夢を見た、彼女が生きていたころの夢。
田植えが終わったある日の夕暮れ時だった。
野良仕事からの帰り道、誰かが僕を呼んだ。空を仰ぐと、まるで地上に降りたばかりの天女のような彼女が松の木に腰掛けていた。
僕は木登りは得意ではなかったのだけど、必死に同じ高さまで登り、見事たどり着くとそんな僕を褒めてくれたのだ。
「ねえ、妖怪の弾幕って見たことある?」
「ううん、どんな感じ?」 妖怪の弾幕、そんなものは生まれてから一度も見たことがなかった。
「妖怪退治の手伝いで他の里に行ったときに見たんだけど、博麗の巫女さんと妖怪の女の子が弾幕ごっこしててね、すごく綺麗だったよ」
「綺麗、でも僕らにとっては危険と隣り合わせの代物だよ」
「そうね、でももし、私が妖怪に殺される運命だとしたら、あんな綺麗な弾幕に包まれて死ねれば良いなって思うの」
「縁起でもねえことを言うなよ」
「もちろん、そう簡単に死ぬつもりはないわ、でも、もしその運命が避けられなかったとしたら、利害対立とかじゃなく、純粋な人と妖怪の関係性の中で死にたいの。それに、私も妖怪退治を生業にしている者。覚悟はしとかなきゃね」
言いながら、遠い空を見つめた。いや、彼女が見ていたのはもっと別の何かだったのだろう。
正直、彼女より顔立ちの良い子は村に何人かいたのだけど、でも目的意識を持ち、宿命を受け入れている彼女の横顔はそれはそれは魅力的に思えたのだ。
「覚悟はできてる、か。でも……」
あの人はもういない。あの妖怪のせいで……。
太陽が沈み、黒い衝動が沸き起こる。
「復讐鬼としてではなく、あくまで妖怪退治師として戦いなさい」
負の感情に染まってゆく僕を霊夢さんが叱咤する。
「でも……」
「そんなスタンスじゃかえってあの子の名誉を傷つけることに他ならないわ」
「彼女の名誉? もちろんそのために僕は戦っている」
「なら、あくまで誇り高き巫女の遺志を継ぐ者、私怨ではなく、妖怪を退治する使命を帯びた者として戦いなさい」
現実の世界と同じことを霊夢さんに言われた。そこで目が覚めた。
ある秋の朝、僕は早めに起床し、身支度と朝食を手早く済ませ、背嚢を背負い、花束をもって墓地へ向かった。野良仕事は両親に頼んで休ませてもらう。
今日は彼女の一周忌。
僕は一人、田んぼの中の小道を歩いている。
小さいが、雰囲気の違う羽虫が僕の周りを飛んでいた。
「うっとうしいな」
僕を監視しているのだ。リグル=ナイトバグの使い魔だろう。
手を振って虫を追い払おうとしたが、僕から一定の距離を置いてついてくる。
「まだ襲わないよ、もう少し待てよ」
気にしてもどうしようもないだろうから、かまわず歩く。
風になでられ波打つ稲穂が、例年にない豊作を約束していた。
別の方向を向くと、完成間近の橋が小さいながらも誇らしげにその姿を見せていた。
村は徐々にあの日の衝撃から立ち直りつつあるようだ、僕の気も知らずに、いい気なものだ。
と思った自分にこう言い聞かせた。
いや、悲しみを乗り越え、村は再生を果たそうとしている、だから僕も再生するのだ、と。
ルーミアに勝ち、新たな一歩を踏み出そう。
妖怪を完全に消滅させるのは不可能でも、人間の力を奴に、いやあの妖怪に見せ付けるのだ。
家から田んぼを抜け、森に近い墓地に彼女の墓があった。
御影石の立派な墓石、村を守護していた彼女のため、人々がお金を出し合って作ったものだ。
僕は彼女の墓石を墓地内の井戸水で清め、花束をささげ、静かに両手を合わせて祈る。
見守っていてほしい、ただ復讐に生きるのではなく、愛するひとびと、愛する村を守る。
そう、君がしていたように。
僕は心の中で誓ったあと、桶と柄杓を元の場所に返し、墓地を後にした。
今日野良仕事を休ませてもらったのはお墓参りだけが理由ではない。
弾幕使いとしての仕事があるのだ。
咲夜の日記奪取
依頼主:レミリア=スカーレット
前払い報酬:30,000紅夢
依頼内容:見たとおり
近頃うちのメイド長、十六夜咲夜がろくに口を聞いてくれないの。
彼女が本当は私をどう考えているのか調べるために、日記帳を盗んできて欲しいのよ。
こういうのは身内にやらせると人間関係とかいろいろあってアレなので、傭兵に金払ってやらせることにしました。これなら咲夜に見つかって殺されても、『ただの変態が忍び込んだだけ、幻想郷ではよくある事』でごまかせるから便利ね、文句あるかしら? 私は支配階級よ、これくらいの要求は許されるはずよね?
