ある夜、永遠亭の前に妹紅は降り立った。
門の前に控えていた因幡達が頭を下げる。
「お早いお着きですね」
「そうでもない」
妹紅は「ふん」、と息を荒げた。
因幡は妹紅の怒気を感じ取ったらしく、足早に妹紅を招き入れる。
妹紅は変わり映えのしない長い廊下を歩きながら、辺りを見回した。
いつものことながら、この曲がりくねった通路を歩いていると相手の罠に掛かっているような心持ちになる。
「今日はいつも案内するウサギじゃないのか。何て言ったっけ、因幡の」
「てゐですか」
「そうだ」
前を行く因幡は耳を揺らしながら、妹紅の質問に答えた。
「てゐ様は、里へ出かけております」
「もう一匹いたな。ほら、あの、変な服装の」
「優曇華院ですね」
「そうだ。それだ」
妹紅は頷いた。
「てゐ様のお目付役として、里へ行っております」
「そうか」
つい、余計なことを話してしまった。
妹紅はそれきり、黙ってしまった。
間もなく、二人はとある一室の前に着いた。
「こんばんは、妹紅」
「こんばんは」
座敷の中には、輝夜と永琳が座っていた。
輝夜は妹紅の険しい顔を見て、永琳に合図した。
「いいわ。外で控えていて」
永琳は頷いて、因幡の後に続き部屋を出た。
そして、因幡の軽い足音だけが元来た方角へ遠ざかって行った。
行灯と燭台、月明かりに照らされた薄暗い部屋の中で輝夜と妹紅は向かい合った。
「あなたから、来るなんて珍しいじゃない」
「ああ」
「殺し合いにはまだ早いのに」
輝夜は恭しくお茶を淹れた。
妹紅は、自分の前に出された茶を一瞥する。
「毒なんて入ってないわよ」
「私には効かん」
輝夜は「そりゃね」と、茶を啜った。
妹紅の表情が暗くなる。
「今日は何のお話し?」
「分かってるだろう、慧音のことだ」
妹紅は襖の向こうに控えている永琳を気にしつつ、輝夜を睨んだ。
輝夜は口元をにやつかせる。
「何が?」
「この間、慧音に「獣」とか言ったんだって?」
輝夜は噴き出した。
「ああ、言った、言った」
「わざわざそれを言うためだけに、里まで下りていったのか?」
「違うよ。散歩の途中ですれ違ったから」
「とにかくだ」
妹紅は吠えた。
「とにかく、慧音の前で「獣」とか「牛」とか、そういった類の言葉を使用しないでもらおうっ」
いつの間にか、妹紅は立ち上がっていた。
「はい」
「分かっているのか。貴様。私はともかくだな、慧音を侮辱するのは許さない」
「はい、はい」
妹紅は更に熱くなって、輝夜を指さした。
「そ、それに、お前は、その、「満月の時の見た目が気持ち悪い」とか言ったらしいじゃないか。角の何が悪いんだ。尻尾がいけないってか。どこが気持ち悪いって言うんだ。体色か。え、私から見れば、永遠亭のウサギの方がよっぽど気持ち悪い」
もはや、永琳のことなどすっかり忘れて、妹紅は喚いた。
「はい、はい」
「聞いてるのかっ?」
「聞い輝夜(てるよ)」
その瞬間、妹紅の中で何かが弾けた。
妹紅は「真面目に聞け」と叫ぶと同時に、力任せに輝夜の頭を叩いた。
小気味良い音が響く。
すると、輝夜の髪が飛んだ。
「あら」
輝夜の黒髪が飛び、そして畳の上に落ちた。
妹紅は月明かりの中に落ちたそれを注視した。
そして一瞬の後、事態を理解し、絶句した。
「ハ、ハ」
妹紅は目を背けることも出来ず、露わになった輝夜の頭皮を直視した。
頬から冷や汗が流れた。
輝夜は頭を隠そうともせず、畳の上に転がった髪を一瞥した。
「やあ」
輝夜はまるで、今し方会ったかのように妹紅に声を掛けた。
妹紅は黙りこくった。
「ひ、拾わないのか?」
「何を?」
カツラに決まっている。
正座した妹紅は静かに茶を啜った。
