冬が去り、春が来る。
梅が散り、桜が咲く。
氷柱が折れ、花粉が舞う。
魔女が道具屋から道具を奪い、巫女が道具屋から道具を持っていく。
しかし、此処では季節の移り変わりなど一切合財関係なかった。
――大図書館、閉館致しまーす。
自身の使い魔たる小悪魔の声を耳にし、当の図書館の所有者であるパチュリー・ノーレッジは、読んでいた本に栞を挟み、静か
に立ち上る。
光が差し込まない此処で正確な時刻は掴みづらかったが、閉館宣言が普段よりも落ち着きがあったため、パチュリーは、恐らく
十八時近くだと認識した。
何をやっていたんだか――溜息をつきつつ、動かない大図書館は図書館内を歩く。
『貸し出された本によって各々の傾向を見出し、その特異な生態を探る』ため、パチュリーが図書館を一般開放してから数週間。
本来ならば十七時が刻限だった筈であるが、きっちり守られたのは数える程度しかない。
由々しき事実に顔を顰めつつ、入口にまでやってきた彼女が見たものは、足を前後に広げ右腕を伸ばす司書であった。
「……何をやっているのよ」
加えて、手は痙攣したように小刻みに動いている。
「剥けて反った杵柄で久々にとまほぉっぅく投法を試してみたら、つ、攣ってしまいまして……。
小悪魔小悪魔晴れ小悪魔、晴れ晴れ小悪魔晴れ小悪魔と称された栄光も今や昔!
あぁ、私の左手が疼きます……!」
「攣っているのは右手でしょ?」
「そこですか!?」
至極真っ当な返答だった筈だが、とパチュリーは小首を傾げた。
眼前で両手を振り抗議を始める小悪魔を見るに、どうやら何かが拙かったらしい。
ともかく兎に角、腕の攣りは治ったようだ。
「突っ込み所満載だったじゃないですか! その数四つないし五つですよ!?
あ、わかりました、パチュリー様、まずは焦らされているんですね、もうっ。
項から指を沿わせて次に肩甲骨に進む、そんな貯古球染みた指テクなのですね!」
「煩い」
「はい」
ともすればかき消されそうな静かな声は、けれど、向けられた者に届いたようだ。
その証拠に、小悪魔は頷いた後、しっかりと声をあげて沈んでいる。
しくしくしく、めそめそめそ。
顔に手を当て肩を震わせる使い魔を半眼で眺めつつ、主はまた溜息をついた。
パチュリーは知っている。
小悪魔が目に見えて可笑しなテンションの時は、言いたくない事があるのだと。
――尤も、その確率は五割程なのだが。残り五割は単に可笑しなテンションなだけだ。
「で。閉館時間はとっくに回っているんだけど、今日は何をしていたのかしら」
「うぅ、パチュリー様が最近冷たい……。以前はあんなに乱暴に突っ込んで下さっていたのに」
「一つ一つに返していたらキリがないでしょうが。――小悪魔」
正面に立ち、見上げる。小悪魔はパチュリーよりも頭一つ背が高い。
見下ろされる視線は数瞬さ迷っていたが、観念したのか、乾いた笑いと共に戻ってきた。
「あはは、えとですね、最後のご利用者様方々が、余りにも熱心に本を探していたので……」
「さっきの貴女のポーズからして、野球の本を? 容姿が幼い者に甘いの、悪い所よ」
「大半はむちむちばでぃな方々でした。いいもん見た」
「涎を垂らしそうな顔しているんじゃない。――だからって垂らすな!」
ぬほほ失礼と声を漏らしつつ、小悪魔は口元をハンカチで拭う。
『生涯現役』と書かれたソレは何処で手に入れたんだろうか。
そもそも何を現役で通すのか。ナニか。
どうでもいい疑問ばかりが浮かんでくるが、自身の言の通り、構っているとキリがない。
手にしていた本を抱き、パチュリーは質問を続ける。
「むちむ――んぅ、幼い者ではなかったと。じゃあ、誰が?」
