まあ……色々あった訳だがそんなこんなで決闘だ。
私が霊夢に喧嘩売るなんていつぶりだかな……って、しょっちゅうか。森の中で私が昼寝の場所に良く使っている広場へと私は霊夢を連れていく。
ちなみにチルノとパチュリーは一切の助太刀無用と言って家に置いてきてある。双方とも相当についてきたがっていたが……弾幕(やり)辛くて仕方が無いからな。
「おい霊夢」
「なによ、魔理沙」
決闘の場所に着いた私は、さっきから気になっている事を霊夢にぶつけてみる。
「お前さんの性格が捻じ曲がってるのは今に始まった事じゃないけどな。今日の霊夢は随分とまあ、いつも以上に凄いじゃないか。こんだけ気合入れてからかうなんて、まるで私みたいだぜ?」
それは、どーにも合点がいかない事だ。
霊夢は頭の螺子が最初から何本も抜けてる奴だし、頭の回転だって音速同様に速い方じゃない……ってか、平たく言うと遅い。
にしてもだぜ。普段の霊夢ならいい加減私の反応見てたら、チルノが変な勘違いしてる事くらい想像つくだろうに、何で今回はここまでしつこいんだか。
しかし、霊夢の反応は予想外な物だった。は……? とでも言わんばかりの表情でこっちを見る。
「あのねぇ魔理沙……あんた先月のこと覚えてないわけ!?」
「覚える? なんのことだ、一体?」
どうやら案の定理由はあるらしいが、そう言われてもさっぱり検討がつかん。
「先月レミリアが神社に来た時、あんたもいたでしょうが。あの時よあの時!!」
「先月…………。おー。あれかあれか」
霊夢の言葉に、ようやく記憶が繋がった。
あれは確か今から一ヶ月前、七月の終わり辺りだったか。
暇だったんで霊夢のとこに冷やかしに行くと、全然珍しくない客人がいた。
「よう霊夢、暇だったんで遊びに来たぜ。とりあえず美味いお茶を1杯頼む」
いつも通りの挨拶を伝えた私に、霊夢もいつも通りに返す。
「あー魔理沙、あんたも来たの。ちょっと背中にへばりついてるコレ、何とかならないかしら」
そう言う霊夢の背中にはレミリアがべったりと張り付いていた。
「随分とまあ仲が良さそうに見えるぜ。もしかしてそう言う関係か?」
「なにバカ言ってんのよ、魔理沙」
別に私としちゃいつもの軽い冗談のつもりだし、霊夢だってそのつもりだっただろう。
まあ……少なくともこの時までは普通の日だったはずだぜ、この時までは。
「もう。随分つれないじゃないの、霊夢。久しぶりにここにやって来たっていうのに。私の初めてを奪ってったのはあなたでしょう?」
外見の子供っぽさをさっぱり感じさせないような笑みで霊夢にレミリアが笑いかけて、霊夢の奴がお茶を派手に噴いた。
「あのねぇ! 他人が聞いたら誤解するような事を言うんじゃないの、ただあんたを初めて負かしたのが私だってだけでしょうが!」
「そんなに大して変わらないじゃない」
どこが変わらないんだか、とは思ったが。霊夢の反応が面白いから私は黙ってみている。つい顔がにやにやしてるのは仕様だぜ。
霊夢の方はと言うと、こっちの視線がいい加減気になったのかレミリアの奴を本格的に引っぺがしにかかった。
「もう……重いからいい加減離れなさいってば」
「ちょ、ちょっと。霊夢ったら激しいわよ?」
「変な事を言ってんじゃなーい!」
グルングルンと、座ったままその場で霊夢が回転する。その内にバランスを崩してレミリアは離れたんだけどな……。
「きゃあ!」
その離れ方には相当問題があった。まあ、一言で簡単に言うとレミリアが霊夢を思いっきり押し倒すような格好になっていた。
「…………」
レミリアの奴も流石に驚いたのか一瞬だけ動きが止まるが、すぐにくすくすと笑っている。
「……ねえ。巫女なんてしてないで、良かったらずっと私の遊び相手にならない、霊夢?」
いやはや。レミリアの奴が実年齢500歳ってのを私も初めて実感したぜ。人は見かけによらないって奴だな、人じゃないけど。
「こ、こらレミリア! 冗談やめなさいよ!!」
「あら。私はいつだって本気よ」
「魔理沙お願い、恩にきるから! 今だけ助けて――!!」
ジタバタする霊夢だったが、どうやら相当な力で押さえられているらしかった。
ん、私はその間どうしてたかって?
