Coolier - 新生・東方創想話

お燐の散歩

2009/02/23 00:40:04
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 しまった!
 門の隙間から気づかれないように侵入しようとしたら、まちがって音を立てちまったよ。うわ、筋骨隆々の中華風門番娘がこっちを睨んでるねぇ。ここはなんとかして誤魔化さないと。

 「…にゃーん。」

 「なんだ、猫か。」

 はぁ、無能な番人で助かったよ。って、そのまま目を閉じるし。立ったまま昼寝でもするのかね。
 その間にあたいは大きな鉄門の内側へと身体を滑り込ませて

 「黒猫。」

 呼び止められるけど、今のあたいは猫だ。人間の言葉はわからないふり。

 「ここには死神よりも確実に命を奪うものがいる。命は自己責任だからな。」

 それが、あたい火焔猫燐が、暗くて怖い紅魔館を散歩する最初の注意事項だった。



 ++++++

 死体のありそうな場所を霊夢に聞いて訪れた紅魔館。
 外から見るよりも、ずいぶん豪奢で広い屋敷だねぇ。
 絨毯はふかふか、掃除も行き届いてる。地霊殿(うち)とは大違いだ。それでも、うちは最低限度の掃除だけはされてるからねぇ。埃は積もらない程度に、ごみは見苦しくない程度に、生活する場所は過ごしやすい程度に、どれも適当で使い勝手がいいようになってる。
 だれがやってくれてるのかな。お空もあたいも掃除は好きなほうじゃないし、ましてやさとり様が掃除してるところなんて見たことない。とはいえ、他のペットたちが掃除なんてするはずもないから、どうだろう。もしかして、あたいの知らないところでさとり様が割烹着を着て掃除してるのかね。
 …いいわ、それ。(じゅるり)

 「あら、猫。」

 考え事してたら見つかった。このあたいに全く気配を感じさせないなんて冥土の…違ったメイドのお姉さん、やるねぇ。

 「にゃーん。」

 愛想だ愛想。人間可愛ければ、なんとかなる。(今は猫だけど)

 「だめよ、この屋敷は土足厳禁なんだから。」

 と言いながら近づいてくる。そして、私の目の前で周囲を見回して。

 「よし!」

 小さく呟くと、抱きかかえられた。
 ほおずり、ほおずり、ぎゅー!く、くるしいってばー!

 「メイド長も肩肘ばっかり張って、楽じゃないわ!こんなの見られたらなんて言われるか。ほんと、こんな可愛い猫とか、レミリアお嬢さまの…とか、そういうご褒美がないとやってらんないわ!」

 ぎゃー、キスするなーっ!!あたいは女だー!同性の趣味はないってぇー!!

 「真っ黒いキミはどこから入ってきたのかなぁ?ほんとはお外に追い出さないといけないんだけど、ちょっとだけ遊んであげるわ。」

 やめろ、このコスプレ女給!手を引っ掻いて胸元から脱出、にらみ合う。…と、気持ちでは思ってるんだけど、客観的に見れば『猫がちょっと嫌がって離れただけ』にも見える。というか、そんな風にしか見えない。
 メイド女はとろけた表情から、ほんの少し理性的な瞳に戻った。

 「黒猫で、二又の尾…ああ、なるほど。」

 すっくと立つ姿は、あまりにも均整の取れた体つき。完璧すぎる姿はどこか人形めいていて、美しいんだろうけど人間っぽさがない。あたいが男だったら、たぶんアンタは抱かないよ。
 その人形が薄く笑う。

 「行きなさい黒猫、風の吹くまま、気の赴くままに。だけど、ここは地獄よりも危険な紅魔館。人のカタチをしたものは鬼なんか目じゃないほどに恐ろしい。
 …特に、地下には行かないほうがいいわ。」

 つかつかと歩み去る足音も、機械よりも正確なリズムで。まったく、無機質な女だねぇ。



 歩きながらさっきのメイドのことを考える。
 完全っていうものがあるとしたら、ああいう感じなんだろうねぇ。左右対称、正確無比、そんな感じの集大成。根も真面目なんだろうね。
 でも、そういう奴に限って危ないんだ。だってさっきのメイド、誰にも気づかれないように服の内側に沢山のナイフを仕込んでたし。たまたま胸元覗き込んだから見えたけど、ありゃあ普通じゃないね。絶対におかしいよ、どっか狂ってる。
 と、ひとつの扉の前で立ち止まる。
 かび臭い。死体とは違った臭いのようだけど、空気の淀んだ感じが扉の向こうから流れてくる。

 「あらぁ、ねこさんですかぁ?」

 !!?
 どこっ?

 「こらこらぁ、やかたはどうぶつさん禁止ですよぉ、って言ってもわからないよね。」

 廊下のわだかまる闇が、女の姿をかたどる。血を吸ったような真っ赤な髪と、背には黒いこうもりの羽。
 …こう書くと恐ろしそうなイメージだけど、なかなかどうして、かわいい女の子だねぇ。にへらっと笑った顔に締りがなくて、ちょっとのんびりすぎる感がある。世に恐れられる悪魔なんだろうけど。まぁ、悪魔っていうより小悪魔?

 「まぁ、音さえたてなければだいじょうぶですけど、図書館の主のじゃまだけはしないでくださいねぇ~。」

 やるな、って言われるとやりたくなるのは猫の性質。
 もちろん小さく開いている扉の隙間から…。

 「ちなみに、主は魔術の材料に黒猫が足りないらしいですよぉ。」

 …。
 ままよ。



 入ったのは大図書館。あまりにも沢山の本が収蔵されているので、先も天井も見渡す限り書架と本と闇。かび臭かったのは古い本の臭い。
 さっきの悪魔が言ってたここの主っていうのは、ずいぶん陰気な奴に違いない。
 お天道様の下で生きて誰かと話すことより、薄暗い図書館で死んだ言葉に囲まれることを選ぶんだからねぇ。あたいならゴメンだよ。

 「地獄の火車が何の用かしら?」

 ねぇ、どうしてここの住人はみんな闇に溶けるように生きてるんだい。気配と言うか、生きてる感じが全く伝わってこないんだからねぇ。

 「死体ならここにはないから、他をあたってちょうだい。」

 ばれちゃあ仕方がないので、あたいは猫の姿を解いて本来の人間っぽい姿にもどる。

 「へぇ、陰気なお姉さんがあの珠の本体って訳だね。」

 薄暗い図書館に置かれた、大きなテーブル。対岸にはゆったりとしたローブをまとう長髪のお姉さん。一心に本を読んで、目線すらこちらに向けようとしない。

 「この屋敷は観光に来るような場所じゃないの。あなたはいつか好奇心に殺される。」

 淡々と語る。ずいぶんと風格があるねぇ。さすが木火土金水を自在に操るだけのことはあるよ。

 「地底に降りてきた魔法使いのお姉さんもここに住んでるのかい?」

 「いないわよっ!」

 え、なんでそこで怒鳴るんさ?

