Coolier - 新生・東方創想話

博麗相談所

2009/02/15 02:25:42
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「あーーー、参った。私の負けだ」

 ぼろぼろの魔理沙が石畳に、どさっ、と仰向けになる。それを、同じくぼろぼろのあたしが満面の笑みで見下ろす。

「これで今日の食事の支度は、魔理沙に決定ね」

 あたしは魔理沙に手を差し出す。その手をぐっと掴んで、魔理沙が体を起こした。

 木枯らし吹く博麗神社。今日もいつも通りに、運動がてらの夕食当番を賭けたスペル勝負が行われていた。
 神社内へ向かう石畳の途中、あたしは嬉々として魔理沙に尋ねた。

「さて、今日は何を作るの?」
「そうだな。いい材料が入ったから鍋にしようかな、と思ってるんだけど」
「あら、こんな寒い日には丁度いいわね。やっぱり鴇?それとも兎?」
「『闇』」
「…闇鍋でのいい材料ってなんなのよ」


「あー、寒いぜ。取りあえず炬燵に…」

 魔理沙が身震いをしながら障子を開ける。と、

「あら、お帰りなさい。今日はどちらの料理が食べれるのかしら?」

 障子を開けた先には、ぬくぬくと炬燵に入っているスキマ妖怪がにっこり微笑んでいた。

「今日は私が鍋を作るぜ」
「紫、あんたまた勝手に入ってきたわね」

 言っても聞く耳は持たないし、対処方法は無いし厄介な能力である。

「あら、ここの神社は参拝拒否するのかしら?」
「巫女の不在に、炬燵にまで潜り込む参拝客が何処にいるのよ。
 それに参拝しに来たなら、お賽銭くらい入れてきたんでしょうね?」
「まあまあ。鍋のいい材料を持ってきたから。それで勘弁して頂戴」

 結局、賽銭は入れていないらしい。このスキマ馬鹿。

「お、紫は何を持ってきたんだ?」
「あら。それを今言ったら面白くないじゃない」
「なんで闇鍋前提で食材持ってきてるのよ!?」


「あ。すっかり忘れてた!霊夢、ここに来る途中で拾ったんだけどさ…」
「捨ててらっしゃい」

 あたしは、しれっ、と魔理沙の台詞を一刀両断にする。

「早っ!せめてモノみてから言おうぜ!?」
「あんたが拾ってきたものに今まで一つでもロクなものがあった?
 フタバスズキリュウの卵とか、カボミントとかっていう良く分からない食べ物とか
 誰のかも分からない『青眼の白龍』ってスペルカードとか!」
「はっはっは。ネジを巻いたら人間の様に動き出した人形ってのもあったな。
 アリスが目を輝かせて攫っていったけど。あれは何だっけ。ローゼンなんとかって言ったっけ?」

 魔理沙は本当にロクなモノを拾ってこない。ここは関わらないか、聞かなかった事にするに限る…のだが。

「でも、捨てるってのはちょっと無理そうなんだ。なんせ人間だからな」
「は?」

 有り得ない発言にあたしはうかつにも反応してしまったのだった。

 
「で、コイツな訳ね…」

 魔理沙に案内されたところには、なるほど、木に背をもたれた一人の男が気を失っていた。
 格好からして外の人間だと分かる風貌。黒い髪のロングヘアに見たことも無い形の帽子。
 まるで砂嵐を避けるためのようなマント、とよく分からない格好をしている。

「神社の隅に落ちてたんでここまで引っ張ってきたんだが…」
「十中八九、外の世界からこっちに来ちゃったのね。全く面倒なもの見つけてくれちゃって…」

 見つけなければあたしの関与しないところで、街に辿り着くなり、相応の最後を迎えるなりしたろうに…。
 あたしは大きく溜め息をつく。ふと魔理沙を見ると、既に男の顔をぺちぺちと叩いている。

「おーい、起きろー。起きないとマスタースパークだぞー」

 実際、もうマスタースパークでもいいや。と、ちらっと思ったが、残念。その前に男は目を覚ました。

「う…ん………!?」

 ゆっくり目を開いたかと思うと、急に身構え何か黒い物体を私たちに突きつけた。あれは銃…だったかしら?
 あたしと魔理沙も飛びのいて身構える。しかし、私たちの姿をまじまじと見ると男はゆっくりと銃を仕舞った。

