Coolier - 新生・東方創想話

貴方が妬ましい~星熊勇儀の鬼退治・陸~

2009/03/29 09:07:25
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このお話は
作品集63「星熊勇儀の鬼退治」
作品集64「エンゲージ~続・星熊勇儀の鬼退治~」
作品集65「おにごっこ~星熊勇儀の鬼退治・参~」
作品集65「温泉に行こう!~星熊勇儀の鬼退治・肆~」
作品集67「そらのしたで~星熊勇儀の鬼退治・伍~」
の流れを引き継いでおります。
































「見なかったことにしてください」

「ミナカッタコトニシテクダサイ」

「……土下座されてもなぁ」

 土下座くらいするわよ!

 より大きな恥をどうにかしようとしてるんだからこの程度の恥など掻き捨てだわっ!

 ええわかってる。

 妖怪が人間に土下座とか色々間違ってるってわかってる。

 でもね。

 恥の上塗りだろうと消したいものはあるのよ……!

「というわけで記憶を完全消去してください魔法使いさん」

「無茶言うよな妖怪って」

 机に頬杖突いたまま黒白の魔法使いは呆れたような目を向ける。

「魔法使いでしょ? 常道を突き抜けるんでしょ? それぐらいやってみせろってんでございます」

「強引に敬語にしなくてもいいよ……」

 何故か疲れた顔で魔法使いは唸る。

 慣れないことして疲れてるのこっちよ?

 だというのに魔法使いはそれになぁ、とため息交じりに漏らす。

「別にいいじゃんかおまえらがイチャこいてるの見たぐら」

「そーれーをーっ!! 忘れろって言ってんのよおおぉぉぉぉっ!!!」

 七転八倒っ!

 床の上を大回転ローリングっ!

 あはは昨日片づけてなかったらこんな真似出来なかったわねこの家っ!

 ちったぁ片付けなさいよ魔法使いっ!

「ちなみに本はタイトルをあかさたな順に並べて本棚に入れといたわっ!!」

 しゅばっと立ち上がって指さしつつ叫ぶ。

 っく、いきなり立ったから頭がくらくらするわ。

 それにしても「ん」から始まるタイトル微妙に多かったわよ。

「お、おぉ……ありがとう……」

 ぜぇぜぇと肩で息をしながらまた正座する。

 不覚だった……!

 遭難して家見つけて一晩休めたんで気が抜けていた……!

 そりゃあ吹雪止んだんだから家主帰ってくるよね!

「兎に角! 忘れて! ほら勇儀も!」

 横に正座しっぱなしの勇儀をつついて促す。

「ワスレテクダサイ」

「とまぁ二人がかりで頼んでるんでどうにかならないかしらね!?」

 おい魔法使い。

 なんでそこで眉間抑えて唸るのよ。二日酔い?

「つーか鬼。おまえなんで棒読みなんだよ。正座したまま微動だにせんし」

「いやぁ。私としては別に見られても構わんし。むしろ見せつけたいし」

「だらっしゃああぁっ!」

「へきゅっ!?」

 喉を狙った突きは正確に動脈を打つ。

 これで勇儀はしばらく動けないわ……!

「あーもー。わかったから惚気るなって」

「惚気てないっ!!!」

 勇儀め余計なことを……!

 こんな口の軽そうな奴にこれ以上ネタ与えてどうすんのよ!?

 絶対交友関係全員に知れ渡るわよっ!

「おいおい、なにもそこまでせんでも」

「……あなた、今日のこと誰かに話す?」

「エー? シンヨウナイナァ。ハナスワケナイジャナイカ」

 目が泳いでるわよコンチキショウ。

 直球で訊いてみたら案の定だわ。

 まったく忘れようとしてくれない……そんなに話したいか。

 土下座も効かないとなると……あとは、脅すしか。

「……脅迫……命……を……内臓……」

「……おい、なに不吉なことぶつぶつと呟いてる」

 無視して足元に転がってる勇儀を見る。

 まだ痙攣してるけどこの分ならすぐにでも動けるだろう。

 動けるなら……使える。

 必要な道具は足りてないけど、妖怪二人なら楽勝よ。

 懐に手を入れ――叫ぶ。

「かくなる上は腹を切る!」

「なんでそうなるっ!?」

「パルスィっ!?」

 がばっと上着の前を開いたら勇儀が起き上がった。

 魔法使いも慌ててるようだ。

 計算通り……!

