ここ最近、こいしの放浪癖が目立ってきた。
治まってきたと思ったけど、違ったようだ。
自室で一人ため息をつく。
「ただいまー」
そんなことを考えていると、こいしが帰ってきた。
こいしを迎える為に玄関に向かう。
「おかえり、こいし。
今回は何しに行ったの?」
「別に」
「そう
楽しかった?」
「まあまあかな。
じゃあ、ちょっと用事あるから」
そう言って、こいしは自分の部屋に入っていってしまった。
最近こいしは帰ってきたら、すぐに部屋に閉じこもってしまう。
会話をする機会は、帰ってきて直ぐか、食事での時間しかない。その会話も素っ気なく、一言か二言しか話さない。
それに、こいしから話しかけてくることは滅多に無い。
この前、苦いのと甘いの、どっちが好きか聞かれたぐらいだ。
それと、帰ってきたこいしからは何か甘い匂いがする。
昔は血の匂いがしてたから、それよりはましだけど、得体の知れない匂いもまた不安を誘う。
お燐とお空にも何か知ってるか聞いてみたけど、何も知らないらしい。
ふむ、本当に何をしているのかしら?
そんなことを考えながら、幾日かが過ぎた。
今日はバレンタインという日らしい。チョコレートにのせて想いを伝える日だとか。
そのせいか、お燐とお空はいつにもまして仲が良かった。
しかし私は、こいしの事で頭がいっぱいでチョコなんて用意しているはずもなかった。
それに、今日初めてバレンタインを知ったので、もともと無理だったけど。
そういえばこいしは、バレンタインを知っているのだろうか。誰かにチョコをあげたり、貰ってたりするのだろうか。
むー、気になるわ。
「お姉ちゃん、いる?」
「え、ええ、居ますよ」
急に部屋の外からこいしの声がして、私は少し動揺した。
考え事をしていたせいか、気配に気付けなかった。いや、こいしの無意識の力のせいだろうか。
「今、いいかな?」
「ええ、いいですよ。
私が出ましょうか?それとも部屋に入る?」
「部屋に入るね。お邪魔します」
部屋に入ってくるこいしは、どこかぎこちなかった。
それに、後ろに何か持っているみたい。
「今日はどうしたの?
こいしから話しかけてくるなんて珍しいわね」
「あ、あのね、渡したいものがあって」
「そうですか。
それで、渡したい物とは?」
こいしが私に贈り物?
一体何かしら?見当もつかない。
「あ、あの、これなんだけど」
そう言うこいしの手には、綺麗に包装された箱がある。
「これは何ですか?」
聞いたものの、これが何かは薄々分かっている。
しかし、こいしの気持ちが分からない。
「…チョコ」
こいしが恥ずかしそうに、下を俯きながらぼそりと言う。
あー、かわいい。こいしがとても愛らしいです。
おっと、今はそんなこと関係ありませんでしたね。
「何故、これを?」
「……不器用だから」
その言葉だけでは、こいしの気持ちは分からない。私は先を促す。
「私は不器用だから、想いを素直に相手に言えない。言いたいのに言えない。そんないたちごっこを続けていたら、毎日がもどかしかった。
だから、きっかけが欲しかった」
「………………」
「ある日、地上を散歩してたらバレンタインという日があると知ったの。その日はチョコレートに想いをのせて相手に渡す日、なんだって。
私は思ったの。これはきっかけじゃないかって。
バレンタインを知った日から、私は準備を始めたの。
そのせいで、家にあまり居れなかったわ。きっとお姉ちゃんに心配かけちゃったと思う。だからごめんなさい」
こいしが頭を下げる
私は何も言えなかった。
「でも、そのおかげで満足いく物が作れた。
それがこれ」
手の内のチョコを見ながらこいしは言う。
「これには私の想いをたくさん詰めた。相手に伝わるようにって願いながら作った。
つまり、これは私の想いそのもの。
だから、これをお姉ちゃんに渡したい。
私はお姉ちゃんが好き。私のことを大事に思っていてくれるお姉ちゃんが大好き。
だから、お姉ちゃんに受け取ってもらいたいんだ」
そう言って、こいしは箱を差しだしてくる。
私はそれを……………………………受け取ることはできなかった。
私は馬鹿だ。こいしの想いに気付いてやることができなかった。自分の力に頼り過ぎていて、人の気持ちを考えることができていなかった。
こいしの想いに気付いてやるべきだった。何も言わず、何も言わせてはならなかった。
しかし、それはかなわなかった。それも全て自分の責任である。
情けない。自分がとても情けない。今すぐここから逃げ出してしまいたい。
しかし、それはダメだ。また逃げ出したらもうこいしを取り戻すことは出来なくなるだろう。
見ろ、こいしの顔を。不安が滲みでている。
あんな顔をさせちゃいけない。こいしにあんな顔させちゃいけない。
なのに、なのに、口が動かない。体が動かない。
ああ、こんなにも私は弱いのか……。
「どうしたの?
