同じような毎日を繰り返す。
そんな味もそっけもない暮らし、今の自分の生き方に気づかぬうちに終止符を打ちたいと
思っていたのだろうか。
彼女――水橋パルスィは地上に出ていた。眩しい世界に立っている現状に
なにより彼女自身が驚いていた。自分はこんなにも大胆だったのかと。
「何をやってるんだか、私」
だが人の多い場所に行く気は毛頭ない。それでもこのまま地底に帰るのもなんだか勿体ない。
ここは静かな場所で新鮮な空気でも吸って気分転換でもはかろうか。
「どこにするかな……ん?」
あてもなく空を飛んでいたパルスィの眼下に、一面に広がる鈴蘭畑が映りこんだ。地底の世界では
ほとんど目にすることのない光景。自然と好奇心が湧く。
鈴蘭畑の中心に静かに降りると、四方八方に広がる鈴蘭の花達の揺れが強くなった気がした。そう、
まるで自分という訪問者が来たことを伝えるかのように――。
「……誰か来たみたい」
ざわ……鈴蘭達が静かに教えてくれる。
こんな場所に来る者は限られている。
永遠亭の連中か……あの人だ。
しかし彼女はそのどちらでもないことを直感する。
面倒だがここで倒れられたり暴れて荒らされても困る。素直に応対しよう。
メディスン・メランコリーは訪問者の方向へと歩きだした。
綺麗だ――最初に出た言葉。その後、こう付け加えた。
――怖いくらいに。
嫉妬というマイナス感情を司る妖怪である性かは知らないが、この鈴蘭からは
嫉妬とは違うマイナスエネルギーを感じる。そこへ、
「いらっしゃい」
声のする方向へ振り向くと、そこには西洋風のドレスを思わせる服に身を包んだ少女が立っていた。
少なくとも人間でないことはわかる。まずここにはまともな神経では立っていられない。
「こんな淋しい場所に来るなんて、お姉さん、物好きだね」
嫌味は一切含まれていなく、あくまでも純粋に興味津津といた表情で訊いてくる少女に、
パルスィはたじろいでしまう。「純粋な気持ち」は妬みを糧にする彼女には不慣れであった。
しかし。
おそらく、ここは彼女の「場所」なのだろう。それならば、ある程度の礼儀――
自己紹介くらいはしておかなければ。
「ええ、この鈴蘭の花の美しさと――怖さに魅せられてね。そうそう、私は水橋パルスィっていうの」
少女は目を丸くしたが、やがて嬉しそうに笑うと、
「パルスィ、さん。初めまして。私はメディスン。メディスン・メランコリーよ。
それにしてもパルスィさん、面白いことを言うね。アリスだって最初にここに来た時は
『魅せられた』なんて言わなかったよ」
くるり――。
踊るように周囲の鈴蘭を見回した後、スカートの両端を掴んで一礼するメディスン。
さながら深窓の令嬢を思わせる仕草にパルスィは一瞬全てを忘れて見とれた。
「人間ならとっくに倒れてる……パルスィさんも妖怪なんでしょ?
ここの毒気に全然当たってない」
「……毒気、か。でもこれは毒だけじゃない、もっと……」
そこで気が付く。
(メディスン・メランコリー……メランコリー?)
「なるほど……『憂鬱』か……」
ずっと感じていたマイナスエネルギーの正体がわかり一人納得するパルスィだったが、
メディスンはそれを見て不満そうに頬を膨らます。
「パルスィさーん? なに一人でブツブツ言ってるの? 今更毒に当てられたなんて無しだよー?」
「あ、ああ、なんでもないわ。それよりメディスン、さん付けはなんか恥ずかしいから
普通に呼んでくれていいわよ」
「ん、わかったー」
メディスンがあまりに素直に頷いたため、思わず笑みがこぼれてしまう。
(嫉妬妖怪の私が地上で憂鬱が充満する場所にいるだなんて……ね)
二人を包む鈴蘭の花達は風に身を委ねて自然に揺れていた。
これほど他人と会話をしたことは初めてなのではないだろうか。パルスィは自分のことのくせに
驚きを隠せずにいた。
彼女――メディスンと話していると、楽しい。
「……そう、メディスンってもともとは人形だったんだ。地上の妖怪も苦労してるのね」
人間に捨てられた人形の妖怪。なるほど、憂鬱が発生するわけだ。きっと彼女の中では人間に対する恨みが充満してるだろう、
と思ったが。
「……でもね、最近は恨むとかが少なくなったの。もちろん、完全に人間を許したわけじゃないけど。
だって、いつもいつも誰かを恨んでたら疲れない?」
「ふふっ、私は妬みがモットーな妖怪だから、どうかしらね。こないだだって、
妬ましい巫女と魔法使いが――」
地下の異変のことを話そうとしたが、メディスンが口をはさんだ。
「あっ、その二人知ってる。たぶん、アリスの知り合い。名前は知らないけど」
「へえ。アリスって、貴女のお友達?」
「うん! 私の一番好きな人!」
目をキラキラさせて元気よく返事をするメディスン。
(いい笑顔。ふふ、妬ましさも通り越すくらいだわ)
きっとアリスという人物はこんな笑顔をいつでもそばで見れるのだろう。
そう思うと顔も知らぬアリスに小さな嫉妬が湧く。
「いい人なのね」
「そうだよ! だってねー……」
アリスの話題になって嬉しかったのか、メディスンはアリスとの出会いから
ずっと話した。パルスィは相槌を打ちつつ、笑顔で話すメディスンに見とれていた。
話を聞き終えたときには、すっかり納得する。
――メディスンがアリスに惹かれることに。
そして辺りはすっかり夕暮れ。
「……そろそろ帰ろうかしら」
「あ、もうそんな時間なんだねー」
一方的に話を聞かされ続けたにも関わらず、パルスィの表情は満足げ。今ならば
彼女を『嫉妬の妖怪』と教えても誰も信じないだろう。そしてパルスィから笑顔を引き出した
本人も充実した顔だ。
「メディスン、今日は楽しかったわ」
「私も! でも私だけ喋ってばかりでごめんね」
「いいのよ、もともと私は話を聞く派だし。本当にいい時間を過ごせたわ。
――ねえ、また来てもいいかな?」
「もちろんだよ!」
初めてできた『友達』。
彼女の笑顔はどんな満開の花よりも華やかで、美しく咲き誇っていた。
「へえ、お友達ができたんだ」
「うん!」
その夜、メディスンはアリスの膝の上で喜々とした表情で今日の出来事――パルスィと
友達になったことを話していた。アリスもまるで自分のことのように喜び、穏やかに微笑み
メディスンの柔らかい髪を撫でている。
(パルスィ……あの時の異変の時の……直接会ったわけじゃないけれど、
なんだか申し訳ない気持ちね)
「今度ここに連れてきていいかな?」
返事代わりにとびっきりの笑顔を向けて髪をわしゃわしゃ撫でてやる。メディスンもわかってくれたようで、
アリスに負けないくらいの笑顔を作っていた。
――まあ、恨まれ役は霊夢達にまかせておこう。
メディスンは今、生涯の中で一番幸せの中にいる。
きっと、まだ物言わぬ人形だった頃でさえ、こんなに楽しい毎日は送っていなかっただろう。
妖怪と呼ばれるようになり、だんだんと自分自身も人形ではなく妖怪ではないかと思い始めてきた。
そんな時、体の不調を感じ、頼ったのが森に住むという人形遣い。勇気をだしてドアを叩いたことを、
今では最高の誇りと思っている。
毒を持つという、人形離れした力を持った自分。かつては狂気に染まりそうにさえなった。
しかしアリスは自分のことを人形として見てくれた。
それがなにより嬉しかったのだ。人形の解放とかつてあれほど唱えていたのは、
もしかしたら自分自身も人形であるということを言い聞かせていたのも含まれていた。
やはり――怖かった。人形ではない別の存在として扱われるのが。
……ここの人形達はみんな主人――アリスのことを心から慕っている。多くの人形は自分のようには喋れないが、
心はあるのだ。
