Coolier - 新生・東方創想話

図書館防衛作戦会議 ~本だけに本気です~

2009/02/18 04:18:16
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「じゃーな、これ借りてくぜ~♪」

弾んだ声で言いながら、白黒の影がドアからカサカサと出て行った。

「あぁ……」

それとは対照的に、暗く沈んだ声を発する、紫の少女。床にがっくりと膝を着き、口からは深い深いため息が漏れる。
傍らに立つ黒服の妖怪少女―――小悪魔が、落ち込む少女に心配そうに声を掛けた。

「あの、パチュリー様……大丈夫です、か?」

「―――そう見える……?」

げんなりした顔で、紫―――パチュリー・ノーレッジが答えた。その声に、生気はあまり感じられない。
東方projectを多少でもかじった事のある賢明な読者諸君には、この状況がどういったものか、お分かり頂けると思う。
場所は紅魔館内の大図書館。ドアから出て行った白黒とは無論、霧雨魔理沙の事である。
彼女が「借りる」と称して本を強奪して行くのは、最早日常茶飯事となっている。勿論、自分の本が持っていかれるのをパチュリーは黙って見過ごすつもりは無かった、のだが。
どんなにしっかり見張っていても、彼女はどこからともなく沸き、カサカサと本を持って去っていく。まるでゴキブリのようだ。黒いし、飛ぶし。
パチュリーは傍の壁に立てかけられた虫網をちらりと見やる。
これまでパチュリーが魔理沙を見つけた時には、彼女は必ず本を持って逃走体勢に入っていた。
元祖幻想郷最速を相手に、運動不足の魔法少女が追いつける筈も無く。その虫網(魔理沙捕獲用)は、一度も使用される事無しに、壁に立てかけられたままだった。
新品ピカピカの虫網を眼にして、ますます気持ちが沈むパチュリー。このままでは、どれだけの本が盗られるのやら。
パチュリーは決意した。

「―――小悪魔。A3サイズの紙と、ポスターカラーを持ってきて」

「え?あ、はい」

突然呼ばれたかと思えば、紙とマーカー。小悪魔は少し戸惑ったが、言われた通りに紙とポスターカラーを持ってきて、彼女に手渡す。

「ありがとう」

短く答えて、パチュリーは机に向かった。
紙にマーカーで、さらさらと何かを描いていく。描きながら、彼女は呟いた。

「―――見てなさい、魔理沙……」

これが漫画なら、彼女の目にはきっと炎がメラメラと燃え上がっているのだろう。
一方小悪魔は、心の中でパチュリーに語りかける。

(―――虫網で人は捕まらないと思います、パチュリー様……)

もっともなツッコミだが、勿論、声には出さない。
虫網で泥棒を捕まえる。パチュリーのそんな子供じみた発想が、とても可愛らしかったからだ。
―――もっとも、パチュリー本人は大真面目だったのだが。







――― 一週間後。場所は同じく大図書館。
壁に掛けられた時計を眺めながら、パチュリーが言った。

「そろそろね……」

気になった小悪魔が尋ねる。

「あの、そろそろ、とは……?」

くるりと振り返って彼女が答えた。

「こないだの紙、覚えてる?」

「ええ。ポスターカラーで何やら……」

「―――これよ」

そう言いながら彼女が取り出したのは、鮮やかな配色のポスター。
まず目に入ったのは、でかでかと書かれた『アルバイト募集』の文字。
小悪魔は、当然の疑問を投げかける。

「パチュリー様、アルバイトって何ですか?」

ふふん、と笑うパチュリー。

「図書館防衛隊よ」

「はあ、それってつまり・・・」

「図書館の蔵書を守るのに、私と小悪魔の二人だけじゃ限界があるわ。そこで、アルバイトで図書館の防衛をしてくれる人員を募集するってワケ」

「なるほど。で、そろそろとは?」

矢継ぎ早な質問に、パチュリーはどんどん答えていく。

「集合時間。希望者は、今日の午後1時に紅魔館に来るように書いといたの」

それを聞いた小悪魔が時計を見る。時刻は12時58分。
その時、部屋に響いたノックの音。続いて、二人の傍のドアがガチャリと開いた。
ドアの向こうにいたのは、メイド長の咲夜。

「パチュリー様。『ポスターを見た』と言っている者達が……」

「キターーーーーーーーーーー(゚∀゚)----------------!!! 通して!すぐ連れてきて頂戴!」

大興奮のパチュリー。咲夜は「わかりました」と言ってドアを閉めた。
小悪魔も驚いた。まさか本当に来るとは。
ドアの向こうから、「入っていいそうよ」という咲夜の声が聞こえて来る。と、次の瞬間。


バァン!!


勢いよく開いたドア。そして、どやどやと入ってくる人影が一、二―――五つ。

「えぇと……」

『希望者』の姿を見たパチュリーの声は、どことなく元気が無い。

「妖精が二人。それに、鳥と、虫と、『そーなのかー』か……」

「わぁ、可愛らしい防衛隊になりそうですね♪パチュリー様」

先程の興奮から一転、肩を落としたパチュリーと、対照的にウキウキな小悪魔。


―――今ここに、図書館防衛隊が結成された。


隊長:パチュリー・ノーレッジ
隊員:小悪魔 チルノ 大妖精 ミスティア・ローレライ リグル・ナイトバグ ルーミア





「―――大丈夫かしら」

パチュリーの声は、まるで本を盗まれた時のようなテンションだった。











「―――というわけで、魔理沙にこれ以上本を盗られないためにも、貴方達の力を貸して欲しいのよ」

テーブルを囲んだ七人。パチュリーが、簡単に主旨を説明し終えた所だ。
パチュリーは気を取り直して作戦会議を開く事にした。やや頼りない面子ではあるが、来てくれただけでも有難い。

