Coolier - 新生・東方創想話

女神の幻想郷入り

2009/03/14 02:09:04
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川面に月が映る。

「あらら、隙間の女神も幻想入りしたのね」

どこからか鳴き声が聞こえる。

「……外界の人間はいつまで同じ過ちを繰り返すつもりかしら?」

揺れる月から泣き声が聞こえる。







文々。新聞  ○月×日
   河童、あわや溺死?!

 昨日、河童のQさんがY河の中流で舟遊びをしていた所、舟が転覆。偶々近くを通りかかった河童のNさんと、友人である白狼天狗のMさんにより救出されるという事件が起こった。転覆の際、Qさんは後頭部を強打して意識を失っており、救助が無ければ最悪の事態に陥っていた可能性が高かった。現在は意識を取り戻しており、命にも別状は無いとの事である。
 Qさんは、「転覆の直前に何かがぶつかったような強い衝撃があった。」と語っている。救助に当たったMさんも「何かが下流に流れていくのを見た。」と証言していることから、流木か何かが舟にぶつかったのではないかと考えられる。現場は川幅が広く、流れも緩やかなことから、人妖問わず舟遊びや魚釣りのスポットとして人気があるが、このような事故には充分注意したいものだ。

「ふ~ん。河童も舟遊びなんてするんだねぇ」

 ここは妖怪の山中腹にある神社。独りごちたのはこの神社の一柱、八坂神奈子だ。他の一人と一柱が里に買出しに行っている間に神社の掃除をしていたのだが、それも一段落。烏天狗の射命丸文が「これが私の信仰心です!」と届けに来た新聞を緑茶片手に読んでいる所である。分社の側では着火剤扱いしかされていない新聞だが、彼女は割りと楽しみにそれを読んでいた。とはいえ平和な幻想郷。裏表一枚の新聞を読んで得られる感想といえばこんなものであった。





「あっ、慧音さんに妹紅さん!こんにちは!」

 一方こちらは人里に買出しに来ていた早苗&諏訪子。買出しも一通り終わった所で見慣れた人影に気づき声をかける早苗。諏訪子もそれに続いて声をかけるが、

「グヤーシュ!」
「マジック・マジャール」
「は?」
「……どういう挨拶よそれ?」

 人間には理解不能な挨拶だった。



「それで、ここでの暮らしにはもう慣れたか?」

 折角だからと4人で茶屋に入った後、慧音が優しげな微笑を浮かべて尋ねてきた。

「お蔭様で。最初は不安でしたけど、山の妖怪も里の人間も、優しい人たちばかりですから」
「だね~。信仰心もそれなりに集まってるし、来て良かったよ」
「なら良かった。外の世界と比べると色々不便なんだろうから心配していたんだ。」

 お茶を啜りながら、慧音がほっとした顔を浮かべた。彼女から見れば現人神も人間ということなのだろう。早苗も団子に舌鼓を打ちながら笑顔で答えた。

「確かに少し不便に思うこともありますけど、食べ物も空気も美味しいし……そうそう!こっちに来てトキを見ることが出来たんですよ!私凄く感動しちゃって」
「トキぃ?アレの何処に感動する要素があんのさ?」

 今まで竹串を炙って知恵の輪作りをしていた妹紅が、怪訝な表情を浮かべながらようやく会話に入ってきた。

「あんなもん、田んぼがありゃ何処にでもいるでしょうに」
「そうでもないんですよ。外の世界ではもう絶滅しかかってて、生きているトキを見たことある人なんてほとんどいないんです」
「そうなの?」
「らしいぞ。人間による開発事業とやらで激減したらしい。それに反比例するように、幻想郷のトキは増えてきているからな。外の世界でトキという鳥が幻想と化してきていると言う事なのだろうな」

 その慧音の言葉に、諏訪子が続けた。

「人が自然を敬わなくなっちゃったのさ。山も、森も、海も、そこに住む生き物たちも、資源って名前の数字だと思ってるんだ」

 そう呟く諏訪子の顔は悲しんでいるような、怒っている様な顔だった。いつもの幼さはなく、人と自然を見守り続けてきた神としての苦悩がそこには表れていた。

「でも、ここは違いますもんね!自然があって、人と妖がそれに感謝してます。外の世界に比べればずっと平和ですし。妙な異変が起こったりするみたいですけど、それだって稀で……あの、慧音さん?」

