私はその日、木陰から彼女達の事をずっと見ていた。
楽しそうに遊ぶ子供達…。…人間ではなく、妖怪と妖精の友達同士。
ルーミア。
大妖精。
チルノ。
橙。
リグル・ナイトバグ。
ミスティア・ローレライ。
あの子達の中で私と直接関わりがあった子は少ない。
そもそも私がこうして子供達の事をそっと見ている事を知っている者すらいない。
…と言うより、こんな姿恥ずかしくて見せられない。
私のような妖怪が、こうして子供たちが遊ぶ姿を羨ましそうに…。
…い、いや、別に羨ましいわけじゃないのよ。
ただ、あの子達が楽しそうに遊ぶ姿を見ていると、こっちまで楽しくなってしまう。
今までは時々見かける程度だったけれど、最近ではこうして気付かれないように覗くのが楽しみになっている。
…言っておくけれど、別に覗きが趣味と言うわけではないわよ?
出来る事ならば今すぐ、あの子達に言ってみたい。
「私も一緒に遊んでいい?」
と。
だけどさっきも言ったように、私がこんなふうに子供達を見ている事を知っている者はいない。
いきなりそんな事を言われても、あの子達が困るだけだと思う。
だからずっと、そのたった一言が言えない毎日だった。
…だけど、今日こそは、今日こそはとも思っている。
だって、たった一言言えばいいだけなんだから。
確かにあの子達も困るかもしれないけれど…。…でも、きっとちゃんと正面向かって言えば…。
ああでも、なんて言えばいいのかしら…。
なんだか考えてるうちに「遊んでいい?」だけじゃ足りないような気がしてきた…。
そもそも私がそんな事を言う事自体が変なのよね。ちゃんと自覚してないと、あの子達と友達にはなれない。
そして自覚しているからこそ、慎重に言葉を選ばないといけないのよね。
ただ「遊んでいい?」と言うだけでは、何か企んでいるのかと思われるかもしれない。
…そうね、最初はお淑やかにいってみようかしら。優雅さは多少なりともあるとは思ってるわ。
ゆっくりと偶然通りかかった感じにして、後は笑顔を絶やさないようにして…。
「あらあなた達、仲が良いのね」
そんな感じで自然に近づけば、まさかいきなり逃げられるなんて事はないと思う。
そうやって警戒心が解けたら、私が一番言いたかった事を言おう。
「私も仲間に入れてくれる?」
…その流れで行けば、きっとあの子達も判ってくれる。
ずっと見ていた事は言わなくてもいい、それじゃただの変質者。
ただ純粋に、友達になりたい。その気持ちだけをぶつければいいのよね。
…よし、それじゃ今度こそ…!!
そう思ったんだけど、いざ行動に起こそうと思うと、物凄く恥ずかしくなってくる。
ほ、本当に大丈夫なのかしら…?
本当にそれだけで大丈夫なのかしら?だ、だって私がそんな事…!!
この私が子供達にそんな事言うなんて、許されていい事なのかしら?
きっと判ってくれるわよね、そうとは思ってるけれど…。
今まで一度もこんな事やった事がなかっただけに、物凄く恥ずかしい。
おかしい、私だって妖怪としてそれなりに長生きしているはずなのに…。
たったこれだけの事が出来ないなんて…!!
いや、そもそもそれなりに長生きしてるくせに、こんな経験が初めてだというのが問題ある気がするけれど…。
前言撤回。私はまだまだ若いわ。
若いからこそ、こうして恥ずかしい思いをしているのよね。
でも、本当に恥ずかしい。
きっと今の私の顔は真っ赤になってるわよね。鏡を見てみたいけど見たくないわ。
何でこんなに恥ずかしいのか、私自身全く判らない。
顔から火が出るっているのは、きっと今みたいな事を言うのよね。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい…!!今はもうそれ以上の言葉が見つからない。
だ、だけど、やらなくちゃいけないのよ!!
