「も、妹紅ー!! 貴様ら、妹紅をどうするつもりだ――!!」
「煩いわね、ちょびっと借りるだけだよ」
「お嬢様、急ぎましょう。パチュリー様の日除けがもうすぐ切れてしまいますわ」
「んぐー! むぐ――!!」
「妹紅ぉぉおー!!」
「……やだ」
危険っちゃ危険な紅い館、紅魔館に来訪者が訪れたのは数時間前。
ただ来訪してくる妖怪や妖精なら、さほど珍しいことではない。門番になついた妖精だのが遊びに来るのはよくあることだ。
しかし今日訪れた「人間」は違った。
形式上は「招待」、本質的には「強制連行」。
竹林で焼き鳥をはふはふしていた人間を、大人気もなく二人がかりでふんじばったのだという。
当初こそ「人さらい」だの「クソチビ」だの「寄せ上げ長」だの大騒ぎしていた人間も、紅魔館に着いてからはムスッとしつつも大人しくしている。
その人間――不死の蓬莱人たる藤原妹紅に、紅魔館の主たる悪魔、レミリア・スカーレットが言う。
「たまにでも構わないの。この通りよ」
高々と頭を高く上げ、地に伏した蓬莱人をまるで嘲笑うかのような高圧的な声で。
ブスッとしたままの妹紅はぷいと顔をそむけ、そのむっつりとした態度を崩すことなく、言う。
「足を組んで頭を高らかにした[この通り]があるわけ」
「はあ?」
何がいけないのよ? と目をぱちくりさせたレミリアに、妹紅はツッコミを諦めて溜息を吐く。なんでこうなるんだ、畜生。
レミリアの頼みとは、都合の空いた時間彼女の妹、フランドールの面倒を見ることだった。
妹紅も阿求から借りた書物で、彼女の名を知っていた。「フランドール・スカーレット」。
天涯孤独の吸血鬼。四百九十余りの年月を地下の牢獄で過ごした、気の触れている少女。
少し機嫌が悪くなっただけで辺りの物を無差別に破壊するらしく、姉たるレミリアも手を焼いているって慧音が言ってた。
そりゃそんだけ閉じ込められてれば気の一つや二つ狂うね、頭の中がリリーホワイト、と心中で冗談を呟き、自分をじっと見つめるレミリアに言う。
「でもわざわざ私である必要もないじゃない。肝試しんときの連中はどうしたの」
思い出したのは、あの夜に肝試しと言って現れた数組の人間と妖怪たち。レミリアとその脇に立つメイド、十六夜咲夜もその夜に見た組のうちのひと組。
どれもこれもが妹紅と互角の実力者ばかり、それが二対一という卑怯極まりない方法で襲ってきたのだから、勝ち目なんて欠片もなかった。
そっちがその気ならこっちは輝夜と――いやいやいや、なんであの引きこもりなの、慧音でしょ常識的に考えて。でも慧音満月のとき超怖いしなぁ。
あれ。何の話だったっけ?
「霊夢はわざわざ此処に通って弾幕ごっこをするようなタチじゃないわ。半人風情は主人に手でも焼いてるんじゃないかしら」
「はは、そこのメイドと一緒だ」
溜息を吐くレミリアに、妹紅はカラカラと笑ってみせる。
びし、と青筋の走った主人に何のフォローも入れない従者を見る辺り、妹紅の指摘は概ね正しいものであるようだ。
スペル宣言でもかましそうになったレミリアはしかし、かろうじて理性がそれを押し留める。
こんな場所でやり合えば、それこそ屋敷などどこぞの天人よろしく一発倒壊だ。マグニチュード最大ってレベルじゃねーぞ。
「……魔理沙はだめ。こんなことで貸しを作るとパチェが不憫すぎるわ」
「ふーん。まぁパチェってのが誰かは知んないけど、私もそんなに暇じゃないよ。お嬢ちゃんの妹ちゃんがどうなろうと関係ないね」
「拒否するようなら、パチェに頼んでお前に加齢臭がひどくなる呪をかけてもらうわ」
「1300年にも渡り濃縮された美しい加齢臭を見よ! ってか」
「臭いは見えないわ」
「心の目で見るんだよ、お嬢ちゃん。それと私に呪なんて効かない、蓬莱人にそんなものは無意味さ」
一通り言葉遊びを交わした後、妹紅は自信満々な様子で言い放った。蓬莱人には毒も呪も通用しない。いや一応効くけど一発リザレクション。
お前が言うならそうなのだろうね、とつまらなさそうに呟くレミリア。1300年の根なし草を舐めるなよ、お前とは食った泥飯の数も違う。
「じゃあ、竹林を一瞬で荒野にしてやろう」
「上白沢の慧音先生に無かったことにしてもらう」
「咲夜のナイフでツルッパゲ」
「髪の毛一本リザレクション!」
「こうなったら紅魔館に監禁するしかないようね!」
「だったらお前の屍を乗り越えて竹林に帰らせてもらおう!」
ガタン、と同時に立ち上がったレミリアと妹紅。背景にゴゴゴゴとかドドドドとか書かれそうな勢いの二人は、何故か仲良く肩を組みながら広間を出、玄関に向かう。
ちなみに、日除け魔法は切れていた。
「うう……不覚」
「火吹き空舞う不死の民に勝とうなんて永遠に早いね、お嬢ちゃん」
「た、太陽さえ無ければ……」
「雨なら勝てたのか」
「いや、雨もちょっと……」
咲夜に渡された日傘でレミリアを守りつつ、妹紅は紅魔館に向かっててくてくと歩く。その背中にはボロ雑巾のようになったレミリア。
吸血鬼は太陽の光と水を嫌うと言うが、どうやら本当だったらしい。ていうかつくづく外という環境に適応できない種族だなオイ。
こんな悪条件で妹紅に勝つつもりだったのか。たぶんそうだったのだろう。
しばらく宙を泳いでいた目を閉じて、妹紅は溜息を吐いた。まあ、暇潰しにはなるでしょ。
「ま、いいか。暇だし」
「え」
妹紅の呟きに、レミリアは間の抜けた声をあげて肩を掴む力を強める。
「いいよ、引き受けた。最近暇だし、付き合ってあげる。流石にイモムシみたく雁字搦めにされて拉致られた時はイラッときたけど」
「本当!? 本当の本当に本当なのね!?」
「本当の無駄使いだね……ああ、本当だよ、本当」
絨毯の敷かれた階段を降りる咲夜の後ろ姿を尻目に、物珍しげに周りをきょろきょろと見回す妹紅は呑気に口を開く。
「で、具体的にどんな奴なんだい。ふらんどおるってのは」
「お嬢様と同じ、高貴なる吸血鬼ですわ。持つ力はありとあらゆるものを破壊する程度」
「ありとあらゆるもの? そりゃすごい、その気になれば時の概念を破壊して不老化もできそうね」
咲夜の言葉に、妹紅は正直な感想を述べる。あらゆるものを破壊するのなら、コントロールすれば彼女に怖いものなど無くなってしまうだろう。
下手をすれば幻想郷自体を左右することになる。そんな化け物がすきま妖怪の他にも存在していたとはね。
「妹様の力は確かに強いわ。でもコントロールができないの、加減と言うものを知らないが故にね。そもそも妹様の力は形あるものに対してしか向かない」
「あ、そ。まあ構わないけどね、なんでも」
「それならいいわ。……此処よ」
コントロール出来ない、と聞いた途端興味を薄くした妹紅に取り合わず、咲夜は目の前、薄汚れた鉄扉の閂を外し脇に立て掛けた。
随分厳重だな、と目を丸くした妹紅だが、その視線に気付いた咲夜に「仕様がないの」と苦笑される。
どうにもやりにくいわね、ともんぺを掻いて、妹紅はポケットに手を突っ込んだ。
「妹様、咲夜です」
取手を握る前に、咲夜は扉に向けて声をかける。返答はない。
「寝てんじゃないの」
「失礼します。先日お話していた世話役の者を連れて来たのですが」
「なんだと!?」
欠伸を噛み殺した妹紅を尻目にサラッと言う咲夜。
マジか。ホントにこの紅魔館に監禁される羽目になるのか。遊び相手だけって聞いてたのに。
小言の一つや二つも言いたくなった妹紅だが、咲夜の言葉に目の前の扉が少し開いたことでそのタイミングを削がれてしまう。
細く開いた扉から覗く、紅色の瞳と白磁のような肌。煤の被っている軽くウェーブのかかった金髪は肩まで伸び、
宝石にも見紛う羽根はとてもではないが吸血鬼のものとは思えなかった。寧ろどこぞの神話で出てくる神獣だ。
身長は妹紅の胸ほどもないかもしれない。なるほど、身長だけは姉そっく――ウォッホン。
「……」
「こっちが藤原妹紅さんで、これからしばらくの間妹様のお世話をします。妹紅、此方がフランドール様。レミリアお嬢様の妹様で……、
まぁ、詳しい説明は不要ね。とりあえず困ったことがあったら呼んで頂戴。なるべくお掃除の手間をかけたくないから血みどろにはならないで」
「はいはい」
いつの間にか遊び相手が世話役になってやがる、と小さく愚痴を零すが、レミリアと約束した手前、放り出すわけにもいかない。
悩んでいる間に咲夜は音も無く消え去ってしまった。うわあ、時間操作超便利。私も妖術じゃなくてこっちが良かったわ、うん。
どうしようか唸る妹紅とじっと彼女の姿を見入るフランドールの二人が残され、地下牢前には奇妙な静けさが漂う。
(やばい、超気まずい)
目の前の無邪気な瞳にぐらりと揺れる心を感じ、妹紅は身体を見えないビニール袋で締め付けられるような気分になる。
元々子供と遊ぶのが得意、というわけではない。極力人付き合いを避けて生きて来たのだから無理もないだろう。
「……あー、フランドール……ちゃん、だっけ?」
「うん」
よし、返事はした。私の言っていることは分かるらしい。
などと心の中で心底失礼なことを考えつつ、妹紅は白髪をガリガリと掻いて明後日の方を見やる。助けて慧音、こういうときどうすんの。
「うーあー……とりあえず自己紹介だけしとくよ。
藤原妹紅。年は数えてないけど1300才くらい……嘘付きを見るような目で見るんじゃない。本当よ。