 場が暗くなってきたのを感じ取った早苗が、努めて明るい声で話し始めた。が、竜宮の使い程空気を読むことは出来なかったようだ。努力も空しく、難しい顔をした慧音から帰ってきた言葉は

「いや、最近妙な事件が起きているのでな」
「私が今日人里に来てるのもそれでなのさ。ここ何日かでね、」





文々。新聞 ○月△日
  一体誰の仕業?荒らされる漁場

 最近Y河で妙な事件が起きている。Y河は妖怪の山から人里の付近まで流れている河川の中でも、水量が多く、数多くの魚が生息しているため、人妖問わず魚介類の供給源として重宝している。しかし最近その河に仕掛けられた網が破かれたり、網にかかった魚が食い荒らされていたりという被害が起きている。一部では妖怪の仕業ではないかと言われており、実際に巨大な影を見たという報告や、怪しい鳴き声を聞いたなどという報告もあるため、人間の里で調査隊が組まれることとなった。また、河川を住処とする河童族も今回の事態を重く見ており、場合によっては人間との合同調査も視野に入れて行動していきたいと語っている。



「この間の事、ですよね?」
「そうみたいだねぇ」

 届いた新聞を読みながら早苗と諏訪子は2日前の話を思い出していた。この新聞にもある通り、最近人間の漁具が荒らされたり、掛かった魚介が食い荒らされていたりする事件が起こっているらしい。最初は妖精の仕業を疑っていたが、被害が連続したことや、目撃証言などから妖怪の仕業ではないかと考え、退治屋経験のある妹紅にも手伝いを頼んだそうだ。慧音は早苗達にも、もしものことがあれば手伝って欲しいと頭を下げてきた。早苗達も日頃世話になっているし、これからも世話になるだろうから、と、二つ返事でそれを了解してきた。了解した以上、動きがあれば自分たちも動くべきだろう。

「それじゃ、お手伝いに行きましょうか」
「いざ、異変解決のために~!ってね」

 気合を入れて立ち上がる二人だったが、飛び立とうとする直前、神奈子に呼び止められた。

「ちょっと待った。諏訪子は河童の所に言って頂戴な」
「へ?なんでさ?」
「人間だけだと退治しか出来ないかも知れないからさ」
「……なるほどね。それじゃ、滝の方に行ってくるよ」

 そう言うと、諏訪子は一人飛んでいってしまった。

「えっと、どういうことです?」

 2、3の会話で通じ合った二柱と違い、早苗は今一つ意図が判らない様だった。そんな早苗には、とりあえず里に行きな、とだけ言い、神奈子はどこかへ飛んで行ってしまった。早苗としてはもう少し説明が欲しい所だったが、神社で悩んでいても仕方が無いか、と気を取り直して人里へと向かうのだった。



 早苗が人里まで来ると広場に男が集まっており、その手には網や縄、銛などが握られていた。そこに慧音の姿も見えたので、降り立って声をかけた。その顔には幾分か緊張が見て取れる気がした。

「慧音さ~ん」
「おぉ、来てくれたのか。すまないな早苗殿」
「いえ、今から向かうんですか?」
「あぁ、昨日の内に特性の網を仕掛けておいたんでな。確認に向かうところだ」

 里の人たちと一緒に向かうので、歩きということになるのだが、そう遠い距離ではない。慧音は、一昨日分かれてから今日までの推移の説明を早苗に始めた。

「漁の最中に奇妙な鳴き声を聞いたというものがいてな。それに3間近い巨大な影を見たというものもいる。だから目の大きな網を用意して、」

 そう言って慧音は手で30cm程の四角形を形作った。

「このくらいの目の大きさなら、あの河に棲む魚ならほとんど引っかからずに通り抜けられる。大きな魚でも体長は2尺ほどしかないからな」
「逆に引っ掛かってるのがいれば、それが……」
「その巨大な影の持ち主、ということになるな。引っ掛かってくれるのがいい事か悪い事か、判断はしかねるが。妹紅は一足先に、上流に近い方の仕掛けをチェックしに行っている」

