Coolier - 新生・東方創想話

秋めく滝が落ちる頃に

2009/03/25 21:28:55
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秋めく滝が山を落ちる。
その激流の中には、色鮮やかな紅葉が散りばめられていた。
紅に色づいた滝の美しさに、妖夢は思わず溜息を洩らしてしまう
「綺麗だな」
まだ大人びていない少女の声が滝壺に吸収される

1.

昨晩。
妖夢は悪夢にうなされていた。
漆黒の闇の中、迫りくる敵と闘っていた。
無論、光を遮られた暗黒の中では、苦戦にならざるを得ない。
目蓋を閉じ、感覚と神経を研磨することで攻撃を防ぐ。
しかし、普段とは異なる環境に、集中力が弾けてしまった。
鉄刀を持つ掌がその重量で震える。
腕は、すでに感覚を失ってしまっている。
それでも尚、妖夢は防御の手を休めない。
暗闇からの斬撃に、刀を構える。
鉄と鉄が交錯し、漆黒の空間に、火花が散る。
しかし、更なる衝撃に、ついに刀が折れてしまった。
敵の迅い攻撃を避けながら、
「くそっ!」
悪態をついて、折れた刀を宙に放る。
瞬間。
「うああっ!?」
背中に激痛が走った。
苦痛の余り甲高い悲鳴をあげる。
倒れこむと、手に血が撥ねた。
―――なんとか、持ちこたえないと…
妖夢の強い意志も虚しく、最早傷付いた肉体は動かない。
漆黒の敵は、妖夢の倒れこんだ姿を確認し、とどめを刺そうとすべく剣を構えた。
暗闇の中に、鉄の冷気が走る。
―――早く動け、動けッ、動けぇッ!
固く念じるも、命令に身体が従うことは無い。
最期の攻撃を受けたならば、私は確実に人間の存在を失う。
生への執念か、それとも痛みへの恐怖か。
蒼の双眸からは、泪が滴り落ちる。
背中の痛覚が麻痺してきた。
敵の気配が、すぐ近くに迫る。
次々に流れ落ちる泪を顧みず、妖夢は武士としての高潔な死を選択した。
「殺すなら、早く殺せぇッ!」
最後の気力を振り絞り、妖夢のうら若き声が漆黒に残響する。
刀の風切り音が耳に入る。
―――これが、最期か。・・・みっともない。
自らの弱さに自嘲しながら、妖夢は目蓋を閉じる。

次の攻撃は、意外なものであった。
刀は妖夢の首寸前で止まった。
その代り、妖夢の腹に強烈な蹴りが入れられた。
鈍い音を響かせ、妖夢は暗闇の下に滑った。
「馬ッ鹿もんッ!勝てないとわかる敵と戦うときは逃げろと教えたじゃろうがあッ!」
懐かしい声が、妖夢の耳を劈く。
それは、既に十年前に幽居したはずの、妖忌の声であった。
「まったく…もうちょっと修行せい」
妖忌の溜息が聞こえる。
一度、瞬きすると、風景が変わった。
西行妖の桜吹雪が、髪にかかる。
純白の桜を鬱陶しく払いながら、まだ数歳の妖夢は木刀を構えた。
1歩、そして疾風の如き速さで妖忌へと切り込む。
対する妖忌は、其れを物ともせず切り払う。
更に、足で妖夢の木刀を落とす。
妖夢の手から木刀が弾け飛び、それは西行妖の下に転がった。
一寸の乱れもなく、妖夢の腹へと刀を降る。
小さい妖夢は何とか攻撃を避け、西行妖の下へと走った。
妖忌が追撃すべく、それを追う。
桜吹雪の下、木刀を拾ったかと思うと、世界が薄れてくる。
そして、妖夢は夢の世界から現実へと引き戻された。

2.

