【注意】オリキャラ、オリ設定が含まれています。
そういうのが許せないという方は『戻る』をしてください。
「咲夜、私は寝るわ。後はよろしくね」
私が仕えている方、この紅魔館の主レミリア・スカーレット様が出会い頭にそう言った。
「はい、わかりました。お休みなさいませ、お嬢様」
今日は、吸血鬼らしく朝から寝るらしい。多分気まぐれか何かだろう。
「そして、夜は神社に潜伏よ!」
「……」
気まぐれじゃなかった。実にくだらない理由があったらしい。
「そうですか」
止めたところで中止はしないだろうから何も言わないでおく。
「私はいきませんよ?」
あれは勘がするどいから気付かれるだろう。共犯者にされてはたまらない。
「ええ。邪魔はいない方がいいわ」
そう言ってニヤニヤ笑いながら行ってしまった。
あまりそういうくだらないことはしてほしくないのだが。
だからカリスマ暴落中とか言われるんだ。
こっそり付いて行って止めようかとも思ったがろくでもないことになる気がするのでやめた。
……さて仕事、仕事。
私はこの紅魔館でメイド長という役職についている。
メイド長というからには、他のメイドの指導など色々すべきことがあるはずなのだが、いかんせんメイドは私以外は妖精である。
この妖精というのは厄介で、真面目に働く気がなく気ままに過ごしている。
……何で雇っているんだ? とも思うが、侵入者などに対しては戦力になってくれる。
まぁ、うちの門番をやぶれる力を待つものにたいしては大した戦力にならないが。
……あれっ? 今矛盾が生じたような気がする。
気にしないことにしよう。そうしないとやってられない。
とにかくちゃっちゃと掃除を終わらせよう。
「メイド長って素敵よね~」
「そうそう、いつもクールな感じがいいよね~」
「うんうん」
角を曲がる直前にそんな話し声が聞こえてきた。
「こらっ! あなた達無駄話をしてるくらいなら仕事しなさい!」
「わあっ! すみませ~ん」
怒鳴ってやると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「はぁ」
どうしてこうなのかしら。
まあ、ああやって好感を持たれるのは悪い気はしない。少々恥ずかしい気もするが。
でも、慕っているなら手伝ってくれてもいいのに。
いくら時間を止めれるからと言っても疲れるものは疲れる。
「あのぉ」
「んっ? なにかしら?」
「ヒッ」
いけない、いけない。苛付いていた時に話しかけられたものだから睨むような目で見ちゃったわ。
「あっ、ごめんなさい」
「こちらこそ急に話しかけてすみません」
そこにいたのはポニーテールでかわいらしい顔をしたメイド服を着ている妖精だった。
どうやらさっきいたうちの一人らしい。
「で、何かようかしら」
「えっと、私に何か手伝えることはないでしょうか?」
「……!?」
今この娘は何と言った?
「あのぉ。私変なこと言いましたか?」
「えっ!? あ、いや、そうじゃなくて、そんな言葉をここのメイドから聞くとは思ってもみなかったから驚いちゃっただけよ」
「そ、そうですか」
いけない、いけない。あもりにも衝撃的な言葉を聞いたので固まっていたみたいね。
「それで、何か手伝うことは?」
「そうね……。私はこれから買出しに行くから、掃除をしてくれるかしら? 一階だけでいいわ。それとたまに門の様子も見ておいてね。門番が寝ているようだったらどんな手段を使ってでもいいから叩き起こしなさい。フライパンで頭を思いっきり叩くくらいしたら起きるでしょう」
あの娘はちょっと目を離すとすぐに居眠りしおるから困りものだ。
おそらく私が買出しに言ったことを知れば気を抜くだろう。
まあ、侵入者といえばどこぞの黒白魔法使いくらいしかいないから暇なのだろうが、だからといって仕事中に居眠りしていい理由にはならない。
「も、門番って紅美鈴さんのことですよね?」
「当たり前じゃない」
「む、無理ですよぉ。そのことを根にもたれたら私ごときじゃすぐに消されちゃいますよ」
「大丈夫、大丈夫。あの娘はそんなことで恨みをもったりしないし、もし仮にそうなっても私が守ってあげるから。部下を守るのも上司の仕事だしね」
「……本当ですか?」
涙ぐみながら聞いてくる。
あぁもう、かわいいな。おい。
「もちろんよ」
「うぅ~。わかりました」
「ええ。任せたわよ……って、あなた名前は?」
そういえばこの娘の名前を知らない。
「あっ、ジェラート・デェバートといいます」
「なんかおいしそうな名前ね」