「これは失礼した。バンビーナ。少し驚いてしまってな」
「バンビーナ?」
「お嬢ちゃん、ってことさ。君たちが助けてくれたのか?」
「落ちてたのを見つけただけだけどな。私は魔理沙。こっちが霊夢だ」

 あたしとしては既に知り合いになりたくない気配がガンガンしていたが、しっかり紹介されてしまった。
 
「オレの名前はサイモン。コレでも荒野じゃ名の知れたカウボーイさ」

 かうぼーい?相変わらず何を言っているのか分からない奴。
 こういう場合は早めに対処するにかぎる。あたしは少し大きめの声で空に向かって呼びかけた。

「紫。聞こえてるでしょ。コイツ何とかしてあげて」

 やはり聞いていたか、魔理沙の向こう側にスキマが、すーっ、と現れて紫の声だけが響く。

『んー、帰すのはルール違反なんだけど。それでも、最低どの時代の人間なのかが分からないと帰せないわよ』

 言うことだけ言ってスキマは消え去った。サイモンはその様子に目を見開いて、

「な、なんだ?今のは…。と、いうかここは何処で何故オレはここにいるんだ?
 お、思い出せない。名前と自分がカウボーイだと言うこと以外何も思い出せない…!」

 頭を抱えるサイモン。えーっと、つまりコイツの記憶が戻らない限りサイモンがいた時代は分からないわけで。
 コイツを元の世界に戻すには、記憶探しを手伝ってやる必要があると…。

「さ、最悪…。やっぱり魔理沙が拾ってくるものはロクなもんじゃないわ」

 あたしはがっくりと肩落とした。その後、

「照れるぜ」

 と、呟いた魔理沙を陰陽玉で潰しておいたことは説明するまでもない。





 翌日、あたしは魔理沙とサイモンを連れて稗田の屋敷を目指していた。
 元の世界に戻すにしろ、最悪幻想郷で暮らすにしろ、稗田家に挨拶に行くのは損にならないだろうと思ってのことだった。

「どちら様でしょうか?」
「博麗霊夢よ。当主とお話がしたいんだけど」

 中から出てきた女中にあたしは名乗りを上げる。「博麗」の名の力か女中は何も言わず奥に通してくれた。
 通されたのは稗田家の客間。流石は稗田家。これぞ、和室。といったように綺麗に整った部屋だ。
 ちなみに、あたしと魔理沙は出されたお茶を啜って阿求を待っている。
 サイモンは何故か部屋に入らず、変なポーズで馬小屋の馬とにらめっこしている。何がしたいのやら…。

「お待たせ致しました。おや?魔理沙さんも一緒でしたか」

 襖が開いて稗田家現当主の阿求が姿を現す。手には急須を持っており、あたしと魔理沙の湯のみにお茶を注ぎなおしてくれた。

「悪いわね。突然押しかけて。実は外の世界からの迷い人が出ちゃってね。ちょっと貴女の知識を借りたいのよね」
「お気になさらず。私で役に立てるのであれば喜んでお手伝い致しますよ。
 それにしても、そろそろお昼時ですね。まずはお昼でも食べませんか?話はそれからでも遅くないでしょう」

 やった!これで一食まともなご飯にありつける。あたしは阿求の提案に、こくこくと首を立てに振ったのだった。


「ふー、ご馳走様。流石、稗田家のご飯ね。美味しかったわ」

 質素ながらも美味しい食事を涙を流しながら頂いて、あたしは食後のお茶を啜っていた。

「お前は自分で食事する時は『徳用もやし』が主食だからな。そりゃ美味しかったろ…ふぎゃ!」
「余計なことは言わなくていいわ…」 
「そ、そんなに切迫してるんですか…?」

 テーブルに突っ伏した魔理沙の額には、あたしが投げたアミュレットが綺麗に刺さっている。
 阿求の痛いくらいの同情の眼差しを受けながら、あたしは本題に入る…ことで話題を逸らした。

