玄関から声がして、阿求は書き物の手を止める。
もう、この時点で嫌な予感がしている。
筆を置いて、溜息を吐くと間もなく乱暴な足音が聞こえてきた。
使用人の声。
阿求の部屋へ続く襖が勢いよく開けられた。
「よ。阿求。遊びに来たぜ」
「どうも、こんにちは」
阿求は書きかけの史紀を横に置く。
霧雨魔理沙はおもむろに帽子を脱いだ。
「今日はどうしました?」
「いや、顔を見にきただけだよ」
「はあ、そうですか」
昨日、霊夢と共に訪ねてきた魔理沙であったが、今日も来るとは予想外であった。
自分のような、弾幕ごっこも出来ない、つまらない人間のところに来る理由が今ひとつ分からない。
「書き物してたのか。悪いな。邪魔したな」
その割には帰る素振りもなく、目の前に腰を下ろした。
阿求は眉根に皺を寄せる。
「えっと、何かお話しが」
「いや、別に」
魔理沙は「ただ、遊びにきただけ」と手を振った。
阿求は更に困惑する。
「あ、ほら。お茶菓子」
魔理沙は長方形の箱を差し出した。
阿求は驚きつつも受け取る。
「羊羹だよ」
正直な所、阿求は魔理沙が苦手であった。
嫌いというわけではないが、どうもしっくりこない。釈然としないのである。
阿求は数多くの妖怪と触れあってきたが、このようなタイプの者とは接触したことがない。
妖怪はどこか影があるのだが、魔理沙にはない。あっけらかんとしている。
むしろ、妖怪より苦手だ。
昨日は霊夢がいたから中和されていたものの、二人きりになると何か息苦しい。
「羊羹旨いだろ」
「はい」
使用人に小さく切らせた羊羹をかじりながら、阿求は頷いた。
魔理沙も同様に羊羹を食う。
「いや、しかし。暗い部屋だな」
「は、はあ」
阿求は何か、自分が申し訳ないようなことをした気持ちになる。
魔理沙はおもむろに障子を開けた。
「う」
途端に眩しい光が差し込む。
阿求は余りのことに目を覆った。
魔理沙は大きく、体を伸ばす。
「ちょっと換気するぜ」
阿求は「はい」と言う他無かった。
魔理沙は「おお、気持ちいい」と体を伸ばしている。
「仕事、邪魔しちゃったかな?」
「い、いえ」
どうして、「はい」と言えないのか。
ここは「はい」と言うべきなのだ。
「邪魔ですね。出て行ってください」と言えないから、こんな息苦しいことに。
言え。今すぐにでも言え。
「全然邪魔じゃないですよ」
阿求は己に腹を立てた。
妖怪相手なら皮肉の一つでも言いたいところだが、魔理沙は余り親しくないこともあって非常に言いにくい。
まだ、八雲紫の方が扱いやすい。
「そうか、よかったぜ」
あははははは。
阿求は机の上を爪で引っ掻いた。
「史紀の具合はどうなんだ?」
昨日も聞いただろう、この女。
たったの一日で変わるか。
「うん。まあ、いいですね」
「そうか。それはよかったぜ」
あははははは。
阿求はなるべく、魔理沙の方を見ないように努力した。
「そうか。じゃあ、話しでもしようぜ」
「はあ」
阿求はお茶を啜って、赤子のように、ぼそぼそと羊羹を食べる。
これほど羊羹を不味そうに食うのも難しい。
「今日な、アリスと会ったのよ。魔法の森で」
「はあ」
「そしたらあいつ、何て言ったと思う」
阿求は首を横に振る。
「……、分かりません」
「当ててみて」
ああ、うぜえ。
阿求の犬歯が「がり、がり」と音を立てた。
魔理沙は太陽のように笑った。
「こんにちは……、ですか」
「そんなわけないじゃん」
魔理沙が勢いよく畳を叩く。
阿求はびくり、と肩を震わせた。
一秒でも早くどこかへ行って欲しい。
「それがさあ、聞いてくれよ」
「はい」
「本を返せって」
「はあ」
「いきなり、攻撃してくるんだぜ。こうやって、人形で」
阿求はアリスとやらに助けを求めたく思った。
むしろ、アリスと結託して魔理沙に天誅を加えてやりたい。
「そ、それは魔理沙さんの方がいけないんじゃないですか?」
「え? そんなわけないじゃん。私は借りただけ。ちょっとの間」
あははははは。
阿求は空想の世界へ没入することにした。
自分が飛んでいる幻想。
目の前の笑い声など知らぬ。
誰もいない。
自分は何も知らぬ。
阿求への精神的拷問はそれからも小一時間続いたが、魔理沙は突然「そろそろ帰るか」と言い出した。
阿求の表情がにわかに明るくなる。
普段なら、別段やりたくもない書き物が、今は恋しい。
手が疼く。
「そうですか」
ふと、阿求の頭をよぎる物がある。
いや、このまま帰してはいけない。
阿求は考える。
こいつは、今日のところは帰るつもりらしいが、また来るに違いない。