私は蓬莱の薬を口にした不死人さ。首を撥ねられても、左右真っ二つにされても死なない」
年齢を言ったところで怪訝な顔をしたフランドールに、妹紅は地下牢の扉を両の手で掴んだ。
扉一枚の距離にいたフランドールはその行動に目を細めるが、「入ってもいいかい」と笑った妹紅に小さく頷く。
「んじゃま、お邪魔しま――」
す、のところで、妹紅の身体はピタリと止まった。
何も無い、何も無かった。
就寝するためのベッドも、着替えるための服も、物を入れるためのクローゼットも、
座るための椅子も、外見相応の女の子が欲しがるであろう縫い包みも、何も。
フランドールが生活している空間には、全く何も存在しなかったのだ。冷たい石の床と、分厚い壁。地下に造られたために窓の一つすらない。
有り得ない。馬鹿げている。こんな場所で、「生活」ができるはずがない。
「……フランドール、いつもここで何してる?」
「なにもしてないわ。じっと座ってるの」
冗談ではないか、と妹紅は軽い眩暈を覚えた。本当に、こんな場所で暮らしているのか。
これじゃ閉じ籠ってるのか閉じ込められてるのかわかりゃしない。
なんとかしなければ。これは世話役以前の問題だ。
「フランドール、私はお嬢ちゃんの遊び相手を……弾幕ごっこをしに来たんだ」
「……? うん、さっき咲夜から聞いた」
「でもね」
レミリアから言われた遊び相手になる、という願いを、妹紅は20分ほどで綺麗さっぱり頭の片隅に押し込めてしまう。
とにかく今は、自分が正しいと思ったことをすればいい。咲夜から「世話役」と言い渡されたのだから、彼女の身の回りの世話を焼いて何が悪い。
「たった今、もっと楽しいことを思いついたよ」
「は?」
妹紅とフランが初の邂逅を交わしてから十数分後の、紅魔館の中に造られた大図書館にて。
久方ぶりに昼夜の逆転したレミリアは、しかし眠気が覚めないという理由から、珍しく本を読み漁っていた。
バサッと本を落としたレミリアに渋い顔になった紫色の長髪の少女――パチュリー・ノーレッジは、指先を軽く払って本を持ち上げた。
フワフワと浮かびパチュリーの手に収まった本には目も暮れず、レミリアはわけが分からないといった顔で咲夜を見やる。
「いえ、「は?」ではなく」
「さっき妹紅と妹様が香霖堂に行く、って出て行ったわ」
「え? は? へ? なんで?」
パチュリーと咲夜の言葉に目をパチクリさせるレミリア。彼女と入れ違いに出て行った二人の言っていたことを思い出し、パチュリーは本の頁を捲った。
「リフォーム、ですって」
幻想郷の空を、二対の紅の光が飛ぶのを幻視したレミリアは、途端に体中の力が抜けて椅子からずり落ちた。
吸血鬼が貧血を起こすとはなんとも面白くない光景である。
「は?」
紅魔館より西、一時間ほどの距離を飛んだ場所に、小さな道具屋がある。
名を「香霖堂」。一人の物好きな店主が営むその店は、しかし辺鄙な場所にあるためかそれほど客入りは良くない。
たまに訪れる客といえば、今日訪れた二人のような、非常にトンチンカンな客のみである。
「いや、「は?」じゃなくて」
「木材ちょうだい」
こいつアホじゃねーの? といった顔で首を傾げる妹紅と満面の笑みで両手を突き出したフランドールに、香霖堂の店主森近霖之助は目を点にした。
一体何を言っているんだコイツらは。頭の方は大丈夫なんだろうか。どこの世界に木材を売る道具屋がいるのだろう。
「そんなものあるわけないじゃないか。冷やかしなら帰った帰った」
こんな風に邪険に扱ったのがだめだった。後に道具屋店主はそう語る。
びしり、と頬に青筋の走った妹紅と笑顔を一瞬で真顔に引き戻したフランの二人に、霖之助は軽い……いや、かなり重い悪寒を覚えた。
ある晴れた幻想郷の元、鴉天狗が灰燼に帰した香霖堂を見つけたのは、それからしばらく後のこと。
「うーん、他に木材を調達するとなると……もう直接木を切り倒すしかないなぁ」
「どうやって?」
「ノコギリが家にあるから……日除け魔法、後どれくらい保つんだっけ?」
「パチュリーは、弾幕ごっこしなければ夕暮までって言ってた」
「なら大丈夫だね。鋸を使って竹を取ることにしよー」
パチパチと爆ぜる道具屋の梁を尻目に、妹紅は「あのノコギリどこやったかな」と薄い記憶の中で家の中を捜索して回る。
フランドールの方は念願の外にこうもあっさりと出られたことで軽く気分が昂っているのか、ウズウズとした様子で妹紅の方を見ている。今すぐにでも飛び立てそうな勢いだ。
やがて、以前慧音に貸したまま忘れていたことを思い出した妹紅。「おー」と手を叩き、フランに笑いかけた。
「よーし、じゃあまずはあの杉の木まで競争だ!」
「分かった、今度は負けないから!」
「高き空を往く蓬莱の民にどこまで付いて来れるかな!!」
後背に鳳翼を羽ばたかせる妹紅の横に並び、フランドールは装飾にも見紛う翼に力を込める。
先ほど気持ちよく破壊活動を行ったことなど忘れ去り、二人は遥か遠方――人里の麓に立つ杉の木に目線を合わせた。
「よーい……」
「「どん!!!」」
ゴシャッ、と二人が立っていた地面が数センチほど減り込み、辺りに凄まじい熱風と後塵を撒き散らしつつ二人は空へ打ち上がった。
全く同じタイミング、全く同じ初速、全く同じ加速で全く同じ高度まで到達した二人は、大きく螺旋を描きながら目にも留らぬ速度で空を飛ぶ。
ほんの僅か、長い間幽閉されていた故のスタミナ不足でフランドールが妹紅に遅れ始める。スピードが同じなだけ、体力に分がある妹紅の方が有利だと言えた。
結局最後まで僅かに空いた差は縮まることなく、妹紅が杉の木にタッチしゴールイン。少し遅れてフランドールが着地――
「てりゃあぁああ!!」
しなかった。
フランドールは杉の木の幹目がけて全く減速せず、トップスピードで木の根元――もとい、妹紅の胸へと突っ込んだ。
「ごうふぁっ!?」などと頓狂な声を上げてぶっ倒れた妹紅に跨り、フランドールはその顔をじっと見やる。
「妹紅って、なんでこんなに速いの? 人間の癖に」
「……つつ、また妙なことを聞くね、お嬢ちゃん」
「ねえ、なんで?」
コブのできた頭を押さえながら妹紅は考える。この場合、何と答えてやったらいいか。
今自分に馬乗りになっている少女も、紛うことのない吸血鬼。誇り高き種族。スカーレットデビル。
そんな彼女には、理解できないのだろう。ただ「死なないだけ」の人間が、どうしてここまで速く、強いのか。
「……私は何事にも一生懸命に頑張るからさ。人間だからとか、妖怪だからとか、そんなのは関係ない」
「私だって全力で飛んだわ。手なんか抜いてない」
「足りなかったのさ、お嬢ちゃん」
分からない、という顔をするフランドールの頭を撫で、妹紅は仰向けの体勢のまま微笑んだ。
これは謎かけのようなものだ。インチキと言っていい。
どれくらいインチキかというと、咲夜の手品並にインチキだ。
「フランドールは頑張って飛んだ。だけど私はもっと頑張って飛んだ。だから私が勝つんだ」
「……そんなのインチキよ」
バレた。
敵わないなあ、と苦笑しつつ、妹紅は軽く、しかし力強いフランドールの体を抱き抱え、器用に立ち上がった。
「なに、時間はたくさんあるんだ。いつかは勝てるように、フランドールがもっともっと頑張ればいい」
「……」
黙り込んでしまったフランドールに肩車をし、妹紅は手をパンパンと叩く。
早くしないと夕暮れ時に日除け魔法が切れてしまう。万が一切れてしまったら、どこかで日傘を調達するか夜まで時間を潰す羽目になる。
「それより、ね。リフォームするんでしょ、フランドール?」
「う、うん」
あわわ、と妹紅の肩の上でふらつくフランが慌てて自分の頭に掴まるのを見、妹紅はカラカラと笑う。
「じゃあ急いでノコギリを取りに行かないと。勝負はいつだって出来るさ!」
言うが早いか、妹紅は固い地面を蹴り、杉の木が立つ小高い丘を猛スピードで駆け降りて行く。
走ると言うより転がる、滑るに近い無茶苦茶な走り方の妹紅に、フランは肩の上で振り回されながらも小さく笑みを浮かべる。
「人里まで一直線、妹紅電車のお通りだー!!」
「妹紅、電車ってなに!?」
妹紅の上で上下に揺られるフランドールは、聞き慣れない単語に声を張り上げる。
対する妹紅も、鹿もビックリな驚愕のスピードで丘を駆け降りつつ、声を張り上げた。
「鉄で出来た蛇さ! 人を何百人も載せて運べるらしい!!」
これは彼女の友人、上白沢慧音から聞いた話であるため真実は定かではない。
慧音は里に訪れたとある巫女に教えてもらったらしいよ。名前は確かー……みさえ? さみえだっけ? 確かそんな感じ。
妹紅の言葉に目を輝かせたフランは、頭の中で空を行く全長数百メートルの大蛇を思い浮かべながら叫ぶ。
「すごいわ! 見てみたい、電車!」
「幻想入りが楽しみだね! それ、もうすぐ慧音の家だー!!」
燦々と光る太陽の中で、金髪と白髪の少女、人間と吸血鬼の二人で一つの長い影は一直線に里へと駆けていった。
人里へと降りて行く、二人の姿を捉えた上空の影三つ。
一つは微笑ましそうに、一つは興味薄げに、一つは不機嫌そのものを全面に出しながら、妹紅とフランの動向を空から観察していた。
「……結構いいコンビじゃないですか、お嬢様」
「そういう問題じゃないわ! あの人間何を考えてるの!? フランを軽々しく外に出したりして!!
