はじめに……原作準拠でない設定に注意して下さい。
また、この拙作の内だけで通用するような勝手な設定にしても、
二次創作でありがちな二次設定にしても、原作にない設定に関しての
苦情は受け付けておりません。悪しからず!
誤字脱字などは後ほど訂正するかもしれません。
することがない時に、お空とお燐は時々地霊殿にやってきて
二人で廊下に横になったりお茶を飲みながら喋ったりする。
「あーあ。私もこんな風に色々記事にしたり、
面白いことが書けたらなあ」
お空はさっきから寝っ転がったまま「文々。新聞」を読んでいた。
幻想郷での出来事が書かれているだけだが、重大事件のようなことでも、
取るに足らない話でも生き生きと記されているので、お空はそれを
読んでいると、地上を支配する意欲がふつふつと湧き上がるのだった。
「ん? というとその、『文々。新聞』がそんなに面白かった?」
「うん。こんな風に記事を書いて、私がどうやって地上を侵略するかを
皆に伝えたりしたいわね」
「そりゃまずいな。でもそういうことなら、わかったよ。どうしたものか」
お燐は考えた。お空は神の力を手に入れてからというもの、核融合で
ヘリウムや水素から鉄を作ること以外に興味をなくしてしまい、お空の許を
訪ねても、連日連夜の神の力による核融合をただ黙って見ていることしか
出来なかったのだ。最近はまたお燐に付き合うようになったものの、お燐は、
これを又とないチャンスだと思った。といっても、退屈しのぎのだが。
「ええと、じゃこうしよう。あたいとお空で、今日はどれだけの死体を
運んだとか、どれだけの熱量を出したといって、記事にしてご主人様に伝える
んだ。きっとご主人球も嬉しいよ」
「そうね、そうしましょう」
お空は名案だとでも言いたげにそういったが、すぐに表情を変えて慌てて
続けた。
「ちょっと待って、何というか私の書きたいのはそうじゃなくて、もっと
かっこいいお話というか……黒髪のヒーローが、悪と戦う話なんかが書きたい
わね」
「え? それはいいけど、どんな話?」
「黒髪のヒーローがその友達と一緒に世界平和のために戦うんだけど、
途中でかっこいいお姉さんが現れて、そのお姉さんのおかげで世界は平和に……」
「ああ、はいはい。でもそれじゃヒーローじゃなくて、ヒロインだよ」
お燐は苦笑交じりの笑いを抑えながら、納得したように頷いた。
「要するに、新聞記事より冒険譚が書きたいわけだ。正義と悪が戦って、最後は
正義が勝つ、いや、両方が和解するのか。なるほど。しかしそうなると中々時間がかかるね。
あたいとお空はご主人様に忠誠を誓った身。役目を果たさなくちゃならない。
それでどうやって時間をひねり出すのかな? 仮に時間が作れても、最後まで
完成させるのは大変だろう。ご主人様の手となり足となって働いて、時には
退屈そうなご主人様の相手をして暇を潰したり、お使いに行ったりする、
肝心のお役目にその執筆作業が邪魔になるようじゃいけないよ?」
「お燐はちょっと考えすぎじゃないかしら」
「そうかな?」
お空はまだ寝転がったままだ。
「さとり様はきっと何もいわないよ。紙とペンさえあれば書けるんだから、
時間の心配もないわ。お燐も手伝ってくれる?」
「そりゃ、少しはね。そういうことなら、ご主人様に掛け合ってくるよ。
知らせておいた方が何かと都合がいいからね」
「ええー……」
「知らせると、何か不都合でも?」
「そういうことじゃないけど」
「じゃあ決まりだ。また戻ってくるからね」
*
「なるほど、そういうこと」
さとりにはお燐が何も言わなくても、全て伝わってしまう。
「さすがさとり様」
「お空が考えているのは、とにかく勇気付けられるような、血沸き肉踊るような
そういう冒険譚ね。はっきりしないけれど」
さとりは普段通りの見透かしたような目つきで言った。
「細かいことはいいから、あの子が『物語の通りに地上を侵略してやるわ』なんて
言い出さない内に何とかしないとね」
「しかし、あたいには手に負えないかも知れません。何せお空のことだから」
「言わなくても百も承知です。あの子が地上にいたって、あの子に任せていては上手く
行かないのが知られるというもの。お空は、感動間違いなしの一大長編が出来上がる
みたいな想像をおぼろげにしているようだけど、そんなに上手く行くはずがない」
事実その通りだった。しかも上手く行かないと、お空がつむじを曲げるのも容易に
想像できた。
「私やお燐だけでなく、誰かの手を借りられないかしらね。あの霊夢という地上の
巫女に相談しましょう。それからほら、あの新聞記者が手伝ってくれるなら、きっと
上手く行くわ。期待は出来ないけれど」
「さとり様、随分とよく覚えておいでですね」
「な、ええと、その。とにかく!」
「うわ!」
さとりが大声を出した拍子にお燐は飛び上がってしまった。
「とにかく。地上の人を頼りましょう」
*
「なるほど。暇でしょうがない地底の妖怪の大元締めのあの方が、こともあろうに
私を頼っていて、貴方にその事を伝えたんですね。それは珍しい。わかりました」
「地底の皆から疎まれているんでしょうね。あんな筒抜けでは、無理もないわ」
「いやはや、どんな事情があるにせよ、わざわざ私の助けを御所望とあらば、
引き受けない道理はありません。喜んで駆けつけますよ。今からでも早速……
霊夢、もし付いて来たいというのなら、貴方は後から追いかけて下さい。
例の陰陽玉も持っていますから、何かあったらどうぞ」
「え? そんなこと言っても、地底には鬼がいるからダメだったんじゃなかった?」
「そうでしたね。すっかり忘れてました。私とて、それほど暇ではありませんし、
どうしたものですかね」
「ということは、やっぱりそうなるわね。悪い予感はしてたけど」
「え? あてがあるんですか?」
「ええ」
*
「紫様はお休みですよ。次の春頃にまたいらっしゃって下さい」
「あー、やっぱりね。まだ何も言ってないけど」
霊夢が紫の元を訪ねると、案の定紫は寝ていた。
「骨折り損だったわね。私はあまり関係ないけれど、他にあてもないし。お手上げ
かしら」
そういっていると、紫がふっと物陰から現れた。
「あら、失礼ね。人のことを年寄りみたいに……春まで起きないだなんて。ねえ、
霊夢?」
「起きてるならよかったわ。早速だけれど、何でも地底の妖怪が地上の新聞記者を
頼ってきていて、他にも色々な事情があって大変なの。用事がある度に地底の妖怪
二人をこちらへ連れて来て、また送り返してほしいのだけど、頼めるかしら?」
「ちょっと。唐突な上に随分面倒なことをいうのね」
紫は少し不満げだったが、やがて言った。
「まあいいわ。ほかならぬ霊夢の頼みとあっては、断るわけには行きませんもの。
任せて頂戴。要は誰かをこちらへ連れてくればいいんでしょう? 簡単なことよ」
「その妖怪なんだけど、地底にある、例の地霊殿の……」
「ああ、勿論相手にもよるわね。まさかあの、心を読む妖怪を連れて来い、なんて
いうんじゃないわよね?」
「幸いなことに違うわ。彼女の飼ってるペット兼召使を運んで貰いたいの。何でも
天狗に、面白くてわかりやすい話の書き方を聞きたいとか」
「いまいち話が飲み込めないわね。でもわかったわ、任せて頂戴」
紫はそこまで言って、生欠伸をした。
「ふあ~あ、こんなに動いては折角の布が磨り減ってしまう。勿体無いわねえ。
でも仕方ないかしら」
*
早速紫によって二人が地上へ連れてこられ、霊夢と、お燐、お空、文、紫の