目蓋を開くと、幽々子が覆い被さる様に妖夢の表情を窺っていた。
「大丈夫?ずいぶん息荒かったけど。」
幽々子にしては珍しく、妖夢を心配している口ぶりだった。
「ええ、大丈夫です」
素っ気なく答えると、妖夢は布団を片づけ始めた。
幽々子はそう、と言うと、台所へと向かった。
妖夢は独り、自分の無力を痛感していた。
漆黒の暗闇の中、まともな攻撃も出来ず、ただ迫る刀を受けることしかできない。
次に襲い掛かる斬撃に逃げられる隙は無く、あれが本当に敵意のある敵であるならば―――
―――私は間違いなく人としての存在を失っているところだった。
「私がいなくなったら誰が幽々子様を護るんだ?」
爪を噛む。
「妖夢、食器運んでー」
幽々子の若い声が、暗く思索している妖夢の耳に入った。
「はーい」

朝食後、妖夢は行動に出た。
一人、個室に籠り切り、手紙を書く。
宛先は、幽々子だ。

「幽々子様へ
私は、夢の中、自らの無力さを感じました。
まだ、貴方様を護るには力が足りません。

妖怪の山へ行って、修行をして参ります。
晩御飯までには帰ってきますので、ご心配はなさらないで下さい。 
                    妖夢」

短い文に強い意志を込めながら、妖夢は手紙を書き終えた。
一枚の紙切れを、居間にある机の上に置く。
ふと、強烈な不安が沸きあがった。
いつもの様に昼寝をしている幽々子に目を配せながら、妖夢は冥界から独り去る。
―――大切な人を護る力は、まだ弱い。

3.
妖夢は秋に色づく妖怪の山へとたどり着いた。
巨大な山は、修行をするには最適な場所であった。

登山の休息中、妖夢を一人の妖怪が襲う。
背中に弾幕の気配を感じ、妖夢は急いで伏せた。
蒼と紅に煌めく弾幕は、妖夢を通り抜け、秋めく滝へと吸い込まれていった。
妖怪の山にいる妖怪と言えば、天狗といったところだろうか。
天狗の容姿は、犬に近いものがあった。
刀を鞘から出し、構える。
すると天狗も、背中の大剣を引き出した。
一触即発、下手に動けば、隙を生んでしまう。
妖夢の呼吸は、一寸の乱れも無い。

天狗の剣が動く。
足と尻尾を素早く動かし、天狗は距離を詰めてきた。
「はああああああっ!」
あの大剣を受けるには相当な腕力が必要だろう。
そう判断し、大剣を避ける。
だが、天狗も隙を見せない。
そのまま振り下ろさず、持ったまま方向転換、妖夢の目の前に振り下ろす。
持前の身の軽さを発揮し、横に避ける
天狗が剣を構えなおそうとした。
その瞬間に、刀で突く。
純銀の白楼剣に、紅い液体が滴り落ちる。
「ぐぅっ!?」
くぐもった声が滝の音に吸収される。
倒れこんだ鴉天狗の首に、刀を添える。
「お終いよ」
「舐めるなぁッ!」
天狗の身体から、霊撃が飛ぶ。
霊撃をまともに受け、身体が吹き飛ぶ。
追撃するように、天狗の体も飛翔する。
妖夢はなんとか受身をとり、刀を構える。
大剣と刀が重なり、金属音が響く。
あと少しで剣が脳天を直撃するところだった。
闘いは小競り合いへと発展する。
鴉天狗のパワーと、妖夢のテクニックが、密接に絡み合う。
両者とも、歯軋りをしている。

急に、天狗が後ろに身を引いた。
妖夢は倒れまいと、滑稽な踊りをする。
天狗は、こちらへ剣を構えながら、逃げ去って行く。
「貴様ッ!逃げる気かッ!」
妖夢の高い怒声が、空高く響いた。

4.
仕方なく、妖夢は昼食をとることにした。
自分で作った、白いおにぎりと、沢庵だ。
だが、風呂敷を広げると共に、妖夢の鋭い神経は再び襲撃を告げた
風の唸る音を聞き、妖夢は構えながら後ろを振り返った。
白いおにぎりが、膝から転がって行く
「あややや、侵入者の報告で来てみれば、まさか貴女だったの」
音の主は、射命丸文のものだった。
刀を持つ手を引き締める。
すると、射命丸の後ろから先程の天狗が飛んできた。
その顔は険しい。
「文先輩、こいつです」
「わかってるわ」
射命丸が紅葉をもつ手を仰がせる。
話の内容から察するに、あの天狗と射命丸は仲間か。
白銀に光る白楼剣が、射命丸を指す
「なんで妖怪の山に来たの?」
「修行のためです」
「へえ、じゃあ貴女と戦っても、別に文句は言われない訳ね」
射命丸は、膝を撓らせ、天高く飛翔した。
彼女の怒鳴り声が天空に響く。
「椛ッ!その剣の腕、思う存分使いなさいッ!」
「はい!」
空からの高い声が地に届くと、椛と呼ばれた天狗は剣を構える。
「さあ、手加減はしないわ、本気でかかってきなさい!」