「鋏とか地味にリアルなもん持ち出すな! つーか持ち歩いてんのかよ!?」

「勇儀、介錯頼むわ」

「パルスィ……!」

 魔法使いは無視して鋏を構える。

「おい私置いて話進めるな!」

 ふふ……懐に入れてたのに冷たいわね……

「あなたの手刀なら……苦しまずに逝けるって信じてるわ……」

「おまえ……そこまで……わかった。決しておまえの死を見苦しいものにはしない……!」

「悲壮な決意固める前に止めろよ!?」

「さらば現世!」

「おまえを一人にはさせんぞパルスィっ!!」

「わかったから人ん家で切腹するなあぁぁっ!!」

「え?」

 くるりと魔法使いに振り返る。勇儀も止まる。

 じーっと見ていると、魔法使いは苦々しい顔で口を開いた。

「……わかったから。私の負けだ。霊夢にもカラスにも誰にも話さんよ」

「本当ね?」

「知らないのか? 私の口は冥界の盾よりも硬いんだ」

「わかってもらえてよかったわ。家にはらわた撒くところだった」

「…………」

 まぁ勇儀の手刀だったら間違いなく私の首を切り落とすだろうし。

 はらわたどころの騒ぎじゃなかったでしょうけど。

「魔法使い……恩に着る……! パルスィを殺さずに済んだよ……!」

「ああうん……おまえもう少し人を疑うこと覚えろな……?」

 頭を下げる勇儀の背中を叩く魔法使い。

 っち。もう芝居に気づいたか。

 ……お芝居だけど、勇儀を巻き込んだのは気が引ける。

 でもこうでもしなきゃ魔法使いの口を封じることはできなかったし……五割は、本気だったし。

 私は恥を晒して生きられるほど図太くはないのだ。

 ……帰ったら御馳走してあげよう。

 私のプライドに付き合わせたんだからなにかお詫びしなきゃ。

「なんで鋏なんて持ち歩いてんだよ……」

 やつれたような顔をする魔法使い。

 いい気味よ。私と勇儀にここまでさせたんだから。

「裁縫道具くらい持ち歩くでしょ。今は旅先なんだし」

「……あぁ。普通の答えが返ってくるとは予想外だった」

 失礼な奴。



 ともあれお茶を一服。



 気を落ち着かせて仕切り直す。

「家、勝手に借りて悪かったわね。でも助かったわ」

「いいよ。掃除もしてもらったし、昨日の吹雪は酷かったからな」

 こういうところはさっぱりしてるわね。

 おしゃべりっぽいのが玉に瑕だけど。

「私、幻想郷の冬は知らなかったから驚いたわ。豪雪地帯だったのね」

「私は幻想郷以外を知らんからなんとも言えんが。それでも昨日のは凄かった」

 うーむ。間が悪かったのね。地元民も難儀するほどの雪だったとは。

「って、そういえばなんで雪のことなにも言わなかったのよ勇儀?」

「ん?」

「あー。鬼って昔幻想郷に居たんだっけ? だったら雪のことも知ってたよな」

「んー……」

 お茶を啜りながら視線を泳がせる。

 私と魔法使いの方を見ようとはしない。

「まぁ確かに昔は山に住んでたんだがな」

 遠い目をする――にしてはなんか視点が定まらない。

 なんか考え事をしているような。

「雪もまぁ降ったんだがな」

 なにを当たり前のことを……って、まさか。

「……忘れたのね勇儀」

「ああ。なにせ何百年も前のことなんで」

 やっぱり。

「えぇ? なんだよ、昔の面白い話でも聞こうと思ってたのに」

 大げさなほどにがっかりする魔法使い。

「面白い話ねぇ。どんなのだい?」

「最近怪談に凝っててな。耳嚢みたいなのがいいんだが」

「みみぶくろ?」

「奇聞を集めた本だよ。昔江戸でな……」

 意外にも勇儀と魔法使いが盛り上がってる。

 いや……意外でもないか。

 勇儀は人望がある人気者だし、この魔法使いも人懐こそうだし。

 当然、よね。

 話が弾んでいる。

 私は……入れない。

「しっかし、よく鬼をこうも……こうか?」

どすっ

「へきゅっ」

 っていきなりなにしてんのよ魔法使い!?

 さっき私がやったままに喉に突きって!

「あれ?」

「なにする。痛いじゃないか」

 だけど、勇儀はけろりとしてた。

「……あれ? なんで効かないんだ?」

 当然の疑問だ。私だって腑に落ちない。

 さっきはあんな簡単に決まったのに。

「愚問だな。そんなにトロくちゃ打点をずらして軽減するくらいわけもないさ」

 おぉ……流石は鬼ね。身体能力がずば抜けてる。

「トロいって、あいつとそんなに差があるか?」

「それこそ愚問だな魔法使い」

 やれやれと肩を竦める勇儀。

 嫌な予感がするから拳を振りかぶっておく。

「パルスィがくれるものを無碍にできるものか! 苦痛だろうが罵倒だろうが全て受け入れるっ!

はっきり言ってパルスィはおまえよりトロいがそれだって素直に受けてはぐぅっ!?」

「恥ずかしいこと大声で言うなつってんでしょうがあっ!!」

 思い切り体を捻って力を込めた拳を鳩尾に叩きこんだ。

 学習能力ないのかこのド阿呆っ!

 さんざ苦労してやっと魔法使いの口を封じたばっかでしょうがっ!

 ああもうっ! そんな「わかってるから……」って慈悲深い顔するな魔法使いっ!

「わかってるから……」

「見てわかるから口に出さないでよっ!!」

 くぁーっ!

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!

 いいかげん猿轡噛ませるわよ勇儀っ!

