「これ、本当に早苗が書いたのか?」
霊夢、魔理沙、萃香の前で早苗が描いた絵を見せている。
なかなかうまい絵だ。
「ふふ、見ていてください。これが動くんですから」
「「「動く?」」」
頭をひねる三人の前で早苗は紙をめくり始める。いわゆるパラパラ漫画というやつだ。
「「「おおっ!」」」
「すごいわね」
「動いた!」
「どうして? ねえ、早苗どうしてなの?」
「それはですね。目の性質のせいですよ」
早苗はまた紙をめくりだす。
「前の絵が頭の中に残っているので、少しずつ違った絵を描くと動いて見えるんです」
「「おおっ!」」
「それも外の世界の遊びかしら?」
「もう一回やって」
「はいはい」
また紙をめくる早苗。
それを遠くから双眼鏡で見る人影が二つ……レミリア・スカーレットと十六夜咲夜だ。
「すごいですね。これぞ映像世紀の夜明けですね」
「今週の悪巧みはこれで決まりね」
「「はっはっはっはっは」」
高らかに笑う二人。はたしてうまくいくのだろうか?
「本日はまたお急ぎのようね。なにかしら?」
あの後、紅魔館に戻った二人は八雲紫を呼び出していた。
「あなたに見せるものがあるわ」
「はあ?」
「咲夜、早くしなさい」
「あっ、はいはい」
咲夜が映写機のスイッチを押すとスクリーンに何かが映し出された。
「これはいったい?」
「ああん、もう! ピントが合ってないわよ、咲夜」
「あー、はいはい。ピンっと」
咲夜がピントを合わせると動いているレミリアの画像が綺麗に映し出された
……上手くはないが。
「ふふふふふ。私が動いてるわ。ふふふ……あっ!?」
喜んでいると画像が終わってしまった。
「もう終わり?」
「仕方ないですよ。これだけ描くのだって大変でしたので。こういう絵がたくさんあれば、もっといろんな動きを作ってアニメが作れるんです。お嬢様がヒーローのアニメを作ればたちまちお嬢様のカリスマっぷりが広がるでしょう」
「ふふふ」
「結構なお話だけど、お金は誰が?」
「もちろんあなたが払うに決まっているでしょう? そしてボー○ー商事ネットワークで全世界に放送よ」
「あらあら」
「お嬢様のカリスマっぷりは外の世界にまで広がりますわ」
「幻想郷初の人気アニメシリーズを製作するのよっ!」
「「あーはっはっはっはっはっは」」
翌日、博麗神社の境内に一つのたて看板が置いてあった。
その前に大勢の人妖が集まっている。
「アニメスタッフ募集?」
「アニメって平目や鮫や若布と違うのかな?」
「みすちー、何言ってるの? ドラマの一種よ」
「……ギャグなのに」
「ドラマってテレビで紅魔館の話ばかりやってるやつですよね? 師匠」
「バカくさくて見たことないわね」
「あれに似ているけどなんというか……」
「ドラマと違ってアニメは描いた絵が動くんです」
「アニメスタッフ、挑戦してみようかな」
「暇つぶしにはなるかもしれないわね」
意外と好評のようだ。ひょっとしたら上手くいくかも?
紅魔館はいつもと違い大勢で賑わっていた。
「えー、アニメ作りに参加したい者は格別に安いギャラで雇ってあげるわ」
「物語を創れるか、絵が描けるか、色が塗れるか、声の出演ができる者は諸人こぞるがいいわっ!」
レミリアと咲夜も上機嫌である。
「まさかこんなに集まるとは思いませんでしたね」
「そういう早苗も乗り気じゃないか」
「まあ、興味はありますからね」
「あのっ、受付がすんだ人は私についてきてください」
小悪魔に案内されて着いた場所はある一室だった。
「うふふふ。私がアニメを作る一番えらい人、プロデューサーよ」
「プロじーさんってプロのおじいさん?」
「チルノちゃんそれは違うよ」
「ぬ……」
「お金、自分で出したの?」
「ぐっ……」
「ぷっ。貰っただけ」
「咲夜っ! 余計なことは言わないでよしっ!」
レミリアは咲夜に掴みかかろうとすると、
「でも私達はどうしたらいいのかさっぱりわからないわ」
「むっ。そうね」
「ここに集まった連中がどれだけの能力があるかもわかりませんよ。お嬢様」
「ぬぬぬ。アニメは才能がなくてもできるという証拠に……監督は咲夜よっ!」
「えっ!? 私ですか?」
「早速、始めなさい!」
勢いよくそう叫んだレミリアだったが、部屋にいる誰一人動く者がいなかった。
