「邪魔するぜ、パチュリー」
いつもより早めの時間に、いつもより静かに魔理沙はヴワル図書館に来た。
理由は勿論、いつものように魔道書を借りて行く(そして延滞する)つもりだ。
しかし同じ日が存在しないように、今日のヴワル図書館はいつもと違っていた。その日は魔理沙の他に客がいた。
「黒くて騒がしいのが来たわね…」
「あっ魔理沙だ」
前者はヴワル図書館の司書であるパチュリーのものだ。後者はこれまた珍しいというか、あまりにも予想外の存在だった。
フランドール=スカーレット…ここ、紅魔館の主、レミリア=スカーレットの妹だ。
二人は何故か同じ机に本を広げていた。その他にも色々と筆記用具が机上に転がっている。しかもパチュリーに至っては、眼鏡をかけている。
「おっすパチュリー、本を返しに来たぜ。フランドールも久しぶりだな。みょんなとこで会うな」
「みょん?」
「みょんなとこって何よ…」
「何だ、知らないのか?」
二人の疑問の(片方は若干冷めた)視線に対し、どこか得意気な魔理沙。
「『みょんな』っていうのはな、(ry…なんだ。あぁ、未だ辞書には載ってないぜ。出来たのはつい最近だからな」
「ふぇ~そうなんだ」
フランドールの羨望のような眼差しとは対照的な眼差しを送るパチュリー。
「魔理沙、それは造語って言うものよ。知らなくて当然。意味も正しくないわ。フランドール様も、メモをとらなくて結構ですから…」
メモをとっているフランドールをたしなめる。
「まぁ、パチュリーの言う通りだけどな…んで、だ。みょんな所で何やってたんだ?」
「見ての通りよ。フランドール様の勉強を見ていたの」
「そうなのか?」
「そうなの。パチュリー…じゃなかった、先生に文字を教えてもらってたところ」
「…『先生』?」
魔理沙はフランドールからパチュリーに視線を移すと、ちょうどパチュリーの視線とぶつかった。
「…何?」
パチュリーは半眼で睨んでくるが、
「…照れてるのか?」
頬が少し赤かった。
「違うわよ…って何よ、その『面白いもの』を見るような目は?」
「いや、この目は『珍しいもの』を見る目だぜ」
「何よそれ?」
「言葉通りだぜ、パチュリー先生」
魔理沙の言葉に嘘は無い。パチュリー『先生』なんてそう見られるものではない。
「にしても、パチュリーって眼鏡を使ってたか?」
魔理沙の問いに、パチュリーは
「えぇ…そういえば、魔理沙の前では初めてだったかしら?」
「多分そうだぜ。にしてもあれだな」
「なに?」
「似合っているぜ、パチュリー」
そう言って、微笑む魔理沙。別にお世辞で言っているわけではない。思ったままを口にしただけだ。
「…そう…」
パチュリーはボソッと呟く。そこには何の感嘆も無いように感じるが…嬉しそうに見えるのは、魔理沙の気のせいではないだろう。
「それにしてもパチュリーが先生か…これが感無量ってやつか…」
魔理沙が感慨深そうに呟く。
「何でよ…正確には『家庭教師』よ。レミィに頼まれたの」
「そうだったのか。なるほど…それで、だ」
この話はここまでだと、強引に話を戻す。
「ひょっとしなくても勉強中だったようだな…邪魔しちゃったか?」
少し気まずそうに魔理沙。
「あら、『邪魔』する気だったんじゃないの?『邪魔するぜ』って言ってたじゃない」
「それは言葉のアヤってやつだ」
「分かってるわよ」
しれっとパチュリー。フランドールは話に着いていけず、おろおろしている。パチュリーは、軽くため息を吐く。
「まぁ、いいわ。ちょうど一息入れようとしていたところだし…」
「何だいいタイミングだったのか」
「偶然…だけどね。それじゃあ咲夜にお茶を頼んでくるわ。返す本はそこの棚に入れておいて。あとで戻すから」
「はいよ」
「せんせ~私は…」
「フランドール様はしばらくお待ち下さい。続きは休憩後に致します」
「は~い分かりました」
パチュリーが背を向けると同時に魔理沙が声をかける。
「あっそうだパチュリー、お茶は…」
「あなたの分も頼んどくわ」
「さんきゅ」
そう言ってパチュリーは図書館から出て行った。後に残ったのは魔理沙とフランドール。
魔理沙はフランドールの隣に腰をおろす。とフランドールが飛びつくような勢いで、話し掛けてくる。
「ねぇねぇ魔理沙。何か面白いお話をして。前みたいにさ」
「ん、あぁいいぜ…前はどんな話をしたっけか?」
「ん~と…魔界に行ったお話だったと思う」
「そうだったか?それじゃあどんな話をしようか…」
しばし悩む魔理沙…と何かを閃いたらしく、フランドールに向き直る。
「そうだな…フランドール、私はお前さんの話が聞きたいな」
「え、私の?」
驚くフランドール。魔理沙は頷き、続ける。
「とは言っても昔の話じゃなくて、つい最近の…そうだな、私達に会った後からがいいな。色々とあっただろ?」
フランドールは額に指を当て、色々と思い出そうとする。
「…そうかもしれない。お姉様は最近よく出かけているし、咲夜は前より忙しそうで…」
