Coolier - 新生・東方創想話

亡霊奇譚

2009/03/01 17:06:50
最終更新
サイズ
75.59KB
ページ数
1
閲覧数
2906
評価数
72/269
POINT
16760
Rate
12.43

分類タグ


 皎々と月の輝く静かな夜半のことでした。湖の外周をゆらゆらと頼りない足取りで進む者がおります。
その者は不可思議な造形の服を見事に着こなして、右手には分厚い紙袋を提げ、歩幅大きく進んでおりました。
やや癖のある頭髪は、銀糸のようにきらめきます。
風はやわらかでしたが、未だに冬はしつこく残り、彼は小さく背を丸めました。
袋の中には一升瓶、そしていくらかのおつまみが無造作に放り込まれています。
先日雨でも降ったのでしょうか、地面はしとどに濡れて、歩くたびにぴちゃぴちゃと音を立てました。

 はてさてと彼は大きく溜息を吐きます。どうやら酒盛りにふさわしい場所を探しているようなのですが、地面がこれではうかつに座ることすらできません。
どうしたものかと彼はその綺麗な髪を左手でがしがしと掻きむしりました。
もはや前も後ろも分かりません。湖には、深い深い、霧が立ちこめているのです。手を思い切り伸ばせば、その先端はきっと見えなくなってしまうことでしょう。
ですから、この湖を夜出歩くなどもってのほかなのです。悪戯好きな妖精たちはそろそろ眠ってしまう時間なのですが、それでもうっかり足を踏み外せば湖に落ちてしまうかもしれません。
彼がそんな危ない場所を酒盛りの地に選んだのにはもちろん然るべき理由がありました。ふと、おぼろな月影を肴にしてみたくなったのです。

 そのような欲求が彼の心の裡に沸き上がったのはついこの間のことでした。
しかしながら、雲一つ無い青空が続くか、もしくはざあざあ降りの大雨かという日がずっと続き、良いあんばいに月に薄いカーテンのかかる日が訪れないのです。
彼はどうしてもおぼろ月を楽しみたかったのです。そこで、霧の中に立ち入れば願いが叶うのではないかと思ったのですが、残念ながら事はそうそう上手くいかないものです。
月の穏やかな光は確かに幻想的な色合いをもってして彼のもとに届いてくるのですが、それを楽しむ余裕を持つことができないのではどうしようもありません。
袋を手に提げたまま、彼は右往左往してしまいます。ええい、構うものか。もうこのまま座り込んでしまえ。彼がそう捨て鉢になってしまうのも、ですからしようのないことなのでした。
どすん、とやや乱暴に袋を置いて、彼はまさにその素敵な衣を泥に汚そうとしておりました。そんな時です。

「もし」

 というか細い声と共に、しっとりとした手が彼の左肩にかかりました。
彼は博識な男です。右肩には良い霊が、左肩には悪霊が住むとの俗説も当然知っておりましたから、そのことに少しだけ気持ち悪さを覚えながらも、こんな夜に一体誰だろうかと思い、振り返りました。
霧の先から見えるのは、ぬっ、と突き出された腕だけでした。白く、細い腕でした。おそらく女性のそれでしょう。青年は尋ねます。

「こんな夜遅くにどうしたのです。人里へ至る道を失ってしまいましたか?」

 その丁寧な語り口に、霧の向こうでほっと溜息を吐くのが聞こえました。やはりこの腕の持ち主は人間なのだな、と彼は確信しました。
濃い霧の中でずっとさまよい歩いていたのでしょうから、その疲労と恐怖は推すまでもありませんでした。
この狭い狭い郷里に住む人々は、あまり泳ぐのには適していない重い服を着ています。湖に落ちればそれが絡まって溺れてしまうことでしょう。
そうでなくともこの時間帯、いつどこで妖怪が見ているか知れません。このごろは里の人間が取って喰われたなどという話はめっきり聞かなくなりましたが、それでもやはり妖怪は人を襲うもの。怖くないということがありましょうか。
霧の向こうのその人は、震える声で言いました。

「あなたは、人間なのでしょうか」

 いいえ、と彼は答えます。彼は人間ではありません。びくり、と腕が震えるのが分かりました。しかし、今更引っ込めるわけにもいきません。
刺激してはかえって危ないと思ったのでしょうか、先程よりも更におびえを含んだ声で、続けて問いが放たれます。

「それでは、あなた様は妖怪なのでしょうか」

 いいえ、と彼は答えます。彼は妖怪でもありません。

「僕は半分人間で、そして尚かつ半分妖怪なのです。ですから人間を襲うようなことはしませんよ。今日は酒盛りに来たのです」

 そう言うと、霧の向こうのその人は、たいそう安心した様子でした。彼の肩に乗せていた手がそろそろと引っ込んでいきました。

「さようでございますか。このぬかるみの酷い日に大変でございますね」

 全くその通りです、と彼は苦笑しました。酒を呑むのであれば一人が良かったのですが、愚痴を零すのであれば相手が居なくてははじまりません。

「おぼろ月というものを愛でてみたく思いまして、こうして住処から足を運んだのですが、なかなかどうしてうまくはいかないものです」

 ほんとうに、と霧の向こうの彼女はくすりと上品に笑いました。袖で口許を隠している艶姿がなんとはなしに心に浮かびます。
彼女の方へと一歩足を踏み出そうとした彼でしたが、まあまあお待ち下さいと慌てたように声がかかります。

「わたくしは顔にひどいひどい火傷を負ってしまったのです。見るに堪えぬ醜貌ですので、どうかこの霧を仮面とさせては頂けないでしょうか」

 そういうことであるのならば、と彼は慌てて後ろに下がりました。
しかし、地面は柔らかくなっておりましたので、思わず下げた踵がつるりと滑り、彼は受け身も取ることができずに背中から勢いよく倒れ込んでしまいました。
げほげほと空気がはき出されます。まったく、今日はどうやら厄日のようです。べっとりと泥の塗りたくられた背中を撫でて、彼はゆっくりと立ち上がりました。
霧の向こうのその人は、やはりくすくすと静かに笑みを零しました。

「あなた様はとてもお優しいのですね。そんなに慌てずともよろしいのですよ」

 お恥ずかしい限りです、と彼は首を軽く振りました。未だに尻のあたりがじんじんと痛みます。どこかすりむいてしまったのかも知れません。
服が破けてはいないか確かめてみたい気もするのですが、手がよごれてしまいそうでそれすらもかないそうにありません。
彼はもちろん女性の容貌を気にするような男ではありません。
ですから女性が顔に火傷を負っていようといまいとどうでも良かったのですが、女というものはそれを深く気にするのだと知人達から釘を刺されていたが故に一歩退いたのでした。

 彼のその行動は正解でした。

「ああ、それにしても今日はつきがないようです。道も判然としませんので、帰って自棄酒をあおる事すら出来そうにありません」

 おどけるようにそう言うと、女性はさも可笑しそうに笑いました。本当に、何もかもが楽しくて仕方がないという様子です。物腰はとても穏やかなのですが、少しだけそれは不気味でもありました。

「ほんとうに。こんな醜い火傷さえなければあなたとゆっくりお話してみたいのですけれども……」

 彼女はさも残念そうにそう言いました。先程の楽しげな様子とは打って変わって、やや淋しげです。青年はその感情の激しい変化にさらされながらも、少しも面食らうことなく答えました。

「近頃はそのような傷もきれいさっぱりと癒す腕の良い医者が居ると聞きます。薬師だそうですが、火傷の類も扱っているそうですよ」

 まあ、と女性は驚きの声を上げました。

「博識なのですね。私は寡聞にしてそのような方を存じ上げてはおりませんでした」

 ひゅうう、と風が吹きました。それにつられてどろりどろりと霧が蠢きます。時折女性の着物の端でも見えぬものかと彼は目をこらすのですが、濃い霧はそれを阻み続けておりました。
服がじっとりと重くなっていくのを彼は感じ取りました。霧によって腕も頬も髪もしとしとと濡れておりました。紙袋が破けはせぬかと、それだけが心配でなりませんでした。
なんとなく沈黙が降りてしまいます。話題が尽きてしまったのでしょう。しかし、両人共に霧の向こうに相手が居ることは伝わるのです。
雰囲気といいましょうか、気配といいましょうか、なんだかぞわぞわとしたものを彼は感じるのでした。
そうしているのも気まずく、また肌にまとわりつく不快な何かを払いたいと思い、実際に一度、強く袂を振るい、ぶん、と音を鳴らした後で彼は口を開きました。

「そういえば先程あなたは僕と語りたいと仰いましたが」

 そう前置きして彼は言います。

「実は僕はちょっとした古道具屋を営んでいるのです。怪我が癒えてからでも足を運んではみませんか」

 ぴん、と緊張のようなものが走ったのを彼は感じ取りましたが、しかしそれは一瞬のことで、気にとめるようなものではありませんでした。
女性は笑って答えます。

「ええ、是非とも。何というお店でしょうか」

「香霖堂」

 短く、彼はそう告げました。香霖堂。こうりんどう。口の中で転がすと何とも快い音です。霧の向こうの女性もそう思ったのでしょうか、口の中で幾度かその名を反芻しました。
何はともあれこれは立派な宣伝行為です。この青年はなかなか商人根性がすわっているようでした。

「こうりんどう、ですか。素敵ですね」

「その名に負けない店であることは確約しますよ」

 女性の褒め言葉に、ほんの少しだけ誇らしげに彼は返答しました。店の評価は自分の評価、嬉しくないはずがありません。
はてさて、霧は益々濃くなり、もはや雨霧と評しても良いほどに体を濡らしてゆきます。彼の肘先から、ぽたぽたと水滴が滴り落ちました。
その湿り気に負けたのか、びりり、という嫌な音が静寂を切り裂きます。彼の紙袋がついに破れてしまった音でした。
あっ、と彼が声をあげますが、おつまみと一升瓶は無惨にも地面に転げ落ちてしまいます。どうやらこのぬかるみのおかげで瓶は割れなかったようですが、霧のせいで足下は見えません。
げしげしと足で地面を蹴って瓶を探しますが、どうにもこうにも、一升瓶は見つかりません。彼の立っている位置は緩い勾配になっていましたから、女性の方に瓶が転がって行ってしまったのかも知れません。

「済みません。紙袋が破れてしまいまして。そちらに瓶が転がっていってはいませんか?」

 本当についていないな。彼はそう歯がみしました。女性からの返事はすぐに返ってきます。

「ええ、転がってきていますよ。今――」

 ごぼごぼごぼごぼごぼ!!

 大きな鍋に水を入れて沸かしたような、不気味な音が響き、女性の声がかき消えました。青年の背中がぞわりと粟立ちます。今の音は、一体なんだというのでしょう。
明らかに尋常のものではありません。人が起こしうる音ではありません。女性の声が、再び。

「あれ、おかしいな。済みません、今これを――」

 ごぼごぼごぼごぼごぼごぼ!! 

 明瞭に、泡が次から次へと沸いて出てくるような音。女性の声はやはりそれによって掻き消されてしまいます。
何かが変です。仮に相手が妖怪であったとしてもこの青年は半人半妖、襲われる心配はありません。ですから純粋な心配と共に彼は尋ねました。

「一体全体どうしてしまったのですか。ちょっと待っていて下さい。今、そちらへ行きますから」

「だ」

 ごぼごぼごぼごぼごぼごぼ!!