「お嬢様もおられましたけどね。紫さんや永琳さん達です」
「一声かけてくれれば良かっ……あー?」
可笑しな名前が出てきた。何故に結界の大妖怪や月の頭脳がそんな事の為に熱心になるのか。
「何が目的かしら。特異な事例過ぎて考えがすぐには及ばないわね……」
「いえ、熱心に読まれていたので純粋に知識の習得が目的だと」
「彼女達が野球の? 悪くない冗談ね」
真面目に取り合わず、再思考。幻想郷でも有数の実力者達がたかが球戯に躍起となられても困る。
やりかねない気もする。困る。
「……駄目ね。解らないわ」
「そですか。じゃあまぁ、もっとサンプルを集めないといけませんね」
「貴女ね……。――解らないのは、彼女達だけじゃなかったわ。貴女もよ、小悪魔」
睨みあげるような視線を向ける。対象者は震えた。
「あぁ、私、痛いのは苦手な筈なのに、こう、背筋がぞくぞくと……!」
「さっきの。『余りにも熱心に本を探していたので』、の続きは?」
「こ、小悪魔は寂し過ぎると発情しちゃうんですよ!?」
勝手に身をくねり出す司書に、パチュリーは言った。
「……応えてくれないの」
「一時の事とは言え、彼女達は当図書館の本を求めてくださいました。それに応えられず、何が司書でしょうか」
疑問符が発音として認識するであろう前に、応えは返ってきた。
「やっぱり解らない……理解しがたいわ。普段の駄目な貴女と今の貴女。本当はどっち?」
「さ、さり気に嬉しい言葉、いえ、酷い事を。
――そう仰いますが、この世界で小悪魔を、私を一番識っているのはパチュリー様ですよ?」
召喚と契約。
主と使い魔。
真名の誓い。
そんな益体のない言葉がパチュリーの頭に浮かぶ。
と、小悪魔が大げさに頷きながら、口を開いた。
「確かに。確かに、パチュリー様が知らない私もございます。家族とか」
いたのか。
「……なんですか、そのご表情は。分裂して増えるとでも思われていたのですか。何の為に乳がついていると思っているのですか」
「い、言われてみればそう言う気がしないでもないわね。でも、そう、家族。どんな方々なの?」
「娘の私が言うのもなんですが、ママンは魅力的な女性ですよー。しかも、これもんのこれもんっ」
身ぶり手ぶりで体型を示す小悪魔に、パチュリーは問いを飲み込んだ。
はしゃぐような彼女の素振りを鑑みると、問おうとした父親はいないのだと考え至った。
或いはそう言う身の上か――ともかく、無遠慮に聞く内容でもなかろう。
「なんてたって、教父だったパパンを堕とした位ですからねっ」
この子にしてその親あり。もしくは、小悪魔の子は小悪魔。
「えぇと。二つ、確認させて。
一つ。貴女、ハーフだったの?」
「いえいえ。パパンは人間でしたが、私を成す頃には悪魔となっていました」
人の身で生まれ教父とまで称された者が、悪魔となる。
至る過程にどのような陰惨な事が行われたのか。
それを嬉々として語る眼前の存在に、パチュリーは少し身を引き締めた。
悪魔は語る。
「ママンとの関係が教会に知れ、パパンに追手が差し向けられました。
迫る彼らから逃げる途中、ママンはパパンに囁きます。
『貴方だけでも生き伸びて……!』と」
本当に悪魔かママン。
「其処は普通、私に魂を売りましょう、とかそういう流れじゃ……」
「ママン、その頃はパパンに自分が悪魔だと言っていなかったらしいんです。
――心からの囁きに、パパンも同じく心から返します。
『お前を抱く為に逃げているんだっ』……一人で逃げる意味はない、やぁ、お熱いですねぇ」
それでいいのかパパン。
「えーと……お母様、さぞかし魅力的だったんでしょうね。逢瀬の度に関係を持っていたでしょうに、そんな台詞を」
