とりあえず、夜食を口にする三人。メニューは油揚げ。こうして見ると問題も何もないが、実はこれ、橙が作っていたのだ。それだけでも異常なのに、藍が仕事をサボっていたのが更におかしいである。
まぁ経緯はどうであれ、肝心の夜食の味は――?
「…ビミョー。」
「微妙…ですね。」
「にゅ。」
そう、微妙である。まったく料理ができない橙にしては上出来だが、とてもじゃないけどおいしいとは言えない。食べられるけど食べたくはない…とそんな感じ。
しかもそれだけではない。油揚げと一口で言っても、十人が作れば十種の味が出るはず。なのに橙のは藍のと同じ――師匠から習ってるから似ているのではなく、「同じ」なのだ。そう、まずいけど味は同じ。まるで劣化コピーのように。
…結局マズいからそんなのどうでもいいが。
「さ、最初は皆このようなものだから、気にしなくていいぞ、橙。」
「にゅ…ありがとう、藍さま…」
しょんぼり。
「あ、あーと…いやそう落ち込むな、私も側にいなかったし、指導も受けなくてこの程度は十分だから、な?」
しゅーん。
「えーい!少しマズい位でなんだというのだ!こうすればいいだろう、『おいしくなれ』!!!」
ついに橙のしゅんとした姿が目に当てられなくて、キレてペンダントを使う藍。こういうことに使ったことないけど、多分大丈夫だろう、と――
ぽわわ~~ん
ペンダントから、何とも言えない…風?っぽいものが噴出した。いわゆる幸せ光線ってやつだ。
そしてその風を浴びた油揚げは美味しくなった。いやまだ食べてないけど、アレは確かに「おいしくなった」。とにかくそう感じるからそうに違いないだろう。
「ほら橙、これでおまえの料理はおいしいぞ!」
と藍が威張るが。
「藍さま、それはなんか違うと思うけど…」
「その前に不気味よ。得体の知れない魔力を混ぜたモノを食べるつもりはないわ、私は。」
当然却下された。橙の機嫌を取れない、おまけに紫にも呆れられた。これじゃ橙と同じレベルじゃん…色々な方面で。
結局夜食は菓子や団子で済ませた。
* * *
「では紫様、私はそろそろ寝ますので…」
「ん、分かった。おやすみー」
草木も眠る何とやらの時間で、藍も寝ることにした。普通はこんな遅くまで起きてはいないが、今夜は特別。どこが特別と問われたら困るけど。
殆どの明かりが消されて、白くて蒼い月の光だけがマヨヒガを照らしていた。月光浴の絶好日和、いや絶好月和といったところか。中秋までわずか一ヶ月、この妖しい満月の魅力に抗う術を、夜行の妖怪達は持ってないのだろう。そう、たとえそれが、大妖怪八雲紫であっても、だ。
――舞い降り。
――月の光に導かれる様に。
――身を委ね。
――意識のゆくえのままで。
――踊り出す。
――それは儚げな蝶の如く。
――踏み込め。
――曖昧な幻と現の境界へ――
「と、ととと…行っちゃいけないだったわ。」
慌てて現実に戻る紫。こんな気分になるのは久しい気がする。まだ中秋じゃないのに、こうも気分が昂揚するのはなぜでしょうか?この程度の月ならせいぜい藍辺りを影響するのが精一杯なのに。
うーん、と考えても答えが出ない。とりあえずいい気分になったから、次は何をしようかしら?散歩?神隠し?それとも――
「そういえば最近は受ける方ばかりやってたわね。偶には避ける方もやってみようかしら。」
弾幕ごっこ――彼女達の「ルール」の一つである。ルールが無い幻想郷だからこそ、こういうゲームじみた規則が広がっていく。みんながみんなで全力本気全開でやったら、3時刻足らずに幻想郷は滅ぶのだろう。
とはいえ、前回避ける側に回ったのはいつかはあまり覚えてない。やり方もかなり忘れてるような気がする。ならどうするか――
「面倒だから適当にあのめでたい巫女の針をパクればいいのね。藍をホーミング代わりにして~あ、服は道服がいいかしら、藍のようなアレ。スペルカードも霊夢のアレを強化すれば済むから楽々。それから…」
普通、これは修行という。おまけに気の入りのゴスロリ服も洋傘も扇子も持ってない。その上、霊夢の技をパクると来た。
紫自身はまだ気づいてない。彼女もまた、この異変に飲み込まれていることを――
八雲一家に一体何が!?・・・最後まで分からなかったorz
橙はともかく藍や紫ですらその侵食に気が付かない異変の
真相に興味があったのですが(^^;
当面は「紫の永夜抄と妖妖夢の差の原因」とでも思ってください orz
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おまけに5作目はコレのことを触ってない罠。事件の解明はどうか6作目までお待ちしてください orz
しかし、紫様の夢(?)の部分の雰囲気はよかったです。
紫様の味がよく出ていると思います。
とりあえず、次回作を正座してお待ちします。