何で受け取ってくれないの?」
「……………」
「どうして?もしかして私のこと嫌いだったの?私、迷惑だったの?」
ダメだダメだダメだダメだ!こいしのあんな顔見たくない。こいしに泣き顔は似合わない!
私にこいしの笑顔が取り戻せるなら、今度は逃げない。真っ正面から向き合ってやる。
「そんなことは無いわ。
だから、そんな顔はやめて」
「な、なら、何で受け取ってくれないの?」
やっぱりこれに行き着くのか。しかしもう逃げないって決めたから。
「……私が弱いから」
必死に言葉を紡ぐ。
「私が弱いから、私はそれを受け取ることはできないのです」
「分からないよ。全然分からないよ」
「こいしは強いわ。
私との仲を良くしようとした。
そして、今日という日をきっかけに行動した。
それに比べて、私は私は、何もできなかった!
こいしともっと仲良くなりたかった。でも、もし反発され、今の関係が壊れるのが怖かった。だから、何もしなかった。今の関係に甘んじていた。
そんな弱い私が、チョコを受け取ることができるでしょうか?いや、否です。
私がチョコを受け取ったら、私は逃げたことになってしまう。自分から行動をおこしたのでなく、ただこいしの想いに甘んじているだけになってしまうんです!」
「…分からない。やっぱお姉ちゃんの言ってることが分からないよ。
だって、私にとってお姉ちゃんは弱くないもの。強い姉だもん」
「え?」
私が強い?自分の耳を疑ってしまった。
「ほんとに?本当に私は、強い姉でいられてるの?」
「もちろんだよ。
だってお姉ちゃん、私が心を閉ざした時だって私を見捨てなかった。私の為に色々尽くしてくれた。
そのおかげで私は今此処にいる。お姉ちゃんが私を支えてくれたから、私は今少しだけ強くなれてる。
だから、お姉ちゃんは強いよ。少なくとも私から見たら、強い姉で頼れる姉だよ」
「そうですか。
私は強く頼れる姉でいられてましたか」
「じゃあ」
こいしの顔に期待が浮かぶ。
先に謝っておくわ。ごめんなさい、こいし。
「でも、やっぱり受け取れません」
「え?
………なんで?」
「確かに私は強かったかもしれません。
でも、今の私は臆病なのです。
一歩先の暗闇を恐れて踏み出せずにいる臆病者なのです」
「別にいいじゃん。受け取ったって」
「駄目なのです。
自分から一歩踏み出さなければ。人が差し出してくれた手に頼って、引かれてるだけでは。いけないのです。
もしここで受け取ってしまったら、これからも私は臆病者のまま。ずっと人に頼って、自分から踏み出すことが出来なくなってしまう。
こいしには悪いと思っています。だから、ごめんなさい」
頭を下げる。こいしの顔を見ることはできない。頭を上げられない。
だけど、ここで諦めたら臆病者のままである。
だから、私は顔を上げた。
「…謝るぐらいなら受け取ってよ」
顔を上げた先には、泣きそうなこいしの顔。
また泣かせてしまった。
泣かせてしまうと分かっていたはずなのに、なのに心が苦しい。
「………………」
私は唇を噛みしめた。
「そんなの、そんなの、お姉ちゃんの勝手じゃない!!
お姉ちゃんが受け取ってくれないなら、私の気持ちは!想いは!どうすればいいのよ!!!」
こいしが叫んだ。
あの、あまり感情を表に出さないこいしが叫んだ。泣きながら声を張り上げている。
「本当にどうすればいいのよ…」
もう我慢できなかった。もうこれ以上こいしの泣き顔を見たくなかった。
私は目の前の泣いている小さな体を抱き締めた。
「ごめんなさい、こいし。
こいしの言うとおりだったわ。こいしを悲しまさせたのも私が勝手だから。私の意地のせいだった。
本当にごめんなさい。
できることなら泣き止んで。私はもうこいしの泣き顔を見たくないから」
私は本当に馬鹿だった。
自分の意地のせいでこいしを何回も悲しませてしまった。
自分で泣き顔なんて見たくないって言ってたのに、自分のせいで泣かせてしまった。
自分の意地とこいしの笑顔、どっちが大切かなんて比べるまでも無く、こいしの笑顔の方が大切なのは当たり前なのに!