それは私が望んだ事。今まで生きてきて、こんな風に思った事なんて数えるほどしかないんだから。
あの子達の内の数人と関わって、仲良く遊んでいる姿を見るようになって…。
…あの子達と遊んでみたい、一緒に楽しんでみたい、本気でそう思ったのだから。
意を決しなさい、私!!
たった一言言えばいいだけなんだから!!それで万事解決なのよ!!
取り合えず深呼吸しましょう。すー、はー、すー、はー。
そう、まずは自然な感じで近づかないといけないのよ。
うん、大丈夫。やれば出来るはずよ。長年生きてきた成果を見せればいいのよ。
…成果って何の成果かしら。まあそんな事はどうでもいいわ。
とにかく今は目的を果たすだけよ。
そうして私は、何時も手に持ってる傘を開いて…。
一歩、また一歩と出来る限り自然に、笑顔で遊ぶ子供達のほうへと近づいて行く。
ゆっくり、優雅に、お淑やかに。
まずは、一言。
「あら、あなた達」
私がそう言うと、仲良く遊んでいた子供達が動きを止めて、私の方へと振り向く。
「…ひっ、あの時の…!」
「す、スパイス…!!」
チルノとミスティアが敏感にに反応した。ミスティアの驚き方は良く判らないけど。
…そうよね、あの時あなた達は私の事を物凄く怖がってたものね。
他の子達も、チルノやミスティアほどではないが、かなり驚いている様子ではある。
御阿礼の子が書いた「幻想郷縁起」で私の事を見ていれば、確かに驚くわよね。
で、でも、こういう反応を示される事くらい最初から判ってたわよ。
だからこそ、落ち着いて次の言葉を言わないと。
眼と眼が合った瞬間に逃げられるなんて事はなかったんだから。
もう私はこの子達の前に姿を出してしまった。後戻りなんて出来ないのよ。
「仲がいいのね」
よし、ここまでは自然な流れで言う事が出来た。
先ほどまではちょっと怖がっていたチルノ達も、私がそう言うだけであっけにとられたような表情を見せる。
…うん、大丈夫、これも計算のうちよ。
この子達にとって、私がこうして自然に話し掛けてる事自体が珍しいのよね。
だからその流れに持っていけば、きっとこの子達の警戒心も薄れるはず。
…さあ、言うんだ私。
此処の所ずっと胸に秘めてきたこの思いを。
言ってすべてが解決。どう転んでもそれは仕方のない事。
この子達と友達になれれば、後はもう知った事か。
私らしくないとみんなから笑われようと構わない。
素直なこの気持ちさえ伝えれば、きっとこの子達は判ってくれる。
もし万一、友達になれなかったとしても…。
…あれ?もし友達になれなかったらどうすればいいんだろう。
周りからは笑われて友達も出来なくて、なんかもう最悪の結末じゃないかしら?
…い、いや、何を臆しているのよ私!
私はいつもこの子達を見ていた。この子達の純粋な心を見ていたじゃない!
大丈夫!そんな事あるはずがないわ!素直になりなさい!
で、でも百万に一ということも…。
ああもう私の馬鹿!余計な事は考えないで早く…!!
「あ、あの、どうしたんですか…?」
無意識に俯いていた私の顔を、大妖精がひょっこりと覗き込む。
「あ、いや…!!」
訳も判らず恥ずかしくなってしまった私は、思わず後ずさってしまう。
こ、この私が、こんな事で少しでも退いてしまうなんて…!!
それに大妖精に変な顔を見られたんじゃないかと思うと、余計に恥ずかしくなってくる。
ああ…これは非常に拙い、まただんだんと顔が熱くなって…!!
この後私はなんて言えば…。…な、仲間に入れて…。
そ、そんな子供染みた事を、この私が…!!