 最早女性の声は、たまに金切り声のようなものとして響いてくるだけです。溺れているにしては、あまりにも大きなその音。何かあるに違いがありません。
もしや自分ではなく、霧の向こうの彼女が妖怪に襲われているのでは? そう思い、彼は気が気ではありません。しかし、霧の向こうから断続的に聞こえるその声はどうやら彼がこちらに足を踏み出すのを頑なに拒もうとしているようなのです。
彼は強い調子で言いました。

「顔の火傷など心配要りませんよ。僕は生来そのような事は気にしたことがないのです」

 しかし、やはり返ってくるのは駄目だという遺志を含んだ声だけです。恐怖や苦痛よりも、焦りと混乱を多分に含んだ声でした。霧の向こうの彼女も、自分自身の身に何が起こったのか分からないのでしょう。
こうしてはおれぬ、そう思ったのでしょうか。彼は一歩、大きく足を踏み出そうとしました。が、しかし。足が動きません。右足が、全く動かないのです。

「く……っ!!」

 膂力は人より優れているはずであるのに、足はびくともしません。下を見るも、霧に阻まれ何も確認することはできません。
体がかあっ、と熱を持ちました。同時に汗が大量に噴き出してきます。肝がきゅっ、と絞り上げられ、吐き気が喉まであがってきました。混乱が、彼にも伝播したのでしょうか。
ごぼごぼという嫌な音はなおも霧を引き裂き続けます。進むことも出来ず、逃げ出すことさえかないません。異様な状況を前にして、彼は一切の行動が出来ず蜘蛛の巣にかかった蝶のように囚われておりました。
だ、だ、という女性の声が時折漏れますが、それはとても苦しげです。困難な呼吸の中から無理矢理ひりだしているような、そんな声です。
彼はひりひりとする喉を右手でおさえて、頭を冷やそうとしました。そうです、まずは何故自分が動けないのかが分からぬようではどうしようもありません。
膝を曲げ、彼はぐっと体を下げました。足下には何かがあり、自分の足を押さえつけているはずなのです。泡の音に沸き立つ恐怖をおさえ、彼は必死で顔を下げて、視線を動かして――





そこに、顔がありました。





 能面のようにのっぺりしたそれの左半分は、まるで焼きごてでも当てたかのよう。ひどく引きつって、唇はまるで笑んでいるかのように引きつっておりました。
顔色を窺い知ることは出来ません。何せ、あちこち皮膚がはげ落ちて、青やら紫やらの肉がのぞいているのです。暗く淀んだ視界のなかで、それはひどく現実的な圧倒感をもって彼に迫りました。
黒い頭髪はその殆どを欠落し、白石に苔を生やしたかのような汚らしい緑色の頭蓋を晒しておりました。申し分程度に落ちくぼんだ眼孔からは、白濁した目玉のようなものが辛うじて確認されます。
それが、じっと彼を見上げているのです。両の手は、ひし、と彼の足首を掴んでおりました。骨張った、いえ、骨の見えるひ弱な指で彼の足をきつく握りしめているのです。
目をこらせば、薄汚い衣に包まれた体が地面に投げ出されているのが分かります。泥だらけの地面に上半身を投げ出し、足を掴み、そして顔を上げてじっと彼の目を見つめるのです。それは紛れもなく、遺骸でした。
汚らしさから推すに、間違いなく、水死体でした。彼が思わずそれから目を逸らそうとしたその時、がば、と音がしました。顎が外れたようにして、口が開いたのです。
筋肉を引っ張りながら左右に揺れる口で、歯の欠落した口で、それは言いました。

「だ」

 彼の喉は干上がりました。人間ではありません。妖怪でもありません。何かもっとおぞましくて、何かもっと薄気味の悪いものが自分を見上げているのです。
腕が震え、足が笑いました。それに合わせるように、かの口がぶらんぶらんと左右に揺れるのです。時折顎が地面に触れて、ぴちゃぴちゃと音を立てました。
推すべきでした。霧の夜に声だけの女性との邂逅。これほど人口に膾炙した怪談が他にありましょうか。一体自分はどうなるのでしょう。全体彼女は何をするつもりなのでしょう。
彼は覚悟を決めました。運の全てを天に任せました。生き残る運命が自らにあるのであらば、天が彼を助けるでしょう。そして、その価値がないのであれば――。
彼はぶんぶんと首を振りました。そのような事は考えてはなりません。考えれば、それが実現してしまうかも知れないのですから。
ひい、ひい、と浅い呼吸を繰り返し、そしてかたかたと歯を鳴らし、彼は視線をそっと動かします。顔は、未だそこにありました。

 おかしいな、と。この時点で彼は違和感を覚えました。手はひしと足を掴んだまま、一向に動く気配がありません。顔はじっと自分を見上げるだけで、その今にも千切れそうな口でかみついてくることもまたないのです。
ただただこちらを見上げ、だ、だ、という単音を繰り返すだけなのです。この異形はほんとうに自分を害するつもりなのでしょうか。彼はその疑問に至ったのです。
そして、彼がその疑問に至ったのもまた、正解でした。彼がはじめ、女性に向けて一歩を踏み出さなかったのと同じように。

 泡の音を掻き消すような、強い強い南風が吹き荒びました。春の色彩を日に日に強めてゆくその湿り気とあたたかみを帯びた風は、どろりと淀んだ霧を駆逐してゆきます。
それでもなお白のカーテンは必死で彼の周りにはりつこうとするのですが、春の力はそれを許しはしませんでした。圧倒的な季節の力をもってして、汚らしい霧を追い散らしてゆくのです。
瞬く間に、顕界全てを覆っていたかのような霧は消し飛び、霧の湖と呼ばれるそこは、紅の館が見えるほどまでに明瞭さを取り戻したのです。

 その時にいたり、彼ははじめて事の真相を悟りました。丁度彼の立つ場所から一歩先。そこは、漆黒の闇でした。ゆらゆらと丸い月の形を写した湖という暗い闇でした。
もし踏み出していれば、どぼんと暗い暗いその深淵に引きずり込まれていたことでしょう。不気味な死骸は、その淵から上半身を乗り出して、彼の足を掴んでいるのでした。
その死骸は、今も尚彼を見上げ続けております。下半身は未だ冷たき水の中です。よもやと思い彼は視線を上向けました。その死骸のある場所からやや後方、水面の上に、爪先立った見知らぬ少女がそこには居りました。
年の功は十二、三。長く艶やかな黒く長い髪をしております。前髪は長く、恥ずかしそうに両の瞳を隠しておりました。桜色の唇に、純白の肌。そしてそれと同色の死に装束。
ああ、と青年は頷きました。人に仇せねばならぬ、生きているだけで害となる存在。性質は悪でなくとも存在自体が既に害でしかないというそれの名を、彼は知っておりました。

「なるほど。亡霊の方でしたか」

 なるほどなるほど一切納得と彼は手を叩きました。なんとまあ驚くべき遭遇であろうかと、彼は息を吐きました。未だ口の辺りに付着している泡を拭う女性――いえ、少女に彼は仏頂面をして言いました。

「ご心配なさらずに。亡霊が生者を死に引きずるのは道理というものです。あなたが私に静止の声をかけることができなかったのにはそういう然るべきわけがあったのですよ」

 やれやれ驚かされたものだなあ、と唸って、彼は自分の足首に未だ張り付いた死骸の指を丁寧に一本一本はがしてゆきました。口許は今やだらんと開かれたまま、ただの物体にかえっておりました。少女は目を白黒させました。
この男性は自分に対して怒鳴り声をあげてこないのです。いいえ、決して怒っていないわけではありません。泥まみれの指を引きはがしながら、厄日だ、だの、最悪だ、だのぶつくさぼやいてはいるのです。
しかし、何故でしょうか、彼は一向にその怒りの矛先を少女に向けようとはしないのでした。あまつさえぷんぷんと怒りながら、

「全く。これはもうお祓いでもしてもらった方が良いですかね?」

 などと少女に尋ねてくるのですから始末に負えません。困り果てた少女は尋ねました。

「怒っていらっしゃらないのですか?」

 ううん、と彼は顔を上げました。顔はやや紅潮し、誰がどう見ようが怒っているとしか言い様のない表情です。彼は一つ大きく溜息を吐いて言いました。
 
「怒っていますよ」

 そうしてまた指を引きはがす作業に移りながら言うのです。

「しかし、存在しているだけで文句を言われてもあなただってたまったものではないでしょう。それに、一応僕を止めようとしてはいたようですので、八つ当たろうにも文句が思いつきません」

 それにしても何て力だ、と呻きつつ、彼はようやく十本の指を引きはがし終え、人心地ついたように息を吐きました。
腰を上げ、立ち上がり、軽く服の汚れを払います。払ったところで手が汚れるだけではあるのですが。
少女はびくりと体を震わせました。よく見れば、青年の目は酷く鋭く、優しさというものが見て取れません。
それは彼が元来無愛想なことと、今不機嫌な事によっているのですが、無論この亡霊がそれを知るよしもありませんでした。

 沈黙が降りました。青年は一切の好意的表情を向けては来ませんし、少女はそんな彼が怖くて怖くて仕方がありませんでした。
霧が消し飛んだため、二人の間を覆い隠すものはもう何もありません。彼はしばし辺りを見渡したのですが、一升瓶の見つからぬ事を確認して、大きく息を吐きました。
ごぼごぼという音に紛れて、瓶は湖の底に沈んでいってしまったようでした。月見をしようとしただけで何でこんな目に遭わねばならんのだと彼は憤りました。
ぴりぴりとしたやり場のない敵愾心が辺りを満たします。少女はただただ申し訳なさそうに顔を伏せ、服の裾をきゅっ、と両手で握っているのでした。
そんな時でした。霧の湖に第三の登場人物が現れたのは。小さな体はびしりと彼を指さします。

「やいっ、霖之助! なに女の子をいじめてるのさ!」

 はて、と彼は顔を上げます。見上げた先には青を基調とした服を纏った幼い容貌の少女――いえ、妖精がおりました。少女はぽかんとしておりましたが、彼はやれやれと息を吐きました。

「なんだ、チルノか。こんな夜遅くに起きているものではないよ。それから僕は苛めなんてやっていない」

 急に彼の口調が砕けたものになったものですから、少女はきょとんとしてしまいました。紳士的な方かと思っていましたが、そうでもないようです。
どうやらこのチルノと呼ばれた妖精と、霖之助という青年は知り合いのようでした。勝ち気で少しだけ頭の弱そうな妖精と、切れ者で変人の商人の組み合わせはなんだか奇妙でした。
それよりなにより、妖精というものはたいてい群れているものです。たった一人でふらふらと出歩いている者など少女ははじめて目にしました。この妖精もまた、変わり者なのかもしれません。
その変わり者の妖精は変わり者の青年を指さしたまま、言いました。

「いーや。これはどう見たっていじめだね。その子泣きそうになってるよ」

 彼は視線をちらと少女に遣りました。かあ、と顔を紅潮させてますます少女は縮こまってしまいます。恥ずかしがり屋なのかも知れません。それを見て妖精は視線を厳しくします。
しかし彼にとっては良い迷惑です。いじめなんてやったつもりはありません。むしろ気に病むことはないと慰めてやったくらいなのですから。彼は言いました。

「恥ずかしがっているだけだろう。長く湖の底にいて、人見知りな亡霊になってしまったに違いない」

 腕を組み、彼はそう言いました。少女も彼を弁護しようと度々口を開こうとしたのですが、彼の語りの邪魔をしたらいけないと思って、結局言えず終いでした。
対する妖精は、へえ、ともの珍しそうに少女を見上げました。まるで好奇心のかたまりの様な少女でした。怒りはすぐに霧散して、くりくりとした丸い目でじっと少女を見上げました。

「あんた、亡霊なんだ」

 ふうん、と言った後で、気が付いたように妖精は視線を下にやりました。そこには下半身を水面に沈めたままの死骸がありました。
彼女はそれを見て、次に少女を見て、もう一度死骸を見てから、言いました。

「んじゃ、そこの土左衛門があんたの体だったんだね」

 遠慮もなにもない率直な言葉でした。無様な体を晒してしまったことが少女にはとても恥ずかしく、また、青年もそれを気遣ってあえてそのことに触れなかったのですが、妖精は気にとめることもありませんでした。
その無遠慮さがなんだかおかしくて、はじめて少女はくすりと笑みを零しました。

「その通り、そこに無様に転がっているのが私の遺骸でございます」

 かったい返事だなあ、と妖精は可笑しそうに笑いました。かたいと言われましても少女にとってはこれが当然のものでありましたので、困ってしまいます。
返事を貰ったら貰ったで、新しい疑問がわいてきてしまう性質なのでしょうか、妖精はまた少女に訊きました。

「亡霊っていうのは死体を見たら成仏するって聞いたんだけど」

 それに対しては、チルノ、と短く青年が注意しました。

「確かに過去にそのような事を教えていたかも知れないけど、よく思い出してみると良い。
亡霊が成仏できない理由は、死に気づいていないか、若しくは顕界に未練があるかの二点と僕は言ったはずだよ」

「んー。そうだっけ?」

「そうだよ」

「ふうん」

 まるで親子か兄妹であるかのようなそんな遣り取りに、少女はほほえましさを感じました。見ていて、とてもあたたかいのです。いいなあ、と素直にそう思いました。
両手をやや過剰に動かして説明する長身の男性に、真剣な顔をしてこくこくと頷く妖精。誰であっても、そんな姿を見れば思わず微笑みを零してしまうことでしょう。
んじゃさ、と妖精はやっぱり無垢な表情で少女を見上げます。

「あんたにも未練ってのがあるんだねえ」

 未練ですか、と少女はきょとんとしました。確かに言われてみればその通りでした。亡霊というものについてはよく分かりませんでしたが、自分が成仏できていないことは少女が一番よく理解できていました。
ですが、何故自分が成仏できないのかということについては、少女は皆目理解できてはいないのでありました。どうしていまだにこうしてここにふわふわと浮いているのでしょう。この少女には、この世に対する未練など微塵も無いのでした。
ですから少女は問いました。

「未練が無ければ亡霊にはなることはできぬのでありましょうか」

 はてさてと、青年は難しい顔をしています。つい先程までひやりとする遣り取りがあり、その前にはただの和やかな会話があっただけなのですが、いつの間にやら成仏談義。なんだかおかしなことだなあ、と少女は思いました。