「あたいにまっかせなさい!」

ガタン、と椅子から立ち上がって、チルノが叫んだ。少なくとも、やる気だけはありそうだ。

「あたいがいれば十人並よ!泥舟に乗ったつもりでいなさ~い!」

えっへんと胸を張るチルノ。

「チルノちゃん、それを言うなら十人力だよ。十人並じゃ平凡になっちゃうよ……。それと、泥舟じゃ沈んじゃうよ?」

横に座った大妖精が、しっかりとツッコミを入れる。

「そ、それもそうね。あれよ、えぇと……タイタニック号に!戦艦大和に乗ったつもりでいてちょーだい!」

「どっちも沈む船だよ、チルノちゃん……」

「あれ?えと、えと……じゃあ、ヒンデンブルグ号!」

「それ飛行船だよ!って言うかそれも爆発しちゃうよ……」

二人の妖精の間で交わされる、ボケとツッコミのラッシュ。置いてけぼりの5人。

「―――続けていいかしら?」

会話の隙間を突いて、パチュリーが言った。

「あ、ごめんなさい。お願いします」

大妖精がぺこりと頭を下げながら答える。
だが、内心パチュリーは胸を撫で下ろしていた。ボケばかりかと思ったが、マトモなツッコミ役がちゃんといたのだ。

「だから、まずは皆で作戦会議をしましょう。魔理沙を上手いこと撃退するための方法やアイディアを……」

そこで、はい、と大妖精が手を上げる。

「でしたら、始めから魔理沙さんを図書館内に入れないようにすれば……例えば、図書館に鍵をかけるとか」

「え、鍵……?」

「ええ、鍵をかけてしまえば、関係者以外は入れなくなりますし、費用も掛からず、一番手っ取り早いかと……あの、どうかされましたか?」

図書館には窓が無い。確かに鍵をかけてしまえば一発で侵入者を防ぐ事が出来る。
だが、パチュリーは気が乗らない様子だった。

「えと、それって、魔理沙が入ってこられなくなるって事よね……」

「そうですけど……」

大妖精の答えに、パチュリーは何故か顔を赤らめながら呟く。

「だ、だって、そしたら魔理沙と会えなく……い、いや!そうじゃなくて。
 鍵をかけると出入りも何だか不便になりそうだし、それ以外の方法で対処しましょう!」

「鍵以外、ですか……」

「そ、そう。鍵はナシの方向でお願いね」

顔を真っ赤にしながら『NO鍵』を力説するパチュリーを見て、五人は―――

(会いたいんだ……)

(会いたいんですね……)

(会いたいんだね……)

(会いたいってコトか……)

(会いたいのか~……)

―――全く同じ事を考えていた。
小悪魔は、声には出さずに口だけで『すいません……』と言い、小さく何度も頭を下げた。








―――コンコン。

不意に響いたノックの音。続いてドアがガチャリと音を立てて開く。
現れたのはまたしても咲夜だった。

「パチュリー様。お嬢様がお呼びです」

「え、レミィが?今ちょっと取り込んでるんだけど……」

「あ、いえ、すぐに済むそうです」

「そうなの?」

パチュリーは客人五人の方を向いて言った。

「じゃあ、ちょっと用事が出来たから席を外すわね。そんなにかからないから、その間貴方達で作戦会議を続けてくれる?」

「わかりました」

「まっかせなさ~い!」

代表して妖精二人が答え、それを聞いたパチュリーは、咲夜と共に図書館を出て行った。
残された小悪魔含む六人は、そのまま会議を続けた。

(とりあえず、みんなの意見を黙って聞いてみようかな)

そう考えた小悪魔は、暫くの間聞き役に徹する事にした。






―――十分後。

「ただいま」

パチュリーが戻って来た。

「お帰りなさいませ」

小悪魔が答えた。だが、残りの五人は会議に熱が入っているらしく、彼女の帰還に気付かないようだった。

(熱心ね。最初は頼りないかと思ったけど、謝らなくちゃいけないかもね……)

パチュリーは素直に感心した。
そこで、五人の輪にそっと近づき、会議の内容をこっそり聞き取ってみた。





「そうだなぁ……じゃあ、魔理沙が来るたびに、本を一冊渡しちゃうってのは?受け取って黙って帰ってくれるよ、きっと」

「それじゃ、結局本を持ってかれてるからダメだよ……」

ミスティアの案を、大妖精がバッサリ……と言うよりやんわりと斬り捨てる。

「う~ん……じゃあ、本一冊一冊に虫でも挟んでみる?百足とか。気味悪がって、本を盗まなくなるよ」

「本を閉じたときに、虫が潰れて本が汚れちゃうよ……」

リグルのアイデアを、やはり大妖精が却下する。

「本を全部真っ黒に塗りつぶしちゃえば、盗まれても本は読めないよ。盗んでもムダだってわかるのか~」

「他の人も読めないって……ていうか、『わかるのか~』って、わかるのかわからないのか、それこそわからないよ……」

ルーミア考案・『文字通り闇の書作戦』も、大妖精が止める。ついでに台詞の校正。

「んじゃあねじゃあね、もういっそ本を全部誰かにあげちゃうとかして、こっから無くしちゃえば?絶対盗まれないよ!」

「本末転倒だよ……」

「本だけに?」

「駄洒落だよ……」

チルノのあまりに斬新な作戦。斬新過ぎて凡人はおろか幻想郷の住人ですらついて来れない案を、大妖精が押し留める。




(…………)