ああもうこのループは何回目?無限ループって恐ろしいわね。
仲間に入れてほしい、だけどその一言を言うが、この子達を前にするだけでこんなにも難しいなんて…。
…お、落ち着きなさい私。
私にもう後戻りなんて許されていないのだから。
元より私はただ前に突き進むだけじゃない。どんな相手もこの力でねじ伏せるだけ。
この場だってそれは変わらないはずよ!正面からぶつかりなさい!
「わ、私も…!!」
仲間に入れてくれるかしら?
そう言った心算だったけれど、どうも口が動いただけで声に出ていなかった。
ああ!!私のバカ!!折角言えるチャンスだったのに!!
動きなさいよこの口!!あとたった13文字じゃない!!
すー、はー…。…落ち着いて、落ち着いて…。
まだ大丈夫、大丈夫だから。
落ち着いて言えばいい。落ち着いて、あと13文字を言えばいい。
時間にして2秒くらいしか掛からないのだから。たった2秒の辛抱よ。
…よし、行け!!言え!!
それで全てが終わ…。
「ひょっとして、あんたもあたい達と遊びたいとか?」
わたしのあたまは まっしろになった
「えっ!?そ、そーなのかー?」
「ちょ、ちょっとチルノちゃん、流石にそれはないと思うよ?」
「ん?そう?だってさいきょーのあたいとなら誰だって…」
「き、きっと紫様に果たし状でも持ってきたんだよ」
「えっと、チルノがどう思おうと勝手だけど、この人に限ってそれはないよ」
「ヤツメウナギの注文って言うのもありかな…?」
チルノのたった一言を、矢次に否定する他の子達。
ち、違うのよ!チルノの言ってることが正しいのよ!!私が言いたかったことはそれなのよ!!
だけど私が言いたかったことをチルノに先に言われてしまって…。
…もう恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。いっそ今すぐ首を吊りたい。
チルノの単純な心を今ほど恨んだ事はない。
ああもう、初めて会った時は可愛い妖精だと思ったのに、今はもうなんだかちょっと憎い。
「え、えっと、それでご用件は…?」
大妖精がそう聞いてくるけれど、正直もうちょっと時間を置いてから聞いて欲しかった。
まだ心臓が恥ずかしさのあまりハイビートなのに…!
で、でも、聞いてきたんだから答えないと駄目よ!
折角大妖精がもう一度言うチャンスを作ってくれたんだから!
「だ、だから私も…!!」
恥ずかしい、首を吊りたいほどに恥ずかしい。
だけど言わなくちゃ。でないともう私は再起不能になるかもしれない。
落ち着いて、落ち着いていけばいいのよ。何も怖がることはないじゃない。
チルノが先に言って来たという事は、私がそう言っても受け入れられると言う証拠じゃない!
私はもうゴール目前にいるのよ!後一歩踏み出せば全てが終わるのよ!
緊張した眼差しで私を見つめる子供達。
緊張なんてレベルはもうとっくに超えてしまった私。
恥ずかしくても、恥ずかしくても…。
落ち着いて、落ち着いて…。
…おちついて…。
なかまに、いれて…。
「うっ…」
ぼふん。と私の頭から煙が上がったような気がした。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
落ち着けるかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!
完全にチルノに先手を打たれて、みんなからはそんな事ありえないと言われて…。
そんな状況でこんな事言えるわけないじゃない!!
もう逃げたい。この場から逃げたい。
そう思った時には既に私は逃げ出していた。号泣しながら。
ああ、久々に感じた自分の涙の味。
涙って、本当にしょっぱいわね…。
この涙の味は私の心の味。この味は嘘を吐いていない味だぜ…!!
