「はぁ、あと半年かぁ」
私の隣で溜息を吐いているのは我が妹であり、『豊穣の神』の秋穣子である。
「やめてよ。暗い気分がどす黒い気分になるわ」
ちなみに私は『紅葉の神』の秋静葉だ。
姉妹揃って秋の神であるため、この時期はやることがない。常時暇な状態である。一日の大半をごろごろして過ごしている。
空を見て暇をつぶしていると人の影が上空を飛んでいった。
蒼白の巫女服を着ているのが見えたので、半年程前に幻想郷に引越してきた守矢神社の風祝であることがわかった。
確か名前は……東風谷早苗だったけ。
あの娘はどこか懐かしい感じがする。
幻想郷にいる巫女が巫女であり、久しぶりに巫女らしい巫女を見たからだろう。
「あの娘よくこの上を飛んでいくよね」
穣子の言うとうり、彼女はよくこの社の上を飛んでいく。私達と違って忙しそうでなによりだ。
「そうね、引越してきたばかりだからいろいろやることがあるんじゃないの」
「ふーん。どうせ私達は暇だからねえ」
「……どうせ暇ならちょっとあの娘の神社がどんなものか覗いてみない?」
「えっ!?」
「何よ? 嫌なら私一人でいくけど」
「いや、一緒に行くよ。どうせ暇だし。姉さんがそんなことを言い出すとは思わなかったから」
「ふーん。ならさっさと支度して行きましょう」
まっ、支度といっても特にすることはない気もするが、
「ねぇ、姉さん。お土産に季節外れの焼き芋なんてどう?」
確かに冬から春に移ろうかというこの時期に焼き芋は季節外れのような気もするが、まだまだ寒いこの気温なら焼き芋もおいしく食べられるだろう。
「いいんじゃないかしら」
「ほんじゃ、守矢神社へレッツゴー!」
……妹よ、なぜそんなに元気なのだ? さっきまで沈んでいたくせに。
「おいも、おいも、おいも~♪おいも~を食べ~ると~♪あたま、あたま、あたま~♪あたまが良く~なる~♪」
「……何? その変な歌?」
「河童が歌ってたのよ。本当は『おいも』じゃなくて『さかな』らしいけどね」
「河童が歌うなら胡瓜じゃないの?」
「山の上の盟友が教えてくれたって」
「あぁ、あの娘ね。外では変な歌が流行っているのね」
「変かなぁ~。気分が良くなるいい歌だと思うけど」
「そう?」
「おいもはぼく~らを~♪まって~いる~♪」
……だからなぜそんなに元気なのだ? よっぽどやることができて嬉しいのか?
このままだと私も変な歌を歌わされそうな気がするので話題を変えよう。
「ねぇ。穣子はいつも裸足だけど足は痛くないの?」
「えっ? 痛くないよ。慣れた」
と言ってまた歌い始めた。
『おいも』の歌は止まることなく、私は歌詞を全て覚えてしまった。
守矢神社までの道程は、果てしなく遠かった。
到着した時すでにお日様は西に沈もうとしていた。出発はお昼前だったのに。飛んでくればよかった。
「つ、疲れたぁ。とりあえず、疲れた」
「おぉ~。これが噂の守矢神社。さすがにすごい立派な造りをしているねぇ」
穣子はあっちこっち見て回っている。
……もう何も言うまいて。姉妹なのに、同じ神なのに、何故にこうも体力が違う? とか疑問に思わないことにする。
きっと『豊かさと稔りの象徴』の豊かさっていうのは、体力も豊かであるってことでしょう。
別に私が運動不足っていうわけじゃない。神に運動不足という概念はない! でも、万が一ってこともあるし、筋トレでもしようかしら。
大体、姉の私よりも胸が豊かなうえに、体力までも豊かですって! ぐぬぬぬぬ……
あ~っといけないこんなアホなこと考えてる場合じゃなかったわ。
「それにしても、誰もいないのね」
「留守中かな?」
さすがに神社をカラにするわけは無いだろう。奥にいるのかもしれない。
ん? 私達の社? カラね。見事にカラよ。
……本当に此処も留守中かもね。
「あっ姉さん、奥から声が聞こえるよ」
やっぱり誰かいるようね。
挨拶もしないといけないし、奥に向かうことにしよう。
「あーうー。神奈子、証拠は山ほどあるんだぞ。さっさと白状しろ!」
「何回言ってもわからんのかねぇ、この蛙は。私じゃないと言ってるだろうが」
「あややや、これは見出しに困りますね。守矢神社の二柱の痴話喧嘩? 巫女を取り合い決闘する神々? うーん……」
そこには険悪な雰囲気の神が二柱と写真を撮りながらブツブツ言ってる烏天狗がいた。
「私のとっておきのケロケロ仮面(早苗作のぬいぐるみ)を返せえええええ」
叫びながら目玉帽子の神が、
「神具『洩矢の鉄の輪』!」
スペルを発動させた。
「はんっ! やる気かい? そっちがその気ならやってやろうじゃないの。神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』!」
もう一方の神もスペルを発動させた。
あれ? この位置って巻き込まれる可能性100%の気がする。
まさか『寂しさと終焉の象徴』の終焉ってこういうこと?
「あやっ!? 早苗さんが帰ってきたようですよ。神奈子様も諏訪子様もそんなことしていていいんですか?」
「「えっ!?」」
烏天狗の一言によって二柱とも闘いをやめた? 助かった。
烏天狗の視線を追っていくと、翠色の髪をした少女がこちらに向かってくるのが見えた。
神の喧嘩を登場するだけで止める少女!