 「い、いないけど、もし魔理沙がここに住んでたら…。」

 今度は急に溶け出すような笑顔に。完全に目がどこかにイってる。

 「魔理沙がいたら、二人で…そう…いや、でもいきなりは…。」

 一人でずいぶんノリノリだねぇ。見ちゃいられないけど、楽しそうでよかった。

 「…ダメよ、魔理沙ぁ。みんなが見てるわ。」

 「おーい。」

 「あぁん!もう、魔理沙はせっかちね…。」

 ダメだ。
 そのまま身をくねくねさせて悶える。顔はかわいいんだけど、紫もやしが腰を振って踊っていても誰も喜ばないと思うのよ、あたい。
 もうちょっと現実見つめなよ。あと、よだれ拭きな。

 「あぁ~、ねこさん。へんなスイッチ押しちゃいましたねぇ~。」

 後ろからさっきののほほん小悪魔が近づいてきた。大量の本を抱えてる。

 「あれ、なに?」

 「びょうきみたいなものですよぉ。げんじつがみえなくなる魔法です。ほんものが来るか、いちにちくらい放っておけば治りますから、どうぞおかまいなく~。」

 「悪魔のお姉さんは案外冷たいんだねぇ。」

 「そんなぁ。みたまんまじゃないですかぁ。」

 「どういう意味だい?悪魔っぽいの、それとも癒し系?」

 「うふふ~。わたしは本を整理しますので~。」

 と、背中を向けてぱたぱたと飛び去る。
 なんか、会話がぜんぜんかみ合ってない気がするにゃー。

 「そうそう、ねこさん。変装おじょうずですね。でも、このやかたのひとはみぃんな目がいいので、すぐにみやぶられちゃいますよぉ。
 そしてね、もぉし、かくれんぼうでおにに見つかっちゃうと…」

 一瞬だけ振り向いたその顔は、今までの穏やかさだけを映していた笑顔じゃない。ほんの少しだけ、甘くて苦い毒を含ませて。

 「たべられちゃいます。くくっ…。」

 なんでこの屋敷の人間はみんな捨て台詞を吐くのかねぇ?

 「魔理沙っ、ああん!そんなぁ激しすぎるわ!」

 …もうイヤ、この日陰ぱじゃま。



 そういえば、さっきの悪魔。あたいの変化に最初から気づいてたんだろうねぇ。だって人間のあたいを見て全然驚かなかったじゃない。ほんと、人?が悪いよ。
 はぁ、なんか疲れてきたわ。人間の姿よりは今みたいに猫になってるほうが楽だけど、それでも収穫ナシって言うのは気が落ちるねぇ。
 入る前はあんなにも禍々しい気配を感じてたけど、どうしてかそんなにヤバイ雰囲気を発してるようなものには出会えないしね。あたいの勘違いか、もしくはどこかに隠されているのか。
 どうだろうねぇ。
 その時、急に全身の毛が逆立った。肌が粟立つ。
 きたきたきたーっ!
 これだよ、この感覚!理解するよりも早く感じる根源的な恐怖。何が、どんな風に、そんな疑問を挟む余地もなく、ただただ怖い。それが、死の恐怖!
 ああ、いるんだねぇ。このすぐ近くに『死』が。

 「咲夜、なにか面白いことない?」

 「特に変わったことはありません。」

 近づいてくる本物の気配。廊下の角を曲がったところから、こっちに来る。
 足音は二人分。ひとつは正確なリズムのさっきのメイド。もうひとつはずいぶんと自信があるんだろう、ゆっくりしっかりと歩いてくる。
 威圧するような雰囲気から察するに、館の主、たぶん大男だ。いかつい肩を揺らしながら、眼光鋭く、外見だけで敵を震え上がらせるに違いない。身体に見合った大きな武器でも携えていることだろね。さっきのメイドを従えて、この館の主が、今こっちに向かって廊下を曲がった!
 その姿は…

 「にゃ?」

 あれ、羽の生えた小さなお嬢ちゃんと、さっきのお姉さんしかいないねぇ。ヤバイ気配は確かにあるのにねぇ。
 向こうもあたいに気づいたみたいだ。

 「咲夜、あれは?」

 生意気な口調の小娘。

 「特に変わったことはありません。」

 敬語で答えるメイドのお姉さん。ってことは、小娘のほうが上?

 「私には黒猫が忍び込んでいるように見えるんだけれど。」

 「お疲れでしたらベッドの用意をさせますが。」

 「エプロンに猫の毛がついてる。」

 「!」

 「ひっかかった。相変わらず馬鹿ね、咲夜は。」

 小さいほうが飛ぶように近づいてきた。…スゴイ移動法だねぇ、瞬きひとつする間に距離を詰められちまったよ。
 …そうか、この感じ。大男じゃなかったんだ。

 「黒猫。」

 「にゃー。」

 それでも愛想だ。なるようになるよ。

 「役に立たない咲夜のかわりに、私が教えてあげる。光栄に思いなさい。」

 あたいの喉を撫でる小さな女王。冷たい指と鋭い爪、そして優しい手つき。
 ああ、やっとわかったよ、みんなの捨て台詞の意味が。この小娘が館に巣食う『死』だ。

 「私はレミリア・スカーレット、この館の主よ。誰であろうと私の許可なく紅魔館を歩くことは我慢がならないわ。何のための門番と掃除係なのかしら。…ねぇ、咲夜。」

 ぴっ、と爪があたいの頬を小さく裂いた。
 …は、はは。まいったねぇ、身動きひとつとれないよ。

 「始末いたしますか?」

 「いいわ、猫はおいしくないもの。特に、地底に住んでるような猫は。」

 しかもばれてる。奥歯が、がたがたと震えて止まらない。

 「ほら黒猫、鳴きなさい。できるだけ情けない声で。」

 …怖い、怖いねぇ。怖すぎて声も出ないよ。ねぇ、お空。どこにいるんだい。もしさ、暇なら助けに来てよ。

 「ふん。まぁいいわ。覚えておきなさい、危ないものに出会ったら愛嬌を振りまく前に逃げたほうがいい。」

 ほんと、あんたの言うとおりだ。いいこと言うねぇ。

 「運の良い黒猫。私はこれから出かけるところよ。すぐに帰りなさい。さもないと、殺すわ。」

 あ、はは、ずいぶんあっさりと言ってくれるじゃない。あたいも簡単にはやられないよ。
 …と、威勢が良いのは心の中だけ、しかもただの強がりだ。もっと心の奥のほうは、とっくにぼろぼろになって涙目だよ。

 「咲夜、急ぐわ。…あなたも門番も侵入者を許してしまった。でも今回は許してあげる。」

 「ありがとうございます。」

 ああ、メイドのお姉さんも怯えてる。こんなのと一緒に暮らすのは不幸だねぇ。

 「…でも、私に嘘をついたことは許さない。神社から帰ってきたらお仕置きしてあげる。泣いても叫んでも許してあげない。恐怖と、痛みと、羞恥とに狂いなさい。」

 「何卒、ご容赦を。」

 「違うわ、咲夜。教えたでしょう。こういう時は…。」

 さくや、だっけ。お姉さんが下唇をぎゅっと噛んだ。

 「…はい、レミリア様。ありがとうございます。」

 「ええ、楽しみね。」

 あたいは呆然と見送ったよ。
 …だって、あのメイド、恐怖と絶望の中にほんの一瞬、歓喜の表情を見せたんだから。やっぱり人間ってわからないねぇ。



 浅く切られたあたいの可愛い頬からは、少しだけど血が流れ続けてる。
 もうさっさと帰ろう。いくら死体をゲットしたって、自分が死んだら元も子もないよ。命あっての物種。こんなところ、おさらばだ。
 どうせ気づかれてるんだろうから、人間の姿でちょっと小走り。
 あの小娘に会ってから、ちょっと変だねぇ。この館の何を見ても、恐怖を感じる。廊下の隅の光が届かない闇が怖い、何か潜んでそうで。置いてある彫像が怖い、動き出しそうで。
 あたいはどうにかなっちまったのかねぇ。

     (ねぇ、猫さん。あそびましょ?)

