「ふふっ……うふふふふっ……ついに、ついに完成よ!」
その日、『七色の人形遣い』こと私アリス・マーガトロイドは最後の人形を完成させた。
アリスの膝の上に乗せられた人形は、少しウェーブがかかったショートヘアーの金髪に青い瞳、水色と白を基調とした洋服を着ている。
その姿は、作り手であるアリスの姿そのもの。文字通り、私の姿を分けた存在である。
何故、私が己の姿を真似た人形を作ったのか。
その理由は単純な物。
『幻想郷の再現』――それこそが、今回の実験における目的だからだ。
そして、先程完成したアリス人形こそが、その目的達成の為の最後の道具。
『幻想郷』――人と妖怪、幽霊に神々、宇宙人やその他大勢の有象無象が跋扈する、混沌とした世界である。
今回の実験の目的は、その世界を丸ごとコピーした箱庭を作る事。
自宅の一室に、世界のコピーを製作する事なのだ。
既に箱庭は完成しており、その中には神社や竹薮、天界に冥界が再現されている。
そして、箱庭の各地には幻想郷を代表する実力者――巫女や魔法使い、吸血鬼と言った人物を模した人形が設置されていた。
それらの人形には魔法で子供程度の知能を与え、思考し行動する能力も与えている。
また、幻想郷の住人が有する箱庭内でのみ使用可能な制限を付与した能力を与えられている。
箱庭の中でしか能力が発動しないのは、意思を持った人形が創造主に対して反乱を企てる様な事を防ぐ為の処置。
神社に設置された巫女を模した人形には、現実の巫女を模した能力を。
魔法の森に設置された魔法使いを模した人形には、現実の魔法使いを模した能力を。
洋館に設置された吸血鬼を模した人形には、現実の吸血鬼を模した能力を――と言った具合にである。
そこで行われるのは、一種のシミュレーション実験。
幻想郷の過去と現在を再現し、未来を予測する実験だ。
幻想郷の再現は未来予知へ繋がり、将来起こり得る異変や事件の事前対策を可能としてくれる。
箱庭の中の時間は、現実世界のおよそ六十倍。現実世界の一分が、箱庭の中では一時間に相当している。
超スピードで進む箱庭の中ならば、すぐに現実世界の時間軸に追い付き、そのまま未来の幻想郷を現してくれるだろう。
それに早回し映像の様にめまぐるしく動く幻想郷の四季は、それだけでも一見の価値ありと言った物だ。
「この実験が成功すれば……幻想郷はより良い世界になるわ。
異変を予め予想出来れば、対策が打てる。
事件を予め予想出来れば、犠牲だって少なく出来る。
……幻想郷全てを再現するのはかなりの手間だけど、やるだけの価値はあるはず!
頑張るのよ、アリス人形! 貴女がこの世界の主人公なのだから!」
そして、私は己を模した人形を箱庭の中へ投げ入れた。
アリス人形には、その日幻想郷で起こった出来事を手記として記録する習性を与えている。
言うならば、この世界の記録者。
箱庭の中に干渉出来ない私の変わりに箱庭の世界を記録する、私の身代わりなのだ。
箱庭の大地に着地したアリス人形はよたよたと立ち上がると、創造主である私へ手を振った。
自らの分身の可愛らしい仕草に、自然と私の顔に笑みが浮かんでしまう。
「……頑張ってね!」
実験開始、である。
◆ ◆ ◆ ◆
[アリス人形の手記]
・一日目
今日わ、まほうの森でけんさゅうをしたわ!
白くるのまほうつかいのまりさって、いなかものね!
きめこを使うなんて、いなかもぬのあかしだわ!
・三日目
今日は、まほうの森でやくそうを取ったわ!
まりさに会ったけど、私を「七色まほうばか」って言ってたからけんかになっちゃった。
田舎ものね!
・七日目
今日も家で魔法の研究よ!
今日の研究は人形の操作について。じりつ意識を持った人形って、作れるのかしら?