「神奈子様、諏訪子様。お二方は何をしでかそうとしてらしたんでしょうか?」
何か後ろにオーラが見える笑みを浮かべながら早苗は着地した。
「あーうー。早苗、これは神奈子の奴が私のケロケロ仮面を壊しちまったから。悪いのは神奈子だよ。よって飯抜きは神奈子1人!」
「だっかっら!私じゃないと言ってるだろうが!」
また騒ぎ出した二柱を呆れながら見ていると、
「どーも、清く正しく射命丸です。どーぞ、馴れ馴れしく文とでも呼んでください」
何か話しかけられた。どうせ話しかけるなら穣子にすればいいのに。
ん?そういえば穣子はどこ行った?
「どうも、『豊穣の神』の秋穣子といいます」
「これはご丁寧に。私はこの守矢神社で風祝をしています東風谷早苗という者です」
「私はこの神社の神である八坂神奈子だ」
「この神社の本当の神である洩矢諏訪子だよ」
何やってんだい? 我が妹よ。いつから世渡り術が上手くなったの?
「……っというけで、我が『文々。新聞』をよろしく。って聞いてますかぁ?」
「ごめん。全く聞いてなかった」
こっちは穣子への対応で手一杯なのよ。
「あっちで烏天狗と話しているのが私の姉で『紅葉の神』の秋静葉です」
「ほぉ」
なんか勝手に紹介されてるし、
「これ、お土産の焼き芋です」
「へぇ。この季節に焼き芋ね。さすが豊穣の神ってところだね」
「どうでしょう。もう日も暮れますし、夕飯をご一緒しませんか?」
「えぇ」
と言って穣子は早苗と一緒に屋内へ入っていった。
「すみません。妹が……」
「いいの、いいの。神同士なんだからそんなに硬くならなくてもいいに」
「ですが、八坂様「神奈子よ」え?」
「神同士なんだから、神奈子って呼ぶといい」
「私は諏訪子でいいよ」
「わかりました。神奈子さん、諏訪子さん」
二柱は不満そう顔をしたが、私としてはこうして会話をしているだけで、神としての格の違いがわかる相手に呼び捨てなどできない。
その後、大変美味しい夕食をご馳走になるまでは良かったのだが、どこから沸いて出たのか天狗やら河童やらが集って来て、宴会になったところで私の意識は闇に消えた。
「うぅ、頭痛い」
私は神のわりには酒には弱いのだ。あれだけ飲めば二日酔いにもなるだろう。
「だーかーらー。私じゃないと何度言えばわかる」
「じゃあ、誰が私のケロケロ仮面を壊したのさ?」
「知らん」
またやってるよ。
「ケロケロ仮面? それって文様が神社に突撃した時にふぐっむがっ」
「ちょっ、椛!? 黙って」
文が椛と呼んだ天狗を必死に押さえているが、手遅れじゃないかい?
「あーや? どういうこと?」
「……あの雲、パンみたいですね」
「話を逸らすな!」
「くっ、咲夜さんから教わった『話を逸らす二十六の方法』の一つが破られるとは」
それ、かなり頼りにならなさそうだなぁ。
「かくなる上は、退避!」
そう言うや否や物凄いスピードで飛んでいった。
「あーうー。次に来た時はおぼえてろよぉ」
「諏訪子様、ケロケロ仮面ならまた作ってあげますから」
「ホント?」
「あっ、早苗。私にもスウィートポテト元帥を作って」
「はい、わかりました」
穣子!? 何言ってるのあなたは? スウィートポテト元帥? 何それ?
あぁ、余計頭が痛くなってきた。
そういえばなんだかこの二人は昨日の宴会でもよく喋っていた。
まあ妹に仲の良い友人ができるのはいいことだ。
「姉さんには落ち葉伯爵をお願いね」
「勝手に変なものを頼むな」
「はい、わかりました」
「早苗も了承しない」
ていうか、この娘はスウィートポテト元帥や落ち葉伯爵が何か理解しているのかしら?
私には想像もつかないわ。
「早苗ー。神奈子には蛇婆をつくってぺっ」
「だれが婆だって? あんたのほうが歳は上じゃないの」
「見た目の問題だよ。見た目の」
神奈子さん達は軽口を言い合いながらどこかへ行ってしまった。
「すみません。騒がしくて」
「別にあなたが謝ることじゃないわ。それに騒がしいのもたまにはいいしね」
しばらく早苗、穣子とともに三人で話していた。
早苗はかたっくるしい娘かと思っていたが、存外話やすかった。
この日以来、私達が守矢神社に行ったり、早苗が私達の社に来たり、三人で人里に行ったりするようになった。
この日、私と穣子は守矢一家の着せ替え人形となっていた。
「穣子様にはこっちのほうが似合いますよ」
「いや、こっちだね」
「こっちだよ。こっち」
今は穣子に着せる服を選んでいるようだ。着せられる服は早苗が外できていた服らしい。
私は今、早苗が外の世界の寺子屋で着ていたセーラー服とやらを着ている。
どうでもいいが腰周りがきつく、胸がゆるいというのはなんたることか。
「そろそろ夕飯の支度をしませんと」
「なんか妙に寒くなってきた?」
「炬燵に直行!」
夕飯の支度をしにいった早苗以外全員が炬燵のある居間へ向かった。
「雪でも降るのかねぇ」
数時間経つと雪が降るどころじゃなく吹雪いてきた。
「あーうー。寒い、もうだめだ私は冬眠するぞ」
「勝手にしてろ。するなら炬燵から出て行け」
神奈子さんと諏訪子さんが喧嘩腰なのはいつものことだから心配ないとして、ちょっと降りすぎじゃないかしら。