「おまえが強いんだか鬼が弱いんだかなぁ」

「む? なによそれ」

「受け入れる云々は置いといてさ、こんなにも。なぁ?」

 なぁって……

「パルスィは弱いぞー」

 ムカつくこと蹲りながら言うな勇儀。

「さっきの突きを見るに腕力はおまえの方が上だしな」

「妖怪に腕力で勝つってのはなんか、微妙な気分だ」

 苦笑される。

 ……私の方がショックよ。人間に腕力で負けるとか。

 非力だって自覚はあったけどさ。あったけどさ。

「しかし、おまえは強い奴が好きなんじゃなかったっけ?」

 …………

「前やったときそんなこと言ってたろ」

「言ったねぇ」

 むくりと勇儀が起き上がる。

「じゃあなんでおまえら」

「パルスィは強いからさ」

 ……勇儀。

「矛盾、してないか?」

「これっぽっちもしてないね」

 薄い笑みを浮かべて、彼女は即答した。

「腕っ節は弱い! だが他が強い!」

 迷いの無い目で、まっすぐに魔法使いを見る。

「だから惚れたのさ」

「……惚気は勘弁だぜ」

 苦笑されて、肩を竦められる。

 ……恥ず、かしい。

 恥ずかしい、けど。

 …………なんにも言えないわよ、ばか。

「パルスィ、痛い、蹴るなって、いてっ」

 ……なんにも言えなくしたあなたが悪いんじゃない。

「おまえら見てると今度も楽勝できそうな気がするぜ」

 っく……にやにやしながら茶々を入れるな……

「そいつは聞き捨てならんなぁ」

 勇儀の顔が、楽しげに歪められる。

 牙を剥き出しにしたその笑い方は好戦的な鬼そのもの。

「なんなら再戦といこうか?」

「気が早いな。おまえの相手をするのは骨が折れそうだ」

 なぁ、と私に目が向けられる。

 う……まぁ、そうだけど。

「お互い消化しきれてないところはあるしなぁ? やるかい、魔法使い」

 座ったままだというのに完全に臨戦態勢。

 魔法使いの話を聞いているのかいないのか、肌にぴりつく鬼気を放つ。

 しかし魔法使いは、

「冗談じゃない。この間のおまえは本気を出してなかったんだろ?」

 さらりとかわす。

 大した度胸だと思う。並の人間なら腰を抜かしてもおかしくないのに。

「底の知れん奴に無策で突っ込むほど馬鹿じゃないぜ」

「慎重だな。だが、そういう狡猾さは嫌いじゃないよ」

 どうやらお流れになったらしい。

 ぴりぴりした空気は薄れて朝の寒さが戻ってくる。

 内心、ほっとする。

 あまり勇儀が戦うのは見たくないし――それも、この魔法使いとだなんて。

「勝てる算段が付いたらやってやるさ。次は盃なんて持ってられないようにしてやるぜ」

 そう思った矢先、再戦を臭わせることを言う。

「安請け合いしていいの? 相手は鬼よ」

「鬼の相手なら何度もしてるさ。なんだ? 心配してくれてんのか?」

 朗らかな笑顔に言葉が詰まる。

「そういうわけじゃ、ない……けど」

 言い淀む。

 心配はしているけど、あなたのことじゃ、ない。

 私は――

「パルスィは私のだよ」

 抱きつかれてる。

 背後から両腕でしっかりと捕まえられてる。

「ってちょ……っ!」

「わーったからもう惚気ないでくれ。胸焼けする」

「だから……っ」

 今更何を言っても恥の上塗りだ。

 ……毎度毎度、なんでこうもタイミング悪いかなぁ!?

 そんな心配しなくたってどうせ誰も私を取ろうとなんてしないっての!!

「そうそう。魔法使い、訊きたいことがあるんだ」

「ん?」

 ……マイペースめ。

 私だけ空ぶってばかりで疲れる一方だわ。

「代わりって云うのもなんだが、他に強そうな奴は知らんかね」

 ……なにこの質問。地上へは観光に来たんじゃないの?

 勇儀の顔を見ても、飄々とした笑みが返ってくるだけで何もわからない。

「んー。他のつってもなぁ。強いのはごろごろしてるが、鬼の相手ともなると……」

 あいつは居所が知れんしなぁ、あいつもうろうろしてるしなぁと呟く魔法使い。

 思いつくのは何人か居るようだけれど紹介できそうなのが少ないらしい。

 あんまり考えたくないことだけど、勇儀と戦えるようなのがそんなに居るの?