「? どうしたのよ?」
「そうは言うけど……」
「何していいか、わからないわ」
「え゛……」
どうやら前途多難のようだ。そこに……早苗がおずおずと手を挙げた。
「まず企画会議を開きませんと」
「「企画会議? 早苗、何それ?」」
「企画っていうのはですね。誰に見せるのか、予算はどれくらいか、物語や主人公をどうするのか決めることですよ」
「ふんっ。それはもう決まっているわ。主人公は正義の味方『れみりあう~まん』よ」
「はい? なんですか、それ?」
「何だかこうなることはわかっていた気がするぜ」
「私じゃなくて『れみりあう~まん』よ」
そう言って、色々と装飾を施してある衣装を着ているレミリアの絵をみせる。
……上手くない、というか下手だ。
「そんな変なキャラ、ヒーローにはできませんね」
「へ、変ですって!? じゃあ、どうするのよ」
「そうですね、そこは主人公にふさわしい人物……霊夢さんなんてどうです? 本編でも主人公ですし」
「えっ? 私?」
「おおっ、そりゃいいぜ」
早苗は自分が描いた霊夢の絵を見せる。
「上手いっ。早苗さんはキャラデザイナーですね」
「あっ! いっそ皆をそのままアニメキャラにすればいいんじゃないか?」
「キャラがよくてもシナリオがないとだめですよ」
「シナリオ?」
「物語の台本のことですよ」
「早苗っ! そのシナリオはあなたが書きなさいっ! ぐへっ」
早苗に掴みかかろうとした咲夜だったが、レミリアに隅まで引っ張られていき、
「私をかっこよく描くためにあなたが書きなさい」
「後ですり替えればいいんですよ。早苗はアシスタントにすればいいです」
「ええっ!? 私がアシスタントですか!?」
隅でこそこそ話していたのを早苗に聞かれたらしい。
「アシスタントはお手伝いの役目。シナリオを明日までに書かないと極刑よっ!」
「ええ~~~~!?」
その夜、早苗は神奈子、諏訪子、魔理沙とともに博麗神社で一泊することになった。
「うーん、結構難しいですね。霊夢さんってよく考えてみればヒーローって柄じゃないですね」
「失礼ね」
「早苗、食べないの?」
「もうちょっと考えさせてください」
「ねえ、神奈子。アニメのシナリオってそんなに難しいのかな?」
「簡単だよ。主人公を戦わせればいいのさ」
「ええっ!?」
「ドラマはみんなそうさ。戦わせると、登場人物が戦っているのに誰もが興味を持つもんさ」
「喧嘩の見物が楽しいのと同じね」
「二人ともすごいですよ。真理を突いてます」
突いてないと思う。
「テーマは善と悪との戦いだね」
「悪い魔獣とヒーローの喧嘩だっ!」
「いいわね」
「はぁ。そんな有り触れた話じゃ……」
「いいじゃん」
「貸しなさい! 私が手伝うわ!」
翌朝、テーブルに隅をつくって寝ている神奈子にタオルケットをかけている諏訪子の姿が目撃された。
「っというわけで、霊夢さんは最初はやられてしまいますが、最後に悪を倒す! これでおしまい」
「「「「「おおっ」」」」」」
「なんか恥ずかしいわね」
「ぐぬぬ」
「まっ、これで我慢ですよ。お嬢様」
「でもヒーローは私がいいわ」
「後で作り直しておきますから」
大丈夫か? これ。
「じゃあ次はストーリーボードですね」
「「「「「ストーリーボード?」」」」」
「ええ。そうです」
早苗は絵が描かれた紙を並べていき、絵に沿って物語を説明していく。
「で、これでクライマックスです。こうして敵が攻めくる。その前に霊夢さんが立ちはだかる。そしてこうなるんです」
「なるほど。これで物語がよくわかるわね」
「でも絵を動かすアニメーターは大変ですよ」
「大丈夫よ、早苗。才能はないけど根気だけはある物好きはくさるほどいるから」
「うんうん」
「はぁ。大丈夫でしょうか……」
「では諸君。作業に取り掛かってちょうだいっ!」
「「「「「おーっ!」」」」」
ここではそれぞれがキャラ表をもとに絵を描いている。
「これがキャラ表といいまして……お嬢様のがこれですね」
「うんっ。この人数ならすぐに完成しそうね」
そう言いながらレミリアは絵を描いている人達の見回りを始める。
「んげっ!? ……こ、これは何!? 美鈴」
「あっ、お嬢様。これはお嬢様ですよ。そっくりでしょう?」
「むぎぎぎぎぎ。このっ、このっ、こんのおおおお!」