「もうすぐ春なのにこんなに吹雪くことがあるんですね。人里の方は大丈夫でしょうか」
「うーん、どうだろうか」
なんだか嫌な予感がした。
翌日、私と早苗、穣子で人里に来ていた。
「うひゃあ、思っていよりひどいね」
穣子の言う通り里は散々たる状況だった。
山の上にある神社よりも雪が降ったようだ。ちょっと変かなとも思ったがそういうこともあるのだろう。
歩いていると見たことのある人影が慌しそうにしていた。
里の守護者である上白沢慧音も対応におわれているようだ。
「慧音さん、どんな状況ですか」
「む、早苗殿に……秋の神!? なぜ秋の神が此処に?」
「そんなことより里の状況ですよ」
「お、おう。そうだな。積もった雪は妹紅が、怪我人は永琳殿が対応しているがな、それはまだいいのだ」
「何か他に問題があるのですか?」
「うむ。里の食料が殆どやられてな。次の収穫まで所か、一月耐えれるかどうかわからん」
「ええ!? それってかなりまずいんじゃ」
「……そうなのだ。私もどうしたらいいかわからん」
ハハハ、と乾いた笑いをしながら慧音は行ってしまった。
無理もない。こんな状況だ。周りを見渡しても、生気がある顔をした者はいなかった。
正に生き地獄である。
「……」
「穣子? どうしたの?」
「なんでもないよ」
「?」
「静葉様、穣子様。私はこのことを神奈子様と諏訪子様にしらせてきます」
それまで里の様子を見て回っていた早苗はそう言うと飛んでいった。
なんとかしたいが、今は秋ではない。暦の上では真反対に位置する。力の半分も出すことはできない。
「姉さん。帰ろうか」
「うん」
あれから一週間がたった。
事態は全く好転していない。異変解決が専門の博麗の巫女もさすがに食料難は解決できないだろう。
私がもう一つ心配していることがある。
それはあの日以来、穣子の様子がおかしいのだ。日に日にやつれている気がする。
私達が起きている時は何も変なことはない。
となると寝ている時になにか起きているのだろう。
その夜、寝たふりをしていると穣子が起き、外に出て行った。
まさかとは思いつつ、穣子を尾行する。
穣子はすっかり荒れ果てた空き地の真ん中に立つと、自らの力を使い始めた。
やっぱり。
神というのは信仰の力が無くなれば消える。これが神の死。何も残らずに文字通り消える。
私達は秋の神であり、秋になると最高の信仰力を得ることができるし、自身の力も増す。秋に得た信仰力を蓄えて、次の秋を迎える。
多少の力を使うことはできても、この季節に秋までの里の人間全員分の穀物を生み出すほどの力をしようすればどうなるだろうか。
考えたくは無い。
「穣子! あなた何をしているの?今、この季節にそんなに大量の力をつかったらどうなるかわかるでしょう?」
「姉さん!? わ、わかってるわ。だけど今、この状況を打開するためにはこれしかないでしょう?」
確かに……確かにそうかもしれないが、あなた今自分がどんな顔してるかわかる?
私はそんな苦しそうな顔をしている穣子をみたくないわ。
「どうしても止めないわけ?」
「止めるわけにはいかないでしょう?」
「私は姉として妹がきえていくのは見ていられないわ。力ずくで止めさせるわよ」
「!!」
穣子には悪いけど、全力を出せない条件は同じ。だが、向こうは今まで力を使い続け疲弊している。
穣子を消えさせやしない!
「葉符『狂いの落葉』!」
私を中心にいろいろな木々の落ち葉かたどった弾が展開されていく。
そして穣子目掛けて放つ。
「穣子、悪く思わないでよ」
「くっ」
穣子には攻撃するだけの力は残っていないだろう。
できるだけ早く終わらせることにする。
「豊符『オヲトシハーベスター』!」
「なっ!?」
穣子は攻撃できないと踏んでた私は完全に不意をつかれたかたちになった。
「ぐふっ」
穣子の放ったレーザーの直撃を受けた。
やばい、第二波がくる。くらくらする頭、霞む目で弾筋を見極める。
何と避けれた。次の波に備えようとすると、
「お二人ともお止めくださいっ!!」
突然大声が聞こえてきた。
大声の発生源を見ると、瞳に涙を蓄えた早苗が立っていた。
「何故お二人が闘う必要があるのですか?」
「だけど早苗。穣子を止めなければ……」
「事情はわかってます。大丈夫です。この時の為に稽古を積んできましたから」
そう言うと早苗は身の丈ほどもある刀を取り出し、舞を始めた。
よく見ると早苗の着ている巫女服はいつものとは違う。いろいろ装飾が施されている。
それにこの舞はどこかで見たことがある。
……そうだ、これは秋を呼ぶ舞。私と穣子がまだ外の世界にいて、私達に仕えていた巫女がいた時に見たもの。
私は、自然と泣いていた。懐かしさからくるものなのか涙が止まらなかった。
ふと、舞う早苗と以前私たちに仕えていた巫女が重なった気がした。
似ている。私達に仕えていた巫女に似ている。だからこの娘を見ると懐かしい感じがしたのか。
すっかり記憶から消えていたあの巫女の笑顔とか思い出とかが蘇り、よけい泣けてきた。
穣子も泣いているようだったが、霞んでよく見えない。
確かにこれで秋を呼べば、力を発揮できるかもしれない。だがこれは夏の終わりに確実に秋を迎える為にするものであり、強制的に秋を呼ぶ為に行ったことはない。