はっはっは。そんなの決まってるだろ、こんな面白い事やってたんだ、柱の影に移動してじっくり観戦したに決まってるぜ。
……まあ、一ヶ月前に霊夢の神社であった事って確かこんな感じだったはずだな。
「あの時、服の中にもし符が1枚も無かったらと思うとぞっとするわよ……」
くそ暑いにもかかわらず、寒気でもしたのか体をブルブルと霊夢が震わせていた。
結局霊夢はその後どうしたかって、自分を巻き込んでまで符を無理矢理発動させてレミリアを吹っ飛ばしたんだっけか。
レミリア曰く、別に変な趣味で霊夢を押し倒すつもりなんかじゃなくて、単に自分の従者にしたかっただけらしいんだが……半月くらい吸血鬼避け結界の相当に強いのが神社に張られていたから、霊夢もよっぽど怖かったんだろうな。……私はすっかり忘れてたけど。
「まあ無事だったんだし良かったじゃないか。私も見てて楽しかったし」
こっちとしては普通の感想。
しかし、霊夢は随分ご立腹らしい。
「で! あの時平然と見殺しにしようとしたあんたに、私言ったわよね! 似たような事、もし魔理沙にあったら絶対今度は私が魔理沙を冷やかしてやるって」
……おー思い出したぜ。なるほど、霊夢が今回の一件で相当に絡んでくる理由はそれか。
だとしたらいい感じに自業自得だな、主に私が。
「なるほど霊夢の気持ちは良く分かった。しかしだ、霊夢に好き放題させる気も私には無い。となると……ここから先は実力行使の時間だぜ」
「へー。で、風邪引いてふらふら状態の魔理沙に、勝ち目はあるわけ?」
軽く肩をすくめて霊夢が笑う。
実はこっちとしてもまっすぐ飛ぶ自信さえあんまり無いんだが、見透かされてるっぽいな。
「まあ長期戦だときついだろうな。でもいい事を教えてやるぜ霊夢。勝利の秘訣、それは」
実はしばらく霊夢と喋りながら、魔力をずっと集中させていた。それを一気に解き放つ。
まともに正面決戦やっても今の体調じゃ勝ち目無いからな。
「先制攻撃だぜ! マスタースパーク!」
私の声が戦闘開始の合図になった。
そして、戦闘終了の合図にもすぐになるだろう。霊夢めがけて光の魔砲が一撃。時間かけるだけかけて魔力を集中させたから、避けに回っても避けきれない自信はある。
まして開始早々の奇襲だしな。音速の遅い霊夢に避けられる訳が……げ。
「残念でした。あんたの事だろうから、勝つ気あるなら絶対にこうすると思ってたわよ」
光がやむと、そこには平然としてる霊夢の姿がある。霊夢の前には二重結界の紅い符が数枚、ひらひらと舞っていた。
付き合いが長い奴はこれだからな……。
「さあて、風邪の魔理沙が私の夢想封印の中でどこまで頑張れるのか見せてもらおうかしら? あ、『ごめんなさい霊夢、私が悪かったわ』って言ったら許してあげるけど」
「冗談きついぜ。このくらいお前さんにはいいハンデだ」
そのこっちの言葉に合わせるかのように、一斉に札が大量に飛んでくる。
そして、それから少し遅れて弾幕が。
「はっは。スペルカードも使わずに私を落とせると思うなよ、霊夢……ん!」
隙間は少ないとはいえ、まだ所詮霊夢にとっても小手調べのつもりだろう。こっちとしても、余裕をもって札と弾幕の間を通った……つもりだったんだが。
頬ぎりぎりを札がかすめていった。さらに、箒に弾幕がかすって枝が少しはじけていく。……まずいぜ。思ってる以上に感覚がずれてるっぽい。
「いつもと同じのつもりで避けたら多分当たるわよ、魔理沙。あんた自分じゃ気がついてないだろうけど、相当にふらふらしてるもの」
霊夢のその指摘は、ずばり図星だ。自分でもわかっちゃいたが予想以上に感覚がヤバイ。
「何を、まだまだ。こんなもんは全方向に一度に対応できればいいんだぜ!」
さっきの魔砲撃ってから大して間も無いのに、全方向にレーザーを射出する羽目になった。
口じゃあでかい事言ってるが正直な話、体調悪い時にこれだけ一気に魔力を放出したら意識が吹っ飛びそうになる。
「魔理沙ってば相変わらずねー。分散したら破られるみたいだし、集中させるわよ。夢想封印・集!」
霊夢の言葉どおり、今度は私めがけて密度の濃い弾幕と札が降り注ぐ。しかも、ご丁寧に今度はでかい陰陽玉のおまけまでつけて。
「多少はパターン変えたみたいだけどな、お前さんのコレは見飽きてるぜ」
パターンが変わったって、最後にはこっちに向かって来るのが分かってるんだ、全力で左右に振ればいいだけだぜ。
そう思って、左に振った後に一気に右へと全速で飛ばす。
ん……速度が出ない!? しまった、さっきかすった時に箒に埋めてる魔石に傷でもついたか?
