ガサッ、ガサ。
茂みを掻き分けて獣道を進む。
「はぁ、もう、疲れた・・・」
長い髪の少女が弱音を吐く。
彼女の名前は妹紅、
長い白銀の髪と
それを纏める後頭部の大きな物と、
髪の先端で縛られている赤の2つのリボンが特徴的だ。
なぜ、大きな道を歩かずに、こんな獣道を歩くのかといえば、理由がある。
彼女が不老不死だからだ。
他人と接触し、10年程経って、同じ姿の人間を目撃すれば誰もが怪しむだろう。
そうなれば、その場所には居られない。
なので、同じ場所に長く居ようと思えば、人に会わないのが前提になってくる。
他にも獣道を行く理由はあるのだが・・・
ガサガサ、ガサッ
「うぁ?」グキッ!
うっそうと茂る草によって、くぼんだ地面が見えずに足を取られてしまう。
「イッタ~~~もう!」
その場に座り込んでしまう。
どうやら足を挫いた様だ。
どうしよう、挫いただけでは治りが遅い。
「仕方ない、・・・・痛いけど、治るの一瞬だし・・」
そう言うと、懐から小刀を出し、両手で持ってぴたりと首筋に当てる。
キュッ、ブシュ!
ごく、自然な動きで自らの首を切り裂く。
大量の血液が流れ出る。
しかし、かなり深く切ったはずだが、徐々に傷口が閉じてくる。
これも、不老不死の効果で、死へ向う体を体自身が生きようとして、再生、治癒しようとするのだ。
それでも、傷が閉じるまでには、失血で死ぬだろう。
しかし、彼女は完全な死でも、魂が肉体を再形成する。
それを利用して、挫いた足の治癒と共に、疲労困憊な体をリフレッシュさせようとしたのだ。
ガサッ、ガサッ
同じように茂みを掻き分ける少女。
妙に焦っている。
「臭いは・・・こちらか?」
とある臭いがしたのだ。
その臭いは、とても特徴的な臭い。
この臭いのある場所は、必ずと言っていいほど、悪い事がある。
下手な占いよりも確実だ。
ガサッ、ガサッガササッ
「やはり、血・・・お、おい、しっかりしろ!」
血まみれで倒れている少女を見つける。
なにがあったんだろう?
そんな詮索は後回しにして、傷を確認する。
「思ったより、酷くない・・・だが、危険だな・・・・」
そう呟くと、簡単に止血し、抱きかかえると自らの家に急ぐ。
「大丈夫だぞ、必ず私が助けてやるからな!」
ん、あったかい・・・・
あれ?なんだか、ふわふわな物が掛ってる・・・
!?私は外で死んだはず。
ここは、
「ッどこ?・・・」
呟いて、目を開ける。
天井・・・・・?
ガバッと起きる。
掛っていた布団を跳ね除けて。
「・・・・」
キョロキョロと、あたりを見回す。
・・・家?
ブルッ
今度は、寒くなった。
「うぅ、ん?、うわぁぁ!?」
全裸だった。
「ななななななッ!!??」
なんで、どうして?こんな癖はなかったと思うけど!!?
状況を整理できていない頭が、さらに混乱する。
「おぉ、気がついたか」
声が掛る。
髪の長い、少女が粥を持ってきた。
「だだだ、だれだ!」
「あぁ、すまない、私は上白沢 慧音、あんな獣道で血だらけで倒れていたから心配したぞ」
そう言うと、コトリと妹紅の傍に粥を置く。
「食べろ、血が足らないはずだからな、えぇっと?」
「・・・妹紅」
「妹紅、おかわりはまだたくさんあるからな」
そう言うと部屋を出る。
「・・・・」
おそるおそる粥のお椀を持つ。
「あぁ、そうそう、」
ビク!