「そうだね。単純に考えるのならば、君がこの湖に縛り付けられていると捉えるのが妥当なんだが。今日の慌てようを見る限り、湖上に来たのは今日が初めてなんだろう?」

 気が付いているのかいないのか、彼は少女に対してもざっくばらんな調子で語りかけてくるのでした。それは別段不快ではありませんでしたので、少女は注意することをしませんでした。
相変わらず彼の視線は怖くて目を合わせることは出来ませんが、妖精が近くにいるのでなんとか勇気を出して会話をすることが出来ました。

「はい。今までずっと石を足に括り付けて湖底におりましたが、その足首が千切れてしまいましたもので……。慌てて遺骸を追って上ってきたのです」

 では湖ではなく体に縛られていたのか、と彼は死骸を見やりました。そして、優しくその両手を持つと、陸に引き上げてやりました。下半身は残っておりましたが、少女の言うとおり、足首から下は残っておりませんでした。
はじめて全てが露わになった死骸を見て、それをよくよく観察して、彼は思わず目をそらしました。

「……むごいなあ」

 そんな言葉が口をついて出てきました。少女はぺこりと頭を下げました。

「見苦しいものをお見せしてしまい、お詫びのしようもございません……」

 いいや、と彼は口をおおい、じっとその水死体を見つめておりました。妖精も同じようにしておりましたが、青年のように表情を苦いものにすることはありませんでした。
一体全体何年前のものなのでしょうか、この遺体は。腐りきっていないことを考慮すれば、一年と経っていないはずなのですが、どうにも数十年、もしくは数百年もの昔のそれであるように、青年には思われてなりませんでした。
腐乱臭はありませんでした。青年は難しい顔をして押し黙っておりましたが、やがてぽつりと問いました。

「本当に、この世に未練は」

「ございません」

「それじゃあ、生きている間の事を思い出すことは?」

「……」

 最初の問いには迷い無く答えることが出来た少女でしたが、しかし二つ目の問いに対しては難しい顔をして黙り込んでしまいました。
そういえば、どうして自分は死んでしまったのでしょうか。思い出せません。状況からして、自殺であることは間違いないのですが。
不思議なことです。生前のこととなるとまるで濃い霧のようなものがかかったようになり、思い出すことが出来ないのです。

「困ったもんだねえ。それじゃ、何が未練なのかも分からないって事じゃない」

「そうだね。それではろくに成仏も出来やしない」

「出来ないのですか」

「出来ないね」

 ところで、と青年は話を打ち切り、なんでもないような風を装って、尋ねました。

「君は入水の際、何か持ってはいなかったかな?」

 はあ、と少女はあいまいに息を吐きました。そう言って、彼女は服をごそごそと探ります。何か、固い物に手が触れました。

















 青年――つまり森近霖之助は掌で玉を転がしながら奥の間を歩き回っておりました。
対する妖精、チルノとそして件の亡霊少女はぽつねんとちゃぶ台を囲んで座り込んだままです。
敷かれたござの上には新たに小綺麗な衣を纏った遺骸がそっと寝かせてありました。霖之助曰く、死者は丁重に扱うべきだとのことです。

「ねー、霖之助ー」

「これは僕が貰った」

「あたいが言いたいのはそういうんじゃなくて」

「僕の物だ」

「構いませんけれども……」

 彼が持っているのはたいそう立派な玉でした。白色の中に淡い緑が混ざった色彩が実に美しいのです。一介の少女が持ち歩くことの出来るものとも思えません。
霖之助はあちらこちらを行ったり来たりしながら言うのです。

「これは翡翠だね。それも羊脂玉と呼ばれる高質のものだ。普通、最高の翡翠といえばロウカンを指すのだけれど、前者の名前は知らないかな?
後者はとても純粋で深い緑色をしているのに対し、前者は名の通り白濁しているのが特徴だね。
閑話休題。話が飛ぶのは僕の癖だ。許してやって欲しい。翡翠というのは昔から不老不死、そして復活を意味する石として王の墓にはよく副葬されていたんだ。
君の元々の体が多少の腐敗はあれどある程度の形を保ち続けたのもそういうこの玉の力だろう。妙な呪いとかの力では決してないようだよ」
 
 そうでございましたか、と少女はたいそうほっとしたように息を吐きました。しかし、顔は相変わらず伏せたままです。
霖之助はとてとてとちゃぶ台の方へ歩いてくるや否や、そこへどすんと腰を下ろします。考え事は終わったようでした。

「さて、推測でしかないけれど、たぶん君の未練とこの石は何の関係もないと思う。偶然君が持っていただけだろうね。
もしこの石が何か未練に関係するのなら、君はもっと執着するはずだ」

 少女は一体自分が何者であるのかも分からぬ状況にありましたので、この男の言うなりになるしかないのでありました。
そもそも物に執着はありませんでしたので、ただ一つの高価な持ち物もとりあえず欲しがる彼にあげることにしたのです。
言葉を遮られてからずっと黙っていたのですが、我慢しかねたのかチルノは言いました。

「でも、この子がどーいう未練を持ってて、そんで何で今も亡霊になってるのかっていうのはおぼろげに分かったって言ってたよね」

 ああ、と霖之助もそれに対しては頷きました。

「未練が分かったというか……うん、未練は分からないのだけれどね。解決策は分かっているつもりだよ。だからこうしてチルノと君には香霖堂の奥の間に来て貰った」

 霖之助の言葉はどこか謎めいていて、核心に触れることがありませんでした。彼自身、それを忌避しているようにも思われます。チルノにはそれが焦れったくてしょうがありません。

「そんじゃさっさと解決してあげようよ、ぐずだなあ!」

 そうは言ってもね、と彼の表情はやや難しいのです。こつこつとちゃぶ台を人差し指で叩きながら、言います。

「事の解決には君たち二人の協力が必要不可欠なんだよ」

 そんなのは良いから、とチルノは急かします。そもそも助けるつもりがないのならチルノはここに来ませんし、助かるつもりがないのなら、少女もここに来やしません。
霖之助はそれが分からぬほど愚かな男ではないのですが、しかしそれでもなおやはりためらってしまう部分もまたあるのです。ううむ、と彼は唸ります。
実行に移すのは難しいことではないのです。しかし、大の大人が、それも男が言い出すのはとてもとても恥ずかしいことなのでした。
しばし、うー、あー、と唸り続けていたのですが、やがて霖之助は意を決したのか口を開きました。

「飯事をしよう」

 言って、彼は後悔しました。両手で顔を覆ってちゃぶ台に伏せました。ごんっ、と音がします。何が飯事だ、幼女二人を囲って大の大人がそれでは犯罪ではないか、と。自分をどやしつける閻魔様の姿が思い描かれます。
恥ずかしいことこの上ありません。このまま消えて無くなりたいとさえ彼は思いました。言わなければ良かった、と。
そうしておそるおそる二人の少女の様子をうかがってみると――

「じゃ、あたいおとーさん!」

「ええと、それでは私はお母さん――」

「だめっ! あんたはよわっちいから子供!」

「じゃあお母さんがいなくなってしまいますが」

「いいじゃん、お母さん無しで!」

 なにやら話が進んでいるようでありました。齢十二にもなって飯事はどうなんだと霖之助は思いましたが、もしかしたらこの亡霊少女は実際もっと幼いのかも知れないと思い直しました。
それに――この子がそれを望まぬはずがないのですから、心配だったのはむしろチルノです。この子は平気で酒だって呑むものですから馬鹿にして大笑いせぬかと思ったのです。
しかし、そこはそこ。遊びの専門家はちょっとやそっとのことでは動じたりはしないのでした。

「霖之助! あたいがおとーさんだからな! 言うこと聞けよ!」

「やれやれ」

 息を吐く霖之助に、少女がおずおずと顔を上げ、

「では、私はお姉さんで――」

「ふざけてはいけない。僕が兄だ」

 どうやら真剣な霖之助を見て、それが可笑しくて少しだけまた笑みを零しました。思えばそれが、霖之助の姿を見てはじめての、彼女の彼に対する笑みなのでした。




















 さて、霖之助が何を考えているのかは判然とせぬまま、飯事が始まりました。飯事といえば普通はごっこ遊びなのですが、彼は妥協するつもりがないようです。
ちゃぶ台には、ボウルやら砂糖やら、菓子作りの道具が揃えてあるようでした。ごくり、と二人の喉が動くの満足そうに見やり、霖之助は言いました。

「カルメ焼きを作ろうと思う」

 おおっ、とチルノは嬉しそうに声を上げましたが、少女ははてなと小首を傾げました。子供ならば誰でも知っている菓子だと彼もチルノも思っていましたので、その反応には少しだけ驚いたようです。

「ん……あんたカルメ焼き知らないの?」

 チルノが不思議そうに尋ねると、少女はか細い声で、はい、と答えるとやはり俯きました。そんな内罰的とも取ることの出来そうな態度に、チルノはいいよいいよと笑って手をぱたぱた振りました。

「知らないってんなら教えてやればいいだけだし、そんな気にしなくても良いってば。あたいだって困ったらすぐ霖之助に聞いてるしさ。ということで息子よ。娘に分かりやすーく説明してやりなさい」

「駄菓子だよ」

 これ以上ないほどに分かりやすい説明でした。チルノは満足そうに頷き、霖之助も腕を組んでうんうんと頷きました。深いことは気にしない二人であるようです。
いえ、霖之助は興味のあることに関しては非常に深入りする人なのですが、それ以外となると非常に鈍重なのでありました。少女は眉をハの字にして言いました。

「済みません……。もう少しばかり、詳しく説明しては頂けないでしょうか?」

 ふうむ、と霖之助は息を吐きます。詳しく、と言われてしまえば仕方がありません。彼はきらりと眼鏡を光らせます。

「カルメ焼き――若しくはカラメル焼きともいうが、これは変わり種の飴のような食べ物かな。ポルトガルという海の向こうの国の『甘い物』を意味する語が名の由来だ」

 なるほど、と少女は感心しました。まさかここまで物知りな青年だとは思わなかったのです。しかし、少女の感心はすぐに呆れに変わります。そう、彼の語りは今の説明で終わりではなかったのです。

「さて、飴の一種と言ったがこれは飴とは似ても似つかぬ食べ物だ。原材料が砂糖で、それを熱して作る点ではやはり飴なのだろうがね。
ともかく。これと他の飴との差異を顕著にしているのが――飴を発泡させるという斬新な考えだ」

「息子ー」

「うるさいな。僕は今この子に説明しているんだ。黙っていてくれ」

 チルノの言葉をぴしゃりと言い切って霖之助は言葉を紡ぎます。説明してくれ、なんて言われて黙っていられる彼ではありません。徹底的に語り尽くすつもりのようでした。
ちゃぶ台の上に置いてある卵白、そして重曹を手にとって説明を続けます。

「この発泡方法なんだが、重曹というのは何でも外の世界では『炭酸水素ナトリウム』と呼ばれる物質らしい。
こいつは面白い特性を持っていて、熱を受けると気泡を生ずるんだ。
それを利用して、熱を加える過程で重曹を加えれば、飴が泡立ってぼこぼこ膨らむ。
そうしてぷっくりと膨らんだところで一気に熱を冷まし、その形で固定させるんだ。そうするとさくさくとして美味しいカルメ焼きが出来上がる」
 
 だがね、と彼は続ける。

「カルメ焼きはタイミングが非常に厳しい菓子である事でも有名なんだ。膨らんですぐ冷やさねば、萎んでしまう。
萎んでしまえばもう後はかぴかぴして美味しくも何ともない失敗作が残るばかりだ。
あとはがさつなのもいけないね。この卵白と重曹をしっかり混ぜ合わせないと飴が上手く膨らまない」

 だから、と彼は右手でばんっ、とちゃぶ台を叩きました。人の注意を向けるのが上手いのは流石商人といったところでしょうか。

「カルメ焼きは心して作らねばならない。そうそう上手く作れるものじゃないことを、覚悟しておくんだね」

 少女はごくりと唾を呑みました。怖がらせてどうする、とチルノはまた怒ったのですが、霖之助は何処吹く風です。
さて、そのように話ばかりを続けていても、埒があきません。霖之助はおもむろに卵を取り出すと、それを器用に割って、卵白だけをボウルに流し込みます。
さらにその卵白を二つの容器に少しずつ分けて流し、そこに重曹をひとつまみ。それぞれの容器に割り箸を突き刺してから彼は二人にそれを渡します。

「これをよおく混ぜておいてくれ。先程も言ったように、ここでの混ぜ込み具合が成功の鍵を握るんだ。
飴の粘性を高めることで、発生した空気の発散を防ぐのが卵白を混ぜ込む目的だからね。
しっかりやらないと飴が膨らんでくれない」