すれば、自分はまたしても被害を被る。
はっきり、教えなければならない。
「あなたは、仕事の邪魔だ。むしろ、精神的衛生に差し障る」と言わなければならない。
皮肉が通じる相手ではないからして、はっきり言わなければならないのだ。
突如、阿求に使命感が降りる。
今まで失っていた闘争心でもある。
「あ、あの」
その時、魔理沙は「あああっ」と大声を上げる。
「う、うわっ。何ですか」
「お前に言わなくちゃいけないことがあったんだよ」
「ひ」
魔理沙は阿求の肩を掴んで揺らす。
何度も。前後に。
自分は何も悪いことはしていない。
ただ史紀を書いていただけなのだ。
「霊夢からのことづてで、宴会に今度来れば? ってさ」
阿求は揺すられながら、内容を反芻する。
「史紀もいいけど、たまにはってな」
ようやく解放された阿求は半ば放心状態に陥る。
「中々、楽しいぜ」
魔理沙は思い出したように阿求に尋ねた。
「ああ、そういや。何か言いかけた? 何?」
「……、いえ。何でもありません」
すっかり勢いに飲まれ、毒を抜かれた阿求はそう言ったきりだった。
魔理沙は「それはよかった」という具合に頷く。
「それじゃ、邪魔したな。羊羹は好きに食べてくれ」
魔理沙は勢いよく襖を開けて出て行き、部屋には阿求が一人取り残される。
開けられた窓からは風が吹き込んできて、桜の花びらが舞い込んでくる。
阿求は「何が起こったのか分からない」という有様だった。
よく分からないが、完敗であった。
魔理沙の足音が遠ざかって行くと、誰かが扉を叩く音。
使用人の声がした。
阿求は困惑から引きはがされる。
「阿求様。魔理沙様が帰るようです」
「そうですか」
阿求は抑揚のない声で答える。
「お友達ですか?」
「いえ、まあ。そうでしょうかね」
阿求は曖昧に答えた。
「いいお友達ですね、楽しそうにお話しされているのが聞こえました」
「はあ」
あれは友達と言えるのだろうか。
阿求は考える。
どうにも違うような気がしてならない。
玄関を開ける音がした。
魔理沙が帰っていくらしい。
本当に疲れた。
阿求は体中の力が抜けていくのを感じた。
これでは、今日は書き物が出来ないかもしれない。
「そういえば」
「何ですか?」
「魔理沙様が本をたくさん、持っていかれたようですよ」
「はっ?」
阿求は問い返す。
「貸してもらった、と言っていましたが」
使用人は不思議そうに答えた。
何がおかしいのか分からぬかのように。
それがいけなかった。
阿求は静かに立ち上がると机の引き出しから拳銃を取り出し、迷うことなく外へと駆けて行った。
とりあえず魔理沙逃げて!
魔理沙の外道っぷりに吹いた。
ちょいと度が強いので魔理沙好きは反応するかもですが、
羊羹美味しかったからいいよね!(?)
しかし鉛の弾幕はちょっと拙いと思うよ!羊羹で許してあげようよ!
だめかな?だめだろうなあ…
あっきゅんの心が黒いぜwwまりさ外道だぜww
来世まで借りてくぜ!!
阿求さん、なんでいきなり攻勢に転じてるんですかwww
いや裏切ってくれてもよかったんだけどw
魔理沙は何処からでも盗み働きますねww
そして魔理沙、お前って奴ぁ・・
魔理沙はどんな人にも受け入れられるようなキャラとして書かれることが多いですが、
実際はおとなしくて気が細やかでまじめな穏健派からは
結構つきあいにくく煙たがられるタイプなんでないかと思います。
あ、大好きですよ魔理沙。
魔理沙みたいな子の相性って、
あまり良くなさそうな感じがします
どちらかが年上なら、「ああいう人だからしようがない」的に
まだ諦めもつくんでしょうけど、同世代だとちょっと難しいかも
なんとなくパッチェさんに阿求を置き換えても通用しそうだw
ひどすぎたwww
そして、まさに魔理沙。
神主原作の東方漫画では阿求が魔理沙を上手くあしらっていましたが、
こういう解釈もアリだと思います。
このお話の後の2人の対決も見たかったな。
うん。魔理沙はやっぱ、うざい子であるべきだ。
外道でもいいじゃない。
いや、性格云々の前にだな・・・(ry
正面から「本借りに来たぜ!」って突っ込んでくるでしょ。
まぁその辺は俺が勝手に思ったことだから気にせず。
とりあえず、阿求さんや、落ち着いてよく考えなさい。
本当に拳銃なんか使っていいんですか?
生ぬるいですよ?そこはもっと強気に、例えばソーラ・レ(ry
そして迷わず引き出しから拳銃を取り出すシーンがオチだとは予想外。
背後から狙撃されてもしょうがないなぁ