「それより本題に戻りましょ。実はこっちに来た人なんだけど記憶を失っててね。
 唯一覚えてることもあたしたちには良く分からない単語だらけで困ってるのよ」
「なるほど…。阿一から伝わる私の記憶。知らぬものなどありませんよ。
 で、その人は何処にいるんですか?見かけませんけど」

 あ…「食事」の一言でサイモンの事など忘却の彼方に吹っ飛んでいた。失敗、失敗。 
 その後、阿求と共にあたしたちは縁側へと向かった。そこには変わらぬ姿で馬とにらめっこしているサイモンがいた。

「何ですか…アレ」
「あー、御阿礼の子でも理解不能かあ」

 魔理沙が苦笑いしながら額を掻く。アミュレットの傷跡には大きな絆創膏が張られていた。
 自分でやったこととはいえ、絆創膏ですむ魔理沙の身体構造はどうなってるのかが甚だ疑問だ。 

「だ、大丈夫です。知らないハズありません!
 但し、私の記憶は例えて言うなら『100万個引き出しのある箪笥』みたいなものなのです。
 探すのに時間が掛かるように、直ぐには思い出せないのですよ」
「それじゃあ改めて、あいつは自分が『カウボーイ』だと言ったわ。その『カウボーイ』って何なのかしら?」

 阿求は目を閉じて腕を組んだ。まるで瞑想しているかのように眉間に皺をよせ…

「ちょっと思い出す時間を下さいね…」
「構わないわよ。どれくらいかしら?」
「そうですね。出来れば3、4年」
「待てるかあああああああ!」

 ドゴガッ!
 あたしの放った博麗陰陽球が御阿礼の子の脳天に炸裂した。

「お、おい。霊夢!?」
 
 し、しまったあああああああ。勢いに任せて魔理沙にツッコむのと同じノリでツッコんでしまった!
 当然でっかいタンコブを作って地面に突っ伏す阿求。これは当分目を覚ましそうも無い。
 状況だけ見ると、「街の有力者。稗田家に博麗の巫女が押し入り強盗」ってなカンジである。

「と、取りあえず逃げるわよ!魔理沙はそこでにらめっこしてる馬鹿連れてきて!」

 あたしは大急ぎで阿求を背負うと、全速力で稗田家を後にした。 





 阿求を背負ってそう遠くまでは行けない。更に阿求を休ませる場所を探さなくては…。
 魔理沙の実家は論外だし、そう考えると街に知り合いの少ないあたしの行ける所は限られてくる。

「これはいけない!目が@になっている。冥界の姫にでもやられたのか!?」

 結局あたしは寺子屋に行き、慧音に助けを求めた。阿求を寝かせ、取りあえず氷枕で頭を冷やす。

「…やったのは博麗の巫女だぜ」

 あたしにだけ聞こえるくらいの声で魔理沙が呟く。うるさい。悪かったわよ…。
 やっと一息ついたところで突然、今まで大人しかったサイモンが急に口を開く。

「あ、アンタ…。何モンだ?」

 冷や汗を流しながら真顔で慧音に向けて言い放つ。対する慧音は困った顔で、

「何者と言われてもな…。しがない寺子屋の教師だが?」
「アンタからは危険な香りがする…。オレのカウボーイとしての本能が告げている。
 そう…あんたの気配はさながら、暴れ狂う牛のようで…」
「誰が牛だああああああああああああ!」

 ゴスッ!
 最後まで台詞を言い終わる前に慧音先生の頭突きがサイモンを沈黙させた。
 こうして意識を失った人間が二人になった…。


「慧音…」
「ハッ!すまない…つい理性を失って」

 一応、阿求の横にサイモンを寝かせてやる。
 こいつの事は小指の爪のかけらも心配はしていないが。むしろ永眠してても一向に構わない。

「…まあ、静かになったからいいわ。ついでに貴女にも聞いておきたいのだけれど。
 コイツみたいなヤツか『カウボーイ』って言葉に心当たりは無い?」

 慧音は真剣な顔で考えている。知識人の慧音だが、阿求にも分からなかったこと。あまり期待は出来ない。

「すまないが『カウボーイ』…だったか?その言葉については分からないな。
 同じ様に『妙な格好』をしている人間なら心当たりはあるが…」
「本当!?コイツの格好に似てた?」
「いや、全く。全身黒装束で常に気配を消してるようなやつだ」
「あー。それはまた…別物だと思うぜ」