レミリアは意味不明なことを言いながら紙をビリビリにやぶり、それを踏みつけた。
「こいつは門番で絵は下手のようですね」
「はぁ。皆さん『れみりあう~まん』の絵がキャラ表にどれだけ似ているか見せてください」
「「「「「「「はーい」」」」」」」
元気よく返事をしてそれぞれが描いた絵をみせていく。
「これは私の自信作よ」
「これは何?」
「やっと描けたわ」
「これは生き物かしら?」
「これダメ?」
「ば、化け物よっ!」
「私のはどうかな?」
「こ、怖いわ……」
「これどう?」
「んあ゛!? どぅわははーーーー」
レミリアはちからつきた……。
「早苗。皆、才能0だぜ」
「思っていたより深刻ですね」
「早苗っ! なんとかしなさい!」
「監督はあなたでしょ!?」
「自分こそアシスタントでしょ!? 絵を全部直しなさい」
「さ、作画監督をやれって言うんですか!?」
作業は深夜まで及んでいた。
「早苗、まだ終わらないのか?」
「えっ? 慧音さん何やってるんですか?」
「制作を頼まれたのだよ」
「制作?」
「だらしないスタッフを急かして働かせる役目さ」
「じゃあ、スケジュールの遅れはあなたのせいですね!? こっちは下手糞な絵の後始末をさせられているんですからね」
「おいおい……」
どうやら早苗は苛々しているようだ。こういうのには近づかないほうが身のためである。
咲夜はレミリアに作業場の案内をしている。
「ここは色を塗る仕事です」
「ほぉう」
「あっ、霊夢を塗っているわ」
「霊夢ってどんな色だったけ?」
「なんか呼んだ?」
「そこにいるわ。テキトーに塗ればいいのよ」
「ダメよ。決められた色の通りに塗らないと」
ダメだこりゃ。
「ここは背景を描く所です」
「ふーん」
「うん。美術ボードにも負けないできねぇ」
「ムスティア。絵の具が足りないわ」
「大丈夫。あるよ~♪」
「ケチャップとマヨネーズでしょ……それ」
「う~む、背景って美味しそうね」
「ああっ、お嬢様食べちゃダメですよ」
ここもダメそうだ。
「文様。カメラ準備オッケーです」
「ええ」
文はそう言うと背景が描かれた絵の上にフィルムを重ねた。
「ほらっ。これで一つの絵になります。そして……」
「どきなさいっ! 私がやるわ」
レミリアが文を押しのけてカメラのスイッチを押した。
「ふふふふ」
「……そして、次のセルに置き換えるっと」
「えいっ!」
レミリアがまたスイッチを押した。
「ああっ!? NGですよ」
「私の手が映されちゃいましたよ。もうっ! 邪魔するならどっか行っててください」
「ははは……ごめん、ごめん」
「ふふふふ。好きでやってる連中は給料が安くてすみますね」
「早くフィルムを繋げるわよ」
「あっ、それは編集といってここでやってるんですよ」
二人でその部屋に入ると早苗と永琳が作業をしていた。
「このカットの次は……こっちのカットですね」
「あら? 色がついてないけど?」
「アニメーターが遅れてるんです。ごめんなさい」
「ふふーん。連中ってそんなもんよ」
こうして作業は進んでいった……。
「スカーレット・デビルさんそろそろ完成ね?」
紅魔館のとある一室、そこには八雲紫が来ていた。
「それがまだよ」
「順調に遅れていますわ」
「放送を延ばしなさい」
「テレビ放送に穴を開けると違約金をいただくことになるけど?」
「ぐぬぬぬぬ。金なら払うわ」
「では九千九百億貫文いただくわ」
「「でで~ん!?」」
「そ、そんな金あるわけないでしょ!?」
「では約束通り放送を……」
「ぬぬぬぬ」
「な、なんですってー! あ、あさ、明後日の朝に放送!?」
「間に合うわけないでしょう」
「徹夜で働けばいいでしょう?」
「もう三日も徹夜してるのよ」
「アニメーターにも基本的人権はあるのよ!」
「黙りなさいっ! 我が社はあくまで独裁政権。悪の枢軸よおおおおおお!」
「さあ、きびきび働きなさい!」
「「「「「……」」」」」
まあ、当然間に合うわけもなく放送二十分前となった。
「スカーレット・デビルさん、初のアニメシリーズは完成したかしら?」
「も、もちろんよ」
「では、時間通り全世界に放送するわね」
「ふふふふふふ。傑作シリーズのスタートよおおおおお!」
どうする気だろうか、このお嬢様は?