大剣と白楼剣が切り結ばれる。
金属特有の甲高い響きは、滝つぼへと飲み込まれる。
天空から、弾幕の気配がした。
さっと身を引く。
弾幕は地に潰えた。
だが、他の弾幕が妖夢を次々に襲う。
時には避け、時には弾き、時には受けながら、妖夢は弾幕の中を縫うように走る。
椛も、同様にして妖夢に迫って行った。
仕方なく、使わないと決めていた霊撃を飛ばした。
エネルギーの波が、弾幕が一時止めさせる。
そして、天高くスペルカードを掲げた。
スペルカードの名前は―――
「現世斬ッ!」
刀を構え、足を踏みしめる。
地の感触が、下駄を通じて妖夢に伝わる。
―――― 一閃
雷の如き速さで、椛を斬った。

白い鴉天狗の衣装から、紅の血が噴き出る。
「椛!休んでなさい」
椛は苦々しくうなずくと、妖怪の山奥に逃げ去って行った。

妖夢は、上空を見る。
刹那。
鴉天狗の足が、白楼剣を薙ぎ払い、妖夢の細い腕に直撃した。
余りの痛さに、妖夢は身体を悶えさせる。
「ぐぅッ…」
鴉天狗の手が、妖夢の首根っ子を掴んだ。
もう一方の手が、楼観剣を取ろうとした手を捉える。
「さて、これで逃げられないよ」
射命丸の狡猾そうな顔が、目に入る。
「んじゃ、ばいばい」
片方の手が急に軽くなる。
その代わり、首元に、鴉天狗の拳が炸裂した。
妖夢の視界が暗転する。

5.

重い瞼を開くと、そこには西行寺家の家の天井があった。
外は既に暗く、暗闇と静寂が外を支配していた。
身を起こそうとするが、痛さで起こすことが出来ない。
何とか痛覚と格闘していると、幽々子が妖夢の寝ている居間へと入って行った。
その手には、おかゆの乗った盆が持たれている
「はい、お疲れ様」
幽々子がおかゆの乗った匙を妖夢の口に近付けた。
「あーん、は?」
妖夢は、頬を紅潮させる。
「いや、あの、自分で食べられま―――」
幽々子は容赦なく、そう言いかけた口にお粥を入れる。
そして、妖夢の小さな膝元で激しく泣き出した。
「ま、まったく、どこまで心配さ、させるのよ、馬鹿妖夢!」
嗚咽を漏らしながら、幽々子が布団に涙を滴らせる。
「射命丸がぐったりとしてたあ、貴女を連れてきたとき心臓がとま、止まるかと思ったわよ!」
「すいません…」
申し訳なく妖夢は言った。
「て、てっきり、私は、私は貴方の人間の方が死んじゃったのかと…」
妖怪の山は、半人前が楽々に登れるような山ではない。
登山するには、鴉天狗の襲撃、鬼の襲撃、そしてなにより自然の驚異と闘いながら、行かなければならない。
下手をしたら、生死さえ関わる。
無論、妖夢が幽々子に心配されるはずだ。
「すいません…」
妖夢は、ただただ謝るしかなかった。
「とにかく、もう、もうこれっきりにしてね。貴女も妖忌と同じように…」
そこまで言うと、幽々子は持前の軽さを取り戻す。
「じゃあ、さっさと食べなさい」
涙を拭きながら、笑いながら。
幽々子は木で出来た匙を放った。
妖夢の手が、それを掴んだ。

大切なものを護る力は、実力だけではない。
妖夢が、それに気づき、また一歩、成長した瞬間だった。
まだ未熟な妖夢を成長させたかった。
そんなお話です。

初投稿って緊張しますね(´・ω・`)

訂正
椛は白狼天狗でしたOTL
鴉天狗と表記していました、申し訳ありません。
銀ナイフ
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コメント



0.320簡易評価
7.無評価名前が無い程度の能力削除
戦いのところがいいです。次回作に期待
8.20名前が無い程度の能力削除
椛はいつの間に鴉天狗になったんですかね?
10.無評価銀ナイフ削除
>7さん
ありがとうございます。
でも戦闘シーンは苦手ですw

>8さん
うわああああOTL
本当にすいませんOTL
今すぐ訂正してきます