何やら色々と思い出したようだ。魔理沙は頬をかきながら、
「あぁ、すまん…言葉が悪かったな。私が聞いているのは、『フランドール』のことなんだ」
「私?」
「そうだぜ。何か変わっただろ?」
問われて、考え込むフランドール。そんな彼女を見て、思わず苦笑する魔理沙。
「そう難しく考えなくてもいいぜ。そうだな…なんでパチュリーが家庭教師をやっているんだ?」
先ほどのパチュリー『先生』について尋ねる。
「えぇっと…私がお姉様に『外に出たい』って言ったの」
「…」
魔理沙の眉が、僅かに上がる。
「そうしたらお姉様に反対されちゃって…それで…」
「あぁ…ちょっといいか、フランドール」
魔理沙が待ったをかける。
「何で『外に出たい』って思ったんだ?」
魔理沙は以前レミリアに尋ねたことがあった。
『どうしてフランドールは長いことあそこにいたんだ?』
フランドールは495年程、紅魔館の地下室に幽閉されていた。一度だけ、魔理沙はその地下室に行ったことがあった。そして不自然な点に気が付いた。
『あんな結界じゃフランドールを封じられないだろ?』
そう、地下室に施されていた結界は、フランドールの力を封じるほど強いものではなかった。魔理沙でも、ちょいと気合を入れれば破れる程度のものだった。
そんな魔理沙の問いに、レミリアはこう答えた。
『あの結界は内部ではなく、外部用なのよ。フランの力を封じるんじゃなくて、フランの力を外部に漏らさないように張ったの』
それでは意味がない。内部に作用しないなら、フランドールが外に出ようと思えば、何時でも出られるということになる。その質問に対し、レミリアはどこか愁いを帯びた表情を浮かべた。
『そうね…フランには私との約束があるのよ。『外には出ようと思わない』って約束したの…だからかしら?』
魔理沙はそれ以上尋ねるのを止めた。これ以上は踏み込んではならない気がしたからだ。それ以上に…レミリアの見せたあの表情が忘れられなかった。
「あのね…魔理沙たちと会ってからなの」
フランドールの言葉が魔理沙を現実に呼び戻した。
「魔理沙たちと会って…それから外に興味が出てきたの」
「私たちと会ってから?」
「うん。私はお姉様との約束があるから、外に出ようとは思わなかったの。それに、私は今までに人間に会ったことがほとんどないし…それまで人間は『食料』としか思ってなかった。でも魔理沙たちがお姉様に勝ったときに思ったの。『人間って何なのかな?』って。私は、人間をちっぽけな存在だと思っていたのに、お姉様はソレに負けた。そのときかな、興味を持ったのは…」
どこか遠いところを見ているようなフランドール。
そんな昔のことではないが、フランドールにとっては衝撃的なことだったのだろう。
「その後は…魔理沙も知っているとおりだよ」
「なるほど、そうだったのか…」
「うん。それでね、お姉様に、どうしても外に出たいって言ったの。そうしたらね、お姉様が『パチェのところで勉強しなさい』って…」
「そっか…『勉強』な…」
レミリアの言う勉強とはおそらく『一般的な知識』…そして『力の制御』だろう。
フランドールの力は凄まじい。その分、制御は難しいだろう。しかし
「頑張れよ、フランドール。お前さんなら大丈夫だ」
フランドールは頑張っている。だから、必ず成し遂げられる。そう思える。いや信じている。
努力は報われるものだ。魔理沙はそう信じている。だから…頑張れる。
「うん、私頑張る」
無邪気に微笑むフランドール。そんなフランドールの頭を撫でると、フランドールは嬉しそうに目を細めた。
「そういやフランドール、お前さんの気付いていない事が一つあるぜ」
「え、なに?」
興味津々といった感じで食いついてくる。
「お前さん、名前で呼ばれていただろ?」
「え、名前?」
フランドールは目を丸くした。
「そうだぜ。パチュリーがさっき言ったじゃないか。『フランドール様』って。前までは『妹様』だったろ?」
「え…あ…そう…なの?」
「何だ、やっぱり気が付いてなかったのか」
やっぱりな、と魔理沙。
「そういえば…そうかも。咲夜も、最近は私のことを『フランドール様』って呼ぶよ」
「な、そうだろ」
魔理沙は、にっと笑顔を浮かべる。フランドールは、
「でも…どうして皆は私のことを『フランドール様』って呼ぶんだろ?」
「何だ、嫌なのか?」
「ちっ違うよ!ただ…慣れないだけ。今まで『妹様』だったから…」
フランドールは気恥ずかしそうに呟く。魔理沙はふぅ、と一息ついてフランドールに向き直る。
「なぁフランドール…どうして皆が名前で呼ぶか…分かるか?」
魔理沙の問いに、フランドールは首を横に振る。
「ううん…分かんない。どうして?」
魔理沙を覗き込むフランドールの紅い瞳。そこにあるのは、幼い子供と同じ輝きだった。
「それは、お前さんが…『フランドール=スカーレット』が認められたってことだろ」
「…え?」
目を見開くフランドール。
「あくまでも、これは私の考えだ」