「ふぇっ!? あの、その、メイド長にだったら食べられても……」
真っ赤になてもじもじするジェラート。
かわいいなぁ、おい。
……いけない、いけない。あやうく思考回路がどこかに飛んでいくところだったわ。
「あー、じゃあ頼んだわよ」
このままいるとおかしな空気になりそうだったのでさっさと時間を止めて出かけることにする。
居眠りしていた門番にナイフを一本刺しておくのも忘れずにっと。
…………………………………………少女買物中……………………………………………………………………………
「美鈴さん、居眠りは駄目ですよ!」
「う~ん。あと五分だけ~」
買出しから戻るとへこんだフライパンを持ったジェラートと壁にももたれず立ったまま寝ている門番がいた。
ホントにやったのね。
「ちゃんと起きてくださ~い」
「……」
涙ぐみながら美鈴を起こそうとするジェラート。
なんか和むなぁ。
ん? 美鈴の目がチラっと開いた気がする。
まさか……?
美鈴の顔をよく見てみると、にやけてやがる。
やっぱりか、あのやろう。
ジェラートが困っているのを見て楽しんでやがるな。
「あら美鈴、丁寧に起こしてくれているのにどうして起きられないのかしら?」
「い゛っ!? さ、咲夜さん!? 買出しに行かれてたのでは?」
「今がその帰りよ」
そう言いながらナイフをちらつかせる。
「ひぃぃぃぃ。咲夜さん、何卒お慈悲をぉぉぉぉぉ」
「ダーメ」
にこりと笑って最後通告。
「アーーーーッ」
針鼠ならぬナイフ鼠となる美鈴。当然の報いだわ。
「さて、ジェラート行きましょうか」
「え、あ、はい」
美鈴のことをチラチラ見ながら付いてくるジェラート。
どうやら美鈴のことを心配している様だ。
「大丈夫よ。あれはあの程度でどうこうなるようなタマじゃないから」
「そうなんですか?」
「ええ、そうよ」
話をしながら一階がきちんと掃除されているかチェックする。
……うん。なかなか綺麗になってるわね。
「そうだ。ジェラートは料理とかできるのかしら?」
名前的にデザートとか得意そうだ。
「料理ですか。あまりしたことないですね」
「ふーん。なら今から教えてあげるわ」
「わぁ。本当ですか?」
「もちろんよ」
この娘が料理できるようになってくれれば私の負担も大分減る。
紅魔館に住まう者の数はやたら多いので食事の準備だけでも大変だ。
私は自分の時間が増えることを想像し、にやけるのを抑えながら調理室の扉を開けた。
「ここが我らが紅魔館の調理室よ」
「お~。すごいですね。ピカピカです~」
「フフッ、気に入ってもらえたかしら?」
「はい。よろしくお願いします、メイド長」
「咲夜でいいわよ」
「えっ、じ、じゃあ。よろしくお願いします、咲夜さん」
「スパルタでいくわよ」
「ええ!? なるべく優しくお願いしますよぉ」
ふふ、いちいち反応するからからかいたくなるのよねぇ。
「はいはい」
「や、約束ですよ」
「ええ。じゃあ早速始めましょうか」
……………………………………少女教育中………………………………………………………………………………
「だーかーらー、そうじゃないって言ってるでしょう」
「うぅ、すみません」
数時間教えていたが全然上達しない。
この娘はカレーとかと作っていると鍋を爆発させたりするような娘じゃなかろうか。そう思うほど下手だ。
うーむ、このままではこの娘を副メイド長に仕立て上げ、私が楽する計画が壊れる。
なんとしても料理をマスターしてもらわないと。
「今日は徹夜になるかもね」
「ええ!? 勘弁してくださいよ」
「言っておくけどこれは冗談じゃないわよ。あなたには副メイド長にふさわしいメイドになって貰わないと困るのよ」
「ふ、副メイド長!?」
「そうよ。あなたさえよければ即お嬢様に推挙するわよ」
「あわわわわ。私にはもったいないですよ。それより早く料理に戻りましょう」
「そうね」
その後、本当に徹夜となった。
これ大丈夫かしら。
その日から私の奮闘記が始まった。
あれから一ヶ月が経った。
あの後、彼女は掃除以外はほとんど駄目だということがわかり、諦めかけたが我が身のためだと誠心誠意を尽くしてジェラートの指導に当たった。
シフトの組み方(役に立つとは思えない)やお得意先への顔見せ、発注の仕方など教えることはたくさんあったが今までで一番がんばったと思うほどがんばった。
そのおかげか大抵の仕事はこなせるようになった。
紅茶の淹れ方もお嬢様から合格点をもらえるようにまでに成長したのだ。
が、料理だけは相変わらず壊滅的にだめだ。
何故?