5人が集まることとなった。
「彼女が、なんでもありの冒険譚を書きたいという方ですね。そして貴方が、
彼女の友人のお燐ですね。宜しく。貴方のご主人であるところのさとりにも
怨霊の異変解決の件で世話になった、とお伝え下さい。もっともここで何を言っても
実際に会えば全て筒抜けになってしまうので、意味はなさそうですが。さて、
話の概要というのはどんなものでしょうか。まだ決めていませんか?」
お燐とお空はしばらく唖然とした(ぼうっとした)様子のままだったが、
やがてこくりと首を縦に振った。
「しまった、忘れていました。私は文といいます。射命丸文です。新聞記者として
ご存知『文々。新聞』を書いています。どのような経緯で地底のあなた方の目に
入ったのかは知りませんが、そこまで広まっているのは幸いなことです。
今後ともお見知りおきを。『文々。新聞』を今後ともご贔屓に」
文はお燐とお空を交互に見返していた。5人は初め立っていたが、紫に促されるまま
机を囲うように椅子に座っていた。
「あいにく時間がないので、早速本題に入りましょう。いいですか? 物語には
登場人物、妖怪その他が存在します。そしてその登場人物その他が、何らかのアクションを
取ることによって物語が進んでいく、とこういう訳です。ですからまずは、登場人物の
人間像を決めてしまいましょう。主役はどんな人、あるいは妖怪がいいですか?」
「それはもう決めてあるわ。主役は黒髪の美しい少女。正義のために戦うのよ」
「それは人間の、ですか?」
「いいや、違うわ」
「では漆黒の羽を持つ、麗しいヤタガラス、ではどうですか」
「ええと、大体そんな感じ」
「ではそうしましょう。そしてその麗しい羽を持つヤタガラスの妖怪が、正義のために
戦うわけですね。時代はとりあえず、現代ということにしておきましょうか。では
その理由は?」
「ううん、ええと……悪を倒すためよ。悪い奴からお姉さんを守るために戦うの」
「お姉さん? お燐ちゃんのことですか?」
「いいや」
「え? じゃあ、私のことですか?」
「いいや」
「ふむふむ、よく解りませんがいいでしょう。その結果どうなりましたか?」
「世界が平和になるのよ。平和になったら、お姉さんと二人で地底に戻って生活するわ」
「そんな話だって言ってたっけ」
お燐が口を挟んだ。
「いいの、細かい所は作りながら決めていけばいいんだから」
「それはもっともです。次ですが、悪の具体的な内容はなんですか?」
「地底の平和を脅かすモンスターよ! 黒猫とか」
お燐は驚いていった。
「ええ、酷いよ! それじゃあたいが悪者みたいじゃないか」
「わかったわかった。それなら……何がいいかしら? まだ何も決めてないわ」
「人間がいいですか? それとも妖怪ですか?」
「妖怪がいいわね」
「では妖怪で。どんな妖怪なのかは保留にしておきましょう。その黒猫以外の
モンスターが地底の平和を脅かす。具体的にはどんなことを?」
「ううん、人のものを横取りしたり、強い力で人に襲い掛かったりかしら?」
「ふむふむなるほど」
文は納得したように何度も頷いた。
「ではもう大丈夫ですね。私にかかればお茶の子さいさい、今暫く待っていて下さい。
霊夢、お茶を入れてきて下さい」
「私が? なぜ?」
「貴方が適任だからですよ。さあどうぞ」
「どういうことよ、全く……」
こうして文以外の四人は、物語が完成するのを待つことになった。お空とお燐の
二人も、ひとまず文に任せると決めたらしい。文は紙とペンを取り出して、早速
書き始めた。
***
地底には悪事を働く妖怪マリーサがはびこり、地底に住む人々を困らせていた。
マリーサ「泥棒に来たぞー有り金全部寄越せー、げっへっへ」
ヤマメ「きゃー助けてー!」
マリーサ「腹減ったぞー、芋寄越しな、歯向かうとこうだぞー」
穣子「きゃー食べないでー!」
そんな中、一人? の麗しい美少女妖怪が立ち上がった! その名もイツホ!
イツホ「覚えてなさい、妖怪め!」
マリーサ「起きろー、起きないとこの……」
紫「ぐー」
マリーサ「もふもふは頂くぞ、げっへっへ」
藍「きゃー紫様ー起きてー!」
イツホ「待ちなさい!」
マリーサ「誰だお前は!」
イツホ「普段は麗しい翼で空を駆け回るヤタガラス、しかし!」デデン!
イツホ「私イツホは正義の味方としてこの度、悪と戦うことにしたの!
貴方みたいな悪は許さない! 覚悟しなさい!」
マリーサ「ふん、貴様ごときに何ができる!」
イツホ「えい!」
マリーサ「ぐああー」
チルノ「イツホ! 大丈夫?」
イツホ「チルノ! 無事だったのね。もう安心よ! 地底に平和が戻ったわ!
これからは二人で、地底で平和に暮らしましょう」
チルノ「やったー」
チルノ「あたいったら最強ね!」
イツホ「私ったら核熱ね!」
めでたしめでたし 完
***
「……真面目に書きなさいよ」
「至って真面目だけど? おっと失礼、どうかしましたか?」
「他はそのままなのに、何で魔理沙とお空だけもじりなのよ」
「プライバシーのためですよ。それに主役が実在する人物とあっては、さすがに
問題でしょう」
「何で『お姉さん』なのに、チルノなの?」
「いや……何となく」
「素晴らしいわ! でも、チルノって誰かしら? お姉さんというのはそこの……
ほら、薄着の彼女なんだけど」
そういってお空は霊夢の方を見た。文はちょっと怪訝そうな顔をして、得心が
いったというていで続けた。
「ほう、そうだったんですか。ほうほう、それはそれは……どうしたものか」
文はちょっと考えた。
「では、この話は一旦保留にしておきましょう。このプロットはあなた方に
差し上げます。実力が及ばなかったが、これは私射命丸文からのほんの気持ちだと、
そうお伝え下さい」
霊夢が言った。
「助かったわ。ありがとう」
「いえいえ」
「それにしても困ったわね……紅魔館のブレインを頼ろうかしら」
「それは誰ですか?」
「パチュリーよ。彼女しかいないでしょう」
「そうですか。では私は取材がありますのでこれで。お燐ちゃん、お空、また何か
あれば霊夢にそう伝えて下さい。霊夢、何かあればいつでも呼んで下さい。すぐに
駆けつけます。ではまた」
文はそういうと、瞬く間に空高くに飛び上がり見えなくなった。お燐とお空は暫く
文のいる方の空を見上げていた。やがて紫が口を開いた。
「さて、それでは紅魔館に向かいましょうか。大丈夫、瞬きする間に到着よ」
*
一行はパチュリーのいる図書館に送られた。パチュリーは4人の方を見て、目の色
一つ変えずにそちらへ話しかけた。
「何よ、貴方達。何か用?」
「久し振りねパチュリー。実はこの二人が、歴史に残る叙事詩、スペクタクル、
心震える感動の物語一大巨編を書きたいらしいの。それで霊夢が、『貴方の手を
借りたい』って」
「そこまで大げさなもんでもないけどね」
「わかったわ」
持っていた本を畳んで側に置き、パチュリーは4人に椅子を勧めた。
「まずどんな話にするか決めましょう……いや、そうするまでもないかしら。それ
とも、すでに内容を決めてあるの?」
「ええ、大体は」
お空はこれまでに決めた粗筋を説明した。
「大体解ったけど……ええと、最後は霊夢と正義の味方が和解するのでいいのかしら」
「ええとね……よく解らない」
霊夢はお空に話しかけた。
「どんな話だったっけ?」
「ええとね、黒髪でヤタガラスの少女の妖怪、正義の味方が悪と戦って、最後には
お姉さんと仲良くなる話」
「……ええ? 何だって?」