「…」
フランドールは黙ったままだ。
「名前で呼ばれるってのは、そういう意味もある…と私は思うぜ」
「……」
「名前ってのは大切なモノだ。それは私が私であること…『霧雨魔理沙』である一種の証みたいなものだ。全ての者に与えられるもの…それが『名前』ってやつだ」
「………」
「今までは、『レミリアの妹』と見られていたかもしれないが…今は『フランドール』として見られているってことだろ。それは…」
「魔理…沙」
「…っとちょいと難しかったか?」
魔理沙がフランドールの方に向き直ると
「…フランドール?」
ツ―
フランドールの頬に一筋の雫が流れる。
「え、あっあれ…どうしたんだろ…目から…水が流れてる…」
フランドールは自分に何が起こったのか、全く解らないようだ。
「ねぇ、魔理沙…コレ、何?」
「それはな…『涙』っていうんだ」
「『涙』?…魔理沙、どうして『涙』が流れるの?」
流れる涙を拭うことなく、魔理沙に問い掛ける。魔理沙は優しく微笑み、答える。
「それはな、嬉しいからだぜ」
「嬉しい?私…涙って悲しいときにしか流れないと思っていた。違うの?それとも…私、壊れちゃったの?」
魔理沙はフランドールの涙を、懐から出したハンカチで拭いながら答える。
「それは半分当たりで、半分は間違う。涙ってヤツは厄介でな…悲しいときだけでなく、嬉しいときにも流れてくるんだぜ」
「そう…なの?」
「あぁ。涙は…そうだな、感情が溢れ出したようなものだ。とても悲しいとき、嬉しいとき…自分で自分の感情が制御できないとき、涙は流れるんだ」
「私…わた…し」
フランドールは初めての感情に戸惑っていた。
「ね…魔理…沙…わ…たし…どうし…た…ら…」
魔理沙は、
きゅ―
「…え?」
フランドールを無言で抱きしめた。
「魔理…」
「泣いちまえ」
魔理沙が言った。
「泣きたいときは、思いっきり泣いちまえ。涙ってのはな、我慢するモノじゃない…流すモノなんだ。涙と一緒に胸の中のモノを全部吐き出して、すっきりしちゃえよ」
「…」
魔理沙の声が、鼓動がすぐ耳元で聞こえる。
「すっきりしたら…きっと笑えるから、な?」
「ぅ…ぁ…」
「私の胸なら、いくらでも貸してやる…」
誰にだって泣きたいときがある。悲しいとき、嬉しいとき…誰かに傍にいてもらいたいときがある。
ただそれだけのこと…
「ひ…っく…ぅ…ぁ…あ…」
フランドールは…少しだけ泣いた。
「…落ち着いたか、フランドール?」
「うん…魔理沙、ありがとう」
泣き腫らした瞳で魔理沙を見つめる。
「どうだ、すっきりしただろ?」
「うん、すっきりした」
「そうか…良かったぜ」
にっと笑う魔理沙。つられてフランドールも笑う。と、魔理沙の服を見て、あっと声をあげる。
「魔理沙…ごめんなさい。洋服、濡らしちゃった」
「ん?あぁ、これなら平気だぜ」
フランドールが心配するほど、濡れていたわけではない。この位ならすぐに乾く。
「それにしても…パチュリーのやつ遅いな…干乾びたか?」
「それはないと思うけど…私が様子を見てこようか?」
「あ~それは止めといた方が…」
と、図書館の入り口が開き、パチュリーが入ってくる。何故か咲夜の姿は無い。
魔理沙が尋ねようとしたとき、パチュリーが口を開く。
「忘れていたわ…今日は咲夜もレミィもいないってことを…」
開口一番がそれだった。
「レミリアとメイド長がいない?あぁ、あそこに行ったのかもな」
魔理沙の言うあそことは、もちろん博麗神社のことだ。パチュリーは頷き、
「えぇ、書置きがあったわ。でもお茶菓子を置いていくあたり、流石は咲夜ね」
「先生、今日のお菓子は何だったの?」
待ちきれない様子のフランドール。
「今日のお茶菓子は、笹団子でした」
「ささだんご?」
「はい、蓬団子を笹で包んだものですね」
パチュリーは魔理沙に向き直る。
「ねぇ魔理沙、申し訳ないけど…お茶を煎れてもらえるかしら?」
「あ、私がか?」
「えぇ。私じゃ上手く煎れられないし…」
気恥ずかしそうにパチュリー。魔理沙はしばし考え
「そうだな…なら皆で一緒に煎れるか?」
『え?』
突然の提案に驚く魔女と吸血鬼。
「上手く煎れるにはコツがあるんだ。一度覚えれば、あとは何とかなるもんだ。フランドールもやってみたいか?」
「うん、やってみたい」
一も二もなく頷く。魔理沙も満足そうに頷く。
「決まりだな。それじゃあ休憩の前に家庭科の時間にしますか、パチュリー先生?」
「そうね…それじゃあキッチンに行きましょうか」
パチュリーは図書館の出口に向かい、思い出したように。
「フランドール様、くれぐれもお気を付けてください。本日の天気は快晴なので、日差しは強いですよ」
フランドールに向き直り、注意を促す。と、そこには
「…どうかされましたか?」
「え…ううん何でもない」
慌てて首を横に振るフランドール。パチュリーは魔理沙に手招きし、そっと耳打ちをした。
「…魔理沙、フランドール様に何があったの?」