 まいったねぇ、幻聴まで聞こえる。
 でも、幻聴だってわかっていれば怖くない。声に従わなければいいんだ。来た道を真っ直ぐに出口へと向かえばいい。

     (ほら、そこはひだり。次はみぎ。階段下りてまたひだり。廊下はまっすぐ。)

 左で、右で降りて、左。
 あたいは大丈夫。この廊下を真っ直ぐに行けば館の玄関扉までの近道だ。頭ん中の地図だって正確。どうだい、おかしなところはひとつもないよ。

     (ほらほら、左のとびらがあやしいよ。どうしてこんなところに扉があるのかな?)

 あれ?扉の中から死体の臭いがする。
 うん、ちょっとだけ、ほんのちょっと寄り道だ。扉を開けて何もなかったら、すぐに引き返せば良いんだよね。
 そう、あたいは幻聴なんて聞こえてない。おかしな声になんて従ってない。

     (階段をおりたら楽しいことがまってるよ。ふたりであそびましょう。ふふっ…)

 扉の奥には、立派な館に似合わない、切り出した石をそのまま積んだような無骨な階段が真っ暗な地下へと続いていた。
 無音と闇とが怖くてあたいは一人でしゃべっていた。

 「死体の臭いはこの階段の先から漂ってるみたいだねぇ。」

     (そうだよ。)

 「さぞや沢山の怨霊や死体がいるんだろうねぇ。」

     (ええ、たくさんあるよ。)

 「持って帰ったら、さとり様褒めてくれるかな。」

     (壊れるくらい愛してくれるわ。)

 「危なくないよね。」

     (大丈夫、ちょっとあそぶだけよ。)

 「そうだよね、遊ぶだけなら大丈夫だよねぇ。」

     (ほぉら、いらっしゃい。)

 「あいよ、今いくよ。」

     (うふふ…。)

 …ちょっと待て、あたい。
 この館は危ない。地下には何があるかわからない。もし、おかしなところがあったら、今すぐ引き返したほうがいい。猫の本能もそう警告してる。
 でも。
 でも、おかしいところなんて何もない。あたいには幻聴なんて聞こえてないし、ましてやその声と話したり命令されたりなんてしていない。
 出口に急ぐ途中、たまたま見かけた扉を開けたら、そこから死体の臭いがしたんだ。あたいはラッキーなだけだ。危険もない。ただ、地下に行ってあの娘とちょっと遊ぶだけだ。
 …あの娘?あの娘って誰だ。

 「…考えてもわからないことは、考えないに限るよ。とりあえず、降りるかねぇ。」

 そして、あたいは地下へと降りた。猫は好奇心を抑えることが出来ないんだ。



 石の階段を降りきった。
 その先もまた石造りの地下室。ただし、普通の用途で使う場所じゃないことはすぐにわかる。鉄格子の中には壁に打ち付けられた鎖と手枷。地下牢だ。確かに死体を集めるには絶好のポイントみたいだけど、今のところ見当たらない。
 吸い込まれるように奥へ。壁に掛かる薄暗い蝋燭の灯りだけを頼りに。

 「もっと、奥に…。」

 奥へ、奥へ。

 「もっと、…。」

 奥へ。何があるのかもわからずに。

 「奥、に…。」

 そして見つけてしまう。
 うちの広間ほどもある大きな牢獄。正面の鉄格子は大きな力で破壊されていた。
 そこにあるのは床一面を埋め尽くすほどの人骨。10人や20人といった単位じゃない、百、二百、そんな数で足りるのだろうか。
 しかも原型をとどめている骨がほとんどない。あるいは焼かれ、あるいは砕かれ、ねじ切るように、しまいにゃおかしな組み合わせで継ぎ合わせたようなものまである。
 …もし、生きてるうちにやったとしたら、相当な悪趣味だねぇ。

 「いらっしゃい。めずらしい猫のおきゃくさん。」

 誰かがぱちんっと指を鳴らした。
 その音であたいは、はっと我に返る。

 「おはよう、よく眠れた?」

 「う、そ…。」

 …操られてた。
 絶望が心を真っ黒に塗りつぶしていく。ただ、帰ろうと思っていたのに、あんな危ない目にはもう二度と会いたくないのに、自分から危険に飛び込むなんて。
 ねぇ、この感じ、どう説明したら伝わるかねぇ。
 もう会いたくないあの小娘。その何倍も凶悪な力を持った相手が、逃げ場所のない地下であたいを捕捉してるんだよ。しかも、あたいは相手が何処にいるかすらわからない。ここにある闇のすべてが、あたいの死に思える。
 ねぇ、動けないってもんじゃないよ。
 ねぇ、気を失いそうだよ。狂いそうだよ。

 「私はフランドール・スカーレット。フランって呼んでいいわ。」

 ああ、今までの警告の意味がわかったよ。命は自己責任で、地下には行くな、好奇心は猫をも殺すって。そのとおりだよ、わかったよ。他人の意見を聞かなかったあたいが悪いよ。
 ねぇ、だから、誰か、助けて…。

 「あ、お姉ちゃんと先にあそんできたの?ずるーい。」

 無邪気なしゃべり方に、神を飲んだお空と勝負できるほどの威圧感。そのアンバランスさが、かえってあたいの恐怖を煽っていく。
 不意に、背後から絡みつくような気配を感じた。

 「いい、におい…。」

 そして血の流れる頬を舐められる。

 「おいしいのね、猫の血ははじめてだけど。」

 真っ赤な舌の感触に、一瞬意識がとんだ。
 それでも振り向くことすらできない。闇の何処に相手がいるのかわからない。
 もう勘弁しておくれよ。地底に降りてきたあの巫女、魔法使いのお姉さん、お空。誰でもいいよ。お願いだから、誰か来てよ、助けておくれよぉ!

 「ほらほら、何してあそぶ?おにごっこ、かごめかごめ、それともかくれんぼう?そんなに早く壊れちゃイヤよ。死ぬまで私を楽しませてね!」

 あの小悪魔が言った言葉を思い出す。
 『食べられちゃいます。くくっ…。』
 もうやだぁ、やだよう…助けて、さとり様ぁ…。

 「…って、どうして固まってるの。それじゃあ遊べないでしょ?ほら。」

 ふらり、正面に姿を現す悪魔。
 少女の姿をしたそれは、無造作に腕を上げて、平手であたいの頬を叩いた!ぐるぐると、白骨ばかりの床を転がされる。

 「…ったいねぇ。首がとれるかと思ったよ。」

 痛みと、衝撃とで自然と言葉がこぼれる。

 「これで、緊張解けた?」

 「ああ、ありがとよ。」

 ああ、声を出せれば後は簡単。腹の底から、大声と一緒に怒りを奮い立たせればいい。

 「いいよね、その目。強い憎悪で恐怖を覆い隠すの。…それでも、ここにいたひとたちはみんな絶望の果てに壊れていったわ。」

 全く、悪趣味なやつらばかりだねぇ。この館の住人は。
 ほんと、さっきの一撃はありがたかったよ。ほっぺたもじんじんとするし、全身に小さい骨が刺さったりして痛いけど、怯えるばかりじゃなくて動けるようになった。
 『危ないものに出会ったら愛嬌を振りまく前に逃げたほうがいい』
 まったく、あの危険な女王の言うとおりだ!あたいはいきなり階段まで一直線に駆け出した!