…私は本当に馬鹿だった。
「う、う…お姉ちゃん…お姉ちゃん…」
腕の中でこいしが泣いている。
「本当にごめんね、こいし。
今度は私、ちゃんとこいしの想い受け取るから。
だから、泣き止んでちょうだい。こいしの笑顔を私に見せて。お願い」
「ほ、ほんとに受け取ってくれるの?」
「ええ、本当ですよ」
「うん、わかった」
そう言ってこいしは、涙を袖で拭い、私に笑顔でチョコを渡してきた。
私は手を伸ばす。
さっきまではとても長かった。だけど、今となってはとても短い距離。
私はチョコを受け取った。
「ねぇ、ほんとに受け取って良かったの?」
「ん?どういう意味かしら?」
「だって、お姉ちゃんの意地は無視しちゃったし」
「そのことですか。
それについては大丈夫ですよ」
「なんで?」
「だって私は、こいしからのチョコが欲しかった。だから受け取った。
つまり、自分の意志で受け取ることにしたんですから」
「なんで欲しかったの?」
「そんなの決まってるじゃないですか。
貴女のことが好きだからですよ、こいし」
「そ、そっか」
恥ずかしそうにこいしは顔を私から背けた。
そんなこいしは今、私に背中から寄りかかってる。私はその体に腕を回している。
「……お姉ちゃん」
「ん?なんですか?」
「私も、私もお姉ちゃんのこと好きだから」
「分かっていますよ」
「なら、いいんだ。
お姉ちゃんは私が好き。私はお姉ちゃんが好き。
なんていい関係なんだろうね」
「その通りですね。
この関係がずっと続けばいいわね」
「続くよ、きっと。
二人が願えばきっと、ね」
治まってきたと思ったけど、違ったようだ。
自室で一人ため息をつく。
「ただいまー」
そんなことを考えていると、こいしが帰ってきた。
こいしを迎える為に玄関に向かう。
「おかえり、こいし。
今回は何しに行ったの?」
「別に」
「そう
楽しかった?」
「まあまあかな。
じゃあ、ちょっと用事あるから」
そう言って、こいしは自分の部屋に入っていってしまった。
最近こいしは帰ってきたら、すぐに部屋に閉じこもってしまう。
会話をする機会は、帰ってきて直ぐか、食事での時間しかない。その会話も素っ気なく、一言か二言しか話さない。
それに、こいしから話しかけてくることは滅多に無い。
この前、苦いのと甘いの、どっちが好きか聞かれたぐらいだ。
それと、帰ってきたこいしからは何か甘い匂いがする。
昔は血の匂いがしてたから、それよりはましだけど、得体の知れない匂いもまた不安を誘う。
お燐とお空にも何か知ってるか聞いてみたけど、何も知らないらしい。
ふむ、本当に何をしているのかしら?
そんなことを考えながら、幾日かが過ぎた。
今日はバレンタインという日らしい。チョコレートにのせて想いを伝える日だとか。
そのせいか、お燐とお空はいつにもまして仲が良かった。
しかし私は、こいしの事で頭がいっぱいでチョコなんて用意しているはずもなかった。
それに、今日初めてバレンタインを知ったので、もともと無理だったけど。
そういえばこいしは、バレンタインを知っているのだろうか。誰かにチョコをあげたり、貰ってたりするのだろうか。
むー、気になるわ。
「お姉ちゃん、いる?」
「え、ええ、居ますよ」
急に部屋の外からこいしの声がして、私は少し動揺した。
考え事をしていたせいか、気配に気付けなかった。いや、こいしの無意識の力のせいだろうか。
「今、いいかな?」
「ええ、いいですよ。
私が出ましょうか?それとも部屋に入る?」
「部屋に入るね。お邪魔します」
部屋に入ってくるこいしは、どこかぎこちなかった。
それに、後ろに何か持っているみたい。
「今日はどうしたの?
こいしから話しかけてくるなんて珍しいわね」
「あ、あのね、渡したいものがあって」
「そうですか。
それで、渡したい物とは?」
こいしが私に贈り物?
