真っ昼間から酒を飲み、くだらない話で時間を潰しているのは寛次と恒吉という男であった。人間が里の酒処。平日の昼でもあるが、この店は酒だけでなく料理も評判で、二人の他にもそれなりの客が席を陣取っている。
あちらの席では大工の棟梁らしき男が嘘っぽい武勇伝を語り、あちらでは沈痛な顔で男と女が別れ話でも切り出そうとしているかのように向き合っていた。
出来ることなら二人とて、目の前にいるのは美人であって欲しいところ。しかし現実は非情なもので、寛次の目の前にいるのは恒吉だし、恒吉の目の前にいるのは寛次なのだ。紅魔館の魔女が魔法でもかけない限り、この性別が変わることはない。
美人がいるなら醜態を晒すまいと酒を飲む勢いにも衰えがあるのだけれど、気心の知れた友人の前で気取る必要などなかった。自然と酒の量が増えるけれど、幸か不幸か二人とも酒には滅法強いのであった。
しっかりとした目つきのままで、寛次はふと口を開く。
「俺はよぉ、一目惚れしちまったみたいなんだ」
アジの干物の身をほじり、さて口へという所での突然の告白。隣に雷が落ちてきても動じないと言われる恒吉だって、これには目を丸くして動きを止めた。
「一目惚れっつうと酒の名前か?」
「どうして此処で酒が出てくるんだよ、この唐変木。一目惚れったら一目惚れに決まってんだろ。恋だよ、恋」
「鯉の干物は喰ったことねえや」
「そんな勘違い、今時子供だってしやしねえよ。まあ、とにかく話を聞けや」
お猪口を置いて、寛次は身を乗り出した。アジの干物に影が重なる。
「俺はよお、ちょいとした用事で太陽の畑まで行ってきたんだ」
「なんだ、そのちょいとした用事ってのは。ただの百姓がなんで太陽の畑なんて行くんだよ」
「いいじゃねえか、そんなこと」
「よかねえな。そこの所を教えて貰わなきゃ、話を聞く気にもなれねえ」
寛次は顔をしかめて、乱暴に酒を煽った。酒の勢いといっても酔えない寛次のこと。そこは景気づけの一杯なのだろう。
「誰にも言うなよ」
「ああ、言わねえ」
「……実はよ、あの近くの川で砂金がとれるんだよ」
「へえ、砂金が」
「それで俺はちょいとした小遣い稼ぎにだな、たまにそこへ行ってるわけだ。まあ砂金たってそれで生活していけるほどの量じゃねえよ」
砂金で暮らしているのなら、誰だって畑を耕したりしない。
「なるほどねえ、砂金かあ。そいじゃあ、ここは寛次の奢りだな」
「いいさいいさ、相談にのってくれるなら奢ってやろうじゃないさ。その代わり、最後まできっちり話は聞けよ」
「ああ」
アジの身をほじる作業を中断して、恒吉は改めて寛次に向き直った。
「どこまで話したっけかな。そうだ、太陽の畑だよ。とにかくまあ、俺は太陽の畑に行ったわけだ」
太陽の畑なら恒吉も常々噂は聞いていた。何でも夏になると大量の向日葵が花を咲かし、思わず溜息が出るほど美しいんだとか。
ただ、あの畑には恐ろしい妖怪がいて決して近づいてはならないとも聞いていた。
「その日は運悪く砂金が採れなくてよお、がっくりしながら帰ってたわけだ。そこでだよ、俺は見ちまったんだな」
「へえ、何を?」
「泣いてる風見幽香の姿をだよ」
これには恒吉も面食らう。何を隠そう近づいてはいけない妖怪こそ風見幽香であり、その幽香が泣いていたというのだから思わず眉に唾だ。
「疑ってんだろ、どうせ。だがね、俺は見たんだよ。手紙を読みながら、涙を滲ませているゆうかりんの顔を」
「ゆうかりん?」
「風見幽香だからゆうかりん。愛称だよ、愛称」
「じゃあ竹林の医者はえいりんりんか」
「そんな事はどうだっていいだろ。今はとにかく、ゆうかりんの事だよ」
恒吉は机を叩いて力説する。他の客はそれどころではないらしく、かなり熱の入っている言葉に振り向く者はいない。
