迷いの竹林の奥深く。
常人ならば抜け出る事すら困難な、その竹林の片隅に、二人の人影がある。
月はその形を大きく欠けさせ、切っ先のような鋭利さを以って空にある。
故に、明かりさえも乏しいその中で、二人は静かに言葉を交わす。
「・・・・いいのか?そんな物吸って。」
「なぁに、たまには構わんだろう。 ・・・それに、どうせ誰も咎めん。」
そう言って慧音は煙草を咥える。
その表情には少々の疲れと、そしてそれ以上に、悩める者特有の影が落ちていた。
誰の目にも一目で分かる程、今の慧音の心は摩滅し切っている。
だが、その疲れを推して、妹紅の元に来たのだった。
「・・・疲れてるなら家で休んだ方がいい、身体に響く。」
慧音は妹紅と違い、不死の身体ではない。
病にも罹るし酷い怪我を負えば死に至る。
また半妖である故に・・・妹紅の寿命に比べれば、慧音の命など刹那に過ぎない。
「疲れてはいるが・・・、少し、妹紅と話がしたくてな・・・。」
慧音はライターで火を付ける。
お世辞にも慣れた動作とは言えず、煙草も火の付き方が偏ってしまっている。
「・・・ぐっ、げほッ! ・・・何だこれは、お前はこんな物を好んで吸っているのか?」
「・・・慣れないと不味いだけだ。 止めておけ。」
慧音は一瞬だけ迷った後、再び煙草を咥える。
少し咽せながらも、肺に煙を流し込む。
「・・・・慧音、今日はどうしたんだ・・・。」
今日の慧音は明らかに纏う雰囲気が違っていた。
いつもならば快活で、それでいて規律に厳しいと言うのに。
今は、普段決して口にしない煙草に火を付けている。
「いや何、大した事じゃないんだ・・・。」
「・・・私で良ければ、話を聞くぞ。」
慧音は、ふぅ、と大きく煙を吐き出した。
紫煙は空へ昇り、薄明かりを放つ三日月を僅かに翳らせる。
「・・・・吸わんのか?」
慧音は煙草を勧める。
・・・妹紅は昔から煙草を嗜んでいたが、よく慧音に止められていた。
何でも"健康に悪いから"だそうだ。
・・・・蓬莱の薬を飲んだ妹紅からは、健康と言う言葉すら、既に失われているのだが。
「・・・・・・。」
妹紅は一本の煙草を咥える。
「ほら。」
慧音は、妹紅が自分のライターを使う前に火を差し出す。
煙草の先端が炎に包まれ、静かに紫煙が立ち昇って行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・と言う訳だ。」
慧音が語って聞かせたのは、とりとめも無い愚痴のような物だった。
やれ寺子屋の子供が言う事聞かんだの。
やれ妖怪が里の周りに出没しているだの。
やれ真夜中に叩き起こされて妖怪退治に向かっただの。
・・・確かに極度の疲労を伴うような日常ではあった。
だが。
「・・・・・・・・慧音・・・・・。」
「ん?どうした?」
煙草も既に半分程が燃え落ちていた。
元々そう長い時間吸う物ではない。
全て燃え落ちるまで、そうは掛からない。
「それだけじゃ、無いだろう?」
・・・慧音の表情には、未だ憂いのような影が漂っていた。
細い月の僅かな明かりでも見て取れるほど、それは色濃く妹紅の目に映っている。
「・・・・妹紅は鋭いな。」
そう言って慧音はせせら笑い、再び煙を空へと吐き出す。
それは煙草の先からたなびく煙と混ざり合い、やがて空気に溶けて消えて行く。
「最近思うんだ。 私は何をしているのだろう・・・・とね。」
「・・・・・・・。」
「私は妹紅のように長い命がある訳じゃない。 強い力がある訳でもない。
その短い命を使って私は一体何をしているのだろう・・・・・・・・と。
そんな事を考えてしまったんだ。」
慧音は自嘲気味に笑う。
その表情には痛みにも似た歪さが混ざっていた。
「当然、里の皆の事は愛している。 私の守るべき、美しい里だ。
だが、こうしてずっと妹紅の生き様を見ているとな・・・・
そんな私の命でさえ無意味に思えてくる。」
「慧音・・・・。」
「私はいずれ死ぬ。 妹紅の命に比べればずっと短いその時間に・・・・・
私はこんな事をしていていいのか? 私は、もっと・・・・・。」
・・・切実な願いだった。
命在る者ならば誰もが辿り着く思考の淀み。
自らの意味を問い、無意味に意味を見出す事の苦しみ。
永劫に繰り返されるかと思う程に、同じ問いと答えの繰り返し。
「妹紅。 一つ聞きたい事がある。
もし、妹紅の命が限りある物だとしたら・・・・、妹紅はどう生きる?