頭が重い。パチュリーは後で、小悪魔に頭痛薬を持ってきて貰おうと思った。
大ボケ四人組からのおとぼけラッシュに、健気にもツッコミを入れていく大妖精。パチュリーは色んな意味で泣きそうだった。
そして彼女は、大ボケの輪から大妖精をそそくさと引き剥がす。

「貴方はこっちで、わたしたちと三人で会議しましょう」

「え、あ、はい」

少なくとも、作戦段階で役に立つのは彼女だけだと、パチュリーは悟った。






「う~ん……」

パチュリー率いる三人組は、視線をやや下に固定したまま、唸るばかりであった。
三人寄れば文殊の知恵、とはよく言ったものだが、相手は常識の通じない魔法使い・魔理沙。文殊菩薩でも止められるかどうか。
中々良いアイデアが浮かばず、三人揃って俯いてしまう。
一方、大ボケ四人組も何やら悩んでいる様子だった。

(水にいくら水を足しても、結局水のまま……)

パチュリーがそんな事を考え出した時、いきなりチルノがガタン!と席を立った。
驚いた図書館中の視線(と言っても、6人分だが)を集めたチルノが言う。

「このままじゃダメだわ!ちょっと待ってて、助っ人を呼んでくるから!」

「ちょっとチルノ、助っ人って……」

パチュリーは言いかけたが、チルノは疾風の如き速さでドアから出て行った。

(助っ人……ね。何か思いついたのね。期待しないで待ってみようかしら……)

どうせいいアイデアが浮かんでいなかった所だ、良い気分転換にはなるだろう―――パチュリーはそう考えた。
開きっぱなしのドアを、大妖精がそっと閉めた。





―――十五分後。

バァン!

ドアが勢いよく開き、チルノが帰ってきた。
見ると、誰かの手を引いている。

「お帰り。で、誰?」

パチュリーが尋ねると、チルノは答える代わりににっこり笑って部屋に入ってきた。その『助っ人』の手を引きながら。
引き寄せられるような形で、『助っ人』が部屋に入ってくる。

「……え~と……」

『助っ人』が呟いた。
目に付いたのは、黒。帽子から靴に至るまで、殆どが黒い。小悪魔、ルーミア等と黒い服が多いこの部屋に、また一人。
『助っ人』の正体は、騒霊ヴァイオリニスト、ルナサ・プリズムリバー。

「……何で呼ばれたのかしら、私」

困惑顔のルナサと、ニコニコ笑うチルノ。

「……で、彼女に何をして貰うの?」

パチュリーがチルノに尋ねた。その間に、大妖精がルナサに主旨をそっと耳打ち。
チルノが腕をぶんぶんと振りながら、早口で言う。

「あのねあのね、魔理沙が盗みに来たら、ヴァイオリン弾いてもらってね、それでね……」

「もう、いいから落ち着いて話しなさい。焦らなくても私は逃げないわよ」

チルノは自分の考えた素晴らしい案を褒めて貰いたくて仕方ない、といった体だ。パチュリーはとりあえず彼女を落ち着かせる。

「ごめん。あのね、ヴァイオリン弾いてもらって、魔理沙を思いっきり暗~くしちゃうの」

「暗く?ああ、鬱の音色の効果か……」

「そう、それそれ。そしたら魔理沙も、本を盗む気になれなくて、帰っちゃうんじゃないかなって」

(なるほど……)

パチュリーは合点がいった、という様に頷いた。最初はあまり期待していなかったのだが、中々に面白そうなアイデアだと彼女は思った。
彼女の辞書に、『鬱』の文字は無い―――そう思わせるくらいに頭がパパパヤな魔理沙の事だ、負の感情には弱いかも知れない。

「どう、どう!?あたいの作戦!」

頬を紅潮させるチルノの頭を、パチュリーは撫でてやる。

「ええ、悪く無いわ。よく考えたわね」

「えへへ……」

褒められたのが嬉しいチルノは、とろけそうな笑顔。

「でも、上手くいくとは限らないわね……実際上、どうなのかしら―――そうだ、あれを使って……」

パチュリーは不意に、一冊の本を取り出した。

「何ですか、それ?」

大妖精の問いに、パチュリーが答えた。

「これは特殊な魔道書でね……この本にアイデアや考えを書き込むと、イラスト動画・さらにボイス付きでシミュレートしてくれるのよ」

「凄い本ですね、それ……」

小悪魔が呟く。彼女も存在を知らなかったようだ。
この本がどうしてそんな機能を持っているのかを詮索するのは野暮である。これは凄い魔道書。それでいいのだ。

「じゃあ、やってみるわね」

パチュリーは、今しがたチルノが言った案をそのまま本に書き込む。すると、本が少しだけ光を放った。
彼女がページをめくってみると、そこには魔理沙のイラストが浮かび上がっていた。

「おお~……」

感嘆の声を漏らす一同。全員が集まって、本を覗き込んだ。
やがて、本の中の魔理沙が動き出した。







「へへへ、今日もごっそり本を盗……じゃなかった、借りてくとするぜ」

魔理沙がニヤリと笑いながら、図書館に侵入してきた。カサカサと素早い動きで、本棚の間を通ってゆく。
やがて、一つの本棚の前で立ち止まり、物色を始める。
その本棚から少し離れた本棚の影に、ルナサが潜む。
彼女はヴァイオリンを構えると、弓を弦にあてがい、ゆっくりと弾き始めた。
静かに流れ出す、悲しげなヴァイオリンの旋律。