「泣いてるゆうかりんに一目惚れしてよお、家に帰ってからふと思ったんだ。ああまた、泣いてるゆうかりんの姿が見たいってね」
「女房の涙でも見てりゃいいじゃない」
「馬鹿だね、お前は。あんなトドの涙なんか見たってしょうがないだろ。それよりも俺はゆうかりんだよ」
かかあ天下だからこその願望なのかもしれない。もしもこの願望が女房にばれたなら、間違いなく寛次は外で夜を過ごすことになるだろう。
「だけどよお、どうやってそのゆうかりんを泣かせるんだ。聞くところによれば、かなりの化け物だって言うぞ。俺たちが泣かせられるような相手じゃねえよ」
寛次は不適な笑みを浮かべ、顔を近づけてくる。
「俺たちじゃ泣かせられないのは百も承知だ。だから、他の人に泣かせて貰うんだよ」
「どういうことだ?」
「お前、知らないのか。ゆうかりんは稗田様と仲がいいんだよ」
そういえば、よく一緒にいる姿を目撃する。
「俺の見たところ、きっとあの二人はできてるね」
「女同士だぞ」
「いいや、あれは間違いなく恋仲だ。ほらあれだよ、何ってったかな。こういうのを花に例えた言葉があるんだよ」
「チューリップ」
「西洋の花じゃねえ」
「紫陽花」
「二文字だ」
「菊」
「……それだったかもしれねえな。そうそう、菊だ、菊。ゆうかりんと稗田様は菊の仲なんだ」
それだけ聞くと、何とも線香臭そうな仲である。
「そこで俺は考えたわけだ。稗田様に、ゆうかりんと別れたいってな感じの手紙を書いて貰ったらどうかと」
「そんな手紙、稗田様が書いてくれるかねえ」
「そこはほら、この俺の口で何とかしてみせるさ」
しかし問題はそれだけではない。
「そもそも、ゆうかりんは何で泣いてたんだ。手紙を読んで泣いてたってことは、ひょっとしたらもう別れ話を切り出されてるかもしれんぞ」
「うっ……」
思わぬ一撃を食らい、寛次もたじろぐ。
何と反論するべきか思いつかず、しばし考え込んでから、苦しそうに口を開いた。
「稗田様からそれとなく聞けば、なんか分かるだろ」
行き当たりばったりの作戦だが、どうせ今日は仕事もない。付きあうのも一興だ。
「それもそうだな」
「おう。それじゃあ、早速稗田様の屋敷へ向かうぞ」
稗田阿求と言えば知らぬ者がいないほどの有名人だけれど、金や権力を持っているかと聞かれれば誰もが首を横に振る。確かに一般の百姓よりかは持っているかもしれない。しれないけれど、上白沢慧音と並ぶほど名が売れるには些か手持ちが少なすぎた。
ならば何故、稗田阿求は皆に知られているのか。答えを知りたくば、そこらの本屋に駆け込んでみると良い。その店で最も目立つ場所に、彼女の著書が置かれているだろうから。
幻想郷縁起。
妖怪や英雄について記されたその書物こそが、稗田という名前を知らしめた所以である。
閑話休題。
「ここが稗田様のお屋敷か……」
「なんでえ、お前、来たこと無かったのか?」
恒吉は自信たっぷりに頷いた。
「そうかい。それじゃあ目に焼き付けて帰るんだな。ここが噂の稗田様のお屋敷だ。どうでえ、立派なもんだろ」
「立派だけどよ、別に寛次が威張ることじゃないだろ」
鼻の下あたりを擦り、無言で寛次は屋敷へと入っていった。仕方なく、恒吉も何も言わずに後を追う。
さして金のない阿求が、どうして立派な屋敷に住めるのか。二人は知らなかったけれど、当の阿求ですらよくは知らなかった。何でも阿弥の代に建て替えたそうだけど、どうしてそうしたのかは誰も知らない。まさしく、本人のみぞ知ると言ったところか。
お手伝いさんに通されて、二人は阿求との面会を果たす。さして権力のあるわけでもない阿求に、会う事自体は簡単だ。多忙で無ければ、大概阿求は面会を良しとしてくれる。
この日は、幸運にも手が空いていたらしい。
「どうもどうも、稗田様。あっしはしがない百姓の樋渡寛次っちゅうもんでして。こっちは友人の大門恒吉でさ」
