人間は、小さい子供の頃持っていた物を捨てて、社会に組み込まれていく。
そこにおいていったものは、夢であり、何事にも束縛されない自由であったりする。
その子供の声は、私達妖怪にとっては、気持ちのいい声であったりする。
なぜなら、彼らは、私達を許す。
存在を…。
人間に疎まれ、住処を失い、この世界に来たものは数多い。
だからこそ、その存在を認められ、
何の危機感も、恐怖も感じず、
触れてくるものたちは、私達にとっては、愛すべきもの。
人間は、いつそれを失ってしまうのだろうか。
私は、子供のままの心を持ち、成長した人間達が、この世界に溢れるようになったら、結界などというものは必要なくなるのではないかと……常々思う。
東方御伽草子 河童
そこは、ある村の小さな川原だった。
1人の少女が、川に浮かぶ石をジャンプしながら、渡り歩いている。
「ねぇねぇ、こんなところで何をしているの?」
少年の問いかけに、ジャンプをしていた少女…小柄な青い髪の帽子をかぶった少女が驚く。
「ほぇー……あんた、私が見えるんだ?」
「うん」
少年は、その少女に向って頷く。
少女は自分を恐れず、笑顔で自分を見つめる人間を見て、心が温まるのを感じた。子供は無垢であり、何も恐れる事はない。そういった固定概念が存在しないからだ。恐怖がなんなのかというのは、周りが教えるものである。
「私はね、この綺麗な川原で、ゴミ掃除をしていたところ」
少女は、少年から視線をそらして、その緑の山々に満ちた小石がならび、美しい川原を眺める。魚が泳ぎ、虫の声が聞こえる。
「へぇ~お姉ちゃんえらいんだね?」
「え、えらい?えらいかな?ま、まぁ~えらいかもしれないね!」
少女は少し調子の乗ったようで、クスクス笑って言う。
少女は背負っていた荷物から、少年にあるものを渡す。
それは、葉っぱで作った舟だった。
「はい、これは、ここのものでつくったもんだよ」
「ありがとう。お姉ちゃん、また会えるかな?」
「うん、いつでもおいで~」
少年に手を振って少女は見送った。
少女は久しぶりに人間との接触に、なんとなく心が和んだ。
自分は、こうして人間と遊ぶことが、楽しいとはっきりと感じることが出来た。今まで彼女が見てきたのは、怖い人間達ばかりだった。でも、こうして優しくしてくれる人間もいるんだと知った。自分をバケモノ扱いする人間だけじゃないんだ。
それから……少年は友達も連れてきて、一緒に少女と遊んだ。少女は様々な知識を持っていた。
魚の名前、虫や、雲…川原の小石のこと。
「わー、すっげぇーや」
「お姉さん、なんかの科学者の人?」
そうやってもてはやされることも悪い気はしなかった少女。彼女は少年たちとともに川原で様々な遊びを教えてあげた。少女と少年達は一日を、めいいっぱい遊び、そういった日々が何週間か続いていった。
少女にとって、それは素晴らしい日々で幸せに満ち溢れていた。
「またね~」
手を振って立ち去る少年達…少女も同じように手を振って見送る。
「……妖怪と人間が手を携える。そんなこともう出来ないと思っていたけれど」
「誰?」
振り返った少女の前には、傘を差し、空間に穴を開けて、そこに座る不思議な妖怪がいた。
彼女は、少女を哀れみの目で見つめる。
「忠告するわ。もうこの世界に、私達がいるべき場所はない」
「突然、現れてきて何を言うかと思えば……私の居場所はここだ。誰にも邪魔はさせないぞ」
「そう……」
突然、現れて、突然言いがかりをつけた女は、そのまま消えてしまう。
心の隅に彼女の言葉が残った。
だけど、少女はそれを認めたくないという強い思いから、その言葉を忘れようと努力する。
それからも…少年達との遊びは続いていった。
そんなある夏の終わり……。
「お姉ちゃん!」
それは少年だった、少年はここまで走ってきたのか、大きく息をつきながら、汗をかいている。少年は顔をあげて、少女を見つめる。
「お姉ちゃんって……妖怪なの?」
「……」
「なんか、村の人たちが、ここに妖怪がいるって言って、捕まえてしまおうってそんなことをいっていて、嘘だよね?お姉ちゃんはそんなんじゃないよね」
少女は、少年を見詰める。
大人からの入れ知恵……妖怪は絶対悪という存在。
それは、此処だけにとどまらず……自分が転々として移動していた場所、すべてで言われた言葉。
また、自分の居場所はなくなってしまうのか。
少女は悲しそうな表情をした。
そんな少女の肩を叩く少年。
彼はにっこり笑顔で少女を見つめる。
「大丈夫!僕、ここでまたお姉さんと遊びたいもん!だから、絶対に、お姉ちゃんを追い出させたりなんかしないんだから!