メディスン・メランコリーは人形としての幸せ、そのひとつを噛みしめていた。
花瓶に生けどられた一本の鈴蘭。
日の光が一切入ることのないこの地底深くで、この花は力強く花を咲かせている。
――この花はあの子の分身だものね。
だからこそ、たくましい生命力を持っているのだ。鈴蘭を眺め、一人納得する。
頬は緩みっぱなしで、地底の連中が見たらきっと大異変の前触れかと驚愕するに違いない。
『アリスに会えて、私は変われた』
メディスンの言葉が脳裏に再生される。
妖怪となったばかりの彼女の心は荒んでいたという。あの笑顔を見る限り信じられないが、
実際にそうらしいので違いないだろう。
とにかく人も妖怪も、何もかもが敵のように思えたという。鈴蘭だけが唯一のよりどころだったとも言っていた。
この前まではただの人形だったはずなのに、一人で動け、喋れる。他の人形達と違う部分、それが怖かった。
だから、仲間が欲しかった。人形の解放を唱えたのはそんな心の叫びも含まれていたのだろう。
きっと、自分と同じ立場の子が欲しかったんだろう。
ついつい考えてしまう。
体の不調……捨てられるぐらいだから、ろくに調整なんてされてなかったのだろうが、
困り果てた彼女は噂に聞く人形遣いのもとへ向かった。
――正直、相当勇気を持っての判断だったと思う。
そしてその勇気は花を咲かせたのだ。
『アリスはずっと私を人形として見てくれたんだ』
人形遣いである彼女なら当たり前では――と考え、そして切る。
人形達に心底慕われている、とメディスンは言っていた。
道具同然ではなく、家族として扱っていたとも言う。
(あの子が求めていたもの――それをアリスは持っていたのね)
布団に入る前、パルスィはもう一度花瓶に入った鈴蘭に目をやる。
『友達の証だよ!』
なんだか、照れくさい。
(……アリスとずっと仲良くできればいいな……メディスン)
暗く狭い部屋が、今日はほんのり温かく感じると思いつつ、パルスィは目を閉じた。
――それから。
パルスィはちょくちょく無名の丘へ出向き、メディスンと会うようになった。
頻繁に地上に出向く彼女を見て地底の方々が震天動地の大異変と騒いだがそんなことは
どこ吹く風だ。
こちらでは知られていない花のことを教わった。逆に彼女の手を引き地下の世界を案内したこともあった。
教えられたり教えたり。友好的な関係は続き、メディスンはついに彼女をアリスの家に招くに至った。
「いらっしゃい、貴女がパルスィね。 いつもメディから話は聞いてるわ」
魔法の森。知らぬ者が歩いたら幸運の星のもとに生まれた者でもない限り迷うという。
しかしのたれ死ぬ者が少ないのは、この森に住む住人が迷い人を家に招き、一晩の宿を提供した後
親切にも道案内をしてくれるからだ。
今目の前で柔和な笑顔を見せる少女、アリス・マーガトロイドによって。
「え、ええ。初めまして、アリス」
緊張のためかパルスィの声はやや上ずっていた。他者の家に招かれるなんて、いつ以来か。
もはや記憶の片隅にさえも残っていない。
「じゃあまずは上がって、お茶でも飲みましょうか」
「……そうね」
素直に従う。周囲の人形達が丁寧にお辞儀してくるので負けじと挨拶をしていく。
主人が主人ならこの子たちもこの子たちか。しっかりしている。
居間に案内され、テーブルの椅子へと腰掛ける。テーブルの上にはアリスが用意したのだろう、
淹れたての紅茶とお菓子が置かれていた。
紅茶を一口飲むと次第に心が落ち着く。
メディスンが話を持ちかけ、アリスが笑顔でそれを聞き、ときたま自分にも話を持ちかけてくる。
先ほどならどぎまぎしていたであろうが今なら落ち着いて話せた。
魔法の森の昼下がり。いつもは静かな人形遣いの館はこの日は少女達の笑い声が響いていた。
……いつのまにか日が沈み、暗くなっていた。
メディスンははしゃぎ疲れたのか、ソファーに座るアリスの膝枕で気持ちよさそうに寝息を立てている。
彼女を見るアリスの目はまるで母親のように温かく、その光景にパルスィも頬が緩んでいた。
しかし、窓の向こうがすっかり闇となったことに気づくと名残惜しそうに、
「そろそろ帰らないと」
ソファーから立ち上がろうとすると、アリスはそれを制し、
「今日はもう遅いから泊まっていきなさい」
と呼びかけた。
「え……いいの?」
「メディのお友達は私の友達、なーんてね」
悪戯っぽくウィンク。
「あ……ありがとう、それなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「了解、それじゃあお部屋に案内するわ」
アリスは満足げに頷くと、メディスンをおんぶして立ちあがった。
「あ、わ、私が……」
代わりに、と言おうとしたが恥ずかしくなってやめた。そして声も小さかったため
アリスの耳には入っていないようだ。
客室へと案内され、別れる間際、アリスは後ろで眠るメディスンとパルスィに視線を交互に送り、
パルスィに
「ありがとう。メディのお友達になってくれて」
と言った。
「わ、私もメディスンと話すの、楽しいから」
「ふふ、雛と同じことを言うのね」
「雛? あ、あの子か……」
彼女――鍵山雛とは一度会ったことがある。メディスンに紹介されたのだ。
厄神という神様らしいのだが、メディスンと一緒に映ると面倒見のいいお姉ちゃんに見える。
「それなら貴女もメディと呼んだらいいわ。きっと喜ぶから」
そう、雛もそう呼んでいた。こっそりと自分も呼びたいと思っていたのだ。
「……今日はパルスィ、貴女がメディと一緒に寝てあげて」
「え?」
「その方が友情も深まるでしょ?」
悪戯好きな子供のように笑うアリスに赤面するパルスィ。勝負は見えた。
翌日、パルスィもメディスンをメディと呼ぶことになるのだがそれは語るまでもないだろう。
「――さて」
パルスィと別れたあと、アリスは自室に戻らずになぜか玄関口へと足を進ませた。
「久しぶりだね」
扉の前に着くと、扉の向こうに立つ誰かに声をかける。
その表情はどこか嬉しそうで。
「そうね。本当は昼に着く予定だったんだけど、寄り道したら遅くなった」
パルスィとの会話中に察知した気配。この気は同じ世界で生きた者しか感じられないものだ。
ギギギ……ゆっくり開く扉とともに、懐かしい顔がアリスの視界に入って来た。
「元気そうでよかったわ、アリス」
「うん。そっちもね。夢子姉さん」
「もう、来るんだったら連絡くらいしてくれればいいのに……」
「ごめんなさい。本当は夕方には着くつもりだったんだけど、寄り道しちゃって」
アリスの淹れたコーヒーを一口すすったあと、バツが悪そうに笑う赤いメイド服を着た女性。
魔界神・神綺に仕えるメイドで魔界一の実力者とも言われる夢子。メイドとしての腕も完璧を越え
究極の域にまで達しているとは彼女達姉妹の長女であるルイズの評価だ。
「珍しいね、姉さんが寄り道だなんて」
本当に珍しい。むしろ奇妙な現象だ。普段の仕事に完全忠実主義な彼女に慣れ過ぎたのもあるが、
もしや魔界で大事件でも起きたのか、そんな大げさな考えさえ浮かんでくる。
「ふむ、アリスの淹れたコーヒー、美味しいわ。一緒にメイドやらない?」
「とぼけないでください」
「半分本気なのに……。寄り道の理由ね。この前アリスが教えてくれたじゃない、
幻想郷にもメイドがいて、しかもすごい力を持ってるって」
「ああ――」
普段、魔界とは自室で飾られている水晶で連絡を取っている。ルイズとユキ・マイの三人が幻想郷に旅立つ自分に
くれたものだ。ユキとマイの魔力とルイズの空間干渉能力が封じ込められていて、
本人たちいわく「あらゆる異世界でも通信可能」とのこと。