 魔理沙が呆れ顔で慧音を見つめる。慧音は少し落胆したような口調で続ける。

「そうか。違うか…。まあ、ファッションに関しては個人のセンスだから私は何も言わないが。
 いつも気配を消されると授業中どうにも忘れがちでな」
「って、そいつ授業受けてるの!?」

 あたしが大声で聞き返す。慧音はやや憮然とした表情で、

「何を言う。ウチの寺子では主席だぞ」
「そいつ何歳だよ…」
「確か二十と八」
「もう『子』じゃないじゃない!留年なんてレベルじゃないわ!」
「なんと、最近ではそうなのか?」
「いや、最近とか関係ないし」

 あたしは肩で息をしながら慧音にツッコミを入れる。その瞬間、あたしの背後で急に声がした。

「どうやらオレの話で盛り上がってるらしいな」

 慌てて振り返ると、そこには確かに全身黒ずくめの男がいた。
 黒頭巾で顔は分からないが、発した声は間違いなくそれなりの年齢の男の声。
 それにしてもコイツ、本気で何の気配もしなかった。魔理沙も心底驚いてる。
 とすれば、かなりの使い手なのか…?

「おお、ハンゾー。今日は休みの日だというのにどうしてここへ?」
 
 尋ねる慧音にハンゾーは眩しそうに窓を見上げ、

「こんな空の高い天気のいい日だ。風でも感じようと散歩していただけさ…」

 うわ、何か気持ち悪いこと言い出した。
 ていうか、その上から下まで微塵も隙間の無い格好のどこで風を感じるんだ。お前は。

「そうだ。今、『寺子に来るにはお主は少々年が過ぎているのではないのか?』という話をしていてな…」

 間違ってはいない。間違ってはいないが、それは大きく論点がズレた後の話のことで。
 私が聞いたのは『カウボーイ』と『サイモンの服装』についてだったハズなのだが…。

「いや、慧音先生。そんなことはないぜ。三…ゴホッ!ゴホン!二十八だろうが何歳だろうがな。
 人は永遠に夢を追い求めるピーターパンなのさ…」

 三!?何かカッコイイこと言ってるけど三って言いかけた!コイツ絶対年サバよんでる。

「その通りだ!荒野では馬に乗れれば男は一人前だ。年齢なんざ関係ねえ」

 急に復活するな。ビックリするから。
 サイモンがよく分からん理論でハンゾーに同意する。こいつはこいつで何言ってるやら。
 二人はしばらくにらみ合っていたが、やがて、ガシッ、と力強い握手を交わした。
 …変態同士何か通じ合うものがあったのかもしれない。
 とにかく、サイモンが目を覚ましたなら当人も交えて情報収集するのがベストだ。
 
「ねぇ、サイモ…」
「大変だーーーー!誰か来てくれーーーーー!」

 あたしの声は外から聞こえた大きな声にかき消された。
 一瞬の沈黙の後、あたしたちは外に出て声のした方へと駆け出した。





「どうしたの!?」

 叫んでいたのは街の入り口近くにいた男だった。あたしの声に男は慌てた様子で、

「街に向かってでっかい牛が向かって来てるんだ!このままだと街に直撃しちまう!」

 あたしは、ふわり、と空を飛び、上空から偵察する。
 なるほど。地上では見えなかったが、確かに牛というには規格外の大きさの物体がこちらに向かって突進してきている。
 男は物見やぐらからでも発見したのだろう。相手はおそらく、長い時を生きて妖怪になりかけている牛。
 あたしはそのまま地上に降りて、魔理沙と慧音にも状況を説明する。

「なるほど。暴れ牛と聞いちゃ放っておけねえな」
「クッ。悲しいぜ。大人しく森にでもいれば妖怪として、一緒に呑む機会もあったのかもしれねえのにな…」

 あたしの説明に反応したのは、サイモンとハンゾーの二人。そういやコイツらもいたんだっけ。
 別にあんたらに説明したわけじゃないぞ、あたしは。…とか思っていた数秒後、あたしは息を飲んだ。
 サイモンが一瞬にして街の入り口から数十メートル出た距離に移動したのだ。
 