突然、声が掛る。
「服は今洗っているから、すまないがコレを着ていてくれ、裸では寒いだろう」
と、服を持ってきて、傍らに置く。
そうだった、あやうく全裸で粥を・・・・違う、問題点はそこじゃない。
「な、なんで私が裸なのよ!」
「血だらけで布団に寝かす趣味は無いからな。」
そう言って、今度こそ、部屋を出て行った。
渡された服に袖を通し、部屋を眺める。
本が沢山ある・・・・
近くにあった一冊をめくってみる。
パラリ、
「ん・・・歴史書?」
ガララッ、
慧音が帰ってきたようだ。
本を元に戻しておく。
「よし、全部食べたな」
「・・・ごちそうさま、」
フフッと笑うと、食器を下げる。
戻ってきて、
「どうして、自殺を?」
助けた手前、知りたいのだろう。
しかし、本当のことを言うわけにはいかない。
「刺客に追われていて、もう、だめだと思ったから・・・」
刺客に狙われているのは本当だ。
ただし、絶対に死なないが。
それでも逃げる為に、急いでいた。
「そうか・・・宿はどうした?」
「刺客に狙われているんだから、泊まれる筈無いでしょ?迷惑が掛るわ」
ふむ、と考えると、
「いい場所がある。
掃除をしなければならないがな。
どうする?」
「あー、疲れたー」
そう言うと、大の字に倒れる。
やっと、掃除が終わった。
もう夜だ。
紹介されたのは、集落の外れにある半壊している寺だった。
結構な大きさだったが、集落から離れている。
多分、魑魅魍魎や野党にでも襲撃されてそのなのままだろう。
慧音とか言う女は、明日様子を見に来るらしい。
あれほど、関わるなと、言ったのに・・・
しかし、何年、何十年ぶりの「会話」だったんだろう?
不死となって、定まった場所に住めず、人を避けて旅をしてきた。
なんだろう、この感じは・・・
そう、思いながら包帯の巻かれた首をさする。
既に傷は癒えていた。
包帯に特殊な力があったようだ、
そんなもの無くても治るのだが、なぜか巻いたままにしている。
考えるのをやめて、床に就く。
「・・・・・」
一人の夜が、こんなにも・・・・
ぶんぶんと頭を振る。
今までと、同じだ。
そう、自分に言い聞かせると、
妹紅は、眠りに就いた。
まったく、変な女の子だ・・・
寺を紹介した後、手伝おうかと聞いたら、
「私には関わらないで欲しい」
と返された。
まぁ、追われているんだから、巻き込みたくは無いのだろう。
それに、他の人間にも言わないでくれ、と来たもんだ。
「まぁ、明日様子を見て、大丈夫そうならほかって置いてもいいか。」
そういうと、家の外に出る。
集落全体を巡回するためだ。
ずいぶん昔に、この付近を荒らしていた妖怪の一族を潰した為、
大きな被害は無くなったが、用心に越した事は無い。
ガサッ、ガサッ
茂みの中、古寺を見つめる目が在った。
「見ツケタ・・・・」
ソレは、ニタリと笑うと、闇に溶け込んだ。
「ふぅ、異常なし、っと」
巡回を終えた。
後は使い魔を4匹程放っておけば十分だろう。
「そうだな、久しぶりに、鈴の家にでも寄ってみるか・・・起きていればいいが・・」
自分がこの集落の人々に溶け込めた要因である女の子、川名鈴
ずいぶん時間が経ち、ちいさな子供は、大人になっていた。
鈴の家に向う途中、
「うん?」
気配を、感じた。
微弱な霊力と、大きな妖力。
方角は・・・・
「しまった!」
古寺の方角だ。
集落の外れなので、巡回ルートには入っていない。
しかも、慧音の家とは逆方向だ。
「待っていろ、妹紅!」
なにやら、嫌な感じがする・・・・
ガバッ
布団を跳ね除け、起き上がる。
眠ってから、そんなに時間は経っていないような気がする。
「・・・・見つかったの?」
生まれたのは、妖怪と人間がともに存在した時代、平安時代。
皇族の血を引き、貴族の娘だったが、魑魅魍魎の跋扈する時代。
妹紅も、当然の嗜みとして、陰陽道による、退魔法を習っていた。
今までも、襲ってきた妖怪(刺客)は退治してきた。
ガタッ
ギシ、ギシ。
妖怪が、寺に侵入してきた。
静かに、符を構える。
退魔符だ。
大抵の妖怪なら、これで撃退可能だ。
姿が、見えた!
バシュッ
退魔符を放つ。
先手必勝だ。
しかし、姿を現したのは、妖怪ではなく
長くて黒くて美しい髪をした少女。
「え?」
「フフッ久しぶりね」
黒髪の少女が手を翳し、
符を焼き尽くす。
その、人物の名が口から漏れる
「かぐ、
ドシュ!
や、げほッ」
胸から、腕が生える。
いや、
背後から、心臓を破られたのだ。
ジュピッ
腕が抜かれ、
ドサッ
倒れる。
「フフフッ、こんなにも、近くに住んでいたのね、妹紅・・・」
声は聞こえるが、声が出ない。
「カグヤ様、コレデ終ワリデス、報酬ヲ!」
背後の妖怪が、カグヤと呼ばれる少女に請求する。
姿は分からないが、腕から見て鬼の類だと推測する。
「あら、まだ死んでなんか・・・ん、誰か着たみたいね」
「チィ、仲間カ?」
「じゃあ、その連れも殺しちゃって。始末したら、永遠亭に来てちょうだい。」
「3割リ増シダゾ」
「いいわ、それじゃあね、妹紅。」
そう言うと、姿を消す。
「フン、偉ソウニ!」
バキッ!