「なあに、私達の可愛い妹のためだ。これくらいなんてことなかったさ」
ユキが胸を自分の胸を叩きながら自慢げに話してたのを思い出す。
こうして時間が時々故郷・魔界との連絡を取っていた。
魔法の師匠であるユキとマイ。
あらゆる世界を旅し、自らも優れた空間移動能力を持つルイズ。
三人の自信作により離れた家族の絆はいっそう深まったと言っても過言ではない。
そんな会話の中で夢子と話した時に出した話題、それがメイドのことだった。
「こっちの世界にも――しかも、優れた力を持つメイド、なんて聞かれたら、
ぜひともお目にかかりたいと思うでしょう?」
そして今アリスは思いだした。この姉は意外と好戦的な性格であることを。
あの時の異変の時も、お母さんの言葉を無視して戦いに向かっていったっけな。
後から「みんながひどい目にあってたから頭に血が上った」と赤面しながら話していた。
いつものクールな姿とのギャップが激しくて、みんなで笑ってたなあ。
「そ、それでそのメイドと会ってきたのね?」
「ええ――戦ってきたわよ」
ニコリ。
そんな笑顔で返答されても困ります、とさえ言えず、頭を抱えたくなるアリス。
「なかなか強かったわ。弟子にしたいくらいよ。でも、時間を止めるという能力にちょっと
頼りすぎてたわねえ。やっぱり最後の最後は自分の体がモノを言うわ。サラを見てればそう思っちゃう」
「……人間と魔界人の体自体出来は違うよ?」
「そうなんだけどねえ」
くすくす笑い、またコーヒーを一口。優雅という言葉がいちいち合う人だ。
ああ、それよりも後日紅魔館に謝りに行かないといけないのだろうか?
「すみません、先日はうちの姉が迷惑をおかけしました」
こう言っておくか。
「それと、門番の子とサラは気が合いそうだったわ。キャラも近いし」
「そういえば聞いたよ、サラ姉さん、あの天人に勝ったんだって?」
「そうそう、いい気分だったわ。天人をひれ伏させたんですもの」
……みんな強いなあ。いや、正確に言うと「強くなった」だろうか。
そう、あの魔界で霊夢達が暴れた事件から――。
「そうそう、話は変わるけど――」
「はい?」
ニヤリ、と邪悪な微笑みを浮かべる夢子。
「メディスンって子とはうまくやってるかしら?」
「へ!?」
飲みかけていたコーヒーを吹きそうになった。あらあら、はしたないわねえと言う夢子姉さん、確信犯ですよ?
「な、なにを言ってるの姉さん」
「えー? 深い意味はないわよー、特に。ふふ……」
「からかうためにわざわざメイド業休んできたんですか!?」
ムキになるアリスに苦笑いを浮かべながら、夢子はゆっくり首を振る。「それはそれで
面白いけどね」と丁寧に付け加えて。
「もうすぐ魔界で文化祭があるの知ってるでしょう? 貴女が主役に選ばれたのよ――」
詳細はこうだ。
魔界で年に一度開かれる文化祭。単純に楽しむイベントなのだが、まれに
他世界の住人や神を招いて交流を深めたりもする。
今回は舞台をやることになり、神綺がアリスを主役に指名してきたのだ。
またあの人の気まぐれか。溜息は出るが仕方がない。今に始まったことではないからだ。
「今回は異文化コミニュケーションも重視することになって、幻想郷でできたお友達も
連れてきてほしいのよ」
そして白羽の矢が立ったのが連絡でよく聞くメディスン、パルスィ、雛だった。
「今回はルイズ姉さんが脚本を書いたの。ヒロインで迷ってたんだけど、
もうその必要もなさそうね」
再び黒い笑顔を向ける夢子。
「あ、あははは……」
もう笑うしかない。
翌日三人も了承し、一行はすぐに魔界に赴き、神殿に着いて神綺に報告をすませ、
早速ルイズから台本を受け取った。
劇のタイトルは「In those days 」。
高度な文明を持つようになった宇宙の星々は繁栄を築くが持ち過ぎた力を過信するゆえ、
毎日が血で血を洗う争いの繰り返し。何度作り直してもこの悲劇を繰り返すことに嘆く神は
またしても宇宙を一度無に還し、新たな世界を作ろうとするが、己の無力さを嘆く。
そこで「我が子」に新たな未来を託そうと「小さな箱庭」という少数の生命達による理想の世界へと
送り込む。
森に倒れた主人公をヒロイン、リーゼロッテが介抱し、自分の名前も何もかもわからないという彼に
アリステルという名前を与え、自分達の村で暮らさないかと誘う。
リーゼロッテの可愛さと優しさに惹かれていた彼は、アリステルとして暮らすこととなる。
そんな彼がリーゼロッテと恋仲になるのに時間はかからなかった。
恋する喜びを賛歌する二人に、神が残酷な真実を告げる。
全ては作られ、仕掛けられた舞台。住む人々も人形に過ぎない、すべてはお前を
神として育てるためだけの目的で作ったものだ。もう必要はない、と。
そこでアリステルの出した答えは――。
稽古やらなんだであっという間に時間は過ぎていき、もう前日となった。
メディスンの部屋にパルスィと雛が訪ねてきた。ちなみに二人は村人役である。
二人はメディスンの心を知っていたので、背中を叩きに来たのだ。
「「思いっきり自分の思いをアリスにぶつけてきなさい!」」
メディスンは大切な親友二人に心から感謝をし、真剣勝負の舞台へと駆けだした。二人は頷き、
小さくも力強い背中が見えなくなるまで見送っていた。
恋する少女とは誰もが夢見るお姫様だ。
――自室にて。アリスは台本のラストシーンを読みなおしていた。
演劇自体には問題はない。しかしやはりメディスンのことを考えると明日が来てほしいような
来てほしくないような気持にさいなやまされる。ベッドにドサっと倒れ込み、柔らかい感触に
背中を預ける。行儀悪いが誰も見ていないのなら知ったことではない。はあ、と大きく溜息を吐く。
――トントン。
「アリス、いるー?」
メディの声だ。聞けば心が安らぎ、そして少し苦しくなる。しかしむげにあしらうことなど
できるはずはない。
「いいわよ、入って。メディ」
ベッドから起き上がり座った体勢で入室を促す。キィ……控え目に開くドア。ゆっくりメディスンの
姿が現れる。
「隣、いいかな」
「どうぞ」
アリスの隣にちょこんと座り、しばし沈黙が続く。
それが何時間続いたのか、それとも一分もしないほどの短時間だったのか、わからない。
しかし、沈黙をメディスンがとうとう破った。
「私――本当は悪い子なんだ」
どうして? 出そうになった言葉をすぐに呑み込む。
「アリスって、仲良い子、たくさんいるよね? 霊夢や魔理沙、あとパチュリーって子と
幽香とも。サニー達もアリスは親切でいい人だって言ってた。こないだの宴会で、
改めて思い知らされちゃった」
宴会――。
前回の宴会で、メディスンは初めて出席した。博霊神社で行われた人妖で賑わう宴。アリスの背中に隠れながら、
自分も知らない人や妖怪と話した。
「アリスが他の子と楽しそうに話してるのみたら、悲しくて胸が苦しかった」
上目づかいでメディスンが真剣な瞳で見つめてくる。アリスもまっすぐにその視線を受け止める。
「私、ずっと言うの怖かった。霊夢や魔理沙みたいに付き合い長くないし、
一緒に異変が解決できるほど強くなんてない。でも、今回アリスと主人公とヒロイン役で出ることになって、
だから――言うべきだと思った。ひっそりと、アリスの心の片隅にでも覚えてもらえるだけ幸せだって我慢してきた。
でも、もう駄目。駄目なんだよぅ!」
アリスの腕に必死にしがみつき、胸中を吐露する。
「アリスは私にとって王子様なの! 人形じゃなくて妖怪と思い始めてた私を
人形だって認めてくれて! 優しくしてくれて! こんなご主人さまだったら私も普通の人形として
ずっと幸せに過ごしていたんだろうなって本気で思ってた!」
