「旅立つつもりなのね」
幽々子はすっかり片付いた部屋を見渡した。
妖忌は是とも非とも言わず、荷造りを続ける。
古びた茶色のカバンに放り込まれた薬袋が鈍い音を立てた。
「気付いておられましたか」
「ええ」
幽々子は溜息を吐いた。
「明日はあなたの誕生日なのよ。覚えてた?」
昼間、妖夢が落ち着かない様子だった。
そう言おうとして、妖忌は口を閉ざした。
「妖夢ったら、何も知らずにはしゃいでたの」
妖忌が己の誕生日を決めたのはつい5年前のこと。
八雲紫に誕生日を祝う習慣を吹き込まれた妖夢が「妖忌様の誕生日はいつですか」としつこく聞くので、仕方なしに誕生日を捏造したのだ。
それまで妖忌に誕生日は存在しなかった。
静かになった部屋に再び、荷造りの音が響いた。
妖忌は銀貨数枚を胸元に押し込んだ。
「わざわざ、こんな日に出て行かなくても」
「明後日、雨が降るらしいのです」
妖忌は無表情に答えた。
「妖夢は?」
「ぐっすり眠っているわ」
良かった。
妖忌は立ち上がった。
外へ出ると、満月が桜を照らしていた。
この時期にしては暖かい風が吹いている。
石畳の上に二人分の足音が響いた。
「妖夢には何て言えばいい? 「明日は妖忌様をお祝いする」って嬉しそうに言ってたのよ」
幽々子の声がかすれた。
「旅発った、と」
「嫌な役目ね」
妖忌はふと、幽々子を振り返った。
「すみません」
「いえ。いつかはこうなるだろうと思っていたしね」
二人は無言で歩き続けた。
そして、やがて門に差し掛かる。
「ここらでお別れね」
「はい」
妖忌は頷いた。
その時、強い風が吹いた。
「泣いているのですか」
「いいえ」
幽々子は顔を上げなかった。
妖忌は言葉を探した末、短く言った。
「お便りします」
「本当?」
「忘れません」
妖忌は「今まで、ありがとうございました」とだけ言うと長い門をくぐり、石段を下って行った。
石段は静かなものだった。
時折、名残惜しそうにまとわりついてくる人魂の他には何もいなかった。
大きなカバンを背負った妖忌はただ前を向いて、一歩一歩白玉楼の外へ向かって歩いて行った。
「さらば、白玉楼」
もうここまで来てしまえば、名残も惜しくない。
明け始めた空を見て妖忌は一種の安堵を感じた。
ここはどこの辺りだろうか。
薄暗い木々の中を妖忌はゆっくりと歩いて行った。
ここを抜けたら里が見えてくる。
焦ることはない。時間はいくらでもあるのだ。
「北の風に誘われて」
妖忌の口から、古い歌が漏れた。
どこで覚えたかは忘れたが、ずっと知っている歌だ。
「道を」
と、その時、闇の中から声が聞こえた。
「おい」
妖忌はふと、立ち止まって上を見上げる。
しかし、鬱蒼とした葉が広がっているだけで、何も見えない。
「どちら様かな」
「ジジイ」
妖忌の前に黒髪の長身な鳥妖が音も無く、降り立った。
「ここは私達の縄張りだ」
「お」
妖忌は黙って立ちつくした。
「それで」
「よそ者は出て行ってもらおう」
妖忌は静かに頷いた。
「それは、申し訳ないことをした。すぐに出て行こう」
振り返ると、すぐ後ろにもやや小柄な鳥妖が降り立った。
妖忌の表情が曇る。
「黙って出て行こうってか? それはちょっとムシがいいんじゃないの」
「どうすれば、いい?」
妖忌が聞くと前方にいた妖が嬉しそうに、にやついた。
辺りからがさり、ごそりと音がして少なく見ても10人ばかり木々の間から鳥妖が現れた。
どれも一様に真っ黒の羽を生やしており、腰には刃物を下げている。見たところ、かなり大振りの太刀だ。
「荷物を置いてけよ。何かしか入ってるんだろ?」
闇の中から笑い声が聞こえた。
すっかり四方を囲まれているらしい。
「野盗まがいか。黙って通して欲しいのだが」
「ジジイっ。命が助かるだけでも拾いものだと思えよ。この場でぶっ殺してもいいんだぞ」