「あらら。音速が遅いわよ、魔理沙~?」
「ええい、やかましい。お前にだけはそれを言われたくないぜ、スターダストレヴァリエ!」
早くもボムの3発目で、あっという間に魔力切れの一歩手前。
ダメだ。これじゃあダメすぎるぜ。回避失敗の度にこんな事やってたんじゃ、勝ち目も何もあったもんじゃない。
「だから諦めて降参しなさいよ。これ以上無茶やると、本気で体に障るわよ」
何枚もの符をひらひらとさせながら霊夢が私にそう声をかける。理性じゃ「悪かったぜ、霊夢。反省する」と言ってやめるのが良いんだろうさ。そんなこと最初から分かってる。
じゃあ何で戦ってるのかって? ……そんな事簡単だ。
「無理なんかするか、私はただ霊夢に負けたくないだけだぜ」
「全く本当に頑固なんだから。しょうがないわね……新しい弾幕見せてあげるわ。紫の見よう見真似だけど、博霊式の結界で大人しく捕まりなさい!」
紫の真似? 博霊式の結界? まさか……弾幕結界か!?
そう思うと同時に、周囲一面に赤い華のような弾幕が咲いた。
「ちょっと待てー! 大人げないって言葉は知らんのか、霊夢!?」
「いや、そんなこと言われても。私と魔理沙って同い年くらいだし」
真っ当な突っ込みが霊夢から返って来る。
……どうやって避ける? ポンコツエンジン状態の箒じゃ、飛び回るのは難しい。そもそも弾幕の密度が厚すぎて、真っ直ぐ飛べない今じゃ通り抜けにも楽勝で失敗しそうだ。
そんな事を考えている矢先に、真後ろから攻撃が来て私の帽子を弾き落としていった。
「加減はしてあげるけど、当たり所悪いと魔理沙でもしばらくベットの上よー」
くっそ。そっちが新技ならこっちも考えがあるぜ。
「自分が撃たれてるみたいで、持ち技でも一番使いたくない技なんだけどな……。これが破られたら私の負けだ。行くぜ!」
そして、赤い8発の弾を霊夢に向かって打ち出して魔力を使い切る。もうこれ以上は煙も出ないぜ。飛行魔法の集中だってギリギリだ。
「ん? 別にこれくらい……」
スッと横にそれてかわした霊夢。
弾は割とあっさりと霊夢の後ろへそれていき、霊夢の勝ちが決まったように見える。
けど、それは大間違いだ。
「懐かしすぎる弾幕だし霊夢もやっぱり覚えてなかったな……いけー! アースライトレイ、発動しろー!」
宣言と同時に、霊夢の後ろからこっちに向けて8つの弾が一斉に赤いレーザーを全力放出。
「うわ! うそ!!」
この攻撃で、今日の戦いで初めて霊夢の奴が慌てた。霊夢の弾幕結界でほとんどが弾かれるが、それでも霊夢と私の間に一瞬弾幕の無い道ができる。
ここだ、ここしかないぜ。魔力もすっからかんで、やれることは飛んで行くだけだけどな……そんな状態でもやれる事が一つだけある。
「悪いな霊夢、いくら駒があったってキングさえ取れればいいんだぜ。チェックメイトだ!」
自分の金色の髪が風になびきながら、霊夢の方へすっ飛ぶ。
幽々子の所で戦った時に、周りで舞ってた桜の花びらにヒントを貰って作った、これが私の最新技にして最終技。何しろ私の持ってるスペルの中で、魔力ゼロで撃てるただ一つの技だ。
ついでに言うと、できることなら一生使わないで済ませたかった技だけどな。
【桜花:チェリーブロッサム】