「……」
「それじゃー僕、早速仲間を集めてくるからね!」
「あっ……」
少女は彼を止めようとしたが、声がでなかった。
こうして自分を守ってくれる人が現れたことが嬉しかったから。だが、それは無理だと分かっている。自分がいることで、少年に迷惑をかけるわけにはいかない。こんなことは、以前にもあったことだ。だから、また別の場所を探せばいい。少女は前向きに考える。
「だから、しっかりと最後の挨拶をしなきゃ……」
少女は自分に言い聞かせる。
ふと、そこで脳裏に浮かぶ今までの生活。決して人間という存在振り向かれることがなかった自分が、こうして人間に愛された。そんなことが、次の場所であるのだろうか?またバケモノ扱いをして、孤独になるのではないのだろうか……。
そう、考えてしまうと……足が動かない。
言葉がでない。
それから、暫く、彼は姿を見せなくなった。
彼女が次に彼を見たのは、川に、人々のざわめきの音が鳴り響いた夜だった。
目を開けた彼女の前、たくさんの人間達が、桑や農具で武装して、川の前に迫っていた。これらはみんな自分を退治するためだ。彼女は、ひとときの幸せを掴んでいたかった。少年達との遊びに……それも、叶わないというのか。自分の生きるべき場所はもうないのか。
「君!そこをどくんだ!!」
少女は覚悟を決めたとき、その大人達の声に、少女が顔をあげる。そこにはあの少年がいる。少年は、両手を広げ、大人たちに叫ぶ。
「やめて!!」
大人たちが頭を抱えている。村にバケモノがいるとなれば、やがて子供達や自分達に危害を加える可能性がある。第一、彼女が子供を食べる可能性だってあるんだ。そのために仲良く接しているだけかもしれない。そのためなら……多少の犠牲はやむをえない。
「あのバケモノごと、追い出せ!!」
その言葉に、少年は目を閉じる。
少年は、彼女が妖怪であろうと既にどうでもよかった。
少女のあの哀しそうな顔を見てしまえば、彼女が悪い妖怪とは思えない。子供ながらにわかっていた。少年は大人たちが、近づくのを感じながらも、絶対に動こうとはしない。なぜならば……。
「彼女は、僕の大切な友達なんだ!!」
彼女は、そこで少年が、自分が彼と初めて出会ったときに渡した草で作った舟をしっかりと握っているのを見た。彼女は、何も考えられなくなった……。
「!?」
大人達の前、少女が、少年の前に立ち、両手を前に出すと、川原の水が、大人達に襲い掛かる。それは、大人たちを驚かすのには十分な効果があった。少女は鋭い目をして、少年まで巻き込もうとした大人たちを睨みつけている。
「私はどうなってもいい……でも、子供まで巻き込もうとすることは許せない」
「な、なんだ、あいつは!?やっぱり、ば、バケモノだ!!」
「バケモノだぞ!!」
「うわぁあああああ!!」
大人達の口から次々と吐き出される言葉…それは、かつて自分が様々な場所で言われた言葉だ。もうすっかり慣れてしまった。
バケモノ……それでもいい。
彼を守れるなら、私は……。
「お姉ちゃん?」
「……ごめんね、私、ちょっと別の場所にいかなくちゃいけなくなった」
少女は、少年の頭を撫でながら微笑む。
その少女の頬からは、一筋の涙が流れ落ちる。
「どうして!またみんなで遊ぼうよ?もっといろいろな舟の作り方とか……魚の名前とか……」
「……ごめん、本当に……ごめん」
少女は、少年を見つめながら、ゆっくりと姿を消していく。
少年は、少女のことを呼び続けた。
「……言ったでしょう?貴方の居場所はもう、この世界のどこにもないわ」
彼女の前に再び現れた不思議な妖怪はそう告げた。
少女は、わかりながらも、それが寂しかった。
このまま自分のような妖怪は消えてしまうのだろうか。
「私が貴方の新しい居場所を教えてあげる。そこでなら……また、子供達と遊べるわ」
「……ひとつ、頼みがある」
「なに?」
少女は顔をあげて、紫をみつめる。
「この川だけは……どうか、守ってあげられないか?」
妖怪は、その少女の涙を眼に浮かべた顔を見て、しょうがないわね…と頷く。
それから以後、少女は二度と姿を見せなくなった。
だけど少年は待ち続けている。
また…一緒に草の舟をつくろうと心に誓って……。
河童は人間の盟友、というセリフを思い出しながら読みました。
話に芯が無い。
時代を古く見るとコレの存在が余りにも不自然。
時代を新しく見ると周りの人たちの行動が不自然。
しかし奇麗な紫さまだ。
結果的に単なる平凡な話になってますね。
男の子にもう少し役割を与えてあげれば印象も変わったのではないでしょうか。