◆ ◆ ◆ ◆
「……ふふふっ、成程成程。頑張ってるみたいね」
箱庭を前に、アリス人形の手記に目を通す。
私がまず驚いたのは、アリス人形の成長速度だった。
最初の日の手記を読み返せば平仮名ばかり、しかも所々で字を間違えている。
しかし、三日目辺りで平仮名の間違いは無くなり、積極的に漢字を使う様になっている。
七日目の時点では、かなりの量の漢字を使いこなしている様だ。
僅か一時間程(箱庭の中では一週間に相当するが)でそこまで成長するのは、嬉しい想定外だった。
「さすがは私ね……この調子で頑張りなさいよ」
先程の感想を記録用の手記にメモしながら、私はアリス人形に激励の言葉をかけていた。
◆ ◆ ◆ ◆
[アリス人形の手記]
・二十日目
魔法の研究がトントン拍子で進む物だとは思っていなかったけれど、ここに来てかなり大きな壁に当たってしまったみたい。
擬似的にでも意識を持った人形の製作……これはもしかすると、生命の創造に帰結するのかもしれないわ。
だとすれば、それは人形遣いの領域を逸脱した魔法なのかもしれない。
生命の創造……それにかかる時間だけで、私の生涯が終わってしまいそうな研究テーマね。
何にせよ、当分人形の操作は手動で行う事になるでしょうね。人形の自律意識の研究は一旦保留にして、今は効率的に人形を操る方法を研究しようかしら。
・三十日目
今日はとても嬉しい事があった。
今までの中で、最高傑作と呼べそうな人形が完成したのだ。
操作性・内蔵した呪詛の質と量・強度・そして可愛らしさ……どれもが、今までの作品の中でトップだと思う。
名前は『上海人形』と名付ける事にした。良い名前だと思う。
・三十五日目
参った……本当に参った。
もうどうすれば良いのか分からない! ああ、もう死んでしまいたい!!!!
…………いきなりこんな事を書いていては、後で読み返してワケが分からないだろうし、何があったかをここに記しておく。
事の始まりは今日のお昼だ。私と上海とで、魔法の森の奥にある薬草の群生地に行った時の事。
出会ってしまったのだ……誰とって?
あの白黒魔法使い! 霧雨魔理沙にだ!
出会うなり、人の事を『七色魔法莫迦』だの『人形以外に友達がいない奴』だの言ってくれて……本当に、腹が立つわ!
でも、その後に魔理沙が『だから、私が友達になってやるよ』って言ってくれた時は凄く嬉しかったの。
本当に嬉しかったの。
でも、私は莫迦だから魔理沙に『五月蝿いわよ! くたばれ白黒魔法使い!』なんて言っちゃって……
どうしよう! きっと、魔理沙に嫌われちゃった!
同じ森に住む魔法使い仲間なのに……せっかく、お友達になれるかもしれないチャンスだったのに!