「だああ。間に合わないわっ! ぶっつけ本番で声を入れるわよ」
「そ、そんな無茶ですよ」
「みんな自分の役を演じなさい!」
「失敗は許さないわよ」
「時間だぜっ」
「オープニングが完成したよ」
ミスティアが映写機にセットして画像が映し出し始める。
『~~~♪ ~~~♪』
「あっ、主役がレミリアになってる」
「ひでーぜ。勝手に変えやがったな」
「ふふふふふ」
「すり替え成功ね」
「コマーシャルフィルムよ」
「早くっ。オープニングが終わるわ」
「急げっ」
『この番組はボー○ー商事とごらんのスポンサーの提供でお送りします』
「ああっ、コマーシャルが始まっちゃいましたよ」
「早く~」
「できたわよっ!」
「コマーシャルが終わる。急いで」
「はいはい」
「あっ、それは違う。そっちはBロール、Aロールはこっちよ」
「どっちでも同じようなもんでしょ!?」
「それがそうはいかないのよ」
ぎりぎりで間に合ったらしい。画面に映像が映し出された。
「ふははははは。見なさいっ! 私よ!」
「お嬢様。声が放送されていますよ。……それにキャラがガッタガッタですね」
「絵が下手なのはキャラデザイナーのせいね」
「作画監督もひどかったですからね」
「みんな台本を」
「始まるぜ」
「ぶっつけ本番でアフレコとは……正気の沙汰ではないねぇ」
「にとりさん、そう言わずがんばりましょうよ」
『幼き訪問者』
「幼き訪問者? こういう題だったの?」
画面では霊夢が毛玉を操って人々を襲わせている。
『わぁぁ~~~。わーーー』
「あっ、私よっ」
「ひどいですよ。霊夢さんが悪役になってます」
「レミリアのやつ、全部作り直したんだ」
「ふふん。正義の味方はあくまでお嬢様よ」
『待てー。赤白の悪魔。霊夢めっ!』
「霊夢さん、こんな仕事やめましょう。あなた悪人にされてるんですよ」
「でもねー、せっかくだからねぇ」
「……」
画面では霊夢がレミリアに攻撃を仕掛けていた。
『わー、わー、わー、助けてなのね』
『レミリアお嬢様。お早うございます』
『咲夜。あなたも元気かしら?』
『お嬢様はいつもかっこいいですわ』
『あなたこそ立派よ』
『お嬢様こそさわやかで』
『あなたこそ美しいわ』
「なんですか、これ? こんなくだらないセリフに書き換えてっ」
「戦いの最中にこんな話だらだらするなんてひどいシナリオだぜ」
『お嬢様。あれは恐ろしい魔獣ですね』
『わははははは』
「見なさいっ。私達よ」
「し~っ。芝居をするのよ」
『あれ~~~~~』
『あれ? あえ?』
アリスとにとりは毛玉に飲み込まれた。
「……私達は何処に」
「行っちゃたんだろうか……」
『悪い悪魔、霊夢め。私がやっつけてやるわ』
『正義のお嬢様がくればもう解決ですね』
『おお、そうとも。私の力を見せてやるわ』
『それは、それは驚くべき力でしょうね。きっと勝ってくれますね』
『ふふふふ。私は常に正義の為に戦うのよ』
「ああ、もうっ。じれったいアニメだな」
「さっきから突っ立てばかりでしゃべってばっか」
「動かすのが大変だからおしゃべりして誤魔化してるんですよ」
「しかも動いてるのは口だけ」
「でもカメラワークはあるぜ」
「動いてるように見せかけてるだけだよ。これじゃ詐欺だ」
「こうゆうアニメは安く作れますね」
「時間も金もなかったんだから仕方ないでしょ!?」
『危ないお嬢様。ドットよけですよっ!』
「ひどいぜ。私の役を咲夜が……」
撮影は順調(?)かと思われたが……
「あらら? 絵に色がついてませんよ」
「背景の絵はどこ?」
「時間がなかったのよ」
「構わないわっ! 演技力でカバーするわよっ!」
「で、でも線だけじゃ声を合わせられませんよ」
「死んでも合わせるのが声優よっ!」
「ええいっ! こうなったら得意のアドリブで誤魔化しましょうっ!」
『ぬぬ。霊夢め罪のない人間をいじめるとは許せないわ』
『来てっ! グングニル!』
「……できのいい作画ね」
「グングニルを手に取る場面のアドリブできなきゃだめでしょう」
「うるさいわよ、咲夜」
『霊夢、覚悟ー』
すると意味不明の絵が現れた。
「こ、これは何?」
「あまりにも下手すぎますね」
「毛玉が描いた絵だ」
「「毛玉!?」」
「ああ~、もうダメ……」
「こんなアニメじゃ商売にならないわ」
「苦労が台無し……」
こうして幻想郷初のアニメ製作は終わった。……いろいろな意味で。
ちなみに視聴率は0.001%で、損失は九百億貫文だったらしい。
霊夢、魔理沙、萃香の前で早苗が描いた絵を見せている。
なかなかうまい絵だ。
「ふふ、見ていてください。これが動くんですから」
「「「動く?」」」
頭をひねる三人の前で早苗は紙をめくり始める。いわゆるパラパラ漫画というやつだ。
「「「おおっ!」」」
「すごいわね」
「動いた!」
「どうして? ねえ、早苗どうしてなの?」
「それはですね。目の性質のせいですよ」
早苗はまた紙をめくりだす。
「前の絵が頭の中に残っているので、少しずつ違った絵を描くと動いて見えるんです」
「「おおっ!」」
「それも外の世界の遊びかしら?」
「もう一回やって」
「はいはい」
また紙をめくる早苗。
それを遠くから双眼鏡で見る人影が二つ……レミリア・スカーレットと十六夜咲夜だ。
「すごいですね。これぞ映像世紀の夜明けですね」
「今週の悪巧みはこれで決まりね」
「「はっはっはっはっは」」
高らかに笑う二人。はたしてうまくいくのだろうか?