「おわっ。アイツ…今、どうやってあそこまで行ったんだ?」

 魔理沙にも見えなかったようだ。注意を向けていたあたしにも完全には見えなかった。ただ影が動いたようにしか。
 どうやらサイモンも只者ではないようだ。そのサイモンの横には、いつのまにか並びかけるようにハンゾーがいる。
 こちらも気配が全くないものだから、いつの間に移動したのか気づかないほどだ。
 そうこうしているうちに暴れ牛は肉眼で確認出来るほどの距離まで近づいていた。
 思っていたよりもスピードが速い!暴れ牛は更に距離を詰める。
 するとサイモンとハンゾーが動いた。

「SHOT!!」
「土遁!!」

 ハンゾーのいた場所から煙があがり、その姿が消える。
 サイモンの姿も同様に消える。わずかにだが、横に飛んだ影だけが目で追えた。
 その後でカチッ!カチッ!という音が聞こえたが何の音だったのだろう。
 しーーーーーーーーーーーーーん。その後は特に何も起こるわけでもなく、張り詰めた雰囲気にあたしたちも固まっていた。
 その間、暴れ牛が近づいて来る音だけが聞こえていた。

「…………逃げたああああああああああああああああ!!」

 我に返って叫ぶあたし。あんだけでかいこと言ってたわりに逃げるとは!
 よく考えてみれば、気配を完全に消せるからといってイコール強いとは限らない。
 外の世界には、力だけが極端に強い姉ちゃん、というのがいるらしい。
 ともすれば、気配を消すことだけに特化した奴がいても不思議ではない。
 サイモンに関しても同様でスピードだけが馬鹿みたいに速くても、攻撃力が人間並みではどうしようもない。
 あの『カチッ!』という音が攻撃だったのかもしれないが、少なくとも暴れ牛は五体満足で突進中だ。

「魔理沙!あたしたちで何とかするわよ。倒す必要はないわ。多分驚かせれば逃げるでしょう。
 と、いう訳でアイツの手前の地面に向けてマスタースパークを撃って頂戴。
 あたしはあいつの横方向に夢想封印を放つわ。これで退路は後ろしか無くなるはずよ」
「了解だぜ!」

 即座に魔理沙がスペルカードのセットに入る。
 暴れ牛はどんどん近づいてきている。…間に合うか!?
 まずはあたしが叫び声をあげる。

「夢想封印!!」

 カッ!!!
 あたしの夢想封印は暴れ牛の両横、結構な広範囲に発動させた。これで横には逃げれない!
 その刹那、魔理沙も叫び声をあげる。

「マスタアアアスパアアアク!!」

 ゴアッ!
 極太の光が暴れ牛の手前の地面に的確に炸裂する。

「ンゴオオオオオオオオ!?」
 
 当然、暴れ牛は急激にブレーキをかける。流石、魔理沙の得意技。未だ光は継続して地面をえぐっている。

「オオオォォォオオォォ…」

 暴れ牛はしばらくその場で唸っていたが、回れ右をして去っていった。
 ふう…狙い通りにいったか。魔理沙とあたしはハイタッチをしてニッコリ微笑んだ。
 街から起こる歓声の中、慧音がホッとした顔で、

「助かったよ。街がメチャクチャになるところだった。街を代表して礼を言うよ」
「そう思うなら少しはお賽銭よろしくね」

 笑いながら慧音にそう言うと、慧音は、そればっかりは私じゃ無理だ、と言わんばかりに肩をすくめた。


 その後、魔理沙のマスタースパークが炸裂した辺りの地面から黒コゲのハンゾーが。
 あたしの夢想封印を放ったあたりの草むらから黒コゲのサイモンが発見された。
 決してわざと狙ったわけではない。
 まあ、その辺にいるだろう、とは知っていたし、多分当たるんじゃないかな、とも思っていたが。
 しかし、街とカッコつけて出て行って逃げ出した2人とを天秤にかけると街のが重いに決まってる!
 というわけであたしは悪くない。多分。きっと。





