「はぁ……」
れいむさんはお空のくもをながめて、ふかくため息をつきます。
手元には、全国100万人の巫女さん必見「週刊『巫女さん日和』」がしっかり握られておりました。
今週の特集は「春にぴったり、巫女のための千早着こなし術」です。
れいむさんってば、常日頃から「腋巫女」とか「腋」とか「脇毛」とか「痴女」とかよばれるほどの
せくしぃな巫女服をきていたので、 たまには「千早」なんかも着てみたいと思っておりました。
今着ている服も大好きですけど、まあたまには夢みたっていいじゃありませんか。
だけど幻想郷で巫女グッズを売っているところなんてありませんし、ぶきっちょなれいむさんに
自作は無理な話です。
れいむさんはうっぷんばらしに大きな声で叫びます!
「ああ、どこか器用でセンスがよくて、快く千早を作ってくれるような神様はいないもんかしら!」
「はーい!あたいとうじょうー!どーん!」
突然れいむさんのスカートの中からチルノちゃんが飛び出してきました!
おまえどこにかくれてんだ!
反射的にれいむさんの夢想封印がチルノちゃんを襲います。チルノちゃんは残機が1つへりました。
*
「んで、かくかくしかじか、こういうわけで、そういうことなの」
「はいはーい、そいうことね」
れいむさんは、今回の一件をチルノちゃんに相談することにしました。
いや相談せざるを得ないといった方がただしいようです。
チルノちゃんってば、れいむさんが悩んでいることを打ち明けねば、夢想封印を使用して
残機をうばったことについて、法的措置を講じるといってきたんです。
まったくチルノちゃんってば馬鹿なのか天才なのかわかりません。
「まかせておいて!お洋服の一つや二つ、どーってことありゃしないんだから!」
話をひとしきり聞いたチルノちゃんは、自分のおむねをドンとたたき、やる気満々です。
それに、たいしてれいむさんってっばジト目です。だって、計算の一つもできないチルノちゃんが、
ある意味計算の固まりであるお洋服なんか作れるんでしょうか。まったくをもって疑問です。
「ふふふ、だれもしらないだろうけど、あたいってば、いわゆる匠なのよ!くうかんのまじゅちゅし!」
しかし、チルノちゃんはそんなれいむさんの不安を吹き飛ばしました……え、吹き飛ばしたの!?
どこの受け売りかしりませんけど、チルノちゃんは「くうかんのまじゅちゅし」という二つ名を
手に入れていたようです。
これは期待してもいいかもしれません。言葉の意味はさっぱりですが、なんかすごそうなんですもの。
*
くうかんのまじゅちゅしチルノちゃんはゴムひもをつかって、れいむさんのしんちょうや
バスト(はかるまでもない)やウェスト(ひもがたりない)をはかります。
そして、地面に数字を書き込んでいくのです。全部⑨ってかいてありますけど気にしない、気にしない。
れいむさんの全身をくまなくしらべて、準備万端です。
「それじゃあ明日の日の出後すぐに、鳥居の下で待ち合わせね」
れいむさんと約束をして、チルノちゃんは自分の巣(本人談)に戻ることにしました。
徹夜で作るのは初めてのことですが、大丈夫きっとできます。
さて、ここからが皆さんおまちかね、魅惑のチルノちゃんタイムです。
くうかんのまじゅちゅしさんの超まじゅちゅをとくとごらんあれ。
「きょえーー!」
れいむさんからもらった手触りのよい高級なシルクを、雹符「ヘイルストーム」の力を
お借りして思い通りの形に切り刻んでいきます。
ええ、切り刻んだんです!後に残ったのは粉々になった布状のものだけです。
「・・・こまった!」
でも、そこは空間のまじゅちゅし!すぐに新たなアイデアで対応します!
まず代わりになる布をさがします。おお、雑巾があったこれは使えそう!
色とかがシルクに似ているんでこの間ひろったポケットティッシュも利用できそうです。
なんということでしょう。
ありあわせの材料ながら、少しづつ匠の思い浮かべる姿が形となっていきました。
そして、空が白み始めたころ、ようやく千早は完成したんです!
真っ赤な目が痛々しいですがチルノちゃんはがんばりました!
「えへへ。れいむ、きっとよろこんでくれるよね」
見た目はとてつもなくボロですが、チルノちゃんの愛情はこもっているようです。
*
翌朝チルノちゃんは、完成した千早を持って博麗神社に向かいました。
約束通り、鳥居の下にれいむさんがおりました。
チルノちゃんは千早をれいむさんに渡します。
「……なに、これ?」
れいむさんは千早(のようなもの)をじーっとながめると、
ぽいっ、とまるでボロ雑巾でも捨てるかのごとく、そこいらに投げてしまったんです。
いや、実際にほぼボロ雑巾だったのは確かなんですけどね。
これにはさすがのチルノちゃんもショックでした。
寝ないでがんばりましたし、針で99回ほど指も刺しました。
だけどようやく完成したのです。それなのにれいむってば……
「あたい、がんばったのよ……」
えぐ、えぐ、とチルノちゃんは泣きます。涙が熱くって体が溶けちゃいそうになりますけど、
それでも涙は止まらないんです。
「チルノ……」
その姿を見たれいむさんはハッとしました。
そうです、れいむさん的には軽い気持ちで頼んだ千早作りですけど、
彼女は彼女なりに全力を尽くしてがんばってくれたのです。それを無碍にしてしまったことに、
れいむさんは気づいたのです。
「わかった、ありがとうねチルノ」
そして、れいむさんは千早をきます。氷の妖精が作ったはずのそれは、
普通の千早よりも、ずーっと暖かいような気がしました。
「えへ、れいむ、よかったね」
チルノちゃんは涙を拭きながらえへへって笑っていました。
しかし、れいむさんの鼻をなにか強烈なにおいが襲います。むちゃくちゃ強烈なにおいです。
「・・・チルノ、このにおいはなあに?」
「あ、きのうこぼしたチルミルクをそれでふいたから!」
そう、これは牛乳雑巾のにおいです。いわゆるバイオテロの材料と呼ばれるあれです!
この日、チルノちゃんの残機がまた一つへりました。
……作者名と後書きで「もさ」の回数が違うのにはツッコむべきか否か……
ギャグとほのぼのとおバカさ加減がいい感じに混ざってて面白い。
作者様におかれましては、是非このスタイルを貫いて欲しいと思う所存ですw