 などと不安に思っていたら、ぽんと手を叩く。

「……一人、心当たりがあるぜ」

 魔法使いの名に恥じぬ人の悪そうな笑み。

「紅魔館の門番だ。あいつは」

 到底信用できそうにないのだけれど――

「とびきり頑丈だからな」

「そいつは楽しみだ」

 勇儀はにやりと笑って立ち上がった。

 ……不安だわ。

 あとね勇儀。

 立ち上がる時は私を放してからにして。






 家を借りたことにもう一度礼を言って背を向ける。

「ああそうそう」

 最後に、意趣返しと行きましょう。

「今後いずこかで今日のことが話されていたら。庭先にはらわたが撒かれることになるわ」

 振り返れば魔法使いの顔は引き攣っていた。

 愉快だわ。こいつは私より強いけれど、私が勝てない相手じゃない。

「……誰の」

「私の」

 力が及ばないなら及ばないなりのやり方があるのよ魔法使い。






























 雪の積もった森の中を歩く。

 飛んだ方が楽だとは思うけど、これも観光だと言う勇儀に倣って歩く。

「紅魔館、ね。あれかしら。昨日走り回ってる時に見かけた赤いお屋敷」

「うん? そんなのあったかい?」

 やっぱり昨日はテンション上がり過ぎだったのよ勇儀。

 この分じゃ昨日通った道全部忘れてるんじゃないかしら。

「しかし楽しみだな。その門番どれくらい強いのかな」

「期待し過ぎると後が辛いわよ」

「こうやって楽しむのは無駄じゃないさ」

 ……私にはちょっとわからない。

 期待は裏切られるもの、希望は外されるものだと思う。

 だから私は常に最悪を想定する。

 この場合は……その門番とやらが話にもならないくらい弱い、ではなく……

 勇儀に傷をつけるほどに強かったら、だ。

 相手が弱いというのは勇儀にとっては最悪だろうが、私にとっては最善だ。

 勇儀が軽く撫でて終わり。傷つくのは相手のプライドだけ。

 それが望ましいのだけれど……期待はしない。

 懐のスペルカードを確認する。もしものための逃走の手段。

 私が勇儀を助けられるとは思えないけれど……備えだけはしておく。

 などと考え事をしながら歩いていたらいつの間にか森を抜けていた。

 一気に視界が広がる。大きな――湖が見える。

 しかし、見えるだけ。

「おや。すごい霧だね」

 向こう岸が見えないほどの、霧。

「この湖のどこかに紅魔館があるって話だけど……」

 今にして思えばアバウトな説明だ。

 あの黒白らしいと云えばらしい説明ではあるが。

 だがここまで霧が濃いと探しにくい。

「ふむ。飛んで探してみるか」

「そうね……」

 昨日走り回ってる時に見たのが紅魔館だったのか自信が持てなくなってきた。

 こんな霧は記憶にないし……

 もしかしたら勇儀がはしゃぎ過ぎて霧を吹き飛ばしつつ走っていたのかもしれないが。

 ともあれ飛んで探すことにする。

 霧が濃い。飛んでも湖の大きさすらわからない。

「妖精が遊んでるな。はっは、かわいいもんだね」

 ……探す気あるのかしら。

「お、あいつなんてパルスィよりでかいんじゃないか?」

「んなわけあるかぁっ!!」

 いくらなんでも妖精に身長で負けてたまるか!

 いや育ってる妖精がいないとも限らないけどさぁ!

「つーか探す気あんの!?」

「あるぞ?」

 うわ、叩きたい。

 人がろくに見えない濃霧の中で探してるっていうに。

 本人は真面目なつもりなのかもしれないけど、全然真面目に見えない。

 損よねー。ああでもそれで苦労したことはないんだろうな人気者だしふふふ。

 一度戦っただけの魔法使いとも仲良くできてたしね。

「……パルスィ? 私なにかしたか?」

「なんでよ」

「いや、怒ってるだろ。それもすごく」

 すごくって……そりゃ不真面目にしか見えないのは…………

「……ごめん。疲れてるのかも」

 ……言われるまでもなく……おかしいとようやく自覚する。

 あれっぽっちで怒るなんて情緒不安定にも程がある。

 なんか胸がもやもやして、勇儀に当たり散らさないといけないような気がして……

 この疲れも全部勇儀の所為で、だから頭が回らなくて、

「……」

 え? ……なんで、正当化しようとしてるの?

「パルスィ」

 肩に手を置かれる。支えられているようだと思う間もなく勇儀は私の顔を覗き込む。

「戻ろう。顔色が悪い」

「……大丈夫よ」

「バカ、なにが大丈夫だ」

 疑う余地のない、真面目な顔。

「……大丈夫。本当に気分がよくなったから」

「そうか……? 少しでもダメだと思ったら言うんだぞ?」

 頷く。

 ……うん。大丈夫。胸のもやもやは……ちょっとだけど薄れたから。

「ん……勇儀、あれ」

 見降ろす先に――赤い館。

「あれのようだね……パルスィ、とりあえず行くが……」

 まだ心配してくれる勇儀を手で制す。

 過度な心配は要らない。私はあなたの重荷になりたいとは思わないんだから。

 納得はしていないようだったが、ゆっくりと降りていく。

 私も続く。

 ただ――胸のもやもやは、この霧よりも濃く、深くなったような気がした。

 



 真っ赤な西洋建築の大きな屋敷。

 見れば見るほどすごい。

 昨日は気づかなかったが周囲からの浮きっぷりが半端ではない。

「うぅむ……住人のセンスが想像つかないわ」

 どちらかといえば落ち着いた建築様式が多い旧都に慣れてるから尚更理解不能だ。

「遊び心に溢れていて面白いじゃないか」

 勇儀は豪放に言い放つ。

 ……でもそれ、多分だけれど、建築の方言ってるわよね。

 この色を認めてるわけじゃないわよね?