PS そういえば、私が弾幕使いを名乗るのを許した少年、どこで何してるのかしら。
ルーミアを倒せるのなら、これくらい朝飯前でしょうね。ま、無理にとは言わないけれど。
ずいぶん自分勝手な言い方だが、これは実質、僕への呼び出し状だろう。
本当にレミリア様と咲夜さんが喧嘩中なのかは知らないが、ようは『どれだけ強くなったか見てやるから来い』と言っている様に聞こえる。望むところだ。
僕は人目を避けて森へ入り、霧雨魔理沙が使う八卦炉に似た魔道具を取り出す。
これは河童製の霊力増幅器だ、これで増幅した霊力を文さんに習って作った護符にこめると、僕の体がふわりと空に浮き、目的地へひとっとび……
ではなく、アリス=マーガトロイドの人形を召還する準備が整うのだ。
空を飛べない僕のために、文さんの紹介でそういう術を準備してもらったのだ。
10分ほどして、数体の人形が飛んでくる、僕が手を振ると、人形たちは僕の元めがけて高度を下げ、ちょうど目の高さに浮かんで止まった。あらかじめ用意していた地図を人形に見せる。
「シャンハーイ(どこへ行くの)」
「この場所へ連れて行ってほしいんだ」
「ホラーイ(了解)」
人形たちは僕の手足を見えない力のようなもので拘束し、目的地へと運んでいく。
暮らしている村が眼下に見えた、仕事に向かう村の人たちの姿も見える。
川の上流に視線を移す。橋のかかっている場所からさかのぼるにつれて川幅が狭く、山が急峻になり、やがて一本の丸木橋が見えてくる。かつては山の妖怪たちに通行料を払い、村の行商人たちがここを通っていたのだ。妖怪たちに邪魔されなくとも、妖精のいたずらで遭難する事もあり危険だった。こうして空から二つのルートを見ただけでも、新しい橋がどれほど村に利益をもたらすか、数字に強くない僕でも一目で分かる。
その利益を考えれば、代償に毎年赤ん坊の一人を妖怪たちへ里子に出すのもやむを得ない、という考え方自体は決して理解不可能ではない。でも僕は釈然としない。村の利益のために、一人を犠牲にするなんて。
だがそうは言っても妖怪の勢力は非常に強く、彼らを敵に回せば村のみんなを守りきれない可能性はある。襲撃に成功した砦も外部の弾幕使いの支援があってのものだったし。その砦も彼らの出張所のようなもので、山奥にある根拠地に手を出すのは危険きわまる。戦い続けて不利になった段階で和睦を結ぶよりは、相手の士気が落ちているうちに話をつけたほうが得策だ、と村の寄り合いで判断されたらしい。僕も万能ではない。いったいどうしたら良いのだろう。いくら考えても良い案は浮かばない、人と妖怪との関係はこういうものだと割り切るしかないのかもしれない。
考え事をしていると、いつのまにか湖の上空だった。やがてあの館が見えてきた。
かつて、僕が力を求めてたどり着いた場所だ。
「ホラーイ(坊主、作戦領域へ到達したぞ)」
人形の拘束が解かれ、僕は門の前に降り立った。
「ありがとう、人形たち」
「シャンハーイ(気をつけて)」
「終わったらまた君らを呼ぶよ、さあ、早くここを離れて」
「ホラーイ!(Good Luck! 死ぬなよ)」
僕は去っていく人形に手を振り、弾幕生成の準備を始めた。
門番が目の前に立ちはだかっていた。
よく覚えていないが、かつて来たときは居眠りしていたらしい。
「話はお嬢様から聞きました、あなたがお嬢様の依頼を受けるにふさわしい者かどうか、ここで試させてもらいます」
門番の手のひらから七色の光が生まれ、横殴りの雨となって僕めがけて降り注ぐ。
このくらいならまだ避けられる。両足に気合を入れ、左右へ飛び跳ねながら回避に専念する。
*
私はとある依頼で鉱山跡に来ていた。なんでも妖怪版『結社』とでも言うべき者たちのアジトがあるらしい。
アジトがあると推定された場所までは少し距離があったが、すでに数匹の獣じみた妖怪を剣で切り裂いている。
次にやはり人間の姿をとらず、動物に近い姿の鳥妖怪が3体、弾幕を撃ちながら接近してくる。
威力は低いが普通の人間なら即死レベルの弾幕。それをあまり華麗とはいえないステップでかわし、地面を縫うように飛んで急接近、うち一匹の前で高くジャンプし、脳天に剣をつきたてた。そいつの死体を盾代わりにし、魔力を手のひらに充填、ホーミング弾を生成し、残りの2体を吹き飛ばす。
敵の本拠地を捜し求め、坑道の中を走った。照明など当の昔に無くなっているが、もともと闇から生まれた妖怪である私にはむしろ心地よいとさえ言えた。走っている最中に突如側面に気配を感じる。鉈のような武器が私に向けて振り下ろされた。それを右手に持った剣で受け止め、左手の魔弾で仕留めた。その妖怪は人間型だった、私と同じの。だが感傷に浸っている余裕はない。先を急ぐ。
前方にぼんやりとした光が見え、近づくにつれて光が強くなってゆく。
「光? この先に何かあるか?」 私は使い魔に尋ねた。
~前方に巨大空間を探知~ 簡潔な答えが返ってくる。
そこがボスの居場所か? 鋼鉄の扉から光が漏れている。蹴破ると、やはり大きな空洞があった。天然の洞窟なのか人口の空間なのかは分からない。ずっと前に紅魔館の図書館に絵本を借りにいった事があるが、本棚を全部取り払えばこれくらいの広さになるだろう。
照明の照らされた空洞に大きな金属の筒や板のようなものが置いてあり、鉱物的な油の臭いが全体に立ち込めていた。組み立てていたらしい妖怪や妖精がいっせいにこちらを振り向いていた。組み立て終わった金属の構造物はさながら巨大な鳥のようだ。これは前に紅魔館の絵本で見たことがある、飛行機というやつだ。空を飛べない外界の人間たちが作り出した道具で、人間や荷物を載せて速く高く飛ぶことができるらしい。平和な輸送にも、戦争にも使うことができるようだ。雰囲気からしてこれらの役割は後者に違いない。
「これを見られたからにはただでは返さん」