ふらふらして速度も出ない箒だったが、それでも強引に加速しながら霊夢の元へ一直線。かわされたら終わり。しかし、もし霊夢が迎撃に回れば。
「な、何考えてんのよ魔理沙! ああもうさっさと捕まりなさいってば。八方鬼縛陣!!」
懐から大量の符が、私をとっ捕まえようと向かってくる。が、そんなもんでこれを止められる訳が無い。まとめてバリバリと符を突き破っていく。
「甘いぜ! 手加減しても勝てるなんて考えた時点で、お前の負けだ霊夢!」
箒の加速は止まらない。霊夢めがけて、あと僅か。
「これ反則技よ、絶対にー!」
霊夢の叫びがあがる中……霊夢の姿を前にして、とんでもない事が起こった。
なぜか霊夢の奴が二人見える。
ん……これは、別に霊夢の分身じゃない。とすると、風邪で物がブレて見えるのか? くそ、こんな最後の最後で!
右か左か……仕方が無い、右だ、右に賭けるぜ!
で。結果がどうなったかって? はっきり言おうか。私は肝心な所で二分の一を外した。
「いたぁっ!」
出来た事は、霊夢にかすって右手にあったお払い棒をへし折ったまで。後はって……まあ、なんていうかブレーキが利かない。違った、そもそもブレーキが無いぜ。
このスペル作った時に分かっちゃいたが、どんどん加速がついていって減速しようが無い。
「魔理沙、避けなさい木に突っ込むわよ――!!」
「あー……そうしたいのはやまやまなんだが……箒が言うこと聞かないんだ、これが」
どんどん遠ざかる霊夢の声。
箒の魔石にヒビ入ってる状態でこんな技出したら、操作不能になるくらい少し考えてみたら見当がついただろうに何をやってんだか、私は。やっぱり素直にあやまっておけば良かったか?
そんな今さらな後悔をするが、遅すぎだ。霊夢も慌てて結界を閉じて追っかけて来るが……まず追いつけないだろうな、霊夢じゃ。
そうこうしている内に、広場を抜けてでかい木が前に見えてくる。
霧雨魔理沙、大木に激突して死す。
嫌過ぎる死因だぜ。……しかたがない、箒から飛び降りるくらいしか手は無いな。それでも激しく地面に叩きつけられる訳だから、生きてるかどうか全然自信ないが。
その時だった。何かが私の横を飛んで来たかと思うと、それが私の前に立ちふさがる。
……って、チルノ!?
「バカ、家にいろって言っただろ! こらどけチルノ、そんな所に立ってたらぶつかるぞ!」
「やだ避けない! 木にぶつかる前に止めないと……魔理沙死んじゃうじゃないの!」
そう言って、チルノは両手を広げて立った。
あああ、これだからバカな奴は。結界張って威力をある程度吸収できる霊夢ならいざ知らず、チルノに激突したら私よりもチルノの方がやばいだろうが!
「避けなかったらお前が死ぬぞ、いいから早くどけろ――!」
「……やだ。絶対やだ! 魔理沙が死んだら私も死ぬ!」
そう叫ぶチルノの目は思いっきり本気に見えた。チルノとの激突までこのままだと10秒も無い。くそ、これ以上考えてる場合じゃない。賭けるしかないぜ!
「チルノ、氷の弾幕を盾にして全力で張れ! こっちは最大限速度を落とす!」
後はチルノの返事を待たずに減速をかけるが、さっぱり効果が無い。ええい、言う事を聞けこの箒! 聞かないと後で暖炉で燃やしてやる!!