「いえ、ママン、結婚するまではキスまでしか許さなかったと言っていました」
「ぷ、プラトニックだったのね……」
パチュリーは額を押さえた。
悪魔に対する認識を改める必要があるかもしれない。
主の煩悶に気付いているのかいないのか、小悪魔は拳を握り、続ける。
「そして、パパンは叫びます。
『もはや道は違えた! 悪魔の王よ、魔界の神よ、我らを救えるのならばこの命を差し出そう!』」
「至る経緯はどうかと思うけど、肝心な所はしっかり召喚と契約……か。
でも、王や神って大きく出たわね。ちゃんと喚べたの?」
「現れたのは、逞しいアホ毛が愛らしいお方だったそうです」
額に手をあてたまま、もう片方の腕を伸ばし、待ったをかける。
「『宜しい、ならば結婚だ』――如何なされました、パチュリー様?」
「それって、アリスの親の神綺じゃないの? うん、確かに魔界神だけど」
「あぁ、すいません、説明不足でした。来られたのは王の方です」
ならば、『明けの明星』だろうか。大者には違いない。
「アホ毛は両方に生えていたと。所謂、ツインテール」
そんなんばっかりか。
頭を抱えたくなる衝動を抑え、未だ紆余曲折を語る使い魔に、魔女は人差し指を立て、問う。
微かに震える指は、彼女の煩悶の深さの表れであろう。
彼女の頭の中では割と絵画的な悪魔王が角の如くツインテールを生やしているのだ。致し方なし。
されど、パチュリーは最初に述べたもう一つの『確認』を急いだ。
何故か。
幾つか理由はあったが、最たるものは疑惑を払しょくしたかったからに他ならない。
疑惑が疑惑であれば良いのだが――思いつつ、口を開く。
「小悪魔。貴女はさっき、お母様の体型を身振りで示していたけれど、アレは今の体型なのよね?」
「へ? や、ママン、パパンと会った時の体型を維持しておられますよ? 愛って凄い」
「悪魔が何を……。じゃなくて、その、だって……」
口ごもる。
此処で口を閉ざせば、或いは美談で話を終わらせられるだろう。
悪魔として考えれば歪んでいるような気がしないでもないが、一般的には美談と言われる類の話だ。
けれど、パチュリーは言わずにはいられなかった。
「だって、あの形じゃ、レミィとどっこいどっこいよ?」
「そうですよ? とってもチャーミング!」
「パパン、ソレでよかったの!?」
小悪魔は首を振る。
「『ソレで』ではございません。『ソレが』良かったのです。まさに紳士」
パチュリーの頭がのけ反る。返ってきた時には叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
「ただの幼女愛好家じゃない!? って、それじゃあ教会に追われてたのって!」
「幼女を教会に連れ込んだと思われたんでしょうねぇ。足に口付けしてた所を見られたらしいですし」
「前言撤回、レベルの高い幼女愛……プラトニックは何処に行ったのよ!?」
「『お前は私の天使だマイエンジェル。さぁ舐めさせておくれ』。ママンが落ちた言葉です」
「ジーザス……! 願わくば貴方の元迷い子に愛ある鉄槌をお与えください……!」
「やだなぁ、パチュリー様、魔女が神に祈らないでくださいよ」
「貴女に言われたくないわよ!?」
喧々囂々。丁々発止。ボケツッコミ。
暫くして、息を荒げるパチュリーは、小悪魔に手を取られ司書室へと連れられて、椅子に座らせられた。
騒ぎ過ぎた自身に呆れ、背を深く沈ませて息を整える。
やはり、構っているとキリがない。
眼前に手が差し伸べられる。持っているのは、水の入ったコップ。
受け取り、溜息を吐く。――もう少し、聞いてみようかしら。