銀髪で白い肌をした妖怪の男が目の前に飛んでくる。右手に鈍く光る剣を持ち、左手にスペルカードらしきものを持っていた。
「お前がここのボスか? これはお前たちの武器か?」
「そうだ、ここにいる者達はみな仲間を結社の人間に殺された、報復は当然の権利だ」
迷いのない声が空間に響き渡る。
作業に当たっていた妖精や妖怪は物陰に隠れてこちらを窺っている。
幼い顔の者も多い。
「結社はすでに解体された、戦いはもう終わったんだ」
「お前も妖怪ではないか? なぜ人間の肩を持つ? あいつらのせいで私の妹は……」
男が悔しそうな目で問いかける。両手がかすかに震えている。
思い出すだけで辛いのだろう。
愛する者を殺されたというのは本当に違いない。しかし……。
「どうやらこれは爆撃機とかいう類だろう、人里に無差別に落とせば関係ない人間も巻き込まれ、さらなる報復を招きかねん。復讐なら当人をピンポイントでさらった方が簡単だ。」
なぜか自分のキャラクターに不釣合いな言葉が出た。
「選んで殺すのが、そんなに上等か? あいつらは俺の妹を妖怪だからという理由で殺した、だからやつらも人間であるという理由で殺されても仕方がない。それとも何か? 復讐は何も生まないだの、平和共存を目指すべきだの、お前も妖怪の分際で人道主義とやらを説きに来たクチか、偽善者が!」
偽善者? 私が? そうなのか? そうなのかも知れない。
「費用対効果のことを言っている。無差別にやれば博麗だの八雲だのうるさいのを敵に回すハメになる。それに私は依頼でここに来た、人道主義を説きに来たんじゃない。私はただの、金と、闘争心と、いくばくかの食人欲求で動く傭兵だよ」
そう、所詮私は聖者ではない、人を喰い、人に恐れられる存在。
「ならば、欲求とやらをを存分に満たして死ね」
男が飛び掛ってくる、私も反射的に切り結び、相手の隙をうかがい、斬撃と弾幕をぶちまける。
どうやら、襲い掛かってくる者に対しては私はまだまだ冷酷でいられるようだ。
幸運なのか、不幸なのか?
だがそんな疑問も、闘争の興奮に埋没していった。
*
「まさか、咲夜の操りドールまで抜くとは思わなかった、それに、ただ復讐心ギラギラだったあの時より、目つきも澄み渡ってる」 とレミリア様がそう評した。
「あの時は必死というか、見ていられなかったですわ」 と咲夜さん。
応接間で、僕はぼろぼろになった状態で紅魔館の面々の前にいた。
あれから門番の美鈴さんのスペルカードをかわしきり、力を認められ館に入った後、小悪魔さんの悪戯をかいくぐり、パチュリー=ノーレッジさんの精霊魔法に耐え、日記のある部屋の前で咲夜さんに挑戦されたが、その後力尽きて倒れてしまった。そして、気がつくとこの客間に座らされていたのである。
「だまして悪いけど、咲夜の日記なんて実在しないわ。お察しのとおり、ここに呼んだのは貴方の力を見たかっただけよ。一応貴方は紅魔館認定の弾幕使い、弱すぎると私の沽券にもかかわるしね」
レミリア様はそう言って、僕に紅茶を勧めた。カップを手に取り、一口飲んでからこう切り出してみる。
「レミリア様、ひとつ伺ってもいいですか」
「あの時に比べて随分しおらしくなったのね」 咲夜さんが言った。
「ええ、少しは妖怪と戦って、舐めてかかると危険だということを思い知らされましたよ」
「そう、失敗に学ぶのは大切なことよ、それで質問とは?」
「はい、正直のところ、今の僕はルーミアを倒せるでしょうか?」
「その答えは、イエスでもありノーでもあるわ」
「とおっしゃいますと?」
「スペルカードルールに基づく決闘なら、6~7割は勝てるでしょうね、でも、本気の命のやり取りになると、まず死ぬわね」 きっぱりと言い切った。
「確かに、貴女方妖怪は人間の幻想が生んだ存在だという人もいます。そうだとすれば、人間そのものが消滅しない限り完全に倒すのは不可能でしょう、でも、あの妖怪に対して、僕の力はここまでだという所を見せてやりたいんです。一矢報いたいんです」
「いちおう警告はしたし、そこまで言うのなら頑張ってみなさい。少しでも善戦できるよう、貴方の運命をいじってみるわ」
「レミィらしくもないわね。そんなにこの子に興味あるの?」 パチュリーさんが口を挟んだ。
「なんだかんだ言って、貴重な男の子の弾幕使いよ、当然でしょ」 レミリア様が微笑む。咲夜さんが少し渋い顔をした。
「でもね、貴方」 レミリア様が続けた。
「貴方の目は誰かをクールに殺せる感じじゃない」
「肝に銘じます」
その後、僕は帰っても良いといわれたが、廊下の途中でパチュリーさんが僕の袖を引っぱり、小さな部屋へ連れて行かれ、こんな誘いを受けたのだった。
「君、レミィはああいっていたけれど、実は咲夜の日記は存在するの、咲夜が書いているのを見たって美鈴が言っていたわ、内容を読んで聞かせてくれたら、図書館の使用許可を出しても良いわよ」
図書館、もしかしたら弾幕技能の向上に役立つかもしれないし、それに僕らオリキャラ連中にとって神秘のベールに包まれた紅魔館の素顔が見られるのかも。僕は2割の修行目的と8割の好奇心で引き受けることにした。
「今咲夜はお茶の後片付けをしているし、美鈴に先行させているから危険は少ないはずです」
どうやらパチュリーさん自身は動きたくないらしいだ。
嫌なら別にしなくても良いと言われたが、好奇心を抑えることができなかった。
赤い絨毯の敷かれた廊下をしばらく歩き、そっとそのドアを開けた。鍵はかかっていなかった。
なんと、美鈴さんが、タンスの中から取り出したらしい日記帳に見いっているではないか。
「うふふ、咲夜さんにこんな秘密が……はっ!」
僕の気配に気づき、こちらを振り返った美鈴さんの顔が青ざめた。
同時に背後に殺気を感じた。
顔が青くなったのは僕に見られたからではない!