心の中でそう毒づいた時、箒の魔石の光がわずかに小さくなって気持ち程度に速度が落ちた。そして目の前にはチルノの姿。
ギュッと目を閉じて、それでも一歩も動こうとしないチルノを見て。
……ああ。こいつって、こんなに一途で可愛い奴だったんだ。
そう、初めて思った。そして激突。
もの凄い音と衝撃がして、私は吹っ飛ばされて地面に落ちる。ただ、それでもチルノがいてくれたおかげで意識も失わないで済んだ。
私の側には、真ん中からポッキリと折れた箒が一本。
「チルノ、チルノどこだ!?」
倒れてる場合なんかじゃないぜ。すぐに起き上がって、私はチルノを探す。
いた、あれか!
「おいチルノ、チルノ!」
「……あ……魔理沙ぁ、よかったあ……無事だったんだ」
チルノの方に駆け寄ると、意識があって一瞬ほっとしたが……その直後にぎょっとした。チルノの羽の片方が折れている上に、チルノに触ってみて気がついたんだが、冷気が相当に弱い。
「……えへへ、やっぱり気になって、ずっと側で見てたんだ。助太刀無用っての、破っちゃって、その……ごめん」
「命の恩人にどうして謝られないといけないんだ? もっと堂々としてろよ」
「あ……そっかー。じゃあ……えっへん」
大丈夫みたいに振舞っちゃいるが、実際チルノは横になったままほとんど身動きもしない……いや、できない状態の上に、喋りも切れ切れだ。
このままだとチルノがやばい。なんとかしないとまずいぜ。
「でも……それなら、さ。なんか、ごほうび、くれたら嬉しいなー……なんて」
「とりあえず寝てろよ。その辺りは後で考えておいてやるぜ」
「…………ん。そーする……」
疲れて寝たんじゃなくて、体の電源が落ちた感じでチルノは目を閉じた。
「魔理沙、あんた大丈夫なの!? ……って、ボロボロじゃない!」
いきなり声をかけられて驚く。いつの間にか霊夢がすぐ側までやって来ていた。
「私はなんとかな。それより、チルノの奴をすぐ家に運んでやってくれ。やばすぎだ」
「それは分かったけど……でも魔理沙はどうすんのよ。どう見たってまともな状態じゃないじゃわよ!」
ああ、霊夢よ。私の心配なんかしなくていいから、早くチルノを連れてってくれ。このままだとこっちの意識も落ちる一歩手前なんだから。
「このくらい屁でもないぜ。だから、いいから早く行けって」
「……分かったわよ。すぐに戻ってくるから動かないでそこでじっとしてなさいよ。動いたら知らないわよ」
そう言って、霊夢の奴はチルノを抱き上げて家まで向かってくれた。……まあ何だかんだ言って、いい奴だ、霊夢って奴は。それなりに高く付きそうな恩の気はするけどな。
「はっ……は。撃ったら……動くのは、基本だぜ霊夢?」
見えなくなった霊夢にそんなバカを言ってみる。ただ、今だけはそんな基本は出来そうにないぜ。
立っている状態が維持できなくなって、カクンとその場に座り込むと、そのまま一気に地面に倒れるまで行く。草とキスしながら、私の意識は一発で落ちた。
………………。
目が覚めると、ベットの上だった。
どのくらい寝てたのかは分からんが……暑い。いや、今の時期暑いのは当然だが、いつも以上に暑いぜ。何がどうなってるんだ?
「……暑いぜ、暑くて死ぬぜ」
あんまり暑いんで、口に出して言ってみる。そして周囲を見渡すと、霊夢にパチェにアリスがいた。
「あー、ようやく目が覚めたのね魔理沙」
霊夢の奴が、こっちに近づいてきて声をかけてくる。
「よう霊夢。質問なんだが、なんでこんなに暑いんだ?」
「そんなの決まってるじゃない、包帯まみれだからよ」
霊夢の代わりに近くにいたアリスが答えた。そう言われて、体を見てみると白い包帯がぐるぐると巻かれていた。おいおい、これじゃあ黒白じゃなくて白一色だぜ……ん? アリス?