「息子、それさっきも言ったぞ」

 チルノの言葉に、むう、と霖之助はしかめっ面をしました。彼がここまで慎重になるのは、もしかすると失敗の経験があるからなのかも知れません。
しかし、何度も何度も同じ事を繰り返し言われては参ってしまうというものです。二人は彼の言葉の通り、しっかりと両者を混ぜ合わせはじめました。
さて、その間霖之助は外の世界からやってきた古くさい道具の一つ、アルコールランプに目を遣ります。
基本的に料理に使えるような代物ではないのですが、今回に限ってはこの道具で十分だろうと彼は判じたのでした。
アルコールランプは計二つ。近頃頻繁に転がっているのを見かけます。もしかしたら、外の世界ではこの道具はあまり使われていないのかも知れません。
新しい道具に取って代わられてしまいつつあるのでしょうか。こんなにも便利だというのに。
彼がその角がなく、小さく、ともすれば可愛らしい道具に見入っている間に、二人は混ぜ合わせの作業を終えたようでした。
じっとこちらを見る視線に気が付いて、おっと、と霖之助は顔を上げました。なにやら難しい考察でもはじめていたのかも知れません。
彼は二人の容器をのぞき込んで、うむ、と小さく頷きました。

「上手く混ざっているようだね。ただ、今回の場合においてはそんなにたくさん使う必要はないけど……いや、砂糖は有り余っているし、幾つか作るのも一興かな」

 そんな事をぶつくさ言いながら、彼は砂糖を別のボウルに放り込み、そこに水を入れました。更に二人には底のやや深いお玉を二つ手渡します。

「これは……?」

 小首を傾げる彼女に、霖之助は言います。

「子供が食べる分ならお玉で作るのが簡単で良いと思ってね。お玉に砂糖を盛ってから、そこのアルコールランプで熱してくれればいいよ」

 そう言いながら、彼はランプの蓋を外して芯に火を付けました。ぽう、と小さな明かりが点ります。
風が無いのでそれはほとんど揺れることなく、時折ちょっとだけ震えるばかりでした。
少女とチルノはそれを興味深げに見つめていたのですが、やがてお玉に砂糖を盛ると、その底を火の方へ遣りました。
砂糖は段々とろとろになっていきます。チルノは尋ねました。

「ねー霖之助。これってべっこう飴の時と同じくらいの間火にかければいいの?」

 その問いに、彼はいいや、と首を振りました。背中を二人に向け、彼は何やらいそいそと作業をしているようでした。

「そんなに熱してはいけないよ。ただ、熱しすぎないのも良くないからねえ。まあ、飴が完全に黄金色になるまえに火からあげてしまえばいい。
恐ろしいことに、砂糖というのはある程度温度が上がると、それからの上昇速度が格段に上がるんだ。だから、ちゃんと注視しておくことだね」

 霖之助はまるで知識の箱か何かのようにぺらぺらと喋ります。これで愛想が良ければ父親業が成り立ちそうなものですが、今のように無愛想に背中を向けられていては、少々愛着がわきにくいものです。
確かに付き合いづらい兄のような人だなあ、とそう思いました。しばらく二人はじっとお玉を見つめていたのですが、思い出したように霖之助が付け加えます。

「ああ。そういえば火から下ろした後重曹を突っ込むんだが……。かなり少量で良いことを覚えておいてくれ。豆粒より小さいくらいの塊でいい。突っ込んだらぐるぐるかき混ぜて、引っこ抜く。運が良ければカルメ焼きのできあがりだ」

 運が良ければ、とわざわざ付け加えることにこの菓子作りの難しさが感じられます。基本的に駄菓子作りは難度が低いものばかりなのですが、これだけは運任せにならざるを得ないようです。
二人は割り箸にちょっとだけ先程混ぜた重曹を取って待機しておきます。じいっと注視していると、砂糖の様子が段々変わってきました。

「あの、ええと……」

 少女がぱくぱくと口を開き、霖之助を呼びたげな様子なのですが、そんな煮え切らない態度で振り返ってくれる彼ではありません。無遠慮な少女達に囲まれて暮らしてきた彼ですから、少しばかり鈍くなっているのでしょう。
しばらくそうやってぱくぱくしていたのですが、意を決したのか、彼女は口を開きました。

「兄上様」

 がっくり、と霖之助は肩を落としました。かしゃん、という音もしました。どうやら眼鏡までずり落ちてしまったようです。物凄いやぶにらみの形相で彼は振り返りました。

「わざわざそこまで役にはまりこむ必要は――」

 そこまで言って、霖之助はううむ、と顎に手をやります。

「――いや、あるか」

 その訳の分からない態度に、少女はくすりと笑みを零しました。やはり怖いですが面白い人のようです。彼は眼鏡を拾ってから少女に視線をやります。しかし、兄上様とはまた珍奇な呼称だなあと彼は失笑を禁じえませんでした。
目つきは少しばかり柔らかなものになっていました。どうやら先程の鋭い視線は視界がぼやけたがためのようです。
妖怪だというのに低視力であるということに少女は少しばかり不思議な気持ちになりました。
どんなことにつけても人間より優れている生き物、それが妖怪だと思っていたのですが……。そもそも、彼は本当に目が悪いのでしょうか。本当はおしゃれで眼鏡をかけているだけなのではないのでしょうか。真相は、彼のみが知っているようでした。

「で、どうしたんだい?」

 尋ねる彼に、少女ははっとして視線をお玉にやります。先程までぼこぼこ泡立っていたそれはいつの間にかうっすらと黄色味がかっておりました。霖之助が言った、下ろすタイミングがまさにこの時でした。危機一髪、少女はお玉をランプから退けます。
おそらく泡が激しく出たことに驚いて質問しようとしたのだろうと見当を付けた霖之助は、少女の言葉を待たず、次の指示を出しました。

「そのまま泡が小さくなるまで放置しておいて、それから重曹を突っ込んでくれ」

 彼はむむむむ、と唸り声を上げたりしながらそう説明しました。両手に何やら道具を持っている所をみると、やはり何かを作っているようです。
それが二人には気になりましたが、今は何と言ってもカルメ焼きです。霖之助が難しい難しいと力説するものですから、失敗するのではと、怖くて怖くて仕方がありません。
やがて泡が小さくなってきました。チルノと少女の二人はじいっとお玉を見つめます。重曹を突っ込んでよいものかどうか、ここが悩みどころです。
何もせず待っていれば砂糖は固まってしまうでしょうし、かといって今すぐ突っ込んで成功するかどうか……。二人はしばし困ったようにそれを見つめていたのですが、

「ええいっ、もう突っ込め!」

 やけを起こしたのでしょうか、チルノが重曹をこすりつけた割り箸をお玉に突っ込んだので、少女も慌ててそれに倣いました。
しかし、突っ込むだけではいけません。チルノは一瞬それを忘れていたのですが、少女がごりごりと箸でお玉をかき混ぜはじめたのを見て、慌てて混ぜはじめます。
ぐるぐる、ぐるぐる。なんの変化も無いように思われますがしかし、二人は混ぜ続けました。変化がありません。これはよもや失敗したのではあるまいか――いえ、どうやら違うようです。
二人のお玉の中の液体が、もこり、と蠢いたのです。それからの変化は急激でした。もこもこもこもこと入道雲でも立ち上るかのように飴が膨らみだしたのです。
いえ、飴というよりもむしろさくさくとした菓子パンのような形状に変化していきます。

「すごい……!」

「わあっ!」

 霖之助はちら、と後ろを振り返り、目をまん丸にしている二人を見て、満足そうに頷きました。人を驚かせるのが好きな男であるようです。
カルメ焼きが膨らみはじめたときの感動というのはひとしおですから、彼も良かった良かったと胸をなで下ろします。
しかし、安心するのはまだ早いのです。折角膨らんだそれが萎んでしまっては意味がありません。霖之助は作業に戻ることなく、じっと二人のお玉を見つめていました。
そうして、ある程度まで膨らんだときに、

「割り箸を抜いてくれ」

 と少し強い調子で言いました。その言葉を受け、二人ともまるで反射行動のように箸をお玉から引っこ抜きました。霖之助はじっと両方のお玉を見つめます。
心配するといけないので彼は言わなかったのですが、この時に最も失敗が生じやすいのです。折角膨らんで、それからしわしわと萎んでいくのは見ていて忍びありません。
さて、お玉の中のそれは同じ形を保ったまま――幸いにして、しぼむことはありませんでした。未だ緊張した面持ちの二人に対して、霖之助は言います。

「成功だよ。おめでとう」

 ふたりはきょとんとします。やがて、顔を見合わせて、ことんとお玉を置いて、少女と妖精はじいっと見つめ合っておりました。そして、一拍。

「やったぁーっ!!」

「やったあ」

 チルノはがばっ、と少女に飛びつきました。顔に満面の笑みを浮かべて、嬉しそうなことこの上ありません。夜中だっていうのに元気だなあ、と霖之助はぐしぐしと目元をこすりました。
少女の方も声こそ消極的でしたが、顔を染め、とても嬉しそうにしておりました。こういった経験は初めてのことなのでしょうか、自身のおたまにちょこんと乗っているカルメ焼きを感慨深げに見つめています。
霖之助は、ふうっ、と息を吐いてから、少しばかりの笑みを浮かべました。

「あとは数分間冷やしてから食べるだけなんだが……たぶんお玉に張り付いてしまっているだろうからね、またランプでちょっとだけ熱すれば簡単にはがせるよ」

 どうやら、有頂天にいるふたりにはそんな陰気な声は聞こえないようでした。霖之助はやれやれと息を吐きましたが、その顔にはたいそう満足げでありました。

















 僅か数十分のうちに、カルメ焼きはいくつも出来上がっておりました。そんなに作ってどうするのだと霖之助は呆れたものですが、どうせ金のかかる菓子ではありません。いくらでも作ってもらって結構なのです。
二人ともお菓子作りには満足したのか、それでもやはりにこにことしながらアルコールランプに蓋をしました。さく、さく、と砂糖菓子を食らう音だけが軽快に響きます。
だが、と霖之助は少女を見やります。彼は彼女を楽しませるためにこのような策を打ったのではありません。あくまで成仏させるための一手段なのです。
彼女が成仏してくれなければ報酬の翡翠は手に入りません。少女は無償で彼にそれを差し上げたつもりだったのですが、どうやら霖之助はそこのところを勘違いしているようでした。
しかし、勘違いは勘違いで良かったのかも知れません。もしそれに気が付いていたならば、彼は深く考えることなく、知人を呼んで簡略な方法で彼女をあの世へと送り出したことでしょう。
それにしても、彼は一体全体どのような方法で少女を成仏させようと考えているのでしょうか。
少女自身も分からぬ未練を晴らすと言ってはいるのですが、ただ楽しませるだけでは心残りの事象を解決することはできません。
それを分かっているのかいないのか、

「できた……!」

 達成感に充ち満ちた声と共に、霖之助はまたもやおかしな品物を二人の前に見せつけました。最早本意を忘れて遊んでいるのではないかと誤解してしまうほどです。いえいえ、聡明な彼のこと。それは無いと信じたいものです。
チルノと少女は、ん、と声を上げて彼の方を向きました。そこには、実に珍妙な器具がありました。箱の中で丸い空き缶がぐるぐると高速で回転しているのです。
マジックアイテムというものなのでしょうか、空き缶はふわふわと空中に位置しております。二人は何だこれは、と箱の中をのぞき込もうとするのですが――

「ああ、やめておいた方がいいよ」

 という霖之助の声に、顔を引っ込めました。彼もまた箱を見て、言います。

「特にチルノ――」

「父さんだ」

「……父さんはやめておいた方がいい。とてつもなく熱くて痛いものが飛び交っているから」

 二人は少しだけ距離を置いて箱の中をのぞき込みます。側面には何やら琥珀色のものがべったりと張り付いておりました。
どうやら缶の側面から何かが噴出しているようなのです。穴でも空けているのでしょう。

「兄上様。これは一体?」

 少女が自ら尋ねてきたことに、霖之助は少々の驚きを覚えました。今回もチルノが口火を切るであろうと彼は思っていたのです。それを良い兆候であるかそうでないのか、彼は酷く悩みました。霖之助は言いました。

「今度こそ君でも知っている菓子だと思う。割り箸を箱の中に突っ込んでみると良い。全ての答えが分かるだろう」

 彼女達の方からは見えませんが、箱の下にはやはりアルコールランプが設置してあり、缶の底を熱しておりました。
二人はこの缶から飛び出しているものを、恐らくまた砂糖なのであろうと推測しました。その通り、飛び出しているのは溶けたザラメ糖です。この商人、とにかく物事を安上がりに済ませようとしているようでありました。
しかし、霖之助自身が理解しているかどうかはいざ知らず、楽しいかどうかは費やした金銭には拠りません。ただただ遊んで楽しいか、それこそが評価基準なのですから。二人は恐る恐る先程まで使った割り箸を箱の中に突っ込んでみました。
今度は、カルメ焼きの時と違って時間は全くかかりませんでした。答えもすぐに分かりました。割り箸に、白い白い糸のようなものが次々とまとわりつきはじめたのです。
すぐにそれはもこもこと肥大していき、やがて小さな雲のような形状になりました。それをそっと箱の中から取りだして、そっと、一口。小さな口にそれを頬張って、そして期待通りの味に、二人は表情を綻ばせました。

