけではない。
「ねえ、パルスィ。私からは嫉妬のニオイはしないの?」
「え? しますよ」
「じゃあなんで……」
「取り合えず、あなたに謝る者を全部処置してからと思っていたのですが、そういえばもう良さげですね」
聞くんじゃなった~。とヤマメが思っても後の祭りである。
ヤマメの体が光だし、その光が消えた時、ヤマメの意識は薄れていった……。
こうして幻想郷から嫉妬というものは消えた。新たに生まれてもすぐにパルスィが消しにやってくる。
そして幻想郷は誰も誰かを妬むことなんてない平和な場所になったとさ。
ヤマメの嫉妬が何なのか分からなかったのが残念。
消化不良な印象ですので、是非教えてほしいです。
嫉妬しない橋姫なんか橋姫じゃない!
だが面白いwww
ヤマメさんお疲れ様…