つまり一か八かの賭けだ。可能性は限りなく低いと思うが。
私は違和感を感じた。
周りを見てみるとそこには、一面の紅葉が広がっていた。
「すごい。こんなことが有得るのかしら」
「私は奇跡を起こす風祝ですから。それに静葉様や穣子様から信仰もいただきました」
「へ?」
「私は信仰を自らの力に変えれる現人神でもありますから」
「そう。でもあの舞はどこで知ったの?」
「神奈子様は農業の神でもあるんです。穣子様ほどではないにしても農作物に関係していますから、秋の舞も知っていたというでけですよ。」
笑顔でそう言っているが、顔には疲労の色がありありと浮かんでいた。
それはそうだ、季節を強引に変えたのだ。相当の力を使ったに違いない。
「後はまかせて休んでなさい」
「はい。後に備えて休んでおきます」
早苗の言葉にちょっと疑問をいだきつつ、穣子のもとに駆け寄った。
「姉さん、ありがとう。姉さんが止めに入ってなければ私は今頃消えていたかもしれない」
「そいうのは後にしなさい。今はやるべきことをやりましょう」
穣子の力で穀物を成長させる。私は落ち葉を肥養として成長を助ける。
早苗のお陰でかなり楽に力を仕える。
雨が降ってきた。早苗が言うには、神奈子さんや諏訪子さんがしたことらしい。
数時間そうしていると何かが近づいてくるのがわかる。
「来ましたね」
早苗はそう言うと、立ち上がった。
私は近づいてくる何かがわかって愕然とした。
確かに、季節を変えておいて動かないはずが無い。
あれはただでさえ厄介なのに、ここにいる全員が疲労困憊である。
「大丈夫。霊夢さんも話せばわかってくれるはずです」
そう言って飛んでいく早苗。
「久しぶりですね。霊夢さん」
「そうね。……見た感じあんた達がこの異変の黒幕かしら?」
「秋になっていることですか? 確かにそれは私達のしたことですが、それよりも前に解決すべき問題があるんじゃないですか?」
「あれは私じゃどうにもならないわよ。それよりあんた達のしていることは幻想郷の生態を崩す恐れがあるわ」
「このままほおって置いたら幻想郷の人間はほぼ全滅です。それこそ生態系を崩すのでは?」
「じゃあ何? あんた達はあれを解決する為にこんなことしたっていうの?」
「そうですよ。それにこの秋は一過性のものです。すぐもとに戻ります」
「……本当かしら?」
「疑い深いんですね。そうだ。霊夢さんも手伝ってくれればわかりますよ」
「はぁ?」
「正直ここにいる全員がいっぱいいっぱいなんですよ。霊夢さんほどの力を持った人が手伝ってくれれば百人力です」
「……勝手に話を進めないでくれるかしら」
おいおい、確かに博麗の巫女が手伝ってくれるのなら心強いが……
素直に説得に応じるような性格じゃないと思うけど。
「まあ、いいわ。手伝ってやるわよ。あんたが嘘言ってるようにも思えないし」
ええええええ!? 説得できちゃった。早苗すげえ。
博麗の協力を得た私達の作業効率はかなり上がり、ついに目標数分の食物を創ることができた。
終わったあと、私と穣子は力を使いすぎたのか次の秋がくるまで封印状態になってしまった。
夏の終わりがきた。
秋が来るまで起きれないと思っていたが、その前に起きることができたようだ。
「あの後、里の皆さんがこの社に参拝によく来るようになったんですよ」
早苗から聞くと私達が眠ったあと博麗の巫女と共に里の人間に食物を配ったらしい。
なるほど。それで秋でもないのに信仰の力がたまっていったというわけか。
「しかしよくあの巫女を説得できたね? 幻想郷一融通がきかなそうな奴なのに」
穣子は世界最大級の謎だとばかりの顔できいてる。それはあの巫女に失礼じゃないかい?
「霊夢さんだって馬鹿じゃないですから、どうすれば今の状況にとって一番いいことなのかはわかりますよ」
「まあ、その後二人仲良く風邪をひいてたがね」
神奈子さんがちゃちゃをいれる。
「あれは……神奈子様と諏訪子様が大雨を降らせすぎなんですよ。霊夢さんだって『あいつら、やりすぎじゃない?』って言ってましたよ」
「あー、まあ私達も気合が入っていたというわけさ」
確かにあれは降らせすぎだったと思う。
「あっ、そうだ。お二方にお渡ししたい物があったんですよ」
といって二つのぬいぐるみを取り出す早苗。
「何? これ」
「スウィートポテト元帥と落ち葉伯爵です。よくわからなかったので想像でつくってみました」
……やっぱり早苗にもわかってなかったのね。
それなのにつくってくれるとは。ええ娘や。
「ありがとう」
「ありがとね。ところで早苗、いつもの巫女服と違うみたいだけど?」
そう。私も疑問に思っていたのだが早苗の着ているのは昔懐かしい普通の巫女服だった。腋がでてないやつ。
「それは今からわかりますよ」
と言って外に出て行く早苗。
あとに続いて私達が出て行くとそこには諏訪子さんと何故か厄神がいた。たしか鍵山雛だっけ?
「諏訪子様、雛様。始めますのでどいてください」
「うーん。この巫女服もいいけどいつものやつの方がいいかも。雛はどう思う?」
「私はこっちでもいいですよ」
「お二方とも話を聞いてましたか?」
いつのまに厄神と仲良くなったんだろうか?