「いや、大丈夫よ。大体解ったから」
パチュリーはいつもの調子だった。
「そんなに時間がかかるわけでもないし、お手本を書いてくるわ。私だけ少しあちらの
方に移動するから、皆はここでお茶でも飲んで待ってて」
そんなわけで4人はまた暫く待つことになったが、ものの数分でパチュリーが戻って
きた。
「できたわよ。どんな話か、今から説明するから」
パチュリーは椅子にくつろいで、話し始めた。
「まず第一章は、お空、貴方がいかにして人間を退ける戦いに身を投じるようになったかが
描かれるわ。そして、第二章で宿敵と出会う。第三章で劇的にストーリーが展開して、
次の終章で完結。貴方は戦いをやめて、地底で平和に暮らすようになる。ちなみに
ノンフィクションよ」
「はあ?」
「その方がいいでしょう。じゃあ、読んでみて。人数分複製したから」
私はお空。毎日地底でひっそりと暮らしているのだけど、自分より格下の妖怪からも
煙たがられて、辛い毎日を送っていた。でもそんな私にもさとり様は親切にして下さった。
私はさとり様のためなら喜んで何でもしたわ。でもまさかあの時はあんなことになるなんて
思いもしなかった。
暫くしてさとり様に不幸があった。はじめにそれに気が付いたのはお燐だった。
「大変だ! さとり様が!」
私が行ってみると、さとり様はベッドに臥せって苦しそうにしておられた。この時は
分からなかったが、さとり様はどんどん胸が小さくなる奇病だったのだ。
「大変だお空、このままじゃさとり様の胸は3ミリから2ミリ、しまいには1ミリになって、
完全にぺたんぺたんになってしまうよ!」
話し合って、私は胸に効くといわれる蓬莱の玉の胸PADを見つけるために旅に出ることに
した。その旅先で私は二人の妖怪に会ったの。
「おや、そこを歩いているのはお空じゃないかい。一体どうしたの?」
「あら……ええと、誰だっけ」
「私よ私、ヤマメだよ。どうやら何か探し物をしているようだが」
「実はかくかくしかじか」
「そういうことならほら、この餃子を食べさせてあげなさい」
「わあ、ありがとう」
「どういたしまして。主によろしく」
「ええ、よろしく伝えておくわ」
「こちらこそ。またね。……くくく、まさか化学物質が入っているとも知らずに、哀れな奴。
あれを食べて主人もろとも体調を崩すがいい! ひーっひっひっひっひ!!!」
暫くして、今度はパルスィと会ったわ。
「あらあら、困った顔をしてどうしたんだい?」
「こんにちはパルスィ。実は私のご主人様のさとり様が……かくかくしかじか」
「ほうほうそういうことか。それなら分かったわ。特別に教えてあげる。胸に効く蓬莱の
玉のPADを汲み上げるには、素手では駄目なの。この胸PADケースを持っていきなさい。
きっと役に立つでしょう」
「わあ、ありがとう! 助かったわ!」
「どういたしまして、ふふ」
こうして私は二人からもらった物を持って、PADが湧き出る泉までやってきたの。
でもここで大変なことが起こったのよ。
「あ、あれ? おかしいな……」
折角PADケースにPADを詰め込んでも、帰り道に気が付くとなくなっているの。
「道理で軽くなったと思った。仕方ないわね、また汲み直しにいこうかしら」
でも何度詰め込んでも、帰り道に気が付くとなくなっている。
「もう何なのよ、バカ! どうしよう、早く持ち帰らなくては」
よく注意して見ると、途中で少しずつPADが減ってしまっているの。だから何度汲んでも、
持ち帰ることができない。実はPADを詰めるには専用の「蓬莱式胸PADケース」を使わないと
いけなかったの。ジャガイモ型岩を削って作った器では、何度汲んでも零れてしまう。
「まさか、このPADケースに問題があるんじゃ? でもパルスィが私を騙すなんて考えられ
ないし、ああ神様、助けて!」
私は失望のあまり道端に膝を付いて、くずおれてしまった。その時だったわ。
「ミッシング平板パワー!」
「うわ!」
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、餃子とPADの入ったケースが光り輝いて、
磁石のように引き寄せられているの!
「説明しよう! お空の中に秘められた核融合の力が、天洋食品(株)社製一口餃子の
メタ何とかかんとかによって最大限に引き出されたのである! そして、脱水反応
によるPAD容器の劇的な変化で、新たなるPADキャパシティーが誕生した!
その結果、秘められた能力がお空の中で開花したのである! ぺたんこは正義!」
「よし!これでPADを持って帰れるわね!」
「ありがとう、これなら数ヶ月もあれば、胸も元通りになるはずよ……」
「それにしても、何でそんな使えないものを渡したのかね?」
「それは勿論……ゴホッ、私の豊かな胸に嫉妬したのよ」
「そうか、やっぱりね。そうだと思……思ったよ、うん」
「とにかく」
さとり様は不意にベッドから上体を起こされたので、私とお燐は何か大事なお話を
されるんじゃないかと思って、じっと耳を傾けたわ。
「地底の妖怪は悪くないわ……悪いのは地上からやってくる妖怪とその手先」
「それは一体?」
「全ての元凶は博麗霊夢、八雲紫……この二人。二人が『ぺたんこは人にあらず』
などと地底の妖怪に触れ回っているせいで、皆胸のある者を憎むようになった」
「そうだったのね」
「ゴホ、あの巫女の悪評は地底こそあまり広まらないものの、地上では誰もが耳に
している」
お燐は驚いたように口を挟んだわ。
「へえ、あのお姉さんが。とてもそんな風には見えなかったがねえ」
「そりゃお燐、貴方が知らないだけよ」
さとり様はまた一つ咳をして、お続けになった。
「何せ自分より胸がある者の存在を聞きつけただけで、冥界まですっ飛んで行って
主をやっつけようとしたり、貧弱な胸を月人にからかわれただけで時を止めたり、
あげく、月まで出向いて行って勝負を仕掛けたり、またある時は、山の神様に
自分より胸があるから、というそれだけの理由で神様の所まで出かけて、行く手を
阻む妖怪やら何やらを全てなぎ倒した上、その神様にまで言いがかりをつけて
勝負を挑んで、結局再起不能にしたという……そんな恐ろしい人間なのよ、彼女は」
「ひょえー」
「そこまで凶暴な奴だったとは……」
「お燐、お空、これからは地底の平和を守るために戦って。大丈夫、お空の力が
あれば、霊夢だって退けられる」
「よし、地底の平和の為に戦うわよ、お燐!」
「あいあいさー」
それからというもの、私とお燐は特訓に明け暮れたわ。そしてある日、ついに
霊夢がやってきた。彼方から物凄い轟音と地響きと悲鳴が聞こえてくるから、すぐ
分かったわ。
「おらおらどきなさい、お賽銭の一つも寄越さないやつは全員ぶっ飛ばしてやるわよ、
オラオラー」
「お、お姉さん、以前と随分様子が変わったね」
「そうでもないわ、以前からこんなよ。貴方も私の地底侵略の邪魔をするというなら
容赦はしないわ。せい!」
「おっと、お姉さん中々に好戦的だね。かくなる上は……『怨霊猫乱歩百連発』!」
「うわあ! こんなの無理だ、退散退散!」
それから何度もお姉さんはやってきた。その度に私とお燐で退治したわ。
「ふん、また性懲りもなくやってきたのね、貴方なんか小指で十分よ、えい!」
「うわあ、この私が小指だけで負けるなんてー」
「ふん、他愛もないわね!」
「お姉さん、おととい出直して来なよ」
「でも私は、地底に眠る『蓬莱の玉の胸PAD』を家に持って帰るまで諦めないわ!