「お、おお。こっちは稗田阿求様だ」
「馬鹿野郎、稗田様の紹介は良いんだよ。なに一丁前に緊張してやがんだ」
脇腹を小突きながら、小声で注意しておく。口の達者な寛次と違って、恒吉はあまり人前で喋る機会が無かった。それゆえに、こうした話し合いの場になると途端に緊張してしまうのだ。
「いえいえ、あっしらは別に漫才を披露しに来たわけじゃございません。ちょいと、稗田様に頼みたいことがありまして。ええ、ええ、巫女様じゃ解決できない事でございます」
人なつっこい笑みを浮かべる寛次に対し、恒吉は強ばった表情で阿求を見つめる。定規が嵌められたように背筋は伸び、見ようによっては凛々しいかもしれない。
「あまり大声で言うような事じゃありませんけど、実はちょいと女房と喧嘩しちまいましてね。それで、ここらで絶縁状でも書いてやろうかと思ったんです」
「お、お前女房と別れるのか?」
「いいからお前は黙ってな」
露骨に狼狽え始める恒吉を制し、寛次は話を続けた。
「ところがあっしは字が書けねえもんでして、かといって口で言うのも気が進まねえ。そこで、稗田様に代筆をお願いできないかと思ってやってきた次第でごぜえます」
阿求は難しい顔で腕を組んだ。
考えこむという事は、少なくとも門前払いというわけではないのだろう。
「内容はあっしが読み上げますから、稗田様が難しく考える必要はありません。お礼でしたら、うちで採れた野菜を差し上げますんで。何とか、引き受けて貰えねえでしょうか? この通りです!」
そこで頭を下げる寛次。釣られるように、慌てて恒吉も頭を下げた。
こうまでされては敵わないと、阿求は頭を上げるよう頼み込む。
「へえ、そいじゃあ、あっしのお願いを聞いてくださるんで?」
渋面のまま、阿求は首を縦に振る。
そしてお手伝いさんに筆と紙と硯を頼んだ。どうやら早速書いてくれるらしい。
寛次はこれ幸いと考えた文面をそらんじ、阿求がそれをしたためた。内容としては他愛もない、単なる別れ話の切り出しである。ただ隣に座っていた恒吉は、相変わらずハラハラした表情で己の親友を見つめている。後で説明しなければ、色々とややこしい事をしそうだ。
やがて寛次は口を閉じ、阿求が筆を止める。
「ああ、出来れば最後に稗田様の名前を書いて貰えますか。女房はあっしが字を書けない事を知ってるんで、怪しまれちゃ元も子も無えんですよ」
言われた通りに、阿求は最後に『代筆:稗田阿求』との文字を残す。
「どうもどうも、おかげ様で助かりました」
疲れたわけではないのだろうに、阿求は大きな溜息を零した。
「……ところで稗田様、何かお悩みで?」
何でもないと拒絶した阿求だったけれど、似たような境遇だからと気を変えたらしい。実は幽香と些細な事で喧嘩をしてしまったのだと、告白してくれた。なるほど、だとすればあの手紙はやはり阿求からのものか。寛次は密かに頷いた。
しかし、ここで迂闊に別れ話の手紙なんぞ出そう物なら二人の仲は決定的にこじれてしまうのではないか。良心という名前の天使が、寛次に語りかける。
『でも、やっぱり優先すべきは自分のことよね』
と、寛次はあっさりともう一人の天使の言葉に頷いてしまった。ただ気になる事があるとすれば、囁きかけてきた天使が妙に人間くさい格好をして、頭に桃を乗せていたことぐらいか。昨今の天使も色々と事情があるらしい。
「それじゃあ、お礼はまた後日に持ってきますんで」
何度も何度も頭を下げながら、寛次と恒吉は阿求の屋敷を後にする。
しばらく離れたところで、案の定、恒吉が驚いた顔で話しかけてきた。
「おい、俺は聞いてねえぞ。お前、女房と別れるのか?」
「馬鹿だねえ、本当に。そりゃあ俺だって別れたいと思うことはあるけどさ、だけどこの手紙はそういうもんじゃないんだよ」
「じゃあ、どういうもんだよ」