「何って…そう特別なことはなかったぜ。どうしたんだ?」
「どうって…あんなに嬉しそうに笑っていらっしゃるフランドール様は初めて見たわ」
魔理沙はしばし考え、
「なぁ、パチュリー…お前さんも気が付いてないのか?」
「…何をよ?」
本気で言っているようだ。ひょっとしたら、パチュリーのことだから気が付いているのかもしれないが…魔理沙は黙っておくことにした。
「まぁいいじゃないか」
「?」
「フランドールが喜んでくれている。笑ってくれている…それだけで十分じゃないか?」
「…それもそうね」
苦笑とも取れそうだが、確かにパチュリーは笑った。
「魔理沙~、せんせ~、早く行こうよ~!」
フランドールが図書館の入り口から手を振っている。それを見て、思わず苦笑する魔法使いと魔女。
「それでは行きましょうか、魔理沙『先生』?」
「今度は私が先生か?」
「えぇ、家庭科は私の担当ではないわ」
「はいよ…それじゃあ行こうか」
そして、魔理沙達は図書館からキッチンへ向かった。
その後、咲夜の作った笹団子に舌鼓を打ちながら、しばらく談笑した。
「…それではフランドール様、お勉強の続きと参りましょうか」
「は~い」
「ん、そうなのか。それじゃあ私はそろっと帰るとするか」
「…もう帰っちゃうの?」
フランドールは残念そうに呟く。魔理沙は苦笑し、
「まぁそう言ってくれるな…また明日にでも来るから」
「え、ほんと?」
「あぁ、約束するぜ」
「うん、約束!」
フランドールは嬉しそうにはしゃぐ。パチュリーが席を立った。
「見送りしないのも何だから、玄関まで送るわ」
「おっ、すまんな」
「気にしないでいいわよ。お茶の淹れ方も教えてもらったし…」
「そうか…私としては、魔道書を何冊か借りたいんだが…」
「借りたいのなら、早く借りている本を全部返す」
「…善処するぜ」
魔理沙は頬をかきながら席を立つ。続いてフランドールも席を立つ。どうやら一緒に来てくれるようだ。
紅魔館の玄関―ロビーに着いた。フランドールは日光を浴びるわけにはいかないので、ここで別れることになる。
「ねぇ、魔理沙」
フランドールが小さな声で尋ねる。
「なんだ?」
「どうして…魔理沙は私のことを名前で呼んでくれたの?」
初めて魔理沙がフランドールに会ったときは『妹君』と呼んだが、それ以降はずっと名前で呼んでいた。
「あぁ、そのことか…理由は単純だぜ」
「え?」
「私にとって、お前さんは最初っから『フランドール=スカーレット』だから…だぜ」
「?」
「つまり…レミリアの妹だとかは関係ない。お前さんはお前さんだってことだ」
多分あいつにとってもな…と呟く魔理沙。あいつとは勿論、博霊神社の巫女のことだ。
「…ん、 よく解んない…でも…」
フランドールは満面の笑顔で答えた。
「とっても…嬉しいよ」
「そうか、それは何よりだぜ」
つられて笑う魔理沙。そんな二人を、不振な目で見つめるパチュリー。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな」
「…まぁいいわ。それじゃあね、魔理沙。必要ないと思うけど、気をつけて」
「魔理沙、また明日ね~」
静かに見送るパチュリーと、手を振っているフランドール。
「あぁ、またな」
そんな二人を背中に、魔理沙は颯爽とロビーを出て行った。
「魔理沙…帰っちゃったね」
「はい…」
「せんせ~…魔理沙がいなくなって寂しい?」
フランドールの問いに、パチュリーはしばし考え…
「…そうでもないですね」
「そうなの?」
「また明日も来るようですし…寂しいなんて、思うだけ無駄です」
そう言ってパチュリーは笑った。
「そっか…そうだね」
「えぇ…それでは図書館に戻りましょうか」
「はい、せんせ~」
「…にしてもな…」
紅魔館から飛び出てしばらくして魔理沙は、誰に言うわけでもなく呟いた。
「今日はいろいろあって疲れたぜ」
紅魔館であったこと思い返す…確かに疲れたが…
(まぁ、悪くはなかったな)
魔理沙はそう思った。
平穏だけど、どこか騒がしい…そんな一日が続くことを、魔理沙は願った。
いつもより早めの時間に、いつもより静かに魔理沙はヴワル図書館に来た。
理由は勿論、いつものように魔道書を借りて行く(そして延滞する)つもりだ。
しかし同じ日が存在しないように、今日のヴワル図書館はいつもと違っていた。その日は魔理沙の他に客がいた。
「黒くて騒がしいのが来たわね…」
「あっ魔理沙だ」
前者はヴワル図書館の司書であるパチュリーのものだ。後者はこれまた珍しいというか、あまりにも予想外の存在だった。
フランドール=スカーレット…ここ、紅魔館の主、レミリア=スカーレットの妹だ。
二人は何故か同じ机に本を広げていた。その他にも色々と筆記用具が机上に転がっている。しかもパチュリーに至っては、眼鏡をかけている。
「おっすパチュリー、本を返しに来たぜ。フランドールも久しぶりだな。みょんなとこで会うな」