「本日はまたお急ぎのようね。なにかしら?」
あの後、紅魔館に戻った二人は八雲紫を呼び出していた。
「あなたに見せるものがあるわ」
「はあ?」
「咲夜、早くしなさい」
「あっ、はいはい」
咲夜が映写機のスイッチを押すとスクリーンに何かが映し出された。
「これはいったい?」
「ああん、もう! ピントが合ってないわよ、咲夜」
「あー、はいはい。ピンっと」
咲夜がピントを合わせると動いているレミリアの画像が綺麗に映し出された
……上手くはないが。
「ふふふふふ。私が動いてるわ。ふふふ……あっ!?」
喜んでいると画像が終わってしまった。
「もう終わり?」
「仕方ないですよ。これだけ描くのだって大変でしたので。こういう絵がたくさんあれば、もっといろんな動きを作ってアニメが作れるんです。お嬢様がヒーローのアニメを作ればたちまちお嬢様のカリスマっぷりが広がるでしょう」
「ふふふ」
「結構なお話だけど、お金は誰が?」
「もちろんあなたが払うに決まっているでしょう? そしてボー○ー商事ネットワークで全世界に放送よ」
「あらあら」
「お嬢様のカリスマっぷりは外の世界にまで広がりますわ」
「幻想郷初の人気アニメシリーズを製作するのよっ!」
「「あーはっはっはっはっはっは」」
翌日、博麗神社の境内に一つのたて看板が置いてあった。
その前に大勢の人妖が集まっている。
「アニメスタッフ募集?」
「アニメって平目や鮫や若布と違うのかな?」
「みすちー、何言ってるの? ドラマの一種よ」
「……ギャグなのに」
「ドラマってテレビで紅魔館の話ばかりやってるやつですよね? 師匠」
「バカくさくて見たことないわね」
「あれに似ているけどなんというか……」
「ドラマと違ってアニメは描いた絵が動くんです」
「アニメスタッフ、挑戦してみようかな」
「暇つぶしにはなるかもしれないわね」
意外と好評のようだ。ひょっとしたら上手くいくかも?
紅魔館はいつもと違い大勢で賑わっていた。
「えー、アニメ作りに参加したい者は格別に安いギャラで雇ってあげるわ」
「物語を創れるか、絵が描けるか、色が塗れるか、声の出演ができる者は諸人こぞるがいいわっ!」
レミリアと咲夜も上機嫌である。
「まさかこんなに集まるとは思いませんでしたね」
「そういう早苗も乗り気じゃないか」
「まあ、興味はありますからね」
「あのっ、受付がすんだ人は私についてきてください」
小悪魔に案内されて着いた場所はある一室だった。
「うふふふ。私がアニメを作る一番えらい人、プロデューサーよ」
「プロじーさんってプロのおじいさん?」
「チルノちゃんそれは違うよ」
「ぬ……」
「お金、自分で出したの?」
「ぐっ……」
「ぷっ。貰っただけ」
「咲夜っ! 余計なことは言わないでよしっ!」
レミリアは咲夜に掴みかかろうとすると、
「でも私達はどうしたらいいのかさっぱりわからないわ」
「むっ。そうね」
「ここに集まった連中がどれだけの能力があるかもわかりませんよ。お嬢様」
「ぬぬぬ。アニメは才能がなくてもできるという証拠に……監督は咲夜よっ!」
「えっ!? 私ですか?」
「早速、始めなさい!」
勢いよくそう叫んだレミリアだったが、部屋にいる誰一人動く者がいなかった。
「? どうしたのよ?」
「そうは言うけど……」
「何していいか、わからないわ」
「え゛……」
どうやら前途多難のようだ。そこに……早苗がおずおずと手を挙げた。
「まず企画会議を開きませんと」
「「企画会議? 早苗、何それ?」」
「企画っていうのはですね。誰に見せるのか、予算はどれくらいか、物語や主人公をどうするのか決めることですよ」
「ふんっ。それはもう決まっているわ。主人公は正義の味方『れみりあう~まん』よ」
「はい? なんですか、それ?」
「何だかこうなることはわかっていた気がするぜ」
「私じゃなくて『れみりあう~まん』よ」
そう言って、色々と装飾を施してある衣装を着ているレミリアの絵をみせる。