大体、パチェ!? なんであの子に日除けの術を使ったりしたのよ!」
頬笑みながら二人の様子を見やる咲夜に怒鳴り、レミリアは自分の脇で本を捲る友人を睨む。
怒鳴られた張本人であるパチュリーの方は涼しい顔で本から目線を逸らすことなく口を開いた。
髪と本が痛む、と魔法で日傘で完全防備を施している辺りは流石というかなんというか。
「大丈夫よ、あの蓬莱人が傍にいる限りは」
「妹紅が強いからフランを止められるって? 妹紅は「人間」なのよ!?」
レミリアの困惑も無理はないだろう。レミリアとフランには契約として、人間を襲うことを禁じられている。
その契約を破ることは許されない。だがフランは契約のことをほとんど頭に入れていないだろう。
万が一人里に入り、人間がフランドールを見て逃げ出しでもしたら。
その先は考えたくもない。だからこそ頼んだというのに、あの蓬莱人と来たら!
「レミィ」
「――へっ?」
「腕、はみ出てるわよ」
気付けば、いつの間にか身を乗り出していたのか左腕が軽く爛れていた。慌てて身体を日傘の中に引っ込め、人里の方を心配でたまらないと言った顔で覗く。
普段からこれくらいしおらしければ可愛げもあるのに、と溜息を吐いたパチュリーは本を閉じ、ようやっと日傘を自分で掴んだ。
「大丈夫よ。以前蓬莱の薬に興味があって色々嗅ぎ回ってみたことがあってね、ひとつ面白いことに気付いたのよ」
藤原妹紅。
老いもしない、死にもしない蓬莱の人の形。
妖術を繰る人間であり、レミリアと咲夜の二人がかりでやっと倒せるほどの実力者。
そもそもスペルカードルールの歴史は浅い。外の世界で長い時を生きてきた彼女は、恐らく弾幕戦よりも殺し合いの方が得意なのだろう。
そして何より彼女には、西行寺幽々子の力――死を操る力が効かなかったという。
[死を操る]力を[死なない]力が打ち消した。これはつまり、相手の能力に自分の能力がある程度有効であることを示している。
言うならば、山に住んでいるという白狼天狗の力には、夜雀の視界を奪う力は効き辛いということ。
それならば。パチュリーは一つの仮説を立てる。
藤原妹紅が幽々子の術で[死なない]理由が、もしも蓬莱の薬ではなく[死なない程度の能力]にあるとすれば。
フランの力で五体バラバラに破壊されたとしても、彼女は死なない。
心の臓を砕かれても、脳の髄を完全に破壊したとしても、死ぬことはない。
「あの人間なら恐らく、例え妹様の力が暴走したとしても止めることができる」
「どれくらい確かなの」
「そうね、今からレミィが五体満足で紅魔館に帰ることができる程度には確かよ」
パチュリーの言葉に、レミリアはようやく口を閉じた。だが納得まではしていないのか、いつでもフランドールを止めに入れるよう体に力を溜めておく。
ま、そもそも日除け魔法が掛っている限り身体能力は限りなく制限されるんだけれど、とパチュリーは心中で呟く。
勿論、それを計算に入れて「大丈夫」と言っているわけではない。ある程度は妹紅の実力を信頼して、フランに術を施した。
「最も、私の計算もレミィの心配も、全部杞憂で終わりそうだけれど」
「サイズはどう?」
「少し大きいわ」
「ああ、嬢ちゃんの羽根のせいだな。待ってろ、別の持ってきてやる」
レミリアの心配は杞憂に終わり、パチュリーの予測は当たっていた。
人里で吸血鬼のことを知らない者はいない。万が一妖怪と遭遇してしまったとき、決して神経を逆撫でてはいけないことも知っている。
だがそれでも、全く危険が無いとは言えない。もしもフランドールが暴れ出した場合は里の歴史を隠蔽してもらう必要があると妹紅は考えていた。
だが、それでは意味がない。[暴れ出した]では困るのだ。
だからこそ、妹紅はフランを連れ人里に入るとすぐにとある衣服店に駆け込んだ。
大きな口では言えないが、結構客入りが残念な店である。だが、何度か服を修繕してもらったことのある妹紅にとっては馴染の店だ。
そして何より、妖怪相手にも商売をするほど図太い店主が経営している。
(最初は慧音に任せようかと思ったけど、助かったわ)
歴史隠蔽能力の無駄遣いである。
店主の男から渡された服を見て目を細めたフランは、布製のズボンを見て首を傾げる。
「これ男物よ」
「だがサイズ的にピッタリなのはこいつくらいだし……後はそうだな、こっちの姉ちゃんと同じ型のしか残ってねえな」
「妹紅と同じ……?」
「サスペンダーともんぺはいいね。心が安らぐわ」
「……じゃあそれでいいわ」
「おー、ちょっと待ってな」
程無くして渡されたもんぺとシャツに目を細めたフランは、満面の笑みを浮かべる妹紅に憐憫の意を抱きつつも袖を通す。
もそもそとして動きにくい服だ。ドロワーズの上にもんぺを穿いているため、どうにもゴワゴワして気持ち悪い。
というより、この形状は本当にもんぺなのか。膝までの長さすらない。赤いドロワーズという表現の方が正しい気がする。
「どうだい、着心地は」
「最悪」
「なんだと!?」
「はっはっは! 違いねぇ、俺でもそんなゴツいもんぺは穿きたくねーわ。お嬢ちゃんのを穿いたら犯罪者だが!」
「代金は紅魔館にツケといて」
「おう。今度メイドさんが来たときに請求しとくぜ」
結局脱ぐ度に解れてしまった不良品の子供服やズボン等、数着を買い取らされる羽目になってしまった。
最も、代金は全て紅魔館の主に請求するため妹紅はもちろん、フランもどこ吹く風といった様子で領収書を受け取っている。
妹紅とお揃いの服となったフランは、着慣れない服に少々動き辛そうにしているものの、それなりにご機嫌であるように見えた。
「よっし、それじゃあ行こうか、竹取り」
「妹紅」
「んー?」
「お腹空いた」
「なんだと!?」
リフォームはどーすんのよ! と叫んだ妹紅は、しかし自分も朝から何も食べていないことを思い出す。
既に日は高い。団子くらい食べに行っても文句は言われないだろう。もちろん紅魔館のツケだ。
衣服店を出て10秒で破綻したリフォーム計画。そもそもどれくらい本気だったのか。
「団子かケーキか和菓子か……」
「私が食べたことないやつがいい」
「じゃあ団子にしようか」
ま、いいか。別に急ぐ用事じゃないし。
フランドールの手を握って歩き出した妹紅は、早くも団子屋で頼むメニューに意識を飛ばしていた。
手を握られた瞬間に跳ねた身体と驚きの色を隠しきれなかったフランドールの表情には、全く気付かなかった。
茶屋に入って行ったフランドールと妹紅に、レミリアはガクガクと震える指で茶屋を指した。
信じられない。あのフランが。あろうことか。
「もんぺ……ですって……!?」
「あれをもんぺと言うのなら、私はトランクスのことをジーンズと呼ぶわ」
膝上20㎝くらいしかないじゃない、太腿が丸見えだわ。と目を細めるパチュリー。
ちなみにレミリアは驚きを通り越して無の境地に突入したらしい。
お嬢様はもしかするとシスコンなのかもしれない、と咲夜は無表情の裏で脳内のメモ帳に一応記載しておく。
「……もしかしなくてもシスコンよ」
パチュリー、読心術を覚える。
確かにレミリアには少しそれが入ってるのかもしれない。フランドールの方は全く興味が薄げなのだろうが。
唯一の姉妹なのだから、無理もないとは思う。それに、例えシスコンでなくてもあの光景を見れば多少は驚くだろう。
狂気に囚われた悪魔の妹が、人間とお揃いの服を着、仲良く手を繋いで茶屋に入店。誰だって驚くだろう。
正直、フランドールがあそこまで大人しく、妹紅と行動を共にするとはパチュリーも思っていなかった。
ある程度は反発も起こり、弾幕ごっこに発展するのも止むを得ないだろう、そう考えていた。
「……一体どういう風の吹きまわしなのかしらね、これは」
「代金は紅魔館にツケといて」
「……いつから妹紅ちゃんは紅魔館をアゴで使うようになったんだい?」
「屋敷の主人の妹の世話役さ。大出世だね」
頬に餡を付けて笑う妹紅に溜息を吐き、団子屋の女主人はフランの方に向き直る。
「ごめんねお嬢ちゃん。今度お姉さんと一緒においで」
「考えとくわ」
御手洗団子を串ごと食い千切り、器用に串だけを吐き出したフランは素気なく答え、暖簾を潜る。
太陽も傾き始めたのか、どうやら夕刻も近いらしい。妹紅は土産に買ったおはぎ(もちろん代金は紅魔館持ち)を肩に掛け、ふわりと宙に浮かぶ。