「真摯なお父様と魅力的なお母様。おフタリの一粒種が貴女なのね」
水を一口含み舌を濡らしてから、微笑み、見上げる。
「紳士なパパンとフケ専なママンの長女が私です。ヒトリで終わる訳ないじゃないですかー」
自身のこめかみに拳をあて、ゆっくりと動かす。頭が痛い。
「何の話よ……」
「ナニのお話じゃなかったんですか?」
「あーあー、貴女と似たような妹さんが三百六十四匹いるのね。毎日が誕生日!」
ヤケクソ気味に言い放つ。
「なんですか、パチュリー様。ヒトの親を動物みたいに」
しかし、冷静に言い返された。
しかも、珍しく若干怒り気味だ。
言われてみれば失礼極まりない言いぐさだったわね――パチュリーは素直に謝罪する。
「そうね、貴女ならともかく、貴方のご両親を侮辱するつもりはないわ」
「はいな。悪魔と言えど、ちゃんと避妊してるんですよ」
「ぶほぉ!?」
吹いた。まさかこの場でそんな単語を聞く事になろうとは。
「けふこほ……っ、あ、悪魔がそんな事気にするな!」
「ええ!? パチュリー様はエロス本みたいに毎日OKなんですか、描き変えないと!」
「私の事はどうだっていいの、って、こら、今さり気に変な事言わなかった!?」
「知っておられますか。0.02mmでもグロスで頭に振ってくると痛いんですよ」
「そりゃ144個も落ちてきたら、え、何、そのどうかと思う数!?」
「三か月分です。ママンはさびしがり屋なので、パパンがお仕事から帰ってくるまでに発情しちゃうんですよ」
「遺伝だったのそれ!? 玄関開けたら五分でママン!?」
「やー、パパンもママン大好きなので、寝室へと行くまでにベーたべた触っていました。これぞまさに妻みぐいっ」
「あぁもぉ、こんな話で上手い事言ったって顔しないで!」
力なき者でも集まれば強くなる。薄いゴムでも集まれば厚くなる、もとい、重くなる。豆知識。
たおやかに笑う小悪魔の声を耳にしつつ、パチュリーは目を閉じ本を両手で抱きこんだ。
自身の拠り所を胸に感じ、心と息を落ち着かせる。
彼女の癖であった。
一瞬後、瞳を開ける。
その動作は同時に思考をも促す。
馬鹿騒ぎは宜しくない。話を変えよう――魔女はそう考え至った。
「小悪魔。長女と言う事は、妹さんがいると。なんてお名前? あぁ、勿論、通称でいいわ」
悪魔にとって、名前、真名は重要なものであった。
親ですら知らないその名は、年を経て自らが付ける。
故に、知るのはヒトリないしフタリ。自身と、契約者のみ。
「上の妹はここぁと申します」
「ショートカットで貴女よりも悪戯好きなんですね。わかります」
「前者は合っていますが、後者は違います。変な物が好きな子で、のんびり屋なんですよ」
またしても冷静に返される。
パチュリーは小悪魔の気持ちが分かった気がした。
つまり、寂しい。
「どちらかと言えば、末妹がそんな感じですね。姦しいんです」
「……そ。名前は、こここぁ? それとも、こぁぁぁ?」
「みるくと申します」
以下略。――とはならなかった。はた目から見ても、小悪魔のギアがトップへと変わったのがわかる。
「そして、私の通称はれもんすかっしゅ、略して、れすか!
真名は無論、カフェオレでございます!
さぁパチュリー様、ご一緒に!」
拳を握り、声を張り上げる。ボルテージは最高潮。何かのメーターが振りきれた。
「キーング、スカーレットっ!」
「貴女の通称は小悪魔でしょう?」
――締め切られた空間に、何処からか風が吹く。
しくしくしく、めそめそめそ。
「それに、スカーレット家は名家とは言え、王族ではないわ。
レミィもお嬢様って呼ばれている。つまり、‘シンソウの令嬢‘でしょう?