倒れている妹紅を蹴り飛ばし、扉を破壊する。
全力疾走してきた。
廃寺の境内に着地する。
「妹紅!」
ドガッ!
古寺の扉が破壊される。何かが飛んできた。
飛んだきたのは・・・・
「!、」
妹紅だ!
「妹紅!!」
妹紅に気を取られた瞬間に飛び掛ってくる、鬼の妖怪
「バカメ!」
真っ赤になって横たわっている妹紅。
「も、こう?」
ピクリとも動かない。
体が、一瞬止まる。
脳内に現れた一つの単語
「死」
「死ネ!」
強靭な肉体から繰り出される剛拳
慧音の側頭部を捉える。
ベキィ!
ドシャァァァッ
勢い良く、慧音が吹き飛ぶ。
「フン、呆気ナイ・・・」
頭蓋骨を砕いたと確信し、帰ろうとする。
が、
慧音は立ち上がった。
「貴様、」
頭から血を流しながら。
「ナニ!動クノカ!?」
「ゆるさんぞ!」
鬼が、ニタリと笑う。
「フハハハハッ、イイダロウ、確実ニ殺シテヤル!」
鬼に妖気が満ちる。
突き出した両手の間に、カード状に力が形成され、弾け飛ぶ。
「鬼符・鬼子母神の狂乱!!」
これと同時に、慧音も1枚のスペルカードを起動させる。
「城壁・国を護りし万里の長城!!」
三重の螺旋を描く、荒々しい弾幕を、
突如地面より現れた壁が弾幕の全てを遮ろうとする。
「無駄ダ!、壁ゴト貴様ヲ粉砕シテヤル!!」
ズガガガァァァアアアアアアン!!
激しい爆音と、土煙が舞う。
「・・・・・ヤッタカ?」
土煙の向うに人影が見える。
「ナニィ!?」
鬼の弾幕に耐え切れず、長城が崩れる。
が、慧音は無傷だ。
そして、慧音はすでに次の符を起動していた。
「歴史は全て、私の中にある!貴様は骨も残さん!」
慧音の手のひらに妖気が集中し、カード状に力が形成される。
それを握りつぶす。
「業火に焼かれろ!!
焼滅・天命尽きし本能寺!!」
パチパチと焼ける音がする。
どこからだろう?
そう思いながら、
ゲホゲホと血を吐き、ゆっくりと体を起こす。
頬の擦り傷から、火の粉が吹き出る。
すると、その傷の箇所が復元した。
胸に空いた大きな傷口では、火が噴き出している。
こちらも、火の勢いと反比例し、収まる頃には、傷が綺麗に消えていた。
ザッ、
「!?」
「妹紅、お前・・・」
見られてしまった・・・
人間じゃない、証拠を。
しゃがみ込んだまま、
「見たの、ね・・・」
「・・・」
「どうして来たのよ!」
「それは、妖気を感じて・・・」
「私は、バケモノだから・・・・だから、一人じゃなきゃいけないのよ!」
そうか、それで人を避けていたのか・・・
「・・・・どこがバケモノだというんだ?
なんで、一人になろうとするんだ?」
「どこって、馬鹿にしてるの!?殺しても死なない人間がどこに居るのよ!?