一体何かしら?見当もつかない。
「あ、あの、これなんだけど」
そう言うこいしの手には、綺麗に包装された箱がある。
「これは何ですか?」
聞いたものの、これが何かは薄々分かっている。
しかし、こいしの気持ちが分からない。
「…チョコ」
こいしが恥ずかしそうに、下を俯きながらぼそりと言う。
あー、かわいい。こいしがとても愛らしいです。
おっと、今はそんなこと関係ありませんでしたね。
「何故、これを?」
「……不器用だから」
その言葉だけでは、こいしの気持ちは分からない。私は先を促す。
「私は不器用だから、想いを素直に相手に言えない。言いたいのに言えない。そんないたちごっこを続けていたら、毎日がもどかしかった。
だから、きっかけが欲しかった」
「………………」
「ある日、地上を散歩してたらバレンタインという日があると知ったの。その日はチョコレートに想いをのせて相手に渡す日、なんだって。
私は思ったの。これはきっかけじゃないかって。
バレンタインを知った日から、私は準備を始めたの。
そのせいで、家にあまり居れなかったわ。きっとお姉ちゃんに心配かけちゃったと思う。だからごめんなさい」
こいしが頭を下げる
私は何も言えなかった。
「でも、そのおかげで満足いく物が作れた。
それがこれ」
手の内のチョコを見ながらこいしは言う。
「これには私の想いをたくさん詰めた。相手に伝わるようにって願いながら作った。
つまり、これは私の想いそのもの。
だから、これをお姉ちゃんに渡したい。
私はお姉ちゃんが好き。私のことを大事に思っていてくれるお姉ちゃんが大好き。
だから、お姉ちゃんに受け取ってもらいたいんだ」
そう言って、こいしは箱を差しだしてくる。
私はそれを……………………………受け取ることはできなかった。
私は馬鹿だ。こいしの想いに気付いてやることができなかった。自分の力に頼り過ぎていて、人の気持ちを考えることができていなかった。
こいしの想いに気付いてやるべきだった。何も言わず、何も言わせてはならなかった。
しかし、それはかなわなかった。それも全て自分の責任である。
情けない。自分がとても情けない。今すぐここから逃げ出してしまいたい。
しかし、それはダメだ。また逃げ出したらもうこいしを取り戻すことは出来なくなるだろう。
見ろ、こいしの顔を。不安が滲みでている。
あんな顔をさせちゃいけない。こいしにあんな顔させちゃいけない。
なのに、なのに、口が動かない。体が動かない。
ああ、こんなにも私は弱いのか……。
「どうしたの?
何で受け取ってくれないの?」
「……………」
「どうして?もしかして私のこと嫌いだったの?私、迷惑だったの?」
ダメだダメだダメだダメだ!こいしのあんな顔見たくない。こいしに泣き顔は似合わない!
私にこいしの笑顔が取り戻せるなら、今度は逃げない。真っ正面から向き合ってやる。
「そんなことは無いわ。
だから、そんな顔はやめて」
「な、なら、何で受け取ってくれないの?」
やっぱりこれに行き着くのか。しかしもう逃げないって決めたから。
「……私が弱いから」
必死に言葉を紡ぐ。
「私が弱いから、私はそれを受け取ることはできないのです」
「分からないよ。全然分からないよ」
「こいしは強いわ。
私との仲を良くしようとした。
そして、今日という日をきっかけに行動した。
それに比べて、私は私は、何もできなかった!
こいしともっと仲良くなりたかった。でも、もし反発され、今の関係が壊れるのが怖かった。だから、何もしなかった。今の関係に甘んじていた。
そんな弱い私が、チョコを受け取ることができるでしょうか?いや、否です。
私がチョコを受け取ったら、私は逃げたことになってしまう。自分から行動をおこしたのでなく、ただこいしの想いに甘んじているだけになってしまうんです!」
「…分からない。やっぱお姉ちゃんの言ってることが分からないよ。
だって、私にとってお姉ちゃんは弱くないもの。強い姉だもん」
「え?」
私が強い?自分の耳を疑ってしまった。
「ほんとに?本当に私は、強い姉でいられてるの?」
「もちろんだよ。
だってお姉ちゃん、私が心を閉ざした時だって私を見捨てなかった。私の為に色々尽くしてくれた。
そのおかげで私は今此処にいる。お姉ちゃんが私を支えてくれたから、私は今少しだけ強くなれてる。
だから、お姉ちゃんは強いよ。少なくとも私から見たら、強い姉で頼れる姉だよ」
「そうですか。
私は強く頼れる姉でいられてましたか」
「じゃあ」
こいしの顔に期待が浮かぶ。
先に謝っておくわ。ごめんなさい、こいし。
「でも、やっぱり受け取れません」
「え?