もう……どうすれば良いのか……分からないわ……
◆ ◆ ◆ ◆
「ふむふむ……色々と事件があったみたいねぇ……」
夕食の準備を終えた後、箱庭の中を見てみると実験開始から一月程が経過していた。
その間、アリス人形の身には様々な出来事が起こっていた。
魔法の研究では大きな壁にぶつかり、相棒とも言える『上海人形』を製作し、魔理沙人形と喧嘩をしてしまったらしい。
どれもこれも、過去に私自身が経験した事ばかり。
過去の自分を追体験している様で、ちょっとした懐かしさを覚えてしまう。
「……魔理沙人形と喧嘩をした事、後悔しているのかしら……?」
今や、アリス人形は魔法使いのアリス・マーガトロイドの写し身である。
ならば、恐らくはアリス・マーガトロイドが霧雨魔理沙に対して抱いている感情と同じ物を、アリス人形も持っているのだろう。
だとすれば――
「……きっと、後悔しているんでしょうね。大切な友達になる相手、なんだから」
私は知っている。
この後、私は魔理沙に謝り、マジックアイテムを交換して友達になったのだ。
私が渡したのは魔力を込めた水晶。
魔理沙がくれたのは、とても希少な茸。
あの時貰った茸は、宝箱の中に大切に仕舞っている。
「だから……きっと大丈夫よ、アリス人形。
魔理沙はきっと、貴女の友達になってくれるわ」
寝る前にも記録を付けながら、私ははベッドにうつ伏せになって寝ている自分の分身に対し、そう呟いていた。
◆ ◆ ◆ ◆
[アリス人形の手記]
・三十六日目
今日は……とても、嬉しい事があった。
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙と仲直りが出来たのだ。
昨日の事を謝ろうとして魔理沙の家に行ってみたら、あちらも私に謝ろうと家を出た所だったらしく、鉢合わせになってしまった。
その後は……とにかく、謝った。
謝って、謝って、謝って、お詫びの品を渡して、向こうも私にお詫びの品を渡してくれて……そして、その辺りでお互いに笑ってしまった。
『なあんだ。お互い、仲直りがしたかったんだな』
『安心したよ。アリスに嫌われてなかったのは、凄く嬉しい』
『これからは、友達兼ライバルって所だな……へへっ、魔法の研究は負けないからな!』
魔理沙のキラキラした笑顔が忘れられない。
魔理沙のお友達として恥ずかしくない、立派な魔法使いになれると嬉しいな。
◆ ◆ ◆ ◆
「……よし!
良く頑張ったわね……偉いぞ、アリス人形!」
思わず、ガッツポーズをしてしまった。
仲直り成功! 予定通り、否、過去の通りである。
が、魔理沙人形との仲直りが成功した所で満足していられない。
何故なら、これからが一番大変な時だからだ。
「…………そして……これから、よね……幻想郷を次々と襲う異変の数々……過去の焼き直しが始まるわ」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが起こした異変。
白玉楼の嬢、西行寺幽々子が起こした異変。
永遠亭の姫、蓬莱山輝夜が起こした異変……その他にも多数の異変。
これから、箱庭の中では数多の異変が発生するだろう。
そして、異変を解決すべく霊夢人形や魔理沙人形は空を舞い、時に弾幕で、時にスペルで立ちはだかる敵に挑むのだろう。
何故なら、それは過去に私達が経験した出来事だから。
箱庭が幻想郷のコピーである以上、遅かれ早かれそれらの異変は発生してしまうのだ。
「……頑張ってね……!」
こちらからの干渉が一切不能な箱庭を前にして、創造主たる私は唯、アリス人形達にエールを送る事しか出来なかった。
◆ ◆ ◆ ◆
[アリス人形の手記]
・五十七日目
幻想郷中を覆っていた紅い霧が晴れ、天気が元に戻った。
どうやら今回の事件は『異変』と呼ばれる物らしく、巫女が出動していたらしいのだ。
首謀者は湖の洋館に住む吸血鬼のレミリア・スカーレット。門番や魔女、メイドを従えていたのだが、巫女には適わなかったらしい。
……そう言えば、魔理沙も館に行っていたらしい。
何でも、『地下に閉じ込められていたおっかない妹』とやらと弾幕ごっこをしていたんだとか。
……呼んでくれれば、ちょっと手を貸すくらいしてあげたのに!
ふんだ! こうなったら……次の異変の時には、私も家を飛び出すわよ!
・九十三日目
寒い……寒い! 寒いわ!
とっくに春のはずなのに、未だに幻想郷では雪が降り積もっている!
これは何!? 異変? 異変なの!?
……はっ! それなら私の出番ね! こうしちゃいられないわ! 行くわよ、上海!
・九十四日目
異変解決に家を飛び出して、メイドに殺されかけて、家に戻った……ド畜生。
……あ、雪が止んだかな? もしかして、春になるのかも……だったら嬉しいな。
・九十六日目
何か最近、宴会が多くないかな?
……まあ、異変って言う程の物じゃないけどね。一応気になったから、ここに書いておく。
・百八日目
夜が長いわ……異変ね! 解決に行くわよ!