早苗は巫女らしい巫女だから神からは好かれるかもしれない。
「「はいはい」」
としぶしぶ脇にどく諏訪子さんと雛さん。
「では、始めさせてもらいますね」
一礼して舞い始める早苗。秋を呼ぶ舞だ。
「「おお」」
夏の終わりに秋の舞をおどる巫女。
あの娘に似ていることもあって昔に戻ったかのようだ。
「やらんぞ」
懐かしんで見ていると、神奈子さんからそう声がかかった。
「え?」
「早苗は私の神社のだ。お前んとこにはやらんぞ」
「えーと。別に奪おうとかしてませんよ?」
「いや、今の目は自分の巫女を見ている目だった」
「そ、そうですか?」
「そうだった!」
早苗が私達に仕える巫女。それもいいかもしれない。
「おい。今本当に早苗を巫女にしようとか考えただろ」
「ソノヨウナコトハ、ケッシテアリマセンヨ」
「ぷっ、あははははは」
神奈子さんが笑うのにつられて私も笑う。
「?」
舞が終わった早苗は不思議そうにこっちを見ていた。
私の隣で溜息を吐いているのは我が妹であり、『豊穣の神』の秋穣子である。
「やめてよ。暗い気分がどす黒い気分になるわ」
ちなみに私は『紅葉の神』の秋静葉だ。
姉妹揃って秋の神であるため、この時期はやることがない。常時暇な状態である。一日の大半をごろごろして過ごしている。
空を見て暇をつぶしていると人の影が上空を飛んでいった。
蒼白の巫女服を着ているのが見えたので、半年程前に幻想郷に引越してきた守矢神社の風祝であることがわかった。
確か名前は……東風谷早苗だったけ。
あの娘はどこか懐かしい感じがする。
幻想郷にいる巫女が巫女であり、久しぶりに巫女らしい巫女を見たからだろう。
「あの娘よくこの上を飛んでいくよね」
穣子の言うとうり、彼女はよくこの社の上を飛んでいく。私達と違って忙しそうでなによりだ。
「そうね、引越してきたばかりだからいろいろやることがあるんじゃないの」
「ふーん。どうせ私達は暇だからねえ」
「……どうせ暇ならちょっとあの娘の神社がどんなものか覗いてみない?」
「えっ!?」
「何よ? 嫌なら私一人でいくけど」
「いや、一緒に行くよ。どうせ暇だし。姉さんがそんなことを言い出すとは思わなかったから」
「ふーん。ならさっさと支度して行きましょう」
まっ、支度といっても特にすることはない気もするが、
「ねぇ、姉さん。お土産に季節外れの焼き芋なんてどう?」
確かに冬から春に移ろうかというこの時期に焼き芋は季節外れのような気もするが、まだまだ寒いこの気温なら焼き芋もおいしく食べられるだろう。
「いいんじゃないかしら」
「ほんじゃ、守矢神社へレッツゴー!」
……妹よ、なぜそんなに元気なのだ? さっきまで沈んでいたくせに。
「おいも、おいも、おいも~♪おいも~を食べ~ると~♪あたま、あたま、あたま~♪あたまが良く~なる~♪」
「……何? その変な歌?」
「河童が歌ってたのよ。本当は『おいも』じゃなくて『さかな』らしいけどね」
「河童が歌うなら胡瓜じゃないの?」
「山の上の盟友が教えてくれたって」
「あぁ、あの娘ね。外では変な歌が流行っているのね」
「変かなぁ~。気分が良くなるいい歌だと思うけど」
「そう?」
「おいもはぼく~らを~♪まって~いる~♪」
……だからなぜそんなに元気なのだ? よっぽどやることができて嬉しいのか?
このままだと私も変な歌を歌わされそうな気がするので話題を変えよう。
「ねぇ。穣子はいつも裸足だけど足は痛くないの?」
「えっ? 痛くないよ。慣れた」
と言ってまた歌い始めた。
『おいも』の歌は止まることなく、私は歌詞を全て覚えてしまった。
守矢神社までの道程は、果てしなく遠かった。
到着した時すでにお日様は西に沈もうとしていた。出発はお昼前だったのに。飛んでくればよかった。
「つ、疲れたぁ。とりあえず、疲れた」
「おぉ~。これが噂の守矢神社。さすがにすごい立派な造りをしているねぇ」
穣子はあっちこっち見て回っている。
……もう何も言うまいて。姉妹なのに、同じ神なのに、何故にこうも体力が違う? とか疑問に思わないことにする。
きっと『豊かさと稔りの象徴』の豊かさっていうのは、体力も豊かであるってことでしょう。
別に私が運動不足っていうわけじゃない。神に運動不足という概念はない! でも、万が一ってこともあるし、筋トレでもしようかしら。
大体、姉の私よりも胸が豊かなうえに、体力までも豊かですって! ぐぬぬぬぬ……
あ~っといけないこんなアホなこと考えてる場合じゃなかったわ。
「それにしても、誰もいないのね」
「留守中かな?」
さすがに神社をカラにするわけは無いだろう。奥にいるのかもしれない。
ん? 私達の社? カラね。見事にカラよ。
……本当に此処も留守中かもね。
「あっ姉さん、奥から声が聞こえるよ」
やっぱり誰かいるようね。
挨拶もしないといけないし、奥に向かうことにしよう。
「あーうー。神奈子、証拠は山ほどあるんだぞ。さっさと白状しろ!」
「何回言ってもわからんのかねぇ、この蛙は。私じゃないと言ってるだろうが」
「あややや、これは見出しに困りますね。守矢神社の二柱の痴話喧嘩? 巫女を取り合い決闘する神々? うーん……」
そこには険悪な雰囲気の神が二柱と写真を撮りながらブツブツ言ってる烏天狗がいた。
「私のとっておきのケロケロ仮面(早苗作のぬいぐるみ)を返せえええええ」
叫びながら目玉帽子の神が、
「神具『洩矢の鉄の輪』!」
スペルを発動させた。
「はんっ! やる気かい? そっちがその気ならやってやろうじゃないの。神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』!」
もう一方の神もスペルを発動させた。
あれ? この位置って巻き込まれる可能性100%の気がする。
まさか『寂しさと終焉の象徴』の終焉ってこういうこと?
「あやっ!? 早苗さんが帰ってきたようですよ。神奈子様も諏訪子様もそんなことしていていいんですか?」
「「えっ!?」」
烏天狗の一言によって二柱とも闘いをやめた? 助かった。
烏天狗の視線を追っていくと、翠色の髪をした少女がこちらに向かってくるのが見えた。
神の喧嘩を登場するだけで止める少女!
「神奈子様、諏訪子様。お二方は何をしでかそうとしてらしたんでしょうか?」
何か後ろにオーラが見える笑みを浮かべながら早苗は着地した。
「あーうー。早苗、これは神奈子の奴が私のケロケロ仮面を壊しちまったから。悪いのは神奈子だよ。よって飯抜きは神奈子1人!」
「だっかっら!私じゃないと言ってるだろうが!」
また騒ぎ出した二柱を呆れながら見ていると、
「どーも、清く正しく射命丸です。どーぞ、馴れ馴れしく文とでも呼んでください」
何か話しかけられた。どうせ話しかけるなら穣子にすればいいのに。
ん?そういえば穣子はどこ行った?