……あ、今のは、『深窓』と『神槍』をかけているのよ? 面白いでしょ、笑ってもいいのよ?」
泣く使い魔を見て心を潤す冗談を送る。
自分はなんて徳量寛大なんだろう。
魔女は苦笑した。
小悪魔は肩を落としたままだった。
「……私は今、もーれつに欲情しています。そんな面白くない所だけ合わされても」
「寂しいって言いなさい。……え、面白くなかった?」
素直に頷かれる。
パチュリーも肩を落とした。
世界をとれると思っていたのに。
締め切られた司書室に、冷たい風が吹く。魔女の感情が使用した魔法に現れた。ひゅー……。
こほん、と先に空咳を打ったのは小悪魔の方だった。
リカバリーの早さには定評がある。
慣れただけとも言うが。
椅子に座る主の前で膝立ちの姿勢となり、両手を組む。
「――懐かしい話です。少し、ほんの少しですよ? 寂しくなってしまいました」
言葉に、パチュリーは視線を向ける。
使い魔に浮かぶ笑みは、少女の様な照れ笑い。
先ほどまでのはしゃぎようは何処になりを潜めたのだろう。
「どれくらいかと言うと、発情一歩手前位です」
潜んでなどいなかった。だからと言って顔をのぞかせないで欲しい。
「ですので、その、今日のお仕事の給料は、肉体的ご褒美も欲しいなぁとか」
破廉恥きわまりない台詞とは裏腹に、顔が俯く。
組まれた両手の指は、交差を繰り返していた。
耳まで赤い。
パチュリーは苦笑した。
「普段の下世話な貴女と今の貴女。本当はどっちなの? わからないわ」
その笑みは、頭を垂れる者に向けてか、自身にか。
――頬の色はそのままで、見上げられる。
「可笑しな事を仰らないでください」
「私が、貴女の真名を知っている貴女以外のモノだから?」
「名前なんてどうでもいいんです。ただ、私は貴女に解っていて欲しいのです」
苦笑を通り越し、パチュリーは呆れた表情を浮かべた。
どうでもいい訳などない。名前は悪魔を縛る術なのだから。
解って欲しいと言うのも可笑しい。悪魔を解るとはつまり、縛って欲しいと言う事なのだから。
目の前の使い魔は、本当に悪魔なのだろうか。これではまるで、――。
「あ、でもですね。
『名前なんてモノの本質を示すのには至らない些細なもの。でも、必要なもの』って妖夢さんが言っていました。嘘ですが」
「ええ、嘘。今日は許すけど。――庭師繋がりですね。わかります」
「わかられましって、えぇ!?」
薦められたらしい。誰かは言わずもがな。
驚愕の表情を張りつかせる小悪魔を面白そうに眺め、パチュリーは手をあげる。
「それで? わざわざ台詞を抜粋してきたのに何か意味はあるの?」
口を詰まらせる小悪魔。
普段と立場が逆転した構図に、魔女は笑みを浮かべる。
あげられた手が静かに、ゆっくりと小悪魔の頭に向かう。
「わ、わ、ちょっとお待ちください、言います、言いますから!」
「意味があるなら早くなさいな。時間は有限よ?」
「魔女や悪魔にとって僅かな一瞬など何の――あぁ言います、ですから!」
減らず口に、向かう手の速度が上がった。
頭に行きつくその前、直前。
小悪魔は、言った。
「ですから、えと、偶には、ほんとの名前で、褒めて欲しいなぁって」
手が、頭に辿り着き、髪に触れる。
「――わかっているわよ」
司書としての仕事ぶりに。
使い魔としての彼女に。
パチュリーは、返す。
「お疲れ様。今日もありがとう――」
魔女に浮かぶ笑みは、小悪魔めいていた。
「――名前なんだったかしら。忘れちゃったわ。てへ」
小悪魔は笑顔のままであった。
てへってあんた。
けれど、この場にそう突っ込める者はいない。
何故なら、小悪魔は石のように固まっていたから。
使い魔と同じく、主も笑顔のままだ。そして、続ける。
「It`s April Fool today!! ――嘘よ、う・そ」
所謂、ネタばらし。
パチュリー、凄く上機嫌。
「『貴女が解らない』って言うのも、勿論、嘘よ。使い魔が解らない魔女がいるものですか。
ま、貴女も散々嘘を言っていたんだから、いいわよね。ご両親の話、何処までが本当なの?