それどころか料理の時間になると姿を隠すようになった。
まあ、大抵は美鈴のところか図書館の隅に隠れているんだけどね。
それはそうとしてこの一ヶ月で彼女は妖精の中でも力を持っている方であることがなんとなくわかってきた。
それだけの妖精なのだから何らかの能力があってもいいのではないだろうか。
上司としても知る必要がある。
この前は図書館だったから今日は美鈴のところにいるわね。
あの娘単純だし。
「おっ、やっぱりいたいた」
予想通り。
「……何で仲良く居眠りしてるのかしね」
寝ていることは予想GUYです。
「とりあえず美鈴にはいつものやつとして、ジェラートにはどうするかなぁ」
「んにゅぅ? さ、咲夜さん!?」
「ぐえぇぇぇぇぇぇ」
「美鈴さぁぁぁん、しっかりしてください」
「ジェラートさんあとは頼みまぺっ」
「咲夜さん! あなたには慈悲の心というものがないんですか」
「三流芝居を大人しく見てるのが慈悲の心なら、そんなもの持ちたくないわね」
「ぐっ」
さてどうしようかな。そうだ。
「あなたには罰として二十四時間耐久クッキングをやってもらおうかしら」
「……あの雲パンみたいですねぇ」
「ん? そうね」
ああ、ホントに食べてしまいたいくらいに似ている。
……ってジェラートいないし。
あの娘にはよくこれをやられる。
あの娘がうまいのか、私が抜けているだけなのか。……後者の気がする。
「仕方ないですよ。あの娘の能力ですから」
いつのまに復活したのか美鈴が立っていた。
「なんの能力よ」
「『話を逸らす程度の能力』です」
「なんじゃそら」
何、その使えそうで使えなさそうな能力。
「そしてこれが『話を逸らす二十六の方法』が書かれたものです」
「それは没収しておくわ」
「え~」
どうせあの娘にしか使えないんでしょうに。
ネタがないないと嘆いているブン屋がいたら提供してあげましょう。
さてと、仕事、仕事。
翌朝、掃除中にまたお嬢様が寝ると言い出した。
……またか。
今夜はパチュリー様も黒白の魔法実験に付き合うとかでいないし。
最近の紅魔館の実力者は自由すぎて困る。
それはそうと私の計画は順当に進んでいると思われる。
料理は駄目でも他の仕事は卒なくこなすので私の負担も大分軽くなり、楽をさせてもらっている。
そろそろジェラートを副メイド長に推挙してみようか。
お嬢様も紅茶の淹れ方とかも認めてくださっているようだし、OKしてくれるだろう。
「ハァハァ」
「ジェラート? どうしたの?」
その日の掃除中、ジェラートの様子がおかしいことに気付いた。
「大丈夫です。なんでもありません」
「そう? 顔色わるいわよ」
「私は元々色白なんです。それより玄関口修理の請求がきてましたよ」
「あっ、そう」
「魔理沙さんには困りますよね。どうせ侵入するなら穏やかにしてほしいです」
「そうね。でも『弾幕はパワーだぜ』とか言ってるやつだしね、なおらないんじゃない?」
「そうですね」
うーむ。話を逸らされたかな?