そんなバケモノが、一緒に居られるはずがない!」
「バケモノとは、・・・・妖怪の事を、私の事を言うのだ」
「え?・・・」
「私は、半獣だ。満月に本来の姿に戻る。」
「・・・半獣?」
「そうだ。
私は半人半獣の妖怪だ。
それでも、私は人間が好きだ。」
「人が好き?それがどうしたのよ!」
「妹紅は、人をヒト意外――道具や物の様に見たことがあるか?」
「・・・?・・それは、無い・・」
「ならば、人間だ。ヒトを人として扱える。
別の存在――妖怪は、それができないんだ。
視点が変わるからな。」
「でも!・・・」
口を開くが、遮られる。
「そんな妖怪の、半獣の私でも、集落の人々に認められたんだ。
仲間として、同胞として。
それは、逃げずに、反発もせずに、只、好意を持って接したからだ。
ただ、ひたすらに、無償に、な。
だから妹紅、お前もきっと、いや、必ず理解される日が来る。
そして、私は、その最初の理解者になりたいんだ・・・」
「・・・なん、で?」
その声は、震えていた。
目には涙が溜まっている。
「ん、言っただろう?私は人間が――妹紅が、好きなんだ。」
そう言って、微笑みかけてくれた。
「うッ――わぁぁあああああああああああああああああああああッ」
泣いた。
堰を切ったように泣いた。
慧音の胸で
好きだと言ってくれた人の胸で。
「ぐすっ、うぅ、ッぅ」
「ふふ、泣くのはいい、溜め込んだものを出すのと同じだからな・・・」
そう優しく言いながら、妹紅を撫ぜる。
次の満月の夜に会う約束をした。
場所はこの場所、古ぼけた寺。
ガサッ
茂みが揺れる。
現れたのは、妹紅だ。
「慧音・・・それ、角?・・・」
「驚いたか?これが、本来の姿だ・・・」
そう、あの時とは違う満月の夜である。
力が増し、姿が戻る。
「あんまり変わらないのね・・・ふふっ」
「おいおい、笑いに着たのか?」
苦笑交じりに言う。
「あ、尻尾可愛い」
触っていい?といいながら手を伸ばす。
「お、おい、やめろ。それで、用件はなんだ?」
「あぁ、んー、その、」
うつむきながら、
尻尾を掴み損ねた手を胸元に持ってくる。
「あの時、世話になりっぱなしだったから、その、」
「どうした?いきなり・・・」
しゅるりと、髪の先端を縛っていた赤いリボンを外す。
「こ、これを、受け取って・・・」
「リボン・・・あぁ、ありがとう、妹紅」
「しゃがんで」
「うん?あぁ、」
しゃがむと、慧音の角に、リボンを結びつける。
「うん、似合うわ」
「そ、そうか・・・」
慧音の顔が真っ赤に染まる。
それから、他愛の無いおしゃべりをした。
その時間は、長いようで、短かったように思える。
「また、満月の夜に、」
「あぁ、満月の夜に、」
もう、一人じゃない。
もう、孤独じゃない。
この後20年程経ってから、肝試されをし、永遠亭で酒をご馳走になるのだが、
それは別の話。
茂みを掻き分けて獣道を進む。
「はぁ、もう、疲れた・・・」
長い髪の少女が弱音を吐く。
彼女の名前は妹紅、
長い白銀の髪と
それを纏める後頭部の大きな物と、
髪の先端で縛られている赤の2つのリボンが特徴的だ。
なぜ、大きな道を歩かずに、こんな獣道を歩くのかといえば、理由がある。
彼女が不老不死だからだ。
他人と接触し、10年程経って、同じ姿の人間を目撃すれば誰もが怪しむだろう。
そうなれば、その場所には居られない。
なので、同じ場所に長く居ようと思えば、人に会わないのが前提になってくる。
他にも獣道を行く理由はあるのだが・・・
ガサガサ、ガサッ
「うぁ?」グキッ!
うっそうと茂る草によって、くぼんだ地面が見えずに足を取られてしまう。
「イッタ~~~もう!」
その場に座り込んでしまう。
どうやら足を挫いた様だ。
どうしよう、挫いただけでは治りが遅い。
「仕方ない、・・・・痛いけど、治るの一瞬だし・・」
そう言うと、懐から小刀を出し、両手で持ってぴたりと首筋に当てる。
キュッ、ブシュ!
ごく、自然な動きで自らの首を切り裂く。
大量の血液が流れ出る。
しかし、かなり深く切ったはずだが、徐々に傷口が閉じてくる。
これも、不老不死の効果で、死へ向う体を体自身が生きようとして、再生、治癒しようとするのだ。
それでも、傷が閉じるまでには、失血で死ぬだろう。
しかし、彼女は完全な死でも、魂が肉体を再形成する。
それを利用して、挫いた足の治癒と共に、疲労困憊な体をリフレッシュさせようとしたのだ。
ガサッ、ガサッ
同じように茂みを掻き分ける少女。
妙に焦っている。
「臭いは・・・こちらか?」
とある臭いがしたのだ。
その臭いは、とても特徴的な臭い。
この臭いのある場所は、必ずと言っていいほど、悪い事がある。
下手な占いよりも確実だ。
ガサッ、ガサッガササッ
「やはり、血・・・お、おい、しっかりしろ!」
血まみれで倒れている少女を見つける。
なにがあったんだろう?