「……ん?」

魔理沙がその音色に気付いた。
最初は気にしていなかったが、彼女はやがて下を向いてしまう。

「あ、あれ……何だか気分が乗らなくなってきた……体がだるいぜ……くそう、何なんだ」

眉をひそめる魔理沙と、演奏を続けるルナサ。やがて、彼女の『鬱の音』の効果がはっきりと現れ始める。

「うぅ……何だか何もする気が起きない……何をしても失敗しそうだ……はぁ」

ため息をつく魔理沙。効果覿面だ。

「嫌な気分だ……憂さ晴らしに、本でも持ってくか……」

魔理沙は目の前の本棚に手を伸ばし、本を一冊ずつ、持ってきた袋に入れ始める……








「ちょっと待ったぁ!ストップ!ストップ!!」

パチュリーの渾身の叫びで、急遽現実に引き戻された一同。

「何なのよ!結局本盗まれてるじゃない!」

鬱状態にさせても、結局魔理沙は本を盗んでいくようだ。作戦失敗。

「う~ん、ダメかぁ。いいアイデアだと思ったんだけど」

若干ションボリ気味のチルノ。そしてルナサに言う。

「ごめん、ダメだったみたい」

それに対して、ルナサはまたも困惑顔。

「え?えぇと……役に立てなくてごめんなさい、なのかしら……う~ん……まあいいや、帰ろう」

首を捻りながら、彼女は図書館から去って行った。







「暗いのがダメなら……そうだ!」

ルナサが去った後、チルノはそう言って再び図書館を出た。
やがて帰ってきたチルノは、またしても誰かの手を引いている。

「入って入って!」

「お邪魔しま~す♪」

今度の『助っ人』は、笑顔で図書館へ入ってきた。
黒服が多い本日の図書館。その埋め合わせの如く白い服が眩しい。
第二の助っ人は、騒霊トランペッター、メルラン・プリズムリバー。

「今度はどうするの?」

パチュリーが聞くと、チルノはこんな事を言った。

「おすぎでダメならピーコよ!」

「はぁい?あんだって?」

それはまるで耳が遠い老夫婦のような会話だった。
パチュリーの脳裏に何故か、『幽体離脱~』と言いながら半身を起き上がらせるちょっと太った双子が浮かぶ。誰だろう?
彼女の脳内でその双子が魂魄妖夢と半霊に置き換わり、妖夢が口から半霊を出しながら『えくとぷらずむ~』なんてやり始めた辺りで、メルランに主旨を耳打ちしていた大妖精が横合いからツッコむ。

「それって、『押して駄目なら引いてみろ』?」

「そうそう。そうとも言うわね!」

「そうとしか言わない。今はファッションチェックの時間じゃないわよ……で、今度はどうするの?」

尚もボケるチルノに追加でツッコミを入れ、パチュリーが尋ねる。
チルノが答えた。

「えとね、暗いのがダメだったから、今度は思いっきり魔理沙のテンションをぶち上げちゃうの」

「今度は『躁の音』ね……」

「そそ。でね、そしたら、魔理沙は『本なんか盗んでる場合じゃないZE!暴れるZE!Master SparkだZE!!』って、帰っちゃうんじゃないかなって」

テンションを下げて駄目なら、逆にテンションを上げてやる、という事か。試してみる価値はありそうだ。
そう考えたパチュリーは、再び先程の魔道書に書き込む。
ページをめくると、既に魔理沙は動き始めていた。慌てて一同がテーブルに群がり、本を覗き込む。







「うぇっへっへ……今日もがっつり本を盗……もとい、借りてくとするぜ」

先程のルナサの例と同じ展開だった。魔理沙が図書館に侵入し、カサカサと移動。やがて物色を始めた。
少し離れた本棚の影に、今度はメルランが潜む。
彼女はトランペットを構えると、マウスピース部を唇に押し当てる。
高らかに響き渡る、楽しげなトランペットの旋律。

「うお、何だぁ?」

すぐに気付いた魔理沙。効果はすぐに表れた。

「お……おおおっ!何だかテンションが上がってきたぜ!はははっ!」

笑い出す魔理沙。元が明るい性格だからか、効果はかなり高いようだ。

「何だかやる気が凄いぜ!何だって出来そうだ!よ~し、今夜は徹夜で読み明かすゼ!!」

魔理沙は目の前の本棚に手を伸ばし、本をヒョイヒョイと袋に入れ……








「待て待てまてマテ待てぇぇぇぇぇぇい!!!!てゐ!てゐ!!てゐ!!!」

「きゃー、パチュリー様が壊れた!」

叫びまくるパチュリー。驚いた小悪魔が悲鳴を上げる。

「完全に火に油を注ぐ行為じゃないの!!ああもうまったく!!」

元から高い魔理沙のテンションをさらに上げるのは自殺行為のようだ。作戦失敗。
―――と、ここで息の上がったパチュリーが気付いた。

「ハァ……ハァ……あ、あら?シミュレーション結果がもう一つあるわね」

「え、本当ですか?」

見れば、さらに次のページにも魔理沙のイラスト。

「予測された結果がもう一つあるって事ね……良い結果だといいんだけど」

本の中の魔理沙が、再び動き出す。








「フヒヒ……今日も今日とてもっさりと本を板抱き、じゃない、頂きま~す♪」

途中までは完全に同じだった。侵入、移動、発見、物色。全く無駄の無い動きだ。
メルランが潜んでいるのも同じ。彼女は再びトランペットを吹き始める。
図書館に響き渡る明るい音色。魔理沙がそれに気付いた。