「みょん?」
「みょんなとこって何よ…」
「何だ、知らないのか?」
二人の疑問の(片方は若干冷めた)視線に対し、どこか得意気な魔理沙。
「『みょんな』っていうのはな、(ry…なんだ。あぁ、未だ辞書には載ってないぜ。出来たのはつい最近だからな」
「ふぇ~そうなんだ」
フランドールの羨望のような眼差しとは対照的な眼差しを送るパチュリー。
「魔理沙、それは造語って言うものよ。知らなくて当然。意味も正しくないわ。フランドール様も、メモをとらなくて結構ですから…」
メモをとっているフランドールをたしなめる。
「まぁ、パチュリーの言う通りだけどな…んで、だ。みょんな所で何やってたんだ?」
「見ての通りよ。フランドール様の勉強を見ていたの」
「そうなのか?」
「そうなの。パチュリー…じゃなかった、先生に文字を教えてもらってたところ」
「…『先生』?」
魔理沙はフランドールからパチュリーに視線を移すと、ちょうどパチュリーの視線とぶつかった。
「…何?」
パチュリーは半眼で睨んでくるが、
「…照れてるのか?」
頬が少し赤かった。
「違うわよ…って何よ、その『面白いもの』を見るような目は?」
「いや、この目は『珍しいもの』を見る目だぜ」
「何よそれ?」
「言葉通りだぜ、パチュリー先生」
魔理沙の言葉に嘘は無い。パチュリー『先生』なんてそう見られるものではない。
「にしても、パチュリーって眼鏡を使ってたか?」
魔理沙の問いに、パチュリーは
「えぇ…そういえば、魔理沙の前では初めてだったかしら?」
「多分そうだぜ。にしてもあれだな」
「なに?」
「似合っているぜ、パチュリー」
そう言って、微笑む魔理沙。別にお世辞で言っているわけではない。思ったままを口にしただけだ。
「…そう…」
パチュリーはボソッと呟く。そこには何の感嘆も無いように感じるが…嬉しそうに見えるのは、魔理沙の気のせいではないだろう。
「それにしてもパチュリーが先生か…これが感無量ってやつか…」
魔理沙が感慨深そうに呟く。
「何でよ…正確には『家庭教師』よ。レミィに頼まれたの」
「そうだったのか。なるほど…それで、だ」
この話はここまでだと、強引に話を戻す。
「ひょっとしなくても勉強中だったようだな…邪魔しちゃったか?」
少し気まずそうに魔理沙。
「あら、『邪魔』する気だったんじゃないの?『邪魔するぜ』って言ってたじゃない」
「それは言葉のアヤってやつだ」
「分かってるわよ」
しれっとパチュリー。フランドールは話に着いていけず、おろおろしている。パチュリーは、軽くため息を吐く。
「まぁ、いいわ。ちょうど一息入れようとしていたところだし…」
「何だいいタイミングだったのか」
「偶然…だけどね。それじゃあ咲夜にお茶を頼んでくるわ。返す本はそこの棚に入れておいて。あとで戻すから」
「はいよ」
「せんせ~私は…」
「フランドール様はしばらくお待ち下さい。続きは休憩後に致します」
「は~い分かりました」
パチュリーが背を向けると同時に魔理沙が声をかける。
「あっそうだパチュリー、お茶は…」
「あなたの分も頼んどくわ」
「さんきゅ」
そう言ってパチュリーは図書館から出て行った。後に残ったのは魔理沙とフランドール。
魔理沙はフランドールの隣に腰をおろす。とフランドールが飛びつくような勢いで、話し掛けてくる。
「ねぇねぇ魔理沙。何か面白いお話をして。前みたいにさ」
「ん、あぁいいぜ…前はどんな話をしたっけか?」
「ん~と…魔界に行ったお話だったと思う」
「そうだったか?それじゃあどんな話をしようか…」
しばし悩む魔理沙…と何かを閃いたらしく、フランドールに向き直る。
「そうだな…フランドール、私はお前さんの話が聞きたいな」
「え、私の?」
驚くフランドール。魔理沙は頷き、続ける。
「とは言っても昔の話じゃなくて、つい最近の…そうだな、私達に会った後からがいいな。色々とあっただろ?」
フランドールは額に指を当て、色々と思い出そうとする。
「…そうかもしれない。お姉様は最近よく出かけているし、咲夜は前より忙しそうで…」
何やら色々と思い出したようだ。魔理沙は頬をかきながら、
「あぁ、すまん…言葉が悪かったな。私が聞いているのは、『フランドール』のことなんだ」
「私?」
「そうだぜ。何か変わっただろ?」
問われて、考え込むフランドール。そんな彼女を見て、思わず苦笑する魔理沙。
「そう難しく考えなくてもいいぜ。そうだな…なんでパチュリーが家庭教師をやっているんだ?」
先ほどのパチュリー『先生』について尋ねる。
「えぇっと…私がお姉様に『外に出たい』って言ったの」
「…」
魔理沙の眉が、僅かに上がる。
「そうしたらお姉様に反対されちゃって…それで…」
「あぁ…ちょっといいか、フランドール」
魔理沙が待ったをかける。
「何で『外に出たい』って思ったんだ?」
魔理沙は以前レミリアに尋ねたことがあった。
『どうしてフランドールは長いことあそこにいたんだ?』
