Coolier - 新生・東方創想話

薬師と、魔女とメイドと等価交換

2004/09/25 07:50:13
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(*前作「或る森にて」を引き継いでるかもしれない。引き継いでないかもしれない。)

 幻想郷は今日も快晴、天候とはあまり関係が無いのだが、私・霧雨魔理沙は永遠亭に来
ている。まぁ、快晴だからと気の向くままに散歩……いや飛んでいたから遊泳か……をし
ているうちに薬草を採りに来ていた永琳と偶然出会った。せっかくなので、特にお呼ばれ
はしていないが、彼女に付いて永遠亭に行って今に至っている。
 何でも彼女は、てゐがお腹を壊したので薬草を取りに来ていたという。ケーキを食って
腹を壊したというのだが、こんな辺境に甘いものなんてあるのだろうか。ましてやケーキ
なんて誰が作るのか、月にはケーキを作る魔法みたいなものでもあるのだろうかと疑問に
思った。
「なぁ永琳、ケーキってどうやって作るか知ってるか?」
 思い切って尋ねる。
「カステラにチーズ、ヨーグルトと乳糖を調合でしょ」
「調合、ってあーた……調薬とか錬金術じゃないんだから。で、この辺に材料はあるの
か?」
「在るわけ無いじゃない、買いに行ったり採りにいかないと。」
 そりゃまぁ、竹林で取れるものといったら筍ぐらいのものだろう。
「それじゃ、なんでそこの兎はケーキを食べられたんだ?」
「輝夜がこの前持って帰ってきてとっておいたやつをつまみ食いしたらしいわ」
 ……なるほど納得。そして、出所もなんとなく想像がつく。

「で、せっかくついて来たんだから、何か手伝ってもらおうかしら」
「私はお客様だぜ」
「まぁ、そう言わずに。ちょいと魔法で火でも出して欲しいんだけど」
「あー、火を出して何をするんだ?」
「この薬草を乾燥させる時間がもったいないから、とっとと炙って欲しいの」
「私が魔法でやると灰も残らないぜ」
「ささやき-いのり-えいしょう-ねんじろ-おおっと?」
「……月人の癖に妙な事を知っているな」
「それじゃあのワーハクタクを探して来て欲しいんだけど」
「これまた何でだ?」
「三種の神器、草薙の……」
「あー、月人ってばなんでそういう微妙に間違った知識を持ってるんだ。ちなみにそれも
面倒そうだからパス」
「それじゃ、素直に乾燥かしら」
「まぁ、しょうがないから手伝ってやるぜ。お代はツケで」
 そう言って、私は懐からモノを取り出す。
「ミニ八卦炉~」
「魔法じゃないじゃないの。そんなに小さいもので大丈夫かしら」
「こいつは小さくても必殺の武器だ、なにせ山一個を燃やした程度の火力だぜ」
「そんな危ないもので炙るつもり?」
「大丈夫、この前の焼肉(*1)でもこいつの火力を使っていたから」
「焼肉焼いても家焼くな」
「まぁ、善処するぜ」

 善処する、と言っても別に難しいことではなく、いともあっさり薬草は乾燥した。あと
はこれを飲ませるだけだが、当然良薬は口に苦い。てゐは一口含んだ後は、一切口にしよ
うとしない。
「しょうがないわね……」
 どこかから赤い液体の入ったビンを取り出すと、それを薬草に混ぜる。混ぜた後さらに
上部をその粘着性のある赤い液体で覆い、再びてゐに差し出す。最初は警戒していたてゐ
だが、まもなく自分から全てを平らげてしまった。(*2)
「なんだその怪しい物体は」
「一口食べてみる?」
 差し出されたスプーンを一口に。
「ああ、イチゴジャムか。ちょっと甘味が足りないけど」
「甘すぎるとイナバ達がお腹壊すから、糖分控えめよ」

 薬を飲ませ終わり、お茶で一服して一息入れる永琳と私。
「ところで、さっきのツケ代わりに」
「ん、何かしら」
「お勧めの薬草採取場所を教えて欲しいんだが」
「なんだ、その程度なら喜んで」
 これで目的達成である。やはり魔女たるもの、積極的に知識交換をすべきだ。どこかの
自称都会派魔法使いみたいに閉鎖的じゃあ、成長しないのも当たり前だろう。キノコの種
類と効用も知らないし、と言うか奴はキノコを使わない魔法使いなのだが。