続けて地面を蹴ったフランを見、後ろ手に主人へと手を振って妹紅は空へと飛び上がった。フランもその後に続く。
「そんじゃ、日除け魔法が切れる前に帰るとするかー」
「結局リフォームしなかったわ」
「その台詞はどの口が言うんだい?」
「言いだしっぺはもっと自覚を持つべきだと思うわ」
ギャーギャーと言い合いながら二人並んで空へと昇ってゆく姿を見届、団子屋の女主人は微笑ましそうに呟く。
「本当、姉妹みたいねぇ。服もお揃いだし。
でももんぺはナイわね、妹紅ちゃんってボーイッシュなのが好きなのかしら」
今度団子屋に来たとき、髑髏マークのシャツでもあげようかしら、と女主人は心中で思う。
若い男の子は髑髏や血や十字架を好むらしい。宗教のしの字もあったものではない。
フランドール・スカーレットは吸血鬼だ。
姉、レミリア・スカーレットをも凌ぐ力を持ち、ありとあらゆるものを破壊し尽くす力を持つ悪魔。
495年もの間地下に幽閉され、館の中すらまともに歩くことができなかった日々を過ごした少女。
藤原妹紅は人間だ。
遥か昔に蓬莱の薬を口にし、1300年余もの年月を復讐の為だけに生き続けた人間。
老いもせず死にもせずたった一人、身一つと不死の炎を抱き生き続けた少女。
それでも――いや、だからこそ、フランドールは理解できなかった。
どうしてこの人間は、これほどまでに強いのだろう。[死なないだけ]の人間なはずなのに。
見ただけで分かる。彼女は強者だ。自分とも対等に戦え得る力の持ち主だろう。
それが分からない。どうして、どうして、どうして。
あの博麗の巫女のように、運命の元に生まれるべくして生まれた確たる強者でもなく、
普通の魔法使いのように、派手な魔法を使うする一方、影の努力を絶やさない強者でもない。
ただ死なないだけ。死なないだけのはずなのに。
暖かくて、優しくて、生意気で、憎らしい――
フランドールは未だに懊悩の中から解き放たれていなかった。
藤原妹紅は例外だ。強者である彼女には"そうする"自信も実力もあるのだから。
だが、先の人里で出会った人間たちは。
お世辞にも"そうする"力など持ち合わせていない。そんな弱い存在が、どうして、どうして。
どうして、自分を恐れない。どうして。
「……ねえ、妹紅」
「何だい」
人里の上空を飛行中、少し後方から上がった小さな声に妹紅は袋を持つ手を換え、体勢を変えた。
グルン、と自分の方に向き直った妹紅に少々面食らったフランドールも、しかしすぐに目を逸らして小さく呟く。
「人間は……どうして、私を恐れないの」
「……さっきとはまた、違った質問ね。どうしてそんなことを聞く?」
フランの言葉を聞き逃さなかった妹紅は、空中で静止した彼女に合わせるように鳳翼を消し去る。
正直なところ、妹紅はフランがずっと考え事をしていたことを薄々感じていた。服屋に入ってから、彼女には覇気のようなものを感じなかったから。
それは、自分を畏れない人間を見て吸血鬼としての矜持が傷つけられたのか。
或いは純粋に、力を持たない者が力を持つ者に対して畏れを抱かないことに疑問を抱いているのか。
無論後者であるはずだ。フランには「吸血鬼」だの「妖怪」だのといった種族よりも、強い弱いで物事を判断する傾向があるように見えるし、事実そうなのだろう。
「だって、おかしいわ。あの人間たちは、あなたみたいに強いわけじゃない」
「よく私が強いと分かるね。まあお嬢ちゃんくらいには強いつもりだけど」
「それなのに、どうして? 分からないわ、ちっとも」
「うーん……難しいな」
太陽は既に半ば西の地平線に沈み、東の空からは淡い暗闇が訪れようとしていた。
直、フランの日除け魔法は解け本来の力が戻る。
夜が近づくに連れ、フランの体中に力が充実していく。どうやら既にパチュリーの魔法はほとんど解けてしまっているらしい。
「畏れる必要が無いから……かな。フランもあの人たちを傷付けなかっただろ? あの人たちはそれが分かってたのさ」
「そんなの理由になってないわ。私はやろうと思えばできた」
「でもしなかった。出来なかったわけじゃない」
「……分かんないよ、分かんない。何が言いたいの、分かんない、全然」
「つまりな、フラン。私が言いたいのは――」
止まった。
止まらされた。
妹紅の口は開いた半ばで止まり、中途に挙げられた手はフランに届くことなく固まる。
(……なん、だ――?)
フランを中心に、魔力が渦巻き始めていた。
目に見えるほどのその量、量「だけ」ならば妹紅の比ではない。一体この小さな体の、どこからこれほどの量が溢れてくるのか。
フラン、どうした――その言葉は唾と共に飲み込まれる。どうしていきなり、といった疑問も浮かんでこない。
思い出したのだ。レミリアの言っていた言葉。
《少しでも機嫌が悪くなると手が付けられなくなるわ》
(おいおいおいおい、まさかここで弾幕ごっこやる気? こんな森の上で――)
「ねえ、妹紅……あそぼ?」
瞬時に出現させた巨大な紅色のレーザーは、妹紅の手に持った紙袋を違わず撃ち抜く。
危うくバランスを崩しかけた妹紅は、しかし空中で器用に体を一回転させ静止した。
距離を置いて静止したフランドールに険しい顔を見せる妹紅は、中央を寸分無く撃ち抜かれた紙袋を見やり、ゆっくりと向き直る。
笑みの消えた妹紅に気圧されることなく、フランドールは両の手に出現させた紅色に光る槍でその胸を指す。
「ねえ、弾幕ごっこ。知らないなんてことないよね?」
クスクスと笑うフランドールに、妹紅は答えない。
険しい顔で彼女の言葉に耳を傾けるに留まり、スペルカードを取り出す気配すら見せなかった。
今更になって、妹紅はレミリアの言っていた言葉を理解した。
フランは気に入らなかったのだろう。
気さくに話しかける服屋の店主も、優しく陽気だった団子屋の女性も、単純に子供扱いしかしなかった妹紅の態度にも。
彼女は吸血鬼なのだ。姉、レミリア・スカーレットよりも、より純粋な意味での吸血鬼。
「やっぱり人間は弱いのかな、弱いから群れて、壁を作ってその中で怯えることしかできないのかしら」
徐々に高まっていく"ふたつ"の魔力に目を細め、妹紅はここでようやくポケットからスペルカードを取り出した。
既に言葉らしい言葉になっていなかったフランドールの周りは、既に尋常でない量の魔力が渦巻いている。
こりゃ一筋縄にはいかないね、と体勢を低く構えた妹紅に向けて、
瞬時に生み出された幾十ものの光の弾丸が、四方八方から一点目掛けて一斉に放たれた。
「ッフラン、やめ 「咲夜」
「はい」
日傘から飛び出し、フランドールへと飛び掛かりかけたレミリアに、咲夜は手早く四肢を抑え込み言い諭す。
「お嬢様、我慢してください」
「ふざけないで咲夜! このままじゃ大変なことに――」
「レミィ、落ち付いて。人里からもかなり距離があるから安全よ。寧ろこの先の湖に落ちられでもしたら、危ないのは妹様の方」
咲夜に取り押さえられても尚暴れるレミリアに溜息を吐き、パチュリーは遥か遠方……太陽の光を反射して橙に光る湖に向けて指を指す。
湖の水、全てを凍りつかせることでする必要はない。あくまでも衝撃に耐え得る、厚さ数十センチの層だけ凍りつかせてしまえば、後は彼女がなんとかするはずだ。
出来ないようであれば、彼女は世話役には不適当だったということ。ただそれだけ。
精々頑張って頂戴、と呟きながら、パチュリーは小さく魔法を呟いた。
「あはは、はははははははははは!!!!」
フランドールの両手から放たれる無茶苦茶な量の弾幕に、妹紅は弾と弾の間を縫うように飛び、尚の後退を行う。
遠方に見える霧の湖の水面に変化を確認するや否や、鳳翼はさらに強く燃え滾る。
(なんで畏れないのか、ね)
馬鹿みたいな質問だ、心中でその質問を嘲った。
後方から追い縋るフランドールには構わない。前方に現れる邪魔な弾幕だけを避けるよう、大きくターンしつつひたすら飛び続ける。
余裕があるわけではない。フランドールから付かず離れずの距離を保ちながら行く先を誘導するのは生半可な苦労ではなかった。
必然的にトップスピード近くを出し続けることになり、その状態で弾幕を避けるのは少々無理がある。
少々の被弾は止むを得ないだろう。だが弾幕戦を行うには、ここはまだ人里に近すぎた。