フランドールは495年程、紅魔館の地下室に幽閉されていた。一度だけ、魔理沙はその地下室に行ったことがあった。そして不自然な点に気が付いた。
『あんな結界じゃフランドールを封じられないだろ?』
そう、地下室に施されていた結界は、フランドールの力を封じるほど強いものではなかった。魔理沙でも、ちょいと気合を入れれば破れる程度のものだった。
そんな魔理沙の問いに、レミリアはこう答えた。
『あの結界は内部ではなく、外部用なのよ。フランの力を封じるんじゃなくて、フランの力を外部に漏らさないように張ったの』
それでは意味がない。内部に作用しないなら、フランドールが外に出ようと思えば、何時でも出られるということになる。その質問に対し、レミリアはどこか愁いを帯びた表情を浮かべた。
『そうね…フランには私との約束があるのよ。『外には出ようと思わない』って約束したの…だからかしら?』
魔理沙はそれ以上尋ねるのを止めた。これ以上は踏み込んではならない気がしたからだ。それ以上に…レミリアの見せたあの表情が忘れられなかった。
「あのね…魔理沙たちと会ってからなの」
フランドールの言葉が魔理沙を現実に呼び戻した。
「魔理沙たちと会って…それから外に興味が出てきたの」
「私たちと会ってから?」
「うん。私はお姉様との約束があるから、外に出ようとは思わなかったの。それに、私は今までに人間に会ったことがほとんどないし…それまで人間は『食料』としか思ってなかった。でも魔理沙たちがお姉様に勝ったときに思ったの。『人間って何なのかな?』って。私は、人間をちっぽけな存在だと思っていたのに、お姉様はソレに負けた。そのときかな、興味を持ったのは…」
どこか遠いところを見ているようなフランドール。
そんな昔のことではないが、フランドールにとっては衝撃的なことだったのだろう。
「その後は…魔理沙も知っているとおりだよ」
「なるほど、そうだったのか…」
「うん。それでね、お姉様に、どうしても外に出たいって言ったの。そうしたらね、お姉様が『パチェのところで勉強しなさい』って…」
「そっか…『勉強』な…」
レミリアの言う勉強とはおそらく『一般的な知識』…そして『力の制御』だろう。
フランドールの力は凄まじい。その分、制御は難しいだろう。しかし
「頑張れよ、フランドール。お前さんなら大丈夫だ」
フランドールは頑張っている。だから、必ず成し遂げられる。そう思える。いや信じている。
努力は報われるものだ。魔理沙はそう信じている。だから…頑張れる。
「うん、私頑張る」
無邪気に微笑むフランドール。そんなフランドールの頭を撫でると、フランドールは嬉しそうに目を細めた。
「そういやフランドール、お前さんの気付いていない事が一つあるぜ」
「え、なに?」
興味津々といった感じで食いついてくる。
「お前さん、名前で呼ばれていただろ?」
「え、名前?」
フランドールは目を丸くした。
「そうだぜ。パチュリーがさっき言ったじゃないか。『フランドール様』って。前までは『妹様』だったろ?」
「え…あ…そう…なの?」
「何だ、やっぱり気が付いてなかったのか」
やっぱりな、と魔理沙。
「そういえば…そうかも。咲夜も、最近は私のことを『フランドール様』って呼ぶよ」
「な、そうだろ」
魔理沙は、にっと笑顔を浮かべる。フランドールは、
「でも…どうして皆は私のことを『フランドール様』って呼ぶんだろ?」
「何だ、嫌なのか?」
「ちっ違うよ!ただ…慣れないだけ。今まで『妹様』だったから…」
フランドールは気恥ずかしそうに呟く。魔理沙はふぅ、と一息ついてフランドールに向き直る。
「なぁフランドール…どうして皆が名前で呼ぶか…分かるか?」
魔理沙の問いに、フランドールは首を横に振る。
「ううん…分かんない。どうして?」
魔理沙を覗き込むフランドールの紅い瞳。そこにあるのは、幼い子供と同じ輝きだった。
「それは、お前さんが…『フランドール=スカーレット』が認められたってことだろ」
「…え?」
目を見開くフランドール。
「あくまでも、これは私の考えだ」
「…」
フランドールは黙ったままだ。
「名前で呼ばれるってのは、そういう意味もある…と私は思うぜ」
「……」
「名前ってのは大切なモノだ。それは私が私であること…『霧雨魔理沙』である一種の証みたいなものだ。全ての者に与えられるもの…それが『名前』ってやつだ」
「………」
「今までは、『レミリアの妹』と見られていたかもしれないが…今は『フランドール』として見られているってことだろ。それは…」
「魔理…沙」
「…っとちょいと難しかったか?」
魔理沙がフランドールの方に向き直ると
「…フランドール?」
ツ―
フランドールの頬に一筋の雫が流れる。
「え、あっあれ…どうしたんだろ…目から…水が流れてる…」
フランドールは自分に何が起こったのか、全く解らないようだ。
「ねぇ、魔理沙…コレ、何?」
「それはな…『涙』っていうんだ」