「ところで、一体いつの間に湧き出たんだアリスよ?」
「人をぼうふらみたいに言わないでくれるかしら。……あー、ちょっと説明お願い」
そう言ってパチュリーを手招きするアリス。多分、チルノの奴を見ていたんだろうがこっちにやって来るパチュリーは、やたら疲れてるようで目の下に大きなくまがあった。
「はぁ……お願いだから心配させないでよね、魔理沙。きっとボロボロになって帰って来ると思ってたから、あなたの調合室借りて薬の調合してたら、いきなりチルノは待ってられないって飛んでくし、しばらくして霊夢がチルノ連れて戻ってきたら凄く危険な状態だし、霊夢に連れられて行ったら魔理沙は意識が無いし……。魔理沙、丸二日寝てたのよ」
二日!? おいおい、マジですか。
そこまで言った所で霊夢が捕捉とばかりに口を挟む。
「で、パチュリーが両方見るには手がとても足りないって言うから、私に誰か手伝いできそうなの探してきてくれって頭下げられてね。それでしょうがないからアリスを連れてきたのよ」
「ちょっと。私は霊夢がどうしてもって拝み倒して言うから来たんであって……べ、別に魔理沙の心配してきた訳じゃないからね」
「こら、アリス! それは言うなって言ったでしょうに!」
アリスと霊夢が言い合いを始めだす。……まあ何がどうなったのか、なんとなく色々と分かった。
そんな二人をパチェがしっしっと手を振って向こうに行かせる。
「もう、病人の側でやかましくしないで貰いたいわね。でも本当良かった……」
そう言った後に、パチェは急にわたわたする。
「あ。まあ……その……自分が治療して魔理沙に死なれたらその……夢見が悪いし……」
自分の髪をくるくると指で回しながら、何故かパチェの顔が赤い。
「ありがとな。素直に礼を言っておくぜ。しかし……パチュリー私の風邪うつったんじゃないのか、顔が赤いぜ?」
すると霊夢がひょこっと戻って来て、一言。
「あー。パチュリーね、いい加減寝なさいって言ったのに、あんたが心配だからって頑として全然寝ようとしなかったのよ。風邪うつったって全然おかしくないわ」
「……あ……」
パチェの頭から湯気が出た。おいおい……ここにいる連中は自分のやった事を過少申告するのが好きな連中ばっかりか?
「いや、感謝してるぜ本当に。私がこんな事言うのは似合わないけどな」
こんな時くらい、たまには本音を言ってみる。
が、その言葉には全員同時にうんうんと頷いた。……ほっとけよ。
「ところでチルノの奴はどんな感じだ?」
「……ん。まだ寝てるわ。大分落ち着いたみたいだけど、目覚ますにはもうちょっとかしら」
そう言いながら、何故かパチュリーは軽く目をそらす。
ん? 良くなってるのになんでそんな反応をするんだ? 見ると霊夢も目をそらしている。
「おいアリス。なんだって、こいつらはこんな」
尋ねようとした刹那、全身に悪寒が走った。待て私、それは聞くな。聞かない方がいい。
まるで本能のように全力で体がそう拒否する。
「あら、知りたい魔理沙? 知りたいなら教えてあげるけど。魔理沙ったらうわごとで何度も『チルノ、チルノ』って言うんだもの」
いや、やっぱりやめておくぜ……って言葉を言うより先に、アリスの奴が答える。にこやかに。
暑さとは違う理由で頭がくらっと来た。
しかも、すぐに追い討ちが霊夢から飛んでくる。
「あー……魔理沙。本当に好きな相手の事あんな風に冷やかしてたんなら怒るのも当たり前よね、私が悪かったわ。その……ごめん、いや本当に」
「待て、霊夢! それは誤解だ、頼むから謝ってくれるなー! いて!」
いきなり大声出してガバッと起き上がろうとしたせいで、全身に激痛が走る。
パチェはその間、ずっと黙っていた。きっと本当の所を理解してくれているんだろう、いやそうだ、そうに違いない。そうであってくれ頼むから。
「おーい、パチェ。お前さんはその……分かってくれてるよな?」
「…………えっと、ごめんなさい。ちょっと寝不足で涙が出ちゃって」
もうなんて言ったら良いのやら、いきなりパチェは泣きだす始末だ。
間違いなく完璧に最大値で誤解してる。助けてくれ、誰でも良いから。
「じゃあ、ある程度おちついたみたいだから私はそろそろ帰るわ。……まあ、気が向いたら様子見に来るわよ、気が向いたらね」
そう言い残してアリスは去って行く。こっちの言い訳はほったらかしで。
「こら、それは誤解だって言って……」
人の話を聞け、アリス――! あああ、だからお前には知られたくなかったってのに!
