※基本的に作者の脳内設定が全力疾走する感じの話になりますので苦手な方は無理をなさらないで下さい
「ママー、眠れない。何かお話して?」
薄暗い明かりに照らされた寝室。
ベッドの中には一人の少女とその母親とおぼしき人物。
もう夜も遅いのだが中々寝付けないのか、少女がベットの中からつまらなそうに訴える。
「そうね、じゃあ『誰からも忘れられた吸血鬼の姉妹』のお話でもしましょうか?」
「誰からも忘れられた?」
「そう、誰からも・ね」
――昔々、ある所に吸血鬼の姉妹がいました――
「昔ってどのくらい?」
「初っ端から話の腰を折らないの。そうね、あなたの生まれる500年くらい昔かしらね」
――彼女達は姉妹揃ってとても変わり者でした。青味がかった銀の髪で体の小さい姉は色々とおかしな所が目立つ子でした。吸血鬼のくせに納豆を喜んで食べたり、日傘一本で日中外を出歩いたり、極めつけに彼女は人間の血を吸うのが大の苦手でした――
「変な子」
「ちゃんと理由があったのよ?」
――彼女は自分達と同じような見た目で、自分達と変わらない心を持っている人間を他の吸血鬼のように『糧』として見る事が出来なかったのです――
「やっぱり変な子よね?」
「そうかもね」
「それでも血は飲んでたんでしょ?」
「そうしなければ生きていけないもの」
――彼女は自分の事を怖れ、嫌う人間からだけ血を吸うように勤めました。そうすれば自分の心が痛む事も少ないと思ったのです。それでも相手が失血死するほど血を吸う事はしませんでした――
「実はただ単に小食なだけだったりして」
「その可能性は捨て切れないわね。次は妹の話ね」
――金の髪でこれまた体の小さい妹も姉に負けないくらいの変わり者でした。彼女は吸血鬼の中でもとびっきりに強い『力』を持ち、その心には夜の王と称される同族達ですら恐れおののく『狂気』を宿していました――
「将来有望だったってことね」
「難しい言葉を知ってるのね。その通りよ」
――彼女が生まれた当時、彼女の周りの吸血鬼達は彼女の将来に大いに期待しました。彼女の『力』ならばあの忌々しい太陽すら破壊できるのではないかと思ったのです――
「笑ってしまうわね」
「それだけ強力な『力』だったってことよ。自分の理解を超えたものに対する過剰な反応は人間も吸血鬼も同じってことね」
――しかしそんな周囲の期待を他所に、彼女自身は自分がそのように振舞うことを望みませんでした。破壊の権化足りえる素質を持ちながらも彼女は一度たりとも何かを壊したいとは願いませんでした――
「平和主義者?」
「正確には『そう在りたかった』と言った方がいいわね」
――周囲の吸血鬼は彼女に失望し、それ以上に彼女自身、自分に絶望していました。自分の意志に関係無く自分の周りのものを傷つけようとする自分の『狂気』が怖かったのです。自然と彼女は誰の目にも触れる事の無い、暗い、地下室に引きこもるようになりました――
「『優しい悪魔』なんて確かに変わり者ね」
「まぁね。周りからは『気が触れてる』なんて言われてたわ」
――そんな事だから彼女は人間の血を吸えないどころか生の人間を見た事すら無かったのです――
「不憫よね。それでまた言い方が生々しいわね」
――吸血鬼の姉はそんな妹を心配していましたが、彼女にはどうする事も出来ないまま多くの時が流れました――
「どれくらい?」
「そうね、他の吸血鬼が彼女の存在を忘れてしまうくらい長い時間よ。まぁ吸血鬼は寿命の割りに記憶力が悪いからせいぜい数百年ってところね」
――そんな無力感を噛み締めるような暮らしを続けていた吸血鬼の姉ですがある日、面白い『噂』を耳にします。その内容は『遠く東の果てに幻想郷なる地がある』というもので『そこは人と妖怪が共存する外界から隔絶された場所で、人々に忘れ去られたものが流れ着く、人知れぬ地である』という事でした――
「『人知れぬ地』ねぇ……」
「そう、『人知れぬ地』。でも彼女が驚いたのは別の所よ」
――『そこには常識の範疇を超えるような強力な妖怪が数知れず存在しており、その中では吸血鬼すら特別な存在ではない』。それを聞いた吸血鬼の姉はすぐさま幻想郷に引っ越すことに決めました――
「『俺より強い奴に会いに行く』とか言っちゃうタイプだった? 違うよね」
「違うわよ」
――吸血鬼の姉はこう考えました。そんな強力な妖怪ですら普通に生活している場所ならば自分の妹もあるいは……と。そこならば誰も自分の妹を腫れ物のように扱う事は無いような気がした。あるいは、そんな彼らの姿を見れば妹も変わる事が出来るのでは? 自分の中の『狂気』と向き合うことができるのではないだろうか――
「ただ妹を救いたかった」