その夜、夕食の場所にジェラートは来なかった。
「ちょっと、ジェラートを見なかった?」
そこら辺にいる妖精メイドに聞いてみる。
「見てませんね」
部屋にいるのかしらね。
ちょっと様子を見てこようかしら。
…………………………………………少女移動中……………………………………………………………………………
「ちょっと、居たら返事しなさい」
ドアを叩いても中から何の返事も無い。
「勝手に入るわよー」
そう言ってドアを開けるとジェラートが床に倒れていた。
「ちょっ、ジェラート大丈夫?」
体に触れるとすごい熱だった。
取り合えず、ベッドに寝かせる。
「誰でもいいからすぐこっち来て!」
叫ぶと数人の妖精メイドが慌てて駆けつけてくる。
「どうしたんですか?」
「この娘が熱を出してるのよ。何か冷やすもの持ってきてちょうだい」
「はい」
一人の妖精メイドが出て行く。
「でも変ですね」
「何がよ?」
「妖精は基本的に病気にならないんですよ」
「妖精が病気になるなんて始めてみました」
「じゃあ普通の薬とかじゃ効かないのかしら?」
「「「「「さあ?」」」」」
頼りにならないわね!
「いいわ。あなた達はジェラートを看てなさい。私はちょっと外すわ」
どこでもいいから妖精の病気について知ってそうなところを頭に思い浮かべる。
永遠亭か、それともパチュリー様なら何か知ってるかもしれない。
まずは図書館に行こう。
「パチュリー様! どこですか?」
少しして小悪魔が奥から顔を出した。
「パチュリー様なら魔理沙さんの家で魔法の実験をしていると思いますが」
……そうだった。
そんなことも忘れているとは私もそれだけ動揺しているということか。
それにしてもいつも引きこもってばかりのくせに肝心な時に出かけてるんだから、あの紫モヤシめ。
しかたない小悪魔に聞いてみよう。
「あなた妖精の病気について知っているかしら?」
「妖精の病気?」
「そう、ジェラートがね、物凄い熱なのよ」
「ええ!? 妖精って病気にならないものなんじゃ」
「だから調べてるのよ」
「はいっ。今から調べてみますね」
そう言うと奥へ飛んでいった。
私はどうしようか。
一瞬永遠亭に行こうかと思ったが、妖精のことは妖精に聞くのがいいだろう。
この辺で力のある妖精といえば、あの氷精か。
よしっ、行ってみよう。
外はちらちら雪が降っていた。
「この辺に居るかしらね」
いつもいるあたりには居ない。
まったくパチュリー様といい氷精といい居てほしいときにいないんだから。
こういう時はテキトーに煽てれば出てくるだろ。
「天才で最強のチルノさんにお願いがありまーす!」
……シーン。
出てこないか。
諦めかけた時。
「あっはっはっはっは。この最強の氷精チルノ様にへぶっ」
私の体はチルノが出てきた瞬間にむなぐらをつかんでいた。
「妖精の病気について教えなさい! 今すぐ!」
「へっ?」
「早くしろ!」
ナイフをちらつかせる。
「わわわわわ。ちょっと待って。妖精の病気なんてあたい知らないよ」
「チッ。役に立たないわね」
くそっ。どうしようか。
「あの、妖精が病気なんですか」
ふいに後ろから声をかけられて振り向くと緑の髪をした妖精が立っていた。
「あなた何か知っているの?」
「え、はい。多分ですけど……」
よし。
二人の襟首をひっつかんで紅魔館に向かう。
これで解決できるかも。
何も考えずただただ急ぐ。
ジェラートの部屋についた。
「どう?」
ジェラートの様子をみている緑の妖精に聞く。
「はい。やっぱり、チルノちゃんの時と同じです」
「へっ? あたいの時?」
「チルノちゃん、覚えてないの?」
「うーん……」
おいおい。
頭を抱えて考えるチルノはほっといて、
「で、これはなんなの?」
「これは妖精が力を持ちすぎるとこうなるんです」
「力を持ちすぎると?」
「はい。妖精は自然から生まれたものですので、生まれたもの以上の力を持ってはいけないんです」
「力を持ってしまったらどうなるの?」
「……消えてしまうそうです」
「う、嘘でしょ!?」
衝撃的な言葉におもわず掴み掛かってしまう。
「だ、大丈夫です。チルノちゃんがこうなった時になおす方法もありましたから」
「どうするの?」