 今回の異変とは無関係の妖怪と出くわしそうな危険な場所には、妹紅と慧音の2人で仕掛けたらしい。更に上流の方は河童が河童で仕掛けを施したそうだ。彼女は河童と合流後、上流からチェックしながらこちらへ戻ってくるという手筈。途中で何かあれば知らせを寄越す。それならおそらく諏訪子も一緒に来ることだろう。早苗がそんなことを考えているうちに前方に河が見えてきた。否が応にも緊張が高まってくる。川辺に着き次第、調査が開始された。
 調査の方法は、男たちが4艘の舟で仕掛けを確認。慧音と早苗は水面の少し上であたりを警戒しながら待機。何かあれば2人で事に当たるという単純なもの。これで下流から河を遡って行き、河童たち別働隊と合流する。遡るとはいえそれほど流れがきつい訳でもないし、河童印の動力付きボートなのでそれほど苦労はしない。点検は順調に進んでいったが、

「中に誰もいませんね」
「誰、という表現で正しいのかどうかはわからないが、収穫は無いな」

 手がかりはいまだ見つかっていなかった。まだ合流予定地まで半分の所までしか来てはいないとはいえ、網に掛かっていたのは流木に、蟹、数匹の魚に水草程度のもの。流石に緊張感を保つのも難しくなってきた。複数仕掛けたとは言え、河の広さと比べれがたかが知れているし、そもそも相手の正体がわからないで仕掛けた罠なのだから効果があるのかも怪しい。それに相手が知性を持った妖怪ならそんな網は避けていくに決まっている。もしかしたら無駄なことをやっているのではないか?そんな考えが皆の頭によぎり始めた時だった。

「慧音様、あれを!」
「あれは?!」

 前方の方でバシャバシャと不自然な水飛沫が上がっていた。周りの目印からして、仕掛けた網のある場所に間違いはなかった。全員に失われた以上の緊張感が戻ってくる。

「全員、充分注意してくれ。あまり近づきすぎるな!先に私たちが近づ」
「ど~も~、いつでもどこでも清く正しい、文々。新聞の射命丸文で~す!」

 戻ってきた緊張感は、あっさり風に飛ばされてしまった。誰の所為かは改めて説明するまでも無いだろう。

「なんで新聞記者がここにいるんだ?」

 飛ばされそうになった帽子を押さえながら慧音が尋ねる。頭を抑えているようにも見えるが、気のせいではないだろう。早苗も早苗で「厄介村の厄介さんが来たなぁ。雛さんこれ回収してくれないかなぁ?」などと考えていた。そんな二人の態度も何処吹く風。文は勝手気ままに話し始める。そんなことを気にしていては1000歳でミニスカートなんか穿いてられないのだ。

「なんでって、もちろん取材に決まってるじゃないですか。それと、一応山にも関わってくるので組織としての仕事も兼ねてます。さっきまでは洩矢様や河童、妹紅さんとかと一緒だったんですが、私の部下があのバチャバチャいってるのを見つけまして。『幻想郷最速』の私だけ先に飛んできたのですよ。すぐに、他の皆さんも来ると思いますが、そんなもんは無視してさっさと確認しましょう!じゃないと写真が独占できません!ホントはお二方も無視してあの地点で停止したかったんですけど、そこをぐっと我慢してここまで通り過ぎてきたんです。そう言うわけで、さぁさぁさぁ!」

 そう行って二人をぐいぐい引っ張る文。見た目はそこらの女学生でも天狗は天狗。あっという間に水飛沫が上がっている地点まで引っ張られてしまった。そこには網に引っ掛かっている何かと、

「2匹いるのか?」

 水面近くでその網の周りをグルグルと回っている別な影が見えた。そして、水面には特徴的な背びれが浮かび上がっている。

「あややや!遂に発見、世間を騒がす妖怪はなんと2匹いた!それにしてもホントに見たことも無い妖怪ですねぇ」

 早速写真を撮り始める文だったが、随分長生きしている彼女にも見知らぬ存在だったようだ。だが、早苗には見覚えがあった。そう、小さい頃から何度も見たことがある。

「あれは……」
「お~い、慧音~!」
「早苗~!」

 丁度良いタイミングで他の面々も集まってきた。諏訪子に妹紅、河童のNと天狗のMである。後方からは里の男衆達も追いついてきた。

「ひ、酷いですよ文様。置いてくだけならまだしも、衝撃波で吹っ飛ばしていくなんて。見てくださいよこのたんこぶ!」
「ほんとだよ。まぁいいや。あれが件の妖怪っすか?」
「そうみたいね。じゃ、早速私が一当り、」
「だ、ダメです妹紅さん!あれは妖怪なんかじゃないですよ!」

