Coolier - 新生・東方創想話

東方御伽草子 花咲き

2009/03/30 12:32:08
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 不幸と幸…誰もがそれに左右され、そしてそれは矛盾と、時には卑怯とさえ感じることもある。それは人間でなくても同じ、妖怪、幽霊…誰もがこの運というものに左右され、そしてそれに対して様々な対応を迫られている。


 不運な人生を送った人間、
 運のついている人生を送った人間。


 恨むのも恨まれるのも勝手だけれど……人間も妖怪も、そういった矛盾な世界に生きていることを自覚する必要があるわ。

 不幸が訪れてばかり、いつかは幸運が訪れる、そんなことを信じていても、世の中……よくはならない。






東方御伽草子 花咲き








 その年……大飢饉が、地上を覆った。


 作物は枯れ果て、多くの動植物が死に絶えた。


 自分たちが何か悪いことをしたのか?
 自分たちが裁かれるようなことをしたのか?


 死の淵に迫るものたちは、皆、そう思った。
 この世界に神はいないと知った。


 しかし、それは間違いである。
 この世の中はそんなに上手くは出来ていない。

 彼らが死ぬのは予定調和であり、それが…この世界の秩序である。


「……ここも随分と枯れているのね」


 日傘を差しながら歩く女、周りは荒れ果てて、腐った匂いが立ち込めている。女は、それらのものに、悲しみも、同情もすることなく歩いていく。そこに、馬の駆ける音が聞こえた。数としては、数十頭あたりだろう。女を馬に乗った族たちが取り囲む。


「ヘヘ、こんなところで、女一人で歩くとは危険だな?」

「どうだ?俺達が行き先まで連れて行ってやろうか」

「なに、心配することはないぜ、俺達は良い奴だからな。何もとりゃーしない」


 ひげ面の男たちは、女に笑いながらそういってくる。作物がなくなれば、食事が出来ずに死に絶える。それを避けるためにはあるところから奪い取り、食物を繋ぎとめる。いたって普通の考えであり、それを否定することを女はしない。


「……」


 女は無表情のまま、そこにいる男達を見つめる。その女は美しく、ひげ面の男たちも、かつて、それほどの女を見たことはなかった。息を呑む男達に対して、女は日傘を閉じて、それを男達にと向ける。


「やめろぉぉぉ!!」

「!?」


 女が振り返ると、そこには大柄な若い男が走ってくる。彼が持っているのは大きな丸太だ。ひげ面の男たちは、その熊の様な男に驚いて、思わず逃げ出してしまう。男たちが走り去っていくのを見て、女は傘を再び開き、頭の上に差す。


「ふぅふぅ、良かった。あいつらは、ここらへんを最近荒らしている野盗なんだ。気をつけなくちゃダメだぞ」

「……あらそう。ご忠告ありがとう」


 女は、男にそういうと、再び歩きはじめる。
 通り過ぎようとする女に男は…。


「もう暗くなるから、どこか泊まっていたほうが良い」

「うるさいわね。構わないで頂戴」


 女は男をうざったく感じてそう冷たく言い放つ。だが、男は引き下がらない。女は面倒な奴にかかわったなと思いながら、仕方がなく、男の家に一泊することにした。



 男の家には、大きな木があった。それも、他の枯れ果てた大地と同じく、緑の葉をつけることなく、寂しく、そこに立っていた。女は家に入る前に、その木を見つめる。


「あぁ、それは桜の木なんだ。残念だけど、もう何日も雨が降ってないからもうダメかもしれないな……。ここらへんは、夏や春になれば、たくさん花がさく良い場所なんだ。それが、どうしてこんなことになったものか……お天道様は、何が気に入らなかったんだろうな」


 男は溜息混じりにそう告げる。
 女は、男の話を聞きながらクスリと微笑む。


「そんなものを信じているからよ」

「お、お天道様をバカにしちゃいかん!」


 男は顔を真っ赤にして、女に言う。女は、男のその感情をすぐに露にする顔に、面白みを感じていた。夜、男は数少ない食料のはずだというのに、それでもしっかりとした食事を女に提供した。女は、男のその真摯な態度に悪い気はしなかった。



 一晩あけ…空は相変わらずの天気だった。
 女は男に見送られ、外にまで歩いてくる。
 女は、男を見つめて…。


「一晩、泊めてくれたお返しよ」


 女はそういうと、大きな桜の木を見つめ、手を伸ばす。

 すると、その桜の木にまるで命が宿ったかのように、茎の色がかわ、そして命が戻るようにして、桜に花がつく。ピンク色の素晴らしい花を咲かせた桜がそこにはあった。


「す、凄い!!ひ、久しぶりにこんな綺麗な桜をみた……あ、あんたまるで神様みたいだ」

「神様ね、そんな凄いものじゃないわ。それじゃー……さようなら」


 女は、男に強く喜ばれることに対しても、悪い気はしなかった。最初から最後まで鬱陶しい奴ではあったが、感情をストレートに表す、あーいった人間は、見ていて面白かった。久しぶりに……。女は、男の一喜一憂する笑顔を思い出しながら、道を歩いていく。