あ、もしかすると閉館の延長理由も嘘だったのかしら。だったら、それは騙されてしまったわ」
やるわね、貴女――己の嘘が鮮やかに決まった事、小悪魔の嘘が見事だった事、二つにパチュリーは満面の笑み。
その笑顔は、魔女と呼ばれる少女としては余りにも清々しく可愛らしく魅力的であった。
つまり、ママンと同じくチャーミング。
小悪魔は、笑顔のままで――灰になった。
「こ、小悪魔!? ちょっといきなりどうしたのよ!
あ、わかったわ、わかったわよ、小悪魔! このお節介な司書!
あんまりにも綺麗に騙されたから拗ねているのね、もう、仕様のない子! けぷっ」
舞い上がる灰にパチュリーは口と鼻を押さえる。
しかし、時すでに遅し。覆水盆に返らず。
少し含んでしまったかもしれない。
灰になった小悪魔が思った事。
それは、故郷の家族ではなかった。
また、軽くとは言え咳こむ主の体調でもない。
灰になり、パチュリーに含まれた小悪魔が思った事、それは――。
(パチュリー様の中、あったかいですぅ)
――以下は余談である。
灰になった小悪魔は、翌日、偶々大図書館へとやってきた巫女と風祝の祈祷によりロストは免れた。
けれど、その個体を『小悪魔』と認識するのを、主は拒んだ。
何故か――余りにも、真面目すぎたのだ。
「小悪魔、いいわ、目覚めさせてあげる。――胸が凝ったわ。揉みなさい」
「ノン、マスター。胸は凝りません。故に命令は実行できません」
「そんな……! 何が貴女をそうしたの!?」
崩れ落ちる魔女。
その肩に手を置くのは、同じく魔を司るフタリ。
振り向いたパチュリーに、魔理沙とアリスは力強く、言う。
「取り返しに行くぞ」
「小悪魔の魂を」
「魔界に!」
急げ、パチュリー。仲間たち。
小悪魔の魂が消えるまで、残された時間は少ない。
ホワイトクロスへと着替え、パチュリーは進み行く。立ちはだかる敵は、七躰。
知識魔女パチュリー・桃色魔界編(白衣魔女編)、乞うご期待!
――以上。余談終わり。
<了>
ワッフル!ワッフル!!
私の腹筋はここで限界をむかえました。
……赤白青白ペアすげえ。
待て待て。ということは小悪魔の相棒は三本矢の?
お見事です。ぐっじょぶ。はらしょー。
突っ込み切れねぇやww
アホ毛二本なら「蠅の王」の方かも
次も期待してます
まぁ、面白いからいいんですが。
誤字報告です、
>得意な事例
特異な事例
ではないでしょうか。
ラムネネタも吹いた
上手いところでもってくるなー
最後ら辺のは『紫ずきんチュチュ(少女Yと被るけれども致し方なし)』で良いでしょうか。
「ホーリーアップ」でなく「アルケミチェンジ」って感じですけれど。
やっぱみすちーはまっすぐエロスで、とてもぐっじょぶ。
エロス無き小悪魔はエロスでない!
あと何故か「お祈りの時間です」のあとに
ゲー○ッツを思い出した。
って笑い声がたまりませんな。