「暇ねぇ」
暇すぎて暇すぎて、今日はお茶しか飲んでない気がする。掃除は早々に済ませてしまったし、異変解決だなんていう急に舞い込んでくるということもなさそう。
お茶を飲む以外にやることといえば昼寝とあくびと食事の支度。めんどくさいので早めに夕飯にして寝てしまおうかと思うぐらい。
しかしこういう時に限って天気が良いのだからなんとも言えない。ふきのとうやら探しに山に入るのもありかなぁ。でもめんどくさいなぁ。
「にゃーご」
「ん?」
いつの間に来たのやら、黒猫が茂みの中からのっそのそと歩いてきた。いつのまにやらうちのペットになってたお燐だ。
「あんたも暇なの?」
話しかけると、お燐は返事の代わりに尻尾を揺らしてあくびをした。眠そうだ。
「眠いんなら昼寝しよっか、天気もいいし縁側で寝たらたぶん気持ちいいわよ」
手招きすると、お燐は身体を大きく反らしてから近寄ってきた。枕にしたらこの黒猫は気持ちいいかもしれない。
「ふぅー、疲れた。なんもしてないけど」
仰向けになって、近くに敷いてあった座布団を枕にする。
お日様もぽかぽか照っていることだし、眠いのに任せて今日は昼寝に興じてしまおう。
「ほら、あんたも寝るの」
顔を洗っていたお燐を持ち上げて、隣に寝かせる。猫になれるって、便利な能力よねぇ……。
「ちょっとまったぁ!」
「帰れ」
「シクシク、まだ誰かも説明されてないのに帰れって言われた」
こんなタイミングで現れるのなんて、紫以外に誰がいるというのか。
体を起こさずともわかる。今膝付いて嘘泣きしてることもよーくわかる。
「で、帰らないの?」
「私も寝る! 寝にきた!」
「家帰って布団で寝たらいいのに」
「縁側で太陽の陽を浴びて秘め事をするのがいいんでしょ」
「やっぱ帰れ」
にゃーんと間抜けな声をお燐が出している。ねー、昼寝するって決めたのに邪魔されたらめんどくさいわよね?
「ああもうなんなのその黒猫! 勝手にペットになるとかありえないんだけど!」
「別にペットぐらい飼ったっていいじゃないの。猫可愛いわよ、結構」
「猫は猫でも、火車なんでしょ! 罠よ! きっと霊夢を私から引き剥がそうとする外宇宙からの刺客だわ!」
「はいはい」
「にゃーお」
「ほら、喋れるくせに猫っぽい喋り方してるじゃないの、そうやって可愛さアピールして!」
「猫だから猫の喋り方してもいいんじゃないの?」
「いいえ私は絶対そんなの認めないわ! そこの猫! 霊夢のペットとしてどっちが相応しいか勝負よ!」
ついに紫が、自分の立場をペットにまで落としてしまった。いいのか、本当にそれでいいのか。
めんどくさいから表情を確認はしないけど、自分の発言に何の疑いも持っていないんだろうなぁということはよくわかる。
清々しいまでのアホだ。その努力を結界の管理だとかに向けてほしいものだけど、紫のことだから余力があれば睡眠か悪戯に費やすに違いない。
誰か、早くなんとかしてくれ。
「私眠いから、お燐行ってきなよ」
紫は境内で傘を構えていた。
こう、黙ってりゃ様になってるんだから口を縫い付ければいいのに。今度それを提案しておこう。
もしくは石膏か何かで全身を固めておくだとかして、動かないようにしといたほうが絶対世の為。
藍にはそのあたり、全力を尽くしてもらいたい。
「にゃーご」
猫の姿のまま、お燐は境内へと降り立った。
お燐もお燐で、まともに相手をする気はないみたいだった。
それがいいよ、賢明だよ。
「さー霊夢、私がこの泥棒猫を打ち破る様をよく目に焼き付けときなさい」
「適当に見とく」
「しゅーん」
しかしまったく見ずに凹まれても後が困る。仕方がないので体を起こすことにした。
早く決着つかないかなぁ。
「ルールは通常のスペルカードバトル。宣言枚数はお互いに三枚で」
「にゃーご」
「ふん、そうやって余裕で居られるのも今のうちよ! 紫奥義!『弾幕結界』!!」
うわぁ大人気ない。なんでいきなり最強技出してるの?