そんな詮索は後回しにして、傷を確認する。
「思ったより、酷くない・・・だが、危険だな・・・・」
そう呟くと、簡単に止血し、抱きかかえると自らの家に急ぐ。
「大丈夫だぞ、必ず私が助けてやるからな!」
ん、あったかい・・・・
あれ?なんだか、ふわふわな物が掛ってる・・・
!?私は外で死んだはず。
ここは、
「ッどこ?・・・」
呟いて、目を開ける。
天井・・・・・?
ガバッと起きる。
掛っていた布団を跳ね除けて。
「・・・・」
キョロキョロと、あたりを見回す。
・・・家?
ブルッ
今度は、寒くなった。
「うぅ、ん?、うわぁぁ!?」
全裸だった。
「ななななななッ!!??」
なんで、どうして?こんな癖はなかったと思うけど!!?
状況を整理できていない頭が、さらに混乱する。
「おぉ、気がついたか」
声が掛る。
髪の長い、少女が粥を持ってきた。
「だだだ、だれだ!」
「あぁ、すまない、私は上白沢 慧音、あんな獣道で血だらけで倒れていたから心配したぞ」
そう言うと、コトリと妹紅の傍に粥を置く。
「食べろ、血が足らないはずだからな、えぇっと?」
「・・・妹紅」
「妹紅、おかわりはまだたくさんあるからな」
そう言うと部屋を出る。
「・・・・」
おそるおそる粥のお椀を持つ。
「あぁ、そうそう、」
ビク!
突然、声が掛る。
「服は今洗っているから、すまないがコレを着ていてくれ、裸では寒いだろう」
と、服を持ってきて、傍らに置く。
そうだった、あやうく全裸で粥を・・・・違う、問題点はそこじゃない。
「な、なんで私が裸なのよ!」
「血だらけで布団に寝かす趣味は無いからな。」
そう言って、今度こそ、部屋を出て行った。
渡された服に袖を通し、部屋を眺める。
本が沢山ある・・・・
近くにあった一冊をめくってみる。
パラリ、
「ん・・・歴史書?」
ガララッ、
慧音が帰ってきたようだ。
本を元に戻しておく。
「よし、全部食べたな」
「・・・ごちそうさま、」
フフッと笑うと、食器を下げる。
戻ってきて、
「どうして、自殺を?」
助けた手前、知りたいのだろう。
しかし、本当のことを言うわけにはいかない。
「刺客に追われていて、もう、だめだと思ったから・・・」
刺客に狙われているのは本当だ。
ただし、絶対に死なないが。
それでも逃げる為に、急いでいた。
「そうか・・・宿はどうした?」
「刺客に狙われているんだから、泊まれる筈無いでしょ?迷惑が掛るわ」
ふむ、と考えると、
「いい場所がある。
掃除をしなければならないがな。
どうする?」
「あー、疲れたー」
そう言うと、大の字に倒れる。
やっと、掃除が終わった。
もう夜だ。
紹介されたのは、集落の外れにある半壊している寺だった。
結構な大きさだったが、集落から離れている。
多分、魑魅魍魎や野党にでも襲撃されてそのなのままだろう。
慧音とか言う女は、明日様子を見に来るらしい。
あれほど、関わるなと、言ったのに・・・
しかし、何年、何十年ぶりの「会話」だったんだろう?
不死となって、定まった場所に住めず、人を避けて旅をしてきた。
なんだろう、この感じは・・・
そう、思いながら包帯の巻かれた首をさする。
既に傷は癒えていた。
包帯に特殊な力があったようだ、
そんなもの無くても治るのだが、なぜか巻いたままにしている。
考えるのをやめて、床に就く。
「・・・・・」
一人の夜が、こんなにも・・・・
ぶんぶんと頭を振る。
今までと、同じだ。
そう、自分に言い聞かせると、
妹紅は、眠りに就いた。
まったく、変な女の子だ・・・
寺を紹介した後、手伝おうかと聞いたら、
「私には関わらないで欲しい」
と返された。
まぁ、追われているんだから、巻き込みたくは無いのだろう。
それに、他の人間にも言わないでくれ、と来たもんだ。
「まぁ、明日様子を見て、大丈夫そうならほかって置いてもいいか。」
そういうと、家の外に出る。
集落全体を巡回するためだ。
ずいぶん昔に、この付近を荒らしていた妖怪の一族を潰した為、
大きな被害は無くなったが、用心に越した事は無い。
ガサッ、ガサッ
茂みの中、古寺を見つめる目が在った。
「見ツケタ・・・・」
ソレは、ニタリと笑うと、闇に溶け込んだ。
「ふぅ、異常なし、っと」
巡回を終えた。
後は使い魔を4匹程放っておけば十分だろう。
「そうだな、久しぶりに、鈴の家にでも寄ってみるか・・・起きていればいいが・・」
自分がこの集落の人々に溶け込めた要因である女の子、川名鈴
ずいぶん時間が経ち、ちいさな子供は、大人になっていた。
鈴の家に向う途中、
「うん?」
気配を、感じた。
微弱な霊力と、大きな妖力。
方角は・・・・
「しまった!」
古寺の方角だ。
集落の外れなので、巡回ルートには入っていない。
しかも、慧音の家とは逆方向だ。
「待っていろ、妹紅!」
なにやら、嫌な感じがする・・・・
ガバッ
布団を跳ね除け、起き上がる。
眠ってから、そんなに時間は経っていないような気がする。
「・・・・見つかったの?」
生まれたのは、妖怪と人間がともに存在した時代、平安時代。
皇族の血を引き、貴族の娘だったが、魑魅魍魎の跋扈する時代。
妹紅も、当然の嗜みとして、陰陽道による、退魔法を習っていた。
今までも、襲ってきた妖怪(刺客)は退治してきた。
ガタッ
ギシ、ギシ。
妖怪が、寺に侵入してきた。
静かに、符を構える。
退魔符だ。
大抵の妖怪なら、これで撃退可能だ。
姿が、見えた!