でも、前回はメイドに撃墜されちゃったから、今回は複数人で解決に行く事にしようと思うの。
巫女は隙間妖怪、メイドは吸血鬼、庭師はお嬢様と一緒に行くらしいから……私は魔理沙辺りを誘おうかしら。
ふふふふっ…………見てなさいよ! 今回の異変は私達が解決するんだから!
・百十日目
何よあのモンペ女!
殺しても、殺しても死なないじゃない!
だぁぁぁ!!! 最近の人間って、妖怪以上にバケモノじみてるわぁぁ!?!??!
◆ ◆ ◆ ◆
「ふぁぁ~~……っと……箱庭の中ではかなり時間が過ぎてたみたいね……
ほへー。永夜の異変まで終わってるんだ…………こりゃあ、案外今日中には現実に追いつくかも」
実験二日目になって新しい発見があった。
箱庭の中で異変が起こるペースが現実よりも早くなっている。
と言うより、季節を無視していると言うべきだろうか……
現実ではレミリアが起こした異変から幽々子が起こした異変までに半年以上の月日が経っていたが、箱庭の中では三十日程で異変が発生している。
どうやら、現実に起こった出来事の中でも不要な出来事はどんどん省略されているらしい。
『今日は何も無かった』と手記に記す様な日は、最初から無かった事にされている……とでも言う事だろうか。
何にせよ、これなら今日中には現実に追いつくかもしれない。
だとすれば……明日以降の箱庭は、未来の幻想郷を予知してくれる!
「……よし! 今日も一日、頑張ってね!」
◆ ◆ ◆ ◆
[アリス人形の手記]
・百二十日目
花が咲き乱れた異変が終わり、幻想郷はすっかり秋一色だ。
……そう言えば、外の世界から妖怪の山へ引っ越して来た神社があるらしい。しかも、あの霊夢を脅迫して返り討ちされたんだとか。
いやあ……喧嘩を売るにしても、もっと相手を選ぶべきだと思うんだけどね……
・百三十七日目
……大事件発生!
博 麗 神 社 、 倒 壊 ! !
・百三十八日目
と思ったらあっさり再建された。
・百三十九日目
と 思 っ た ら ま た 倒 壊 よ ! ! !
・百四十日目
博麗神社、再び再建。もう壊れないでよね……
・百五十日目
神社に温泉が沸いたんだって! 入りに行かなきゃ!
・百五十三日目
またしても起こったわ……異変! 異変よ!
今度の異変は神社の温泉から大量の怨霊が湧き出したんだって……こうしちゃいられない!
魔理沙を地下に向かわせて、異変を解決しなきゃ!
天狗や小鬼、隙間妖怪なんかにこの異変は解決させないわよ!
◆ ◆ ◆ ◆
「おっ! ついに来たか……地下への冒険!」
ついに箱庭の中では、怨霊の異変が発生していた。
これはつい最近の出来事だから、現実と箱庭の時間差がどんどん狭まっていると言う事だ。
……が、既に日は落ちており、未来の幻想郷の姿は明日以降のお楽しみになってしまったらしい。
そう言えば、今日は朝からずっと箱庭の観察をしていたっけ……我ながら、夢中で魅入っていたのだなあ……
焦る気持ちはあるが、お楽しみは明日以降に取っておく事にした。
都会派魔法使いは慌てない。焦らない。常に心に余裕を持つ物だから。
「さーて、今日もきょうとて観察結果を記録してと……おやすみなさい、だよ」
いよいよ明日は未来の幻想郷がその姿を露にしてくれる……
私の期待は高まるばかりだ。
◆ ◆ ◆ ◆
「おはよー。さて、今日はどんな感じかなーっと…………って……あれ……?」
翌朝、目を覚ました私が箱庭を見てみると……箱庭では何やら妙な事が起こっていた。
アリス人形が、何かを作っていたのだ。
それは、部屋の片隅に置かれたジオラマの様で……良く見てみれば、その内部には幻想郷の大地が再現されていた。
「……まさか……アリス人形も箱庭実験を……?」
予想外だった。まさか、アリス人形も私と同じ実験を思いつき、実行に移しているとは……
いや、箱庭の内部が幻想郷のコピーであり、アリス人形が私の写し身だとすれば、こうなるのも自然な流れなのだろう。
