Coolier - 新生・東方創想話

ラスト・エンペラー

2009/04/05 21:11:55
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宮廷の奥深く、誰ぞ入らんその禁忌。
多くの兵と壁と権力に守られた要塞。
そこには、一匹の妖が巣食っていた。
ついには、八雲藍と呼ばれることになる一匹の妖狐。
これは、誰も知らない彼女の物語。
悲しく、結ばれぬ恋の物語。






「妲己や」

「紂王様」

妲己と呼ばれた女は振り返る。

「私はもう、行かねばなりません」

その足が中庭の砂へと差し掛かった。
塀に囲まれた中庭、出ることは叶わないだろう。
あるいは、羽を……。

「行かないでおくれ」

美しい純白の衣装をまとった黒髪の女。
妲己は静かに涙を流した。

「いけません、私は妖の者。いつまでもあなたと一緒にいることは出来ないのです」

「私のことが嫌いか?」

「そんな」

妲己は叫んだ。

「そんなことはありません」

「それでは」

「しかし、隠し事は出来ぬもの。いつか私の正体が露見してしまうのではないかと」

「露見はしない」

紂王も叫んだ。

「大丈夫だ。この宮廷の奥深く、誰が気付こう。隠し通すのだ」

「紂王様……」

「妲己よ」

泣き崩れる妲己。
紂王は彼女の目の高さまで視線を下げ、その手を取った。

「私も妖怪になれたらなあ」

「え?」

紂王は思い直すように、首を振った。

「いや、何でもない。さあ、おいで。宴の準備が出来ている」

「はい」

「存分に楽しむといい」

連日のように続く宴。
民衆の不満も、臣下の不平を漏らす声も紂王には届かなかった。






「妲己様、ようこそ」

筋骨隆々の武将がずらりと、二列に並ぶ。
その数、数十であろうか。
それに加えて見張りの兵数十。
広い部屋にずらりと居合わせる。
妲己は悲しげに顔を俯かせた。

「おいで」

最上座に座った紂王は傍らに妲己を招き寄せた。
着替えた妲己は、真紅の衣装を身につけている。
一般民衆が一生働いても、手に入れること能わざる代物。
紂王が不意に手を叩いた。

「さあ、さあ。剣舞をやれ」

武将が二人、返事をして進み出た。
そして、勇猛な剣舞を始める。
紂王は妲己の杯に並々と、酒を注いだ。
宴が進んでいく……。
まるで、下界など関係ないという風に。





ふと、紂王は横の妲己を見た。
色白な顔は薄紅に染まっているものの、どこか物憂げに見えた。

「妲己や」

妲己が振り返る間もなく紂王は横顔に手を添え、口付けた。

「紂王様」
「妲己」

長い接吻。
鳴り響く音楽が別世界のもののように聞こえる。

「いけません、こんなところで」

「構わない」

「駄目です」

紂王は唇を離すことなく、妲己を座の上に組み敷こうと力をかけた。

「よいではないか」

「あ、駄目です、本当に駄目ですってば。みんなが見ています」

その通り、臣下は二人の様子を盗み見ている。
下手をすれば、首を刎ねられかねぬ状況にも関わらず……。
人間、好奇心には勝てないものである。

「妲己」

「あ、本当に、もう、私、ああああああ」

 直後、軽い爆発音。
次の瞬間、興奮した妲己の黒髪を突き破るように金髪が現れ、小さな耳が生えた。

「あ、あら?」

「も、もう駄目」

 もこもこ、という音がしたかと思うと、衣装の尻の部分を突き破って9本の尻尾が飛び出す。
臣下の杯が割れ、口から酒が零れた。

「妲己?」

 耳が、ひょこひょこ、と動く。
妲己の尻尾は行き場を探したのち、自分ごと紂王を抱きしめた。
紂王は惚けた様子で立ちつくしていたが、やがて妲己を強く抱きしめ返した。
最後の抱擁だった。




 ここから後は、ご存じの通りである。
「だから、駄目だって言ったのに」
yuz
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コメント



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4.70名前が無い程度の能力削除
相変わらず尻尾に包まれたい。
7.100名前が無い程度の能力削除
殷王朝ときたか。他にも白面金毛九尾とかでも作れそうですね。
8.30名前が無い程度の能力削除
妲己っていったら悪女じゃないですか。これでは藍は武王率いる周の国に滅ぼされちゃいますよ?
9.20名前が無い程度の能力削除
うーん、別に東方でやらなくてもよかったんじゃ…?
10.60ルル削除
まぁ妖々夢EXやったなら一度は妄想する藍様過去話。

もうちょっと膨らませたら大作に化ける気がする。
妲己→褒ジ→華陽夫人→玉藻前の流れで、太公望とか吉備真備とか安倍泰親とか絡ませて、ゆかりんとの出会いまで描くとか。
11.50名前が無い程度の能力削除
悪くはないけれど、特に面白くもない。
12.20名前が無い程度の能力削除
起だと思ったら結だった空しさです。
16.60名前が無い程度の能力削除
タグのオリキャラって誰だ?家臣?
17.60名前が無い程度の能力削除
エンペラーになるのは秦以降のような気もしますが、そんな無粋なツッコミはおいておくとします
雰囲気が良い感じのお話だったので、短編じゃなくてもっと長い方がよかったなあと要望してみたり
19.80名前が無い程度の能力削除
なるほどなるほど、遠い昔のお話ですね
短かったですがよかったと思います
21.60名前が無い程度の能力削除
うーん