 歩いて近づくと、かなり大きなお屋敷だとわかる。

 パッと見で何十人も住めそうな感じだ。

「止まってください。紅魔館になんの用ですか」

 凛とした声。

 ああ、やはりここが紅魔館でいいのか。

 近づいてくるのは赤い髪の背の高い女性。

 勇儀ほどではないが、目を引く背の高さだと思う。

 ……でも、スタイルは勇儀に匹敵するほど、いい。妬ましい。

「あんたが紅魔館の門番かい?」

 ずい、と勇儀が一歩を踏み出す。

 見慣れてないとわからないだろうけど――臨戦態勢だ。

 体中が解放されるのを今か今かと待ち侘びている。

「ええそうですけど。どちら様でしょう?」

 しかし女性の方も大したもので、そんな勇儀の様子を察したのか足を止めた。

 その上で平然と喋っているのだから強者の余裕さえ見てとれる。

「言い遅れた。名乗らせてもらうよ」

 嬉しそうに勇儀が顔を歪める。

 ようやく見つけた好敵手――自分に釣り合う強敵に歓喜している。

「元山の四天王、星熊勇儀――鬼さ」

 女性の顔が、凍り付いた。

「えらく強いそうじゃないか。いっちょ喧嘩してみようかってね」

 ……うん?

「は、はい?」

 女性の目線を追えば……勇儀の赤い角。

 まさか。

 まさかとは思うが。

 ……鬼だって気づいてなかったの?

「ななななななっ!? だ、誰がそんなことをっ!?」

 強者の余裕はどこへやら、慌てふためいている。

 あーいや……私が勝手にそう思っただけできょとんとしていただけだったのかもしれないけど。

「白黒の魔法使いに紹介されてね」

「ほがぁっ!!」

 断末魔の悲鳴だ。

 まぁ気持ちはわかる。並の妖怪が鬼と戦えなんて言われたら足がもげてでも逃げ続けるわ。

「嬉しいねぇ。山を留守にしてる間にこんなに強そうなのが来てくれるなんて」

 うわぁやる気満々。話が通じる状態じゃないわね。

「お連れ様なんですよね! お友達なんですよね!? 止めてくださいよ~!」

 いつの間にか私の手を取って哀願していた。

 ……え、いやちょっと本当に何時の間に? 手を取られた感覚なかったんだけど。

「……ええと」

「あ、美鈴です。紅美鈴」

「じゃあ美鈴さん」

 合掌する。

「念仏でよければ唱えられるわ」

 南無阿弥陀仏。

「ぬがぁっ!?」

 私に出来るのはこれくらい。あとはあなたが交渉してね。

 無駄だろうけど。

「ルールは……そうだな、三本勝負で先に二回倒れた方が負け。

 弾幕妖術は無し、体術のみでどうだい?」

 ほら、どんどん話進めてるし。

「いやそんな勝手な!」

 当然の抗議だが、言われた勇儀はきょとんとしてる。

「見たところ拳法家だろ? このルールなら十二分に楽しめるじゃないか」

 戦うのが楽しいって前提で話してるわね。

 弾幕ごっこならわからないでもないけど殴り合いって何が楽しいのかしら。

 聞いてみたいところだけど、勇儀は感覚的なことしか言わないだろうし……

 ……門番さんは口をぱくぱくさせて放心してるし。

「珍しい類の客ね」

「目的は珍しくありませんわ」

 声に振り替えれば、妖怪と――人間? が一人ずつ。

 こんな霧の中だというのに傘を差した少女は蝙蝠の羽を生やしていて、見るからに妖怪だ。

 少女のやや後方で控える人間は……なんとなく使用人って感じの服を着ている。

 立ち位置からしても二人の関係は窺い知れるが……

「ねぇ勇儀。あっちとやったほうが楽しいんじゃない?」

「んー……」

 少女の方が半端ではない。

 体躯は私よりも小さいが、見ただけでわかるほどの大物感。さぞ名の通った妖怪なのだろう。

 血色の瞳は見ているだけで引き込まれそうだ。

「紹介されたのは門番だしなぁ」

 無視するのも失礼じゃないかなどと漏らす。

 ……ごめんなさいね門番さん。奇跡は起こらないわ。

「あら、まだ始めないの?」

「お嬢様……あのですね、この人なんかものすごく強そうなんですけど」

「見ればわかるよ」

 門番さんの訴えは一蹴される。相手が鬼だと云うのに慈悲の欠片もない。

 どうやら門番さんの雇い主らしい少女は薄い笑みを湛えたまま。

 この状況を楽しんでいるようにも見える。

「あんた、その門番の主人かい?」

「そうだけど?」

「そいつが強いと聞いてね。ちょいと喧嘩させてもらいたいんだ」

「鬼のあなたがわざわざ……ねぇ」

 少女は笑みを深める。

「うちの門番の名も広まったものね。ふふん。面白いじゃないか」

「お嬢様っ!?」

 ああ、なんかわからないけど火が点いた。

 門番さんの命は風前の灯火。

「美鈴、命令よ。その鬼を討ち倒しなさい」

「おじょうさまあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 合掌。





 結局ルールは勇儀が提案した通りになった。

 門番さんは半泣きで体をほぐしている。勇儀も軽く手足を伸ばして戦いに備えていた。

「やりすぎないようにね」

「そいつは相手次第さ。見た感じ楽しめそうだがね」

 そうかしら? 見た感じで言うなら全然強そうに見えないけれど。

 なんか妖怪らしさすら見受けられないし……

 勇儀が楽しめる奴には見えない。

 勇儀が、執着するような奴には見えない。

 あいつに、そんな価値が――

 ぽんと頭に手を置かれた。

「具合が悪くなったら言っておくれよ。切り上げてくるから」

 見上げるまでもなく、笑みを浮かべた勇儀の顔がわかる。

「……ん」

 見送る。

 向こうも準備はできたようで緩やかに構えを取っていた。

「あなたには名乗っていませんでしたね。……紅美鈴です」

「改めて――元山の四天王、力の勇儀だ」

 名乗りが合図だったのか、二人は同時に飛び出す。

 その時点でもう私の目では追えなくなっていた。

 なにかしているようだが、全然見えない。

 ただ鈍い音だけが響いてくる。

「ちょ、わ、たっ」

 門番さんが慌ててるように見えるが……体勢は崩れていない。

 勇儀の攻撃を捌き切っている……?