涙を流して震える小さな体。
――私はなんてむごいことをこの子にさせてしまったんだろう。
「だから私――っ!?」
アリスは精一杯の勇気を持って自分の想いを全力でぶつけてきたこの小さなお姫様を
抱きしめ、柔らかな髪をそっと撫で、囁いた。
「ごめんね。こんなにつらい思いをさせちゃって。私、メディの王子様失格だよね?」
「そんなこと……ないんだもん……」
嗚咽を交えながら、それでも首をゆっくりと横に振る。
妹のような、娘のような。最初はそんな風に思っていた。しかし日が経つにつれ
彼女のことを人形としてではなく、一人の女の子として見ることが多くなり、愛おしくなった。
しかし、彼女は捨てられた人形。いわば一度裏切られた身だ。自分がこの気持ちを伝えて、
彼女がまた裏切られるんじゃないかと心に不安を抱くのではないか、そう考えると
言い出せなかった。
――その結果が彼女にこんなつらい思いをさせている。
全く、何が人形遣いだ。王子様だ。自分自身を呪いたくなる。
それでもこの子はまだ、自分を信じてくれるのだ。
「ありがとう……メディ」
ぎゅうぅっと抱く腕に力を込める。離れえぬよう、流されぬように。
王子様の抱擁で、泣いていた小さなお姫様の顔に笑顔が戻った――。
『さあ行こう、リーゼロッテ! 僕らの世界へ!』
『愛してるわ、アリステル!』
物語もとうとう終盤。
神に愛を説き、改心させたアリステルはリーゼロッテと共に箱庭に戻る。
劇の最後の目玉、主人公とヒロインによる歌だ。
歌うと同時に、二人の脳裏に浮かぶは今までの記憶。
Let's send all feather
(全ての羽を送ろう)
「ずいぶんと痛んでるわね、手入れはしてなかったの?」
「仕方ないでしょ。私、捨てられてたんだから」
Let's send a funny day
(おかしな一日を届けよう)
「貴女の人形、本当に貴女のこと慕ってるんだね」
「本当? 嬉しい!」
「……あはは!」
But thunder faraway is we'll be together
(だけど雷が遠くに落ちるのは僕たちが一緒にいるということ)
「ねえ、メディって呼んでいいかしら? 呼びやすいし、愛称ってなんかいいと思わない?」
「メディ……うん。いいよ」
Let's send a holiday
(休日を届けよう)
「ね、アリス。私も宴会に行ってみたい!」
But you are not towardly ray
(だけど君はおとなしい光じゃない)
「あそこは騒がしいのが多いからね。私が守ってあげるわ」
It's only faraway than we'll be together
(それは僕たちが一緒にいるより少し遠いだけ)
「今日はとっても楽しかった! アリス、ありがとう!」
「どういたしまして。ふふ、これでメディも一人前のレディね」
to be star
(星になるために)
「やっぱり私って違うのかなあ。他の子達と。人間は私のこと妖怪だって言ってくる」
to be feel
(感じるために)
「私だって妖怪よ?」
to be fool
(夢中になるために)
「時々思うんだ。自己を持ったんなら、それはもう人形じゃない存在かもしれないって」
finding you
(君を探すこと)
「そうね――人間から見れば、妖怪かもしれない」
to be
and you
(君と)
「でも私から見たら――メディはお人形よ」
and we
(僕たちと)
「今はそれでいいんじゃないのかな?」
「……うん!」
to be
二人の声がゆっくりと重なる。
Lovin' Forever!
(いつまでも愛してる)
「……ふぅ。これで準備完了っと」
身だしなみを整え、メディスンはアリスの部屋へと向かう。
あれから一週間。今日は人里で人形劇をしてほしいと依頼された。少しずつではあるが、
人形達が人間達にも愛され始めている、その手ごたえを感じ、張り切るメディスン。
「あっ、メディ。まだ予定より早いわよ……十分くらい」
「十分前行動が理想的だって難しそうな本に書いてあったよ」
あいかわらず曇りのないまっすぐな瞳。でもおめかしをしているからなんだかお姫様のよう――と。
「そういえば、忘れものがあったわ」
「えっ? 何を忘れ――んむっ!?」
アリスの顔を見ようとして、彼女の顔がいきなり視界いっぱいに現れたかと思うと――
唇に温かいものが重なって来た。しばらくしてそれが離れ、キスされたと気づき顔が赤くなる。
「あ、アリスぅっ!」
「王子様のキス……ってね。ちなみに二度と離れられないという魔法付きよ」
恥ずかしいセリフを満面の笑みでさらりと言ってのける。ならばこちらも負けじと――恥ずかしいけど、
負けじと言う。
「そんな魔法……とっくにかかってるわよ」
部屋の隅に飾られた鈴蘭が恥ずかしそうに揺れた。
そんな味もそっけもない暮らし、今の自分の生き方に気づかぬうちに終止符を打ちたいと
思っていたのだろうか。
彼女――水橋パルスィは地上に出ていた。眩しい世界に立っている現状に
なにより彼女自身が驚いていた。自分はこんなにも大胆だったのかと。
「何をやってるんだか、私」
だが人の多い場所に行く気は毛頭ない。それでもこのまま地底に帰るのもなんだか勿体ない。
ここは静かな場所で新鮮な空気でも吸って気分転換でもはかろうか。
「どこにするかな……ん?」
あてもなく空を飛んでいたパルスィの眼下に、一面に広がる鈴蘭畑が映りこんだ。地底の世界では
ほとんど目にすることのない光景。自然と好奇心が湧く。
鈴蘭畑の中心に静かに降りると、四方八方に広がる鈴蘭の花達の揺れが強くなった気がした。そう、
まるで自分という訪問者が来たことを伝えるかのように――。
「……誰か来たみたい」
ざわ……鈴蘭達が静かに教えてくれる。
こんな場所に来る者は限られている。
永遠亭の連中か……あの人だ。
しかし彼女はそのどちらでもないことを直感する。
面倒だがここで倒れられたり暴れて荒らされても困る。素直に応対しよう。
メディスン・メランコリーは訪問者の方向へと歩きだした。
綺麗だ――最初に出た言葉。その後、こう付け加えた。
――怖いくらいに。
嫉妬というマイナス感情を司る妖怪である性かは知らないが、この鈴蘭からは
嫉妬とは違うマイナスエネルギーを感じる。そこへ、
「いらっしゃい」
声のする方向へ振り向くと、そこには西洋風のドレスを思わせる服に身を包んだ少女が立っていた。
少なくとも人間でないことはわかる。まずここにはまともな神経では立っていられない。
「こんな淋しい場所に来るなんて、お姉さん、物好きだね」
嫌味は一切含まれていなく、あくまでも純粋に興味津津といた表情で訊いてくる少女に、
パルスィはたじろいでしまう。「純粋な気持ち」は妬みを糧にする彼女には不慣れであった。
しかし。
おそらく、ここは彼女の「場所」なのだろう。それならば、ある程度の礼儀――
自己紹介くらいはしておかなければ。
「ええ、この鈴蘭の花の美しさと――怖さに魅せられてね。そうそう、私は水橋パルスィっていうの」
少女は目を丸くしたが、やがて嬉しそうに笑うと、
「パルスィ、さん。初めまして。私はメディスン。メディスン・メランコリーよ。
それにしてもパルスィさん、面白いことを言うね。アリスだって最初にここに来た時は
『魅せられた』なんて言わなかったよ」
くるり――。
踊るように周囲の鈴蘭を見回した後、スカートの両端を掴んで一礼するメディスン。
さながら深窓の令嬢を思わせる仕草にパルスィは一瞬全てを忘れて見とれた。
「人間ならとっくに倒れてる……パルスィさんも妖怪なんでしょ?