………なんで?」
「確かに私は強かったかもしれません。
でも、今の私は臆病なのです。
一歩先の暗闇を恐れて踏み出せずにいる臆病者なのです」
「別にいいじゃん。受け取ったって」
「駄目なのです。
自分から一歩踏み出さなければ。人が差し出してくれた手に頼って、引かれてるだけでは。いけないのです。
もしここで受け取ってしまったら、これからも私は臆病者のまま。ずっと人に頼って、自分から踏み出すことが出来なくなってしまう。
こいしには悪いと思っています。だから、ごめんなさい」
頭を下げる。こいしの顔を見ることはできない。頭を上げられない。
だけど、ここで諦めたら臆病者のままである。
だから、私は顔を上げた。
「…謝るぐらいなら受け取ってよ」
顔を上げた先には、泣きそうなこいしの顔。
また泣かせてしまった。
泣かせてしまうと分かっていたはずなのに、なのに心が苦しい。
「………………」
私は唇を噛みしめた。
「そんなの、そんなの、お姉ちゃんの勝手じゃない!!
お姉ちゃんが受け取ってくれないなら、私の気持ちは!想いは!どうすればいいのよ!!!」
こいしが叫んだ。
あの、あまり感情を表に出さないこいしが叫んだ。泣きながら声を張り上げている。
「本当にどうすればいいのよ…」
もう我慢できなかった。もうこれ以上こいしの泣き顔を見たくなかった。
私は目の前の泣いている小さな体を抱き締めた。
「ごめんなさい、こいし。
こいしの言うとおりだったわ。こいしを悲しまさせたのも私が勝手だから。私の意地のせいだった。
本当にごめんなさい。
できることなら泣き止んで。私はもうこいしの泣き顔を見たくないから」
私は本当に馬鹿だった。
自分の意地のせいでこいしを何回も悲しませてしまった。
自分で泣き顔なんて見たくないって言ってたのに、自分のせいで泣かせてしまった。
自分の意地とこいしの笑顔、どっちが大切かなんて比べるまでも無く、こいしの笑顔の方が大切なのは当たり前なのに!
…私は本当に馬鹿だった。
「う、う…お姉ちゃん…お姉ちゃん…」
腕の中でこいしが泣いている。
「本当にごめんね、こいし。
今度は私、ちゃんとこいしの想い受け取るから。
だから、泣き止んでちょうだい。こいしの笑顔を私に見せて。お願い」
「ほ、ほんとに受け取ってくれるの?」
「ええ、本当ですよ」
「うん、わかった」
そう言ってこいしは、涙を袖で拭い、私に笑顔でチョコを渡してきた。
私は手を伸ばす。
さっきまではとても長かった。だけど、今となってはとても短い距離。
私はチョコを受け取った。
「ねぇ、ほんとに受け取って良かったの?」
「ん?どういう意味かしら?」
「だって、お姉ちゃんの意地は無視しちゃったし」
「そのことですか。
それについては大丈夫ですよ」
「なんで?」
「だって私は、こいしからのチョコが欲しかった。だから受け取った。
つまり、自分の意志で受け取ることにしたんですから」
「なんで欲しかったの?」
「そんなの決まってるじゃないですか。
貴女のことが好きだからですよ、こいし」
「そ、そっか」
恥ずかしそうにこいしは顔を私から背けた。
そんなこいしは今、私に背中から寄りかかってる。私はその体に腕を回している。
「……お姉ちゃん」
「ん?なんですか?」
「私も、私もお姉ちゃんのこと好きだから」
「分かっていますよ」
「なら、いいんだ。
お姉ちゃんは私が好き。私はお姉ちゃんが好き。
なんていい関係なんだろうね」
「その通りですね。
この関係がずっと続けばいいわね」
「続くよ、きっと。
二人が願えばきっと、ね」
姉妹の想いが感じられるお話でした。
面白かったですよ。
姉妹仲良くが一番です。
ところで、ペットお二人はチョコ駄目なのではw
面白かったですか。お褒めの言葉ありがとうございます。
>NEOVARS
高い評価ありがとうございます。
烏はどうか知りませんけど、猫にチョコは駄目ですねw