 合流して早々、好戦的なことを言う妹紅を、早苗は慌てて止めにかかった。正にそのときである。

キュイ      キュイキュイ                 

 とても高く美しい、本来は聞こえないはずの、仲間を求める声。まるで泣いているかのような切ない鳴き声。

「この声、あの姿、やっぱり間違いないです!これ、イルカですよ」
「「「「「「イルカぁ?!」」」」」」

 早苗の一言に一同声を揃えて驚いた。

「「「「って何?」」」」

 が、ノリで驚いただけだったようだ。諏訪子と早苗は苦笑しているだけだが、慧音は器用に空中でずっこけていた。しかも帽子はずれていない。なんとも器用な御仁である。体制を取り直し、ずれてもいない帽子を直す仕草をしながら妹紅を半眼でジトーっと睨む。

「……妹紅、知らないならなぜそんな驚く必要があるんだ?」
「い、いや、なんか驚かなきゃいけないような空気が漂ってたからつい」
「そりゃ海が無きゃ知らないよねぇ」
「まぁ、そうだろうな。私自身、実物を見るのは初めてだ」

 汗を一筋、言い訳をする妹紅をみて諏訪子が苦笑を浮かべる。慧音もやれやれといった顔だ。そんな3人を尻目に文は、文花帖片手に写真を取り続け、河童Nや天狗Mも興味深く覗き込んでいる。男たちも遠巻きながら観察しているようだ。また、他の河童たちも集まってきた。

「何処となく親近感が湧くのは気のせいっすかね?」
「湧くの?」
「見たところ魚のようですが、鳴く魚なんかいるんですね。どうしましょう、鳴き声はカメラじゃ取れないですし。それにしても大きな魚ですねぇ。美味しいんでしょうか?」
「文さん、あれは魚じゃなくて、哺乳類です。人間とか、犬とかと同じ」
「「「「は?」」」」


          少女たち観察中          


「「「「どこが?」」」」

 早苗の一言に全員が目を凝らしてイルカを見つめるが、感想は同じだった。まぁ、予備知識もなしにイルカを見て魚以外のものに見える方が珍しいだろう。早苗とて、別段詳しいわけでもない。イルカの鳴き声をBGMに、水族館で得た知識で大雑把に説明を始めた。

「え~とですね、イルカというのは海に住む哺乳類で、漢字では『海豚』と書くんです。ちょっとわかりにくいんですけど、頭の所に鼻の穴があるんですよ。魚と違ってえらで呼吸できないんです。息継ぎをしないと。それと、卵じゃなくて赤ちゃんの状態で生まれて、お母さんのお乳で育つんです。食べれないことも無いですけど、食べる地域はほとんど無いですね。」
「「「「へぇ」」」」

 一通り早苗の説明を聞いた後、文が手を挙げた。幻想郷にも記者会見はあるのだろうか?とりあえず早苗は文を指名する。
「どうぞ?」
「海の生き物で、漢字で『海豚』と書くとのことですが、ここ、川ですよ?」
「え?それはその……そう言えば、何ででしょう?」
「それについては私が答えよう」

 そう言って助け舟を出したのは慧音である。

「これはおそらくカワイルカだな。中国前漢時代の辞典である『爾雅』という書物に長江に棲むカワイルカの記述が残っている。漢字で書くと『河海豚』、いや、長江だから『江海豚』か」

 慧音の解説を丁寧にメモする文。流石は新聞記者といったところか。続いて、おずおずとM(もう椛で良いや)が手を挙げた。

「どうぞ」
「あの、息継ぎしないといけないんですよね?」
「そのはずだが?」

 だからどうしたと怪訝な顔をする慧音。川面ではイルカが泣いている。それを見てさらにびくつきながらも言葉を続けた。

「あの状態だと、その、息継ぎ、難しいような気が、する、ん、ですけど……」
「たしかに、私ならそろそろリザレクション入るなぁ」
「「「「「「……」」」」」」

 一瞬の間のあと、全員の顔が一斉に青くなった。こんな講義や質疑応答などやってる場合ではなかったのだ。

「ま、拙い!失念してたぞ!」
「よく見たらさっきより飛沫が少なくなって、あわわわ、諏、諏訪子様どうしましょう!?」
「と、とにかく水面まで持ち上げなきゃ!にとり、手伝って!」
「了解っス!みんな、河童の力を示す時っすよ!」

