Coolier - 新生・東方創想話

永き夜の闇で

2004/10/23 13:52:17
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 今日は夜が永い―――――


 私はその永い夜の空を、両手を広げて飛んでいた。
「きっと、あれのせいなんだろうな~」
 と、雲一つ無い星空を見上げる。視線の先には、本来なら満月のはずの少し欠けた月の姿。あれが直接の原因ではないとしても、何かしらこの永い夜に関係しているのは間違いない。
「これで新月だったら最高なのに」
 叶うはずも無い希望を口にする。それでも、夜が永いと言うことは嬉しいことだ。どうせなら、この夜が永遠と続けばいいのに。……それこそ叶うはずも無い願いであるが。
「♪~」
 何時、何処で覚えたか知れない歌を何とはなしに口ずさみながら、クルリと空中で一回転。世界が回るのが楽しくなって、二回三回。すぐ目が回ってしまい、右手で目を押さえる羽目になってしまう。それでもこの永い夜が嬉しくて、今度は横にくるくると回る。と、下の森の中を通る道に、見たことのある紅白姿の人物が歩いているのが視界に入った。
「あっ、れいむ発見~~~」
 こんな気持ちのいい夜に霊夢に会うなんて、ほんとにこの永い夜は最高だ。
 そう思いながら、私は高度を下げて行った。



「ああもうっ、一体なんだって言うのよっ……!」
 私は悪態をつきながら、自分の家兼職場である神社への道を、空を飛ぶのも憂鬱で、痛む体を引きずりながら歩いていた。
 何時まで経っても明けない夜。それを不思議に思って外に出ると、案の定馴染みの黒白と七色魔法馬鹿が怪しいことをしていた。懲らしめてやろうと思い、これまた案の定弾幕ごっこと相成ったのだが、あっさり返り討ちになってしまいこんな状態である。巫女服はボロボロで目も当てられない状態だし、自慢のリボンは取れてしまい、今は左手で持っている始末だ。
「だいたい、2対1ってのが反則なのよ!それに、魔理紗のファイナルスパークだっけ?あんなの、避けようが無いじゃない!」
 もっとも、自分も2回戦いを挑んだので、それを考えると五分五分というのは分かっている。だが、それだけに余計に腹が立つ。イライラする。
 弾幕ごっこで負けること自体はそれほど久しぶりでもなかったが、スペルカードを全部使った挙句、ラストスペルまで使って負けたのはかなり久しぶりだった。いつもは全力を出すことなく勝ったり負けたりしていたせいで、余計今回の負けは堪えるのだ。自分の修行不足、力不足をまざまざと見せ付けられたようで、惨めだった。
 その惨めさをごまかすように、私は魔理紗とアリスに対しての悪口と呪詛を何度となく口にしていた。

 いい加減どうでもいい繰り言を言うのも疲れてきて、私は口を閉ざした。もっとも、負けたことに対する苛立ち、怒り、惨めさは口を閉ざしたところで消える事は無く、いや逆に口に出さないことで心の中をぐるぐると回って増幅する。闇の感情が似た感情を掻き立て、更に同じ感情を増幅して行く。だけど、再び口を開くのも一度口を閉ざしてしまった今では重労働だ。
 私に出来ることは、ただ地面を見ながら、ひたすら家路を急ぐことだった。

 どれぐらい歩いたか、ふと、木々の間からの月明かりが目に入り、思わず立ち止まる。そして、はっと自分の現在の状況が客観的に見えてきた。
 スペルカードはもちろん、ラストスペルまですべて使ってしまい、手持ちのスペルカードは0。符も針も、残りわずか。そして体は満身創痍で、飛ぶのも辛いくらい。今の私だったら、チルノにだって勝つか負けるか分からない。いや、恐らく負ける可能性のほうが高いだろう。こんな状態で、もし今、かなりの力を持つ妖怪が現れたら……。
 そこに考えが至った時、目の前が暗闇に染まった。
「な、なにっ?」
 考えていたことが考えていたことだけに、動揺する。とっさに懐に手を入れて針と符を握り締めるものの、その余りの数の少なさに泣けそうになってくる。
「そこにいるのは誰っ!?」
 それでも、気丈に胸を張って闇の向こうの相手に言葉を叩きつける。すると、聞いたことのある声が返ってきた。
「えへへ~~。だぁ~れだ?」
 どっと力が抜けた。と同時に安堵のため息。
「はぁぁ~、ちょっとルーミア。驚かさないで」
 私の言葉に反応したかのように視界を覆っていた収束し、目の前に一人の少女が姿を現した。黒いワンピース、綺麗な金色の髪に赤い小さなリボンが映えている、闇を扱う妖怪、ルーミアだ。