ここの毒気に全然当たってない」
「……毒気、か。でもこれは毒だけじゃない、もっと……」
そこで気が付く。
(メディスン・メランコリー……メランコリー?)
「なるほど……『憂鬱』か……」
ずっと感じていたマイナスエネルギーの正体がわかり一人納得するパルスィだったが、
メディスンはそれを見て不満そうに頬を膨らます。
「パルスィさーん? なに一人でブツブツ言ってるの? 今更毒に当てられたなんて無しだよー?」
「あ、ああ、なんでもないわ。それよりメディスン、さん付けはなんか恥ずかしいから
普通に呼んでくれていいわよ」
「ん、わかったー」
メディスンがあまりに素直に頷いたため、思わず笑みがこぼれてしまう。
(嫉妬妖怪の私が地上で憂鬱が充満する場所にいるだなんて……ね)
二人を包む鈴蘭の花達は風に身を委ねて自然に揺れていた。
これほど他人と会話をしたことは初めてなのではないだろうか。パルスィは自分のことのくせに
驚きを隠せずにいた。
彼女――メディスンと話していると、楽しい。
「……そう、メディスンってもともとは人形だったんだ。地上の妖怪も苦労してるのね」
人間に捨てられた人形の妖怪。なるほど、憂鬱が発生するわけだ。きっと彼女の中では人間に対する恨みが充満してるだろう、
と思ったが。
「……でもね、最近は恨むとかが少なくなったの。もちろん、完全に人間を許したわけじゃないけど。
だって、いつもいつも誰かを恨んでたら疲れない?」
「ふふっ、私は妬みがモットーな妖怪だから、どうかしらね。こないだだって、
妬ましい巫女と魔法使いが――」
地下の異変のことを話そうとしたが、メディスンが口をはさんだ。
「あっ、その二人知ってる。たぶん、アリスの知り合い。名前は知らないけど」
「へえ。アリスって、貴女のお友達?」
「うん! 私の一番好きな人!」
目をキラキラさせて元気よく返事をするメディスン。
(いい笑顔。ふふ、妬ましさも通り越すくらいだわ)
きっとアリスという人物はこんな笑顔をいつでもそばで見れるのだろう。
そう思うと顔も知らぬアリスに小さな嫉妬が湧く。
「いい人なのね」
「そうだよ! だってねー……」
アリスの話題になって嬉しかったのか、メディスンはアリスとの出会いから
ずっと話した。パルスィは相槌を打ちつつ、笑顔で話すメディスンに見とれていた。
話を聞き終えたときには、すっかり納得する。
――メディスンがアリスに惹かれることに。
そして辺りはすっかり夕暮れ。
「……そろそろ帰ろうかしら」
「あ、もうそんな時間なんだねー」
一方的に話を聞かされ続けたにも関わらず、パルスィの表情は満足げ。今ならば
彼女を『嫉妬の妖怪』と教えても誰も信じないだろう。そしてパルスィから笑顔を引き出した
本人も充実した顔だ。
「メディスン、今日は楽しかったわ」
「私も! でも私だけ喋ってばかりでごめんね」
「いいのよ、もともと私は話を聞く派だし。本当にいい時間を過ごせたわ。
――ねえ、また来てもいいかな?」
「もちろんだよ!」
初めてできた『友達』。
彼女の笑顔はどんな満開の花よりも華やかで、美しく咲き誇っていた。
「へえ、お友達ができたんだ」
「うん!」
その夜、メディスンはアリスの膝の上で喜々とした表情で今日の出来事――パルスィと
友達になったことを話していた。アリスもまるで自分のことのように喜び、穏やかに微笑み
メディスンの柔らかい髪を撫でている。
(パルスィ……あの時の異変の時の……直接会ったわけじゃないけれど、
なんだか申し訳ない気持ちね)
「今度ここに連れてきていいかな?」
返事代わりにとびっきりの笑顔を向けて髪をわしゃわしゃ撫でてやる。メディスンもわかってくれたようで、
アリスに負けないくらいの笑顔を作っていた。
――まあ、恨まれ役は霊夢達にまかせておこう。
メディスンは今、生涯の中で一番幸せの中にいる。
きっと、まだ物言わぬ人形だった頃でさえ、こんなに楽しい毎日は送っていなかっただろう。
妖怪と呼ばれるようになり、だんだんと自分自身も人形ではなく妖怪ではないかと思い始めてきた。
そんな時、体の不調を感じ、頼ったのが森に住むという人形遣い。勇気をだしてドアを叩いたことを、
今では最高の誇りと思っている。
毒を持つという、人形離れした力を持った自分。かつては狂気に染まりそうにさえなった。
しかしアリスは自分のことを人形として見てくれた。
それがなにより嬉しかったのだ。人形の解放とかつてあれほど唱えていたのは、
もしかしたら自分自身も人形であるということを言い聞かせていたのも含まれていた。
やはり――怖かった。人形ではない別の存在として扱われるのが。
……ここの人形達はみんな主人――アリスのことを心から慕っている。多くの人形は自分のようには喋れないが、
心はあるのだ。
メディスン・メランコリーは人形としての幸せ、そのひとつを噛みしめていた。
花瓶に生けどられた一本の鈴蘭。
日の光が一切入ることのないこの地底深くで、この花は力強く花を咲かせている。
――この花はあの子の分身だものね。
だからこそ、たくましい生命力を持っているのだ。鈴蘭を眺め、一人納得する。
頬は緩みっぱなしで、地底の連中が見たらきっと大異変の前触れかと驚愕するに違いない。
『アリスに会えて、私は変われた』
メディスンの言葉が脳裏に再生される。
妖怪となったばかりの彼女の心は荒んでいたという。あの笑顔を見る限り信じられないが、
実際にそうらしいので違いないだろう。
とにかく人も妖怪も、何もかもが敵のように思えたという。鈴蘭だけが唯一のよりどころだったとも言っていた。
この前まではただの人形だったはずなのに、一人で動け、喋れる。他の人形達と違う部分、それが怖かった。
だから、仲間が欲しかった。人形の解放を唱えたのはそんな心の叫びも含まれていたのだろう。
きっと、自分と同じ立場の子が欲しかったんだろう。
ついつい考えてしまう。
体の不調……捨てられるぐらいだから、ろくに調整なんてされてなかったのだろうが、
困り果てた彼女は噂に聞く人形遣いのもとへ向かった。
――正直、相当勇気を持っての判断だったと思う。
そしてその勇気は花を咲かせたのだ。
『アリスはずっと私を人形として見てくれたんだ』
人形遣いである彼女なら当たり前では――と考え、そして切る。
人形達に心底慕われている、とメディスンは言っていた。
道具同然ではなく、家族として扱っていたとも言う。
(あの子が求めていたもの――それをアリスは持っていたのね)
布団に入る前、パルスィはもう一度花瓶に入った鈴蘭に目をやる。
『友達の証だよ!』
なんだか、照れくさい。
(……アリスとずっと仲良くできればいいな……メディスン)
暗く狭い部屋が、今日はほんのり温かく感じると思いつつ、パルスィは目を閉じた。
――それから。
パルスィはちょくちょく無名の丘へ出向き、メディスンと会うようになった。
頻繁に地上に出向く彼女を見て地底の方々が震天動地の大異変と騒いだがそんなことは
どこ吹く風だ。