さあ、かかって来なさい!」
「え、それならお空が持ってるよ」
「何ですって! お空様凄いですね! 譲って下さい」
「それほどでもないわね」
「紫早く謝って」
「すいませんでした。もう二度とこのような狼藉はいたしません」
「お姉さん、誠意がこもってないよ」
「これから偉大なるお空様の為手となり足となって働く所存です。どうか
この私に情けをかけて下さいませ、偉大なるうつほ様!」
「おうおう、頭が高いぞー霊夢」
「仕方ないわねー」
私は霊夢に話しかけた。
「貴方が胸のことでそんなに悩んでいるとは知らなかったわ。私も鬼じゃないから、
あんなものならいくらでも差し上げるわよ」
「でもさとり様が仰ってたよ? あのPADは病気を治すにはいいけど、胸を大きく
するなら定期的に身に付けないと効果がないんだってさ」
「へえー、じゃあ定期的に必要になるんだー……チラッ」
「く、くそ……やっぱりお前たちを倒して、私がそのPADを全て手に入れる……」
「お空!」
「核熱『十凶星制御不能』!」
「うわああ、やっぱりいいです! お空様のもとで働きますから、もう許してー!」
こうして地底に平和が戻り、霊夢はお燐と私の奴隷として私たちにこき使われる
ようになって、三人は地底で仲良く暮らしましたとさ、めでたしめでたし。 完
*
「……いい加減にせい!」
「いた、何よもう」
「その場に居合わせる人の悪口とは、えらい度胸じゃないの。第一これじゃ、
黒幕はさとりってことになるわよ?」
「ほんとだね。さすがさとり様」
「ええ? ちょっと見せて」
パチュリーは霊夢の分の原稿を取り上げて、内容を確かめた。
「本当ね。私が考えた話だとこうだったはずだわ。霊夢の地上の皆を救わんとする
熱意に心打たれた貴方……お空が、霊夢と共に理想郷を地底に築くことを決意する。
お燐はお空を止めようとするけれど、お空は決心を変えず、聞く耳を持たない。
お空と霊夢は地底を楽園に変えようと頑張るんだけど、中々上手く行かないの」
「上手く行かないというか、地底にせよどこにせよ、そんな洞穴みたいな所じゃ
人が寄り付かないし、無理があるわね」
「というよりお姉さん、『地上の皆を救う』なんて余計なお世話なんじゃ……」
「……ええと、それもあるけど」
「霊夢とお空は失意と共に、地底での日々を送るんだけど、その内に二人は
とても親密になる。そこにお燐がやってくるの。お燐はそんな二人の様子を見て
愕然とする」
「へえ、それはまたどうして?」
「どうしてって、あんたねえ……」
「お燐は自分の憧れのお空を霊夢に奪われた衝撃で怒りに震えるあまり、口を利く
ことも出来ない。霊夢に食って掛かるのだけど、お空が霊夢をかばうから霊夢には
手を出せない。数ヶ月して、お燐はさとりの差し向けた手下と共に、再び
二人の元へやってくる。多勢に無勢、二人は追い詰められて後がない。そんな中で
再びお燐が二人の前に現れる。最後は、お燐の説得を聞き入れないお空に痺れを切ら
して、お燐がお空へ放った弾が、霊夢に命中する」
「ええ、それじゃお姉さんが!」
「……と見せかけて、お空が際どく弾を逸らしたお陰で霊夢は助かる。これ以上
共に過ごすことが出来ないと知ったお空は、霊夢と離れることを決意する。地上へ
失踪してしまうの。お燐は霊夢を手に掛けてしまったと思い、罪の意識に苛まれる
のだけど、結局さとりのところへ帰るの」
「お空は?」
「いった通り、地上で誰も行きたがらないような場所に閉じこもって、ひっそりと
暮らすのよ。さとりをお燐が看病する内に二人が親密になる場面を入れても
よかったんだけど、面倒だから省くつもりだった」
「いや、それはいらないよ」
「数分で仕上げたのに『面倒だから』って、紫じゃないんだから……ま、分かった
けど、それがどうしてこんな話になっちゃったの?」
「さあ……書いている内に気が変わったとしかいえないわね。どうしてこうなったの
かしら。まあいいわ、この原稿は貴方達にあげるから、頑張って。これを元にして
長編を書けば、きっと上手く行くはず」
「凄いね、ええと、か弱そうなお姉さん! あっという間にこれだけ書いちゃう
なんてかなりの速筆だね!」
「いや、外の世界の文献を参考にしているから、これ位誰でも出来るわ。貴方達が
これを元にして書く時は、もう少し品位を保った方がいい。どちらの内容も、私から
すれば不十分ね」
「ええ、そうなのかい!? いやそうだとは知らなかったよ。こりゃ参ったなあ」
「ありがとうお姉さん、これでさとり様にも胸を張って報告できるわ。『親切なお姉
さんのお陰で上手く行きそうだ』って。助かっちゃった」
「ふふ、そこまで喜んで貰えたなら、骨を折った甲斐があったわね。余所見をしながら
でも書けるとはいえ、少しは面倒だったし」
「最後のは余計だっての」
「そんなに悪く言わなくていいと思うわ。このお話、とっても面白いじゃない!
こんな大傑作、今すぐにでもさとり様に見せたいぐらい。もっと読みたいわ」
「面白かったのは、この原稿通りの話? それとも、今話した内容の方?」
「ええとね……両方ね! どっちも面白かった」
「ふうん、そうかしらね……」
「もっと書いてくれる?」
「構わないけれど、どんな話がいいかしら」
「ええと、私とそこのかっこいいお姉さんの話がいいわ。その……薄着の」
「それだとまた同じような話になるけど、いいのかしら?」
「あ、ええとね……じゃあ私と霊夢お姉さんの恋あ……じゃなくてええと」
「ん?」
「いや、何でもないわ。じゃあ貴方自身のことでも書いてくれる?」
「私の話? ううん、毎日本を読んでるだけだから、かなりつまらなくなるでしょうね。
面白くしようにも……昨日も本を読んでいて、その前は……」
「そうね、きりがないわね。」
紫がおもむろに口を開いた。
「いつでも連絡が付くようにするから、また面白い話が聞きたくなったら
私にそう伝えるといいわ。都合が付いたらまた集まることにしましょう。
長くなって眠くなってきたから、今日はこれでお開き。私が送ってあげる」
*
「さようなら。地霊殿の主人にも宜しくね」
「ええ、伝えておくわ。お姉さんのことも、霊夢のことも」
「ふふ」
「良かったわね。無事に草稿が出来てさ」
「ええ、また何かあったら宜しくね」
「お姉さん、またね!」
こうして二人は地霊殿へと帰っていった。
「さて……霊夢、貴方は気づいたかしらね?」
「何に?」
「あのお空という女の子、貴方に憧れてるみたいだったわ。」
紫は持っていた傘を畳んで、手から提げるようにした。霊夢は変わらずに、紫が
スキマを開けて地上まで送ってくれるのを待っていた。
「さて、帰りましょうか」
「そうね。あれ、気が早いわね。ここは?」
図書館の近くから紫に送られた先には、見慣れない光景が広がっていた。
「さあ、どこだったかしら」
霊夢は紫に怪訝そうに問いかけた。
「え? 一体どういうつもりなのよ。失敗ってことはなさそうだし。ここはどこなの?
分からないのかしら?」
紫は答えない。やがてゆっくりと口を開いた。
「博麗神社ではないようね」
*
さてさて、分かりましたかな? 霊夢は紫に連れられて、見覚えのある場所へとやって
きました。ただし博麗神社ではない。……おっと、私が誰だかちゃんと説明しておかなくちゃ。
私は谷カッパのにとり。手先が器用なことが取り柄なのよ。さて、博麗神社ではない何処か
とは一体何処なのか。そして紫はなぜそんな所へ霊夢を送ったのか。立体的なジグソーパズル
のように、一つ一つの要素を組み合わせていけば、自ずと判るはず。勿論似て非なるものも
存在するけれど、慎重に合う物を探していけば、いずれ正解が見つかる。
ヒントはここまでの物語に隠されている。お空が自分も新聞を書こうと思ってからのいきさつ、
天狗の文様と紅魔館の頭脳パチュリーの二人が記した物語。パチュリーが紙上に叙した物語は、
予定とは違うものだった。パチュリーはそれについて、何と言っていたか。
さあ果たして、紫と霊夢が隙間で送られた場所とは一体どこだろう?