 「さあさあ、紅魔館の真の狂気。あたいを捕まえてみな!必ず、さとり様のところまで逃げ切ってみせる!!」

 悪魔の小娘はけらけらと笑って言い放つ。

 「折角楽しめると思ったのに逃げるだけ?まぁ、いいわ。…あそびを、はじめましょう!」

 言い終わった頃には、牢獄のならぶ地下を半分ほども駆け抜けている!
 行けるっ!

 「ほぉら、もっと、もっと速く逃げなさい!“スターボウ”…」

 矢ような弾幕があたいめがけて降り注ぐ。早いけど、荒い!そいつをぎりぎりで避けて

 「まだまだよ!“ブレイク”!!!」

 その矢が爆ぜて、七色の弾幕を撒き散らす。

 「甘いねぇ!」

 矢なら避けられても、雨のように降り注ぐ弾幕に人間の避けきれる隙間なんて存在しない。
 人間ならねぇ!
 でもね、猫になら余裕だよ!!降り注ぐ美しい雨粒の隙間をすり抜ける。

 「変身するなんて、やるじゃない!猫のひと!」

 小さい身体で駆け抜ける。もう、少し。

 「あははっ、そっちは危ないよ!甘い罠にはご用心“クランベリートラップ”!」
 あたいを狙った切れ目のない弾幕で、壁際に追い詰められる。どう切り返すかねぇ。

 「おばかさん。」

 「っ!?」

 次の瞬間、壁から弾幕が放たれる!あたいを狙う弾幕と、壁からの網のような弾幕。それらが交差する瞬間、間一髪、ほとんど偶然に避けきった。
 尻尾に当たったけど気にしてられない。走って、走って、階段はすぐそこ!
 今、たどり着いた!!

 「じゃあね、狂気のお嬢ちゃん!」

 捨て台詞を残して、あたいは階段を駆け上がる。でも、振り向いた背後には、いない?

 「…誰が…。」

 えっ?
 なんで階段の上から声が聞こえるんだい。

 「…誰が、逃げてもいいって言ったの?」

 加速しきった身体は急には止められない。あたいはそのまま小娘に体当たり、跳ね飛ばされて階下へと逆戻りした。
 見上げれば、小娘が燃え盛る炎の大剣を手に立っていた。全身から力が抜けて、呆けたように見えるのに、目だけがほおずきみたいに炯々と輝いてる。

 「…最近は魔理沙たちがあそびにきてくれないんだ。地底の異変がなんとかって…。ねぇ、あなたは地底の猫でしょう?なら、お姉ちゃんたちの代わりにわたしとあそぶ義務があるのよ。」

 あたいは変化を解いてヒトガタへ。

 「ふん、あたいは忙しいんだ。餓鬼のわがままなんかに付き合ってられないよ。」

 「誰もあなたの都合は聞いてない。ここではあなたの意志なんて関係ない。…あなたは死ぬまでここであそぶの。わたしが、決めたんだから。」

 「聞き分けのないことばっかり言ってるから、友達なくすんだよ。」

 「…逃がして、あげないんだからぁっ!!!魔剣“レーヴァテイン”!!」

 空気さえも切り裂いて、炎の大剣を一振りする。
 その圧倒的なまでの破壊力は、巨人でも運べない大きな岩を壊して、石造りの階段を完全に破壊した。



 「げほっ、げほっ!」

 全く、とんでもない力だねぇ。階段ごと壊して道を塞ぐなんて、常識はずれにもほどがあるよ。

 「逃げ道が完全になくなったけど…。」

 岩盤ひとつが完全に崩れたようなもんだ。あの中にまともに巻き込まれた小娘もただじゃ済まされないだろうねぇ。
 脱出する手段はなくなったけど、おいおい探せばいいさ。それよりも、あの悪魔の小娘の恐怖がなくなったことが、よっぽど安心できるよ。
 あたいはその場にぺたんと座り込む。

 「あ、はは、ははは。安心したら、腰が抜けちまったよ。…はは、しばらく立てそうもないねぇ。」

 「そお?じゃあ、あそびはおしまいかしら。」

 「!?」

 崩れた階段を背に、悪魔の小娘は傷ひとつない無邪気な笑顔で立っていた。ホント、勘弁して欲しいねえ。

 「もしかして、私があれくらいで死んじゃうと思った?あははっ、吸血鬼がそんなことで死ねるはずないじゃない。死にたくても、壊れたくても、この呪いに生かされ続けてきたんだから。」

 「ホント残念だよ。お嬢ちゃんの死体を運べなくてねぇ。」

 「死体ならここにたくさんあるわ。」

 「!そうだねぇ。」

 お嬢ちゃんは大事なことをいうねぇ。あたいとしたことが忘れてたよ。
 地上の散歩なんて危ないことは何もないだろうってタカをくくってたから、ゾンビフェアリーも連れてこなかったんだ。
 …これで戦える。

 「よっこしょ。」

 あたいは立ち上がる。言葉は軽く、気持ちは強く。
 怖くない、怖くなんてないんだ。誇り高い猫には9つの命と、3つの名前がある。命を賭ける戦いなんて、それこそ遊びみたいなもんだよ。

 「しょうがない。聞き分けのないお嬢ちゃんに、ちょいとお灸をすえるとするかねぇ。だだをこねる子どもを叱るのは大人の役目だからね。」

 「私、十分に大人よ。お姉ちゃんより強いもの。」

 「甘いねぇ、そう言うのが餓鬼なんだよ!」

 言うと同時に猫に変化、でたらめに走り回る。

 「あはは、なにそれ。それで、逃げてるつもりかしら?それとも、攻撃してるの?」

 悪魔のお嬢ちゃん(フランだっけ?人の名前を覚えるのって苦手なのよ)は、あたいが狂ったように動き回るのを見て余裕の笑い。

 「慢心は身を滅ぼすよ!」

 フランのお嬢ちゃんは気づいてない。あたいはでたらめに動いてるわけじゃない。相手の視線をあたいに引きつけて、設置した弾幕の密度には気づかないように。
 一足ごとに輪を一つ。一つの輪には百八の弾。留めて置いて連ねる弾の輪、百八つ。

 「お嬢ちゃんの菩提を弔う数珠だよ!“怨霊猫乱歩”!」

 一万を越える弾幕が中心に立つお嬢ちゃんを押しつぶす!