 ルーミアと最初に出会ったのは、レミリアの事件の時だ。それ以来、彼女は度々神社に遊びに来ていたから、それなりに顔馴染みと言うことになるだろう。
 そういえば、ルーミアが遊びに来るのは私が起きている昼間なので、夜に会うのは最初に出会った時以来だ。
「えへへ~」
 何が楽しいのか、ルーミアはニコニコ笑いながら私の前に突っ立っている。その無邪気な笑顔がささくれ立っている私の心を苛立たせる。
「なによ、なにか用でもあるの?」
 我ながら険のある言葉。幾ら機嫌が悪いからって、こんな言葉を吐く自分が嫌になり、それが更に自分を不愉快にさせる。
 しかし、その言葉を受けた相手はと言えば、相変わらずニコニコと笑いながら変わらず私の前で突っ立っている。
「だから、なんの用?」
 再度、棘だらけの言葉。だけど、それにも無反応でニコニコ。流石に今度はルーミアの態度に腹が立った。
「用が無いならどいて。邪魔だから」
 こんなに不機嫌な時に、こんなのを相手にしてなんかいられない。体も痛いし、さっさと神社に帰って寝たかった。
 ようやくルーミアが口を開いた。
「あのね、今日のれいむ、とっても美味しそうだよ。食べていい?」




 数秒間はルーミアが何を言ったのか、分からなかった。まるで、子供が親に「このおもちゃ買っていい?」ぐらいの軽さだった。言った後も、ルーミアは変わらずニコニコとしていたせいで、余計に理解するまで時間がかかった。
 ようやく、左脳が言葉の意味を理解した瞬間、私は大きく後ろに飛びずさった。着地の衝撃で体のあちこちが悲鳴を上げる。それを何とか押さえ込むと、懐に手を入れ、先刻握り締めた符と針を再び握り締めた。
「残念だけど、私はそんなに美味しくないわ」
 前方の彼女を睨みつけながら、軽口を叩く。
「そんなこと無いよ。今日のれいむ、本当に美味しそうだもん」
 変わらない、無邪気な笑顔のまま彼女が言う。背筋に冷たいものを感じると同時に、最初彼女だと認識した時に安堵していた自分を罵倒したい気分だった。
 彼女は人を喰う妖怪なのだ。初めて会ったに言われたではないか。「あなたは食べられる人類?」と。そんな妖怪に夜出会ったというのに、何を自分は安心してたのだ!
「そう、でも私はまだ食べられたくないの」
「だったら、弾幕ごっこだね」
 嬉しそうに彼女が言う。
「あら、わたしに勝てるつもり?一度、負けてるじゃない」
 精一杯の虚勢。こんなボロボロの姿では、今の言葉なんてさぞかし滑稽に聞こえることだろう。

「やってみなければ分からないよ~」
 その台詞が宣戦布告とばかりに、彼女は何処からかスペルカードを取り出すと、叫んだ。
「それじゃ、いくよーっ。月符『ムーンライトレイ』!!」
 両方から挟み込むようなレーザーが私に迫る。だが、このレーザーは見せ掛けだ。本命は彼女から打たれるエネルギー弾。その中の、正確に自分を狙っている弾だけを最小限の動きで避ける。いつもなら鼻歌でも歌いながら避けれるであろうこの攻撃が、今の体では重労働だ。それでも、弾を避けながら二三本針を放つ。
「わわっ、危ない~」
 あわてて彼女が針を避けたことで、彼女のスペルカードが消滅する。大きく息をつく私。
「その程度の攻撃じゃ……、はぁ、毛玉すらも落とせ……ないわよ」
 再び虚勢。だけど、肩で息しながらでは決まらない事甚だしい。それでも、彼女は少し気を悪くしたのか、ほっぺを膨らませた。
「む~~、それじゃ、夜符『ナイトバード』!!」
 大きな鳥の羽を描くように、多量の弾が彼女から吐き出された。基本は自分を狙っているだけなんだが、弾のスピードがそれぞれ違うので、ちょっとした動きのミスが絶望的な状況を作り出してしまう。案の定、動きすぎて避けようが無かった弾を符で迎撃せざるをえない状況になってしまった。
 丁度、手持ちの符が無くなった所で、彼女のスペルカードが消滅した。数発の弾が私を掠め、ただでさえボロボロだった巫女服を致命傷にしていた。それと同時に、私の体力も限界を迎えていた。
「えへへ~、今日は勝てそうな予感~」
 軽口も叩けない私を見て、彼女が嬉しそうに言う。確かに私の体力は限界だし、攻撃方法ももう数本の針しか残っていない。だけど、私はまだ絶望していなかった。そういう彼女も、スペルカードは次で最後のはずだ。そのスペルカードが終わった隙を狙えば、十分勝機があるはず。
「これで終わりかな?闇符『ディマーケイション』!!」
 彼女から円を描くように弾が吐き出され、放物線を描きながら広がっていく。でも、これは伏線。慎重に放物線を描く玉の弾道を見極める。そして……!
「えーーい!」
 掛け声と共に彼女から打ち出される、大量の高速弾。それが私目掛けて殺到する。だけど、来るのが分かっていて避けれない弾は無い!最後の力を振り絞って、その高速弾団を私はぎりぎりで避けきった。そして、彼女のスペルカードが消滅する。
 いまっ!
 残る力を持って、針を彼女に……
「実はこっちが本命だったり。闇舞『シャドウダンス』!!」

 う……そ……?