*
「何だか私、ここに見覚えがあるような気がするわ」
「あら、ほんと?」
「ええ、ここ、地霊殿の中じゃないかしら」
霊夢はそういってあたりを見渡した。ほの暗く外から光が差していないことが見て取れる。
代わりに、広大な空間に規則的に並んだ窓から、虹色の光が差し込んできている。いつか見た
地霊殿の光景と同じだった。
「それにこの辺は妖精も少ないし、例の妖怪に出くわすかも」
「あら、それはちょっとまずいんじゃないかしら? そうは言っても、私は心を読まれて
まずいようなことはないけれど」
「私もないわね。むしろ楽で助かるぐらいよ」
それを聞いて、紫は気を取り直したように微笑んだ。そして霊夢の方へ向き直った。
「なら安心ね。折角来たことだし、勝手に通りかかられては当惑するというものよ。様子を
見てから地上へ帰りましょう。あら、誰か来たわ。あれが件の妖怪かしら」
「妖怪かどうかもよくわからないけどね。彼女がそうよ」
さとりは驚いたように話しかけた。
「さっきまではいなかったのに、どうやって入ってきたのかしら。きっと能力を使ったのね。
こんにちは、私が地霊殿の主、さとりです。こんな辺鄙な所までようこそお疲れ様。あまり
疲れてはいないみたいだけど」
そこまで言うと、さとりは霊夢の方へ向き直った。
「随分と世話になったようね。早速私も、お空の持ってきた原稿を読ませて貰ったわ」
「聞いてるかも知れないけど、あれは新聞記者の天狗と紅魔館の生き字引の魔法使いが書いたのよ」
「ええ、そう聞いていますとも。まだ途中だけれど、中々面白いじゃない。頼んだ甲斐があったわ」
「そりゃ光栄ですこと」
霊夢はふう、とため息をついた。その様子を紫は興味ありげに見ていた。
「貴方がさとり?」
「ええ。私が地霊殿の主。先程言った通りです。余計なことを言わないように気をつけるわ」
「ふうん……」
「ええ、そうね。困るのは当然です。とにかく今は、奥へ案内しましょう。こんな所では窮屈
でしょうし、実はそこに人を待たせていますから」
さとりは霊夢の方を一瞥して、奥へ二人を招き入れるように先導して歩き出した。
「私の能力を証明することも出来ますけど、その必要もないでしょう。大丈夫、貴方が霊夢に匹敵する
力を持つことはわかっていますから」
「ええ? 何だか慣れないわね」
「そうでしょうね。必要なものもないようね、お茶なら用意していますよ」
*
「あら、あなたは……強そうな人が二人も来たのね! 大歓迎よ」
奥にはさとりの妹のこいしが待っていた。
「ええと、あんたは確か」
「守矢神社で会ったでしょう、忘れちゃった?」
「そうだったわね。何でここに?」
さとりは二人の様子を見て、霊夢と紫へ説明した。
「この子は私の妹のこいしです。私と違い、この子は心を読む能力を持っていない。
ただしその代わり、この子には私の能力が通じない。私に限らず、どんな能力を以ってしても、
この子の考えは見透かしたり出来ない。やむを得ない事情でそうなってしまったのです」
「へ、へえ……そりゃまたすごい姉妹だわね」
「おまけにいつも鉄砲玉で、何処かに行ったままちっとも帰ってこない。そうかと思えば、突然
戻ってきたりもするけれど、どこで何をしているかちっとも分からないの。聞けば、地上のあちこちに
顔を出しているそうね。以前は一人で寂しそうだったから、それに比べると随分……」
「まあまあお姉ちゃん。とにかく、折角来たんだからおもてなししなくちゃ。そこのお姉さんも強いんでしょ?
お姉さんが何者かは知らないけど、そんな気がするわ。そっちの人の知り合いでしょう? ならきっとそうね!」
こいしは椅子から跳び跳ねそうな調子で、手招きして二人に椅子を勧めた。さとりは用意した茶器を使って、
二人にお茶を入れはじめた。
「それで、名前は何ていうの? そういえば、あなたも名前を聞いてなかったわね。教えてくれる?」
「紫よ。八雲紫。こっちは霊夢」
「へえ、じゃあ紫、あなたは一体どんなことが出来るの?」
紫はかすかな笑みを湛えたまま、余裕ありげにしている。
「ふうん、興味津々、という感じかしら」
「そうね、興味津々だわ」
こいしは鸚鵡返しに言った。
「そう、それはそれは……結構ですこと。私なら、私と数人を残して他の人間を幻想郷ごと消し去ってしまう……そんなことも
出来るわ。そう……二度と出られない暗闇に閉じ込めてね。絶対に這い出せない奈落の底に送り込めばいい」
紫はお茶を少しずつ飲みながら言葉を続けた。
「それが嫌なら、隠してしまうのでなく悉く吹き飛ばしてしまうことも出来るかしらね」
「へえ、面白そうね! ますます興味が出てきたわ」
身を乗り出さんばかりのこいしの様子を見て、霊夢はいった。
「何を言い出すかと思えば……冗談じゃない、本当にそんなことになったらどうするのよ」
「それもそうね」
「全く。そうそう、上がらせてもらってるけど、そんなつもりじゃなかったのよ。少し挨拶でもして
帰ろうかと思ってたんだけどね」
「それはどういうことですか?」さとりが霊夢に尋ねた。
「それが、さっきまで別の場所へ向かっているつもりだったのに、気が付いたらここに来てしまっていたのよ。
どうしてかしら」
「それは不思議ですね。どうやらそこの妖怪の方の能力と関係があるようですが? ……ああ、なるほど。
そういうことですか」
さとりは納得したように続けた。
「つまり……能力を使ったのに、何処だか解らない場所に出てしまったことが不思議なのですね。
能力に関しては何の不思議もない。だとしたらあまり大変なことでもないようですが」
「でも、何かあることは間違いないですわ。普通じゃありえないもの」
「そうですね……私には原因が少し解りかねます。私はいつお越しになって下さっても構わないですが、
原因が解らないのは不気味ですし、少し心配ですね」
紫に答えて、さとりが困ったような顔つきで言った。さとりはそのまま考え込む仕草を見せた。
「よく解りませんが……何かの間違いということはないですか? ただ気が変わってここへ辿り着いた、
ということは?」
「そんなあ。何でこんなとこまで来なきゃいけないの。お姉ちゃんに会うため? ないない」
椅子に座ったまま、妹のこいしが体中をパタパタ忙しく動かしながら言った。
「ありえないよねそんな事は。だって、こんな所まで来る人なんて滅多にいないんだもの。
それというのも、お姉ちゃんに人望がないからなんだけどね。とにかく、どんな便利な力で楽々来れるにしたって、
こんな地の底の底までわざわざやってくるなんて考えられないよ。ねえ?」