 それを受けてか、勇儀の笑みがどんどん狂暴になっていく。

「はははっ! やっぱり楽しめるじゃないか美り」

 ――爆音。

「――ん?」

 ……え?

 勇儀が、塀を突き破って――倒れてる。

 門番が、突き出したままになっていた拳を下ろす。

 素手の一撃で……あの勇儀が倒された?

 なによ、それ。あいつの主人が化物だってのはわかるけど、門番まで!?

「ふっふ……まずは一敗あとは二勝……っ!」

 瓦礫の中から勇儀が立ち上がった。

 即座に門番目掛けて飛び込み攻撃を加え始める。

 ……やめてよ。

 こんな勝負続けたら、絶対に怪我するじゃない。

 懐のスペルカードを掴む。

 ただの用心だった。使うことは無いと思っていた。

 でも――

「あなた、あの鬼の連れでしょ」

 件の化け物に声をかけられる。

「え、ええ。そうだけど」

 何の用だ。私は勇儀から目を離せないというのに。

「膠着状態に入ったわね。鬼の攻撃は当たらないけど美鈴の攻撃も効いてない」

 見えているのか。

 私は門番が倒れていないから当たれば一撃必殺の勇儀の攻撃が当たっていないとしかわからないのに。

「大振りで力任せな攻撃ばかり――しかもただ前進だけして防御は完全に捨てている」

 貶されているような気がして表情が硬くなる。

 うるさい。おまえに勇儀のなにがわかる。

「流石は鬼ね」

 ……それは褒めているのか、貶しているのか。

「それで、何の用なの」

「なに、私から見た鬼はそんな感じだけれど、あなたから見たうちの門番はどうなのかなって」

 主人なりに気になるのか。

「……強いんじゃない? 鬼の四天王から一本取ったんだから」

「そうは思ってないって顔だな」

 指摘され、黙り込む。

 そうだ。私はあの門番が強いだなんて認めていない。

 あんなのまぐれに決まっている。

「でもうちの門番は勝つわよ」

 思わず振り返って睨み付けた。

 血の色をした瞳が、笑みの形に歪んでいる。

「私が勝てと言った。美鈴は必ず鬼を討ち取るわ」

 確固たる自信。

 それ以外の結末などありはしないという断言。

 でも。

 だけど。

 そんなこと――

「吸血鬼の私が言うのもなんだけど――鬼退治ってところね」

 あるものか。

「ふざけないで。勇儀が負けるわけない」

「――へぇ」

 少女の形をした化け物が嗤う。

 愉快そうに――楽しそうに、哂う。

 スペルカードを掴む手が震えた。

 私がなにをしたって敵う筈がないと理解する。

 こいつは……勇儀や、いつかの八雲紫と同列の……規格外だ。
 
「ようやく本音が出た」

 一転して、笑みから邪気が抜ける。

「……え?」

「どうもすっきりしなかったからね。私は美鈴の勝利を信じる。あなたは鬼の勝利を信じる」

 傘をくるくる回す仕草は見かけどおりの子供で、さっきの威圧感など欠片もない。

「身の入ってない応援じゃ負けちゃうわよ?」

 毒気が抜かれた。

 こいつ、本当に大物なんだ。

 人の上に立てる奴なんだ。

 子供みたいな外見しているくせに、力も使わず私の毒気を抜くなんて。

「……そうね。負けて欲しくないから……応援しないとね」

 戦いに目を向ける。スペルカードから手を離す。

 勇儀が望んだ戦いだ。目を逸らすのは、もうやめる。

 どぉんと地鳴りまでさせて、勇儀の一撃が地面を抉っていた。

「どぉしたどぉしたぁ! そんなせせこましい拳じゃ私は倒せんぞっ!!」

 ……派手にやってるなぁ。

「うーん。あなたを焚きつけるんじゃなかったわね」

 横で少女が唸ってる。

「互角に見えるけど」

「あり得ないと思っていたけど、美鈴のスタミナが持ちそうにないわ」

 あ、勇儀の頭が跳ね上がった。

 でもその表情は笑みのまま。

 速過ぎてよく見えないけど、反して門番の顔に余裕はなさそうだった。

「一撃もらえば終わりだからね。すれすれで避けるなんて真似は出来ないのさ」

「なるほど」

「しかし一撃も防がんとは……あの鬼、マゾか?」

「否定できないのが辛いわ……」

 今朝の一件もあることだし。

 ものすごい音を立てて鉄の門がひしゃげて飛んでいく。

「ところで」

 がしゃあぁんと派手な音を立てて門が落ちる。

「門と塀の修理代はあなたに請求すればいいのかしら」

「勘弁してください」

 それにしても――当たらない、効かないと聞いた時には千日手かと思ったが、それは無いようだ。

 向かい合ったまま動けないのならともかく、こうやって打ち合っていては体力の消耗が激しい。

 遠からず、確実に終りが来るわけだ。