神社の境内におびただしい数の符が出現して、それが紫に向かって収束していった。
だけど、猫になっているお燐はその隙間をすいすい抜けてく。
そりゃそうだよねー、猫だもんねー身軽だもん。スペル選択ミスだったみたいね。
「うわっちょちょ! 引掻かないでよ地味に痛いんだから! 助けて! 霊夢助けてー!」
「早くスペルブレイクしたらいいのに」
「にゃーお」
ねむ、とあくびをしているうちにスペルが終わってしまった。
肩で息をしてる紫と、余裕の表情(猫だけど)のお燐。
意外だけど、これは紫の負けかもしんない。
「はぁはぁ……。中々やるわね……でもそれなら私にも考えがあるわ。
いでよ! 『廃線「ぶらり廃駅下車の旅」』!!」
「後片付け、あんたしなさいよ? それやられると走った後が……」
「ふふ、そこの黒猫、逃げられると思ったでしょ? 甘い甘い。いでよ我が従順なる僕!
『式神「八雲藍」』!! さああの黒猫を抑えつけなさい!!」
うっわこいつ大人気ないなぁ。なんでスペルカードを同時に二個も展開するんだろう。
何? 自分で制定したから抜け道とか作ったの? これだから紫は周りに舐められるのよ。
ホントに、締めるときはきっちり締めるくせして普段がだらしないっていうか、私の前だけだらしないんだっけ?
幽々子に紫のことを愚痴ったら「そんなことないわよ~」ってやんわり窘められたし、どういうことなんだろう。
まぁどうでもいいけどね、隙間開いてよくわからないオーラを全身から発してる紫はこれはこれで面白いし。
「はいはい紫さまなんですか、今お皿洗ってたんですけど……」
「さあ藍!! 電車が当たるまであいつを押さえつけるのよ!!」
「へ? え? え? ち、ちぇええええん!!」
なんだかよくわからないことになった。
藍が大きな隙間(電車が出てくる)とお燐の前に立ちはだかって、なにやら気合を溜め始めた。
わけがわからないまま、飛び出してくる電車。
それと真っ向からぶつかり……。おお凄い、止めてる! ぶつかった瞬間、どっぎゃーんとかいう音がしたけど受け止めてる。
「こんなDV、私は決して許しませんよ!! 紫さまぁ!!」
物凄い篭った声を出しながら、電車を受け止めてる藍。紫は何がどうなってるのかわからないみたいでおろおろしてるばかり。
大丈夫よ紫、私も何一つわかってないから。お燐はというと、飛び退けばいいのかしちゃいけないのかわからなくて立ち竦んでる。
「はぁっ!!」
気合の入った掛け声とともに、なぜか爆散する電車。
スペルブレイクするとああなるのかしら。
残骸が境内に転がっててとってもうざったい。よかったーこっち飛んでこなくて。
「だ、大丈夫だったか……橙。よかった、お前が生きているのなら、私は……ぐふっ」
おお、吐血した。死なれたら困るし、治療の準備をしておこう。うちには赤チンしかないけども。
「ら、藍……? だ、大丈夫?」
「ふふ……。何が目的だったかはわかりませんが、例え紫様といえども橙を虐待するだなんて許しませんよ。
この藍の目が黒いうちは、橙には寝ても醒めても愛を絶やさないのです」
なんか物凄く微妙な空気になってきた。
紫はおろおろしてるばかりで、藍は殺意の波動を全身に纏っている。
なんだこれ。
「あのー。お取り込みのところ悪いんだけど、あたい、橙ってのじゃないんだけど」
「……」
「……」
「え、えへ?」
「ら、藍! いまよ! そいつを屠りなさい!」
「え? え?」
あ、地面に刺さった。
お茶飲も。
スッゴイカワイソ
もう一回、コンティニューだっ。
タイトルがすさまじすぎましたこれは……
藍あんたは猫ならなんでもいいってわけじゃあねぇのかwww