Coolier - 新生・東方創想話

ラスト・エンペラー

2009/04/05 21:11:55
最終更新
サイズ
2.94KB
ページ数
1
閲覧数
1049
評価数
11/21
POINT
890
Rate
8.32

分類タグ


宮廷の奥深く、誰ぞ入らんその禁忌。
多くの兵と壁と権力に守られた要塞。
そこには、一匹の妖が巣食っていた。
ついには、八雲藍と呼ばれることになる一匹の妖狐。
これは、誰も知らない彼女の物語。
悲しく、結ばれぬ恋の物語。






「妲己や」

「紂王様」

妲己と呼ばれた女は振り返る。

「私はもう、行かねばなりません」

その足が中庭の砂へと差し掛かった。
塀に囲まれた中庭、出ることは叶わないだろう。
あるいは、羽を……。

「行かないでおくれ」

美しい純白の衣装をまとった黒髪の女。
妲己は静かに涙を流した。

「いけません、私は妖の者。いつまでもあなたと一緒にいることは出来ないのです」

「私のことが嫌いか?」

「そんな」

妲己は叫んだ。

「そんなことはありません」

「それでは」

「しかし、隠し事は出来ぬもの。いつか私の正体が露見してしまうのではないかと」

「露見はしない」

紂王も叫んだ。

「大丈夫だ。この宮廷の奥深く、誰が気付こう。隠し通すのだ」

「紂王様……」

「妲己よ」

泣き崩れる妲己。
紂王は彼女の目の高さまで視線を下げ、その手を取った。

「私も妖怪になれたらなあ」

「え?」

紂王は思い直すように、首を振った。

「いや、何でもない。さあ、おいで。宴の準備が出来ている」

「はい」

「存分に楽しむといい」

連日のように続く宴。
民衆の不満も、臣下の不平を漏らす声も紂王には届かなかった。






「妲己様、ようこそ」

筋骨隆々の武将がずらりと、二列に並ぶ。
その数、数十であろうか。
それに加えて見張りの兵数十。
広い部屋にずらりと居合わせる。
妲己は悲しげに顔を俯かせた。

「おいで」

最上座に座った紂王は傍らに妲己を招き寄せた。
着替えた妲己は、真紅の衣装を身につけている。
一般民衆が一生働いても、手に入れること能わざる代物。
紂王が不意に手を叩いた。

「さあ、さあ。剣舞をやれ」

武将が二人、返事をして進み出た。
そして、勇猛な剣舞を始める。
紂王は妲己の杯に並々と、酒を注いだ。
宴が進んでいく……。
まるで、下界など関係ないという風に。





ふと、紂王は横の妲己を見た。
色白な顔は薄紅に染まっているものの、どこか物憂げに見えた。

「妲己や」

妲己が振り返る間もなく紂王は横顔に手を添え、口付けた。

「紂王様」
「妲己」

長い接吻。
鳴り響く音楽が別世界のもののように聞こえる。

「いけません、こんなところで」

「構わない」

「駄目です」

紂王は唇を離すことなく、妲己を座の上に組み敷こうと力をかけた。

「よいではないか」

「あ、駄目です、本当に駄目ですってば。みんなが見ています」

その通り、臣下は二人の様子を盗み見ている。
下手をすれば、首を刎ねられかねぬ状況にも関わらず……。
人間、好奇心には勝てないものである。

「妲己」

「あ、本当に、もう、私、ああああああ」

 直後、軽い爆発音。
次の瞬間、興奮した妲己の黒髪を突き破るように金髪が現れ、小さな耳が生えた。

「あ、あら?」

「も、もう駄目」

 もこもこ、という音がしたかと思うと、衣装の尻の部分を突き破って9本の尻尾が飛び出す。
臣下の杯が割れ、口から酒が零れた。

「妲己?」

 耳が、ひょこひょこ、と動く。
妲己の尻尾は行き場を探したのち、自分ごと紂王を抱きしめた。
紂王は惚けた様子で立ちつくしていたが、やがて妲己を強く抱きしめ返した。
最後の抱擁だった。




 ここから後は、ご存じの通りである。
「だから、駄目だって言ったのに」
yuz
http://bachiatari777.blog64.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.280簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
相変わらず尻尾に包まれたい。
7.100名前が無い程度の能力削除
殷王朝ときたか。他にも白面金毛九尾とかでも作れそうですね。
8.30名前が無い程度の能力削除
妲己っていったら悪女じゃないですか。これでは藍は武王率いる周の国に滅ぼされちゃいますよ?
9.20名前が無い程度の能力削除
うーん、別に東方でやらなくてもよかったんじゃ…?
10.60ルル削除
まぁ妖々夢EXやったなら一度は妄想する藍様過去話。

もうちょっと膨らませたら大作に化ける気がする。
妲己→褒ジ→華陽夫人→玉藻前の流れで、太公望とか吉備真備とか安倍泰親とか絡ませて、ゆかりんとの出会いまで描くとか。
11.50名前が無い程度の能力削除
悪くはないけれど、特に面白くもない。
12.20名前が無い程度の能力削除
起だと思ったら結だった空しさです。
16.60名前が無い程度の能力削除
タグのオリキャラって誰だ?家臣?
17.60名前が無い程度の能力削除
エンペラーになるのは秦以降のような気もしますが、そんな無粋なツッコミはおいておくとします
雰囲気が良い感じのお話だったので、短編じゃなくてもっと長い方がよかったなあと要望してみたり
19.80名前が無い程度の能力削除
なるほどなるほど、遠い昔のお話ですね
短かったですがよかったと思います
21.60名前が無い程度の能力削除
うーん