「別の妖精に力をわけ与えればいいんですよ」
そう言うと妖精メイド達に手を繋ぐように促す。
緑髪の妖精はジェラートの前まで行くと手をかざした。
「いきますよ」
かざした手が光りだす。
しばらくすると光が拡散して妖精メイド達の中に入っていく。
その光景は今まで見たどんなものよりも神秘的だった。
どれだけの時間が経っただろうか。
短くも長くも感じられる時間が経った時、光が収まり緑髪の妖精が『ふぅ』と息を吐いた。
「終わりました」
「そ、それでどうなの?」
「はい、大丈夫です。うまくいきました」
それはよかった。
「ここにいる妖精の数が多いのでチルノちゃんの時より楽でした」
そうなのか。
初めて妖精達を雇っていてよかったと思った。
「ありがとね」
「いえ。チルノちゃんの時の経験をいかせれて良かったです。あの時はあっちこっち調べまわして永琳さんっていう方にやっと教えてもらえた時にはギリギリでしたよ」
「へえ~。あの人こんなことまできるのね」
「いえ。あくまで治療法を知っていただけで、これができるのは妖精だけだそうです」
あの時の判断は正しかったわけだ。
永遠亭まで行っていたら間に合わなかったかもしれない。
「でも咲夜さんって優しい方なんですね」
「へ?」
何を言い出すの、この娘。
「だってこの娘のために必死になって助けを求めるのですから」
「そ、それは……。お、同じ紅魔館に住んでいる『家族』として当たり前のことでしょ」
そう言うと緑髪の妖精は驚いた顔になった後、にこりと微笑んだ。
「やっぱり咲夜さんは優しい方です」
「だ、だから」
「いえ、妖精のことを『家族』だなんて言ってくれる人間はいませんよ。私達妖精は人間からあまり好かれていませんから」
そうなのだろうか。
「それにしても良かったです」
「そうね。あなた達のおかげよ。ありがとう」
連れてきた妖精二人に頭を下げる。
「えっ、あたい何もしてないよ?」
「あなたもジェラートの力を吸ってくれたでしょう? 本当に何もしてないのは私よ」
そう。私は何もできなかった。
ただ立って見ているだけだったのだ。
「そんなことないですよ」
「そうです。メイド長はだれよりもジェラートのために動いてましたよ」
「そうです。メイド長が立っていただけだというなら、私達は知らん振りで寝ていたことになりますよ」
妖精メイド達が口々に言う。
「そうね……」
そう言いながら閉まっているカーテンを開けるともう朝日が昇っていた。
「もう朝か……」
バタバタしているうちにもうこんな時間か。
今までで一番疲れる夜だったわ。
「んんっ? ふにゅ」
騒ぎの元のジェラートが起きた。
「お、お早うございます」
「お早う。……なにか他に言うことは?」
「えっと、あれ?」
大人数が自分の部屋にいる状況がわかっていない様だったが、自分が倒れたことを思い出したのだろう。
ハッとした顔になった。
「すみませんでしたっ!」
「ホントよ。昨日の朝なんて能力を使ってまで誤魔化すんだから」
あの時問い詰めていればここまで大事にならなかったとは思うが、どうせまた逸らされただろう。
「で、でもっ。その心配をかけてはいけないと思って……」
「それで余計に心配をかけていては本末転倒じゃない」
「……すみません」
「別に怒っているわけじゃないのよ。ただ悲しかっただけ」
「えっ?」
そう。実際にちょっとがっかりしている。
「私はあなたのことを『家族』だと思っていたけど、あなたはそう思っていなかったのかなって」
「さ、咲夜さん……」
「私だけじゃないわ。美鈴もパチュリー様もお嬢様も、きっと妹様もそう思っているわよ」
「……うぅっ」
ジェラートは泣き出してしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
泣いているジェラートを抱きしめてあげる。
そうしながら私が紅魔館に勤め始めたばかりの頃のことを思い出していた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私が紅魔館に来たのはまだ十歳にもなっていなかった時だ。
こんな能力を持っていたためか親には気味悪がられて捨てられた。
当時、私は生きるのに必死だった。
