「それじゃ、またね、幽々子?」
「えぇ…おやすみなさい。紫」
日傘を差して八雲紫の姿は目の前に開かれた黒き隙間の中にと吸い込まれていく。
そんな紫を西行寺幽々子は、手を振って見送る。
「あ、丁度お帰りになられたのですか……折角お代わりのお茶をお持ちしたのに……」
魂魄妖夢は、おぼんに乗せてきたお茶を幽々子の前において、飲み干した湯呑み茶碗を片付ける。
「それにしても、あの人も飽きもせずよくいらっしゃいますね。他に会う方いらっしゃらないんですか?」
妖夢は、いつの間にか現れてはいつの間にか去っていく紫のことを思い出しながら、ため息混じりに言う。勿論、紫が幽々子に対して特別な感情を抱いているからということも踏まえてだが…。
妖夢としては、弱冠の嫉妬?…自分がかまってもらえないという気持ちもある。
幽々子は妖夢から受け取った湯呑みをとって、口につけながら、ふと寂しそうな表情を浮かべる。
「……知ってる?妖夢?紫の周りにはあまり人が集まらないの」
幽々子、紫を語る。
「え?」
妖夢は、突然何を言い出すのかと思って幽々子のほうを見る。
「博麗神社にいる巫女とは正反対でしょ?あの子は黙っていても、人が、彼女の元にと集まっていく。きっと、彼女にはそういう力があるのね」
妖夢の中の博麗神社の霊夢のイメージといえば、誰も来ない神社の掃除をしつつ、お賽銭箱を眺めながら、溜息をつき、神社に遊びに来る来訪者を面倒そうに追い払いながらも、結果的に騒動に巻き込まれていくという感じか。いや、たまにその騒動の中心になったりする。
それと比較し…八雲紫はどうだろうか?
彼女はいつも寝ている感じだ。
それか、たまにこうして幽々子様のもとにと姿を現したり。結界を見るために様々なところに彼女の式である八雲藍、その式である橙とともに幻想郷を回っているといったところか……。藍や橙も、基本的には彼女の式であるから傍にはいるが、他に誰かと絡んでいるかといわれれば、そういう相手はいないように感じる。
「……彼女自身が、あまりにも強力な妖怪であり、他に同種族を持たないからなのかしらね」
同じように強力な妖怪といえば、花を操る程度とかいいながら、恐るべき力を持つ風見幽香がそれにあたるか。だが、彼女は持ち前の腹黒さと、したたかさで、上手く人付き合いをこなしている。……こんなことを思っていると吹き飛ばされかねないが。
「確か、単一の種族でしたよね」
「…紫は、帰り際に凄く切ない顔を見せるときがあるのよ」
「え!?」
思わず声をあげてしまう妖夢。
それはただ、幽々子様と離れたくないだけじゃ…。そうであったとしても、あの幻想郷の1,2を争う強さと、何を考えているかわからない、常に強気である彼女が、そんな表情をするところなど想像できない。
「…私ね、紫は……寂しいんじゃないのかなって思うの。式をつけたのも、家族のように自分の式に八雲なんてつけたのも……、きっと、そう」
「……そうなんですかね?あんまり、想像できないですけど」
式をつけたのは、眠いとき、自分の仕事を他の人にやってもらうため…なんていう話も聞いたことがある。そういえば、たまに遊ぶことがある橙にも、そういう話は聞いたことが無かったな。
「……妖夢には、想像できないかもしれないけど……私と一緒にいるときは結構、べったりなんだから」
妖夢には、その言葉を聞いて、いろいろと想像が膨らむ。
八雲紫が、幽々子様に膝枕されている姿や、幽々子様に抱かれながら眠る姿……なんとうか、凄く凄く、日頃では決して見れない光景かつ、なんだかいけない香りがする。
思わず頬を赤く染めてしまう妖夢。
「紫は、あー見えて…繊細で、自分ひとりしかいない寂しさを埋めたくて仕方が無いんだと思うの。きっと……幻想郷の中で1番、純粋で優しいんじゃないかな」
この前の博麗神社の一件にて、天子をボロボロにした人が、優しいとはとても思えない妖夢。というよりも、月面に戦争をしかけようとしたりと…やっていることはかなり、鬼畜だったりする。
「私には、わかりかねますけど……。おそらく幽々子様のおっしゃる人物像の八雲紫であるのならば、きっと自分の本音を言うのは恥かしくて出来ないのでしょうね。もっとも信頼のおける幽々子様以外には……」
妖夢は、これ以上、幽々子様のノロケ?話を聞いていてもしょうがないと決めて、飲み終えた湯呑みを片付け、その場を後にする。
1人残された幽々子は、少し意地悪をしてしまったかなと思いながら、妖夢の後姿を見て微笑み、再び紫のことを思い浮かべる。
彼女は永遠と同じほどの時間を生きている中で、常に1人だったのかもしれない。
仲良くなったものは、永久とはいえない、紫にとっては僅かな時間で潰える命。
その度に、彼女は大切なものを失い続けていく。
そのたびに寂しさだけが彼女の心を締め付けて……。
それでもいいのだろう、それでも……悲しみを、辛さを感じてもいいから…。
誰かと一緒にいたい。
誰かと一緒に、同じときを歩みたい。
誰かと一緒に笑いたい……。
「私は、もう…その命は潰えているから……紫」
あなたの辛さ、寂しさをすべて受け入れよう。
あなたの、震える肩を、あなたの頬を伝う人に見せることのない涙も……
私が包み、私が拭こう。
あなたが、いつか迎えるであろう最期の時まで
いいえ……、その後も。
あなたの隣にいるから。
「……何もわかっていないって思っていたら大間違いなんだからね」
「……知ってるわ」
そっと、幽々子の肩を十字に包み込み、背中に当たる重みと温もり。
「「……」」
幽々子は、目を閉じて、彼女にある言葉を囁く。
それと同時に、背後で自分を抱きしめる者も、同じ言葉を囁いた。
ぎゅっと、後ろにいるものの回す手に力が篭る。
「…帰ったんじゃなかったの?」
「藍と橙がおでかけだったみたいだから……帰ってきちゃった」
「……もう少し、ゆっくりしていく?」
「妖夢が嫉妬する手前まで…ね」
「妖夢、お茶を新しく持って来て……」
話はいいですがそこらへんの誤字が痛いです。
ちゃんと推敲しましょう・・・ね?
なんか静かな雰囲気が漂っていて良いですね。
良いお話でした。
誤字かもしれない報告
>悲しみを、辛さを感じでもいいから…。
『感じてもいいから』ではないでしょうか?
特にゆゆさまとゆかりんの立ち位置、距離は
自分の中の理想に近くて
うわぁステキとキャッキャウフフしながら読んでました
ただね、もうちょっと起伏があってもいいと思うんだ・・・
ゆゆさまとゆかりんのなりそめって何だろう。
もう少しゆゆさま視点での語りがあった方がよかったかな?と思います。
ゆかゆゆ!!
普段はたおやかなオトナっぽい二人が、二人っきりのときはお互いに甘えているとか、すごくいいじゃないですか……!
もっと長く読みたかったなあ。
これでもう1作頼む
最高です。