「『涙』?…魔理沙、どうして『涙』が流れるの?」
流れる涙を拭うことなく、魔理沙に問い掛ける。魔理沙は優しく微笑み、答える。
「それはな、嬉しいからだぜ」
「嬉しい?私…涙って悲しいときにしか流れないと思っていた。違うの?それとも…私、壊れちゃったの?」
魔理沙はフランドールの涙を、懐から出したハンカチで拭いながら答える。
「それは半分当たりで、半分は間違う。涙ってヤツは厄介でな…悲しいときだけでなく、嬉しいときにも流れてくるんだぜ」
「そう…なの?」
「あぁ。涙は…そうだな、感情が溢れ出したようなものだ。とても悲しいとき、嬉しいとき…自分で自分の感情が制御できないとき、涙は流れるんだ」
「私…わた…し」
フランドールは初めての感情に戸惑っていた。
「ね…魔理…沙…わ…たし…どうし…た…ら…」
魔理沙は、
きゅ―
「…え?」
フランドールを無言で抱きしめた。
「魔理…」
「泣いちまえ」
魔理沙が言った。
「泣きたいときは、思いっきり泣いちまえ。涙ってのはな、我慢するモノじゃない…流すモノなんだ。涙と一緒に胸の中のモノを全部吐き出して、すっきりしちゃえよ」
「…」
魔理沙の声が、鼓動がすぐ耳元で聞こえる。
「すっきりしたら…きっと笑えるから、な?」
「ぅ…ぁ…」
「私の胸なら、いくらでも貸してやる…」
誰にだって泣きたいときがある。悲しいとき、嬉しいとき…誰かに傍にいてもらいたいときがある。
ただそれだけのこと…
「ひ…っく…ぅ…ぁ…あ…」
フランドールは…少しだけ泣いた。
「…落ち着いたか、フランドール?」
「うん…魔理沙、ありがとう」
泣き腫らした瞳で魔理沙を見つめる。
「どうだ、すっきりしただろ?」
「うん、すっきりした」
「そうか…良かったぜ」
にっと笑う魔理沙。つられてフランドールも笑う。と、魔理沙の服を見て、あっと声をあげる。
「魔理沙…ごめんなさい。洋服、濡らしちゃった」
「ん?あぁ、これなら平気だぜ」
フランドールが心配するほど、濡れていたわけではない。この位ならすぐに乾く。
「それにしても…パチュリーのやつ遅いな…干乾びたか?」
「それはないと思うけど…私が様子を見てこようか?」
「あ~それは止めといた方が…」
と、図書館の入り口が開き、パチュリーが入ってくる。何故か咲夜の姿は無い。
魔理沙が尋ねようとしたとき、パチュリーが口を開く。
「忘れていたわ…今日は咲夜もレミィもいないってことを…」
開口一番がそれだった。
「レミリアとメイド長がいない?あぁ、あそこに行ったのかもな」
魔理沙の言うあそことは、もちろん博麗神社のことだ。パチュリーは頷き、
「えぇ、書置きがあったわ。でもお茶菓子を置いていくあたり、流石は咲夜ね」
「先生、今日のお菓子は何だったの?」
待ちきれない様子のフランドール。
「今日のお茶菓子は、笹団子でした」
「ささだんご?」
「はい、蓬団子を笹で包んだものですね」
パチュリーは魔理沙に向き直る。
「ねぇ魔理沙、申し訳ないけど…お茶を煎れてもらえるかしら?」
「あ、私がか?」
「えぇ。私じゃ上手く煎れられないし…」
気恥ずかしそうにパチュリー。魔理沙はしばし考え
「そうだな…なら皆で一緒に煎れるか?」
『え?』
突然の提案に驚く魔女と吸血鬼。
「上手く煎れるにはコツがあるんだ。一度覚えれば、あとは何とかなるもんだ。フランドールもやってみたいか?」
「うん、やってみたい」
一も二もなく頷く。魔理沙も満足そうに頷く。
「決まりだな。それじゃあ休憩の前に家庭科の時間にしますか、パチュリー先生?」
「そうね…それじゃあキッチンに行きましょうか」
パチュリーは図書館の出口に向かい、思い出したように。
「フランドール様、くれぐれもお気を付けてください。本日の天気は快晴なので、日差しは強いですよ」
フランドールに向き直り、注意を促す。と、そこには
「…どうかされましたか?」
「え…ううん何でもない」
慌てて首を横に振るフランドール。パチュリーは魔理沙に手招きし、そっと耳打ちをした。
「…魔理沙、フランドール様に何があったの?」
「何って…そう特別なことはなかったぜ。どうしたんだ?」
「どうって…あんなに嬉しそうに笑っていらっしゃるフランドール様は初めて見たわ」
魔理沙はしばし考え、
「なぁ、パチュリー…お前さんも気が付いてないのか?」
「…何をよ?」
本気で言っているようだ。ひょっとしたら、パチュリーのことだから気が付いているのかもしれないが…魔理沙は黙っておくことにした。
「まぁいいじゃないか」
「?」
「フランドールが喜んでくれている。笑ってくれている…それだけで十分じゃないか?」
「…それもそうね」
苦笑とも取れそうだが、確かにパチュリーは笑った。
「魔理沙~、せんせ~、早く行こうよ~!」
フランドールが図書館の入り口から手を振っている。それを見て、思わず苦笑する魔法使いと魔女。
「それでは行きましょうか、魔理沙『先生』?」
「今度は私が先生か?」