……上手くない、というか下手だ。
「そんな変なキャラ、ヒーローにはできませんね」
「へ、変ですって!? じゃあ、どうするのよ」
「そうですね、そこは主人公にふさわしい人物……霊夢さんなんてどうです? 本編でも主人公ですし」
「えっ? 私?」
「おおっ、そりゃいいぜ」
早苗は自分が描いた霊夢の絵を見せる。
「上手いっ。早苗さんはキャラデザイナーですね」
「あっ! いっそ皆をそのままアニメキャラにすればいいんじゃないか?」
「キャラがよくてもシナリオがないとだめですよ」
「シナリオ?」
「物語の台本のことですよ」
「早苗っ! そのシナリオはあなたが書きなさいっ! ぐへっ」
早苗に掴みかかろうとした咲夜だったが、レミリアに隅まで引っ張られていき、
「私をかっこよく描くためにあなたが書きなさい」
「後ですり替えればいいんですよ。早苗はアシスタントにすればいいです」
「ええっ!? 私がアシスタントですか!?」
隅でこそこそ話していたのを早苗に聞かれたらしい。
「アシスタントはお手伝いの役目。シナリオを明日までに書かないと極刑よっ!」
「ええ~~~~!?」
その夜、早苗は神奈子、諏訪子、魔理沙とともに博麗神社で一泊することになった。
「うーん、結構難しいですね。霊夢さんってよく考えてみればヒーローって柄じゃないですね」
「失礼ね」
「早苗、食べないの?」
「もうちょっと考えさせてください」
「ねえ、神奈子。アニメのシナリオってそんなに難しいのかな?」
「簡単だよ。主人公を戦わせればいいのさ」
「ええっ!?」
「ドラマはみんなそうさ。戦わせると、登場人物が戦っているのに誰もが興味を持つもんさ」
「喧嘩の見物が楽しいのと同じね」
「二人ともすごいですよ。真理を突いてます」
突いてないと思う。
「テーマは善と悪との戦いだね」
「悪い魔獣とヒーローの喧嘩だっ!」
「いいわね」
「はぁ。そんな有り触れた話じゃ……」
「いいじゃん」
「貸しなさい! 私が手伝うわ!」
翌朝、テーブルに隅をつくって寝ている神奈子にタオルケットをかけている諏訪子の姿が目撃された。
「っというわけで、霊夢さんは最初はやられてしまいますが、最後に悪を倒す! これでおしまい」
「「「「「おおっ」」」」」」
「なんか恥ずかしいわね」
「ぐぬぬ」
「まっ、これで我慢ですよ。お嬢様」
「でもヒーローは私がいいわ」
「後で作り直しておきますから」
大丈夫か? これ。
「じゃあ次はストーリーボードですね」
「「「「「ストーリーボード?」」」」」
「ええ。そうです」
早苗は絵が描かれた紙を並べていき、絵に沿って物語を説明していく。
「で、これでクライマックスです。こうして敵が攻めくる。その前に霊夢さんが立ちはだかる。そしてこうなるんです」
「なるほど。これで物語がよくわかるわね」
「でも絵を動かすアニメーターは大変ですよ」
「大丈夫よ、早苗。才能はないけど根気だけはある物好きはくさるほどいるから」
「うんうん」
「はぁ。大丈夫でしょうか……」
「では諸君。作業に取り掛かってちょうだいっ!」
「「「「「おーっ!」」」」」
ここではそれぞれがキャラ表をもとに絵を描いている。
「これがキャラ表といいまして……お嬢様のがこれですね」
「うんっ。この人数ならすぐに完成しそうね」
そう言いながらレミリアは絵を描いている人達の見回りを始める。
「んげっ!? ……こ、これは何!? 美鈴」
「あっ、お嬢様。これはお嬢様ですよ。そっくりでしょう?」
「むぎぎぎぎぎ。このっ、このっ、こんのおおおお!」
レミリアは意味不明なことを言いながら紙をビリビリにやぶり、それを踏みつけた。
「こいつは門番で絵は下手のようですね」
「はぁ。皆さん『れみりあう~まん』の絵がキャラ表にどれだけ似ているか見せてください」
「「「「「「「はーい」」」」」」」
元気よく返事をしてそれぞれが描いた絵をみせていく。