「き、君はあの少年、わ、私は何も知らなかったのよ。咲夜さんが、胸にあんなものを……」
美鈴さんの額にナイフが生えた。
支えを失った彫像のように、美鈴さんは無言でその場に倒れ付した。
殺気は明らかに僕にも向けられている!
勇気を出して振り向くと、そこには引きつった笑顔の咲夜さんが無数のナイフと共に…….
「何を読んだ? まあいい、消えろ」 親指を立て、それをぐるりと下に回した。
彼女の顔が浮かんだ。
ああ、どうやらルーミアを倒せないまま君のところへ逝くようだ。
*
結果的に、銀髪の妖怪は倒せた。
代償として、私の片腕が床に転がる事になったが。
倒れた男の顔を見る。
瀕死の男の目がかすかに動き、こちらを見つめて言った。
「本来なら、片腕を犠牲にしなくても勝てたはずだ。だが、お前の顔つきで分かった、お前、俺に同情していただろう」
心臓が跳ね上がった。
「何を、言っている?」
「良心とやらが目覚めた偽善者の目をしていた、そんな事では……、もうお前は殺せない。いずれ狩られる側になる」
男は言い残すと息を引き取った。
ふわふわと漂う男の魂魄を吸い込み、残っていた妖怪や妖精に告げる。
「いずれ人間どもの本隊がやってくる、さっさとここを去れ、復讐心は妖怪の癖に人間に加担し、お前たちのリーダーを殺した私に向けろ!」
作業していたものたちを外へ出し、飛行機と製造機械を全て破壊した。これが人間の手に渡っても良い事は無さそうだ。
私が人間への情に目覚めかかっている、そう同胞に断言された。やっぱりそう見えるか。
私もヤキがまわったようだ。でも、あの少年に対するいいハンデになるだろう。
人間は妖怪を食い、人間は妖怪を退治する。
絶妙なバランスの元で成り立っている幻想郷は、どちらが増えすぎても害が生じる。
私は多くの人を喰らってきた、いつか自分が喰われるターンもめぐってくるだろう。
ならせめて意味のある倒され方をしたい。
人と妖怪の関係性の中で死にたいのだ。
かつて私が喰った弾幕少女と、復讐しようとしている少年の顔が浮かんだ。
「君が終わらせてくれるのなら、私は嬉しいよ」
我ながらくさい台詞に苦笑する。
*
夕方まで紅魔館のトイレや台所、図書館の掃除をさせられてようやく帰らせてくれた。
パチュリーさんはしれっとした顔で『ついでに本棚の整理もお願い』といいやがった。
主犯格はお前だろ、と言いたかったが、脅されたわけではなく、引き受けたのは自分の意思だ。
ちなみに美鈴さんはもう復活していて、へとへとになって帰る僕を見送ってくれた。
村のおじさんたちのように、僕も夜雀屋台で飲みながら愚痴をこぼす。聞き役はいつものミスティアと文さん。
「最っ低、いくら悪魔の従者と言ったって、あのメイドも女の子、日記を盗み読みされて怒られないわけないじゃない」 ミスティアはカンカンに怒っている。
「プライバシー暴きを教えた覚えはありません。さすがに自業自得ですよ」 文さんも少し顔が引きつっている。
完全に嫌われたかもしれない。日記を盗み読みしようと言い出したのはパチュリーさんだし、プライバシー暴きに関してはお前が言うなという気がしないでもないが、これ以上弁解しても印象を悪くするだけだろう。
「ごめんなさい」
「まあ、記事ネタが生きて帰ってきただけでも良しとしますか」
文さんは言いながらヤツメウナギを口にした。相変わらずの口調だ。
「はい熱燗、今度やったら一服盛るよ」
ミスティアにも釘を刺された。
だが文さんのおかげで僕が強くなれたのも事実だ。
ミスティアもなんだかんだで僕の注文を手抜きせずに作ってくれる。
これが人と妖怪との新たな関係なのかもしれない。
だが、ルーミアとのけじめはつけなければならない。
レミリア様は僕は殺しには向かないと言った。
ルーミアを殺さない、あるいは殺せないにしても、あの妖怪は僕の仇、超えるべき壁だ。それに…….