こちらでは知られていない花のことを教わった。逆に彼女の手を引き地下の世界を案内したこともあった。
教えられたり教えたり。友好的な関係は続き、メディスンはついに彼女をアリスの家に招くに至った。
「いらっしゃい、貴女がパルスィね。 いつもメディから話は聞いてるわ」
魔法の森。知らぬ者が歩いたら幸運の星のもとに生まれた者でもない限り迷うという。
しかしのたれ死ぬ者が少ないのは、この森に住む住人が迷い人を家に招き、一晩の宿を提供した後
親切にも道案内をしてくれるからだ。
今目の前で柔和な笑顔を見せる少女、アリス・マーガトロイドによって。
「え、ええ。初めまして、アリス」
緊張のためかパルスィの声はやや上ずっていた。他者の家に招かれるなんて、いつ以来か。
もはや記憶の片隅にさえも残っていない。
「じゃあまずは上がって、お茶でも飲みましょうか」
「……そうね」
素直に従う。周囲の人形達が丁寧にお辞儀してくるので負けじと挨拶をしていく。
主人が主人ならこの子たちもこの子たちか。しっかりしている。
居間に案内され、テーブルの椅子へと腰掛ける。テーブルの上にはアリスが用意したのだろう、
淹れたての紅茶とお菓子が置かれていた。
紅茶を一口飲むと次第に心が落ち着く。
メディスンが話を持ちかけ、アリスが笑顔でそれを聞き、ときたま自分にも話を持ちかけてくる。
先ほどならどぎまぎしていたであろうが今なら落ち着いて話せた。
魔法の森の昼下がり。いつもは静かな人形遣いの館はこの日は少女達の笑い声が響いていた。
……いつのまにか日が沈み、暗くなっていた。
メディスンははしゃぎ疲れたのか、ソファーに座るアリスの膝枕で気持ちよさそうに寝息を立てている。
彼女を見るアリスの目はまるで母親のように温かく、その光景にパルスィも頬が緩んでいた。
しかし、窓の向こうがすっかり闇となったことに気づくと名残惜しそうに、
「そろそろ帰らないと」
ソファーから立ち上がろうとすると、アリスはそれを制し、
「今日はもう遅いから泊まっていきなさい」
と呼びかけた。
「え……いいの?」
「メディのお友達は私の友達、なーんてね」
悪戯っぽくウィンク。
「あ……ありがとう、それなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「了解、それじゃあお部屋に案内するわ」
アリスは満足げに頷くと、メディスンをおんぶして立ちあがった。
「あ、わ、私が……」
代わりに、と言おうとしたが恥ずかしくなってやめた。そして声も小さかったため
アリスの耳には入っていないようだ。
客室へと案内され、別れる間際、アリスは後ろで眠るメディスンとパルスィに視線を交互に送り、
パルスィに
「ありがとう。メディのお友達になってくれて」
と言った。
「わ、私もメディスンと話すの、楽しいから」
「ふふ、雛と同じことを言うのね」
「雛? あ、あの子か……」
彼女――鍵山雛とは一度会ったことがある。メディスンに紹介されたのだ。
厄神という神様らしいのだが、メディスンと一緒に映ると面倒見のいいお姉ちゃんに見える。
「それなら貴女もメディと呼んだらいいわ。きっと喜ぶから」
そう、雛もそう呼んでいた。こっそりと自分も呼びたいと思っていたのだ。
「……今日はパルスィ、貴女がメディと一緒に寝てあげて」
「え?」
「その方が友情も深まるでしょ?」
悪戯好きな子供のように笑うアリスに赤面するパルスィ。勝負は見えた。
翌日、パルスィもメディスンをメディと呼ぶことになるのだがそれは語るまでもないだろう。
「――さて」
パルスィと別れたあと、アリスは自室に戻らずになぜか玄関口へと足を進ませた。
「久しぶりだね」
扉の前に着くと、扉の向こうに立つ誰かに声をかける。
その表情はどこか嬉しそうで。
「そうね。本当は昼に着く予定だったんだけど、寄り道したら遅くなった」
パルスィとの会話中に察知した気配。この気は同じ世界で生きた者しか感じられないものだ。
ギギギ……ゆっくり開く扉とともに、懐かしい顔がアリスの視界に入って来た。
「元気そうでよかったわ、アリス」
「うん。そっちもね。夢子姉さん」
「もう、来るんだったら連絡くらいしてくれればいいのに……」
「ごめんなさい。本当は夕方には着くつもりだったんだけど、寄り道しちゃって」
アリスの淹れたコーヒーを一口すすったあと、バツが悪そうに笑う赤いメイド服を着た女性。
魔界神・神綺に仕えるメイドで魔界一の実力者とも言われる夢子。メイドとしての腕も完璧を越え
究極の域にまで達しているとは彼女達姉妹の長女であるルイズの評価だ。
「珍しいね、姉さんが寄り道だなんて」
本当に珍しい。むしろ奇妙な現象だ。普段の仕事に完全忠実主義な彼女に慣れ過ぎたのもあるが、
もしや魔界で大事件でも起きたのか、そんな大げさな考えさえ浮かんでくる。
「ふむ、アリスの淹れたコーヒー、美味しいわ。一緒にメイドやらない?」
「とぼけないでください」
「半分本気なのに……。寄り道の理由ね。この前アリスが教えてくれたじゃない、
幻想郷にもメイドがいて、しかもすごい力を持ってるって」
「ああ――」
普段、魔界とは自室で飾られている水晶で連絡を取っている。ルイズとユキ・マイの三人が幻想郷に旅立つ自分に
くれたものだ。ユキとマイの魔力とルイズの空間干渉能力が封じ込められていて、
本人たちいわく「あらゆる異世界でも通信可能」とのこと。
「なあに、私達の可愛い妹のためだ。これくらいなんてことなかったさ」
ユキが胸を自分の胸を叩きながら自慢げに話してたのを思い出す。
こうして時間が時々故郷・魔界との連絡を取っていた。
魔法の師匠であるユキとマイ。
あらゆる世界を旅し、自らも優れた空間移動能力を持つルイズ。
三人の自信作により離れた家族の絆はいっそう深まったと言っても過言ではない。
そんな会話の中で夢子と話した時に出した話題、それがメイドのことだった。
「こっちの世界にも――しかも、優れた力を持つメイド、なんて聞かれたら、
ぜひともお目にかかりたいと思うでしょう?」
そして今アリスは思いだした。この姉は意外と好戦的な性格であることを。
あの時の異変の時も、お母さんの言葉を無視して戦いに向かっていったっけな。
後から「みんながひどい目にあってたから頭に血が上った」と赤面しながら話していた。
いつものクールな姿とのギャップが激しくて、みんなで笑ってたなあ。
「そ、それでそのメイドと会ってきたのね?」
「ええ――戦ってきたわよ」
ニコリ。
そんな笑顔で返答されても困ります、とさえ言えず、頭を抱えたくなるアリス。
「なかなか強かったわ。弟子にしたいくらいよ。でも、時間を止めるという能力にちょっと
頼りすぎてたわねえ。やっぱり最後の最後は自分の体がモノを言うわ。サラを見てればそう思っちゃう」
「……人間と魔界人の体自体出来は違うよ?」
「そうなんだけどねえ」
くすくす笑い、またコーヒーを一口。優雅という言葉がいちいち合う人だ。
ああ、それよりも後日紅魔館に謝りに行かないといけないのだろうか?