「綿菓子ですね!」

「その通り」

 ふふん、と霖之助は自慢げです。その両手にはほこほこと湯気の立つ湯飲みが握られておりました。彼は言います。

「飲み物も用意したよ。飲んでおくといい」

 二人は躊躇いもなくそれに手を伸ばし、そしてちびちびと飲みました。食べては飲み、飲んでは食べてを繰り返しておりました。霖之助はその様子をただただ静かに眺めておりました。いえ、その顔には僅かばかりの笑みが浮かんでいたかもしれません……。












 明かりの消えた香霖堂の奥で、ずず、という音が低く響きました。部屋の中はどこか焦げ付いたような匂いが漂っています。墨を溶かし込んだかのような夜の中、静かな二つの寝息と、押し殺した呼吸の音が響きます。
何かを引きずるような音と共にすり足で移動をしているのは当然、あの店主の青年でした。ちゃぶ台の上には、空の湯飲みが転がっております。
酒を少々垂らした程度で幻想郷の少女達に如何ほどの効果があろうかと彼は思っていたのですが、夜更けであることも手伝い二人はすぐに寝転けてしまいました。
チルノは両手両足を伸ばしてだらしなく転がり、少女は眉根を寄せてうんうんと唸っておりました。霖之助はそれを静かに一瞥した後、躊躇無くずずず、と音を立ててそれを引きずってゆきます。

 彼が曳いているのは――死体の乗ったござでした。唇を引き締め、ただ黙々と彼は作業を進めます。奥の間から店内へと死骸をおろし、またずるずると彼は曳いてゆくのです。
何をしているのでしょうか。今更死骸を焼き捨てようというのでしょうか。確かに亡霊の弱点は本体である死骸です。故にそれを廃棄してしまうことは少女を成仏させることにおいて幾分かの効果が期待できるでしょう。
しかし、それは少女にとっては何の解決にもなりませんし、また、霖之助にしてもそれは望むところではなかったはずです。ですが、他に死体を曳く理由など考えられません。ついに彼は店の扉を開き、やや肌寒い空の下、そっとその醜い肢体を月下に晒しました。
翡翠を抜いたためでしょうか、僅かに異臭が漂い始めておりました。彼は眉を寄せ、呟きました。

「……やはり、酷いな」

 死骸の状況は酷いものでした。それは前述の通りです。しかし、やはりこの愛想も同情心も薄そうな店主をしてそう言わしめるほどではありません。
彼はこの四肢の別の点に着目しているのでした。死して朽ち始めた箇所は、翡翠の魔力のためか、死体の表面ばかりです。しかし――それにしては、傷が多すぎるのではないでしょうか。
腕にも、足にも、腹にも。あざや切り傷が点在しております。腐敗も、そこを起点として始まっているように思われます。それが意味することはつまり、彼女が生前にそれらの傷を負っていたということに他なりません。
そして、彼女はその傷を負った経緯を全て忘れておりました。忘れてしまいたいほど、辛いことだったのでしょう。生きていることが苦痛以外のなにものでもなかったに違いありません。
一体どうしてこのような憂き目に遭ったのか、勿論霖之助に結論づけることができるはずもありません。しかし、推測を立てることは容易でした。少なくとも、彼女は人を恨んではいなかったのではないでしょうか。
もし恨むのであれば、絶対に自分の受けた惨い仕打ちを忘れはしません。恨み、恨み、恨み続け、そして憎しみの塊となった彼女は霖之助にも牙を剥いたことでしょう。

 しかし、彼女はそうはしなかったのです。霖之助は毛の抜けた顔の虚ろな表情を見やります。この死体は動かぬ口を動かし、動かぬ手を動かし、彼に「こっちに来るな。来たら死ぬぞ」と必死で警告してきたのです。
そんな善良な輩が怨霊であるはずがありません。恨みを抱いているはずがありません。だからこそ霖之助は思いました。きっと、彼女はただ辛かったのだろうと。生が辛いということが、口惜しくて口惜しくて仕方が無かったのだろうと、思ったのでした。
彼女は、たくさんの夢を抱いていたに違いありません。両手一杯の希望を抱えていたに違いありません。ですが、それはおそらく粉々に砕け散ってしまったのでしょう。
そうして、失意の中で自死を選び、汚い世の中の全てを忘れようとしたのでしょう。ですが――未練は残りました。彼女は、せめて楽しい生を謳歌したかったのでは無いでしょうか。
それくらいの贅沢は、してみたいと願ったのではないでしょうか。それは罪ではありません。亡霊という害にしかならぬ形になってしまったものの、彼女の純粋な精神は、決して負の感情ではないのですから。
世の中はもっと素晴らしい筈だ、という希望に満ちた願いのために、彼女は今もなお顕界にいるのです。霖之助は確かに愛想の無い男です。しかし、井戸に落ちた赤子を助けぬ人でなしではありません。
ですからこうして、今悩んでいるのでありました。彼の右手にはマッチ、左手には油の詰まった瓶が握られておりました。眉をハの字にして、彼は途方に暮れて、言いました。

「……こういう時にこそ、あの妖怪少女にご登場願いたいんだけどね」

 そう言って、彼は苦笑と共に辺りを見渡しました。しかし、何の気配もありません。冬眠している間もちょくちょく顔を出しに来たくせに、雪解けの頃になるとめっきりここを訪れなくなった少女の不在をここまで嘆いた事はありませんでした。
彼は彼女を高位の妖怪として認めていました。この状況を上手く解決するのだろうとの確信が、ありました。
もっと的確に述べるのであれば、彼はあの少女が隠れて自分を見ているのではないかと、そう思ったくらいでした。彼が正しい選択をしたのならばそれで良し、誤ったのならば、その時に登場するのではないかと、そう思ったのです。
さてはて、もしもそうであるのならばいっそう過つ訳にはいきません。この選択は、あまりにも重い。人の魂のかかった選択です。そして、その重大な局面における賭けに勝てぬようでは、商人として失格であることは言うまでもありません。
経過においての敗北は当然のものですが、負けられぬ場所で負ける者が、商人として名をあげることなど不可能なのです。ですから、彼はここでの選択を誤ることは決して出来ません。例え、失敗してもあの子が助けに来てくれるのだとしても。

「焼くべきか……焼かざるべきか」

 手はきつく瓶とマッチを握っております。彼は迷っていました。少女が現状をただ受け入れているだけなのであれば、当然焼かぬべきです。もっとこの世のすばらしさを教えてあげるべきです。幸せにしてあげることの何が罪悪だというのでしょう。彼女を楽しませる術を、彼はいくらでも持っていました。
彼女をもっともっと幸せにできる方法など、いくらでも思いつきはしたのです。しかし、彼はそれを実行しませんでした。その理由は、実に簡単です。
世界があまりにも素晴らしすぎることを少女が知ったなら、かえって未練が残ってしまいます。このジレンマが、彼を苦しめているのです。
最期に良い思いが出来たな、と少女が思えたならば、それは成功です。しかし、こんな素晴らしい世界から去りたくはないと思わせてしまっては、大失敗もいいところです。
去りたくはないと思っている少女を無理矢理黄泉路に送るなど、残虐以外の何物でもありません。それこそ、世界を素晴らしいと思った彼女への裏切りでしょう。
そんなことをするくらいなら、最初からあの世に送ってあげれば良かったのです。彼女は死体を隠しもしませんでした。つまり、消えることを恐れてなどいなかったのです。
それどころか成仏を望んできたのです。そんな咎など微塵もない少女に更に傷を負わせる非道が許される筈がありません。彼は、悩みました。
期待させてはいけません。失望させてもいけません。ただただ満足させねばならぬのです。そして、彼にはそのさじ加減が分からないのです。少女の繊細な感情など、どうして男の霖之助が慮ることができましょうか。

 彼は結論を出すことが出来ぬまま、ただただむくろを見つめておりました。瓶の中の液体がどろりどろりと蠢きます。
本当は、焼いてしまうつもりだったのです。だからこそ二人を眠らせたのです。もう良いだろう。もう満足だろう。そう思ったからこそ、死体をここまで運んだのです。
しかし、改めてこの生々しい傷を見ると、本当にこれで良いのか、と迷いが生じてくるのです。本当に、あんな事でこの傷を精算することができるのか、と。
彼がしたことといえば、カルメ焼きの作り方を教えたこと、綿菓子を食べさせたこと、そしてチルノという存在に引き合わせたことくらいでした。
費やした金銭は、微々たるものです。串焼きひとつ、買えやしません。本当に、雑な処置でした。端から見れば、稚拙な茶番劇でしかありませんでした。
霖之助が少女と出会い、そしてチルノと出会い、飯事をする。たったそれだけ。ほんの数時間の出来事です。それだけの事が少女を救うとでもいうのでしょうか。
彼は、にわかにそれを信じられなくなったのです。あまりにもぞんざいな処置ではないか。もっとしてやれることがあるのはないだろうか。そう、思ったのです。
目をじっと瞑りました。会って間もない少女です。その表情はありありと浮かび上がります。寝ている間に焼き殺す。その行為自体が既に裏切りです。例え、成仏させるのだと予め言っていたとしても。
嫌な役回りだと彼は苦虫を噛みつぶしたような表情を作りました。
商人というのはいつもこうだ。悪役ばかりやらされる。たまにはチルノのような正義の味方を演じてみたいものだ。
やはりヒーローは愚鈍で悪役は小賢しいというのが、ステレオタイプな概念なのだろうと彼は無理に自分を納得させました。そして、その思考そのものが現実逃避であると気が付き、首を小さく左右に振りました。髪がそれにあわせてふわりと揺れます。

 彼は、ふう、と大きく息を吐きました。考えても答えは出ません。最早感覚に頼る以外に術は無さそうです。彼の出した結論は、そういうことでした。
道具の使い方も、それにまつわる考察も、彼は最後はいつも難しい理論ではなく自分自身の感性を頼りにしてきました。
いつも通りにやろうと、彼はそう決めたのです。ぐるぐると忙しく回っていた頭は、さあっ、と冷えて冴え渡ります。心は驚くほど静かでした。
空にはいくつもの星と、そして丸い月が浮いておりました。細い雲がゆっくりとたなびいているのが目に入ります。そよそよ、そよそよ、と風が吹き渡りました。
彼は勝手気ままに舞う自身の髪をマッチ箱を持った手でそっとおさえました。そうしてしばらく黙っていましたが、やがて決意したのか、瓶の蓋を緩め、箱からマッチを取り出しました。
油は強い粘性をもっているかのようにゆるりと揺れ、マッチはどこまでも無機質なものに思われました。彼は何も言わぬまま箱の側面でそれを擦り。
ぴたりと肩に触れた冷たい感触に、全身を粟立たせました。





















 ざ、ぁああん。ざ、ぁああん。どこか遠く波の音が聞こえます。少女はゆっくりと目を見開きました。視界は乳白色で、どこまでもどこまでもそれが広がっておりました。
地面も白く空も白く、ありとあらゆるものが漂白されたように真っ白でした。彼女は一歩を踏み出しました。どうしてでしょう、右腕がずきりずきりと痛みます。
吐く息もまた白く、しかしその純白は濁った空に酷い違和を与えるものでした。痛い。彼女はゆっくりと腕を持ち上げました。雪のような二の腕に赤いみみずばれが出来ておりました。

「あんたなんか生まれてこなきゃ良かったよ!」

 見ると、白い世界に今にも倒壊しそうな山小屋が建っておりました。いつからそこにあったのかは分かりませんが、しかし確かにそれは白の世界に存在しておりました。
その小屋の戸口で、厳しい表情をしたぼろ布を纏った中年の女が、厳しい表情をして身振り手振りを交え、唾を飛ばして怒鳴っておりました。しかし、その視線、指の先には誰もおりません。

「のろま! ぐず! どうして水をまともに運んでくることもできないんだい!」

 ばしゃんっ、という音が波紋のように広がりました。水平な世界に木で出来たおけが転がり、やや茶色く濁った泥水が広がります。女が手に持った木の棒を振り回しました。
それはひゅんひゅんと空を切るばかりでしたが、その度ごとに少女の腕と言わず脇腹と言わず、鋭い痛みと腫れが走るのでした。
少女自身は第三者が見下ろすかのように、俯瞰しているかのように、漠然とした思いの中でそれを見下ろしておりました。頭が上手く働かないのです。目の前の情報を受け入れる以外の事が出来そうにありませんでした。