(兎にも角にも、もう少しフランドールを引っ張るしかないね……水辺なら少々はこっちに有利に働く)
思う間に、妹紅の進行方向が突如巨大な十字架弾が出現する。半秒過ぎて気付けば、左右から今にも自分を押し潰さんと計4つの十字架弾が出現していた。
小さく舌を打った妹紅は宙を蹴り、上空へと急激な方向転換を行う。
十字架弾から逃げるように螺旋状にターンしながらさらに高く昇ってゆく妹紅を見、フランドールは先程切ったスペルカードを即座にブレイクする。更に別のスペルカードを取り出し、妹紅目掛けて宣言を行う。
禁忌「カゴメカゴメ」
「ちっ」
行く手を遮る線上の弾幕に、妹紅は前進の速度を僅かに弱めた。
だが止まるわけにもいかない。一瞬の躊躇いの後、紅色の尾を引きながら妹紅は弾幕の中へと突っ込んでいく。
隙間が狭すぎる、抜けられるはずがない。
頭の中で、冷静な部分の自分がそう忠告する。戦い、撃墜してしまえばいい。容易くはないだろうが可能であるはずだ。
「……ちょっと黙れ」
強引に弾幕の合間を抜けた妹紅は、頭の中で囁く自分を罵る。
此処で撃墜することはできる。だが撃墜する意味がない――寧ろ逆効果だ。
対話をする機会を作らなければならないのだ。フランドールの疑問は理解したし、諭すこともできる。……と、思う。
と、
(見えた)
森林が突如途切れ、薄い霧にその姿を隠す湖の姿が現れた。
一時間ほどあれば一周できる程度の湖であるが、四六時中霧に包まれている為かそれ以上の広さにも思えるこの湖。
かなり広さがあるこの湖の上空ならば、弾幕戦を行っても周辺への被害は限定的なものに抑えられるはずだった。
「逃がさない!!」
「!?」
湖の水面スレスレを低空移動する妹紅に向けて、10メートルはあるであろう巨大な剣が振り下ろされる。大量の弾幕を引き連れて。
慌てて左に旋回し、鳳翼の熱で大量の水蒸気を引きながら不規則に蛇行する。
背後で氷の層が砕け、巨大な水柱が上がる音を感じ、妹紅は再度進行方向を急変させた。
「いい加減――」
「フランドール」
上空から二本目の剣を放とうと両手を振り被っていたフランドールに、妹紅は瞬時に詰め寄った。
一撃目の余波が右足の膝から下を根こそぎ消し飛ばすが、それに全く構うことなく腕を伸ばし、フランドールの両手を掴む。
「――っ離」
「私にいくら攻撃しても構わない。私は死なないからね、そもそも遊び相手として連れて来られたんだから、私に弾幕を張るのは構やしない。
でもねフランドール、あんたはしてはいけないことをした。私が怒る理由は分かるね?」
両手から逃れようと暴れるフランドールに言い諭す。
吸血鬼の腕力を抑え切れるはずもなく腕は弾かれるが、妹紅が口を閉じることはない。右足は再生しつつあったし、妙な方向にねじ曲がった両指には見向きもしなかった。
「服屋で沢山服を買ったよね? 帰ったらほつれたところを直して着直そうね、って。
団子屋でお土産を買ったよね? 紅魔館のみんなに持って行ってあげよう、って。
それに穴を空けたことに、私は腹が立ってるんだ。分かる?」
「だから何? それで終わりなの?」
耳に入れようとすらしないか、どうしようか考えあぐねていた故に聞く耳なし、となると本格的にお手上げだ。
そもそも初期の段階でスペルカードの提示すら行われていない故に、後どれだけのスペルが存在するかも分からない。
スペルカードルールにお世辞にも乗っかっているとは言えない。そもそもフランドールは完全に落としに掛かってきていた。
「フランドール! 私の話を聞け!!」
「……もう、煩い、これで潰れちゃえ!」
尚もスペルカードを取り出したのを見るや否や、妹紅の方も符を取り出した。話し合いはとりあえず後だ。大人しくなるまで弾幕戦は避けられそうにない。
「――禁忌「恋の
不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」
「――な」
紅魔館の方角から立ち上がった物凄い高さの火柱に、咲夜は思わず手に持った日傘を取り零した。
直径が20メートル近くはあろう火柱だ。魔力が膨れ上がる気配すら感じなかったところを見ると、これは妹紅のスペルによるものだろう。
妹紅の力は妖術によるものだ。魔力を消費し、状況にも左右される魔法とは根本から違う。
魔法使いの扱う不可思議な術よりかは、妖精の操る自然現象に近い(火は自然の権化と言っても良い存在だ)。
それが見えたということは、妹紅が防戦から攻撃に転じた、ということである。
或いは、フランドールの攻撃が回避し切れないほど激しいものになったということだろう。
「フラン!!」
「――っあ」
咲夜の手が緩んだからか、妹紅が火柱を立ち昇らせたからか。
それまで苦虫を噛み潰したような顔をしていたレミリアが、咲夜の手から逃れ驀進を開始した。
止める気が無いのか余力が無いのか、恐らく両方のパチュリーはその後ろ姿に何の声も、妨害も掛けなかった。後は彼女の力量に任せるしかない。
「咲夜、念の為に貴方もお願い。レミィが向かったから大丈夫を思うけど、下手をすれば1対1対1もあり得るわ」
「分かりました。では」
空中でパチュリーに一礼し、左手の一振りで右腕に掛けた日傘を音も無く消して見せる。
そしてもう一度左手を払った瞬間、咲夜の姿自体がその場からかき消えた。パチュリーが視線を外すと、遥か遠方にレミリアを追う彼女の姿を視認する。
氷の層を張ったことで心身共に疲労したのか、パチュリーは日傘をクルクルと回しながら紅魔館への道をゆるりとしたスピードで飛ぶ。
「杞憂に終わるか、不安が的中するか……どちらに転んでも困るのが考えものね」
湖からは、もう火柱は上がらなかった。
「っつー……肋骨が折れたねこりゃ。参ったわ」
ところ変わって、霧の湖では妹紅が、想像以上の苦戦を強いられていた。
薙ぎ払われズタズタになった森林、その一角に突っ伏していた妹紅。状況は芳しくない。
リザレクションに時間がかかり、本来の力が出せないこともある。
が、それ以上にフランドールに掛けられていた日除けの魔法が切れ、彼女の力が本来のものに戻ってしまったことが、妹紅の最大の誤算だった。
経験は妹紅の方に分がある。体力面でも僅かに勝っていた。スピードも負けていない。
だが、弾幕自体の破壊力が狂っていた。一発でも直撃すれば、それこそ体の大きさが半分になってしまう。
「大口叩いた癖に随分みみっちい攻撃しかしてこないのね」
木に背中を預ける妹紅の目の前に、"四人のフランドール"が半円状に囲むように降り立った。
大分頭に上った血はマシになったようだが、どうやら妙なスイッチが入ったらしい。
完全に潰しにかかってきている。スペルカードルールもへったくれもあったものではない。
(ま、死なないからいいんだけど)
ここに来て、妹紅は対話のチャンスが舞い降りたことを悟った。
自分の優位に立ったフランドールは、ある程度ならこちらの言うことに耳を傾けるはずだ。
「満足したかい、フランドール」
「まだ喋れるんだ、人間の癖に」
妹紅の直感は正しかった。
先程とは声色が別人だ。ある程度は頭も冷えたのだろうか。
「そりゃね。これくらいじゃ私はへこたれない、蓬莱人だからね」
「あっそ、でも飽きちゃった。やっぱり人間は駄目だわ」
指を一度鳴らした瞬間四人の影が混ざり合い、フランドールが元の一人の姿に戻る。
随分と便利な術だね、と妹紅はせせら笑う。戦闘に置いてこれほど卑怯な術も中々お目にかかれないだろう。
(指は動くね……足も後二~三分あったら回復しそうだ……よっこらせ)
無表情で自分を見下ろすフランドールに、妹紅は片足だけで器用に立ち上がった。即座に鳳翼を再生させ、首を傾げる。
「人間は駄目、ね。何が駄目なのかしら?」
「脆いもの。すぐに壊れちゃうから遊び相手にもならないわ」
「私は壊れても元通りになるけどね」
抜け抜けとした様子で言う妹紅に眉を寄せたフランドールは、掌の上で再度、巨大な剣を生み出した。
自分の胸元に向いた剣先に、妹紅は見向きしなかった。フランドールの瞳を見据えて囁く。
「その剣で、私を刺すのか?」
「怖いの?」
「いいや。怖がってるのはあんたさ」
妹紅の言葉に、フランドールの動きが止まる。
「……なに?」
「どうしてそこまで人間を怖がってる? お嬢ちゃんは何で、そんなに人間に対して臆病になってる?