 その後、街と阿求と黒コゲのハンゾーのことを慧音に任せて、あたしと魔理沙は黒コゲのサイモンを引きずって神社へと戻った。
 ちなみにハンゾーの素顔はチョット渋めのいい男だった。顔隠さなきゃいいのに。

「お帰りなさい。その様子じゃ大した成果はなかったようね」

 神社に帰ると、縁側に座っている紫がいた。
 なんでこいつは呼んでもいないのにいるのか。

「ご名答。面倒ごとに巻き込まれただけでコイツに関することは何にも」
「清清しいほど何も分からなかったな」

 清清しい魔理沙の笑顔に流石のあたしもムカっとくる。

「あー、もう!アンタが拾ってきたんだからアンタが何とかしなさいよ!あたしは何でも相談屋じゃないのよ!?」
「そんなこと言うなよ。私とお前の仲じゃないか。な?」
「おいおい。喧嘩はその辺にしときな、バンビーナ」

 再び、いつのまにか復活したサイモンがあたしたちの仲裁に入る。
 イラつくあたしは怒りの対象をそのままサイモンに向ける。

「大体アンタの記憶がちゃんとしてれば、こんなややこしい事になってないのよ!」

 あたしの怒りにサイモンは如何にも不思議そうな顔をして、

「記憶?記憶なら大分前に戻ってるぜ。オレは18XX年生まれの29歳だ。初めて馬に乗ったのは14歳の頃で、銃を持ったのは…」
「戻ってんなら早く言わんかああああああああああ!!」

 サイモンのどうでもいい生い立ちを遮って、あたしはサイモンの胸倉を掴み紫に向かってブン投げた。

「おわあああああああああああああああああ!!」

 紫は顔も上げなかったが、サイモンがぶつかりそうになると間にスキマを発生させた。
 サイモンはパックリとそのスキマに吸い込まれ、二度と現れることは無かった。

「ちゃんと帰しといたわよ。もうこんなことにならないように、大結界を一度修復する必要があるかもねえ」

 微笑ながら紫が言う。元凶はお前だったのか。ちゃんと直しとけ。スキマ馬鹿。

「それにしても、これで面倒事も終わりね。…魔理沙、今日の夕飯はもってもらうわよ」
「分かってるって。それぐらいはな」

 こうして、何の得にもならない小さな事件は解決した。
 これがこの後あたしに色々な面倒ごとが持ち込まれるきっかけとなるのだが、それはまた別の話。





 翌朝、あたしが境内の掃除をしていると魔理沙が珍しく歩きでやってきた。
 その後ろには見たこともない男がついてきている。

 嫌な予感しかしなかったが、あたしは先手を打って魔理沙に尋ねた。

「お早う。魔理沙。で!その後ろのヤツは誰!?」

 後ろの男は完全に幻想郷の人間ではない。フサフサの紅い髪の毛に、真っ黄色の服、更に大きな靴。
 何よりおかしいのは顔のメイク。まるで道化師のようなメイクをしている。

「いやー、さっき神社の隅で拾ったんだけどさあ」
「またか!?前回の一件で懲りたでしょ。面倒ごとにしかならないって!」
「かといって、見つけちまったら放っておくわけにもいかないだろ」
「んー。君は何をそんなに怒っているんだい?もっと楽しくお話しようよ」

 にこやかに話す道化師男を見て、あたしはがっくりと肩を落とした。
 取りあえず、魔理沙を巨大陰陽玉の下敷きにした後で、あたしは結局男の話を聞くハメになるのだった。
こんばんは、柊 蒼月と申します。
夜のノリでガーっと書いちゃったんで推敲とかが甘いです。
後悔はしていない。嘘です。してます。自分の文章力の無さに。

最遊伝は一人でも続きが読んでみたいって方がいらっしゃったので、頑張って書きたいと思います。
柊 蒼月
[email protected]
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コメント



0.340簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
ハンゾーって服部のハンゾーか?  最後の道化師はドナルドか?  謎だ・・・
8.無評価名前が無い程度の能力削除
青眼の白龍だと!?
もしかしたら社長もそこに?www
9.90名前が無い程度の能力削除
わりとコミカルで好きです。
オリキャラがあれだけ出張るならもっと描写に文章さいても良かったかもですね。
14.90名前が無い程度の能力削除
ド、ドナルドだと!