 少女は一歩を踏み出しました。

どこか焦げるような臭いが漂ってきます。左の頬がとても熱く、少女は自らの手をそこへ持っていきました。血液とも肉片とも上皮ともつかぬべとべととしたものがたくさんそこに張り付きました。
ああ、と彼女は思います。自分の顔の左半分は今まさに燃えているのだ、と。視界の先の山小屋は、いつの間にやら小綺麗な部屋に変貌しておりました。そして、その部屋の中に、もう一人の自分が座り込んでいます。
座っている自分と目が合いました。すう、と体が溶けていくのを感じ、少女は畳に正座するその体に溶けてゆきました。
お香の匂い。立派な掛け軸。積みに積まれた金銀財宝。少女は思い出しました。そういえば、自分は商人の娘だったのだ、と。

 その日は奇しくも多くの町人が彼女のチチオヤの自慢の娘を見るため、屋敷を訪れておりました。彼女は障子の向こうにたくさんの人々が居るのだと思い、たいそう緊張しておりました。
町一番の器量好し、美しい娘さんだ、との評判がありながらも、誰一人としてその姿を見たものは居りません。彼女は世俗から隔離され、リョウシンから玉のようにかしずかれて育ったのです。
その証拠に、チチオヤは自慢の娘に一番の宝である立派な翡翠を持たせておりました。少女はその翡翠をきゅっと握りしめておりました。少し緊張していたのでしょう。とにかく歩き回ってそれをほぐそうと彼女は考えました。
ゆっくりと立ち上がったその時、彼女はうっかり長い服を自らの足で踏み、転倒してしまいました。美しい左目は、転倒した先にあるものをしかと捉えておりました。薄赤い光を放つ――炭櫃。
がたん、という音と共に絶叫が響き渡りました。町人達は、もちろん何があったのかと障子を開け放ちます。そこには、この世のものとは思えぬ異形がのたうち回っておりました。
顔の右半分は美しい少女、左半分は焼けただれた化け物。その顔はべっとりと灰色の粉を被っております。町人達は皆凍り付きました。人々は後じさり、息を呑みました。
沈黙の中、誰かが言いました。

「妖怪じゃ」

 ざわり、と嫌な波が蠢きました。少女の左目は、その見えぬ流れを見ておりました。誰かが、言いました。

「人食い妖怪じゃ。ワシ等を喰らう気じゃ!」

 とたん、とたんと。一人二人と後じさり。少女は違うと叫びたかったのですが、顔半分を覆う激痛にそれすらも許されません。
瞬く間に町人達は走り去り――噂は三日とせず町中に広まりました。



 あそこの家は妖怪一家。娘を隠していたのは上手く変化が出来ぬからじゃ。



 視界はまた乳白色の世界に戻ります。少女はふらりと一歩踏み出しました。
巨大な館が炎を上げて燃えておりました。兄弟姉妹は皆焼け死にました。使用人も死にました。優秀な者も居りました。賢い者も、優しい者もおりました。皆が皆、焼け死にました。
興奮した叫び声が響き渡ります。

「焼き殺せ! ワシ等を騙した妖怪一家を焼き殺せ!」

 応、という呼応の声が一拍置かず返ります。それは一つ二つではありませんでした。少女とリョウシンは辛くもその追撃を逃れました。途中、三人の使用人が凶刃に倒れました。
妖怪じゃ、妖怪じゃ、妖怪じゃ……。

 牛乳を零したように、世界が塗り変わります。漂白された世界は、再び山小屋に戻りました。これは夢だと少女は気が付きました。ふらりとまた一歩を踏み出しました。今度は本当に殴り飛ばされました。固い拳でした。
腹が焼け付くように痛むのを感じます。見上げると、アニがそこに居ました。彼は尊大な態度で言うのです。

「私はお前に殺された」

 オトウトとイモウトも現れます。皆が皆、言うのです。私はお前に殺された。お前が私を殺した。殺した殺した殺したと。腹を殴り、足を蹴り、言うのです。
げえ、という音と共に少女は胃の内容物を吐き捨てました。食べ物などそこにはありません。ただただ酸っぱいものが垂れ流されるだけです。這って逃げようにも、今度はチチとハハが現れます。
最初に現れたぼろを纏った女は、どうやらハハだったようです。ハハが言います。

「全てを失ってしまった」

 そうです。家を焼かれた彼女達はひたすら逃げて、山に入りました。土地は痩せ、ろくな食べ物は得られません。泥水を啜って命を繋ぎました。両手に抱えて走った金銀財宝も、何の役に立ちましょう。
少女は這いました。アニが居ます。イモウトが居ます。アネが居ます。ハハも居て、チチも居ました。皆が腹這う彼女を見下ろし、足を振り上げました。
そうです。この人達のために、自分は死んだのでした。この人達を、自分はあまりにも傷つけすぎた。だからもうこれ以上苦しめることの無いよう、彼女は山小屋を去りました。
歩き歩き、歩き続けたその先。霧に包まれた湖に、少女は石を両足に巻き付けて投身したのでした。ぶくぶくぶくぶくと、泡が上っていきます。平穏な水底の中、顔を上げると、沢山の顔がありました。顔だけがありました。
チチ。ハハ。キョウダイ。顔から一本の足が生えました。それは彼女へ向けて振り上げられます。たくさんの足の裏を見つめ、少女は泡を吐きながら呟きました。

「カゾク」

――ばちばちばちばちばち、という雷が怒っているような音が響きました。足は止まっておりました。倒れ伏す少女の前には霧のように薄い色彩の、今にも消えて無くなりそうな少女が居りました。
彼女は腕を組んで立っておりました。その背中には薄くて綺麗な羽があります。水は消え、世界は白に戻っておりました。カゾクの中で、その青い髪の小さな女の子は言いました。

「じゃ、あたいおとーさん!」

おとーさん。ぽわ、とあたたかな光が差した気がしました。まるで蜃気楼のような曖昧さだった少女の輪郭が、しっかりとしたものになりました。この少女は、チルノです。代わりに、カゾク達の姿がちょっとだけ薄くなります。チチの顔が少女に迫りました。

「私がチチだ」

チチという音が鎖のように、腐った体に巻き付きます。チルノは青い髪を右手で掻き分け、言いました。

「いーや、あたいがお父さんだっ!」

 仁王立ちして、自信たっぷりにチルノは言いました。お父さんという響きが少女の心を満たしていきました。チチは言いました。

「だがお前は女ではないか」

「それでもお父さんだ」

「ハハはどうした」

「そんなのいない」

 チチの問いに、チルノは笑いながら答えました。鬼のように真っ赤な形相になったチチは、顔から腕を生やしてそれで地面を叩きました。

「だが私はその子に翡翠をあげた! 翡翠をあげたからチチだ!」

 少女は着物に手を入れました。翡翠はそこにありました。それを見つめ、彼女は悲しそうな目をしました。チルノの体がぐっと薄くなります。
チチに掴みかかろうとした彼女の手は、虚しく空を切りました。

「翡翠をあげたからチチだ!」

「そうだ、そうだ」

 アニや、イモウトがそれに続きます。少女はその言葉の強さに圧倒されました。翡翠をぎゅっと握りしめ、いつしかカゾクはとても大きくなっていました。
顔が裂け、目からも鼻からも口が現れて叫びます。翡翠があるからカゾクだと。翡翠、翡翠、翡翠翡翠翡翠――! 


 ばし、と少女の手を粗暴に扱う者が居りました。大きな手は少女の手から無理矢理翡翠を奪い取りました。白い髪、不思議な着物。突然現れた彼は少女から背を向けたまま、言いました。


「これは僕が貰った」

 はっきりとした言葉でした。思えば、現れた瞬間から彼の姿は確固たるものでした。誰が何と言おうと彼は自分の意見を曲げぬ男だと少女は知っていましたから当然の事です。男――商人の名は、森近霖之助。

「兄上様」

 少女はそう呟きました。霖之助の輪郭は、全く揺らぐことはありませんでした。代わりに、チルノの体が彼よりも更に濃いものとなって浮かび上がりました。

「あたいがお父さんだっ!」

 アニが狼狽えて言いました。

「私がアニだ! チチが翡翠をあげたからアニだ!」

 霖之助は言いました。

「ふざけてはいけない。僕が兄だ」

 彼の掌には翡翠が握られておりました。

「翡翠を持っているから、僕がこの子の兄だ」

 夢の中の彼は、少女の中での彼は、ぶっきらぼうで、それでも頼れる兄でした。実際の彼はもっともっと無愛想な男ですが、少女はそんなことを知りません。
彼女の中の霖之助は、偉そうに両手を腰に当てて言いました。

「カルメ焼きを作ってあげたから僕が兄だ」

 ハハが言いました。

「かすていらだって、有平糖だって食べさせてあげたわ!」

「綿菓子を食わせてやったぞ!」

 ふふんっ、とチルノは言いました。かすていら。有平糖。そんなものは少女の記憶にはこれっぽっちも残ってはおりませんでした。
叩かれたこと。蹴られたこと。あの日からずっと続いたキョウダイに恨まれる悪夢のこと。そればかりが記憶に残っておりました。
カゾクの顔はぐっと遠ざかり、小さくなりました。それを威嚇するように、囲むように、兄と父が一歩前に踏み出します。ざんっ、という力強い音が響きました。
白い世界が一気に塗り変わります。寒い日には火を吐くらしい道具、ストーブ。火もないのに足を温めてくれる、こたつ。不思議な箱、テレビジョン。香霖堂と呼ばれる素敵な道具屋が姿を現したのです。
父が力強く言いました。

「あたい達が家族だ! おまえたちみたいのが家族って言葉を使うな!」

 カゾクだ、カゾクだ、カゾクだ、と。弁明するような声が続きました。嫌味な笑顔で、兄が一歩前に踏み出しました。

「では何を以てして君たちはこの少女を家族という集団に内包するつもりなのかな?」

 チチは言いました。

「翡翠」

 アニも、イモウトも、みんながその言葉を唱和しました。論破されることは分かっていても、それしかよすがはありませんでした。
霖之助は息を吐き、教え諭すように、一度だけ言いました。

「それは僕の物だ」

 ヒビの入った世界の中で、二人は威風堂々としておりました。カゾクの影がみるみるうちに小さくなっていきます。
二人は振り返りました。少女の心の中に生まれた家族が、言いました。

「さあ、手を取って」

「家族になろう。ここで三人一緒に暮らそう」

 少女は、ちょっとだけはにかんで、一言返事を返しました。



























 その冷たい手の持ち主はチルノでした。霖之助はほう、と息を吐きました。自身の策の失敗を、どこか安堵しているようでもありました。
チルノの後ろには申し訳なさそうに少女が立っておりました。たった今起きたところなのでしょうか。何故かは分かりませんが、その頬は涙で濡れておりました。
ですが、不思議なことに今はなにか悟ったように微笑んでいます。チルノが言いました。

「やい、息子」

 息を吐き、霖之助が返します。

「どうした、父さん」

 死体を見下ろし、チルノが言います。

「今、死体燃やそうとしてただろ」

 彼はさあ、と肩を竦めました。しかし、答えなど明白です。ゆらゆらと揺れる火に、蓋の開いた油の瓶。霖之助は少女を焼くことに決めたようでした。
やっぱり夢の中の彼とは全然違うなあ、と少女は笑みを零しました。情けも容赦もあったものではありません。でも、そんな兄の方がやっぱり魅力的でした。

「僕も色々考えたんだけどね。焼くのが一番だと思う。これ以上は本当に辛いよ。チルノにとっても、君にとってもね」

 本当にこちらを案じてくれているかのような彼に対し、少女は悪戯っぽく笑みました。どこか老獪さすら垣間見せるそれには、香霖堂店主の面影がありました。

「兄上様は、悲しんで下さらないのですか?」

「多少は。唐変木だとか失礼な事を言う奴も居るが、僕は別に石木じゃあないよ」

 くすりと少女は笑いました。酷い人です。酷い人ですが、それに慣れればやっぱり面白い人でした。

「十分唐変木でございます。私は別れを惜しんで先程までずっと泣いていましたよ?」

 人の気も知らずに、きっとこの人は本心をつらつらと述べたのでしょう。賢そうな表情には別れを惜しむ色などありはしません。それどころか、ちょっとだけ驚いたように彼は言いました。

「なんだ。君は結局逝くことに決めたのか」

 少女は、はい、と頷きました。

「もう十分でございます。満足のあまり、別れを惜しむ間も無く昇天するところでした」

「お前だって唐変木じゃないか。いきなり消えたら父さんは泣くぞ」

 チルノは呆れたように言いました。このにぶちん兄妹め、と。少女は済みません、と謝りました。
やはり返事はどこか控えめで、顔を伏せてはおりましたが、確かに繋がっている、とチルノは覚りでもないのに親愛を少女の裡に感じ取りました。
やれやれと霖之助は息を吐いて瓶を地面に置き、マッチの火を指で揉み消しました。ものぐさな人だなあ、と少女は思いました。