限りある人生で何を出来るか考えるか? その命をどう使う?」
既に笑みは浮かんでいない。
その表情は、まるで余命幾許も無いかのような、一種の焦りすら見える物であった。
切実で、切迫して、痛みすら感じる程。
既に涙すら溢れては来ない程に、何度も何度も繰り返された問い。
・・・・・・それは、命の問い掛けだった。
「・・・・・・いや、慧音。」
・・・それでも。
・・・・・それでも妹紅は微笑んだ。
妹紅には命に限り在る者の痛みは分からない。
その痛みは、同じ境遇にある者にしか理解し得ない。
だが・・・
「・・・・もし私の命が限りある物だとしても、私はこうして生きる。
こうして、慧音と話をして、時々輝夜と喧嘩して・・・。」
・・・その妹紅自身も、気が触れる程の長い年月を生きてきた。
その中で何度自分に同じ問い掛けをしたか分からない。
死と言う逃げ道すら許されない妹紅のそれは、一体どれ程の苦しみであったろう。
「永遠か須臾かなんて関係ない。
私は自分のしたいようにして生きてきたし、これからもそれは変わらない。
もし私の命が限り在る物だとしても、それは・・・・変わらない。
この先私に死が待ち受けていても、そうでないとしても。
・・・・・・"今"この時を、悔いの無いように生きている。」
「・・・・・・。」
「その上で、慧音に聞きたい事がある。
・・・・慧音のしたい事は、何だ?」
決まっていた。
慧音は人々を愛している。
里の歴史を誇りに思っている。
それを守りたくて、今まで生きてきた。
・・・その時間に、これっぽっちも後悔などあろう筈も無かった。
「・・・・そうだな。 確かにそうだ。
・・・・・馬鹿な考えだったかもしれない。」
既に慧音の表情から憂いは消え去っていた。
そしてその憂いに代わりに残された物は、決意とも呼べる物だ。
「・・・・ありがとう妹紅。 お陰で気持ちの整理が付いた。
・・・・・今回は、妹紅に教わってしまったな。」
「・・・こんな相談なら、いつでも乗るさ。 ・・・また来てくれ。」
「あぁ・・・。 今度来る時は、何か土産でも持って来よう。」
「なら煙草でも頼むよ。 ・・・そろそろ残りが無くてね。」
慧音は、少し顔を歪ませる。
「・・・・身体に悪いぞ?」
だがその表情には一片の曇りも見られない。
快活で、それで居て規律に厳しい。
それはいつに変わらぬ慧音の姿だった。
「だがまぁ。」
とっくに吸う事を忘れてしまっていた、殆どが灰になっていた煙草の、最後の一息を吸い上げる。
「たまには、悪くないな。」
燃え尽きた最後の灰が、風に靡いて薄暗闇の中へと消えて行く。
常人ならば抜け出る事すら困難な、その竹林の片隅に、二人の人影がある。
月はその形を大きく欠けさせ、切っ先のような鋭利さを以って空にある。
故に、明かりさえも乏しいその中で、二人は静かに言葉を交わす。
「・・・・いいのか?そんな物吸って。」
「なぁに、たまには構わんだろう。 ・・・それに、どうせ誰も咎めん。」
そう言って慧音は煙草を咥える。
その表情には少々の疲れと、そしてそれ以上に、悩める者特有の影が落ちていた。
誰の目にも一目で分かる程、今の慧音の心は摩滅し切っている。
だが、その疲れを推して、妹紅の元に来たのだった。
「・・・疲れてるなら家で休んだ方がいい、身体に響く。」
慧音は妹紅と違い、不死の身体ではない。
病にも罹るし酷い怪我を負えば死に至る。
また半妖である故に・・・妹紅の寿命に比べれば、慧音の命など刹那に過ぎない。