「どうも、『豊穣の神』の秋穣子といいます」
「これはご丁寧に。私はこの守矢神社で風祝をしています東風谷早苗という者です」
「私はこの神社の神である八坂神奈子だ」
「この神社の本当の神である洩矢諏訪子だよ」
何やってんだい? 我が妹よ。いつから世渡り術が上手くなったの?
「……っというけで、我が『文々。新聞』をよろしく。って聞いてますかぁ?」
「ごめん。全く聞いてなかった」
こっちは穣子への対応で手一杯なのよ。
「あっちで烏天狗と話しているのが私の姉で『紅葉の神』の秋静葉です」
「ほぉ」
なんか勝手に紹介されてるし、
「これ、お土産の焼き芋です」
「へぇ。この季節に焼き芋ね。さすが豊穣の神ってところだね」
「どうでしょう。もう日も暮れますし、夕飯をご一緒しませんか?」
「えぇ」
と言って穣子は早苗と一緒に屋内へ入っていった。
「すみません。妹が……」
「いいの、いいの。神同士なんだからそんなに硬くならなくてもいいに」
「ですが、八坂様「神奈子よ」え?」
「神同士なんだから、神奈子って呼ぶといい」
「私は諏訪子でいいよ」
「わかりました。神奈子さん、諏訪子さん」
二柱は不満そう顔をしたが、私としてはこうして会話をしているだけで、神としての格の違いがわかる相手に呼び捨てなどできない。
その後、大変美味しい夕食をご馳走になるまでは良かったのだが、どこから沸いて出たのか天狗やら河童やらが集って来て、宴会になったところで私の意識は闇に消えた。
「うぅ、頭痛い」
私は神のわりには酒には弱いのだ。あれだけ飲めば二日酔いにもなるだろう。
「だーかーらー。私じゃないと何度言えばわかる」
「じゃあ、誰が私のケロケロ仮面を壊したのさ?」
「知らん」
またやってるよ。
「ケロケロ仮面? それって文様が神社に突撃した時にふぐっむがっ」
「ちょっ、椛!? 黙って」
文が椛と呼んだ天狗を必死に押さえているが、手遅れじゃないかい?
「あーや? どういうこと?」
「……あの雲、パンみたいですね」
「話を逸らすな!」
「くっ、咲夜さんから教わった『話を逸らす二十六の方法』の一つが破られるとは」
それ、かなり頼りにならなさそうだなぁ。
「かくなる上は、退避!」
そう言うや否や物凄いスピードで飛んでいった。
「あーうー。次に来た時はおぼえてろよぉ」
「諏訪子様、ケロケロ仮面ならまた作ってあげますから」
「ホント?」
「あっ、早苗。私にもスウィートポテト元帥を作って」
「はい、わかりました」
穣子!? 何言ってるのあなたは? スウィートポテト元帥? 何それ?
あぁ、余計頭が痛くなってきた。
そういえばなんだかこの二人は昨日の宴会でもよく喋っていた。
まあ妹に仲の良い友人ができるのはいいことだ。
「姉さんには落ち葉伯爵をお願いね」
「勝手に変なものを頼むな」
「はい、わかりました」
「早苗も了承しない」
ていうか、この娘はスウィートポテト元帥や落ち葉伯爵が何か理解しているのかしら?
私には想像もつかないわ。
「早苗ー。神奈子には蛇婆をつくってぺっ」
「だれが婆だって? あんたのほうが歳は上じゃないの」
「見た目の問題だよ。見た目の」
神奈子さん達は軽口を言い合いながらどこかへ行ってしまった。
「すみません。騒がしくて」
「別にあなたが謝ることじゃないわ。それに騒がしいのもたまにはいいしね」
しばらく早苗、穣子とともに三人で話していた。
早苗はかたっくるしい娘かと思っていたが、存外話やすかった。
この日以来、私達が守矢神社に行ったり、早苗が私達の社に来たり、三人で人里に行ったりするようになった。
この日、私と穣子は守矢一家の着せ替え人形となっていた。
「穣子様にはこっちのほうが似合いますよ」
「いや、こっちだね」
「こっちだよ。こっち」
今は穣子に着せる服を選んでいるようだ。着せられる服は早苗が外できていた服らしい。
私は今、早苗が外の世界の寺子屋で着ていたセーラー服とやらを着ている。
どうでもいいが腰周りがきつく、胸がゆるいというのはなんたることか。
「そろそろ夕飯の支度をしませんと」
「なんか妙に寒くなってきた?」
「炬燵に直行!」
夕飯の支度をしにいった早苗以外全員が炬燵のある居間へ向かった。
「雪でも降るのかねぇ」
数時間経つと雪が降るどころじゃなく吹雪いてきた。
「あーうー。寒い、もうだめだ私は冬眠するぞ」
「勝手にしてろ。するなら炬燵から出て行け」
神奈子さんと諏訪子さんが喧嘩腰なのはいつものことだから心配ないとして、ちょっと降りすぎじゃないかしら。
「もうすぐ春なのにこんなに吹雪くことがあるんですね。人里の方は大丈夫でしょうか」
「うーん、どうだろうか」
なんだか嫌な予感がした。
翌日、私と早苗、穣子で人里に来ていた。
「うひゃあ、思っていよりひどいね」
穣子の言う通り里は散々たる状況だった。
山の上にある神社よりも雪が降ったようだ。ちょっと変かなとも思ったがそういうこともあるのだろう。
歩いていると見たことのある人影が慌しそうにしていた。
里の守護者である上白沢慧音も対応におわれているようだ。
「慧音さん、どんな状況ですか」
「む、早苗殿に……秋の神!? なぜ秋の神が此処に?」
「そんなことより里の状況ですよ」
「お、おう。そうだな。積もった雪は妹紅が、怪我人は永琳殿が対応しているがな、それはまだいいのだ」
「何か他に問題があるのですか?」
「うむ。里の食料が殆どやられてな。次の収穫まで所か、一月耐えれるかどうかわからん」