「ところで、まだルーミアと戦いたいですか?」 文さんが確認するように聞いた。
「はい、もう一度僕は彼女と戦う、そう決まってるんです」
「もう、宿命のライバルといった感じですね」
「あるいは……歪んだ一種の恋、なんちゃって」 さっきとはうって変わって、ミスティアがおどけた調子で言う。
「ミスティ!! 言っていい事と悪いことがあるぞ」
「あはは、ごめんごめん」
ライバル? ある種の恋?
馬鹿げた事を、と一瞬思ったが、確かに僕はルーミアに対して、憎しみだけではなく憧れのような感情さえ抱くようになっている。
愛情の反対は憎しみではなく無関心であると誰かが言った。
どちらも執着で、焦がれる感情には違いない。
それならそれでもいい、僕はあの妖怪に挑戦するのだ。
一匹の羽虫がか細い羽音を鳴らし、僕の前から飛んでいった。
*
一週間ほどたち、都合の良いことに切り落とされた片腕が再生した。
しかし、再生に魔力を使ったので少し力は落ちている。
ずっと闇の中で休んでいれば、そのうち完全に回復するだろうが、それではあの少年へのハンデにはならない。
もちろん簡単に退治されてやる気はないが、それでもあの少年にも勝てる余地を残してやるのが妖怪の務めだと思う。
スペルカードルールでは勝っても負けた相手を殺さないことになっている、だが私が負けたとき、あの少年は私を生かしておくだろうか? あるいは私が勝った時、私は少年を喰うべきだろうか?
思考の袋小路に入りかける。
いや、細かいことは考えず、妖怪として、少年と真剣に向き合おう。
それさえできれば、その果てに私が生き残っても、少年が生き残っても、二人とも生き延びるか相
打ちになったとしても、きっとそれが最適解だろう。そうに違いない。
それはそうと、朝食を簡単に済ませ、リボンをつけ、外に出る、今日はリグルと遊ぼう。
森の中をうろついてリグルを探す。遊びに行こうと誘うと、彼(?)は喜んでついて来た。
前のときのように人里でお菓子を買ったり、魔理沙に絡まれてみたりした。
家を出る前に見繕ったいくつかの珍品を彼女にくれてやる。
魔理沙は不思議そうな顔をした。
「どういう風の吹き回しだ?」
「たまには良いじゃない、いらないからあげるわ」
「もしかして、身辺整理とかか?」
魔理沙は何かを感づいたようだ、リグルも不安そうな顔をする。
「ううん、魔理沙と違ってモノにはこだわらないの」
「そうか、まあ、元気でな」
魔理沙は帽子を取って胸に当て、私にお辞儀をした。
彼女らしくもない。まるで今生の別れとでも言うような声色だった。
その後適当にぶらついて、神社でお茶を飲ませてもらったりした。
霊夢も私の雰囲気が普段と違うことに気づいたらしい。
「あなた、覚悟を決めたような顔ね、あの男の子と対決するのね」
「うん、きっとそうなると思う、でも、私はいつもの私だよ、人を襲ったり、退治されたり、いつものルーミアだよ」
「まあ、あんたがそう簡単に消滅するようなタマじゃないでしょうけど」
「霊夢、それよりリグルんが不安がるから話題変えようよ」
「ごめん、それじゃあ買い物に行くから、一緒に来る?」
「うん、面白そう」
それから私は霊夢の買出しに付き合い、リボンを取った大人モードを駆使して値段交渉をしてやった。
「ご主人、博麗の巫女は栄養不足だ、もうひとつおまけしてくれないか」
「他の里ではもっと安かったぞ、霊夢、そっちの店へ行こう」
「これを霊夢がに食わせるのと、私に食べられるのと、どっちが得だ?」
夕方、私は多くの燃料や米、野菜、果物、木の実などを抱えて霊夢と一緒に神社へ戻る。
「助かったわ、でも最後のは交渉というより脅しじゃないの?」
「だって、里の人たち、霊夢をないがしろにしているように思えたんだもん」
「まあ、そういう殺し文句は私も言うけどね」
言ってるのか? まあいいか。
霊夢に別れを告げた後、リグルの手を引いて森へ向かって飛翔する。
太陽の光が届きにくい暗い森の中に開けた場所がある、人間も獣も知らない人外たちだけの秘密の遊び場。今は誰もいなかった。私とリグルは二人きりになる。
「ねえルーミア、あの少年と正面から向き合うことはないんだよ。僕、大好きなルーミアにはずっと生きてて欲しいんだ」
リグルの手が私の手に触れた。
「ありがとうリグル、私もリグルが大好き。でもね、私は人を喰った妖怪として、人間と対峙しなければいけないの」
「そんな決まりが何だ! 誰かが明文化したわけじゃない! 僕と一緒に逃げようよ」
リグルは真剣だった。いっぺんの冗談も含まれてはいない。
私をここまで想っていてくれる。
「嬉しいよ、リグル」
だからこそ、私も真摯に答える義務がある。
私はリグルの頭を胸に抱き寄せ、額に唇を付けた。
「ルーミア……」
「ごめんね」
私が指で合図すると、闇から伸びた無数の手がリグルを包み込んでいく。
「ル、ルーミア、どうして」
「少しだけ待ってて。私が力を解除するか、消滅するかすれば出られるから」
必死に抵抗するが、私の命令どおり、手はリグルを闇の世界へ閉じ込める。