「すみません、先日はうちの姉が迷惑をおかけしました」
こう言っておくか。
「それと、門番の子とサラは気が合いそうだったわ。キャラも近いし」
「そういえば聞いたよ、サラ姉さん、あの天人に勝ったんだって?」
「そうそう、いい気分だったわ。天人をひれ伏させたんですもの」
……みんな強いなあ。いや、正確に言うと「強くなった」だろうか。
そう、あの魔界で霊夢達が暴れた事件から――。
「そうそう、話は変わるけど――」
「はい?」
ニヤリ、と邪悪な微笑みを浮かべる夢子。
「メディスンって子とはうまくやってるかしら?」
「へ!?」
飲みかけていたコーヒーを吹きそうになった。あらあら、はしたないわねえと言う夢子姉さん、確信犯ですよ?
「な、なにを言ってるの姉さん」
「えー? 深い意味はないわよー、特に。ふふ……」
「からかうためにわざわざメイド業休んできたんですか!?」
ムキになるアリスに苦笑いを浮かべながら、夢子はゆっくり首を振る。「それはそれで
面白いけどね」と丁寧に付け加えて。
「もうすぐ魔界で文化祭があるの知ってるでしょう? 貴女が主役に選ばれたのよ――」
詳細はこうだ。
魔界で年に一度開かれる文化祭。単純に楽しむイベントなのだが、まれに
他世界の住人や神を招いて交流を深めたりもする。
今回は舞台をやることになり、神綺がアリスを主役に指名してきたのだ。
またあの人の気まぐれか。溜息は出るが仕方がない。今に始まったことではないからだ。
「今回は異文化コミニュケーションも重視することになって、幻想郷でできたお友達も
連れてきてほしいのよ」
そして白羽の矢が立ったのが連絡でよく聞くメディスン、パルスィ、雛だった。
「今回はルイズ姉さんが脚本を書いたの。ヒロインで迷ってたんだけど、
もうその必要もなさそうね」
再び黒い笑顔を向ける夢子。
「あ、あははは……」
もう笑うしかない。
翌日三人も了承し、一行はすぐに魔界に赴き、神殿に着いて神綺に報告をすませ、
早速ルイズから台本を受け取った。
劇のタイトルは「In those days 」。
高度な文明を持つようになった宇宙の星々は繁栄を築くが持ち過ぎた力を過信するゆえ、
毎日が血で血を洗う争いの繰り返し。何度作り直してもこの悲劇を繰り返すことに嘆く神は
またしても宇宙を一度無に還し、新たな世界を作ろうとするが、己の無力さを嘆く。
そこで「我が子」に新たな未来を託そうと「小さな箱庭」という少数の生命達による理想の世界へと
送り込む。
森に倒れた主人公をヒロイン、リーゼロッテが介抱し、自分の名前も何もかもわからないという彼に
アリステルという名前を与え、自分達の村で暮らさないかと誘う。
リーゼロッテの可愛さと優しさに惹かれていた彼は、アリステルとして暮らすこととなる。
そんな彼がリーゼロッテと恋仲になるのに時間はかからなかった。
恋する喜びを賛歌する二人に、神が残酷な真実を告げる。
全ては作られ、仕掛けられた舞台。住む人々も人形に過ぎない、すべてはお前を
神として育てるためだけの目的で作ったものだ。もう必要はない、と。
そこでアリステルの出した答えは――。
稽古やらなんだであっという間に時間は過ぎていき、もう前日となった。
メディスンの部屋にパルスィと雛が訪ねてきた。ちなみに二人は村人役である。
二人はメディスンの心を知っていたので、背中を叩きに来たのだ。
「「思いっきり自分の思いをアリスにぶつけてきなさい!」」
メディスンは大切な親友二人に心から感謝をし、真剣勝負の舞台へと駆けだした。二人は頷き、
小さくも力強い背中が見えなくなるまで見送っていた。
恋する少女とは誰もが夢見るお姫様だ。
――自室にて。アリスは台本のラストシーンを読みなおしていた。
演劇自体には問題はない。しかしやはりメディスンのことを考えると明日が来てほしいような
来てほしくないような気持にさいなやまされる。ベッドにドサっと倒れ込み、柔らかい感触に
背中を預ける。行儀悪いが誰も見ていないのなら知ったことではない。はあ、と大きく溜息を吐く。
――トントン。
「アリス、いるー?」
メディの声だ。聞けば心が安らぎ、そして少し苦しくなる。しかしむげにあしらうことなど
できるはずはない。
「いいわよ、入って。メディ」
ベッドから起き上がり座った体勢で入室を促す。キィ……控え目に開くドア。ゆっくりメディスンの
姿が現れる。
「隣、いいかな」
「どうぞ」
アリスの隣にちょこんと座り、しばし沈黙が続く。
それが何時間続いたのか、それとも一分もしないほどの短時間だったのか、わからない。
しかし、沈黙をメディスンがとうとう破った。
「私――本当は悪い子なんだ」
どうして? 出そうになった言葉をすぐに呑み込む。
「アリスって、仲良い子、たくさんいるよね? 霊夢や魔理沙、あとパチュリーって子と
幽香とも。サニー達もアリスは親切でいい人だって言ってた。こないだの宴会で、
改めて思い知らされちゃった」
宴会――。
前回の宴会で、メディスンは初めて出席した。博霊神社で行われた人妖で賑わう宴。アリスの背中に隠れながら、
自分も知らない人や妖怪と話した。
「アリスが他の子と楽しそうに話してるのみたら、悲しくて胸が苦しかった」
上目づかいでメディスンが真剣な瞳で見つめてくる。アリスもまっすぐにその視線を受け止める。
「私、ずっと言うの怖かった。霊夢や魔理沙みたいに付き合い長くないし、
一緒に異変が解決できるほど強くなんてない。でも、今回アリスと主人公とヒロイン役で出ることになって、
だから――言うべきだと思った。ひっそりと、アリスの心の片隅にでも覚えてもらえるだけ幸せだって我慢してきた。
でも、もう駄目。駄目なんだよぅ!」
アリスの腕に必死にしがみつき、胸中を吐露する。
「アリスは私にとって王子様なの! 人形じゃなくて妖怪と思い始めてた私を
人形だって認めてくれて! 優しくしてくれて! こんなご主人さまだったら私も普通の人形として
ずっと幸せに過ごしていたんだろうなって本気で思ってた!」
涙を流して震える小さな体。
――私はなんてむごいことをこの子にさせてしまったんだろう。
「だから私――っ!?」
アリスは精一杯の勇気を持って自分の想いを全力でぶつけてきたこの小さなお姫様を
抱きしめ、柔らかな髪をそっと撫で、囁いた。
「ごめんね。こんなにつらい思いをさせちゃって。私、メディの王子様失格だよね?」
「そんなこと……ないんだもん……」