いや、"人間に"じゃないね。あんたは人間を怖がってるわけじゃない。あんたは人間の優しさが怖いんだ」
ねじ曲がった腕で、フランドールの剣を掴む。焼け付く様な痛みが走るのも構わず腕を下ろさせ、一本きりの足でフランドールに歩み寄った。
「知り合いは紅魔館の連中だけ、弾幕勝負は異変の時の二人以外だと姉さんくらいしか相手がいなかったんだろうね。
人間なんてそれこそ、片手で数えるほどしか見たことが無かった。
屋敷の中を歩き回って、図書館で知識を付けることはできても、人間に対する意識に変化はなかった。「自分たちの主食になってしまう弱い生き物」ってね。
そんなあんたを人里に連れて行ったのは私の失敗だったかもしれない。でも、好意ってのはね。裏が無いから好意なんだよお嬢ちゃん。
裏なんてありゃしない、人間ってのは単純な生き物だよ。嬉しくなると笑う。悲しくなると泣く。誰かがいけないことをしたら怒るし、してしまったら反省するし謝る。
妖怪と人間なんて大した違いがあるわけじゃない。ちょっとだけ人間より寿命が長くて、ちょっとだけ力が強いだけで、何も変わらないさ」
「……変わらない、ことなんてないわ。私にとって人間は食料でしかない。そんな人間を、私は怖がったりしない。
ましてや優しさなんかに恐怖なんて覚えない! 私は吸血鬼なのよ!!」
「そうだ、フランドールは紛うことない吸血鬼だろう。そして、私は死にはせずとも人間。紛れも無い人間。
だけどね、お嬢ちゃん。此処は全てを許す幻想郷。楽しくて苦しくて、悲しくて嬉しい幻想の箱庭だ。
吸血鬼だから、人間だから。そんなこと関係ない。強さの壁なんて砕けばいい。寿命の溝なんて埋めればいい。種族の差なんて忘れてしまえばいい。
一番大切なのは――」
個人を尊重してやること、と妹紅は続けようとし、しかし続けることができなかった。
フランドールの持っていた剣は音も無く霧散し、真赤にした顔を背けて、涙の溜まった彼女を見て、続ける気が起きなかった。
まるで駄々をこねる子供に説教してるみたいだね、と苦笑し、妹紅はゆっくりとフランドールに歩み寄る。小難しい理屈は、彼女には無意味だ。
地面に座り込んだ妹紅は、まだ無事な方の足を曲げてフランドールの手を取った。強過ぎず、弱過ぎずの力でフランドールの体を引く。
導かれるままに妹紅の膝の中に座り込んだフランドールの、頭を帽子ごとクシャクシャとかき回す。
「一番大切なのはな、フラン。どれだけ相手が好きなのかってことさ」
誰かが言っていた。
人間は弱い生き物で、寿命も妖怪の十分の一すらない短命な存在だ。
腕が千切れると、もう元には戻らない。空も飛べなければ、一人では細い木でも抜くことすら敵わない。
だけど人間は、妖怪にとって眩しい存在だった。
まるで花火のように、唐突に始まってあっという間に終わりを告げる人生。
その限られた命の中で、精一杯生きようとする人間は、長い時間をかけて変化する妖怪には眩し過ぎるものだったのだろう。
そう、だから妖怪は、人間に恋い焦がれるんだ。
眩しくて、羨ましくて、嫉ましくて。
きっと妖怪は、
人間と、友達になりたかったんだ。
「なあ、フラン。私の友達になってくれないかな?」
「ただいま」
「あ、パチュリー様。お帰りなさい。お嬢様がとても心配なさっていましたよ」
「いつもお疲れ様、小悪魔。レミィは変なところで心配症なのよ……その様子だと、二人とも無事だったのかしら」
「妹様は妹紅さんを引きずって帰ってきた後ボロボロに泣かれて地下に籠っちゃいましたし、妹紅さんは妹様に抱きつかれでもしたのか内臓がいくつか破裂して意識不明です」
「……気がかりね、主に後者が」
「意識を失う寸前に「妹紅死すとも蓬莱人は死せず」と叫んでいたので大丈夫でしょう」
「その言葉は幻想郷名言集にでも載せるべきね」
「全くです」
「今日はいろいろあって疲れたわ……日除けの魔法は二度使わされるしおまけに大規模魔法までやらされるし」
「頼られる気質なんですね、きっと!」
「冗談を言う暇があったら本の整理を続けて頂戴。私は久々に寝ることにするから」
「では私が添い寝をして子守唄を」
「お生憎様、間に合ってるわ。扉には結界を張っておくから、主に悪魔に対するやつを」
「それはこぁいですね、お休みなさい」
「洒落のセンスが年寄りくさくなったわね、御休み」
「……んー」
柔らかいベッドの上で、妹紅の意識はようやく覚醒する。
どれくらい寝たんだろう、身体がすごくだるい。
確かフランが私に抱きついてきたんだっけ? それを私が優しく包んでやって――包んでやったっけ?
今二つほど覚醒しない頭で辺りを見回すとカーテンから細く、太陽の光が洩れていた。
ひょいとベッドから立ち上がる。消し飛ばされた足はもちろん、手の火傷も指の骨折も、概ね良好。
窓に掛けられていたカーテンを勢い良く開くと、視界いっぱいに目も眩むほどの光が溢れ入ってくる。いい天気だ。
ここにきて、妹紅は自分が素っ裸であったことに気付く。キョロキョロと部屋を見回し、ベッドの脇に置かれた自分の服を見つけるといそいそと袖を通した。
ご丁寧に置かれていた鏡を見つつリボンを結んで完成。いつもの藤原妹紅の姿が鏡の前にあった。
うん、完璧。
「とりあえずお腹減ったなー……寝てばっかりいればお腹減らないとか絶対都市伝説だよ」
あれ? 都市伝説ってどういう意味?
首を捻ってその場で20秒ほどうんうん唸っていた妹紅だが、やがて「ま、いっか」の一言で片付けた。
藤原妹紅の日常はこんなものである。
幸い、自分が寝かされていた部屋から広間までは一直線で、紅魔館の構造にまだまだ疎い妹紅でも悩むことはなかった。
こんなに広いのに住んでる住民の数は両手の指で足りる。なんとも寂しい館である。
広間にひょいと顔を出した妹紅。だがいつもレミリアが座っている(らしい)椅子にその姿はない。
「……ああ、吸血鬼」
そういえば夜行性だったっけ。
「まあいいや、咲夜ー、めしー。ごはーん」
「随分お早いですね――って、妹紅だったの。てっきり妹様かと」
妹紅の言葉に何処からともなく現れた咲夜。実に能力の無駄遣いだと思うが、今はそれよりも、
「なんでもいいよ、お腹減った」
「はいはい、ちょっと待ってて頂戴。適当な賄いを用意するわ」
カツカツと広間から出て行った咲夜に期待してるよーと声援を送り、妹紅は適当な椅子にだらしなく座り込む。
靴を履いたまま両足をテーブルの上に投げ出すという不作法極まりない行為を平然とやってのけるが、この館に妹紅を注意する者はいない。
五分ほど続いた静寂の中、窓から入る光から目を守りながら、妹紅は椅子を軽く傾けて小さく欠伸をかく。
ギィ...ギィ...ガタンッ。
落ちた。
「うめえ!」
「ふふ、有難う。悪くないわね、褒められるのも」
獲物に飢えた猛獣が如く勢いで料理を喉にかき込んでいく妹紅を見、咲夜は微笑みながら自前の紅茶を啜る。
「ふぉふぇふぁふぇふぁほほふぁいふぉふぁ?」などと意味不明な言語を口走る妹紅に紅茶を注いでやる。もう少しゆっくり食べられないのだろうか。
「そんなに餓えてたの?」
「んぐ、んぐ、んぐ……うんにゃ、この飯が美味し過ぎるのが悪いね。私は1300年生きて来たけど、こんなに美味しいものは久々だわ」
紅茶じゃなくて麦茶なら完璧、とはにかまれ、咲夜の方も釣られて笑みを零す。
こんなにも純粋に褒められたのはいつ振りだろう。
「そんなに美味しそうに食べられると、作る方も満足しちゃうわ。お嬢様は腹さえ膨らめばいい、って認識だから作り甲斐があまり無くって」
「そーなのかー。でも、この味は自慢していいと思うよ。おかわりはある?」
「無いわ」
「ちぇー」
皿になみなみと注がれたコーンスープをずずず、と一気に飲み干し、妹紅は手をぱちんと叩く。
「ごちそーさん」
「おそまつさま。それじゃあ、妹様のことお願いね。三日前からずっと地下に閉じ籠ってばかりだから」
「ん、わかった、任せて。ていうか私三日も寝てたのね」
食後の運動には丁度いい。椅子を引いて立ち上がった妹紅は、右腕をグルグルと回して翼を燃やし、飛び上がった。
腹も膨れて戦闘能力は当社比1.5倍。勇気とかその他もろもろは十倍の出血大サービスだ。
あっという間に到着した地下牢前の鉄扉。閂を外して妹紅は扉を勢い良く蹴り開いた。
「フラーン!! 弾幕しよう、弾幕!!! ……あれ?」
てっきりフランが座っている、と思ったそこには、冷たい石畳と石壁しか無い。
部屋間違えた? と辺りを見回すボケをしてみるが、やはり彼女にツッコんでくれる者もいない。
なんだか虚しくなってやめた妹紅は、やはりフランが中にいないことを再度確認して首を傾げる。
「どこ行ったのかしら、フランの奴……あら」
ふと、妹紅は床に落ちていた何かの残滓を拾い上げる。
仄かに甘い匂いがするそれは、前にも同じものを嗅いだような――
「……あんこ?」
そう、あんこ。黒くて甘い、みんな大好きなあんこだ。