「これは私の自信作よ」
「これは何?」
「やっと描けたわ」
「これは生き物かしら?」
「これダメ?」
「ば、化け物よっ!」
「私のはどうかな?」
「こ、怖いわ……」
「これどう?」
「んあ゛!? どぅわははーーーー」
レミリアはちからつきた……。
「早苗。皆、才能0だぜ」
「思っていたより深刻ですね」
「早苗っ! なんとかしなさい!」
「監督はあなたでしょ!?」
「自分こそアシスタントでしょ!? 絵を全部直しなさい」
「さ、作画監督をやれって言うんですか!?」
作業は深夜まで及んでいた。
「早苗、まだ終わらないのか?」
「えっ? 慧音さん何やってるんですか?」
「制作を頼まれたのだよ」
「制作?」
「だらしないスタッフを急かして働かせる役目さ」
「じゃあ、スケジュールの遅れはあなたのせいですね!? こっちは下手糞な絵の後始末をさせられているんですからね」
「おいおい……」
どうやら早苗は苛々しているようだ。こういうのには近づかないほうが身のためである。
咲夜はレミリアに作業場の案内をしている。
「ここは色を塗る仕事です」
「ほぉう」
「あっ、霊夢を塗っているわ」
「霊夢ってどんな色だったけ?」
「なんか呼んだ?」
「そこにいるわ。テキトーに塗ればいいのよ」
「ダメよ。決められた色の通りに塗らないと」
ダメだこりゃ。
「ここは背景を描く所です」
「ふーん」
「うん。美術ボードにも負けないできねぇ」
「ムスティア。絵の具が足りないわ」
「大丈夫。あるよ~♪」
「ケチャップとマヨネーズでしょ……それ」
「う~む、背景って美味しそうね」
「ああっ、お嬢様食べちゃダメですよ」
ここもダメそうだ。
「文様。カメラ準備オッケーです」
「ええ」
文はそう言うと背景が描かれた絵の上にフィルムを重ねた。
「ほらっ。これで一つの絵になります。そして……」
「どきなさいっ! 私がやるわ」
レミリアが文を押しのけてカメラのスイッチを押した。
「ふふふふ」
「……そして、次のセルに置き換えるっと」
「えいっ!」
レミリアがまたスイッチを押した。
「ああっ!? NGですよ」
「私の手が映されちゃいましたよ。もうっ! 邪魔するならどっか行っててください」
「ははは……ごめん、ごめん」
「ふふふふ。好きでやってる連中は給料が安くてすみますね」
「早くフィルムを繋げるわよ」
「あっ、それは編集といってここでやってるんですよ」
二人でその部屋に入ると早苗と永琳が作業をしていた。
「このカットの次は……こっちのカットですね」
「あら? 色がついてないけど?」
「アニメーターが遅れてるんです。ごめんなさい」
「ふふーん。連中ってそんなもんよ」
こうして作業は進んでいった……。
「スカーレット・デビルさんそろそろ完成ね?」
紅魔館のとある一室、そこには八雲紫が来ていた。
「それがまだよ」
「順調に遅れていますわ」
「放送を延ばしなさい」
「テレビ放送に穴を開けると違約金をいただくことになるけど?」
「ぐぬぬぬぬ。金なら払うわ」
「では九千九百億貫文いただくわ」
「「でで~ん!?」」
「そ、そんな金あるわけないでしょ!?」
「では約束通り放送を……」
「ぬぬぬぬ」
「な、なんですってー! あ、あさ、明後日の朝に放送!?」
「間に合うわけないでしょう」
「徹夜で働けばいいでしょう?」
「もう三日も徹夜してるのよ」
「アニメーターにも基本的人権はあるのよ!」
「黙りなさいっ! 我が社はあくまで独裁政権。悪の枢軸よおおおおおお!」
「さあ、きびきび働きなさい!」
「「「「「……」」」」」
まあ、当然間に合うわけもなく放送二十分前となった。
「スカーレット・デビルさん、初のアニメシリーズは完成したかしら?」
「も、もちろんよ」
「では、時間通り全世界に放送するわね」
「ふふふふふふ。傑作シリーズのスタートよおおおおお!」
どうする気だろうか、このお嬢様は?