 「あら、こんなもの。」

 吹き荒れる弾幕の中から、ひらりひらりと躍り出たのは大きなこうもり。案外に優雅な動作でふわりと着地した姿は、既にフランのお嬢ちゃん。

 「あなたが猫なら、私はこうもりよ!」

 無邪気な笑顔と、ほおずきみたいな紅い目と、無傷の身体で。

 「まぁ、そんなことだろうと、思ったけどねぇ。これくらいで、倒れられちゃ、あたいも、楽しめないからねぇ。」

 「その割りに、息が上がってるじゃない。」

 「準備、運動だよ。」

 「へぇ。」

 にやにやと笑うフランお嬢ちゃん。…だから子どもなんだよ。
 さっきのスペルカードで階段の前から、地下牢の最奥にある白骨の間へと場所を移してる。気づかれないように、まるであたいが逃げ込んできたみたいに。

 「ねぇ、ねこのひと。知ってるかしら、ここは墓場よ。495年のあいだ、私が壊した全ての人間がここで眠ってるの。ここに迷い込んで、生きて帰った人間は…」

 「あたいが、初めてになるんだね。」

 「ざんねんでした、二人もいるのよ。」

 へぇ、意外。見てみたいねぇ、その二人。きっと地底に下りてきた、あのお姉さんたちみたいに強いんだろうねぇ。

 「ねぇ、そろそろ飽きてきちゃった。…魔剣“レーヴァテイン”!」

 お嬢ちゃんの手に、紅く燃え盛る剣が現れる。
 特筆すべきはその巨大さ。地下牢の壁まで4~5人分もあるのに、剣先が壁を貫通していて見えない。
 もちろん、破壊力もさっき見たとおり。あの硬い石壁をひと薙ぎで紙みたいに切り捨てた。一振りされたら、近くにいるだけでやられるだろうねぇ。

 「全部、壊してあげる!」

 無造作に振り回す。走る剣線は鋭く、巻き込まれる空間さえも切り裂いて、迫る。

 「…南無。」

 その一閃を受けて、あたいはこなごなに砕けた。



 「あれ…?」

 あまりにもあっけない結末に、ついていけないフランドール・スカーレット。
 その強力な力ゆえ、当たった相手を粉々に砕いて焼き尽くすレーヴァテイン。確実な手ごたえはあったけど、そこには死体すら残らない。

 「つまんない。」

 気晴らしに手にした魔剣であたりに転がる白骨を砕いていく。それでも不完全燃焼の気持ちが満たされることはない。

 「つまんない、つまんない、つまんない、つまんなぁい!」

 破壊の女神が鬱憤を晴らす中、かたかたと白骨が鳴る。しかし、頬を上気させたフランは気づかない。

 「つまんない、あははっ、つまんなぁい!つまんないんだあ!」

 ひとつ、ふたつと骨が合わさって立ち上がる骸骨。
 破壊に酔うフランは気づかない。背後に骸骨と怨霊の群れが出現してることに。いや…。

 「あははっ、ははっ!!…ねこさん、準備はいいかしら?」

 くるりと振り返る。
 もちろん気づいていたんだろう。ああ、その笑顔の愛らしいこと。

 「ああ、バッチリだよ。」

 だからあたいも精一杯に胸を張って答える。

 「そういや、フランのお嬢ちゃんが名乗ってくれたのに、あたいとしたことが名前を教えるのを忘れてたね。」

 骸骨と怨霊ばかりの王国。どれほどの数になるのだろう、臣下たちは黙して語らず。ただただ異様な威圧感を持って整列している。あたいはそこに君臨する死者の女王。王族の風格を身に纏い、緋色の目を宝石よりも光らせて、真っ直ぐにお嬢ちゃんを見据える。

 「あたいは地底で怨霊の管理をしている火焔猫燐。お燐って呼んでおくれよ。」

 「わかったわ、おりん。」

 くぅぅ~、おとなしくしていればかわいいお嬢ちゃんだねぇ。
 透き通るような白い肌を可愛いドレスに包んで、動かす細い手足はすらりとのびて。短く切りそろえられた金色の髪。整った顔立ちはこぼれんばかりの笑顔に輝いて、くりくりと動く大きな紅い目が印象的に映る。
 外見はお金持ちのお嬢さまに見られるだろう。
 静かにしていれば病弱な少女と勘違いされる。
 話をすれば闊達な女の子だとわかる。
 しかし、戦えば鬼神のごとく強力で、悪魔のように恐ろしい。

 「さっき壊しちゃったのは、ただの骨だったのね。よかった。」

 でも、本当に恐ろしいのは、命のやり取りをなんとも思わないその壊れた価値観。
 だからあたいは教えなきゃいけない。ここに縛られる怨霊と、骸骨たちのために。そしてお嬢ちゃん自身のために。

 「違うよ、フランお嬢ちゃん。」

 そう、決してただの骸骨じゃない。

 「あんたが殺した怨霊のとり憑いた、とっておきの骸骨だよ!」

 骸骨3体がフランに飛びかかる。

 「ただの骨が束になっても、なんともないわ!」

 フランは弾幕を展開。骸骨を破壊する。

 「…ぐっ!なんで!!」

 しかし、まともに弾幕を喰らって膝をついたのは、フランドール・スカーレット。

 「何をしたの!」

 わかってないみたいだねぇ。

 「怨霊のとり憑いたものは、負の感情を鬱屈させるんだ。破壊されることで、怨霊から解き放たれ弾幕を放つ。」

 フランは口の端をにぃと吊り上げた。

 「全部、壊せばいいんだわ。壊して、壊して、最後におりんも壊してあげる。」

 「できるかい。」

 …ごめんね、何度も。

 「蘇えれ!」

 声と共に先ほど壊された骸骨が、フランの足元から立ち上がる!
 フランは手にしたレーヴァテインを振り上げ

 「…くっ!」

 そのまま消し去りつつ、後方へと飛んだ。
 いい判断だよ。至近距離で骸骨を破壊すれば、自らを危険に晒すことになる。とにかく距離をとることがベター。

 「要するに、骸骨を壊さなければいいのね。」

 そう言うフランから笑顔が消えている。
 もちろん一見ベターに見える選択肢っていうのは、だいたい罠だ。

 「まさか。」

 あたいはフランに向かう3体の骸骨から怨霊を引き剥がす。その瞬間、放たれた大量の弾幕。破壊したときとは比べ物にならない量。
 もちろんこんなものでお嬢ちゃんが落ちるわけなんてない。こうもりになってやり過ごす。

 「…やっかいね。」

 顔にも、声にも余裕がなくなったフラン。
 それはそうだ。壊せば手痛いしっぺ返しがくる。壊さなければ押しつぶされる。完全な手詰まりだろうさ。
 圧倒的な死者の数のおかげで、どっちに転んでもあたいの有利。
 それもこれもすべて。

 「ねぇ、フランお嬢ちゃん。」

 「フランでいいわ。」

 「そう。ねぇ、フラン。ここには何人の人間が来たのか覚えているかい。」

 「いいえ、おりんだって今までに食べたパンの枚数は覚えてないでしょ?」

 「あたいはパンなんて食べたことないよ。」

 そうやって、茶化していい話じゃないんだよ。

 「フランはごはんを食べるみたいに人を殺してきたのかもしれない。だけど、殺された人にもみんなそれぞれの人生があったんだ。フランはそれをいつか後悔しなくちゃいけないんだよ。」

 うつむくフラン。

 「さっき怨霊に聞いたよ。495年もの間、殺して、殺して、殺しまくったそうじゃない。フラン、年貢の納め時だよ!自分が殺した人間に追い詰められるがいいさ!地獄で殺した人たちに謝ってきな!!」

 全ての怨霊を憑依!ひしめき、起き上がる骸骨は千を超える。

 「…何よ。」

 うつむいたままのフランが小さく呟いた。

 「495年も苦しめられたのは私のほうじゃない。」

 泣いてる。

 「怖いって、イヤだって言っても外に出してくれなかった。息を止めても、心臓を貫かれても死ねなかった。あんなに苦しかったのに、あんなに痛かったのに!壊れればみんな楽になったのに、私だけはどうしても壊せなかった!!」

 涙は流さない。声もぶれない。
 …だけど、心は泣いて叫んでいるのをひしひしと感じる。これが、たぶんフランお嬢ちゃんの本音なんだろうねぇ。感情を表す術を失って、残ったのは破壊の手段と対象。