 私の最後の攻撃は、彼女が隠し持っていた私の知らないスペルカードで、あっさりと潰された。そして、踊るように回る黒い弾が私を見事に吹き飛ばした。
「やったーー、私の勝ちぃ!」
 同時に私の体力も尽きたようで、視界が闇で染まっていく。そうして私は自分の意識を手放し、闇へ、もしかしたら彼女が作ったのかもしれない……、堕ちていった。





















 目が覚めると、見慣れた神社の天井が目に入った。体を起こそうとすると少し体が痛んだが、それほど酷くはない。辺りを見渡すと、もう夜がすっかり明けてるのが分かった。
「あれ……、私ルーミアに負けて……?」
 自分の体中を見渡すが、体で欠けている部分はない。いや、それどころかボロボロだった巫女服からしっかり寝巻きに着替えており、怪我している所には包帯がしてあった。
 ルーミアは私を食べなかったのか?それに、何で私は神社に戻ってきているのか?何時私は着替えたのか?
「……、まぁいいか」
 少し考えたが、答えの出ない疑問なんかどうでもよくなってきた。物事をあまり深く考えないのが私の良い所だ。それに、何故か今日は朝から気分が凄くすがすがしい。昨日の夜、魔理紗とアリスに負けて腐っていた自分が嘘のようだ。
「さ~~て、今日も一日がんばりますか!」
 自分に一声かけると、境内の掃除をすべく、私は箒を取りに物置に向かった。



「♪~」
 私は博麗神社の大きな木の上のほうの枝に座り、巫女が境内に出てきて掃除を始めるのを見ていた。霊夢の心の闇を食べた後だから、力がみなぎっているのが分かる。今だったら、頭のリボンの封印も解けるかもしれない。……やっぱり無理か。
 あの時は、まさか自分の攻撃で霊夢が気絶するとは思わず少し慌てたけど、単に疲労の部分が大きく、怪我はそれほどじゃなかったので、神社まで背負っていって、怪我の部分に包帯を巻き、布団に寝かせておいたから大丈夫だろうと思った。現に、今外で掃除をしている霊夢の姿を見ると、どうやら何事も無いようだ。それに、心の闇を食べてしまったから、機嫌も良さそうに見える。
「ほんとの事言ったら、誰も食べさせてくれないもんねぇ」
 他人に心をいじられて嬉しい者などいる筈がない。それが例え、心の闇であったとしても。
「それにしても、あの時の霊夢の顔!」
 わざと『心の闇』を省いて食べたいと言った時の霊夢の顔を思い出す。あの呆けた顔!あれは本当に見物だった。そして、その顔をもう一度見たくなってきた。
「れいむーーーー!ごちそうさまーーーーーー!!」
 大きな声で叫ぶと、境内の霊夢が私の方を見上げた。あの呆けた顔で。その顔が面白くて、私はケラケラと笑った。




 ――――― 次の瞬間、霊夢の夢想封印がすべて私に炸裂した。


始めまして、名無しからLVうpした伊佐南と申します。SS書き見習いの私の作品を読んでいただき、ありがとうございます。
人気投票中ということで、ルーミアの支援がしたくなり、一気に書き上げました。
これから仕事なのにorz。
推敲する時間がまったく無いので、誤字脱字、説明不足が多いとは思いますが、少しは多めに見てくれると嬉しいです。

時間があったら、また書きたいと思います。そして何時かは天馬流星氏やBarragejunky氏みたいなSS書きになれるよう、精進したいと思います。両氏のような、燃え、萌え、シリアス、を使い分けれるようになる日は遠いと思いますが……。

人気投票は迷わずルーミアに2P!あとは小悪魔と美鈴に……これも完璧に両氏の影響なんですがw
さあ、まだ投票してないあなた!1Pのキャラに迷ったら、迷わずルーミアに清き一票を!
伊佐南
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コメント



0.2890簡易評価
19.50名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまー、って、なんか誤解できそうなセリフですね…
32.40春夏秋冬削除
「心の闇を」を省いて「食べさせて」っていっても
だれも食べさせてくれないと思う・・・
39.40いち読者削除
なるほど、心の闇を食いまくれば、ルーミアは封印を解くことが出来るのか。
けど幻想郷住人の心はどいつもこいつもひねくれてそうだから、食ったら却って食あたり起こしそう(笑)。
41.60necro削除
むはー!ルーミアかわいい!無邪気ってなぁいいねぇ~。萌え苦しみました。
(*^_^)
65.60絶対に殺されない程度の能力削除
投稿されてからずいぶん立っていますが、脱字?を。
「初めて会ったに」→「初めて会った時に」
かと。
しかし「心の闇を」を抜いたら食わすのは全力拒否だょ。(^_^;)
73.100名前が無い程度の能力削除
いいなあ、かなり昔の作品だけど、この作品はルーミアがとっても可愛いです。
もうルーミア好きにはたまらないですね。