「う……うおおおっ!!何だかやる気爆発だぜ!!凄いぜ!!よくわからんけど!!」

テンション↑↑な魔理沙。せわしなく手足を動かしていたが、やがて箒を取り出した。

「本なんか盗んでる場合じゃないZE!暴れるZE!Master SparkだZE!!」

どこかで聞いた台詞を叫びながら、箒に跨ろうとする。





「おおっ!これは上手くいくかも……」

「か~え~れっ!か~え~れっ!」

「パ~ジェ~ロッ!パ~ジェ~ロッ!」

「パジェロ?」

見てる側のパチュリー達も興奮しきりだった。あの魔理沙が、本を一冊も盗まずに帰ろうとしているのだ。はっきり言って、世紀の瞬間である。

―――だが。





箒に乗りかけた魔理沙だったが、突然箒をしまった。
そして代わりにある物を取り出し―――叫んだ。

「んも~うガマン出来なぁぁぁぁぁぁいっっ!!」

彼女が取り出した物―――八卦炉。内部が明滅を始める。
魔理沙は片足立ちになり、片腕を突き出すようにして八卦炉を構えた。

「霧雨魔理沙が最終奥義ィィィ……」





「ちょ、待って!その先の本棚には私の『ひみつのマリサちゃん盗撮写真集』が……じゃなくって!
 そんな所でぶっ放されたら本が全滅するぅぅぅ!!」

大慌てのパチュリー。一同は、彼女の台詞の前半部分を聞かなかった事にした。
また、この魔理沙を見ていたチルノ達は何故か無性にコーンフレークが食べたくなったとか。





『マスタァァァァァァァ……』


「や~め~て~っ!!」


『―――スパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァクッッ!!!』





―――刹那、溢れ出す光の奔流。本棚達を一瞬で飲み込んだ。

「アッーーー!!私のマリサちゃん写真集がぁぁぁぁぁ!!らめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「パチュリー様ぁ!落ち着いて下さい!!」

悲痛なパチュリーの叫びと、違った意味で悲痛な小悪魔の声。
暫くの間、眩しさで何も見えなかった図書館だが、やがて光は消え、再び様子が伺えるようになった。
―――とは言っても、室内の本棚はほぼ全滅。壁はぶち抜かれ、素晴らしい風通し。窓が無くて埃っぽい図書館には丁度良い―――訳は無い。
ウェルダンな図書館の中で、魔理沙は一人元気だ。

「あー、スッキリした!!何しに来たんだっけ……まあいいや、帰ろうっと♪」

爽快感GET!した彼女は箒に飛び乗り、さっさと帰ってしまった。
後に残されたのは、瓦礫と焦げた本、本棚。そして、Pアイテムをそこらにばら撒いて気絶したメルランだった。






「……ほ、本は盗まれなかったよね。あは、あはは……」

チルノの渇いた笑い。一方、パチュリーは半ば放心状態だ。

「本だけに本末転倒よ……というか、何?魔理沙はこの図書館に損害を与えないと死ぬのかしら……」

どこかで聞いた駄洒落を言って、本気で悩み始めたパチュリー。
結局の所、魔理沙のテンションを上げるという事は、火に油どころかニトログリセリンを注ぐ行為であると分かった。やっぱり作戦失敗。







「よくわからなかったけど、何だか楽しかったよ。また呼んでくれると嬉しいな」

そう言い残し、メルランは去って行った。
残された一同は暫くため息をついていたが、やがてチルノが、

「ぬぅ、このふいんき……ふんいき?どっちだっけ。まあいいや、それを何とかするわよ!もう一人連れてくる!」

そう言って図書館を後にする。
十数分後にチルノは、やはり誰かの手を引いて戻って来た。
黒、白と来て、今度は赤かった。紅魔館だから、というわけでもなさそうだが。
三人目は騒霊キーボーディスト、リリカ・プリズムリバー。

「……今度はどうする気?」

元気の無い声でパチュリーが訊く。前二人が悉く失敗だったから無理も無いが。

「何か姉さん達も呼ばれたって聞いたけど……」

リリカが辺りを見渡しながら言うのを聞いて、大妖精が例の如く耳打ちに走る。
どうするのか、という問いに、チルノは答えを詰まらせた。

「え?う、う~ん……どうするんだろう……」

彼女が答えに詰まったのも無理は無い。『鬱』や『躁』は感情の概念として分かりやすいが、『幻想の音』とは果たしてどんな物なのか。

「はあ、なるほど」

説明を聞いたリリカが言う。

「要するに、音色で泥棒退治して欲しい、と」

「……まあ、そんな所かしら」

パチュリーはそう答えるしか無かった。

「幻想の音色って、何が出来るの?」

これを把握しない事には、何が起こるかもわからない。パチュリーは尋ねてみた。

「う~ん、色々あるからねぇ……この世から無くなった音だとか、存在しない音だとか……」

リリカが首を捻りながら説明すると、パチュリーがその途中でパチン、と指を鳴らした。

「存在しない……つまり、幻聴を聞かせることも出来るって事?」

「うんまあ、出来ると思うよ」

その答えを聞いて、パチュリーはポン、と手を打った。

「じゃあ、こんなのはどう?
 本を盗もうとする魔理沙に、やたら怖い幻聴を聞かせるの。ラップ音とか、そんな感じのね……きっと気味悪がって、盗みをしなくなるわ」

一同からあがる『おお~』という歓声。
パチュリーはすぐに、例の魔道書に書き書き。すぐに魔理沙のイラストが表れた。








「うっひょう!今日もまた、本をめっこり拝借しに来ましたよん、と」

最早彼女の生活の一部であると言えるほどに、こなれた侵入風景。
例によって本の物色をする魔理沙。少し離れた本棚の影に、今度はリリカが潜む。
彼女はそっと、キーボードの鍵盤に指を添える。
緩やかに流れる、キーボードの不思議な旋律。
だが、魔理沙は反応しない。と、その時。

ギシッ……

魔理沙の近くの壁から、軋むような音。

「うん?」

魔理沙が顔を上げたが、気のせいだったかと、再び視線を戻す。

ギシッ……ギシッ……

今度は天井付近だ。魔理沙が素早く見上げるが、何も無い。

ヒッヒッヒ……

どこからか、不気味な笑い声。

ギシギシ……

軋むような、人の心を無条件で不安にさせる音。

「な、何だよ……気味が悪いぜ……」

魔理沙の顔にも、若干の恐怖が伺える。
リリカはここぞとばかりに音を激しくさせた。

ガシャン!