何と下衆な言葉遣いをする女もあったものだ。
妖忌は額に皺を寄せた。
「見たところ、君達。人数ばかり集めたようだが」
「何っ」
妖忌は静かに荷物を地面に下ろし、言った。
「今日は機嫌が悪い。殺すぞ」
鳥妖は激高し、太刀を抜いた。
「この野郎。やっちまえ」
合図と共に、一斉に闇の中から押し寄せてくる気配。
妖忌は即座に手を腰の刀へ遣った。
「ジジイと思ったが、運の尽きよ」
暗がりにおいても耳は利く。
妖忌は間近の一人を狙って刀を引き抜いた。
「去ね」
途端に「ぽう」という軽い音が鳴って、妖忌の鞘の中から紙吹雪が舞った。
少し遅れて紙飛行機が二機飛び出す。
「すぱぱぱぱ」の爆音とともに赤や青や黄色の蝶々が飛び立った。
「お、おお」
金色と銀色の糸が飛び出し、「大吉」と書かれたプラスチックの刀が引き抜かれる。
そして、一枚の手紙が宙を切った。
<おたんじょうび、おめでとうございます。これからもずっとげんきでがんばってください。 こんぱく ようむ>
この何ともいえない感情はどこへぶつければ良い!?ww
タイトルのわりにスクロールバーが妙に短いとは思ったんですよ。
やられたからには100点おいていきます
あの部分まではシリアスだっただけに意外な展開でした。
お見事。
ある意味、自業自得というか… ^^;
そうか……後書きまで含めて作品というのはこういうことなのか……。
あ、ありのまま(ry
え、いや、……え?
意表を突くのを分かってても読めんかったぞ!
ただ無粋ですが真剣は非常に重く、
また妖忌のような実力者であれば、わずかであっても日頃との違いにすぐ気づくかと。
これはひどいw
もう何も言えねえwwwwwwww
出かけるときは半幽霊が、帰ってきて、全幽霊にwww
でもきっと妖忌なら素手でなんとかしてくれるに違いない。
GJ!!
そいえば作者、yuzさんだった。盲点盲点。
駄菓子菓子、妖忌じーちゃんならば必ずや面白突破口を……!
妖夢最高w
なんか色んな涙出たw
この後、鳥妖たちに飴ちゃんとかもらって帰るところまで幻視しました。
思わず噴き出したww
yuzさんのオチは毎度デンジャラスだぜ・・・
やられますたw
これは……これは……ひどい。
だというのに私はなんでこんなに大笑いしているんだろう。
もう、この空気、大好きですw
これはwwwwwwwwwww
ちくしょう、たった1文でこんなに笑うことになるなんて…
鳥妖のほうもこのまま襲っていいのかどうか迷うな、これは
切らずに揉め事を解決する芸人道に、妖忌が目覚めた瞬間だった。
真剣は、持ったことが無い人が振ると
途中で止められなくて自分の足を切っちゃうくらい重かったりします。
明らかに敵も豆テッポウ食らった顔してるよ
ぜったいwwwww
真剣は重い…とはいっても、常識外れの長身でもなければ2kg超えることはまずありえません、平均で1kg程度です
振り回すのはともかく、提げてる分には然程気になるほどでは無いですよ
どうしても気になるなら、妖夢に譲って木刀持ってるつもりだったと思えばいいよ!
しかし妖忌ならwwwww妖忌なら何とかしてくれるwwwwwwwwwwwww
これは気まずいwwwwww
もう次は絶対に騙されないぞ!w
これは回避不可能なうえ防御無視の固定ダメージ9999wwww
きっと素手でもこれぐらい…というか既に敵の腹筋がえらいことになってるねこりゃw
楽勝ですよ、彼なら。大切な贈り物をそっと鞘に収めた後に、素手で何とかするでしょう。
まぁじーさんなら小枝1本拾って切り伏せるでしょうw
妖夢かわいすぎるwwww
妖忌の命運に幸あれ!
やばいこれは破壊力がwww
とりあえず100点叩き付けておきますねっ!
ただ、妖忌は無刀でも相当強いんじゃないかと思うので、
この後も切り抜けてくれたと信じてます。
重さで気付けよwww