生きるために盗みもしたし、時には妖怪も食べた。
能力がなかったらとっくに死んでいただろう。
能力のせいで家を捨てられたというのに能力のおかげで生き永らえたというのは、何という皮肉だろうか。
それは私は湖の近くを歩いている時だった。
「へえ。あなた人間にしては中々面白いわね」
急に話しかけられて振り向くと一人の少女がいた。
私は彼女を見た瞬間に腰が抜けてしまった。
今まで相手にしてきた妖怪とは次元が違う。
正直死んだと思った。
今までは弱い妖怪なら倒して、時には食料にしてきた。
自分より強い妖怪と出会ったら時間を止めて逃げて生きてきた。
だが目の前にいる少女には何をしても無駄だということが本能でわかってしまう。
「ふーむ……。あなた、私の館で働きなさい」
「え!?」
即殺されると思っていた私に思わぬ言葉が届いた。
「妖精をメイドに雇ったはいいけどあいつら全く使えないのよね。あなたは使えそうだわ。どう? 悪い話じゃないと思うけど?」
「は、はい、わかりました」
そう答えないと殺されてしまうと思いそう言うしかなかった。
「そう、聞き分けがいいわね。早速私の館に行くわよ」
「わかりました」
それはまるで私に会いに来るためだけにここに来たようだった。
これが私の主、レミリア・スカーレット様との出会いだった。
その日以来、私は懸命に働いた。
少しでも失態をすればその場で殺されると思っていたから。
だが無理がたたったのか私は高熱を出して倒れてしまった。
寝ている私の前にお嬢様に立った。
殺される。
そう思った私は、
「ごめんなさい。もう病気になんてなりませんので殺さないでください」
そう言って土下座をしていた。
それをキョトンとした顔で見ていたお嬢様だったが、ふと微笑んで
「何言ってるの? 大事な『家族』にそんなことするわけないじゃない」
「えっ!? か、『家族』?」
「そう。同じ紅魔館に住む『家族』よ」
そう言うお嬢様の声はとっても優しく、温かかった。
その後、お嬢様は私がよくなるまで看病してくださったのだった。
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「「咲夜さん! 治療方法がわかりましたあ!!」」
私が回想していると、そう叫んで美鈴と小悪魔が飛び込んできた。
どうやら二人とも夜通しで調べていたようだ。
「もう終わったわよ」
「「え゛!?」」
固まる二人。
「遅いのよ。あなた達」
「「そんな~」」
二人の情けない姿を見て笑い出すみんな。
「わ、笑うな~」
「そうですよ~」
慌てる二人を見てさらに笑い出す。
ジェラートも笑っている。
「ねっ。言った通りでしょ?」
「はいっ!」
そう言って微笑むジェラートの顔は今まで見た彼女の顔の中で一番綺麗だった。
「あっ、言い忘れてたけど心配させた罰として後日、二十四時間耐久クッキングをするわよ」
「え~~~!?」
このくらいの報いは当然よね?
はっくしゅん。
翌日、私は風邪をひいてしまった。
どうやらあの時に雪だらけのまま一晩過ごしたかららしい。
「咲夜さん。お粥を作ってきましたよ」
すっかり元気になったジェラートが部屋に入ってきた。
昨日のことなんて無かったかの様に元気だ。
「そう。ありがとう」
「はい、どうぞ」
そう言って蓮華を私の口元に持ってくる。
ようするに『あーん』の状態だ。
「じ、自分で食べれるわよ」
何てことをしようというのか、この妖精は。
「だめです。咲夜さんは病人なんですから」
ははは……。
「わかったわよ」
「はい。じゃあ、あーん」
そのお粥はあの時のお嬢様の言葉と同じ温かさだった。
味は推して計るべしっ!
朝からお腹いっぱいです。
これで今日一日ものりきれそうですw
咲夜さんの指導を受けて成長してくのとか読んでいると
微笑ましくなります。
なんか姉妹みたいな感じもしますねぇ。
ほのぼのとしてて、でも少しシリアスも入っていて
とても面白いお話でした。
文章でおかしな部分があったので報告
>私達妖精はあまり人間からあまり好かれていませんから
「あまり」という言葉が重複していますから
どれか一つを消したほうが良いかと。
咲夜さんがとっても素敵。
咲夜さんがいいお姉さんっぷりです。