この涙はきっと、私を一つ強くしてくれる。私の繊細なハートを少しだけ固くしてくれる。
そうやって無理やり自分を慰めつつ…。
…きっと呆然としているであろう子供達を残して、私はある場所へと全速力で駆けていった…。
* * * * * *
「うわあああぁぁぁぁぁぁん!!れぇ~いぃ~むぅ~!!!!」
「あら、幽香?こんな昼間からなに…。…って、どうしたのあんた?」
子供達から逃げてきた私が駆け込んだのは博麗神社。
霊夢は私が夢幻館で暮らしていた頃からの知り合いだし、こういう時に頼れる(?)のはやっぱり此処よね。
基本的に妖怪以外はこの神社に来ないし、昼間ならせいぜい魔理沙やアリスがいるくらいしか来訪者はいない。
…八雲紫がいるんじゃないかとは着いてから気付いたけれど、幸いいなかったみたいで助かった。
「何でもいいから私を慰めてえええぇぇぇぇぇ!!!!」
「聞きようによってはかなり危ない台詞だけど、とりあえず落ち着きなさいよ。あんたらしくもないわね」
嫌よ!!今落ち着いたら私はそれこそ死ねる気がするわ!!
ううっ…!!どうして私は何時も何時もこうなのかしら…!!
普段強がってるだけに、周りから強い妖怪だと見られてるし実際に強いけれど、それ故にこういう事への免疫力が全くない…!!
私だって、私だって何時までも向日葵だけが友達でいたくないのよ!!
「ううっ…!!私だって、私だってぇ…!!」
ぼろぼろと私の眼から零れ落ちる涙。
今まで滅多に流さなかった分が、一気に流れ出したかのように止まらない。
私のこんな姿、全てを無重力に受け流す霊夢以外には見せられないわよ…!!
向日葵達にだってこんな姿見せられるものですか…!!
「…とりあえず、お酒でも呑む?」
「呑む!!呑むわよ!!呑んで全てを忘れさせて!!」
「はいはい」
自分で誘ったにも拘らず、面倒くさそうに腰を上げる霊夢。
私がこのように取り乱しても、このように霊夢は特に動じる様子もなく対応してくれる。
ああ、やっぱり此処に来て良かった。此処なら安心して泣ける。
何時誰が来るかは判らないけれど、それまでは…!!
私は、霊夢がお酒を取りに神社の中に姿を消したのを確認してから…。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁん!!次こそは、次こそはああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その心からの叫びは、私一人になった境内に虚しく響いて、そして消えていった…。
ちょっとゆうかりんっぽく無い気がするので点数は辛めに
俺が霊夢×幽香を選択するのは確定的に明らか
私は折角だから靈夢×幽香を選ぶぜ!
>1さん
ゆうかりんは何時だって可愛いですよー。((
>3さん
確かにちょっとらしくはなかったかもしれません…。
>4さん
はい、俺一票入りましたー。
>10さん
そんな感じです。強力なだけに不慣れな自体には弱いんです。
>11さん
リグルに一票入りましたー。
>12さん
幽香「お、落ち着けるわけないじゃない!!うわあああぁぁぁぁぁぁん!!」
>謳魚さん
チルノ一票入りましたー。…チルノですよね?((
>19さん
霊夢一票入りましたー。
>20さん
みすちー一票入りましたー。
>25さん
リグル二票目入りましたー。一歩リード。
>26さん
霊夢も二票目入りましたー。
>27さん
靈夢一票入りましたー。旧作ネームなのであえて別けておきます。((
…そう言えばメラン子やエリー&くるみを忘れてました…。((
ったく、何を皆して夢見ているんだか………お気楽なものだな。
あれ、手の甲から花が………
>奇声を発する程度の能力さん
無限ループです。誰かがゆうかりんを慰めるまで。((
>みらーじゅさん
また勇者が一人…!あなたのその犠牲はきっと無駄にはなりません!((
という訳で俺にも二票目入りましたー。
余談だけどpixivで アルティメット・サビシガリヤ・クリーチャー で検索すると・・・
…あ、あの御方とネタが被ってたですと…!?((
pixivでチェックし始めたのがごく最近なので過去作をチェックしてませんでした…。
好きな絵師なだけにやってしまった感しか残りませんね…。