一言ごとに椅子から飛び上がりそうになるので、カラフルな衣装一式がその度にぱたぱた旗めいて、色が変わって見える。
「人望のせいなのかここが地の底だからか、どっちなのよ」
「両方でしょうね」
さとりは調子を変えずに言った。
「もしや……こいし、貴方のせいじゃないでしょうね?」
こいしは驚いたように、眼を見開いた。
「ええ? 何で私が?」
「貴方なら考えられなくもない。他に思い当たることもないですし。どうですか?」
さとりは自分のカップからお茶を一口含んで飲み込み、また話を続けた。
「……と言っても、尋ねても仕方ありませんが」
「え? どういうこと?」
「先程言った通りです。こいしは人の無意識に働きかけるし、そうやって自分が能力を使っていることに気が付かない。
だからいくら本人に尋ねてみたって、本人が知らないのでは判りようがない。そういうことです」
「じゃあ本当の所は?」
「真相は闇の中ですね。本人も知らないとなると手立てがありません」
「でも、完全に妹を疑ってかかってるわね」
「ええ、それはそうです」
さとりはこいしの方を見て、そして言った。
「よくよく考えてみれば、真っ先に疑うべきは私の妹だったかしら」
こいしはフォークを使ってもてなしのお菓子を器用に口に運んでいて、話を聞いているのかいないのか
という様子だったが、さとりが自分の方へ振り向いたのを見て顔を上げた。
「そうかなあ。私はそこのお姉さんのことなんかほとんど知らないし、理由もないでしょ?」
そう言って、こいしはまたお菓子の方へ視線を落とした。
「もっとも、地霊殿まで滅多に人も妖怪も訪ねてこないから、誰が来ても大歓迎なんだけどね。
それもお姉ちゃんの数少ない知り合いとなれば、他の用事をほっぽり出してでも、出来る限り毎日
来てもらいたいんじゃないかな? お姉ちゃん、人望がないし毎日退屈だから」
「な、何を……」
「その通りでしょ」
さとりは気を取り直したように、訪ねてきた二人へ向かっていった。
「確かにそうですね。ここ地霊殿は地底随一の大きさですが、訪ねてくる人はあまりいない」
「それというのも、肝心の主人が……」
「い、いえ、違います。確かに私には、知己の友人と呼べるような人もあまりおらず、いつも
この家の中で、僅かばかりのペットや侍従達と共に暮らしていますが、何か特別な理由がある
わけではないのです。確かに私は人望がありませんが、それはここ地霊殿や私自身に悪い噂が
立っているということではない。そうではなく、皆私に心を読まれるのを恐れて近づかないのです」
さとりはそういって、また自分のカップにお茶を入れた。
「なぜ、心を読めることを隠しておかないのか、ですか。ええ、そう思うのも無理はありませんね。
しかし実際にはそう上手くはいきません。何かある度に、こちらが相手の心を読んでいることを
相手に悟られないよう、戦々恐々としなくてはならない。相手はそうとは知らず友好的に接してきますが、
こちらにとっては……煩わしいというのが正直な所です」
さとりは困ったものだ、という顔つきで眼を伏せた。
「おまけに、私を見て相手が色々なことを考えるのも、私には全部筒抜けてしまう」
「え? 例えばどんな内容?」
「『こんな小柄でか弱そうな人が、この大豪邸の女主人か』
『いかにも頼りないな』あるいは
『これだけ広いなら、贅沢な暮らしをしているんだろう。親しく付き合って、何か金目の物を分けてもらおう』
なんてことですね。私と話しているのに、その間中全然関係ないことをのべつ幕なしに考えている人もいる。
何にせよ、面倒なことには変わりありません。……そうとは限らないのでは、ですか。ところがそうなんです。
これは相手が愚鈍そうでも利発に見えても、多弁でも寡黙でも、関係なくそうなってしまいます。
話している際に相手の心の内が見通せてしまうというのは、とかくやりにくいものです」
皆黙ってさとりの話を聞いていた。
「それ程真剣に説明しなくても、皆さん理解できるかもしれませんね。実際にはそんな穏やかな物ではなく、
眼を白黒させるような目に遭うことも多いのですよ。だから、あまり人が訪ねて来ないというのも実は好都合なのです。
そうでなくては私が疲れきってしまいますから」
「ふーん。なるほどねえ」
「じゃあ霊夢、特に用もないし帰ろっか?」
「え、何で?」
紫が霊夢に話しかけたが、皆黙りこくってしまった。
「あ、あら? 嫌ね、冗談よ冗談」
「……ちょっとからかってやろう、ですか。よりにもよって、私のことをからかおうというのは無謀ですね」
よくわからない手振りをして、紫は続けた。
「あら、そうだったわね。でも私にもよく解るわ。人と付き合うと兎角億劫になるとか、面倒が多いとか……」
「あんまり関係ないんじゃない?」
「いえいえ。何かを問うたり、人に何かを問われたりするのは兎角面倒な物よ。霊夢、貴方も私ぐらい長く生きれば
そう思うわよ? ふふ」
そこまで言うと、紫は突然何かを思い出したように言った。
「そうだ、折角上がらせて貰ってるんだから、あれの感想を聞かせて貰えるかしら? ほらあの、貴方のペット兼
召使のために、魔法使いと新聞記者が作った掌編があったでしょう」
「それなら先ほど言ったように、まだ全部は読んでいないのですが……どんな内容でしたか? ああなるほど……」
そんな話だったんですか。私はてっきり真面目な話かと思いました」
「どの辺からそう思ったのやら」
「何やら冗談めかしてはいますが、最後には真剣な話になるのかと思いました。とても面白かったですよ? 本当です。
私のペット達のために、わざわざありがとう。助かりました」
「いえいえ」
「……そこの妖怪の方はあまり信用されていませんね。ううん、本当ですよ? 本当に面白かった、ありがとう。
……困りましたね」
「お姉ちゃん、どういうこと?」
「大したことじゃないわ。ただ、何でも知っていそうな私が、そんな下らない笑い話を本当に面白いと
思うものなのか怪しいと、そう思われているようだったので……気になっただけです」
「何だそんなことか。お姉ちゃんは嘘なんか付かないわよ?」
こいしは、私に任せなさい、と言わんばかりに身を乗り出した。
「お姉ちゃんはね、人の心を読んで嫌という程様々なことを知っているから、今更悲劇めいた物語なんて要らないのよ。
うんざりするだけだからね。そっちの方が陳腐で、つまんないし。ね、お姉ちゃん?」
「ええ」
二人の方を見て、こいしは続けた。
「それにね、短い方はともかく長い方は、その内容にしても中々だと思うの。あの話の中で
お姉ちゃんのペット兼召使の二人は、お姉ちゃんの言うことを聞いてそれに従っているでしょう?