「これを、ゆうかりんに渡すんだよ」
少しほど考えたところで、おお、と恒吉が手をうった。
「後はこれをこうしてやれば……」
そう言いながら、寛次が代筆のところを袖で拭う。少々汚くはなったが、元々どんな文字が書いてあったかは分からなくなった。
「これでゆうかりん宛ての手紙の完成よ。こいつを届けてやりさえすれば、晴れてゆうかりんの泣き顔が拝めるって寸法だ」
「じゃあ早速届けにいくか」
「待て待て。俺らが届けちゃ不審に思われる。ここは、もっと適任の奴に届けさせるのが吉よ」
恒吉は首を傾げた。
「適任の奴って言うと、誰だ?」
「まぁ、俺に任せとけ。お前は横で、『うん』だの『ああ』だの言っりゃ良いんだよ。分かったな?」
「ああ」
何故か納得顔の恒吉を連れて、寛次が向かったのは妖怪の山の麓であった。
いくら寛次の口が達者だからとはいえ、妖怪の山に踏み入っていけるほど神がかった弁舌能力を持っているわけではなかった。
用があるのは山ではなく、ここに住んでいる烏天狗。
「射命丸様! 射命丸様!」
里の僅かな人間しか知らぬことだが、射命丸文には日課があった。
お昼を過ぎたある時刻。決まって、同じ場所で日光浴に励んでいるのだ。それこそ、雨や曇りでもしない限り。毎日。
鬱陶しさを隠そうともせず、不機嫌そうな顔で起きあがる文。心証を良くしたいのは山々だけれど、どうせ起こした時点で印象は悪い。
かといってこの機を見逃せば、次はどこで会えるのか分かったものではないのだ。
「突然で申し訳ないんですが、実は射命丸様に折り入ってお話がありまして……」
へりくだりながら、ご機嫌を窺うように笑顔を浮かべる。
文は不機嫌な顔のままで、頭を乱暴に掻いた。
「実はその、稗田様から射命丸様へお願いがありまして、あっしらがこうして使いとして参上したんでさあ」
稗田という単語を耳にして、露骨に文が顔色を変えた。
「いやあ、勿論嘘じゃございません。ほら、この字。稗田様に間違いないでしょう」
取り出したるは、先程の手紙。後ろにしたためられた文字は、確かに稗田阿求の字体に相違ない。当然だ。本人のものなのだから。
何度も確かめ、文も本物だと納得してくれたらしい。
「それでですね、稗田様はこれをゆうかり……風見幽香に届けて欲しいと」
あるいは、幽香と阿求の仲を知っていたのか。何も言わず、文は承諾してくれた。
思いの外あっさりと交渉が終わって、肩透かしを喰らったように寛次が確かめる。
「本当に、お願いしてもよろしいんですよね?」
しつこい寛次をあしらうように、手をひらひらと舞わせて追い払うような仕草を見せる文。
「それならあっしらも安心でさあ。へえ、昨日も風見幽香に手紙を届けたばかり? ひょっとして、それも稗田様から? はあ、閻魔様。閻魔様から風見幽香にですか。そいつはあ、何とも珍しい話ですね」
どうやら、寛次の見た手紙は閻魔からの物だったらしい。閻魔は口うるさいと聞いていたが、まさか説教されて泣いたわけでもあるまい。化け物と恐れられる妖怪が、そんな事で泣くとは思えなかった。
じゃあたかが人間から別れの手紙を出されて泣くのかと聞かれれば、やってみなけりゃ分からないと返す。
「いやあ、しかしこれで安心でさあ。何せ、射命丸様の足の速さは里中にも知れ渡ってますから。それでいて、お美しい」
歯の浮くような台詞に、射命丸は何の反応も見せない。これで数々の奥様方を落としてきた寛次は焦り、ついつい隣の恒吉に意見を求めてしまった。
「それだけじゃねえです。なあ、恒吉。射命丸様の凄いところ、言ってみな」
「運」
「いやいや違います。こいつは物の道理が分からぬ男でして。運もある、と言いたかったんでさあ」
次第に文の機嫌がまた悪くなり始めるのを見るや、寛次と恒吉は謝礼もそこそこに里へと戻り始める。