何かが割れるような音。だが、正体が掴めない。

ヒィィィィィ……

悲鳴のような、不気味な声。
魔理沙は明らかに恐怖していた。

「お、おい……やめてくれよ……一体何なんだよ……これってポルターガイストか?それとも幻聴ってやつなのか……」

不安そうに辺りを見渡す魔理沙。薄暗い図書室の風景が、恐怖心を一層煽る。
すると、一冊の本が目に留まった。
『魔科学的視点による心霊現象の考察』と書かれている。
見れば、その本棚は『心霊』だとか『不可解な現象』に関する本が並んでいた。

「さっきから変な音がしやがる……この本に、何か解決法があるかも……」

そう呟くと魔理沙は、目の前の本棚に手を伸ばし、次々と―――





「うだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

そこまで見て、パチュリーは絶叫した。

「うえ~ん!大ちゃん、パチュリー様がぁ……」

たまらず大妖精に泣きつく小悪魔。

「ありゃりゃ。ダメみたいだねぇ、こりゃ」

リリカがのほほんと言う。
恐怖させる事には成功したが、それはそれで彼女が本を盗む理由を作るのであった。作戦失敗。








リリカが帰った後、パチュリーはこの日の会議の結果を総括しようとしていた。

「えと。まとめると……」

話し始めたパチュリー。全員の視線が向く。

「霧雨魔理沙は、鬱っても本を盗む。ハッピーでも本を盗む。テンション上げすぎると、図書館崩壊。危険。噛み付きます。エサを与えないで下さい。怖がっても本を盗む。以上」

聞き終わった全員の口から、大きなため息。

「何落ち込んでるんだ?」

「魔理沙を止める術が見つからないのよ……もうどうしたらいいのか」

後ろからかけられた声に応えるパチュリー。

「はは、大変なんだな……」

「本当よ……」

「本だけに本当、ってか?はっはっは!」

「駄洒落じゃないの……」

はあ、と再びため息のパチュリー。と、そこで小悪魔が尋ねた。

「パチュリー様、さっきから誰と話してるんですか?」

「―――え?」

慌ててパチュリーが振り返ると、そこには―――

「嬉しいね、私の話題で盛り上がってくれてるなんてな」

先程まで、本の中で散々見た白黒がそこにいた。

「まっ……ままままま魔理沙!!?」

「そりゃそうだぜ。霊夢には見えないだろ」

しれっと返す魔理沙。

「こら~、どろぼ~!また盗みに来たのか~!」

食って掛かるルーミアを、魔理沙は両手で制する。

「落ち着けって。まだ用件を話してない」

「―――何の用?」

パチュリーが尋ねると、魔理沙はちょっと俯き加減になりながら言った。

「あ、ああ……今日はな、その……」

次の瞬間、魔理沙はトンデモない事を口走った。



「―――返そうかと思ってさ。本」







「―――(゚Д゚)ハイ?」

一同の反応は全く同じだった。何を言ってるのか、わからない。そんな感じだった。

「だから、今まで借りた本を返すって……ほら」

魔理沙が取り出した大きな袋。中に固いものがギッシリ詰まっている感じだ。
パチュリーが慌てて中身を確認する。

「あ、これ―――これも―――これも!私の本……」

「これ、まだ今まで借りた量の半分なんだけどさ」

魔理沙は申し訳無さそうに続けた。

「流石にずっと借りっぱなしはいけないかなって……その……ごめんな」

頭を下げる魔理沙。あまりにあっけない幕切れだった。
今までの会議は何だったのか―――誰しもがそう思ったが、口には出さない。

「―――魔理沙・・・」

パチュリーが、魔理沙の目を見つめる。




と、その時。






ドォォォォォォォォォン!!!





「きゃっ!な、何!?」

突如として轟いた爆音。
短い悲鳴を上げたパチュリーは、辺りを見渡す。外だろうか。だが、窓が無いのでわからない。
その時、ドアが素早くノックされ、ドアが開いた。

「パチュリー様、大変です!」

声の主は咲夜。

「どうしたの!?」

パチュリーが尋ねると、咲夜はこう答えた。

「あの、その……異常気象です!」

「い、異常気象!?」

慌てて部屋を飛び出すパチュリー。魔理沙が続いて部屋を出、残り全員もどやどやとついて行く。
玄関に辿り着いた一同が目にしたもの。それは、まさに『異常気象』と呼ぶに相応しい光景だった。
晴れていた筈の空には真っ黒な積乱雲が立ちこめ、その中を雷が走っている。
再び稲光。続いて、


ドォォォォン!!