 「いいわ。どうせ、壊すことだけが私の存在証明よ。…一度は解かれた最終定理だけど、もう一度証明してあげる。」

 くたり、とフランの身体から力が抜ける。失神したように動かなくなった。あたいはあっけにとられる。
 その時。

 「…波?」

 小さな波が、空間に放たれる。
 最初はゆっくりと動く、ほんの小さな一つの波だった。けれどもその威力は凄まじく、波頭は骸骨たちをなぎ払う。しかも壁で反響し、次第に大きな波になる。
 瞬間的に大量の骸骨が破壊されたことで、弾幕が舞い散ってフランにダメージを与える。
 有利にも見えたけど。

 「やばっ!“死灰復燃”」

 あたいは全力で骸骨を再生。あたいの前に壁のように配置する。
 触れただけで骸骨が砕けるような波紋を、まともに受けてられない。とにかく、物量で波の影響を減らすんだ。
 ばきばきと骸骨たちを破壊して迫る波紋。
 あたいは両腕を身体の前に組んで耐える。

 「…!」

 それでも、かなりのダメージだねぇ。
 受けた瞬間、第2波が放たれる。
 破壊破壊破壊。
 再生再生再生。
 …耐える。

 第3波。
 破壊破壊破壊破壊。
 再生再生再生。
 …耐え。

 「ぐっ!」

 きっついねぇ。でも、勝機はあるよ、この勝負。
 お嬢ちゃんの波紋は、周囲の全ての骸骨を巻き込む。それはつまり、撃ち返しをそれだけ沢山受けるってことだ。もうフランは立ってるのもしんどいはず!
 それに比べてあたいのほうは、逃げ場なんてないけど、規則的にやってくる波紋に耐えていればいい。
 1000の反撃が必ず来る攻撃をしなくちゃいけないフラン。予測の出来る攻撃に耐えるだけのあたい。
 …勝ちは時間の問題だねぇ。
 第4波が放たれる。
 破壊破壊破壊破壊破壊。
 再生再…。

 「がはっ!」

 あれ、タイミングが違…。

 「ぐぁっ!」

 波を撃つタイミングが早まった?弾速が上がってる?
 とにかく再生が間に合わない!!

 「これが地下牢に閉じ込められた私の狂気の結晶、“495年の波紋”よ!加速する破壊の波紋、逃げ場所なんてどこにもないわ!」

 脱力しきった体からは見えにくいけど、ぼろぼろのフランが宣言する。

 「はっ!フランも怨霊たちの恨みからは逃れられないんだ!覚悟しな!」

 だからあたいも意地を張る、ギリギリの、最後の意地を。

 「こうなきゃお互い消耗戦だ。どっちが早く燃え尽きるか、勝負だよ!」

 大きな声で言った瞬間。


 「…ニュークリアー・マスター・スパーク!」


 薄暗い地下牢が、真白な光に包まれた。




 「おーい、フラン!生きてるかー!」

 崩れた石の階段ごと破壊して現れたのは、古風な魔女。霧雨魔理沙。手にした八卦炉からは魔力の残滓か、煙のようなものが漂っている。

 「あちゃぁ、やっぱり新型エネルギーの応用って難しいなあ。」

 「あっ!魔理沙だー!」

 フランは瓦礫の中から元気にぴょこんと起きだして、魔理沙に一直線。

 「フラン!生きてたか。」

 「うんうん、魔理沙も生きてた。」

 「おう!そういえば、最近地底に行ってきて…。」

 楽しそうにはしゃぐフラン。
 あたいは猫になって、やっとのことで瓦礫から這い出てきたけど、この光景を見て完全に毒気を抜かれちまった。
 あれだけの狂気と殺気を纏っていながら、あのお姉さんが来ただけで全部が消えちまったよ。ころころと変わる感情、それは幼い子どもを思わせる。…本当の狂気はそういうもんなのかもしれないねぇ。
 …もう、いいや。あたいだけが戦う気でいるのも、馬鹿みたい。
 猫の姿のまま階段へと向かう。畜生、全身が痛いよ。

 「おりん!」

 「お、いつぞやの黒猫。」

 魔理沙と楽しそうに話していたフランが、地上を目指すあたいに呼びかける。

 「またあそびましょ!」

 …ったく、この子は。

 「お姉さん、魔理沙だっけ。あんた、その子の手をちゃんと握っといてあげなよ。」

 「お、おう。?」

 「じゃあね。」

 と、あたいは破壊された元階段をとぼとぼと上る。

 「ばいばいっ!!おりん、またあそびにきてねっ!!!」

 訳の分かっていないお姉さんと笑顔で手を振るフランを後に、あたいは紅魔館を抜け出した。



 外に出ると、太陽がちょうど地平線に沈む頃だった。
 帰り際、人の姿のまま門を出ようとしたら、門番娘に声をかけられる。

 「楽しめた?」

 あたいがぼろぼろになってるのをからかってるんだろうねぇ。

 「ああ、フランお嬢ちゃんと友達になってきたよ。」

 「!」

 驚く門番を尻目に、あたいは間欠泉を目指してとぼとぼと歩く。



 ++++++

 骨折り損のくたびれもうけ。そんな言葉をとりとめもなく考えていた。
 ついてない日だったよ。うん、ついてなかった。メイドのお姉さんに陵辱されて、悪魔に脅され、魔女には無視された。
 地上のお嬢ちゃんには頬を切られ、地下のお嬢ちゃんにはぼろぼろになるまで遊ばれて。

 「でも…。」

 なんだろうねぇ、このもやもやとした感じ。
 たしかにあたいは大変な思いをした。生きるか死ぬかのところでなんとか抜け出してきた。
 でも、本当に苦しかったのは誰だったのかねぇ。
 495年の間、殺され続けた無辜の人間たち。あの人たちを酷使して、恨みの心に火をつけて、壊れては再生させ、便利な道具みたいに使って戦ったあたい。
 苦しくても悲しくても、495年の監禁の中、命と恐怖を弄ぶことでしか耐えることを知らなかったお嬢ちゃん。…それを殺そうとしたあたい。
 なんだかねぇ。
 あたいは悪くない。それくらいのことなら胸を張って言える。でもねぇ、あたいがほんとの正しくて、フランが本当に間違ってたのか。そんなこと…あたいには…。

 「ん、これは?」

 ああ、もしかして。

 「近くにできたての死体があるみたい…って、おお!」

 大当たり!!湖の外周を行きとは反対のほうから帰っていたら、死体とご対面。いやぁ、ついてるねぇ。

 「もしもーし、生きてるかい?死んでるよねぇ。」

 それにしても、人里離れたこんな場所にどうして死体があるんだろうねぇ。
 あたいはその死体とちょっと話してみた。

 「どうだい旦那、調子は。…うん、そうだよ。死んじゃったんだよ。…まぁ、それは無理だねぇ。」

 死に対する拒絶と、反魂を望む気持ち。普通の死体でよかった。
 魂の奥底まで恐怖に浸かって死んだり、怒りや無念ばかりの死体はまともに話が出来ないことがよくあるからねぇ。

 「死神?そう見えるのかい。いや、あたいはそんなんじゃないよ。でも、ちょっとだけ似たところはあるかねぇ。」

 死神は魂を運ぶけど、あたいが運ぶのは死体と怨霊だからねぇ。

 「うん、なんだい。…そう急がなくていいから、ゆっくり話してごらんよ。」

 どんな賢人でも、どんな貧乏人でも、死んで残すのは未練。あたいが彼らを運ぶ前の短い間、必ずちゃんと話を聞くことにしている。
 …あたいにはそれくらいしかできないからねぇ。
 お天道様は完全に沈んで、辺りには薄闇がたちこめる。ゆっくりと夜へと変わる世界で、死体の懺悔を受け止める。自分の成した善行を、愚かさを、醜い行い…罪を。
 そして、残してきた者たちに対する一片の悔いを。
 うん、うん、と相槌を打ってたら、いきなり。