「ルーミア、死んじゃ嫌だ」
「もし生きてたら、また蛍の舞を見せてね」
リグルの声はしだいに遠くなり、暗闇と同化した。
それを見届けると、私は少年の住む柘榴村へ向けて飛翔を開始する。
*
村祭りの日の朝、村の人たちが騒然としていた。
ただならぬ雰囲気で目が覚め、戸外に飛び出す。
ちょうど橋のある方角が暗闇に包まれていた。
まるでその周りだけ夜が続いているかのようだ。
暗闇の周りを妖精たちが興奮気味に飛び回っている。
「あいつが来たんだ」
僕は家の中に戻り、小便を済ませ、味噌汁をぶっかけたご飯をすばやくかきこみ、その他を身支度を整えた。最後に、これまでに購入した魔道具や作りだめしたスペルカードを身につける。
「―― 、お前一人であの中に行くつもりか!」
白髪の増えた父がそういって僕を止めた。
「父さん、あいつだ、ルーミアが来たんだ、――の敵のルーミアがだよ」
「――、他の弾幕使いさんを呼ぶまで待って」
母も不安な表情で僕を引きとめようとする」
「母さん、あいつは僕一人に用があるんだ。それに、僕が妖怪退治に行くのはもう慣れてるだろ」
「悪い予感がする、お前は今日、家から出るな」
「――ちゃんに続いてお前まで失いたくないんだよ」
「ごめん、これは僕とあの妖怪のけじめなんだ」
僕は父の手を振り払い、橋の方角に向かい走り出した。
村の人たちは皆、暗闇から避難しようとしていた。
ただ僕だけが、暗闇へ向けて走る。
あの橋、全ての発端となった場所へ。
妖精の弾幕を軽くいなし、意を決して暗闇の中に突っ込む、空気が変わり、全く別の次元に入り込んだような気分に襲われた。
周りには何もなく、ただ薄緑色の燐光を放つ床が一面に際限なく広がっている。
「君か……やはりな……そんな気がしていたよ」
僕から離れたところに、ルーミアが立っていた。
ルーミアは鈍く光る剣を携え、僕と向き合っていた。
僕も河童製マジックマシンガンを構えた。
今こそ宿業を絶ち切ってみせる。
全てはこの時のためにあった。
「僕の名は――――。ルーミア、誇り高き巫女――――の遺志を継ぎ、あなたに挑戦する」
「その挑戦、受けて立つ。さあ、物語を終わらせよう」
*
この日、博麗霊夢も異変を察知し、柘榴村へ飛んでいくが、暗闇の塊にたどり着いたところでレミリアと咲夜に止められた。
「霊夢、悪いけどしばらく見守っていて欲しいのよ」
「最近新入りに仕事取られて暇なのよ、これじゃ博麗の意味が暴落するわ」
「心配ないわ、すでに底値だし」
「あんたのカリスマほどじゃないわ」
「霊夢、デートの邪魔をするのは無粋、そういう事よ」
「……わかったわ、しばらくは見守るとしましょう。どんな答えが出るのかしらね」
二人が地面を見おろすと、今まさに少年が闇の中に飛び込むところだった。
「少年よ、お前の思いを成就させろ」 レミリアが低めの声でつぶやいた。
霊夢はそんなレミリアに、少しだけカリスマを感じた。
*
うれしい誤算だった。
少年は軽快なステップで私の弾幕をかわす。この程度の攻撃は全く苦にしていないようだ。
怒りに燃えて突っ込んでくるのではなく、退くべき時は退き、隙を突いて弾を撃ってくる。
退治されるまでに、まだ君との時間を楽しむことができる。
私も全力を出そう。
翼を広げ、少年に向けてダッシュする。
少年を高速で横切り、背後を取った、彼は反応するだろうか。
*
僕はジャンプと小走りを繰り返しながらルーミアを中心に円を描くように飛び跳ねる。同じ方向だけでなく、時々切り返して照準を狂わせる。隙を見てマジックマシンガンの連射を浴びせた。
彼女が翼を広げた。来る。一瞬で背後を取られてしまう。
両肩のターンブースターに命令を送る。二つのユニットが逆方向の噴射を出し、僕の体を強引にルーミアのほうへ向ける。肩がもげそうな痛みをこらえてスペルカードを発動させる。
「退魔 アナイアレイター!」
*
少年はすばやく反応した。
最初出会ったときとは違い、臆せずスペルカードを発動させた。
私も至近距離で応じた。
「月符 ムーンライトレイ」
互いの弾幕が交じり合う。やがて少年の弾幕が止んだ。弾丸が尽きたようだ。 少年は迷わず銃を投げ捨て、両手で剣を握り、私と切り結ぶ。
「成長したな」
「あなたには負けない」
つばぜり合いの後、双方後ろに飛び退き、再び弾幕を生成した。
「夜符 ナイトバード」
*
青と緑の弾幕がルーミアを中心に放出される。
僕はマジックハンドガンでけん制しつつ、負けじと霊力で生成した二つのマジックミサイルを開放する。
ミサイルが分裂を繰り返し、ルーミアに包み込むように襲い掛かる。
ルーミアは剣で数発を弾き飛ばしたが、残りは彼女に被弾した。
チャンスだ、僕はすかさずルーミアに迫り、全身全霊をかけて剣を突き出す。
その瞬間がまるで活動写真のスローモーションのようにゆっくりと感じられた。
ルーミアがスペルカードを手に取り、カードが輝き、光がほとばしるのが見える。
大丈夫だ、いける、僕の剣のほうが一瞬だけ速い。