「だああ。間に合わないわっ! ぶっつけ本番で声を入れるわよ」
「そ、そんな無茶ですよ」
「みんな自分の役を演じなさい!」
「失敗は許さないわよ」
「時間だぜっ」
「オープニングが完成したよ」
ミスティアが映写機にセットして画像が映し出し始める。
『~~~♪ ~~~♪』
「あっ、主役がレミリアになってる」
「ひでーぜ。勝手に変えやがったな」
「ふふふふふ」
「すり替え成功ね」
「コマーシャルフィルムよ」
「早くっ。オープニングが終わるわ」
「急げっ」
『この番組はボー○ー商事とごらんのスポンサーの提供でお送りします』
「ああっ、コマーシャルが始まっちゃいましたよ」
「早く~」
「できたわよっ!」
「コマーシャルが終わる。急いで」
「はいはい」
「あっ、それは違う。そっちはBロール、Aロールはこっちよ」
「どっちでも同じようなもんでしょ!?」
「それがそうはいかないのよ」
ぎりぎりで間に合ったらしい。画面に映像が映し出された。
「ふははははは。見なさいっ! 私よ!」
「お嬢様。声が放送されていますよ。……それにキャラがガッタガッタですね」
「絵が下手なのはキャラデザイナーのせいね」
「作画監督もひどかったですからね」
「みんな台本を」
「始まるぜ」
「ぶっつけ本番でアフレコとは……正気の沙汰ではないねぇ」
「にとりさん、そう言わずがんばりましょうよ」
『幼き訪問者』
「幼き訪問者? こういう題だったの?」
画面では霊夢が毛玉を操って人々を襲わせている。
『わぁぁ~~~。わーーー』
「あっ、私よっ」
「ひどいですよ。霊夢さんが悪役になってます」
「レミリアのやつ、全部作り直したんだ」
「ふふん。正義の味方はあくまでお嬢様よ」
『待てー。赤白の悪魔。霊夢めっ!』
「霊夢さん、こんな仕事やめましょう。あなた悪人にされてるんですよ」
「でもねー、せっかくだからねぇ」
「……」
画面では霊夢がレミリアに攻撃を仕掛けていた。
『わー、わー、わー、助けてなのね』
『レミリアお嬢様。お早うございます』
『咲夜。あなたも元気かしら?』
『お嬢様はいつもかっこいいですわ』
『あなたこそ立派よ』
『お嬢様こそさわやかで』
『あなたこそ美しいわ』
「なんですか、これ? こんなくだらないセリフに書き換えてっ」
「戦いの最中にこんな話だらだらするなんてひどいシナリオだぜ」
『お嬢様。あれは恐ろしい魔獣ですね』
『わははははは』
「見なさいっ。私達よ」
「し~っ。芝居をするのよ」
『あれ~~~~~』
『あれ? あえ?』
アリスとにとりは毛玉に飲み込まれた。
「……私達は何処に」
「行っちゃたんだろうか……」
『悪い悪魔、霊夢め。私がやっつけてやるわ』
『正義のお嬢様がくればもう解決ですね』
『おお、そうとも。私の力を見せてやるわ』
『それは、それは驚くべき力でしょうね。きっと勝ってくれますね』
『ふふふふ。私は常に正義の為に戦うのよ』
「ああ、もうっ。じれったいアニメだな」
「さっきから突っ立てばかりでしゃべってばっか」
「動かすのが大変だからおしゃべりして誤魔化してるんですよ」
「しかも動いてるのは口だけ」
「でもカメラワークはあるぜ」
「動いてるように見せかけてるだけだよ。これじゃ詐欺だ」
「こうゆうアニメは安く作れますね」
「時間も金もなかったんだから仕方ないでしょ!?」
『危ないお嬢様。ドットよけですよっ!』
「ひどいぜ。私の役を咲夜が……」
撮影は順調(?)かと思われたが……
「あらら? 絵に色がついてませんよ」
「背景の絵はどこ?」
「時間がなかったのよ」
「構わないわっ! 演技力でカバーするわよっ!」
「で、でも線だけじゃ声を合わせられませんよ」
「死んでも合わせるのが声優よっ!」
「ええいっ! こうなったら得意のアドリブで誤魔化しましょうっ!」
『ぬぬ。霊夢め罪のない人間をいじめるとは許せないわ』
『来てっ! グングニル!』
「……できのいい作画ね」
「グングニルを手に取る場面のアドリブできなきゃだめでしょう」
「うるさいわよ、咲夜」
『霊夢、覚悟ー』
すると意味不明の絵が現れた。
「こ、これは何?」
「あまりにも下手すぎますね」
「毛玉が描いた絵だ」
「「毛玉!?」」
「ああ~、もうダメ……」
「こんなアニメじゃ商売にならないわ」
「苦労が台無し……」
こうして幻想郷初のアニメ製作は終わった。……いろいろな意味で。
ちなみに視聴率は0.001%で、損失は九百億貫文だったらしい。
キャラが子供向けで内容が大人向けのあのアニメですねw
>んあ゛!? どぅわははーーーー
>「「でで~ん!?」」
お嬢様がもろにDDDで吹いてしまったw
でも気づけなかったぜ…
わかりま(ry
カービィ懐かしす…
最近再放送みてるけどいまでもおもしろくてこまる
言われるまで気が付かなかったわ
いろいろとキャラが分担されたのすごいです。
幻想郷中に放送されるんですね、わかります。酷さも極めると芸術。