 そんな薬草の採取場所話で盛り上がっているところに、見慣れた来客がきた。私も客だ
が。
「ちょいと失礼するわ、永琳さんはいらっしゃるかしら」
「とてもじゃないが失礼してる人間の言い方じゃないぜ」
「いやまぁその、ってなんで魔理沙がここに居るのよ」
「成り行きだぜ」
 紅魔館のメイドの服装そのままに、咲夜が現れた。
「で、私に何か用かしら」
 微妙においてけぼりをされていた感のある永琳が、話を元の筋に戻す。
「ちょいと医者が必要だから、紅魔館まですぱっと来て欲しいんだけど」
「まぁ、今なら手が空いてるからいいわよ。お代はツケで」
「……魔理沙、変な言葉教えたわね?」
「等価交換は万物の原則だぜ」
 というわけで、今回も成り行きに沿って紅魔館にお邪魔することにする。うーん、我な
がら風任せ人生。

 帰り際、ちょうど輝夜が帰宅してきた。
「あら永琳とご一行、お出かけかしら」
「ええ、ちょっと紅魔館まで行ってきますわ」
 永琳が応じる、続けて咲夜。
「そういえば輝夜、私のケーキはどうだったかしら」
「てゐにつまみ食いされたわ。また今度ご馳走して頂戴」
 やはり出元はここか、予想の範疇だったのでさほど驚くことでもなく。
「で、その食べたてゐは腹下して寝てるわけだが。珍しく、『瀟洒らしくない』な、メイ
ド長」
 敢えてウサギの特性である『甘いものを食べると腹を壊す事』を知らせず、意地悪に言
ってみる。咲夜の反応はと言うと、人差し指を頬に当てながら
「……フラン様用のケーキと間違えたのかしら」
 その様子、その表情を見て。『しめしめ、引っかかってる引っかかってる』と思った矢
先であった。
ぐわぁぁーーーーーーーーーーん
 私の頭上に金ダライが降ってきた。
「兎が甘いもの食べたらお腹壊すのはメイドの常識よ。全く」
 ぐ、完璧にミスディレクションだったぜ。まぁ、メイドの常識なのかどうかはかなり疑
わしいが。

 ともあれ、紅魔館へ到着する。玄関先で違和感を感じたが、それが何かが分からない。
「で、病人って誰なんだ、あの喘息持ちの本の虫か?」
「パチュリー様は相変わらず不健康だけど病人じゃないわ」
「じゃあメイドの一人か……」
「メイドでもないわね、ってあんた気づかなかったの?」
「何に気づかなかったか分からないから聞いてるんだぜ?」
「門番」
 あー、納得。私は顔パスだから、あまり意識してないからなぁ。

 美鈴の部屋。どうもここのところの急激な気温の変化(*3)に不規則な就業時間が追
い討ちをかけて、風邪をこじらせたらしい。
「と言うわけで、医者をつれてきたわ。門番が居ないからジョニーも一緒だけど」
 微妙に皮肉が入っている気がする。門番に対してなのか、それても私に対してなのか。
「咲夜、ジョニーって何だ?」
「あんたのことよ」
「いやそれは分かるが、なぜジョニー?」
「せっかく広い図書館があるんだから、自分で調べなさい」

 そんなやり取りをしている間に、永琳は手早く美鈴の状態を調べている。症状を尋ね、
そして戻ってくると咲夜に何かを相談していた。咲夜はうなづき、部屋を出て行った。
「そういえば永琳、薬持ってきてたっけ?」
「薬ならあるわよ、心配要らないわ」
 しかし実際、服に薬を入れていた様子も無い。永琳はただニヤニヤしている。
 と、さっき出て行ったメイドが紅茶を淹れて帰ってきた。永琳はそれを受け取ると、そ
の受け皿に添えられている小袋を手にとって美鈴の前に行く。
「はい、お薬よ。これを飲めば明日の朝には元気になっているはずだわ。」
 小袋の封をとき、紅茶に混ぜ、かき混ぜて差し出す。美鈴はそれを少しずつ飲む。
「飲み終わったら、ゆっくりお休みなさい。そのほうがよく効くから。それじゃ、私達は
席を外すわ」