 「いたっ!」

 あががっ、頭に石をぶつけられたよ。誰だい、まったく。

 「とうちゃんに近寄るなっ!バケモノッ!」

 「威勢のいい餓鬼だねぇ。坊主、命が惜しくないのかい。」

 …おっと、痛みでちょっとキれちまった。ダメだねぇ、あたいも。人間ができてないよ。

 「お、お前なんか怖くないんだ!…と、おと、おとうちゃんから、はなれろ!」

 人間の年はよくわからないけど、やっと自分で考えられるようになったくらいの餓鬼が、棒切れを持って震えながらあたいを睨みつけてる。
 痩せぎすの、血色の良くない子どもだ。ろくなものを食べちゃいないだろうねぇ。
 あたいはため息をついた。やっかいなことに巻き込まれちまったよ。

 「死んでるよ、あんたの父さんは。」

 「し、知ってる!」

 まぁ、それでもよかった。身近な人の死を受け入れていない場合、話はもっとこじれるからねぇ。

 「おとうちゃんにお墓を作ってるんだ、邪魔するな!」

 ああ、それでぼろぼろの板きれと掘り返した浅い穴。大きさは半尋、深さは三寸ってところかねぇ。

 「そんなんじゃ埋める前に白骨になっちまうよ。」

 死体は、腐る。
 死後24時間くらいを境に、硬直していた身体は分解され弛緩する。そして、死斑を纏いながらゆっくりと腐乱していく。…紫と緑。そうして過ごすこと数年。やっとのことで、白骨化する。
 餓鬼にその過程を教えるのも、見せるのも忍びない。

 「うるさい、うるさいっ!とにかくおとうちゃんを連れていくな!」

 やっぱり餓鬼は鋭いねぇ。あたいが死体を持っていくことを本能的に感じてる。
 …まったく。

 「ねぇ。あんたのお父さんは、どうしてこんなところで野垂れ死んでいるのかねぇ。」

 「里のひとたちにいじわるされたんだ、おとうちゃんが言ってた。」

 「ふぅん。」

 「おとうちゃんはしょうがなく、しょうがなくやったんだって…。」

 あぁ、薄々とは気づいてたんだろうねぇ。この餓鬼、苦労するよ。
 …こういう、どうしようもないものを見るのが、あたいは一番苦手だよ。胸の奥が、きゅうって締め付けられる。

 「あんたは3人兄弟の長男。一昨日までは父親と4人で暮らしていた。この湖のほとりで、隠れるように住んでいる。」

 「…。」

 「元は人里に住んでいたんだね。あんたらの母さんは、末の娘を産むとすぐに他界。それ以来、父親は呑んべえになって働こうとしなかった。」

 全部、死体に聞いたこと。ついてない人生っていうのもあるもんだ。

 「とうちゃんのせいじゃないんだ。おかあちゃんがし、死んで辛かったのに、里の人間にイジワルされたんだ。」

 ああ、もう!

 「とうちゃんはやさしかったんだ。酔っ払って殴ったりすることはあるけど、いつもは僕たちと遊んでくれる優しいとうちゃんなんだ。」

 しょうがないんだねぇ、恨みを買うのは慣れてるよ。

 「昼間からあんたたちと遊んで、夜にはおいしい食べ物を運んできてくれたんだね。」

 「…うん。」

 「働きもしないで。」

 「!」

 ごめんよ、どうしても厳しい言葉になっちまう。

 「どこから持ってきたのかねぇ、その食べ物。蓄えなんてしていないのに、どうやって手に入れたんだろうねぇ。」

 「とうちゃんは…。」

 「もちろん、あんただって知ってたんだろう。でも、愛しい父さんのすることだ、理由がある、しょうがないって思ってたんだろう。そんなんじゃ、天国にはいけないよ。」

 「里の人間が…。」

 「その…!」

 ダメなんだよ、甘えちゃ!!罪は、罪でしかない。

 「その里の人間が、何年耐えてきたのかわかるかい!あんたの父さんがあんなにも大事にしてた奥さんを失って、あれほどやる気に溢れてた若者が、酒に飲まれた。みんな心を痛めたんだよ。
 里の人間たちは食料を盗ったことも大目に見てたんだ、何年も何年も。あんたの父さんが心を入れ替えて、真面目に働いてくれるようになるまで!」

 餓鬼の表情が見る見る曇っていく。もう泣き出す寸前。
 あたいは餓鬼の顔を両手で包んで、至近距離から目を覗く。泳いで、逃げる視線を、猫の目でしっかりと捕える。

 「泣くな!まだ、泣いちゃいけない。あんたが受け止めなくちゃいけないんだよ。」

 そして恨んでおくれ、あたいを。

 「一昨年、食べ物がみんな不作だった。里中のみんながひもじい思いをしてる中、病気の末娘のために、あんたの父さんは鶏を一羽盗ってきた。それがばれて、とうとう人の里を追放されたんだよ。」

 「とうちゃんは悪くない!とうちゃんのおかげで、いもうとは助かったんだ。」

 それを免罪符にしちゃいけないんだ。

 「…その代わり、鶏を育てていた隣の子どもが死んだね。あんたの妹と同じ病で。」

 「!!」

 言葉は刃物。深く深くこの子を抉る。
 考えないことで見つめなかった現実を突きつけられて、震えだす子ども。

 「あんたの父さんは、どれほど立派に見えても、どれほど優しくても、許されない罪を犯しちまったんだよ。」

 辛い現実から助けてくれた父の背中。それは侵してはいけない心の聖域。神聖視して、絶対化することで生きてこれた。
 それを土足で踏みにじり、壊したあたい。

 「あんたの父さんは地獄に堕ちる。業火に焼かれ、自らの罪を悔いることになる。」

 「…うん。」

 もう、抵抗する気力すら失った子ども。ごめんよ。

 「残されたあんたたちは、罪人の子どもという汚名を受けて生きていくことになる。人に受け入れられることは難しい。」

 「…ぅん。」

 「それでも、がんばりなよ。」

 小さな背中を、更に丸める子ども。あたいは、その背中をぽんぽんと叩いた。
 途端に火がついたみたいに泣き出す子ども。あたいは、やっぱり抱きしめることしかできない。
 この先、辛い日々が続く。こんなにも幼いのに、一家の大黒柱だ。自分で稼げるようになるまで、何年も泣けないんだ。受け止められるだけの涙は流させてあげよう。

 「あたいはお燐。死体と話が出来る妖怪だよ。」

 「ぅん…。」

 「あんたの父さんは言っていたよ。『箪笥の一番奥に宝石をあしらった髪飾りがある、それを売りなさい』って。」

 「それで、食べ物を…。」

 「いいや、違うよ。『そうして得た金を里に預けなさい。信用を買うんだ。それを担保に、野良仕事を手伝いなさい。』今年は作物も順調に育っているらしいねぇ。じき、猫の手も借りたくなるはずさ。」