「あ。じゃあ私は里で何か栄養の付きそうな物買ってくるわ。後でお金出しなさいよ。ああ、それから言っておくけど、あの弾幕はもう二度と使うんじゃないわよ。これあんたの看病やった全員共通の意見」
そして霊夢も出て行く。どれだけやばいか嫌ってくらい知ったぜ、誰がもう使うか!
最後にパチェは……。
「……すーすー」
ソファーに座ったまま泣き寝入りしていた。……ダメだ。ダメすぎる。どうしろって言うんだ、この状況。誤解の解き様もないぜ。
しかし……チルノの奴まさかあそこまで本気とはな。
軋むような体をそっと起こして、チルノの寝ている所まで歩く。……あれでこれだけ痛いんなら、木に激突なんかしてたら間違いなく死んでるな、これは。
チルノは静かに寝ている。そっと額に触れてみると……ひんやりと冷たい。
これが人間だったら大変だが、チルノには当たり前な事が、何となく嬉しく感じる。
『でも……それなら、さ。なんか、ごほうび、くれたら嬉しいなー……なんて』
そんな時、不意に脳裏にそんなチルノの言葉がよぎった。
「ごほうび……なあ」
ファンタジーじゃ、眠ってる姫の眠りを覚ますのは王子様のキスって相場は決まってるらしい。
私じゃ役者不足っていうか、そもそもミスキャストだろうが、多分チルノが欲しいと言ったのは間違いなくこれなんだろうし。
何せこれでも命の恩人だ。ミスキャストでも付き合ってやろうか。
そっと。唇を合わせる。
最初の時のネタなキスと違って……なんだか、やけに緊張した。……おいおい、最初からミスキャストだってのに、私が緊張してどうするよ。まだ風邪が治ってないんだろうが、頭が火照ってくる。
その時いきなりチルノが目を開けた。
…………げ。
「……あれ」
ぽわんとまだ焦点の定まらないチルノの目にうつるのは、間違いなく私の顔だろう。
しかもドアップで。
「これは……あー、夢だぜ。だからもう一回寝とけ」
「まりさ……? ……魔理沙ぁ~」
「ん、ん――!!」
顔を離そうとした所で、チルノがぐぐっと唇を押し付けてくる。
うわ待て! ちょっと待てチルノ! 本気にするんじゃない、こら!
「ーーーーーーーー!!」
その時、後ろで声にならない悲鳴が聞こえた。チルノからどうにか体を起こして後ろを振り返ると、パチェがゆっくりと。本当にゆっくりと倒れる所だった。
ドサッと言う音と共に、パチェがソファーへ倒れこむ。
まさか。これは。
「ああ……魔理沙が……私の魔理沙がぁ……」
おい、パチェ。『私の』って何だ。というか……パチェが後ろで寝てるんだぞ、何やってんだ数秒前の私っ!
呆然としている私の意識を、横で寝ているチルノが引き戻す。
「ありがと……魔理沙。ね、もう1回してくれたら嬉しいな」
「う、うわあああバカか私は――!」
ん、もう1回したのかって? するわけないだろ!
……結局。相当に無理して起きていたせいなのか、精神的ショックのせいかどうかは知らんが……私と入れ替わるように、パチェが見事に寝込んだのを付け加えておくぜ。
【続々:夏の日の極めて強引な涼み方】 終
もう笑いのツボをつつかれすぎて何も言う必要ありません。
ちょっと冥界で遊んできます(死んでるやんけw
行け!おてんば恋娘!アクセル全開全速前進!
果たして今後フランが絡んでくることはあるのかっ!?
魔理沙、チルノ、パチェ、フランの四角関係に期待しててもいいですk(マスタースパーク
・・・えぇと、全然感想になってませんね自分_no
というわけで、読み返してちょっと気になった部分を1つ。
>霊夢にかすって右手にあったお払い棒をへし折った
とありますが、ここで魔理沙はぶれて見えた2人の霊夢のうち、右側の方に突撃してますよね?
このとき、霊夢と魔理沙は正面から対峙していたと考えられるので、ここで魔理沙から見た右側とは霊夢から見て左側、つまり霊夢の「右手」に魔理沙がかするというのは不自然ではないでしょうか?
霊夢が右手でガードしようとしてお払い棒が折れた、とかだったらありえますが。
見当違いの指摘でしたらごめんなさい。
こんな気持ちにさせてくれた あなたにお礼を言いたい!