「疲れてはいるが・・・、少し、妹紅と話がしたくてな・・・。」
慧音はライターで火を付ける。
お世辞にも慣れた動作とは言えず、煙草も火の付き方が偏ってしまっている。
「・・・ぐっ、げほッ! ・・・何だこれは、お前はこんな物を好んで吸っているのか?」
「・・・慣れないと不味いだけだ。 止めておけ。」
慧音は一瞬だけ迷った後、再び煙草を咥える。
少し咽せながらも、肺に煙を流し込む。
「・・・・慧音、今日はどうしたんだ・・・。」
今日の慧音は明らかに纏う雰囲気が違っていた。
いつもならば快活で、それでいて規律に厳しいと言うのに。
今は、普段決して口にしない煙草に火を付けている。
「いや何、大した事じゃないんだ・・・。」
「・・・私で良ければ、話を聞くぞ。」
慧音は、ふぅ、と大きく煙を吐き出した。
紫煙は空へ昇り、薄明かりを放つ三日月を僅かに翳らせる。
「・・・・吸わんのか?」
慧音は煙草を勧める。
・・・妹紅は昔から煙草を嗜んでいたが、よく慧音に止められていた。
何でも"健康に悪いから"だそうだ。
・・・・蓬莱の薬を飲んだ妹紅からは、健康と言う言葉すら、既に失われているのだが。
「・・・・・・。」
妹紅は一本の煙草を咥える。
「ほら。」
慧音は、妹紅が自分のライターを使う前に火を差し出す。
煙草の先端が炎に包まれ、静かに紫煙が立ち昇って行く。
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「・・・・と言う訳だ。」
慧音が語って聞かせたのは、とりとめも無い愚痴のような物だった。
やれ寺子屋の子供が言う事聞かんだの。
やれ妖怪が里の周りに出没しているだの。
やれ真夜中に叩き起こされて妖怪退治に向かっただの。
・・・確かに極度の疲労を伴うような日常ではあった。
だが。
「・・・・・・・・慧音・・・・・。」
「ん?どうした?」
煙草も既に半分程が燃え落ちていた。
元々そう長い時間吸う物ではない。
全て燃え落ちるまで、そうは掛からない。
「それだけじゃ、無いだろう?」
・・・慧音の表情には、未だ憂いのような影が漂っていた。
細い月の僅かな明かりでも見て取れるほど、それは色濃く妹紅の目に映っている。
「・・・・妹紅は鋭いな。」
そう言って慧音はせせら笑い、再び煙を空へと吐き出す。
それは煙草の先からたなびく煙と混ざり合い、やがて空気に溶けて消えて行く。
「最近思うんだ。 私は何をしているのだろう・・・・とね。」
「・・・・・・・。」
「私は妹紅のように長い命がある訳じゃない。 強い力がある訳でもない。
その短い命を使って私は一体何をしているのだろう・・・・・・・・と。
そんな事を考えてしまったんだ。」
慧音は自嘲気味に笑う。
その表情には痛みにも似た歪さが混ざっていた。
「当然、里の皆の事は愛している。 私の守るべき、美しい里だ。
だが、こうしてずっと妹紅の生き様を見ているとな・・・・
そんな私の命でさえ無意味に思えてくる。」
「慧音・・・・。」
「私はいずれ死ぬ。 妹紅の命に比べればずっと短いその時間に・・・・・
私はこんな事をしていていいのか? 私は、もっと・・・・・。」
・・・切実な願いだった。
命在る者ならば誰もが辿り着く思考の淀み。
自らの意味を問い、無意味に意味を見出す事の苦しみ。
永劫に繰り返されるかと思う程に、同じ問いと答えの繰り返し。
「妹紅。 一つ聞きたい事がある。
もし、妹紅の命が限りある物だとしたら・・・・、妹紅はどう生きる?