 テンパる早苗を見て逆に落ち着いたのか諏訪子がN(にとりらしい)に声をかけて河へ飛び込んだ。少し遅れてにとりが飛び込み、様子を窺っていた河童たちも慌てて河に潜り始めた。力を失って沈み始めたイルカを急いで水面まで押し上げたが、呼吸はかなり弱くなっていた。

「あやややや!前回の河童は助かったからいいですけど、目の前で死なれて『海の生き物、河で溺死!』なんて記事出したらマスゴミのレッテルを貼られちゃいますよ!」
「いかん、何とか呼吸を!え~と、だぁぁっ方法が思い浮かばん!」
「じ、人工呼吸です!こういう時は!まずは気道を確保して、口と口を、」
「アレを相手にそれは難易度が高すぎませんか?!」

皆頭を抱えて唸っている。暴走しかけた早苗の唇は椛が何とか守ったものの、はすでに最悪の事態一歩手前。いよいよ混乱が増してきた。そんな中一人静かに首をかしげていた妹紅が、おもむろに慧音に声をかけた。

「ねぇ、慧音」
「なんだ!?」

 今にも噛み付いてきそうな慧音に、思い浮かんだ疑問をぶつけてみる。

「溺れた歴史を消すのって無理なの?」
「…………//////」


          歴史修正中          


「で、これからどうします?」

 妹紅の起死回生の一言で助かったイルカは、眼下で仲良く並んで泳いでいる。が、根本的な問題が解決したわけではないのだ。

「この期に及んで退治するわけにもいかんしなぁ」
「そりゃあねぇ。助けておいて始末するとか意味がわからないし」
「河童としては、正体もわかりましたし、危険な生き物ではないみたいっすから別に構わないんですが」

 同じ水の仲間ですし、というにとり。舟の転覆事故も、完全に事故だったのだろう。そんな程度の理由で排除しようなどと言うほど、河童は冷酷ではないらしい。

「そもそも、なんで現れたんでしょう?」
「そればっかりは、あの方に聞いてみないとわからないでしょうねぇ」
「呼んだかしら?」

 文がそう呟いたとたん、頭上に怪しげな空間が広がり、美しいながらも胡散臭い声が聞こえてきた。

「紫殿か」
「呼ばれて飛び出てジャンジャカジャ~ン♪永遠の美少女、八雲紫で~す♪」
「何が美少女だよ、全く。肝心なときに中々捕まらないんだから」
「神奈子様?!」

 スキマから現れたのは大妖・八雲紫と神奈子だった。

「ふむ、その様子だと、わざわざ諏訪子を河童の側に行かせなくても良かったみたいだね。まぁ、早苗と守護者がいれば人間側が滅多なことはしないと思ってはいたけど」
「なるほど。そういう意味だったんですか。でもなぜ紫さんと?」
「なに、コイツが知らないわけ無いと思ってね。事情を聞こうと思って探してたのさ。そう言うわけで後は任せたよ」

そう言うと神奈子は自分の役目は終わったとばかりに飛んでいってしまった。一方、後を任された紫はイルカの歌声に耳を傾け悲しげな微笑を浮かべている。そしてイルカを見つめたまま語り始めた。

「この子たちは、もともとは女神だったの。綺麗な歌声で、行き交う舟を導いてくれる、ね。とても優しい、江の女神。でも、もう幻想の存在となってしまった。風祝、あなたにはその理由がわかるかしら?」

 そう言って紫は早苗に視線を向けた。早苗はなぜ彼女が自分に尋ねたのか、即座に理解できた。同じようになった生き物を、彼女は良く知っていた。その原因が何であるかも、よく知っていた。

「絶滅した、いえ、させられたんですね?人間に。自分たちしか見えなくなった人間に」

 早苗の答えに満足したのか、扇で口元を隠しながらも、紫は小さく肯いた。

「そう、人は女神の声を忘れてしまったの。あれだけ美しいと感じていた歌声を。文明の音が、鳴き声を聞こえなくした。聞こえないから、泣き声にも気付かない。いつしか、女神がいることすら人は忘れ、現を幻に変えてしまった。そしてここに辿り着いたの。幻が現となる、この郷へ」