「ええ!? それってかなりまずいんじゃ」
「……そうなのだ。私もどうしたらいいかわからん」
ハハハ、と乾いた笑いをしながら慧音は行ってしまった。
無理もない。こんな状況だ。周りを見渡しても、生気がある顔をした者はいなかった。
正に生き地獄である。
「……」
「穣子? どうしたの?」
「なんでもないよ」
「?」
「静葉様、穣子様。私はこのことを神奈子様と諏訪子様にしらせてきます」
それまで里の様子を見て回っていた早苗はそう言うと飛んでいった。
なんとかしたいが、今は秋ではない。暦の上では真反対に位置する。力の半分も出すことはできない。
「姉さん。帰ろうか」
「うん」
あれから一週間がたった。
事態は全く好転していない。異変解決が専門の博麗の巫女もさすがに食料難は解決できないだろう。
私がもう一つ心配していることがある。
それはあの日以来、穣子の様子がおかしいのだ。日に日にやつれている気がする。
私達が起きている時は何も変なことはない。
となると寝ている時になにか起きているのだろう。
その夜、寝たふりをしていると穣子が起き、外に出て行った。
まさかとは思いつつ、穣子を尾行する。
穣子はすっかり荒れ果てた空き地の真ん中に立つと、自らの力を使い始めた。
やっぱり。
神というのは信仰の力が無くなれば消える。これが神の死。何も残らずに文字通り消える。
私達は秋の神であり、秋になると最高の信仰力を得ることができるし、自身の力も増す。秋に得た信仰力を蓄えて、次の秋を迎える。
多少の力を使うことはできても、この季節に秋までの里の人間全員分の穀物を生み出すほどの力をしようすればどうなるだろうか。
考えたくは無い。
「穣子! あなた何をしているの?今、この季節にそんなに大量の力をつかったらどうなるかわかるでしょう?」
「姉さん!? わ、わかってるわ。だけど今、この状況を打開するためにはこれしかないでしょう?」
確かに……確かにそうかもしれないが、あなた今自分がどんな顔してるかわかる?
私はそんな苦しそうな顔をしている穣子をみたくないわ。
「どうしても止めないわけ?」
「止めるわけにはいかないでしょう?」
「私は姉として妹がきえていくのは見ていられないわ。力ずくで止めさせるわよ」
「!!」
穣子には悪いけど、全力を出せない条件は同じ。だが、向こうは今まで力を使い続け疲弊している。
穣子を消えさせやしない!
「葉符『狂いの落葉』!」
私を中心にいろいろな木々の落ち葉かたどった弾が展開されていく。
そして穣子目掛けて放つ。
「穣子、悪く思わないでよ」
「くっ」
穣子には攻撃するだけの力は残っていないだろう。
できるだけ早く終わらせることにする。
「豊符『オヲトシハーベスター』!」
「なっ!?」
穣子は攻撃できないと踏んでた私は完全に不意をつかれたかたちになった。
「ぐふっ」
穣子の放ったレーザーの直撃を受けた。
やばい、第二波がくる。くらくらする頭、霞む目で弾筋を見極める。
何と避けれた。次の波に備えようとすると、
「お二人ともお止めくださいっ!!」
突然大声が聞こえてきた。
大声の発生源を見ると、瞳に涙を蓄えた早苗が立っていた。
「何故お二人が闘う必要があるのですか?」
「だけど早苗。穣子を止めなければ……」
「事情はわかってます。大丈夫です。この時の為に稽古を積んできましたから」
そう言うと早苗は身の丈ほどもある刀を取り出し、舞を始めた。
よく見ると早苗の着ている巫女服はいつものとは違う。いろいろ装飾が施されている。
それにこの舞はどこかで見たことがある。
……そうだ、これは秋を呼ぶ舞。私と穣子がまだ外の世界にいて、私達に仕えていた巫女がいた時に見たもの。
私は、自然と泣いていた。懐かしさからくるものなのか涙が止まらなかった。
ふと、舞う早苗と以前私たちに仕えていた巫女が重なった気がした。
似ている。私達に仕えていた巫女に似ている。だからこの娘を見ると懐かしい感じがしたのか。
すっかり記憶から消えていたあの巫女の笑顔とか思い出とかが蘇り、よけい泣けてきた。
穣子も泣いているようだったが、霞んでよく見えない。
確かにこれで秋を呼べば、力を発揮できるかもしれない。だがこれは夏の終わりに確実に秋を迎える為にするものであり、強制的に秋を呼ぶ為に行ったことはない。
つまり一か八かの賭けだ。可能性は限りなく低いと思うが。
私は違和感を感じた。
周りを見てみるとそこには、一面の紅葉が広がっていた。
「すごい。こんなことが有得るのかしら」
「私は奇跡を起こす風祝ですから。それに静葉様や穣子様から信仰もいただきました」
「へ?」
「私は信仰を自らの力に変えれる現人神でもありますから」
「そう。でもあの舞はどこで知ったの?」
「神奈子様は農業の神でもあるんです。穣子様ほどではないにしても農作物に関係していますから、秋の舞も知っていたというでけですよ。」
笑顔でそう言っているが、顔には疲労の色がありありと浮かんでいた。
それはそうだ、季節を強引に変えたのだ。相当の力を使ったに違いない。
「後はまかせて休んでなさい」
「はい。後に備えて休んでおきます」
早苗の言葉にちょっと疑問をいだきつつ、穣子のもとに駆け寄った。
「姉さん、ありがとう。姉さんが止めに入ってなければ私は今頃消えていたかもしれない」
「そいうのは後にしなさい。今はやるべきことをやりましょう」
穣子の力で穀物を成長させる。私は落ち葉を肥養として成長を助ける。
早苗のお陰でかなり楽に力を仕える。