 何の役に立つのかわからないが勉強になった。

 しかし油断はできない。

 あの門番には、勇儀から一本を取った強力な一撃があるようだし……

「む」

 少女の声に意識を戦いに戻す。

 膠着状態に焦れたのか、二人は距離を取っていた。

 門番の構えが違う。

 素人目にもわかる、なにか……危険な気配。

 対して勇儀は――左腕を振りかぶった、愚直なまでの渾身の一撃の構え。

「……これで終わらす気?」

「の、ようね」

 応える声は軽いけれど、それに籠る想いは重い。

 少女も察しているのだ。決着が近いと。

 ――どちらも動かない。隙など見えない。

 これぞ……千日手の状態だ。

 唇が乾く。鼓動が早まる。

 見ているだけでこれなのだ。当の本人たちにはどれほどの重圧がかかっているのか。

 冬だと云うのに、暑さを感じる。

 マフラーを緩めようとしたその刹那。

 ――――動いたっ!



 耳を劈く破裂音。



 直後に鈍い音が響き渡る。

「え……? 相打ち?」

 両者共に――倒れている。

 向かい合っていたときよりも距離を開いて、方や塀の瓦礫の中。方や大岩にめり込んで。

 どちらも起き上がる気配さえない。

 勇儀。

 勇儀は……!

「いやー負けた負けた! 凄いなぁ美鈴っ!」

 大岩にめり込んだまま大笑する。

 胸を――撫で下ろす。

 勝ち負けなんかどうでもいい。

 勇儀は、無事なんだ。

 駆け寄る。視界の端に門番の方へ向かう少女が見えた。

「――大丈夫?」

「おお、すまんなパルスィ。負けちまったよ」

 ぼろぼろだけど、にんまりと満足そうに笑っている。

「バカ……そんなのどうでもいいわよ」

 無事で、よかった。生きてて……よかった。

 勇儀は岩に手をかけて――顔を顰めて手を離す。

「パルスィー、すまんが起こしてくれんか」

「え? 起きれないの?」

「腹筋ズタズタ内臓グチャグチャ。背骨も粉砕してるよ」

「なんで平気な顔してんのよ!?」

 致命傷じゃない!?

 絶句していると使用人にほとんど担がれるように門番が近寄ってきた。

「うー……死ぬかと思いましたよ……胸骨全滅胸筋断裂肺が片方破裂ですもん」

「だからなんで平気でへらへらしてんのよっ!?」

「あ、背筋も切れてるかなぁ」

 だからそっちも致命傷でしょ!?

 私が口をぱくぱくさせていると、重傷者二名は談笑を始めた。

 そして少女の音頭取りで宴が行われることに決まった。

 その後も二人は互いの健闘を称え合っていた……






 なにか、気に食わない。




























 そして夜。

 紅魔館内の大食堂で宴は始まった。

 今晩の宿は捜さずともよかった。

 少女――紅魔館の主、レミリア・スカーレットの計らいで泊まれることになったのだ。

 なんでも「観客を楽しませるいい試合だった」から労ってくれるらしい。

「命令通り勝利を掴み取ってくる。流石うちの門番は優秀ね」

 何度目かわからない乾杯を一人でするレミリア。

 使用人はせわしなく動き回ってるし勇儀と門番は呑み合ってるしで誰も応じない。

 ……仕方なく私がコップを掲げた。

「いやしかし神ならぬあやかしの身でよくここまで鍛え上げたもんだね」

「あははー。馬鹿の一つ覚えですよー」

「いやいや。最後の一撃、あれは見事だった」

 お酒をがぶがぶ飲みながら次々と出される豪勢な食事を食べる二人。

 ……門番はさておき、内臓ぐちゃぐちゃじゃなかったの勇儀。もう治ったのか。

 なんとなく居心地の悪さを感じながらお酒をちびちびと呑む。

 ……葡萄味でおいしい。

「あんたともやりたいなぁ」

 いい感じに酔っ払った勇儀は酔い潰れたらしい門番を放りだしてレミリアに絡み始める。

 背後に転がる酒瓶の山。

 ……二人で何升空けたのかしら。

「お断りよ。泥臭い殴り合いなんて冗談じゃないわ。貴族ですもの」

「残念だなぁ。惜しいなぁ。じゃあ普通に勝負はどうだ?」

「一里四方……いえ、上下も入れて一里八方、根こそぎ消し飛ぶけどいいのかしら?」

「うーん。そこまで派手にやっちゃうとなぁ」

 幻想郷を消す気か。

 レミリアを口説くのは諦めたようでまた呑み始めた。

 門番は酔い潰れてるんだから酒瓶を口に突っ込むのはやめてあげた方がいいと思う。

 呑んでるみたいだけど。

「よぉーっしゃあっ! 脱ぐかぁっ!!」

「弩阿呆おおおおおおぉぉぉぉっ!!」

禁忌「一升瓶フルスィング」

 この妖怪は特殊な訓練を受けているから大丈夫! 良い子は絶対真似しちゃ駄目よ!!