 「うん。」

 「汚名を返上して、信頼を得るんだ。何年もかかる。悪口も言われる。露骨にいじめられるだろうよ。途方もなくつらいけど、あんたにならできるね。」

 「…。」

 「あんたの『おとうちゃん』が、あんたにならできると死に際に残した言葉だよ。…できるね。」

 残酷な言葉に

 「…うん。」

 弱々しくても、しっかりと頷く子ども。これで、ちょっとくらいは役に立ったかい『おとうちゃん』。



 死体を持っていくのには反対されると思ったけど、逆に『ありがとう』って言われたよ。
 …ったく、子どもってのは。
 あたいを恨んで、憎んで、殺そうとしてもいいのに。あの子にはその権利があるってのにねぇ。愚かなんだか、鋭いんだか。

 「ん。…どうして旦那の死体を欲しがるのかって?」

 灼熱地獄へと向かう途中、死体から話しかけてきた。

 「そうだねぇ、地獄の業火で焼くためさ。…いいや無理だよ、罰から逃れるなんて。」

 別にあたいが勘弁してもいいんだけど、そうしないとねぇ。

 「いいかい、旦那には罪がある。罪のある魂は地獄に堕ちて、責め苦を受ける。普通なら死神に連れてかれて、永遠とも思える長い間地獄の苦しみを味わうんだよ。
 でもね、あたい達が燃やした死体は灼熱の苦しみを受けるだけ。浄火の贖罪。死体が焼ける頃には、罪と共に魂が浄化される。それは、本当に苦しいけど、長くは続かない。すぐに新たな輪廻へと向かうことになるよ。」

 ん?ああ、それは…。

 「難しいねぇ、奥さんとは再会するのは。…でも、諦めなければいつか会えるよ。輪廻の先で待ってるはずさ。」

 へ?

 「ほんと、あんたら親子は…こういうときは、感謝じゃなくて、恨み言の一つでもいいなよ。」

 お人好しだねぇ。
 …その分、炎に投げ込むときあたいの胸がちくっとするんだよ。



 ++++++

 「さとり様ぁ!」

 今日1日が終わって、あたいはどうしてもさとり様に会いたくなった。…甘えたかった。

 「お燐…今日はどこに行ってたの?」

 いつもどおり、静かなさとり様。感情が表に出てこないその話し方。

 「お仕事してました。」

 地上に遊びに行ってたのに、しれっと嘘をつく。

 「………。」

 あたいの心が読まれてる。
 もっと、もっと読んでください。感じてください、あたいの見たことを。わかってください、あたいのして欲しいことを。
 この、静寂の間がいつもドキドキする。

 「お燐。」

 「はいっ!」

 さとり様は厳しい、冷たい。他人の心は読むのに、何を考えているんだかわからない。
 …みんなそう言うんだ。違う、違う、違う。さとり様は優しい。優しすぎて、辛いことも悲しいことにも耐えられないから、心を閉ざしているように見えるんだ。

 「…こっちに、おいで。」

 さとり様の膝の上、あたいは猫の姿で丸くなる。にゃー、至福!
 ゆっくりと毛並みに指を通していくさとり様。やさしく、流れに逆らわないように。この撫で方がさとり様自身を映してる。優しさと労わりで溢れてる。
 ひゃっ、くすぐったい!

 「お燐…。」

 あたいはうっとりと目を閉じてる、ちょっと眠くなってきた。

 「いつも、あなたに負担を掛けてばかりでごめんなさい。」

 …そんなことない、そう言いたいけれど身体は半分夢の中。ごろごろと声が漏れるだけで、気持ちよすぎて動けないよ。
 そのまま胸元に抱かれる、とても繊細な手つきで。

 「怨霊の管理は、とても負担が掛かる。死体を集めるのだって、そう。あなたががんばってしまうのに、甘えてきたわ。」

 そうじゃないよ、さとり様。あたいは、さとり様のためにならなんだってできる。さとり様が喜んでくれるなら、甘えさせてくれるなら、それが一番のごほうび。

 「ふふ、ありがとう。今日は大変だったわね。あなたが悲しい思いをすると、私の心も痛むわ。今は甘えなさい。…そして、泣きなさい。」

 …猫の涙は生理的なもんだよ。感情とは…。

 「強がらなくていいわ、お燐。私の前ではただのペットの戻っていいのよ。」

 そうだ、あたいはただのペット、思い上がってたのかもしれない。
 怨霊を管理するのは大変だった。だから、辛いこと悲しいことを我慢してたら、さとり様が褒めてくれるって思ってた。勘違い。心配かけちまったよ。

 「…ご褒美、あげるわ。」

 さとり様はちょっと屈むようにして、胸元のあたいにキスをくれる。

 「!!」

 あたいに、キスを!キスメじゃないよ、口と口の…。
 にゃーん…。

 「ふふ、かわいい子。もう、眠りなさい。」

 さとり様の体温を感じて、さとり様の胸に顔を埋めて、さとり様にキスされて。そうしてあたいは眠る。幸せすぎて蕩けそうだよ。
 夢うつつのまま、いろんなことを考える。そうだ、明日は地霊殿の掃除をしよう。最近はサボってたから、ごみも溜まってるし、整理もされてない。さとり様が過ごしやすいように、掃除を…。

 「一緒にね。」

 そう、さとり様と一緒に掃除をしよう。割烹着のさとり様と。お空がじゃましながら、あたいはたくさん働いて、ちょっとドジをするんだ。でも、さとり様がはたきを持ってぎこちない笑顔で見ていてくれる。きっと、すごく楽しいはずだねぇ。うん、明日も楽しい日だ。
 …ああ、なあんだ。地霊殿の掃除は、あたいがやってたんだ。

 おやすみなさい、さとり様。
 はじめまして、りすかです。

 投稿というか、こういうものを書くこと自体が初めてです。空いた時間に書き溜めたものなんで、もしかすると齟齬があるかもしれません。設定関係も…。
 日本語ってむつかしいですね。ホントは、ほのぼの、のほほんとさせたかったんですけどねぇ。
 あと、改行の法則がいまいち掴めません。見やすくしたいんですが、どうでしたでしょう。

 これからもよろしくお願いします。
りすか
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コメント



0.3080簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
とても素晴らしかったです。
5.90名前が無い程度の能力削除
素晴らしかったです
13.100名前が無い程度の能力削除
これはいいお燐
15.100名前が無い程度の能力削除
gj
24.80煉獄削除
お燐が危険に見舞われてますね……。
紅魔館を散策しているのは面白かったですよ。

追記:フランがレミリアのことを呼ぶのは
「お姉ちゃん」じゃなくて、「お姉さま」じゃなかったです?
35.90名前が無い程度の能力削除
全体的にはシリアスなのに、最小限のギャグや台詞回しでテンポを保ってる辺りに才能を感じます。
中盤も後半もそれ単体で短編を作れそうなほどの話なのに、あまり力をいれずに
まったり、すっきりと読ませるバランスですね。他の地霊メンバーの話にも期待したいです。
38.80名前が無い程度の能力削除
はぐぁ!さとり様の接吻が!!!お燐そこを俺と代われ。
それはさておき、お燐の冒険譚でしたね。面白かったです。
でも前半の紅魔館と後半の親子の話のつながりが少し不思議に思いました。
オチにもっていくには親子の話だけでも理由づけできたと思うのですが。紅魔館でお燐が得たものとは何だったのでしょうか。
44.10名前が無い程度の能力削除
微妙・・・
49.80名前が無い程度の能力削除
小悪魔萌えwwww
61.100名前が無い程度の能力削除
にゃあい!!!