問題は、先程から全然アリス人形が動いていない事……箱庭を前にして、一日中じーっとしている事。
ふと気になって、アリス人形の手記を読み返してみた。
◆ ◆ ◆ ◆
[アリス人形の手記]
・百七十一日目
箱庭実験一日目。
私がまず驚いたのは、アリス人形の成長速度だった。
最初の日の手記を読み返せば平仮名ばかり、しかも所々で字を間違えている。
しかし、三日目辺りで平仮名の間違いは無くなり、積極的に漢字を使う様になっている。
七日目の時点では、かなりの量の漢字を使いこなしている様だ。
僅か一時間程(箱庭の中では一週間に相当するが)でそこまで成長するのは、嬉しい想定外だった。
◆ ◆ ◆ ◆
「……っ……!?」
内容に驚いて、アリス人形の手記を手から落としてしまった。
アリス人形の手記の内容。
それは、間違いなく……実験初日に私が抱いた実験への感想と全く同じなのだ。
いや……私が付けていた箱庭実験の記録と、一字一句に至るまで同じ物。
ここまで一致していると、驚きや感動よりも先に恐ろしさがこみ上げてしまう。
まるで……もう一人の自分を見ている様で……
「…………どう、なるの……?
私が作った箱庭は、既に現実に追いついていて……そして、箱庭の中では箱庭実験が行われていて……
アリス人形は私と同じ存在に成長していて、幻想郷の未来予知は……そうだ、未来予知は!?」
箱庭の中に意識を戻してみれば……そこでは、信じられない事態が起こっていた。
幻想郷が、石になっている……否、停止している……?
山に生い茂った木の葉、川を流れる水、湖に起こる波紋……そらら全てが、停止している。
停止した世界で動いているのは、アリス人形だけ。
箱庭の中で、自分の箱庭を眺めながら、アリス人形が日々の記録を付けている。
何も動かない。
何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。何も動かない。
何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も。
何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も。
ナ ニ モ ウ ゴ カ ナ イ
「う……うわぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
かなりの手間を掛けた作品だと言うのに、私は反射的に箱庭を叩き落としていた。
テーブルの上から落下した箱庭は床に激突し、残骸の山に変わり果てる。
どうして? どうしてこんな事に?
アリス人形が箱庭の中で箱庭実験を行っていたのは分かる。何故なら、それは現在私が行っていた実験だから。
でも、それならどうして、
幻想郷が停止していたの?
「ていし……停止……!?
…………っ!?」
ふと窓から外の景色を見てみると……木の葉が舞っていない。雨粒が、空中で停止している。
幻想郷が、停止、している……!?
「………………い…………嫌…………た、助けてよ……誰、か……」
私は、裸足のままで家を飛び出した。
幻想郷が停止した? 馬鹿げている……そうだ、これは異変に違いない!
なら、異変解決の専門家が解決すれば良いのよ! 巫女とか、魔法使いとか!
私は裸足のまま、魔法の森を必死に駆けずり回る。
魔法の森に住む友人、霧雨魔理沙の家へ向けて……
「はぁっ……はぁっ…………魔理沙……お願い…………助けて…………きゃっ!?」
草に足を取られ、地面に転んでしまった。
そして、転んだ私の手元から転がり落ちた本が一冊……先程まで行っていた、箱庭実験に関する手記だ。
けれども、箱庭実験はもう終了したのだから……あの手記は、いらない物なのだ。
魔理沙の家に着いたら、暖炉にでも放り込んで……………………
その時、私の目には風でめくれた表紙と、手記の最初のページが飛び込んで来た。
『一日目
今日わ、まほうの森でけんさゅうをしたわ!