バシュッ
退魔符を放つ。
先手必勝だ。
しかし、姿を現したのは、妖怪ではなく
長くて黒くて美しい髪をした少女。
「え?」
「フフッ久しぶりね」
黒髪の少女が手を翳し、
符を焼き尽くす。
その、人物の名が口から漏れる
「かぐ、
ドシュ!
や、げほッ」
胸から、腕が生える。
いや、
背後から、心臓を破られたのだ。
ジュピッ
腕が抜かれ、
ドサッ
倒れる。
「フフフッ、こんなにも、近くに住んでいたのね、妹紅・・・」
声は聞こえるが、声が出ない。
「カグヤ様、コレデ終ワリデス、報酬ヲ!」
背後の妖怪が、カグヤと呼ばれる少女に請求する。
姿は分からないが、腕から見て鬼の類だと推測する。
「あら、まだ死んでなんか・・・ん、誰か着たみたいね」
「チィ、仲間カ?」
「じゃあ、その連れも殺しちゃって。始末したら、永遠亭に来てちょうだい。」
「3割リ増シダゾ」
「いいわ、それじゃあね、妹紅。」
そう言うと、姿を消す。
「フン、偉ソウニ!」
バキッ!
倒れている妹紅を蹴り飛ばし、扉を破壊する。
全力疾走してきた。
廃寺の境内に着地する。
「妹紅!」
ドガッ!
古寺の扉が破壊される。何かが飛んできた。
飛んだきたのは・・・・
「!、」
妹紅だ!
「妹紅!!」
妹紅に気を取られた瞬間に飛び掛ってくる、鬼の妖怪
「バカメ!」
真っ赤になって横たわっている妹紅。
「も、こう?」
ピクリとも動かない。
体が、一瞬止まる。
脳内に現れた一つの単語
「死」
「死ネ!」
強靭な肉体から繰り出される剛拳
慧音の側頭部を捉える。
ベキィ!
ドシャァァァッ
勢い良く、慧音が吹き飛ぶ。
「フン、呆気ナイ・・・」
頭蓋骨を砕いたと確信し、帰ろうとする。
が、
慧音は立ち上がった。
「貴様、」
頭から血を流しながら。
「ナニ!動クノカ!?」
「ゆるさんぞ!」
鬼が、ニタリと笑う。
「フハハハハッ、イイダロウ、確実ニ殺シテヤル!」
鬼に妖気が満ちる。
突き出した両手の間に、カード状に力が形成され、弾け飛ぶ。
「鬼符・鬼子母神の狂乱!!」
これと同時に、慧音も1枚のスペルカードを起動させる。
「城壁・国を護りし万里の長城!!」
三重の螺旋を描く、荒々しい弾幕を、
突如地面より現れた壁が弾幕の全てを遮ろうとする。
「無駄ダ!、壁ゴト貴様ヲ粉砕シテヤル!!」
ズガガガァァァアアアアアアン!!
激しい爆音と、土煙が舞う。
「・・・・・ヤッタカ?」
土煙の向うに人影が見える。
「ナニィ!?」
鬼の弾幕に耐え切れず、長城が崩れる。
が、慧音は無傷だ。
そして、慧音はすでに次の符を起動していた。
「歴史は全て、私の中にある!貴様は骨も残さん!」
慧音の手のひらに妖気が集中し、カード状に力が形成される。
それを握りつぶす。
「業火に焼かれろ!!