「それにつけてもやはり、兄上様」

 少女の言葉に、む、と霖之助は視線を彼女にやりました。

「やはり妹の体を了解も得ず焼き払うのはどうかと思います」

 むむ、と難しい表情を霖之助は作りました。チルノは笑って彼の背中を叩きました。

「謝れ、息子!」

 霖之助は暫しとてつもなく苦い草を噛まされているような表情をしていましたが、やがて

「済まない」

 と頭を下げました。もし噂好きの妖怪に知れれば何十年も語りぐさになっていたことでしょう。それほどまでに貴重な謝罪の場面でありました。
顔を上げた霖之助の表情は非常に不愉快そうでありました。そうして言葉を弄び、三人はしばし談笑に耽っておりました。
そんな言葉遊びの中、何気ない話題の一つとして、少女が笑って言いました。

「そろそろ焼いてしまいましょう」

 流れるような言葉でした。とまどいのない言葉でした。霖之助はそれに安堵すると共に、軽い落胆もまた覚えました。少女はやはりこの数時間に大した価値を見いだしてはいないようだと彼は思ったのでしょう。
さて、と霖之助はチルノに目を遣ります。この子は辛く思わないだろうかと。しかし、チルノの顔もまた明るいものでした。

「そうだな。焼いてしまおう」

 この子は多少渋るだろうと思っていましたので、霖之助は怪訝に思って尋ねました。

「チルノ。良いのかい?」

 ふふん、と彼女は笑いました。自信に充ち満ちた笑顔でした。

「ほら、主従は一代夫婦は二代で親子は三代って言うからさ。だからどーせ生き返ってまた会えるってば」

 少女はその言葉に何か感銘を受けたように目を見開きましたが、霖之助は口を一度開き、そして首を振ってその口を閉じました。
真実ばかりが正義であるとは限りません。チルノがそう認識しているのなら、それで構いません。どうせ単なる封建社会に基づいた迷信です。それに対して無粋な訂正を行う彼ではありませんでした。
例えその間違いが致命的であったとしても、です。

「親子は三代、ですか。なんだか……うれしいです」

 少女はふにゃりと笑みました。余裕に満ちた目に、少しだけ涙が浮いたようでした。だからこそ、霖之助はたまりませんでした。この少女もまた、真実を知らないのです。
ですが彼は黙っていました。一人だけこのような思いをするのは理不尽だ、と思いながら。

「来世で君がすぐここに来ることが出来るかどうかは閻魔様の沙汰次第だ。運が良ければ幻想郷に生まれる事が出来るかも知れないよ」

 耳慣れぬ言葉に少女は小首を傾げました。

「幻想郷、ですか」

 香霖堂と同じく、音の響きがとても心地よいその名前に、少女は目を細めました。

「こんな世界が、広がっているんですか?」

 霖之助は頷きました。

「知っていたならば、君はきっと自殺なんて愚かな真似はしなかっただろうね」

 確かにそうかも知れないな、と少女は思いました。あの薄暗い山と違って、同じ暗闇でもここの森はまるで包み込まれているような安堵を感じるのです。
さて、東の空はすでに白みはじめていました。チルノは言いました。

「今度生まれてきたら幻想郷中を案内するから、楽しみにしておくんだな娘っ!」

 はしゃぐような言葉に、少女もこくりと頷きました。

「はい。その時は是非兄上様も!」

 霖之助は息を吐きました。転生した娘の特定などそう簡単に出来るものではありません。そもそも幻想郷に生まれ落ちる可能性とて薄いのです。
自殺したのですから、間違いなく地獄行きでしょう。罪を償って転生するまで、一体何年かかることやら。
その頃にはチルノはもうすっかりこの少女のことなど忘れ去っているのではないだろうか、と霖之助は思いました。
妖精というのはそういう生き物なのです。しかし、同時にチルノならば覚えているかも知れないな、とも感じました。

「それでは」

 霖之助は、瓶の中の油をとくとくと死骸に垂らしていきました。ぬらぬらと死体が煌めきを放ちます。少女は複雑な表情でそれを見下ろしておりました。
やがて瓶のなかのそれを全て使い切り、彼はそっと瓶を地面に置きました。

「本当は、火葬というのは費用も時間もかかるんだ。油とマッチで可能なものではない――が」

 彼はマッチを三本擦りました。そうして、その三本を三人で分けました。不思議なことに、火は頂点で赤々と燃えたまま、下部へ浸食してくることはありませんでした。

「今回はその無理を通そうと思う。時間がかかりすぎるのは、嫌だろう」

 少女は曖昧に笑んで、頷きました。このままずるずると香霖堂に居座っていては決意がゆるんでしまいそうだ、というのは彼女の裡にある確かな意見でした。
三人は死体を囲むようにして、屈みました。地面はぬかるんでいるので尻はつきませんでした。まるで線香花火でもするかのように死体に火をかざしていたのですが、やがて意を決したのか少女が手に持っていたそれを放しました。
続いて、霖之助が、チルノが、マッチを手放しました。ごぉっ、と空気を食らう音がしました。少女にとって、それは忌まわしい音の筈でした。しかし、彼女の表情に苦痛の色はありませんでした。
ただただ少しばかりのかげりが見られるばかりです。赤々とした光が三人の顔を照らし出しておりました。少女が言います。

「これで成仏、できるでしょうか」

 霖之助は言いました。

「君の体が燃え尽きる頃には、きっと」

 火は死体を嘗め尽くします。燃料となるものは死体一つだというのに、勢いは一向に衰える気配がありません。暴食のような、炎でした。
この火は容赦なく骨まで食らいつくすであろうことを霖之助は承知しておりました。そして、その方が都合の良いこともまた。

「燃え尽きるまでに、どれくらいかかるんだ?」

 チルノは死体に視線を落としたまま、問いました。目が黄や橙の光を反射していました。

「五分とかからないだろうさ」

 霖之助は言いました。少女は顔を上げました。遠くに見える稜線は白光を伴っておりました。夜の闇は、少しずつ薄れているようでした。

「せめて、幻想郷の夜明けだけでも冥土の土産にしていきたいものです。翡翠は兄上様が取り上げてしまいましたから」

 最後に少し意地悪な言葉を添えると、彼女の意を汲んだ霖之助も同様の表情で言いました。

「これは僕の物だ。何が何でもあげないよ」

 残念です、と少女は言いました。だけれど、全然残念ではありませんでした。そんなものは、いりません。全く必要ありません。
翡翠は彼女にとって魅力のないただの石ころでした。兄がそれを欲しているのならば、喜んで差し上げるのが筋というものです。
この人は、両手で抱えきれないくらいの宝物を自分に下さったのですから。兄と、父。少女は目尻を拭いました。

「親孝行も、兄上様のお手伝いも、出来ませんでしたね」

 本当はお店の番をやってみたかったのですけど、と言うとチルノは無造作に手を伸ばして少女の頭を乱暴に撫でました。

「なーに。今度こっちに来たら存分にやればいいじゃないか! なっ、霖之助!」

「香霖堂は今も昔も個人経営――」

「良いだろっ!」

「……ああ、良いよ」

 そんなやりとりに、少女は安堵を覚えました。自分が誇ることのできる人達が、此処にいる。それを強く感じました。
この人達に看取って貰えることを、何より嬉しく思いました。

「それでは、今度来たときはお父様の肩叩きと、兄上様のお店のお掃除をやらせて頂きます」

「うむ!」

「ああ」

 喜ぶ二人の顔が見えるはずでした。しかし、ぶつっ、という音がして、視界は全て闇に覆われてしまいました。
そろそろ、別れの時が近いようです。段々体が薄くなって消えていくのだと思っていたのに、なんだか実に肉体的な死に方だなあ、と少女は思いました。
二人に心配をかけたくはなかったので、少女は目が見えなくなったことを言いませんでした。

「ああ、そうです。私は料理も得意なのですよ。カルメ焼きははじめて知りましたけど、お菓子だってたくさん作ることができるのです。それも作って差し上げますね」

 楽しみだ、という二人の声。じゅるりと涎を啜ったのは一体二人のうちどちらだったのでしょうか。たぶんお父様だろうけど、兄上様だったら嬉しいな、と少女は思いました。
この人を喜ばせることができなかったのが、少しだけ残念でした。また、ぶつりという音がしました。ぱちぱちという音も、二人の声も、聞こえなくなってしまいました。
今度は異変に気づかれてしまっただろうなあ、と少女は思いました。二人を感じ取ることが出来ないのが、酷く残念でした。
そんな事を思った矢先、ちょっとだけひんやりとした何かが背中に覆い被さってきました。それと同時に、大きな手が自分の掌を掴みました。二人です。二人は少女の耳が聞こえなくなったと見るや、そっと体に触れてくれたのでした。
霖之助の指が、少女の掌をなぞりました。

『心配は要らない。ここの担当の閻魔様は優しい方だ。白黒はっきり付けすぎるきらいはあるが、黒を付けた後で平気で恩情をかけるくらいの事はしてくれるかも知れないよ』

 そんなことは全く心配していなかったので、少女はなんだかおかしくなりました。なんだかんだで、心配性なのかもしれません。最後になって優しくされてもなあ、と少女は思いました。思わずにやけてしまうくらい嬉しいかったのは、認めざるを得ませんが。
その次に、少女の手を指でなぞったのは、チルノでした。手がとても冷たいのですぐ分かります。彼女はぐいぐいと強い力で掌に指をおしつけてきました。

『なにか、してほしいことはないか?』

 やっぱり、なんだか偉そうです。小さな女の子なのに、いつの間にかこの妖精のことを本当の父のように慕っていたことを少女は思い知りました。
そうだな、と少女は考えました。やっぱり思うのはただ一つのことです。先程抱いたのと同じ願い。少女はチルノの手を取って、優しくそこに字を書きました。

『幻想郷の日の出が見たいです』

 無理な願いであることは分かっていました。しかし、

『分かった』

 無理を通す二人であることもまた、少女は知っておりました。
返事のあとですぐ、冷たい両の手が少女の目を覆いました。何をするのだろうと不思議がっていると、霖之助が少女の掌に字を書いて説明します。

『日の出を思い浮かべるんだ。この幻想郷の日の出をね。霊というのはとても精神的なものだから、君がそれを望めば、一瞬くらいは視力が回復するかもしれないよ』

『手で目をおさえる理由は何なのでありましょうか』

『見えていないのは目が覆われているせいだと思えるからだよ。とにかく、気の持ちようだ』

 なに、カルメ焼きを作るのに比べれば簡単な事だよと霖之助は爪の先でささっと走り書きをしました。読み取るのが少しだけ、難しく感じられました。
ひんやりとした掌に包まれて、少女は思い浮かべました。赤々と燃える空。青い稜線。水たまりは光を反射し、夜は駆逐される。そして、ゆっくりと白熱した太陽が姿を現して――。

『手を、放して下さい』

 ぱっ、と。チルノの手が放されました。しかし、彼女の存在は、しっかりと背中に感じ取っておりました。少女は、見えぬはずの目をしかと見開きました。
開いた目は、思わず閉じてしまわれるかと思われました。それ程までに、鋭い光が彼女の両の目を射抜いたのです。幻想郷の、太陽。ゆっくりと稜線を上る、白く力強い光。
ぬかるんだ地面はぴかぴかと輝いておりました。空には雲一つありません。空は藍色とあかね色に染め上げられておりました。遠い、遠い、遙か彼方に空と山。少女はそこに辿り着くことは、出来ません。
強い光、青い山。そして高い高い空。目から一筋、涙がこぼれました。

「見えました」

 自分の声が、震えているのを少女は感じました。ごくり、と唾を飲みます。ろれつが回りません。如何なる言葉も、口から出てきません。ただ目から涙が溢れ続けるばかりです。
空をゆっくりゆっくりと上る、太陽。そして、自分をのぞき込む、霖之助。背中から抱きついてきてくれている、チルノ。大好きな、父と兄。少女は言葉を紡ぎました。

「幻想郷の――朝の光が見えました」



それが、最期の言葉となりました。












 チルノの手は虚しく空を切りました。霖之助は、息を吐きました。火は、つい今し方燃え尽きたばかりでした。彼は消し炭を見やりました。煙がゆるりとくゆっておりました。

「あいつってさ。自殺したから地獄行きだよね」

 何故か、チルノはぽつりとそんな事を言いました。無理に作ったような笑顔を、その顔に貼り付けておりました。見て、いられませんでした。

「だったらさ。ほら、中有の道に行けば会えるんじゃないかな。屋台やってるの、そういう連中なんだよね」

 ああ、と霖之助は思いました。この子は、ずっと我慢していたのです。父親だから、娘が気持ちよく旅路につくことができるよう、自身の悲しみは全て胸の裡にしまっておいたのです。
霖之助は、何も言いませんでした。