 さてと、紫はそう言いながらスキマを開いた。

「私の話はここでおしまい。後は当人たちの問題でしょう。ただ、」

 紫は一同を見渡した。妖を、人を、生き物を、みんなを。

「私は幻想郷の皆を自分の子供のように思っているの……お母さんとしては兄弟仲が悪いのは悲しいわ」

 紫がスキマの中へと入っていく。

「美少女らしくない台詞を言っちゃったわね」

 消え行く隙間から聞こえる声は、とても優しい声に聞こえた。





~エピローグ~

「こんにちは、慧音さん」
「こんにちは、早苗殿」
「お出かけですか?」
「妹紅と釣りに行く約束をな。どうだ?早苗殿も一緒に」
「そうですね。お邪魔でなければ」
「邪魔なものか。きっと皆喜ぶぞ」

 河が見えてきた。漁師たちの、のんびりとしたそれでいて力強い声が、風に乗って聞こえてくる。
 綺麗な歌声と共に、風に乗って。
はじめまして。ホントはギャグを書こうとしたのに、行き詰って中途半端なシリアスを……ギャグの才能……妬ましい。

それと、慧音先生の能力は、過程を変えられても結果は変えられない(はず)ですが、今回はギリギリだろうが『生きている』という結果の元に、『溺れた』という過程を変えたということで一つm(_ _)m

これ以上幻想入りする生き物が増えないことを願ってます。
Ren
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コメント



0.1210簡易評価
9.10名前が無い程度の能力削除
汚い外の世界に住んでて悪うござんした。
自分が生きてる世界を悪くしか言えない人が自然を唄っても失笑しか出ません。
オチも万能な紫まかせでガッカリです。
14.100点数屋削除
文章など読みやすく面白かった。
オチがもう少し欲しかったくらいでしょうか?
これからも頑張ってください。
16.100名前が無い程度の能力削除
自然を大切に。言うのは簡単ですが実行は難しい。
そうやってもたもたしている間にどんどん自然は失われていくんですね……。

人間が作った科学の世界の良さは誰もが知っていて誰もが認めている。
今更この世界の素晴らしさを謳ったところで仕方ありませんもんね。
だからこそその世界の負の側面を的確に捉えて人々に訴える人が常に必要なんだと思います。



そうですね……強いて言うなればオチの弱さでしょうか。
まぁ私程度の想像力では代替案を示すことができませんが。
26.100名前が無い程度の能力削除
>9
人間が今まで行ってきた自然に対する蛮行を認められないんですね
少しは現実を見なさい

いや、申し訳ない。9のコメが異常にむかつきまして・・・

これからの世界、人間は自然を『再生』させることしかできないということを改めて感じますね
そのうちの多くは既に『再生』すらできないところまで来てしまっています
過去の様な自然を復活させることはもう出来ず、我々はその過ちを永遠の罪業として背負っていかなくてはならないのです

海豚がその後どのような扱いになったのかは書いてほしかったかも
27.無評価名前が無い程度の能力削除
9のコメントが笑えるw
ネタなんだから深く考えるなよw
28.無評価R削除
>9さん
 たまたまトキのニュースを見て、「そういや、幻想郷にはいるんだよなぁ」と思って書いたもので……自分としては『自然と幻想郷』というテーマで書いたつもりであって、現実世界を悪く言いたかったわけではないのですが、実力不足だったようです。
 拙作を読んで、感情移入してくださったこと、感謝しています。

>点数屋さん
 そう言って頂けるとありがたいです。次回作も頑張ろうと思います。

>16さん
 仕事柄、自然美にも造形美にも触れる機会があるのですが、やはりそれぞれの美しさというものがありますし、自然と共にあって、初めて美しさの出る建物なんかもあるんだなぁ、と思います。ありきたりですが、人も自然の一部だということを忘れないように暮らしていきたいです。
 オチ、今後も努力します。

>26さん
 お気遣いありがとうございます。自然を『幻想』なんかにしちゃダメですよね。
 幻想入りした海豚たちは、そのまま河の女神として人や妖怪と共に幻想郷の一員に……というつもりなのですが、そこらへんが『オチの弱さ』ということなんですよね。要修行ですね。
33.100名前が無い程度の能力削除
幻想入りしたのはやっぱりヨウスコウカワイルカなのかな。
水質汚染に乱獲、おまけにダム建設で相当やばいと聞くけれど……
何とか生き延びていて欲しいものです。
それとちらりと触れられてたトキ。妹紅の言う通り、ほんの半世紀前までは
本当にごく身近な鳥だったのに……オオカミやカワウソも幻想入りしてしまったし。
いい加減に目を覚ませ、人間。