舌が麻痺したように、動かない。茶を流し込んでいるのに喉が渇いている。
「お茶、旨いよ」
妹紅は「はあ、はあ」と息を吐いた。
指先が定まらず、空の茶碗が倒れた。
輝夜はゆっくりと立ち上がり、何事も無かったかのようにカツラを手に取ると自分の頭に被せ、元の通り、妹紅の対面に座った。
「ずれてる?」
妹紅の頬から脂汗が噴出し、脚ががくがくと震えた。
馴れない正座のせいでもある。先程から痺れを感じている。
「い、いつからなんだ」
妹紅の喉から甲高い声が漏れた。
「1000年くらい前」
「そうか、その、殺し合いの時は」
「しっかり固定してた。今日は、まあ、油断した」
妹紅は独り言のように「そうか、そうだよなあ。うん、そうだ。そうに違いない」と呟いた。
「ずれてる?」
妹紅は下を向いたまま、顔を上げなかった。
細い指をしきりに、絡み合わせていた。
とにかく、そうしていないと死んでしまいそうだった。
「輝夜」
「何?」
「わ、私は帰るよ」
妹紅が立ち上がろうとすると、輝夜は妹紅の肩を掴んだ。
妹紅は「ひ」と声を上げる。
「離してくれ」
輝夜は無言で肩を掴んだまま離さない。
「離して」
妹紅が生娘独特の声を上げて手を振り払うと、輝夜は更に手を伸ばそうとした。
これがいけなかった。
輝夜の手は肩を通り越し、妹紅の頭に伸びた。
妹紅の白髪が横に飛んだ。
「きゃ」
妹紅の白髪はまとめて畳の上に落ち、月明かりに照らされて輝いた。
二人は向かい合った。
しばらく沈黙の後、輝夜が口を開いた。
「拾わないの?」
「輝夜、お前、ずれてるぞ」
輝夜は「ええ」と言って、頭を整えた。
「もう少し右だ」
「ええ」
妹紅は何事も無かったかのようにカツラを拾い、無造作に頭の上に載せると輝夜の肩を叩いた。
「まあ、座れよ」
「ええ」
二人は顔が触れあうほどの至近距離で正座し、向かい合った。
「あなたはいつから?」
「1000年くらい前だ」
それから会話が途絶えた。
お互いに下を向いたまま、「は、は」と息を吐き、冷や汗を垂らし時折、膝が痙攣した。
しばらくして音も無く襖が開き、そして閉まり、永琳が二人に近寄ってきた。
「は」
「は」
二人は目を見開いたまま、永琳の足音が近寄るのを感じた。
畳の上に冷や汗が染みを作った。
「おい」
妹紅と輝夜は同時に「はうっ」と声を上げ、肩を跳ねさせた。
永琳は二人の肩の上に静かに手を置いて、傍らに腰を下ろした。
「三人だけの秘密な」
でも無くなるのは頭の毛だけですか?
ていうかうちの兄(28)も蓬莱人ぽいんですがどうしよう。
面白かったよ
けどな、
笑えねぇ
永琳が男らしいw
ハゲですんだだけありがた……くねえ
面白いんだけど…
笑えない…
輝夜様ともこたんにかける言葉が見つからない…
もしかして、永琳も…
いやぁぁぁぁ~
震えが止まらないんだけど
しっかし世間には結構蓬莱人居るのかもしれませんね
ひょっとしてうちの会社にも蓬莱人が
そうか、そういうことだったのかリリン
どうやって固定してたんだろうかとか。
作者の頭どうなってんだ?
(髪的な意味ではなく)
どうにかしてよえーりん!!
とりあえず戦闘中ずれなかったヅラに敬礼!
(`・ω・´)ゞ
師匠ー! はやく特効薬を開発してあげて(´;ω;`)
妹紅と輝夜の掛け合いで声出して笑っちまったw
蓬莱人について常識にとらわれてはいけないのですね!
・・・・てゐがいなくて本当によかった・・・。
この雰囲気…気まずすぎて最高だわ;
笑いたいのに笑えない…
天才すぎるだろwwww
なんだコレww
そうか妹紅の動揺もそういうことか
最後のえーりんのセリフ殺傷力高すぎ。二人ともコクコク頷いてるんだろうなあ
タイトルから予想した話と全然違って面白かった