なんでそうなると思う? それは、お姉ちゃんの方が二人より色んな知識があって、お姉ちゃんの話していることが
面白いからそうなるのよ」
「そんな大したことも言ってなかったように思うけど?」
「そうかもね。でも、主人の言うことだから従ったわけじゃないわ」
「ふうん、そうかしら。何だかこじつけのような……」
「うん。こじつけというか、冗談なんだけど」
「……はあ?」
「お姉さんみたいな強い人だったら、みんな憧れちゃうわね! わかるなあその気持ち。うんうん」
「……はあ」
「私も解るわ」
しばらく黙って話を聞いていた紫が口を開いた。
「物事っていうのは、物語のようにすんなりと片が付いたり、順番に進んだりしないってことね?」
「そうね、妖怪のお姉さんの言う通り。結論や結果を急ぐのは興が醒めるわ。んぐっ」
こいしは残っていたお茶を飲み干すと言った。
「楽しみは最後に取っておかなくちゃね」
*
しばらく4人で話し込んだ後、紫は地上へ向かうというこいしを送っていくことにした。
「楽しかったわ」
「ええ、こちらこそ。またいつでもいらして下さい。こいしをよろしく」
「はいはい、またね。よいしょ。霊夢は神社まででいいかしら?」
「ええ」
「私も同じ所にするわ」
「はいはい。じゃあさとり、またいつかお邪魔するわ。さようなら。ええと、霊夢とこいしちゃんは
ここでいいのよね。私は違う方だから、お先にどうぞ」
「ありがとう! またね」
「ええ、さようなら」
*
「ふう、やっと帰って来れたわね。やれやれ」
「ここが博麗神社かあ……随分大きいわね。お姉ちゃんのペットもここにいるの?」
「ええ。今はどっかに行ってるけど。またあの、灼熱地獄の所かしらね」
「ふうん。世界征服するというのはどうなったのかしら」
「ああ、あいつね。はいはい」
霊夢はこいしの方へ振り返って言った。
「じゃあ私は、また家でお茶でも飲んでゆっくりするから」
「ああ待って、お姉さんの私生活も興味あるなあ。神社の中はどうなってるの?」
「どうもこうもないわよ。いつもお茶とおやつ、それにお酒は常備してるけど」
言いながら、霊夢は縁側の方へ歩き出した。
「それはどうして?」
「……あんたも物好きね。神社の中には何もないって言うのに、あなたみたいに
色んな人間やら妖怪やらがやってくるからよ。ご馳走になろうというなら、お断りよ?」
「へえ。私も上がらせてもらっていい?」
「ええ、まあね。どうぞお好きに」
こいしは神社の幣殿らしき建物の中を覗き込み、そのままそこへ上がりこんだ。
それは神社の端にあり、普段寝起きしたり、客をもてなしたりする場所からは遠く離れていて、
中にはほとんど何もなく、側面の壁から漏れる僅かな日光が照明代わりになっていた。
「へえ、ここにいつも住んでるの? あ、あれは何かしら」
「ちょっと。あれはお供え物だから、お客に出す物じゃないわよ」
「へえ、そうなの?」
こいしは備えてある餅と思しき物を奥に見つけたが、霊夢に止められて、食べ物を諦めて
そのまま床に仰向けに寝転がった。板張りの床で、掃除は床が光るほど行き届いている。
「気持ちいいわね……。人間だって、こういう自然の力が感じられる場所は好きなんでしょう?」
「よくわかんないけど、すぐ人の家に馴染めるのはうらやましいわね。ほら、起きて」
「またまた。そんなこと言っちゃってさ」
霊夢はこいしの側に立って、呆れたように見下ろしていたが、こいしが起き上がるとしぶしぶ
側に座った。
「それにしても何もないわね、お客さんに出す物なんか、置いてないのかしら?」
「さっき備蓄はあるって言ったでしょ。ここにないだけよ。普段暮らしてるとこはこことは違うのよ」
「お姉ちゃん……今私のこと、『似ても焼いても食えない妖怪だ』って思った?」
「思ってないわよ。いちいち突っかからないで」
「思ってない? そうよね、だってお姉ちゃん……私みたいな妖怪、嫌いになれないし。私、今日一日で
よく解ったのよね」
「はいはい、そりゃ結構ですこと。どれだけ解ったのかしら? ともかくおめでとう。私にとっては、
あまりありがたくないけどね」
「本当よ、だってお姉さんは私のこと、絶対に嫌いになれないもの」
こいしは姿勢を変えて、霊夢の方を見て言った。
「私、今日は一日中お姉さんのこと見てたの。だから、それでよく解った。お姉さんは、私が付き纏っても
嫌がる人じゃないでしょ?」
霊夢はこいしの方を見てじっとしていたが、こいしをあまり信用していない様子だった。こいしは続けて言った。
「信用してないんだ。お姉ちゃん、今日はまずあの紫っていう妖怪に会いに行って、それから紅魔館っていう大きな
お屋敷に行ったんだよね。あ、その前にあの、物凄く空を飛ぶのが速い烏天狗の妖怪と、私のお姉ちゃんの頼みごとを
どうするかで相談してたっけ。どっちも『お姉ちゃん』だと、紛らわしいわね……霊夢でいい?」
こいしが嘘を言っていないようだと解り、呆然として霊夢は何も言うことが出来なくなってしまった。
こいしは楽しそうに続けた。
「霊夢お姉ちゃんに頼まれた執筆作業を引き受けた天狗と魔法使いの二人、あの二人が実際に原稿を書き上げる時に、
ちょっと私の力を使わせてもらったよ。霊夢お姉ちゃんなら、何か感づくかと思って。すごいよね、霊夢って。
いや、お姉ちゃんって。お姉ちゃんの側にいる人は大体皆、とっても嬉しそうだったよ。きっとお姉ちゃんは、
皆から好かれてるんだね。私地獄にもよく行ってたけど……お姉ちゃんの側にいた人の喜んでるのに匹敵するぐらい
苦しんでる人、あまり見たことがないもの」
「な、何で……」
「ねえ霊夢、私達なんで、ここにいると思う?」
霊夢は唖然として一言も発せられず黙っていた。こいしは霊夢の顔を覗き込むようにして続けた。
「わかるよね? お客さんのはずの私を、もてなす用意のある別の棟に通さずに、こんな所に連れて来るなんて変でしょう?
一体何でそんなことをしたのかしら? 言うまでもないわね。私が力を使ったからよ。あなたと紫が地霊殿に
辿り着いたのも同じ理由なの。私がそう仕向けたのよ。どう、驚いた?」
霊夢は相変わらず呆然としていた。こいしは言った。
「さとりお姉ちゃんのペット二匹の頼み事を皆で片付けようとして、霊夢と他の皆が頑張ってるのを見た時に、
霊夢お姉ちゃんなら、私みたいな妖怪に付き纏われても、私のことを絶対に嫌いになれないなと思ったのよね!
以前からそうだろうとは思っていたけど、あれを見て安心したわ」
こいしはじりじり霊夢へにじり寄っていった。
「それに、霊夢お姉ちゃんはここの神社を住処にしてはいるけど、ここに留まらなきゃいけない特別な理由もないし、
しようと思えば、何処か別の場所へ移り住むことも出来るんでしょう?」
「どういうことよ」
「お姉ちゃん、地霊殿に移り住む気はない? あそこ……あの地底の私達の家で、私達と一緒に暮らすの。
私はいつもふらふら外へ出かけてさとりお姉ちゃんに心配されてるけど、霊夢が私達と一緒に暮らすなら、
出来る限り家にいるようにするわ。その方がお姉ちゃんも喜ぶだろうし。そうそう、用事を霊夢に頼ませるように
したのも私なの。ペットに働きかけたのよ」
「ちょ、ちょっと、苦しいって」
こいしはいよいよ霊夢にのしかかりそうになった。
「さとりお姉ちゃんも、霊夢のことを随分気に入ってるみたいだったよ? お姉ちゃんだけじゃなくて、
お姉ちゃんのペットのお燐と、お空もね。それから……何より私も、霊夢のことが気になっているしね」
「……わかったから、ちょっとどきなさい。重いって。ちょっと、この……もう!」
霊夢はじたばたしていたが、やがて疲れたのか、抵抗するのを諦めた。こいしは無抵抗の霊夢をほとんど押し倒していた。
こいしは一旦起き上がった。
「わざわざ住みなれた家を放り出して地底に移り住むなんて嫌かしら? でも私にはわかる。霊夢はさとりお姉ちゃんに
とって必要なの。無理にとは言わないわ。それなら別の考えがあるもの。でもね、霊夢。私の能力は、『無意識を操る』
ことだから、他人を意のままにするとか、何でも自分の思い通りにする、というのとは違うのよ? ということは
どういうことかしら? 他でもないお姉ちゃん達に、地霊殿の私達のことが気になる、という気持ちがあったから
結果として、お姉ちゃん達が地霊殿にやって来ることになったのよ。そうでしょう? ここに私を連れてきたのも同じね。
お姉ちゃんの意志があったからよ。それに例えば……」
そう言い終わらない内に、こいしはまたぐいっと霊夢を押し倒した。
「きゃっ」
「こうやって押し倒しても、お姉ちゃんは何にも言わない。それというのもお姉ちゃんが、ね」
「『ね』じゃないっての、ちょっと、重いってば!」
「ねえ、お姉ちゃん……地霊殿で一緒に生活しましょうよ。私にはさとりお姉ちゃんという本当のお姉ちゃんがいるけど、
さとりお姉ちゃんは私のことになると色々面倒を見ようとするくせに、普段はむっつりしてて、甘えがいがないのよね。
その点霊夢なら、うんと甘えられるような気がするのよ。私にとっても都合がいいの。私達三人で一緒に住んで、霊夢が
私の新しいお姉ちゃんになるの。いいと思わない?」
「良くない! 神社はどうするのよ」
「ペットや地上の知り合いに任せればいいでしょう? えっと、お姉ちゃんのことは、ペットにするなんて絶対に言わないわ。
お姉ちゃんは、私の二人目のお姉ちゃんだもの。ね、いいでしょ?」
「いいから座らせなさいって! あのね、いくら賽銭箱がすっからかんだといっても、誰もいないのはマズいから、ずうっと
留守にする訳には行かないのよ。誰もいない神社なんてご利益があるかも怪しいわよ」
霊夢がそういったので、こいしは隣に座ったまま、小さくうなずいた。
「へえ。……あ、すっごーい。あれ何だろう? ねえお姉ちゃん、あれなんだと思う?」
「え? 何もないわよってちょっと!」
霊夢がこいしに気を逸らされている隙にこいしが飛びかかり、また揉み合いになった。
「お姉ちゃんその服で平気なの? 折角だし、私の着てるのと交換しましょ!」
「するわけないでしょ!」
「お姉ちゃんのお腹、すべすべして気持ちいいわね」
「ちょっと、いい加減にしなさいって!」
こいしは霊夢の上着を脱がしにかかっていたが、急に霊夢に襲い掛かるのをやめて言った。
「だって、これも姉妹の絆を深めるためのスキンシップでしょう?」
霊夢は息を切らして寝そべったまま、ぐったりとして言った。
「はあはあ……そんなスキンシップ、普通しないわよ……冗談じゃない」
「ちょっと激しすぎちゃったかしら?」
「はあはあ……そうね、ちょっと激しすぎ……ん?」
霊夢が横に寝返ると、貼り付いたような笑顔をした紫が立っていた。
「ち、違うのよ? これは……こいつが押し倒してきて……」
「お邪魔だったかしら?」
「ち、違うわ。こいつが……ねえ聞いて紫、今朝からこいつ、私達の後を付けて来てたのよ。
地霊殿に迷い込んだのも、こいつが原因だったらしいわ」
こいしは弁解するように二人に話しかけた。
「ちょっと、人を悪者呼ばわりしないでよ、私はただお姉ちゃんについて行ってただけだよ?