焼滅・天命尽きし本能寺!!」
パチパチと焼ける音がする。
どこからだろう?
そう思いながら、
ゲホゲホと血を吐き、ゆっくりと体を起こす。
頬の擦り傷から、火の粉が吹き出る。
すると、その傷の箇所が復元した。
胸に空いた大きな傷口では、火が噴き出している。
こちらも、火の勢いと反比例し、収まる頃には、傷が綺麗に消えていた。
ザッ、
「!?」
「妹紅、お前・・・」
見られてしまった・・・
人間じゃない、証拠を。
しゃがみ込んだまま、
「見たの、ね・・・」
「・・・」
「どうして来たのよ!」
「それは、妖気を感じて・・・」
「私は、バケモノだから・・・・だから、一人じゃなきゃいけないのよ!」
そうか、それで人を避けていたのか・・・
「・・・・どこがバケモノだというんだ?
なんで、一人になろうとするんだ?」
「どこって、馬鹿にしてるの!?殺しても死なない人間がどこに居るのよ!?
そんなバケモノが、一緒に居られるはずがない!」
「バケモノとは、・・・・妖怪の事を、私の事を言うのだ」
「え?・・・」
「私は、半獣だ。満月に本来の姿に戻る。」
「・・・半獣?」
「そうだ。
私は半人半獣の妖怪だ。
それでも、私は人間が好きだ。」
「人が好き?それがどうしたのよ!」
「妹紅は、人をヒト意外――道具や物の様に見たことがあるか?」
「・・・?・・それは、無い・・」
「ならば、人間だ。ヒトを人として扱える。
別の存在――妖怪は、それができないんだ。
視点が変わるからな。」
「でも!・・・」
口を開くが、遮られる。
「そんな妖怪の、半獣の私でも、集落の人々に認められたんだ。
仲間として、同胞として。
それは、逃げずに、反発もせずに、只、好意を持って接したからだ。
ただ、ひたすらに、無償に、な。
だから妹紅、お前もきっと、いや、必ず理解される日が来る。
そして、私は、その最初の理解者になりたいんだ・・・」
「・・・なん、で?」
その声は、震えていた。
目には涙が溜まっている。
「ん、言っただろう?私は人間が――妹紅が、好きなんだ。」
そう言って、微笑みかけてくれた。
「うッ――わぁぁあああああああああああああああああああああッ」
泣いた。
堰を切ったように泣いた。
慧音の胸で
好きだと言ってくれた人の胸で。
「ぐすっ、うぅ、ッぅ」
「ふふ、泣くのはいい、溜め込んだものを出すのと同じだからな・・・」
そう優しく言いながら、妹紅を撫ぜる。
次の満月の夜に会う約束をした。
場所はこの場所、古ぼけた寺。
ガサッ
茂みが揺れる。
現れたのは、妹紅だ。
「慧音・・・それ、角?・・・」
「驚いたか?これが、本来の姿だ・・・」
そう、あの時とは違う満月の夜である。
力が増し、姿が戻る。
「あんまり変わらないのね・・・ふふっ」
「おいおい、笑いに着たのか?」
苦笑交じりに言う。
「あ、尻尾可愛い」
触っていい?といいながら手を伸ばす。
「お、おい、やめろ。それで、用件はなんだ?」
「あぁ、んー、その、」
うつむきながら、
尻尾を掴み損ねた手を胸元に持ってくる。
「あの時、世話になりっぱなしだったから、その、」
「どうした?いきなり・・・」
しゅるりと、髪の先端を縛っていた赤いリボンを外す。
「こ、これを、受け取って・・・」
「リボン・・・あぁ、ありがとう、妹紅」
「しゃがんで」
「うん?あぁ、」
しゃがむと、慧音の角に、リボンを結びつける。
「うん、似合うわ」
「そ、そうか・・・」
慧音の顔が真っ赤に染まる。
それから、他愛の無いおしゃべりをした。
その時間は、長いようで、短かったように思える。
「また、満月の夜に、」
「あぁ、満月の夜に、」
もう、一人じゃない。
もう、孤独じゃない。
この後20年程経ってから、肝試されをし、永遠亭で酒をご馳走になるのだが、
それは別の話。
どことなく儚げな感じの妹紅もいい感じです。
ところで、オリジナルの符の名前カッコいいっすよ。
例えるのなら、映画のカットシーンを絵で1つ1つ見ているような感じです。動態な画面じゃないのですから、漫画のように「連続している」ように感じさせる工夫が必要だと思います。
あと輝夜はやはり腹黒(((( ;゚Д゚)))
慧音の符名が歴史を現してるのも、上手いな、と。
個人的には大人になった鈴を見たかった。w
ただ、説明的なセリフが多いのが少し気になりましたね。
例を上げれば「・・・・痛いけど、疲れも取れるし・・・」などは、あえて「疲れも取れる」と言う部分を地の文で表現しているのですから、不要かと。
「痛いから、嫌なんだけどなぁ…」くらいの方がすっきりすると思います。
後は会話のシーンで、「」の最後に句点がある時と無い時があるので、統一した方がいいと思います。(通常無い方が多いようですが)
多少厳しい事を書いてしまいましたが、ご容赦下さい。
>名前が無い程度の能力殿
>ところで、オリジナルの符の名前カッコいいっすよ。
おぉ、ありがとうございます。
最初、止めの符は、焼き討ちされた本能寺と火刑にされたジャンヌで迷ったんですが、信長は骨も残さなかった事を思い出し、本能寺に決定しました。
>裏鍵氏
>漫画のように「連続している」ように感じさせる工夫が必要だと思います。
なんだか難しいですね、もっと動いている描写説明を多くすれば良いのでしょうか?