「えぇ、家庭科は私の担当ではないわ」
「はいよ…それじゃあ行こうか」
そして、魔理沙達は図書館からキッチンへ向かった。
その後、咲夜の作った笹団子に舌鼓を打ちながら、しばらく談笑した。
「…それではフランドール様、お勉強の続きと参りましょうか」
「は~い」
「ん、そうなのか。それじゃあ私はそろっと帰るとするか」
「…もう帰っちゃうの?」
フランドールは残念そうに呟く。魔理沙は苦笑し、
「まぁそう言ってくれるな…また明日にでも来るから」
「え、ほんと?」
「あぁ、約束するぜ」
「うん、約束!」
フランドールは嬉しそうにはしゃぐ。パチュリーが席を立った。
「見送りしないのも何だから、玄関まで送るわ」
「おっ、すまんな」
「気にしないでいいわよ。お茶の淹れ方も教えてもらったし…」
「そうか…私としては、魔道書を何冊か借りたいんだが…」
「借りたいのなら、早く借りている本を全部返す」
「…善処するぜ」
魔理沙は頬をかきながら席を立つ。続いてフランドールも席を立つ。どうやら一緒に来てくれるようだ。
紅魔館の玄関―ロビーに着いた。フランドールは日光を浴びるわけにはいかないので、ここで別れることになる。
「ねぇ、魔理沙」
フランドールが小さな声で尋ねる。
「なんだ?」
「どうして…魔理沙は私のことを名前で呼んでくれたの?」
初めて魔理沙がフランドールに会ったときは『妹君』と呼んだが、それ以降はずっと名前で呼んでいた。
「あぁ、そのことか…理由は単純だぜ」
「え?」
「私にとって、お前さんは最初っから『フランドール=スカーレット』だから…だぜ」
「?」
「つまり…レミリアの妹だとかは関係ない。お前さんはお前さんだってことだ」
多分あいつにとってもな…と呟く魔理沙。あいつとは勿論、博霊神社の巫女のことだ。
「…ん、 よく解んない…でも…」
フランドールは満面の笑顔で答えた。
「とっても…嬉しいよ」
「そうか、それは何よりだぜ」
つられて笑う魔理沙。そんな二人を、不振な目で見つめるパチュリー。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな」
「…まぁいいわ。それじゃあね、魔理沙。必要ないと思うけど、気をつけて」
「魔理沙、また明日ね~」
静かに見送るパチュリーと、手を振っているフランドール。
「あぁ、またな」
そんな二人を背中に、魔理沙は颯爽とロビーを出て行った。
「魔理沙…帰っちゃったね」
「はい…」
「せんせ~…魔理沙がいなくなって寂しい?」
フランドールの問いに、パチュリーはしばし考え…
「…そうでもないですね」
「そうなの?」
「また明日も来るようですし…寂しいなんて、思うだけ無駄です」
そう言ってパチュリーは笑った。
「そっか…そうだね」
「えぇ…それでは図書館に戻りましょうか」
「はい、せんせ~」
「…にしてもな…」
紅魔館から飛び出てしばらくして魔理沙は、誰に言うわけでもなく呟いた。
「今日はいろいろあって疲れたぜ」
紅魔館であったこと思い返す…確かに疲れたが…
(まぁ、悪くはなかったな)
魔理沙はそう思った。
平穏だけど、どこか騒がしい…そんな一日が続くことを、魔理沙は願った。
女の子にしておくのがもったいないくらい。あ、これって男尊女卑かしら。
以前に斑鳩氏の作に言った言葉なのですが、魔理沙が正しく主人公していると、似合いすぎてて逆に笑いがこみ上げてきてしまいます。なんて不埒な私。
>「私にとって、お前さんは最初っから『フランドール=スカーレット』だから…だぜ」
に女殺しの真髄を垣間見たような気分です。そんな事ばっかり言ってるからもてもてさんなんだよ君。
フランドールに訪れた小さな幸せがほのぼのとさせる、暖かいお話でした。
自覚が無くても、本人だとか周りだとかが少しずつ変って行けているのですね。
遠くない未来に、外で魔理沙と夜のデートを楽しんでもらいたいものですw
ところで、魔理沙がフランを抱き締めるシーンで、頭に
「言葉はいらない、ただ抱きとめて欲しい」というフレーズが浮かんだのですが
やはりアレなのですかね・・・w
(関係なかったら申し訳ないです(^^;)
ゲーム中では別にそういうキャラではないのに、この作品のようなかっこいい魔理沙が「らしく」見えるのが、なんだか不思議です。
全く関係ないですが、実は私も同じような状況_| ̄|○ >卒論中間発表
本編じゃ狂いまくりなのに(ぇ
にしても長い。「あここ区別いいね終わりかな」と思ったら続いてました。別に冗長とは思いませんでしたが、何か終わってないのに終わる感じがしますね…?
やはり私の考えすぎかもしれませんが orz
フランを諭す魔理沙がとてもカッコよく思えました。
やはり何人もの女に手を出しているからこそかw
フランのささやかな成長がとても良いです。495年もの長い年月を地下で過ごしてきたのだからこれからも、小さな幸せでもいいから見つけて欲しいですね。