「ばっちぃ」と言いながらあんこを口に運び、そこで妹紅は閃いた。何故ここに、あんこが落ちているのか。
「――まさかフランは」
一人であんこもちを食べたというのか。この私を差し置いて。
ってそりゃないか。
「咲夜、ここ分かんない」
「どこですか? ああ、そこはほら、此処をくぐって……こう、するんです」
「ほんとだ……やっぱり、咲夜は上手だね、こういうの」
そうですか? と嬉しそうに笑う咲夜は、フランの指に握られた針を動かし、背中の部分に空いた巨大な穴を丁寧に修繕していく。
フランがボロボロになった紙袋を持って咲夜の部屋を訪れたのは、妹紅が意識を失ってから暫く経ってからのことだった。
自分で直そうとしても破いちゃうから、そもそもどうやって直せばいいかも分からない。
今まで壊すことしか知らなかったフランにとって、服を一枚修繕することも難しいことなのだ。
咲夜はフランの頼みを突っ撥ねることはなかった。内心感動で涙を零しそうであったし、「ええ、勿論」という返答も妙に上ずったものになった。
(友達、か……)
《妹紅が……友達になってくれるって、それで、私、この服、直したくて、それで、謝りたいの》
いつ振りだろう、その単語を耳にしたのも。
主人、レミリアに忠誠を誓ってから、咲夜の周りには友達と呼べる者はいなかった。
屋敷で唯一の人間であり、紅魔館の全てを牛耳っていると言っても過言ではない実力者である自分。
心を許せる存在など、全くと言っていいほどいないだろう。
(もしかしたら私は羨ましいがってるのかしらね、妹様のことを)
自分の膝の上で不器用ながらも針を動かすフランに、咲夜は自嘲交じりの苦笑を浮かべた。
「ねー、パチュリー。毎日本ばっか読んでて退屈じゃないの?」
「貴方こそ、毎日何の目的も無くフラフラするのを時間の浪費と思わないのかしら?」
「私の時は無限にあるから構わないのさ。それよりも、もっと身体を動かした方がいいんじゃないの、あんた?」
どうせやることもないから、と妹紅が足を運んだのは、フランの部屋(?)と同じく地下に存在する巨大な図書館。
紅魔館に住む魔法使い――パチュリー・ノーレッジが生活の大半を過ごす場所であり、薄暗く埃っぽいため、
最近咲夜が大掃除もとい大改装を目論んでいる場所でもあるらしい。
「私はいいのよ。本を取りに行く往復の区間はちゃんと歩いてるし、重い本を持つから筋力体力共に万全よ」
「あんたと30㎞ハンデをつけたフルマラソン勝負したら100%勝つ気がするよ」
「マラソンなんて無意味よ。ただ走るだけなんて無駄に疲れるだけで何の効果も得られない。
そもそも飛べる者に対して大地に足を付けて歩けって言う方が無理よ」
間違っていない。間違っていないが正しくない持論である。
そもそも、外の人間だって空を飛んだり水上を移動したりすることはできると聞いたし、
空を飛べるからといって大地を走らない理由にもならないだろうに。
「折角の海水浴日和じゃーん」
「魔女は泳がないわ」
「フランがいなくて暇なんだよー」
「本でも読んでなさい」
「じゃあ私が退屈しなさそうな本をー」
「小悪魔、探してあげて」
「はい」
「私に聞こえるように朗読してくれ」
「小悪魔、朗読なさい」
「はい――え? えっ??」
本を読み潰す魔法使いと椅子にもたれて暑さにだらける人間、何故か文花帖を朗読させられる悪魔。
さぞかし傍から見ればシュールな光景であるが、2/3名は全く気に病んでいない。むしろ「これが普通だ文句あるか」と言わんばかりの落ち着き様である。
「流れ星を爆発させたのは、フランドール・スカーレット……妹紅さん、これいつまでやるんですか~?」
「私が飽きるまで」
「まじですか」
「もう飽きたからいいや。お疲れさん」
「……」
椅子からひょいと立ち上がった妹紅。小悪魔が不憫でならない。
時間にして十数分程度なのだが、それでも妹紅にとっては退屈で退屈で仕様が無いのだろう。
「本当、貴方妹様にそっくりね」
「あーん?」
伸びをする妹紅に僅かな笑みを浮かべたパチュリーは、手に持った分厚い書物の頁を捲りながら口を開く。
「退屈だ、外に出て遊ぼう、退屈しのぎに何かして、もう飽きちゃった」
「……」
思わず噴き出した小悪魔を恨めしそうに睨みつつ、ブスっとした表情で妹紅は宙に浮かび上がる。
「あーはいはいはい、どうせ私はガキっぽい性格ですよ。しょうがないだろ、暇で暇で暇でしょうがないんだもの。
弾幕ごっこができるような暇人が思ったより少ないのがこの館の欠点だね」
「そんなに暇なら門番にお願いしたら? きっと喜んで相手をしてくれるわ」
そう言って本を閉じたパチュリー。次の本を取りに行こうと椅子を引き、数冊の本を抱えてテトテトと本棚の奥へと消えて行く。
その後ろを、彼女の何倍もの量の書物を抱えてフラフラ飛んで行った小悪魔。どうやら日頃トレーニングをしているのは小悪魔の方らしい。
二人の後ろ姿が見えなくなってから数秒後、遠くの方で「むきゅっ!?」と甲高い声が上がった。
今度本格的にアイツを鍛えてやろう、と決意してから、妹紅は図書館を後にした。
服の修繕もようやく終わった頃には、西の空が赤く彩られ東の空には半分の月が上がっていた。
ほとんど一日中を費やして裁縫に取り組んでいた為か、フランは終盤になるに連れてうつらうつらと頭が宙を舞うようになっていた。
夜行性であるフランが朝早くから咲夜の部屋に訪れ、日が暮れるまでずっと服に取り組み続けていたのだ、それを三日間。眠気も疲労も相当なものだったに違いない。
「妹様、お疲れ様です」
針を握ったまま舟を漕ぐフランを抱き上げてベッドに寝かせる。傷と絆創膏だらけの指をそっと撫でて、咲夜は修繕の終わった服を新しい紙袋に入れ直した。
お昼頃からずっと続いていた外の騒ぎも、いつの間にか止んでしまっていた。一体彼女らは何をしていたのだろうか。
裁縫箱に針や糸、ハサミを丁寧に収納して、クローゼットの中に仕舞い込む。さあ、仕事に戻らないと。
「さて、お嬢様を起こしてお食事の準備をしないとね」
「はーい、これで私の13連勝ー」
「むっきー!!」
高々と拳を天に突き上げた妹紅に、水色の髪と透き通った水晶のような羽根を持った少女が地団駄を踏む。
紅魔館から少し離れた湖の水辺、妖精の溜まり場になっていたその場所で、妹紅は妖精たちに囲まれながら石を水面に投げ入れて遊んでいた。
「妹紅、もう一回勝負よ!!」
「ふふん、最高記録28段という達人技を持つ私に何度戦いを挑んでも同じことさ」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃない!!」
顔を真っ赤にした少女が力任せに投げた小石は、鋭い直線を描いて水面を走る。
バシャンッ、と水中に潜った後、小石は再び水面を跳ねる。
一般に水切りと呼ばれる遊びだが、普通なら三段跳ねさせるだけで精一杯である。だが少女の投げた石は四度、五度と跳ね、七度目で水中に消えて行った。
どうよ!! 得意げに笑った少女に「甘いね」と言い、妹紅は腕をまくる。
足元に落ちていた平らな石を拾い上げ、右手のスナップを利かせて勢い良く湖へ向かって放つ。
妹紅と少女、そして妖精たちが見つめる中で小石は次々と水面を切り、少女の小石が沈んだ場所を通り過ぎて尚、跳ねる。
やがて失速し、パシャンッ、と小石が完全に沈むのを見て、妹紅は得意げに少女を見た。
「何段跳ねたか、分ったかい?」
「……知らないもん」
「19段よ、チルノもまだまだね。私の14連勝」
「むっきー!!」
二人の様子を妖精たちと一緒に眺めていた少女たちは、人差し指を立てて叫ぶ少女――チルノを見て苦笑する。
「あの二人、さっきからずっとあの様子だね」
「そーなのかー」
「きっとチルノちゃん、勝つまでやるだろうね」
「いち、にー、さん、しー……チルノったら、さっきより記録が減ったね」
「……あ、妹紅さんの方は22回。やっぱり凄いなぁ」
遠巻きにチルノと妹紅を観察するのは、他の妖精よりも少し大きいサイズの緑髪・サイドポニーの妖精、
金色の髪に黒を基調とした服を着た妖怪、緑色の髪に触覚のようなものを付け、マントを被っている妖怪、
桃色の髪に鳥の翼を生やした妖怪と、なかなかに個性的なメンバー。
門番と弾幕勝負、は流石にしなかった妹紅は、紅魔館を後にこの水辺にやって来た。
妖精たちがよく屯している場所とは知っていたし、食後の運動には妖精で十分と判断したのだ。
その妹紅に受けて立ったのが、先ほどから水切り連敗記録を更新し続けている氷の妖精、チルノ。
弾幕ごっこの決着は言わずもがな。開始15秒でチルノは妹紅のスペルの前に呆気無く撃墜されたというわけだ。
「はい、今度も私の勝ちー。17連勝」
「むっきゃー!! インチキよ! 何かタネがあるに違いないわ!!」
「んなものあるわけないでしょ……おっと」
自分を指差すチルノにケラケラと笑うが、その向こうから緑色の服を着た少女がこっちに向かってくるのを見て目を丸くする。