白くるのまほうつかいのまりさって、いなかものね!
きめこを使うなんて、いなかもぬのあかしだわ!』
「………………そ……ん、な…………?」
そんな筈は無い。
だって、あの内容は……数日前、箱庭実験の最初期にアリス人形が書いていた手記の内容と全く同じ……
私がアリス人形?
アリス・マーガトロイドはアリス人形だった?
アリス人形の手記が、私の手記に書かれていた?
違う……私の手記に、誰かが悪戯を……何の為に? 誰が? 何故? 何時?
何時?
あれ?
そう言えば……
私、何時から、何の為に手記を付けてるんだっけ……?
訳が分からない。私は、私は……私は……私は…………誰なの……?
停止した幻想郷の中で、私は必死に考える。
けれども、答えなんか出る筈がない。
「私は……私は、何時から……」
その時だ、空が開いたのは。
ガタァン、と大きな音を立てて、空が真っ二つに割れた。
割れた空の向こう側から、誰かの巨大な顔が覗いている。
いや、あの顔は……あの顔は、私が良く知っている……
ウェーブがかった金髪。青い瞳。水色と白を基調とした服。
あれは、あの人は……
私、自身?
「……やれやれ。今回の箱庭実験も失敗ね。
まあ、しょうがないか……私が行った実験をトレースした実験を『私の人形』が行うのは自然な事。
だけど、そのせいで無限ループが発生して時間の流れが止まるんじゃあ……未来の予測は無理ね」
何を言っているの?
ねえ、貴女は誰なの?
私は……誰だったの?
「さて、この箱庭も廃棄しなきゃ……薪の代わりになるかしら?
……次はもうちょっと、何とかしないとなあ。うーん……」
ねぇ、誰か教えてよ。
私は、誰?
私は……何、だったの……?
こういうホラーやシリアスが書けない身としては特に
ただ開幕でいきなりオチが読めてしまったのが……
けど、オチが読めた上でも、最後まで面白く読めました
なんかありきたりだよなぁ
>1レス目 ぷちうさ様
>18レス目様
確かに、良くあるタイプの話。さらにタグでヒントを提示していますからね……
鋭い方にとっては、タイトルとタグの時点でオチを想像出来てしまうSSだったかもしれません。
その上で、オチを予想しながらでもこの話を楽しんで頂けたならば幸いです。
オチが読めて面白くなかった、と言う方にとってはつまらないSSだったかもしれません……以後精進します。
>11レス目様
>20レス目様
ご指摘のSSを拝見しました。
「アリスが箱庭で現実を再現する」
「アリス人形が、アリスを真似てアリス人形を作る」
と言う点で内容が似ていました。
次以降の作品では、なるべく既存のSSと被らない様にアイデアを吟味します。
ご指摘、ありがとうございました。
ただ、最後のオチに至るまでの過程に、もう少しスパイスが欲しかったかも知れません。
オチを演出するための文章、という感じが若干しました。
それでも面白かったですよ。次は是非人形達の愛憎渦巻くドロドロな
昼ドラ的未来を(オイ
既存のSSを抜きにして、この作品単体だけで見れば十分面白い内容だった
もちろん展開が読まれやすい点はあるんで、最後のもう一ひねりがあると完璧だったかな
ラスト3行辺りは結構ゾクってきた。良いね
概念のマトリョーシカって奴ですね。
終わり方もアッサリしてて、大変美味しゅうございました。
>何も何も何も何も何も
単に同じ言葉を書き続けても、個人的には臨場感をあまり感じません。
一種の自己暗示とか呪いみたいな感じですよね、こういうのって。
それを意図した訳では無いでしょうし……
言葉を変えた表現とかがあるともっと良かったんじゃないでしょうか
オチが読めたのが残念
文章はよかったと思います
ただ文章展開ともに違和感無く、最後まで読めました。
おもしろかったです!!
オチも読めたかなぁ
まぁこういった感じの好きです