ここらで恒吉に文句の一つでも言ってやりたいところだが、制限時間のある今ではそれも難しいところ。早いところ太陽の畑に行かないと、幽香の泣いているシーンが拝めないのだ。
二人は言葉少なく走り続け、ようやくの思いで太陽の畑までたどり着いた。
さすがは天狗の射命丸。もうとっくの昔に手紙を届けてしまったらしい。
大樹に背を預けながら、幽香が内容に目を通している最中だ。二人はばれないようにこっそりと草陰に身を潜め、幽香の様子を窺った。
「泣かねえな」
「泣かねえね」
どこまで読んだのか。ここからじゃ遠いし、見えるのは手紙の背。
回り込んだところで、結局どこまで読んだだのかは分からない。
仕方なく、二人は幽香の反応が変わるまで待っていた。
「おっ」
三分ぐらい経った頃合いか。
急に、幽香は口を手で覆い隠した。まるで、これから泣くぞと言わんばかりの体勢である。
寛次は鼻息も荒く、木陰から身を乗り出した。
しかし、幽香の反応は思っていたものと大分違う。
赤いのは目ではなく、頬。指の隙間から見える口の形は、苦笑しているようにも呆れているようにも見てとれた。時折手紙から視線を外そうとするのだが、すぐにまた戻っていく。
まるで、ラブレターを読んでいるかのような反応。寛次は首を傾げた。
「どういうこったい。ありゃあ、とても別れ話を切り出されてる奴の反応じゃねえな。まるで逆だ」
そう言って、寛次は気が付いた。しまった、とばかりに額を叩く。
「どうした?」
「稗田様がおそらく気を利かせてくれたんだろうよ。ありゃあ別れ話を切り出した手紙じゃねえ。復縁して欲しいとか、そういう類の仲直りの手紙だ」
「ああ、道理で」
どういう事が書いてあるのかは知らないけれど、どうやら余程気恥ずかしい内容なのだろう。
紅葉よりも真っ赤な頬を見ている限りでは、そう判断せざるを得ない。
「期せずして、どうやら俺たちは二人の仲直りを手伝ったみたいだな。ええ、おい」
恒吉の言葉は、寛次には届かなかった。
泣き顔が見られなくて、落ち込んでいるのかと思ったが、どうやらそういう事ではないらしい。寛次の顔には悲しみの色がなく、まるで綺麗な花を見つめるようにうっとりと見惚れていた。
「恒吉よ」
「何だ」
「俺は、決めたよ」
握り拳を固めて、寛次は言った。
「ゆうかりんに告白する!」
一週間というのは、案外早いものだ。
寛次の決意から七日後、ようやく恋文は完成した。手紙だけじゃなく目に隈も作った寛次が、息も絶え絶えといった風に恒吉へ手紙を渡す。
「天狗に頼まなくていいのか?」
「今度のは別に偽装する必要がねえ。お前でも、充分に役割は果たせる。後は頼んだぞ」
そう言って、寛次は力尽きた。この手紙の為に、随分と睡眠時間を削ったらしい。
未だに恋を知らぬ恒吉には、どうしてここまで頑張れるのか不思議だ。
とはいえ、せっかく友人が書き上げた力作。ここで届けなければ、男が廃る。
恒吉は手紙を懐に入れて、太陽の畑へと駆け出した。
戻ってきたのは、ちょうど寛次が目を覚ました頃合いだった。
「どうだった!」
掴みかかるように尋ねる寛次。
恒吉はその手を振り払いながら、淡々と答える。
「ゆうかりんは泣いてたよ」
「嬉し涙か!」
恒吉は首を振る。
「閻魔様の手紙と同じで退屈すぎて欠伸が出ると」
心地の良いテンポでした
ワロタw
リズムよく読めてオチも面白かったです
てんしはてんしでも違うてんしだww
駄目だ、この寛次‥早く何とかしないと。
至芸と呼びたくなるような一編でした♪
いい味出してるオリキャラですね
面白かったです
地の文が脳内で落語調に変換された。
そしてオチが…w
落語っぽく楽しめる素敵な話でした
言葉の選択のセンスがお上手。
あと天子自重ww
しかし菊の仲てwww
文さんは運だけは良いのか。