ね、お姉ちゃん?」
「ど、どの口でそんな事を言うやら……」
こいしは霊夢の言うことを無視して続けた。
「何言ってるの。とにかく、霊夢は私のお姉ちゃんなんだから。今のも姉妹のスキンシップよ?
全然おかしくなんかない。ね、お姉ちゃん……あれ、疲れちゃった?」
「……いい加減にして……」
「ありゃ。何やってるんだい?」
のびている霊夢の元へ現れたのは、萃香だった。
「ふうん、これは何なのやら。霊夢、ヘソ見えてるぞ。紫、何だってこんなとこに
集まってるんだ?」
「ええとね、まだ寒いから……ちょっとした『運動』をね」
「なるほど、運動か」
「ええ、私が来た時はもう終わってたみたい」
「ほう」
「ぐったりした霊夢とこいしが二人で『ちょっと激しすぎたね』と、言い合ってる所だったわ。
余程寒かったのね、そんな激しく『運動』するなんて」
「ちょっと紫、そんなのじゃないわよ。そうじゃなくてこいつが……」
「わかったわかった、皆まで言うな」
萃香は納得したようにうなずいて、床に胡坐をかいて座った。
「まあ、私から言うことは何もないけどねえ……霊夢がそんな趣味だったとは」
萃香は瓢箪の栓を抜いた。
「ああっと、別に外見のことじゃないんだ。ただその、何て言うかな。こう、
箸にも棒にも掛からないっていうかさ。いや、意外だったな。霊夢がこいしと、ねえ。
いや、意外だったなあ」
「同じこと何回も言いすぎだって」
「ええ、そうかな? いや、それにしても霊夢が……」
「萃香、落ち着きなさいな。私としても、霊夢がこいしの面倒を見るなんてあまり
想像できないけれど、そういうことなら仕方ないでしょ?」
「ああそうだね、仕方ないね。私から意見をしたりする事はないが、しかし……」
萃香は肘をついて横になり、何もない方を見ながら言った。
「いや、そうかなあ……私にはどうも納得がいかないが、そういうこともあるもんかな。
いや、意外だった」
「勘違いしてるわよ、二人とも」
「いやいや、大丈夫だ。こいしに気に入られたんだろう?」
「そうよ。霊夢に『私のお姉ちゃん』になってくれるように頼んでたの。義理のお姉さん
にね。ね、霊夢?」
「だから、上に乗ってくるなって!」
萃香は寝返りを打って、霊夢の方をしげしげと見た。
「おお? また人目を憚らず『運動』でも始めるのかい? 寒いからねえ、ここは」
「遠慮はいらないわよ」
「そうよ。霊夢は私のお姉ちゃんなんだから、誰にも渡さないわよ?」
こいしは霊夢に馬乗りになったまま、霊夢を見て言った。
「よく言うでしょ? 『事実は小説より奇なり』」
霊夢が結局こいしの行為を拒んでいないことが萃香の言動になっている んでしょうか
博霊と守屋は博麗と守矢ですね
こいしが霊夢に襲い掛かっているように見えるのは、そんな深い意味は
なくて、ただ甘えているだけです。
萃香は人間である霊夢を高く評価して一目置いてるのですが、
こっそり目を付けてたはずの霊夢を慕ってくる人間(妖怪か)が
あまりにも多いので、霊夢と親しくしづらいと思っているのでしょう。
鬼としての立場がありますからね。萃香はあまりそういうのに拘らない
でしょうが、多少は気にするかもしれません。性的な意味はないですよ?
例えをあげるとこんな感じです。
なお性的な意味はないといっておきながら、性的な例えになります。申し訳ないです。
すごい高学歴で将来が約束された男の子が、人気者で頭のいい低学歴の貧乏な家の
女の子に親しく出来るか、を考えるとわかります。なかなかそうは行きませんよね。
なにせ、自ら自分より格下の人間に向かって諂う(へつらう)羽目になりますから。
周りからの評判もあり、やりづらいのです。
何、そんなことない? 自由恋愛が恋愛の基本?
……そういう問題じゃないです。萃香の立場から考えた場合の話ですから。
ところが、すごく頭はいいけれど腐女子とか、例えとは関係なくなるので
例を出すのはこれぐらいにしますが、何か理由があって女の子に友人も知り合いも少なく、
ほとんど0だとなるとどうですか?
身分違いの恋愛が成立するとなると、こちらの方が可能性は大きいと思いません?
そこまで高学歴となると、自分と話が通じる人を選びそうですし。勿論、そういう人は
滅多にいないわけですが……話が通じる女の子のことです。
一言で言えば、自分が目をつけたと思っていたら、皆からも人気で近づき辛くなって
困った、ってことですね。性的な意味じゃないですよ、あくまで。
特に前半の文やパチュリーが物語を考える部分はもっとはっちゃけても良かったのでは。
滑っちゃった感と狙ったけど失敗した感があり、読む気力が大きく奪われました。
本文で伝えるべき所を後書きで語っている所もマイナス。
捻子じゃなくて穣子(文によるプライバシー云々ならその後で言及されていないのはおかしい)
素材自体は面白そうなんですが、もうちょっと調理の仕方があったんじゃないかな、という感じでしょうか。
ううん。例えば、
「こいしがさとりに助け舟を出した」とか、
「こいしは霊夢を説得するために、こんな回りくどいことをした」
と書くと、余りにもつまらなくなるので……難しいですね。
話が多少強引な上本文でネタバレまですると、いいとこが
全然ないので、辛いと判断しましたが……
読んでいただいてありがとうございます。