雨が降ってきた。早苗が言うには、神奈子さんや諏訪子さんがしたことらしい。
数時間そうしていると何かが近づいてくるのがわかる。
「来ましたね」
早苗はそう言うと、立ち上がった。
私は近づいてくる何かがわかって愕然とした。
確かに、季節を変えておいて動かないはずが無い。
あれはただでさえ厄介なのに、ここにいる全員が疲労困憊である。
「大丈夫。霊夢さんも話せばわかってくれるはずです」
そう言って飛んでいく早苗。
「久しぶりですね。霊夢さん」
「そうね。……見た感じあんた達がこの異変の黒幕かしら?」
「秋になっていることですか? 確かにそれは私達のしたことですが、それよりも前に解決すべき問題があるんじゃないですか?」
「あれは私じゃどうにもならないわよ。それよりあんた達のしていることは幻想郷の生態を崩す恐れがあるわ」
「このままほおって置いたら幻想郷の人間はほぼ全滅です。それこそ生態系を崩すのでは?」
「じゃあ何? あんた達はあれを解決する為にこんなことしたっていうの?」
「そうですよ。それにこの秋は一過性のものです。すぐもとに戻ります」
「……本当かしら?」
「疑い深いんですね。そうだ。霊夢さんも手伝ってくれればわかりますよ」
「はぁ?」
「正直ここにいる全員がいっぱいいっぱいなんですよ。霊夢さんほどの力を持った人が手伝ってくれれば百人力です」
「……勝手に話を進めないでくれるかしら」
おいおい、確かに博麗の巫女が手伝ってくれるのなら心強いが……
素直に説得に応じるような性格じゃないと思うけど。
「まあ、いいわ。手伝ってやるわよ。あんたが嘘言ってるようにも思えないし」
ええええええ!? 説得できちゃった。早苗すげえ。
博麗の協力を得た私達の作業効率はかなり上がり、ついに目標数分の食物を創ることができた。
終わったあと、私と穣子は力を使いすぎたのか次の秋がくるまで封印状態になってしまった。
夏の終わりがきた。
秋が来るまで起きれないと思っていたが、その前に起きることができたようだ。
「あの後、里の皆さんがこの社に参拝によく来るようになったんですよ」
早苗から聞くと私達が眠ったあと博麗の巫女と共に里の人間に食物を配ったらしい。
なるほど。それで秋でもないのに信仰の力がたまっていったというわけか。
「しかしよくあの巫女を説得できたね? 幻想郷一融通がきかなそうな奴なのに」
穣子は世界最大級の謎だとばかりの顔できいてる。それはあの巫女に失礼じゃないかい?
「霊夢さんだって馬鹿じゃないですから、どうすれば今の状況にとって一番いいことなのかはわかりますよ」
「まあ、その後二人仲良く風邪をひいてたがね」
神奈子さんがちゃちゃをいれる。
「あれは……神奈子様と諏訪子様が大雨を降らせすぎなんですよ。霊夢さんだって『あいつら、やりすぎじゃない?』って言ってましたよ」
「あー、まあ私達も気合が入っていたというわけさ」
確かにあれは降らせすぎだったと思う。
「あっ、そうだ。お二方にお渡ししたい物があったんですよ」
といって二つのぬいぐるみを取り出す早苗。
「何? これ」
「スウィートポテト元帥と落ち葉伯爵です。よくわからなかったので想像でつくってみました」
……やっぱり早苗にもわかってなかったのね。
それなのにつくってくれるとは。ええ娘や。
「ありがとう」
「ありがとね。ところで早苗、いつもの巫女服と違うみたいだけど?」
そう。私も疑問に思っていたのだが早苗の着ているのは昔懐かしい普通の巫女服だった。腋がでてないやつ。
「それは今からわかりますよ」
と言って外に出て行く早苗。
あとに続いて私達が出て行くとそこには諏訪子さんと何故か厄神がいた。たしか鍵山雛だっけ?
「諏訪子様、雛様。始めますのでどいてください」
「うーん。この巫女服もいいけどいつものやつの方がいいかも。雛はどう思う?」
「私はこっちでもいいですよ」
「お二方とも話を聞いてましたか?」
いつのまに厄神と仲良くなったんだろうか?
早苗は巫女らしい巫女だから神からは好かれるかもしれない。
「「はいはい」」
としぶしぶ脇にどく諏訪子さんと雛さん。
「では、始めさせてもらいますね」
一礼して舞い始める早苗。秋を呼ぶ舞だ。
「「おお」」
夏の終わりに秋の舞をおどる巫女。
あの娘に似ていることもあって昔に戻ったかのようだ。
「やらんぞ」
懐かしんで見ていると、神奈子さんからそう声がかかった。
「え?」
「早苗は私の神社のだ。お前んとこにはやらんぞ」
「えーと。別に奪おうとかしてませんよ?」
「いや、今の目は自分の巫女を見ている目だった」
「そ、そうですか?」
「そうだった!」
早苗が私達に仕える巫女。それもいいかもしれない。
「おい。今本当に早苗を巫女にしようとか考えただろ」
「ソノヨウナコトハ、ケッシテアリマセンヨ」
「ぷっ、あははははは」
神奈子さんが笑うのにつられて私も笑う。
「?」
舞が終わった早苗は不思議そうにこっちを見ていた。
死神にも色々種類がいますしね
荒神などもいるから一概には言えませんが。
妖怪と神の違いは信仰されるかどうかでしょうか。天照などの神話的な神は除いて、基本的にあまりはっきりとした違いはないんですよね。
死神っていうか、そもそも日本じゃ閻魔の配下は鬼とされることが多いですし、(閻魔自身が鬼として描写されることも多い)、種類としては神、もしくは神使(動物じゃないけど)みたいな扱いだと思います。
東方での位置付けは分かりません。