 咲夜の先導の元、食堂へ移動する。咲夜はさっきのツケのお返しと言うことで、豪華な
夕食を振舞ってくれると言うことで腕を振るいながら台所へ消えていった。
「ところで永琳よ、あの小袋はどう見ても……」
「ええ、ただの砂糖よ」
「砂糖って薬になったっけ?」
「プラシーボ効果って言葉、知ってるかしら」
「つまり、薬は使ってないわけだな」
「厳密には紅茶そのものをカモミールで淹れてもらったから、それだけでもある程度薬に
なるんだけどね」
 さすがにそのあたりの知識に関しては、パチュリーに勝るとも劣らないかもしれない。
そして永琳は続けた。
「それに風邪には、暖かいものを飲んで汗をかいて、そしてよく寝ること。これが一番の
薬なのよ」
「へぇ、あらゆる薬を作る程度の能力が無くても十分医者でやっていける」
「もう一つ加えるなら、本当は薬に頼らず自然治癒力で直すほうがいいのよ。薬は自然治
癒力の低下、巡っては体力の低下につながるの」
 なかなか勉強になる話である。

「ふむ、ところで、私は丹の生成がうまくいかないんだが……」
「ふむ、それは……」
「お話中悪いけど、料理が出来たから冷めないうちに食べなさいな」
 タイミング良く咲夜に割り込まれた。まぁ、こんなに知識が増えたり豪華な料理が食べ
られたりと、永琳と一緒に居ると文字通り美味しいことばかりである。これは暫くは永遠
亭そして永琳を尋ねるのがいいかもしれない。
 料理も平らげ終わったところで、永琳が切り出す。
「それじゃ今日はこのあたりで帰るわ。ご馳走様でした、咲夜」
「こちらこそ美鈴を見てもらってありがとう。お土産のケーキよ、今度は2つ入ってるか
ら輝夜と食べてね」
「ありがとう、それではごきげんよう。」
「おう、またそのうち遊びに行くぜ」
 紅魔館を経つ永琳。そして私も出発しようとする。
「私のは無いのか?」
「もちろん無いわ。ああ、魔理沙、先に言い忘れていたけど」
「何だね急に」
「この料理のツケ、魔理沙には貰ってないわよね?」
 ……ぐわ、気づかれた。とっとと逃げ……
ごわぁぁぁぁぁぁぁぁん
 また金ダライかよ。

 というわけで、日がどっぷり暮れるまで紅魔館で雑用と相成ったわけで。まぁ、割と充
実した一日で楽しかったけど。


(*1)あー、いつのまにかTHBBQまでほんの少し絡んでる。うわぁ。
(*2)兎に薬を飲ませるとき、甘いものと薬を混ぜるのはよくある手法、らしい。
(*3)書いている本人も、実はそれで微妙に風邪気味orz 皆さんも気をつけて
 卑怯だとは思いつつも、後付けでオチをつけました。といってもこの展開、今日の起床
(またかよ)に閃いたものなんですよマジで半分ぐらい。ちょっとだけ弄ったら前回の落
ちてないアレに接続できそうだという閃きにさらに接続されるまで30分程度でした。
 実は水曜日の晩からぼちぼち書いていたのがあるのですが、そいつはちょいと事情もあ
り、途中で書きかけたままこっちを執筆することに。タイトル「月光祭」……鋭い人は元
ネタ分かるかも、実はこっちもオチて無いっつー致命的欠陥を抱えてたのが原因。ただ、
週1のペースを崩したくなかったので、前回もあの形でやや無理やり出したわけで。でも、
スランプ中にでも駄目駄目ヘタレといいながらそのとき書けるものを発表できるようにな
ったのは少しだけ進歩なのか。2~3週間ぐらい平気でかけなかった時期もあったしなぁ。

 とりあえず、咲夜と魔理沙の漫才らヴ。なんで永は咲夜霊夢なんだよ(泣

 っつーか、今回のでもちゃんと落ちてるかどうか不安。それと、閃いたときはもうちょ
っと違うアイディアだったのですが、それは形を変えて近いうちに。というか、さらに書
いているうちに一つ閃く馬鹿がここに。うわーん(うれしい悲鳴)。
 ちなみに、自分は自然治癒力に自信があるので、薬はめったに飲みません。

むしろ処方されても飲むのを忘れる馬鹿:ほなみん
Honami.Y
[email protected]
http://www8.plala.or.jp/ganesh/
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コメント



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20.無評価いち読者削除
 ちゃんとオチてますよ、タライとかタライとか(笑)。しかしなるほど、時を止める能力はタライ設置のためにあったのですね(違)。

 自身の自然治癒力を過信して薬を飲まず、症状を長引かせる馬鹿:いち読者
21.80アルト・フリューゲル削除
 いや、笑わせて頂きました。成る程時を止めるとはこういうk(タライ

 自然治癒力は高いと過信して無茶をして悪化させるたわけ:アルト・フリューゲル
22.60名前が無い程度の能力削除
時間を止めてタライを設置する咲夜さんの姿を想像してしまったw