轟音が轟く。しかし、雨は降っていない。それどころか―――

「あ、あれ?晴れてきた?」

チルノが空を指差した。雲の一部が切れ、青空が覗いている。と、今度は―――

「あれ……さ、寒い!寒いよ!」

大妖精が身を震わせた。急激に空気が冷えたかと思うと、何と雪がちらついているではないか。
そしてその雪は、数秒のうちに豪雪へと変化する。

「さ、寒い……」

寒さに弱いリグルが歯をガチガチと鳴らす。ホワイトアウトした視界の中を、紫色っぽい何かが通り抜けた。

「あれ!?レ、レティ……?」

冬の妖怪、レティ・ホワイトロックがそこにいた。

「あれ?もう冬じゃないの?」

あっけらかんと言う彼女。今は夏だ。
その時、パッと雪が止む。雲が消え、眩しい陽光が降り注いだ。

「あ、暑っ!失礼しました~っ!」

レティは風のように去って行った。それと同時に、温かいそよ風。

「あ、虹……」

小悪魔の言うとおり、空に虹が掛かっている。
温かい陽気に誘われてか、リリーホワイトが頭上を通り抜けていく。

「は、春ですよ~。多分春ですよ~」

だから今は夏だ。彼女自身も信じられないようだが。
次の瞬間には、瞬く間に暗雲が立ちこめ、凄まじい豪雨へと発展する。
暴風を伴い、雨はまるで滝のように降り注いだ。

「きゃ~……」

横殴りの豪雨に巻き込まれ、先程通過したリリーが吹き飛ばされていった。

「―――な、何なの、これは……?」

パチュリーが、信じられないといった面持ちで目の前の光景を眺めている。
大妖精が、まさか、と前置きしてから言う。

「珍しい事をすると、雨が降るなんて言いますよね。てことは、魔理沙さんが本を返すって言ったから……」

「その結果がこれ……?」

呆然と、目の前の惨状を眺める一同。
いつの間にか雨は止んだが、今度は大粒の雹が降り注いでいる。
バラバラと、絶え間無く屋根から音がした。

「魔理沙。やっぱり―――」

パチュリーが言いかけた、まさにその瞬間だった。
今までで一番激しい稲光。間髪入れず、凄まじい爆音が当たりに響き渡った。



ズガァァァァァァン!!!



「きゃああ!!」

誰とも無く、悲鳴が上がった。

「相当近い……つーか、紅魔館に落ちたんじゃないか?これ……」

魔理沙が分析する。

「ねえ、なんか焦げくさいよ」

チルノの言葉に、パチュリーがハッとする。

「―――ま、まさかっ!!」

慌てて中に入るパチュリー。全員がそれを追って中に入った。








呆然。愕然。図書館の入り口で、パチュリーは立ち尽くしていた。
追いついてきた一同も、同じく立ち尽くす。
屋内にある筈の図書館。だが、天井からはさっきまで玄関で見ていたのと同じ、黒い空。
いつの間にか雹から再び変わった豪雨が、まるでシャワーの如く降り注ぎ、床を流れていく。

「……さっきの雷が、天井ぶち抜いたんだな……」

空を見上げながら魔理沙。
雨で床が濡れただけならまだいい。しかし、ここには大量の蔵書。紙媒体は当然、湿気に弱い。
そして今、目の前では湿気どころか直下型の滝。本はぐっしょぐしょ。
駄菓子菓子(だがしかし)。悲劇はこれだけではなかった。

「ねえ、あの黒い塊、なに?」

チルノが指差す先には、大きな真っ黒い何かがいくつも点在していた。
先程の雷の直撃を受け、真っ黒に焦げた何か。
パチュリーが、魂の抜けたよう声を絞り出す。

「……ほんだな……」

「『本棚』と『本だな』の洒落か?」

魔理沙が茶化してみたが、パチュリーの反応は無い。
やがて、ぽつりと彼女は呟く。

「魔理沙……本、やっぱ返さなくていい……」

もっとも、魔理沙が返そうとしていた本の内半分は、そこで消し炭となっているか、水を吸って質量2.5倍増し増し状態なのだが。

「え、え……?」

うろたえる魔理沙に、小悪魔が耳打ち。

「いいから、同意して下さい!お願いします!」

「あ、ああ……わかった、返さない、ぜ」

魔理沙のその発言と同時に、雨がピタッと止まった。
雲が消え、再び夏の日差しが薄暗い筈の図書館に降り注ぐ。

「お、収まった……」

安堵したようにため息をつく一同。
魔理沙はばつが悪そうに言った。

「う~ん。じゃあ返さない代わりに、これからは二度と本を盗……違う、借りないって事にするか」

「え……本当に……?」

パチュリーの顔が、少しだけ明るくなる。
―――だが。



ドガァァァァァァン!!



再び爆音。続いて滝のような豪雨。

「うわああ、スコールだ!」

本を回収する手伝いをしていたリグルが戻ってくる。
そして、今度は豪雪。

「寒い寒い寒い!」

雪が止み、暖かい日差し。

「春ですよ~!春で……きゃ~!」

即座に台風並みの暴風が発生。再び参上したリリーホワイトを吹き飛ばす。
その暴風は図書館に残る本棚や蔵書の破片を巻き上げて飛ばしていく。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「じ、地震!?」

「あわわわわわわ……」

今度は地震まで発生する。結構大きい。転びそうになって慌てて壁に手をつくチルノ。
耐え切れなくなったパチュリーが魔理沙に懇願する。

「お願い、魔理沙!今まで通り、時々本盗みに来てぇ!」

「わわわわわ分かった!そうする!時々盗み……じゃなかった、借りに来るから!!」

魔理沙の台詞と共に、地震は収まった。













――― 一ヵ月後。
会議に参加したメンバーの協力もあり、図書館は元の姿を取り戻した。
もっとも、本の数は少し減ってしまっているようだが。
ちなみに、アルバイトはあの会議一回こっきりだった。パチュリーが『やっぱり自分達で何とかする』と言ったらしい。
で、当の図書館の主、パチュリーはと言うと―――