「ほほほ失礼。ちょっと裏で説教してきますわ」

 角を掴んで引き摺って大食堂を出る。

「咲夜、殺人事件だわ」

「白昼堂々としててミステリ性は皆無ですわ」

「うへへ~。勇儀さんもう一杯くらはい~」

 なんて会話が聞こえてきたけど無視無視。

 やたら広くて長い廊下を曲がり角まで進んで即勇儀の襟首を掴み上げた。

「そんなに脱ぎたいか。そんなに見せつけたいか、あぁ?」

「すいませんパルスィさん。怖いです。メンチ切るのやめてください……」

 酔いが一回転したのかがたがた震えてる。

「というかだな、今回は本当になんで怒られてるのかわからないんだが……」

「あ? なにいつもはわかってて怒らせてんの? わざとだったの?」

「違いますすいません本当に違うんです話を聞いてください」

 なんでがたがた震えて目線逸らしてんのよ。

「と、兎に角な? ほら、なんで怒ってるかわかれば次から気をつけれるじゃないか。な?」

「なんでって――」

 それは、

「……色々あり過ぎて、何から言えばいいのかわからない」

「そんなに怒らせてたのか……?」

 怒っては、いる。いる、けど。

 言葉がうまく出てこない。

 言いたいことはいっぱいあるのに、全部が全部抽象的になってしまって、言葉に出来ない。

「魔法使いにっ!」

「は、はい!?」

「あの、黒白の、魔法使いに、やたら構うし」

「え、あ、うん?」

「レミリア、口説くのに、必死だったし」

「う……うん?」

「すぐ、脱ごうとするし」

 あぁ……もう、止まらない。

「だって、美鈴、さんのことは褒めっぱなしで。……私のことは、そこまで褒めたりしないじゃない」

 なんだろうこれ。

「それに、あんないっぱい居るところで、脱ぎだすし」

 伝わるわけない言葉の羅列。

「……他の人に、見せたくない、じゃない」

 ――泣きそう。

 もうどうすればいいのかわからない。

 なんでこんなことしてるんだろう。

 勇儀、絶対呆れてる。

「あぁ――もうっ」

 手を離そうとしたら――抱き締められた。

「え、ゆ、うぎ?」

 苦しい。そんな力いっぱい抱きしめなくたって。

「って、ちょっ」

 頭をわしゃわしゃと撫でまわされた。

 髪がぐしゃぐしゃになっちゃう。

 肩を掴まれて、がばっと視線を合わされる。



「駄目だろパルスィ、そんな、嫉妬の不意打ちされたら」



 形容しがたい顔で――勇儀は私を見つめていた。



「我慢、出来なくなる」



 余裕の無い、顔。



 戦っている時よりもずっと辛そうな顔で……私を見つめている。



「――くちづけまで、だからね」



「わかってるよ」












「……浮気したら、ハラキリだからね」
「咲夜、ミステリじゃなくてラブロマンスだわ」

「お嬢様がご覧になられるには500年ほど早いかと存じます」

「……洗面器……洗面器……」

十五度目まして猫井です

星熊勇儀の鬼退治シリーズ十本目は久しぶりに甘くなりました

パルスィの嫉妬はものすごく可愛いと思います
猫井はかま
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コメント



0.2780簡易評価
2.100煉獄削除
甘いというかなんというか。
自然と笑みが浮かぶ二人の行動ですね。
後書きのオチも面白くて良かったですよ。
10.無評価名前が無い程度の能力削除
続編が気になります!
12.100名前が無い程度の能力削除
私の中で勇パルのジャスティスがこのシリーズに確定されましたw
まだまだ続くのでしょうか?期待して待っております!
21.100名前が無い程度の能力削除
甘ー
22.100露草削除
勇パルに目覚めました!!
続編あるのでしょうか!!?
頑張って下さい!!
24.100名前が無い程度の能力削除
甘いって言うか・・・台詞回しにセンスが溢れてますね。
なんかまさに大馬鹿騒ぎの幻想郷って感じ。

へきゅっ
28.100名前が無い程度の能力削除
いやーよかった。失礼な事を言ってしまうと過去編は現代の関係がわかっている分だけ茶番臭がして退屈だったんですよ。
それが現代の話に戻った途端、勇儀が鬼の豪快さでもって話を気持ち良く進めてくれる。
竹を割ったような快活さがあって気分の高揚する作品でした。
29.80名前が無い程度の能力削除
やばいなぁ
ほっぺがゆるゆるになっちゃった

>「一里四方……いえ、上下も入れて一里八方、根こそぎ消し飛ぶけどいいのかしら?」
上下入れたら六方な気がしますがどうでしょう?
30.100奈々樹削除
言うことは一つ。
甘くて死にそうですww
38.100名前が無い程度の能力削除
あま~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!

美鈴どんだけ飲んだんだ・・・
39.100名前が無い程度の能力削除
勇パル可愛い、めーりんもカッコいい!!
44.100名前が無い程度の能力削除
カッコいい美鈴が読めて感激です!!
そしてオチ甘い!!!!!!!!