剣がルーミアの左胸を突き刺すと同時に、彼女のスペルカードが輝き、僕は吹き飛ばされる。
「闇符 ディマーケーション」
妖怪はなんと強い生き物だろう。
*
私は身にまとう防御結界を解いた。
胸の傷は致命的ではないようだが、妖力は尽きかけていた。
少年は気絶している。
これで終わりだろうか? やはり本気の潰し合いで人間が妖怪に勝つことは無理なのだろうか。
しかし、予想外の成長だった。スペルカードルールの枠内ならゆうに5回は私に勝っている。
もし彼が戦えない状態にあるのなら、この辺で帰してやろうと思う。一応幻想郷内の人間は食べてはいけないルールになっているし(私は時々破るが)、彼を殺すのは寝覚めが悪かった。
戦いの場で、敵である少年を殺さない事は、『お前などいくらでも返り討ちにできる』と侮辱している事になる、という考えもあるが、それでも私はせめて、この少年だけは死なせたくなかった。
闇に包まれた私の生涯、リグルとはまた違う意味で私の生に輝きをもたらしてくれた……。
ぱぁん
ハンドガンからほとばしった電光が、不意に私の体を貫いた。
少年が力を振り絞って立ち上がり、私に向けてよろよろと歩きながら、それでも確実に2発、3発と撃ち込んでいく。
これだ、この意思こそが人間の力『最後まで諦めない程度の能力』
腕力も弱く、寿命もはるかに短い人間。でもだからこそ輝く命の炎。
私たちが最も恐れ、かつ最も畏れる力。
私はただされるがままに彼の意思に貫かれ、意識が遠のいていった。
これが運命か……。
「リグル、すまない」
最後の銃声が響き、私は母なる闇に還っていく。
*
痛み、吐き気、眩暈を訴える身体を何とかごまかし、なだめすかし、励まし、最後の力を振り絞り、ありったけの弾をルーミアに撃ち込んだ。
防御結界を解いていたルーミアの全身に、その弾丸は命中した。
彼女はその場に崩れ落ち、それきり動かなかった。
闇の空間に弱い光が指す。それは徐々に強く大きくなり、闇の領分を奪っていった。
やがて、見慣れた村の景色が次第にその輪郭、色彩を強め、一分も絶たぬうちに闇の塊は姿を消した。
僕はルーミアに勝ったのだ。
だが、爽快感はなく、ただ虚しさと、罪悪感が去来する。
愛する者の命を奪った妖怪といえど、人格を持った存在であることに変わりはない。
僕はそれを永遠に死なせたのだ。
どちらにせよ、『殺し』といわれる行為には違いないのだ。
でも、たとえルーミアを殺さなかったとしてもやはり後悔が残っただろうとも思う。
どちらの答えが正しかったのだろうか、神より他に知る者はいまい。
額の血を拭おうと思ったところで、違和感を感じた。
「ああ……」
左腕がどこかに吹き飛んでいた。
治癒の護符の力を借り、どうにか痛みと出血は和らいだ。
応急手当を終えて、ルーミアの消滅を確認する。
彼女は磔にされた聖者の様に、両足をまっすぐに伸ばし、両手を左右に広げて臥している。
僕と目が合う。彼女はかすかに微笑んでいた。まるで僕の心を見透かしているかのように。
そして唇が動き、ラストワードが紡がれた。
「……誇ってくれ、それが手向けだ……」
やがてルーミアは静かに目を閉じた。
*
「…………倉砂屋有也、聞こえますか、有也」
しばらくその場に立ち尽くしていた僕の耳を、通信機からの文さんの声が叩く。
「……文さん、今……終わりました、ルーミアに……勝ちました」
「そうですか、いま貴方の身体をモニタリングさせてもらいましたが、手ひどくやられましたね」
「ええ、でも文さんの訓練がなければ死んでましたよ」
「今からそちらへ向かいます……ちょっと待って、何かがそちらへ……」
*
目の前に、蟲の大群を引き連れた妖怪が立っていた。
両の拳を握り締め、その目は真っ赤に染まり、涙があふれている。
鬼をも凌駕する憤怒の形相で、その妖怪、リグル=ナイトバグは立っていた。
「遅かったじゃないか」
自分自身驚くほど落ち着き払った声がでた。
これからの自分の運命が分かっているというのに。
「ルーミアを……ルーミアを、殺したんだね」
今にも泣き出しそうな声だった。
「そうだ、全ては僕の望んだ通り。残るは憎まれ役の幕引きだ」
「有也、逃げ……」
僕は通信機のスイッチを切った。
僕は彼の大切な者を殺めた。
理由はどうあれ、報いを受けなければならない。そう思えるのだ。
「だけどせめて……僕が生きた証を……弾幕使いとして生きた証を……最後に残させてくれ」
残された右腕で折れた剣を握り、彼に向かって走り出した。
リグルは毒虫を放つのではなく、スペルカードを解き放った。
「そうだ、僕は弾幕使い、それ以上でも以下でもない」
色とりどりの魔力の塊が、花火のように広がって僕を冥土へ誘う。
これで全てが終わるのだろう。
確実な死をもたらす存在であるにもかかわらず、それはひたすら綺麗だった。
これが死の寸前に彼女が見た光景なのだろうか。
ああ、――。僕は、君に近づけただろうか。
君はこれで満足してくれるだろうか。
やがて光が消えていく。
自分が精神だけの存在になったような気がした。