>真人氏
>個人的には大人になった鈴を見たかった。w
何気に鈴って人気なんでしょうか?w
>ただ、説明的なセリフが多いのが少し気になりましたね。
>「痛いから、嫌なんだけどなぁ…」くらいの方がすっきりすると思います。
突然の自殺という行動の、理由を呟かせたんですが、説明的すぎたようですね。
もうちょっと工夫してみます。
>、「」の最後に句点がある時と無い時
やはりきましたか(ぉ
あれは、言葉に詰まった時や、次の言葉を言おうとして、飲み込んだ時などに使っています。
例としては、妹紅の「・・・ごちそうさま、」はボソっと呟く感じで、言葉を切った様子を、
慧音の「うん?あぁ、」は、後に続く、「分かった」というセリフを飲み込んだ様子を、
同じく慧音の「あぁ、そうそう、」は、後に続く「服は今洗っているから~に繋げる為に使っています。
てゐの場合は、舌足らずなのを表現するためで必ず付きます。
>多少厳しい事を書いてしまいましたが、ご容赦下さい。
いえいえ、これらの指摘を、次回に生かせればいいなぁと思います。
そうか、あのリボンは妹紅が上げた物だったのか。
確かにこの二人の出会いは非常に気になるところ。
そんな二人の出会いの描写はお見事でした。
ただ、少々シーンの展開が唐突だと思いました。
もうちょっと流れがあった方が、読み手としては楽しみがいがあります。
>誤字・・・?
しかい、彼女は完全→しかし、彼女は・・・
襲撃されてそのなのままだろう→撃墜されてそのままなのだろう
「会話」だったんんだろう→「会話」だったんだろう
そんあバケモノ→そんなバケモノ
一応これらが誤字かなっと思いましたので報告させてもらいます。
誤字指摘、感想ありがとうございます。
>そうか、あのリボンは妹紅が上げた物だったのか。
この設定は自分がそう思っただけなんで、信じちゃダメですよ(ぉ
>ただ、少々シーンの展開が唐突だと思いました。
>もうちょっと流れがあった方が、読み手としては楽しみがいがあります。
裏鍵氏にも指摘されましたが、今後「流れ」、「テンポ」のある作品を書けるように努力したいと思います。
>襲撃されてそのなのままだろう
これは、寺がなんで廃墟になったかの説明なので、襲撃で大丈夫です。
野党は弾幕しないと思うのでw
上手く2人の特徴を組み合せていて仕上がっていると思います。
輝夜がかなりえげつなくなっている感があるのがちょっと…
全体的に急ぎすぎている感じがするので、前後と話を分けてじっくりと書いた方が纏まるような気がします。
>多分、服を復元する符も作ってると思う。
>服に貼り付けられた符がそんな効果ありそうなので。
恐らく、服を見繕うお金が無いので札で穴を塞いd…
>輝夜がかなりえげつなくなっている感があるのがちょっと…
たまたま、刺客と一緒に出てきてて、偶然妹紅発見して
鬼=隠人なので、>ソレは、ニタリと笑うと、闇に溶け込んだ。
のとおり、「隠れて」妹紅に接近して後ろから・・・って作戦を鬼が提案。
で、輝夜も久しぶりに妹紅を見たいので了承。
なので挟み撃ちになりました。(輝夜は何もしてないけど)