「……」


 暫く歩いていくと、ふと彼女の頭に何かを伝える声がした。それは……先ほど咲かせた花の声が途絶えたことだった。女は気になって、元来た道を戻った。嫌な予感がした。彼女の視界に見えてくるのは、綺麗な夕焼けの空に、高らかと伸びていく、黒い煙と、赤い炎だった。



 女が戻ってきたとき……そこには黒い灰となった家と木があった。女は、燃えた桜の木を見つめる。そこから微かに聞こえてくる声は、自分を守ろうとして、男は野盗に襲われ、串刺しにされ、火を放たれたということだ。桜という、この荒れ果てた大地には、その桜というものは目立ち、そして、格好の的だったのだろう。


「……」


 女の日傘を差す手が強く握り締められる。


 自分が、彼と会わなければ、
 彼が、家に引き込まなければ、
 自分が気を利かせて、花など咲かせなければ……。


 不運、殺したのは紛れもない…私だ。







 野盗のアジトの洞窟では、今日も、奪ってきた食べ物で祝杯を挙げているところだった。食物もあるところにはあるものだ。野盗たちは、それらを盗み、悦楽の限りを過ごしていた。誰も彼らをとめるものはいない。そんな祝杯の最中、見張っていた1人の男が慌てて、アジトである洞窟に入ってくる。


「と、頭領!誰かが、誰かが来ます!」

「だれか?誰かじゃ、わからねぇーだろうが」

「そ、外を見てください!」


 口元についた酒を拭いながら、ひげ面の男は刀を持って他の部下達と一緒に外に出た。

 そこで彼が見たのは、誰かが近づいてくるのだ。彼果てた大地に、様々な花々を咲かせながら……あの枯れ果てた、草一本さえなかった場所が、今や花々で溢れている。


 狂い咲きだ。


 先頭に立つ存在……それは男たちが見たことのあるものだった。


「あ、あいつは……」

「この前の女!?」


 男達の前にと姿を現した女……彼女の背後には、花々が溢れている。こんなことをしでかすのはバケモノしか考えられない。男たちは、刀を持ち、女に立ち向かおうとする。女は目を細めて口元を歪ませる。



「…柄じゃないんだけど、仇をとりにきたわ」



 女は、そういうと両手を前に出す。すると、周りにいた男の数人の身体から急に花があふれ出し、身を覆っていく。なんだかわからずに暴れていた男たちもやがて、その動きを静かに止めた。そのおぞましい光景を見て、震えたつ野盗たち。


「あ、あの男なんかのために、こんなことをするのか!?」

「そうだ!ただの男のために!」


 野盗たちは、震えながらも、刀を強く握り…女を威圧する。女はそんな男達の問いかけに、髪の毛を靡かせる。


「……私の花を焼いた、仇よ?」


 女はその場にいるものすべてに花を咲かせた。先ほどまでのざわめきは静まり返り、ただ花だけが風に吹かれ、花びらを散らせながら、綺麗に舞う。女は傘を差しながら、歩いていく。



 花々が咲き乱れる中、男のいた家だけが、黒い灰の中にあった。


 女は、そこにひとつの種を撒く。



「私の術でなく、懸命に己の生き方をして……花を咲かせなさい。次は、不幸が訪れることないように……」



 女は日傘を差しながら、歩いていく。

 周りが花々で囲まれる中、目立つ黒い灰の中、種から発芽した茎が、顔をだした。
久しぶりの投下です。
ある方の本を読んで幽香様の素晴らしさを改めて知って書きたくなりました。

花を咲かせる女=風見幽香
語り部=八雲紫
ぶらっと
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コメント



0.940簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
紫様は?
9.90名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんつえー。

ゆかりんは語り部なのね、なるほど
11.100煉獄削除
幽香つよいですねぇ、そして格好良い。
男への礼が仇になるというのも悲しいことですね……。
語り部が紫様というのも良かったです。
面白かったですよ。

脱字?の報告
>その桜の木にまるで命が宿ったかのように、茎の色がかわ、
『茎の色がかわり』でしょうか?
12.100名前が無い程度の能力削除
良い小話でした。幽香は仁義を重んじるタイプですね。
14.100名前が無い程度の能力削除
するっと画が浮かんでくる状況描写が秀逸。
己が道を往く幽香かっこいい!
15.100名前が無い程度の能力削除
これはいい話
16.90名前が無い程度の能力削除
最初、紫さんかと思ってた。まさか、幽香さんだったとは…。いい意味でやられた

問題ないとは思いますが個人的に気になったのは
「あーいった」
ですね。なので、10点引かさせていただきました。
18.30名前が無い程度の能力削除
コレは東方でしょうか…?
25.100名前が無い程度の能力削除
ぶらっとさんすげぇ!凄く良かったです。
27.80無名削除
幽香の過去話としてみると面白い。
ここは幻想郷なのだろうか?という疑問はあるけど。