憎しみはすでに消えている。
今までに僕と関わった全てが愛おしく感じた、ルーミアでさえも。
リグルもまた、僕を罪人としてではなく、弾幕使いとして葬ってくれたのだ。
「礼を言う」
こうして、僕と彼女と、ルーミアの物語は終わりを告げた。
*
霊夢、レミリア、咲夜、文は空からその様子を見守っていた。
「少年よ、君の生きた記憶、しかとこの胸に刻ませてもらったわ」
胸に手を当てて、レミリアは黙祷した。
「ああ、せっかくミスティアさんが決着記念パーティー用意していたのに、これじゃ台無しですよ。使えない人間ですねぇ」
文が軽口を叩いた。
「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない」 霊夢がむっとする。
「だいたいあの量のヤツメウナギ、誰が食べるんですか、まあ、そこそこ面白い記事ネタでしたよ、ではこれで」
そういって文はくるりと背を向けた。肩が少し震えていた。
右手を軽く振って、突風のようにその場から飛び去っていった。
*
僕は女の子の手をつないで人里へ遊びに行く。
宵闇の中をさまよっていた金髪で黒い服を着た妖怪の女の子だ。
僕は彼女にルーミアと名づけた。
その子は僕にとても親しくしてくれている。僕も彼女が好きだ。
「ねーねーリグル、こんなところにほこらがあるよ」
この里に最近建立された祠、妖怪と戦って死んだ少年と少女が神として祭られている。
胸が少し痛かった。
あの少年はなぜ僕から逃げようとしなかったんだろう。
単に諦めただけなのか、それとも、理由はどうあれ報いを受けなければと考えたのだろうか。
どちらにしろ、それを語る者はもう……。
僕らが祠を通り過ぎようとしたとき、ルーミアは祠に軽くお辞儀をした。
「どうしたんだい」
「ううん、なんだかそうしなけりゃいけないような気持ちになったの」
僕は少し考え、それからルーミアと一緒に祠に手を合わせた。
そして手をつなぎ、僕らは再び歩き出す。
収穫を祝う村祭りの喧騒が、いつまでもいつまでも聞こえていた。
見応えのある戦闘や、少年とルーミアの考えなど
とても面白く読ませていただきました。
結果的にああなったのはちょっと悲しいですけどね。
面白いお話でした。
途中まで良かったけどこの終わり方はなぁ…
いくらあなたの中の二次設定とはいえ、さすがにそんな簡単に妖怪は死なないでしょう……
頭まるごと吹き飛ばない限り、眉間に一発程度じゃぁねぇ
あと、少年は恵まれすぎですよね。そこもいくらなんでも不自然すぎ。
原作でも数人程度しか確認されてはいませんが、人間のままで妖怪に勝つ
圧倒的な数の暴力 技術 策謀に頼らずそれを表現するのは難しいようですね
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない
こんな言葉が有りますが、この少年はまだ人間らしすぎるような気がする
そこがなんか気になりました
そして、少年は憎まれ役として幕引きしたのですね…
苦手な戦闘シーンを評価して頂けて嬉しく思います。需要低そうな話でも、最後までお付き合い頂き、面白いといって頂き、本当にありがとうございました。
4さま
このリグルはあくまで私の妄想です。
6,7,8さま
確かに都合よすぎますね。オリキャラがやたらと原作キャラに好かれるのは嫌われると分かっていたつもりですが、私の場合、恋愛感情には至らないのだからいいだろうと高をくくっていました。それに力を消耗していた、防御結界を解いていたという事になっていたとは言え、ルーミア脆すぎました、これを不快に感じた方をおられると思います。反省します。ただ後者の点について、もし弁明を許していただけるのなら、『英雄の最期も意外とこうだったりする、かっこいい言葉を言い残したりできるとは限らない』というのを表現してみたかったというのがあります。
9さま
復讐の過程で、少年自身も黒く染まってしまうような描写もあったほうが良かったかも知れませんね。ルーミアを一旦は追い詰めるが、良心ゆえに止めを刺しきれず逃げられ、愛する人の仇を討つには殺す度胸が必要だと考え、殺しの経験を積むうちに、手段と目的を履き違えるようになり……、みたいなダーク展開も考えていましたが、そっちにしたほうがリアルだったかも。
10さま
ルーミアは闇を恐れる人間の感情が生み出したもの、あるいは闇そのものの権化、と理解しております。ですからルーミアは滅びません、何度でも蘇ります。そして、確かに少年は(いろいろな意味で)憎まれ役でしたね。やはり妖怪は強く、ガチでやり合えば人間は手も足もでなかった、という筋書きにしたほうが読者の方々の違和感も減らせたかも知れません。
以上、某ゲームのジナイーダが一向に倒せないとらねこでした。
あとヤッパリ少年が強すぎますかね・・・ 空を飛べなければ手も足も出ないのではないでしょうか?せめて飛べる方法を手に入れてから闘って欲しかったです。
話自体は楽しませていただきました。
いままで御疲れ様でした。