「こら~!待ちなさい、魔理沙!今日こそは……」

「うっひょ~!ルパンが逃げたぞぉぉ!!」

「ルパンは貴方でしょ~が!待ちなさいってば!」

「待てと言われて待つのは正直者だけだぜ!借りたら逃げる!じゃない、逃げたら借りる!すぐ借りるぜ!!」

「貴方ほど自分の欲望に正直な人間もそうはいないわよ!いいから止ま……」

「あばよ、とっつぁ~ん!……っと、これじゃ本当に私がルパンだな」



―――追いかけっこしていた。魔理沙と。

「ハァ……ハァ……けほ、けほ」

「パチュリー様、あまり無理をなさっては……」

咳き込むパチュリーを心配した小悪魔が声をかけ、背中をさすってやる。

「けほ……うぅ、ありがと」

お礼を言いながら、パチュリーは魔理沙が逃げたドアを見る。
彼女の手には、やはり虫網。勿論新品のままだ。

「もう、魔理沙ったら!次こそは捕まえてやるんだから!」

頬を膨らませるパチュリー。そして、虫網を定位置―――テーブルの脇に置く。
いつの間にか、虫網の定位置はドア付近からパチュリーの傍に変わっていた。それだけ、魔理沙の襲来が多いのだ。

「その虫網で、ですか?」

小悪魔の質問に、パチュリーは、しっかりと頷く。

「もちろんよ!」

そして、戻したばかりの虫網を手に取り、胸に抱いた。

「私は、この虫網でいつか絶対に魔理沙を捕らえてみせるわ。最近は、その姿をよく夢に見るのよ……」

既に夢にまで見るようになってしまったらしい、パチュリーの『魔理沙捕獲』の目標。
虫網を抱いたままうっとりと目を閉じるパチュリーを見て、小悪魔はくすりと笑った。

(何だかパチュリー様、楽しそう)

夏は暑い。冬は寒い。それぐらい当たり前となってしまったらしい、魔理沙の盗難行為。そう、万が一無かったら天変地異が起こるクラスの『当たり前』。
だが、元々魔理沙には会いたがっていたパチュリーの事だ、それぐらいで丁度良いのかも知れない。
先程のトムとジェリーを思わせるような追いかけっこだって、運動不足解消には持って来い―――なのだろうか?

「おっしゃー!見てなさい、魔理沙!」

虫網を高々と掲げるパチュリー。意気込む彼女に、小悪魔はパチパチと拍手。
魔理沙が本を盗む事によって、本が守られている。
何とも皮肉な話だが、当の本人達が楽しんでいるのだから、それでいいのだろう。
初めまして、です。ネコロビヤオキと申します。
長々とお付き合い頂きまして、誠に有難う御座います。

書いてる途中で思いついたネタをぽんぽん放り込んでしまうのが自分の悪い癖でして。
何時の間にやらやたらと長くなってしまいました。もう少し気軽に読める小説を書けるようになりたいです。
ジャンル分けが難しいですが、一応コメディという事でひとつ。

あ、最後に・・・。

○何で幻想郷の住人がおすぎとピーコとかタイタニックとかルパンとか知っとんねん、というツッコミは勘弁して下さいorz
ネタの一環という事で・・・。

○『待てといわれて待つのは正直者だけ』という台詞、どっかで聞いたことある気もしたのですが、そのまま使ってしまいました。もし既存のネタでしたら、ここで発案者様にお詫びとお礼を。

○コーンフレークのネタ、分かる人いるんでしょうか・・・

ここまでお読み下さった方、本当に有難う御座いました。
もし良ければまた書かせて頂きたいのですが、これからも宜しくしてやって下さると泣いて喜びます。


※2009年8月31日追記
いつまでもほったらかしはいけないので、内容には手を加えず三点リーダー他、ご指摘頂いた部分をまるまる修正致しました。
ご指摘有難う御座いました。
ネコロビヤオキ
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コメント



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5.70煉獄削除
面白かったんではないでしょうか?
チルノと大妖精のボケとツッコミも良かったです。
まあ…魔理沙の天変地異は……うん、収まって良かったと。

それと、「・・・」は「…(三点リーダ)」のほうが
良いかと思います。
15.90アクセス削除
これが作者様の初投稿作品ですねw どうもアクセスです。
シュミレーション時の魔理沙に笑わせて貰いましたw ではでは~^^
17.無評価ネコロビヤオキ削除
今更感漂いまくりですが、せっかく頂いたコメントを無視するなんて出来ないのでコメント返しいってみます。
皆様有難う御座います。

>>煉獄様
コメディの基本はやっぱりボケとツッコミということで。
天変地異ネタはどこかに元ネタがあった気がするのですが……どこだったかなぁ。
それと、ご指摘有難う御座います。もし指摘して頂けなかったら今頃……うひぃ怖い。

>>アクセス様
こんな昔の作品まで読んで頂けるとは、本当に有難う御座います。
魔理沙はやっぱりこうでなくちゃ、という当時の自分の魔理沙像が詰め込まれていますw
このノリは創想話プチでの自分の作品に受け継がれております。うむ、全然成長していない。
27.80月宮 あゆ削除
作者の良い面がすごく出ている原石のような作品でした。
ここがきっかけですか!
幽霊楽団や大妖精、小悪魔などのちの主要メンバがそろっていていいです
パチュリーかわいいよ