無視すんなー! と腕を振り上げたチルノの頭をわしわしと撫で、妹紅はフワリと宙に浮く。
「んじゃ、そろそろ私は帰るよ。もうすぐ晩御飯みたいだからね」
「なにー!?」
「そっか……もうすぐ日が暮れちゃいますもんね」
「夜なのかー」
「さよならー」
「ばいばーい」
皆が皆それぞれの反応をするのを見、妹紅は満面の笑みを浮かべながら空へと飛び上がった。
明日も来てねー! と両手を振る妖精たちに一瞥して、自分に向かってくる少女へと近寄る。
「お迎えご苦労ー」
「ホントですよー、門から離れてるところを咲夜さんに見つかったらまたナイフ投げられちゃいますって……あ、今笑いましたね?」
頭を掻きながら溜息を吐く紅髪の少女に笑いながら、妹紅は背中をバンバンと叩いてやる。
「ごめんごめん、でもあんたもおかしな妖怪だねぇ、人間相手にへこへこするなんてさ」
妹紅の張り手に痛そうな顔をする少女……紅魔館の門番を務める妖怪、紅美鈴は「そんなことよりもー」と口を尖らせた。
本当に早く帰りたいらしい。あのメイド長のナイフ捌きは確かに見事なものだったが、それほど彼女の折檻はヒドイものなのだろうか。
「とにかく早く帰りましょうよ~」
「分かった分かった、帰ろう帰ろう」
涙目で手を掴んだ美鈴に顔を引きつらせつつ、紅魔館の方向に美鈴を引っ張る。
「今日の晩御飯は何だろうね」
「きっとごちそうですよ、妹紅さんが来て初めてみんなで食事をするんですから」
「歓迎会?」
「そう、歓迎会」
「お帰りなさい、妹紅――あら美鈴、どうかした?」
広間に入った途端に香った食欲をそそられる香ばしい匂いに、妹紅と美鈴の顔はだらしも無くにやける。
美鈴の予感が見事的中し、既に広間の長テーブルには紅魔館の住民(メイド妖精含む)全員でも食べ切れないほど豪勢な料理が載せられていた。
「いやあ、なんか夜にぽつんと外に立ってるのも寂しそうでさ」
「全くもう……まあ、今日くらいは構わないわ。美鈴、厨房の方、手伝ってくれるかしら?」
「もっちろんですよー!」
「ありがとう、私はお嬢様を起こしに行ってくるわ。妹紅、妹様が私の部屋で寝てるから」
「ん、オッケー。あんたの部屋分かんないけど」
「二階の東隅よ」
いくつか言葉を交してから美鈴は厨房へ、咲夜はレミリアの処へ、妹紅は二階へと足を運ぶ。
階段を駆け上がり、幾つもの空室を横切りフランが寝ているらしい咲夜の部屋へ。
ノックもせず、だが彼女を起こさないようゆっくりと扉を開いた。
真っ暗な部屋の中、窓際へ置かれたベッドに彼女特有の羽を確認して、彼女を起こさないようそっと歩み寄る。
「フラーン、ご飯だぞー……」
「……ん」
もぞもぞ、と動くベッドの膨らみに苦笑しながら腰を下ろす。膨らみをゆさゆさと揺すりながら、妹紅はさっきよりも大目の声を出した。
「フラン、早く起きないとみんな待ち草臥れてるぞ」
「ん~」
まだ起きない。こうなったら少々乱暴だが、
「――せいやっ!!」
ボフッ、とベッドの両端をぶっ叩いた妹紅。その反動で数十センチ浮き上がったフランは、包まっていた毛布と共に「ぴぎゃっ」と音を立てて落ちる。
痛そうにお尻を擦って起き上ったフランをにやけながら見つめ、寝癖の付いた髪をわしわしと撫でる。
「グッドモーニン、フラン。朝の目覚めに晩餐会は如何?」
「もこ……?」
「もこ「う」。さっきチルノにも同じこと言われたわ」
「……ん、あ」
ようやく覚醒したフランに妹紅は微笑み、脇のテーブルに置かれていた帽子を被せてやる。
湖でのことをまだ引き摺っているのか、フランは帽子の角度を自分で少し調整するも、ベッドから離れようとはしない。
「あー……、まだ怒ってる? 湖のこと?」
どうやら妹紅はそのフランの様子を怒っているものと判断したらしい。ベッドに腰を下ろして、指先に小さな炎を生み出し弄ぶ。
さて、どうすればフランに言い諭せるだろうか。だが自分は湖で、フランに伝えるべきことは全て伝えた。
「相手をどれだけ愛すことができるか」。妖怪と人間だけに留まらず、妹紅はこれこそが他者と生きる為に最も必要なものと考えていた。
信頼や友情、それらは全て一点に回帰する。フランにそのことを教えてやったつもりだった。それともまだ何か足りないのだろうか。
「湖……? ――っあ」
妹紅の言葉に、フランは目を見開いた。今更襲ってきた後悔に唇を引き絞り、瞼をきつく閉じる。
(私は、本当に馬鹿なことをした)
彼女はあの時、妹紅の言葉を上辺では拒否していたが、その言葉の意味は分かっていた。
人間と妖怪の間にある、確たる壁。それは強さであったり寿命であったり、価値観の違いであったりする。
それでも人間は知っている、相手を愛せば、相手も同じ愛で応えてくれることを。
恐れが無いはずがない。少し機嫌を損ねてしまうだけで消されてしまうかもしれないのだ。恐れるなと言う方が無理な話なのだろう。
(でも、あの人間だちは)
恐れなかった。
恐れずに、自分に笑いかけてくれた。
自分を「吸血鬼」として見ず、一人の「フラン」として見てくれた。
妹紅は、彼女は、言ったのではないか。「どれだけ相手が好きなのか」と。
「っ?」
彼女の脇腹にしがみ付いて、彼女の体に顔を埋める。
肩車されたときと同じ、彼女に頭をなでられた時と同じ温かさに、フランの体の緊張が僅かに解れる。
一瞬呆気に取られた妹紅も、苦笑いを零しながらフランの腰に手を回す。よしよし、と背中をさすってやりながら。
「……妹紅、紙、袋」
「ん」
フランの呟いた言葉に、妹紅はベッドの脇に置かれた紙袋へと手を伸ばす。
「!」
中に入っていたのは、何の変哲も無いズボンやシャツ、着物の類。どれもこれも、フランには似合わない代物ばかり。
そしてどれもこれもが人里で、妹紅がフランに着せては換えた衣服であり、湖での弾幕戦で焼き払われたとばかり思っていたものばかりだった。
予想外すぎた袋の中身に、妹紅は紙袋を掴んだまま数秒停止する。
「フラン……これ、直したのか?」
「ぅ、ん」
「……そ、っか。だから指は怪我してるわ今日一日中どこにもいなかったわ……さては咲夜もグルだね?」
「うん」
「全く……」
あのメイド長め、完全に猫の皮を被っていたらしい。こっちの気も知らないで。
完全で完璧で瀟洒な悪魔の従者、その名に恥じない働きぶりだ。今度筍でも持って行ってやろうか。
「……妹紅、ごめんなさい、湖のこと」
「ああ、気にしてないさ。こうしてフランは直してくれたんでしょ? 私はそれが一番嬉しい」
「……ほんと?」
「ああ、本当」
「本当の本当?」
「あれ、これなんてデジャヴ?」
「?」
「あ、いやなんでもない。本当だよ、フラン」
何か似たようなやり取りをつい最近にした気がしないでもない。
例によって本当を連呼する妹紅とフラン。吸血鬼は「本当」という言葉をやけに連呼したがる習性でもあるのだろうか。
「それより、早くしないと美鈴にご飯、全部食べられちゃうぞ」
「めーりん大食いだからね」
「どこぞの亡霊ほどではないけどね。死体に口なしってのは都市伝説だね」
「都市伝説ってなに?」
「さあ? 「信憑性のない言い伝え」かな?」
二人で冗談を交しながら、咲夜の部屋を後にする。始めはどうなるかと思っていたが、これで何とかなるだろう。
何もかも丸く収まった、わけではないだろうが、これから必要なことはその時に考えていけばいい。
「フラン、私達は友達だよな?」
「うん!」
満面の笑みで頷いてくれたフランの笑顔があれば、とりあえず今はそれで。
話の内容は良いと思いました。妹紅とフランの話はよかったです。
続きに期待(あるなら)
コメントの方も感謝です。
このままどんどん妹紅がフランちゃんを成長させていって欲しいものです。
この指定を使って短編連載化して欲しいくらいです。
とても面白かったです。
話の筋道もしっかりしていて。ただ、一言言わせて頂きたい
お嬢様にもう少しカリスマ下さいぃー!
もっともっと読んでいたいと思いました。
でも、あんこの伏線が回収しきれてないような?
タイトルにも出てるくらいなので、もっと重要な小道具かとも思っていました
続きがあれば是非読みたいものです
妹紅のお姉さんっぷりがいいですね。
紅い妹繋がりでそこそこある組み合わせのような。
とりあえずおもしろかたー。
もこふらコンビいいな
続きが気になる!
妖術を使えるようになりそこまで高めるのに、かなり努力はしたと思いますが?
そも、なぜフランがいろいろ知っている?ただたんに、フランの思い込み?
フランも素直で可愛い。
まっすぐな娘は,素敵です。
誤字などが2点ばかりありましたので,ご報告を。
>...を見、昨夜は微笑みながら自前の紅茶を啜る。
「咲夜」の誤字でしょうか
>門番と弾幕勝負、は流石にしなかったは、紅魔館を後にこの水辺にやって来た。
ここも少々おかしいような
言われてみれば二人の性格が似てるかもね。
フランに良い姉に近い友達ができた。
妹紅とフランは案外、相性よさそうにみえてくる不思議
人間たちは
続きを期待。