しかしチルノは、ここまで健気なコだったんですねぇ。そんなチルノの想いを魔理沙は今後どうしてくれる事やら。ますます続きから目が離せません。
あと、『博霊』ではなく『博麗』ですよー。
カノンこんぺの原稿を読み直して凹んでるはね~~です(ぉ)
感想どうもありがとうございます~♪ ではでは今回のレスです~。
>電脳の狭間に生きる者さん
わ、わわわ。100点どうもありがとうございます。
霊夢にもつらい事があったんですよ、あはは。危うく。危うく、つーいうっかり「レミリア様、頑張れっ!」と書いてて思ったりもしましたが。
もっというと、ボツにはしましたが初稿では実は百合シーンちょっとだけありました(笑)嫌がる霊夢を(以下略)
第4話も頑張りますので、宜しくお願い致しますー。でも、4話はちょっとラブ方面ではトーンダウンして、シリアスめになります。まあその分は第5話に乗っかる訳なので、完結後もう一度冥界に行って頂けるくらいを目標にっ(笑)
>みっくすさん
感想ありがとうございますー。チルノと一緒に、作者もブレーキ無視して今回は突っ走りました。
フランに関してですが、その後残り2話のプロットを書き直した結果『全くでない』という事はなくなりましたー! ちゃんと残り2話のどこかでは出ます、はい。
頑張りますので、最後までお付きあい頂けましたら幸いですっ。
※霊夢の右手
……はぅっ!(泣)ひ、左手の間違いです。すいませんすいませんすいませんー! うう、実は中学に入るまで右と左が分からなかった大バカ者です、私。
その後遺症が今だに……(逆から考えると混乱して、今だに間違えるんです……)ご指摘ありがとうございました。反省しろ私ー!
>SETHさん
……ストレートで、それでいて心に染みる感想ですー。
チルノと魔理沙の関係は、第3話までが一つの区切りとなります。言うならば、外堀はもう埋まりました(笑)魔理沙城が落城するのかどうか、生暖かい目で魔理沙を見守ってやって下さいです。
>いち読者さん
以前の感想でちらっと言っておりました、魔理沙渾身の恋色マスタースパークはいかがだったでしょうか?(笑)自爆覚悟のラストスペルは私の波長にピタリだったのか、書いててもう滅茶苦茶楽しかったです。実際問題そろそろ弁明が効かない状態になってるんですよね、周囲の反応もそうですが何より魔理沙の心境も。
チルノの反応ですが、馬鹿っぽくて子供っぽい娘に限って思い込むと一途だったりするものだなーというのが話の元でした。根が良い意味でも悪い意味でも素直だろうと(笑)正直どう皆さんに思われるかは不安だったんですが、概ね好評でありがたい事です。
※博麗弾幕結界
うぐぅ……何やってるんでしょう、私。誤字じゃなくて素で勘違いしてました(滝汗)別に書いてた話でも素で『博霊霊夢』って書いてましたし。ご指摘がなければずーっと間違えていたでしょう、どうもありがとうございました。……はぅー、こんぺの感想で他人の誤字指摘する資格あるのかな、私。
しかしとにかく不憫ですね、パチュリー。
静かに涙を流してそのまま泣き寝入り、気が付いてみたら止めを刺される。
泣⇒泣⇒倒
パチュリーではないですが思わず涙が出そうに。
今後の展開でそれぞれの立場がどうなるか、とても楽しみです。
お疲れ様です!
こんぺ終了後、ようやく落ちつきましたのでレスです~。遅くなりました、すいませんです(汗)そろそろ書く方を本気でやるぞー! おー!!
>nagiさん
冷静に考えてみると、この話における最大の貧乏籤はパチュリーじゃないかという気がひしひしとしております、最近(笑)でもパチェには第4話・5話に見せ場がきっちりとありますので、まあ我慢してもらおうかなーと。あはは。
なお第4話、書いては消し書いては消しと、実はかなり詰まってます(汗)そうですね、それぞれの立場。そこをどれだけ魅力的に描けるかが、この話の肝の一つですから、妥協無く、いつもどーりの私の文章で(笑)頑張ります。
感想ありがとうございましたー。
だが、それがいい(おい
冒頭読んだとき、霊夢も参戦かと思ってどきどきしましたw