嗚咽を交えながら、それでも首をゆっくりと横に振る。
妹のような、娘のような。最初はそんな風に思っていた。しかし日が経つにつれ
彼女のことを人形としてではなく、一人の女の子として見ることが多くなり、愛おしくなった。
しかし、彼女は捨てられた人形。いわば一度裏切られた身だ。自分がこの気持ちを伝えて、
彼女がまた裏切られるんじゃないかと心に不安を抱くのではないか、そう考えると
言い出せなかった。
――その結果が彼女にこんなつらい思いをさせている。
全く、何が人形遣いだ。王子様だ。自分自身を呪いたくなる。
それでもこの子はまだ、自分を信じてくれるのだ。
「ありがとう……メディ」
ぎゅうぅっと抱く腕に力を込める。離れえぬよう、流されぬように。
王子様の抱擁で、泣いていた小さなお姫様の顔に笑顔が戻った――。
『さあ行こう、リーゼロッテ! 僕らの世界へ!』
『愛してるわ、アリステル!』
物語もとうとう終盤。
神に愛を説き、改心させたアリステルはリーゼロッテと共に箱庭に戻る。
劇の最後の目玉、主人公とヒロインによる歌だ。
歌うと同時に、二人の脳裏に浮かぶは今までの記憶。
Let's send all feather
(全ての羽を送ろう)
「ずいぶんと痛んでるわね、手入れはしてなかったの?」
「仕方ないでしょ。私、捨てられてたんだから」
Let's send a funny day
(おかしな一日を届けよう)
「貴女の人形、本当に貴女のこと慕ってるんだね」
「本当? 嬉しい!」
「……あはは!」
But thunder faraway is we'll be together
(だけど雷が遠くに落ちるのは僕たちが一緒にいるということ)
「ねえ、メディって呼んでいいかしら? 呼びやすいし、愛称ってなんかいいと思わない?」
「メディ……うん。いいよ」
Let's send a holiday
(休日を届けよう)
「ね、アリス。私も宴会に行ってみたい!」
But you are not towardly ray
(だけど君はおとなしい光じゃない)
「あそこは騒がしいのが多いからね。私が守ってあげるわ」
It's only faraway than we'll be together
(それは僕たちが一緒にいるより少し遠いだけ)
「今日はとっても楽しかった! アリス、ありがとう!」
「どういたしまして。ふふ、これでメディも一人前のレディね」
to be star
(星になるために)
「やっぱり私って違うのかなあ。他の子達と。人間は私のこと妖怪だって言ってくる」
to be feel
(感じるために)
「私だって妖怪よ?」
to be fool
(夢中になるために)
「時々思うんだ。自己を持ったんなら、それはもう人形じゃない存在かもしれないって」
finding you
(君を探すこと)
「そうね――人間から見れば、妖怪かもしれない」
to be
and you
(君と)
「でも私から見たら――メディはお人形よ」
and we
(僕たちと)
「今はそれでいいんじゃないのかな?」
「……うん!」
to be
二人の声がゆっくりと重なる。
Lovin' Forever!
(いつまでも愛してる)
「……ふぅ。これで準備完了っと」
身だしなみを整え、メディスンはアリスの部屋へと向かう。
あれから一週間。今日は人里で人形劇をしてほしいと依頼された。少しずつではあるが、
人形達が人間達にも愛され始めている、その手ごたえを感じ、張り切るメディスン。
「あっ、メディ。まだ予定より早いわよ……十分くらい」
「十分前行動が理想的だって難しそうな本に書いてあったよ」
あいかわらず曇りのないまっすぐな瞳。でもおめかしをしているからなんだかお姫様のよう――と。
「そういえば、忘れものがあったわ」
「えっ? 何を忘れ――んむっ!?」
アリスの顔を見ようとして、彼女の顔がいきなり視界いっぱいに現れたかと思うと――
唇に温かいものが重なって来た。しばらくしてそれが離れ、キスされたと気づき顔が赤くなる。
「あ、アリスぅっ!」
「王子様のキス……ってね。ちなみに二度と離れられないという魔法付きよ」
恥ずかしいセリフを満面の笑みでさらりと言ってのける。ならばこちらも負けじと――恥ずかしいけど、
負けじと言う。
「そんな魔法……とっくにかかってるわよ」
部屋の隅に飾られた鈴蘭が恥ずかしそうに揺れた。
彼女たち以外の人物は、出しても名前やどういうことがあったのか
という程度で、三人がちゃんと引き立っていたと思います。
面白かったですよ。
途中読んでいて「ん?まさか…」とは思いましたが
あの出典をこんなところで目にするとは…
冒頭を読んだ段階では、パルスィを主役としたメディスンとの交流ものだと思っていました。
ところが話の主軸はあっさりとアリスに移り、魔界の文化祭の舞台をきっかけとしてメディスンとの絆の深まりが描かれることに。
それはそれでいいのですが、他の方もおっしゃっているように、後半はパルスィが完全に空気と化しています。
雛も何のために登場したのかよく解りませんし。
作品全体が良い雰囲気に包まれていただけに、ちょっと残念でした。
話筋がよかっただけに残念
お話はよかったかと
でも雛を出す理由が見当たらない
パルスィが後半空気です。
雛は出さなくてもよかったんじゃないでしょうか。
もう少し細部を詰めていったら、多少は読みやすいものになると思います。
また、話の展開が唐突すぎます。
話の軸がシフトする部分をもっと丁寧に書いてほしいです。
元ネタを知らないからなのか、話の所々に引っかかりを感じました。。
>こうして時間が時々故郷・魔界との連絡を取っていた。
意味不明です。
>あの時の異変の時
「時」は一つで十分です。
アリスとメディスンは共通点が多い割には作品が少なかったのでかなりうれしかったです。
ですが話の展開の割にはさくさくと物語が進み、全体的な纏まりがなかったような気がします。
アリスとパルシィ、メディスンの馴れ初めから魔界での文化祭へがかなり駆け足で
強引に感じました。作品自体はとても気分よく読めたのでこの点数で…
手厳しく言うと、軸が読めません。
主役が出るのが遅く、第三者視点から描く訳でもなく。
途中で何を読んでいるのか分からなくなりました。
ばっさりカットして、後半をじっくりねっとり書いた方が良かったと思います。