限りある人生で何を出来るか考えるか? その命をどう使う?」
既に笑みは浮かんでいない。
その表情は、まるで余命幾許も無いかのような、一種の焦りすら見える物であった。
切実で、切迫して、痛みすら感じる程。
既に涙すら溢れては来ない程に、何度も何度も繰り返された問い。
・・・・・・それは、命の問い掛けだった。
「・・・・・・いや、慧音。」
・・・それでも。
・・・・・それでも妹紅は微笑んだ。
妹紅には命に限り在る者の痛みは分からない。
その痛みは、同じ境遇にある者にしか理解し得ない。
だが・・・
「・・・・もし私の命が限りある物だとしても、私はこうして生きる。
こうして、慧音と話をして、時々輝夜と喧嘩して・・・。」
・・・その妹紅自身も、気が触れる程の長い年月を生きてきた。
その中で何度自分に同じ問い掛けをしたか分からない。
死と言う逃げ道すら許されない妹紅のそれは、一体どれ程の苦しみであったろう。
「永遠か須臾かなんて関係ない。
私は自分のしたいようにして生きてきたし、これからもそれは変わらない。
もし私の命が限り在る物だとしても、それは・・・・変わらない。
この先私に死が待ち受けていても、そうでないとしても。
・・・・・・"今"この時を、悔いの無いように生きている。」
「・・・・・・。」
「その上で、慧音に聞きたい事がある。
・・・・慧音のしたい事は、何だ?」
決まっていた。
慧音は人々を愛している。
里の歴史を誇りに思っている。
それを守りたくて、今まで生きてきた。
・・・その時間に、これっぽっちも後悔などあろう筈も無かった。
「・・・・そうだな。 確かにそうだ。
・・・・・馬鹿な考えだったかもしれない。」
既に慧音の表情から憂いは消え去っていた。
そしてその憂いに代わりに残された物は、決意とも呼べる物だ。
「・・・・ありがとう妹紅。 お陰で気持ちの整理が付いた。
・・・・・今回は、妹紅に教わってしまったな。」
「・・・こんな相談なら、いつでも乗るさ。 ・・・また来てくれ。」
「あぁ・・・。 今度来る時は、何か土産でも持って来よう。」
「なら煙草でも頼むよ。 ・・・そろそろ残りが無くてね。」
慧音は、少し顔を歪ませる。
「・・・・身体に悪いぞ?」
だがその表情には一片の曇りも見られない。
快活で、それで居て規律に厳しい。
それはいつに変わらぬ慧音の姿だった。
「だがまぁ。」
とっくに吸う事を忘れてしまっていた、殆どが灰になっていた煙草の、最後の一息を吸い上げる。
「たまには、悪くないな。」
燃え尽きた最後の灰が、風に靡いて薄暗闇の中へと消えて行く。
謝るくらいならあげないほうが良いのでは?
贅沢言うと慧音の悩みやその描写についてもう一捻り欲しかったです。
慧音のその悩みを持った時点などを書けば面白かったかと。
それと「・・・」よりは「…(三点リーダ)」を使ってみるのも。
あと謝りすぎ。
作品自体は悪くないのですから、そんなに謝っていると呆れるだけですよ。
次回なども頑張ってください。
本当に悪いものと思ってるならそもそも上げなければ良い
上げるだけの自信があるか、少なくとも人目に見せたいと思うようなものであれば堂々としてればいい
「謝らなきゃいけないほど酷いものをわざわざ人前に出すお前はなんなの?」ってことになる
話の中身は悪くないと思うが、荒削りな感じ
もそっと話の焦点をはっきりして構成を研げば良いと思う
個人的には空気が好き。喫煙者だからかね?
謝るぐらいなら!次の作品読ませて!
そんな忌憚無き意見が聞きたいが為の投稿だった。
一つ一つの意見が身に沁みるようだ。
あとすまん内心これっぽっちも謝罪なんかしてn(ry