「そう。もしかしたら彼女達が一番おかしかったのは『そこ』かもね。姉は同族から見捨てられた妹を決して見捨てなかったし、妹もそんな姉の前では自然と笑うことが出来た」
「そんなの当たり前じゃない。『家族』なんだから」
「あなたには分からないかもね。ともかくそんな二人は故郷を捨て幻想郷に移り住んだわ」
「それから?」
「それだけ。二人は道に迷うでもなく幻想郷にたどり着き、そこから先は誰も知らない。少なくとも『こっち』の者は誰も・ね」
「きっと幸せになれるわよね?」
「ええ、そうに決まってるわ。さぁ、お話はこれでお仕舞い。もう夜も遅いからお休みなさい?」
「まだ眠くないよ。そもそも夜に眠れる訳が無いじゃない」
「仕方の無い子ねぇ。お父さんとお母さんは出かけてくるけどいい子で留守番してるのよ?」
「はーい」
月明かりに照らされたバルコニー。そこに一人の男が立っていた。
彼は空に浮かぶ月を見つめていた。
彼の背後の扉が開く。
そこから現れた女性は静かに彼の元へと歩み、そっと寄り添った。
「あの子は?」
男は視線を彼女へと向けて尋ねる。
「まだ起きてるわ。眠る気配なんか微塵も見せないのよ?」
諦めを含んだ声を吐き出し、一つため息をつく。
「まぁ仕方ないさ。今日は満月だ」
「それもそうね」
言われて彼女は苦笑する。
「そういえばあなた。今日あの子にお話をしたの。知らない間に随分と賢くなってたわ」
「子供の成長は早いものだよ。何の話をしてやったんだい?」
聞かれて彼女の表情が少しだけ曇る。
「『あの子達』の話をね。何故か急に思い出しちゃって」
「そうか」
男はそっけなく、しかし決して冷たくは無い声で返事をする。
「ねぇあなた? 『あの子達』は向こうで上手くやっているのかしらね?」
「心配いらないよ。私達の自慢の子供達だからね。そろそろ行こうか?」
言って男が手を差し出す。
「ええ、楽しい夜になるといいわね」
その手を取り彼女は答える。
「そうだな」
そう言って二人は夜空へと飛び立つ。
遠く離れた地、もう二度とは会えないであろう娘達を想いながら。
どうかあの二人も自分達と同じ月の下、夜空を羽ばたいていて欲しい。そう想いながら。
二つの影はやがて夜の闇に溶けていく。
月だけが全てを見守っていた……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レミリア「……という話を考えたんだけどどうかしらね?」
パチェ「なにそれ童話のつもり? 話のモデルについてはあえて何も言わないけど……」
レミリア「んっと……まぁ……そんなところね」
パチェ「そうね。子供に読み聞かせる話としてはちょっと難しい単語が多い上に構成が分かり辛いわね。でもまぁ嫌いではないわ」
レミリア「ほんと?」
パチェ「ええ、事実が都合よく捻じ曲げられてるところなんか童話らしくて好きよ?」
レミリア「どういう意味よ」
パチェ「そのまんまの意味よ。それにしても意外だわレミィ……」
レミリア「何がさ?」
パチェ「まさか『そのナリ』で子作り願望があったなんて夢にも思わなかったもの」
レミリア「うっさい黙れ。誰が言ったそんなこと」
パチェ「冗談よ。ところでレミィ?」
レミリア「今度は何よ?」
パチェ「今日は……一緒に寝ましょうか?」
レミリア「……うん。」
少し恥ずかしそうにうつむいた彼女の手を引き寝所へ向かう。
そうだ、そういう日があってもいい。
誰だって言いようの無い不安に駆られることはある。
優しい悪魔が居たっていいではないか。
彼女が得られなかった物のほんの一部だけでも自分が埋めてやれるのならばそうしよう。
パチュリーはそう思う。
自分はこの強く、幼く、そしてか細い夜の女王の親友なのだから……
それはレミリアが紅霧異変を起こすほんの少しだけ昔。
二人の他には誰も知らないお話。
それだけのお話――。
<了>
話を聞かせながら進んでいくのは読んでいて
面白いものでした。
誤字というわけではないけど報告
>「……うん。」
ここだけだったのですが、セリフの文末に「。」は必要ないかと。
それと、最後の場面だけレミリア「云々~~」 パチェ「云々~~~」
となってましたが……言葉でわかると思いますから「レミリア」とか
セリフの前にいれるのは必要ないかと思います。
「自分たちが忘れられ、幻想郷に渡った後にこうなっていたら良いな」という考えを含めて
『話』を作ってみた……ということなのでしょうか?
う~ん……どうなんでしょ?
でもレミリア視点に近いと考えればそれでマッチするけど。
『そのナリ』!!だから良いんじゃない!俺と子d
…ゴメンナサイ、パチェのその台詞だけは発狂せざるをえなかった…。