「あいつってばさ、なーんにも出来ないやつだから……平気であんたが教えたカルメ焼きを売ってるかも知れないよね」

 霖之助は、やはり何も言いませんでした。

「そんでさ、あたいと霖之助がそれを見つけて、怒るんだ。そしたらあいつはやっぱり小さくなって……」

 はじめて、チルノの眉がハの字を描きました。見上げる瞳には、大粒の涙が浮かんでおりました。交差した腕を解き、その手でチルノは霖之助の服をきゅっ、と掴みました。

「――会える、かなぁ……っ」

 小さな、少女でした。本当に、こんなにも小さな少女が、あんなにも立派に、一人の少女を救ったのでした。父親という、あまりにも重い役割を担って。
それはどれほど重かったでしょう。どれほど、大変だったでしょう。チルノがどんなにか迷ったことでしょうか。霖之助は、ぽん、と彼女の頭に手を置きました。
見上げる空は既に青く、日の出の時は終わっておりました。内気な少女を心に浮かべ、彼は小さく呟きました。

「会えるとも」

 くっ、というくぐもった声が霖之助の胸の中で一度だけ響き、その後で押し殺したような嗚咽の声が、漏れはじめました。
大きな手で柔らかな髪を梳くたびに、彼女は声を漏らしました。辛いよ、悲しいよ、苦しいよ、と。先程まであんなにも笑っていたのに。
チルノは、本当に強い妖精でした。本人が思っているより、ずっとずっと強い妖精でした。なぜなら娘を思う親より強い存在なんて、この世にはありえないのですから。
泣き疲れてしゃくり上げる妖精を、そっと彼は抱き上げました。

「だから今は帰ろう――チルノ」

 彼の言葉が、短かった家族ごっこの終わりを静かに告げました。チルノは小さく頷きました。いつかまた、彼が自分を父と呼ぶ日が来ることを信じて。



















「さあ、手を取って」

「家族になろう。ここで三人一緒に暮らそう」

 夢の中での二人の提案に、少女は、ちょっとだけはにかんで、一言返事を返しました。





「いいえ、私は逃げません。地獄に行って、罪を償い、再びこの地に戻ってきます。そしたら家族になりましょう」
主従は三代夫婦は二代――そして親子は一代の縁。
彼らが再び出会うことは、きっともうないでしょう。
でも、兄と父は不可能を可能にする無茶な連中です。
もしかしたら……もしかしたら奇跡が起こるかも、しれませんね。



――――――――――――――――――――
追記 脱字指摘有り難うございます。そして、毎度の事ながら申し訳ありません。
   ああ、私の馬鹿者。注意力不足。目を皿のようにして読んだというのに……
   皆様の眼鏡に適う内容を送り出していけるよう、いっそう努力を重ねていきたいと思います。
与吉
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.9580簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
少女の優しさが、亡霊という立場を通してひしひしと感じられました。
御冥福をお祈りします。
10.100名前が無い程度の能力削除
チルノと霖之助のやり取りの中ですが
「確かに過去にそのような事を教えて かも知れないけど、
                /た\


小説を呼んで泣いたのは久方ぶりです
たったの100点でしかこの気持ちを貴方に伝えられないなんて
なんとまぁもどかしいことでしょうか。
貴方の幻想郷を"見る"ことができたのなら
それはそれは汚濁に塗れ
それはそれは美しいのでしょう
15.100有風削除
与吉さん、きたっ。
今作もしみじみとしたいいお話でした。
嗚呼、自分の語彙の無さが恨めしい。
19.100名前が無い程度の能力削除
最後のチルノで涙腺崩壊
いいお話をありがとうございました
25.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい。
本気で泣きそうになった。

まるで紙芝居のような語りで、よく幻想郷が表されていました。
嗚呼…できるなら、あの世を存分に見た後は、来世でも人の世を生きたいな。
26.100名前が無い程度の能力削除
感動した。良い作品を有難う。
31.100名前が無い程度の能力削除
俺、号泣……!!
35.100名前が無い程度の能力削除
芯のぶれないチルノ、優しくて健気な少女は言うまでも無く。
霖之助が何だかんだ言ってチルノや少女自身に救われているように思えてまたぐっときたり。
「オトナ」にされがちな彼だけど、ここではいい意味で区別無いんだなあと。
40.100名前が無い程度の能力削除
あ、これは面白い。
最初、お岩さんが幻想入りしたのかと思ったけど的外れでした。
42.100名前が無い程度の能力削除
とても残酷な美談ですね。
いい話でしたー
43.100名前が無い程度の能力削除
願わくば、この少女が幻想郷に転生できますように。

ちょっとえーき様に直談判に行ってきます。
44.100名前が無い程度の能力削除
相変わらず素晴らしい話をお書きなさる…
今回の話は分かりやすいのが嬉しかったです。
48.100名前が無い程度の能力削除
チルノ父さんのかっこよさに涙……
51.100名前が無い程度の能力削除
泣いた。久しぶりに泣いた。
52.100名前が無い程度の能力削除
読み終わって考えてみると、チルノの間違いはわざとなんじゃないかって気がしますね
なんちゅう話を書いてしまうんですかあなたは…
普通に魅入られてしまいました
57.100名前が無い程度の能力削除
なんかあれだ、感想つけるのが失礼になりそうw
世界観がホントにヤバイっすわー 引き込まれるわー
59.100名前が無い程度の能力削除
表現による演出がお世辞でなく素晴らしいと思います

情景が頭の中にスッと浮かび上がってきました
60.100名前が無い程度の能力削除
カルメ焼きが食べたい・・・

すみません、泣きそうでまともな感想できないんです・・・
62.100名前が無い程度の能力削除
この点数以外にモニターがかすむ理由をつけれない。
65.100名前が無い程度の能力削除
泣いちまった
66.100名前が無い程度の能力削除
これはもう100点を入れざるを得ない。
75.100名前が無い程度の能力削除
いい世界観ですねー
家族のところはうるっとくる
79.100名前が無い程度の能力削除
一つの作品の中でのみ描かれる、読む側としては初めて出会うが故に、感情移入が難しい
オリジナルキャラクターというものにこんなに心を動かされたのは初めてです。
85.100名前が無い程度の能力削除
なんとも綺麗で残酷な話
なんて薄汚くて優しい話

ほうと息を吐くほど幻想のお話
お見事です
86.100名前が無い程度の能力削除
涙 腺 爆 発
90.100名前が無い程度の能力削除
 
94.100名前が無い程度の能力削除
俺の涙腺決壊寸前だよ
いい作品だった
97.100名前が無い程度の能力削除
涙腺が大変なことに
104.100名前が無い程度の能力削除
泣いた・・・!
107.100名前が無い程度の能力削除
最後の選択が……泣いた
114.100名前が無い程度の能力削除
ぼろぼろと涙が止まらないのはひさしぶりです…。
119.100名前が無い程度の能力削除
三人とも俺の家族になってくれ
120.100名前が無い程度の能力削除
そして彼女は渡し賃として片割れの翡翠を死神さんに・・・
家族っていいですね。
123.100ルル削除
少女はきっと地獄行き。
けれど、三途の川幅は二人から貰ったもので短くなり、それに免じて閻魔様もきっと何かしらの情けをおかけになる事でしょう。
そうであるように願わずにはいられません。

今回も素晴らしいお話でした。
こういう残酷なんだけど温かい死生観って、日本的で幻想郷らしくてとても良いですね。
125.100名前が無い程度の能力削除
じんわりと目から水が
126.100名前が無い程度の能力削除
亡霊の少女が望んだのは父と兄上様と幻想郷の朝陽。

言葉が綺麗すぎて自分の語彙力の無さを痛感してしまう…
本当に与吉さんのチルノは賢いですよね
親子…のくだりも上コメントでもありましたがあえてそう言ったように取れてしまう

素晴らしい幻想郷の御伽話でした。
127.100名前が無い程度の能力削除
 
128.100名前が無い程度の能力削除
ち、チルノとうさーーーーーん!
129.100名前が無い程度の能力削除
霖之助が兄とか理想郷過ぎるだろ
136.100名前が無い程度の能力削除
俺の涙腺がエライ事になった
142.100名前が無い程度の能力削除
最高でおま
148.100名前が無い程度の能力削除
点数が皆100点な件について。

最高以外に何を言えと?目から汗がぼとぼと落ちてったってば。
149.100名前が無い程度の能力削除
いいお話をありがとうございました
154.100名前が無い程度の能力削除
100点以外、何をつけろというのか。
できるならば、100点以上をつけたいものです。

与吉さん、いつも素晴らしいお話を本っ当にありがとうございます。
155.100名前が無い程度の能力削除
チチルノ・・・!
157.100名前が無い程度の能力削除
もうどうしてくれようか、久々にそそわに来て与吉さんの作品を再読して、こんちくしょう…
もうフランダースじゃないか!!
朝日のシーンで涙腺がまた緩みだす…
チルノがほんとにもう……
名無しの妹もほんとに…
160.100名前が無い程度の能力削除
涙腺がぁ・・・
163.100名前が無い程度の能力削除
そしていつか、またあの少女が帰ってきた時に、
霖之助が何かぶつぶつ言って、チルノがそれを突っ込んで、
少女はそんなやり取りを笑ってみている。

こんな未来がくる事をただ願うだけです。
ありがとう、作者さん。
164.100名前が無い程度の能力削除
なんでこんな素晴らしいお話をかく
172.100名前が無い程度の能力削除
・・・。
・・・。
・・・・・・。
ごめん、なんて言えばいいか分からないんだよ。
○一個ばかり足りないけどまあ点数にしたから受け取ってください。
174.100名前が無い程度の能力削除
何だか、とても温かい気持ちになりました。 この三人が家族になれることを祈るばかりです。
179.80Manchot削除
 空気を読まずに100点以外のものを。
 最初に、力作を読ませていただき感謝ひとしおにございます。斯様な良作を見落としていたこと、我が怠惰を責むるほかございません。

 さて、満点ではない理由でございますがふたつほど指摘したいと思います。
 一つは、少し視点がふらついていたことです。霖之助と少女との視点が少し揺らいでいて、ところどころ分かりにくく感じた部分がありました。
 二つは、朝日の場面でしょうか。非常に感動的な場面であり、突っ込むのは野暮というものかもしれませんが、少し展開が急に感じました。少女が盲目になる場面と朝日を見る場面が近すぎ、ご都合主義的に見えてしまったように思います。

 と、仕様もない指摘を繰り返しましたが、そのような点すらもひっくり返すほどに力を持った作品であったように思います。物語もほとんど破綻なく、また文体は澄んでいて読みやすかったです。さらさらと面白く読ませていただきました。何より登場人物たちがみな輝いていて、非常に魅力的でしたように思います。また諸々に散りばめられた情景描写が非常に心地よいし、美しい。
 このような作品を読めて光栄であります。重ね重ね、このような作品を有難うございました。
182.100名前が無い程度の能力削除
泣けました・・・
194.100名前が無い程度の能力削除
私が東方のSSを読んで涙したのは、この作品が初めてです。
本当に素晴らしい作品を、心からありがとうございます。
195.100名前が無い程度の能力削除
なんという物語…

3人が朝の光の中で笑ってるんです

一人は大好きなお父様と兄上様を思って幸せそうに、
一人は娘の笑顔を見て泣き笑いのように幸せそうに、
一人は見守るように妹の幸せそうな顔を見て幸せそうに
みんな笑ってるんですよ
196.100名前が無い程度の能力削除
あなたの描く家族の温かさに号泣です
205.100名前が無い程度の能力削除
この点以外に何をつけろと
207.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずの安定感で安心します。
210.100名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー


ここから宣伝
2010年春、ついに東方香霖堂発売!
213.100名前が無い程度の能力削除
文句なし・・・100点だ
214.100名前が無い程度の能力削除
真夜中に号泣しました。素晴らしい。
215.100名前が無い程度の能力削除
うわあああああああ(ガクガクガク
218.100名前が無い程度の能力削除
グロとオリキャラのタグだけでスルーしてた自分が恥ずかしい…
素晴らしいお話でした。少しでも早く地獄でのお勤めが終わることを願います。
219.100名前が無い程度の能力削除
泣いたよ・・・
225.100名前が無い程度の能力削除
グロのタグでスルーしてスマン。
泣いたよ
227.100名前が無い程度の能力削除
語る言葉を持ちません。
228.100名前が無い程度の能力削除
馬鹿野郎。こんなん読めるか。
モニターが霞んで全然読めん
234.100名前が無い程度の能力削除
おおぅ。いい作品でした。
237.100名前が無い程度の能力削除
小説で泣いたのは初めてだ…
252.100名前が無い程度の能力削除
おかしいな···珈琲を飲んでいた筈なんだが、塩辛いな

でも、チルノは純粋にいい子と思うんだが···正しい方の言葉を知ったらどうなるのだろう。
いや、どれが「正しいのか」など関係ないか。だってそこは、幻想郷なんだからね。
262.100名前が無い程度の能力削除
うう、亡霊の子いい子や
268.100うみー削除
すごい
269.無評価名前が無い程度の能力削除
チルノが優しくてカッコよくてええ子なのほんま素敵。