二月十四日、それは世の中の下劣で凡愚で醜悪な輩どもが
バレンタインデーなどという異文化に浮かれる日。
「しっとの心わぁぁぁ!! 弾心ぉぉぉぉ!!」
そもそもバレンタインデーとは異国の宗教の行事であり、
神道と仏教が主な日出づる国にとってはそれを楽しむ輩など異教徒も同然。
「撃てば被弾のぴちゅり沸く!」
そして暴力を振るって良い相手は、カップル共と異教徒共だけであり、
両方を兼ね備える輩は暴力の二乗によって粛清されるべきなのです。
「見よ! しっと魂は暑苦しいほどにあちゃぁぁぁぁぁ!!」
そんな我らの大義の実行者、しっとパルスィは
燃え上がるしっとの炎をその身に纏い輝いていました。
「はぁはぁ…………うう、寂しい」
お一人で。
「何故、何故この私がバレンタインデーに一人で叫んでなきゃいけないの!」
我らが怨敵であるアベックの侵攻はすでに幻想郷全土に及び、
しっと団の団員達もその手の内に囚われて残ったのは団長一人。
「だけど私は負けない……新たな同士を見つけて戦い抜いてみせる!」
されどもこのお方ならば、しっとパルスィ様ならば幻想郷を
きっとアベックの手からお救いになられるでしょう。
「さぁ、ジハードの始まりよ!!」
―――――
「てゐ~!」
「鈴仙様~!」
『愛してるぅ~!」
永遠亭の一角で、兎目を気にせずに抱き合う二人、
イチャイチャオーラが周囲に充満し、空気を桃色に染める。
「はい、チョコレート、口移しでいいよね?」
「もう鈴仙様ったら~、恥ずかしいウサ~」
「じゃあ食べふぁうけど?」
「ああん、いけず~」
「(ぶち殺してぇ……)」
その光景を堂々と眺めていたしっとパルスィは当然の如くしっとをみなぎらせていた、
しかしアベックどもは一度イチャイチャオーラを発生させると回りの出来事には一切気付かない。
「(まあいい……それよりもこの巨大なしっとオーラの源に、新たなる同士がいるはず!)」
憎きアベックどもを後回しにしっとパルスィが向かったのは、
永遠亭でも特に濃いしっとオーラが渦巻く薬品臭に満ちる部屋だった。
「あら、今日はお休みなんだけど」
「いえいえ、あなたに用があってきたのよ」
「私に?」
「ふふ、このコールタールのようなしっとオーラ……間違いなく超一級品!」
そしてその部屋の中にいたのが、月の頭脳こと八意永琳。
「それで、何の用かしら?」
「……アベック」
「うっ」
しっとパルスィの一言に身体を振るわせる永琳。
「もらえないチョコレート」
「うぐっ」
「仕事でごまかす心」
「ふぐっ!」
「才女すぎてアプローチすらない人生」
「あああぅ!」
「彼氏いない暦=年齢」
「や、やめてぇっ!」
それは恐ろしい攻撃だった、心を抉られなすすべなく崩れ落ちる永琳、
だがしっとパルスィの本領はここから発揮されるのだ。
「うう、私は、私は……!」
「妬めばいいじゃない」
「……えっ?」
「何を我慢する必要があるの、アベックどもはあなたの心の痛みなど省みずに
己の欲望を満たす為だけにいちゃついているのよ?」
「アベック……」
「もてない者達の怒りをその身に宿すのだ! 今こそアベックたちに天誅を下す時!」
「……そうよ、そうよね、なんで私が一人寂しく過ごしてるのに、鈴仙もてゐも
他の兎達もキャッキャウフフしてるのかしら……許せない、許せないわ!!」
長い時間を重ねて磨き上げられた一級品のしっと、
それを煽り、導く事などしっとパルスィにとっては朝飯前、
そしてここに新たなる団員こと、しっとドクターが誕生した。
「鈴仙様……私、もう身体が火照ってどうしようもないウサ」
「待ってよてゐ……そんなこと急に言われても……」
「もう待てないウサ、いいウサよね……?」
「……う、うん」
「命は投げ捨てる物ではないわ」
『――え?』
ジョインジョインエイリーン
「し、師匠! 落ち着いてく――」
「行くぞっ!」
『ひぎゃぁぁぁぁ!』
「……くくく、なんとも凄まじいしっとパワーよ、
しっとドクターさえいれば、幻想郷全土のアベックを撲滅することすら容易い!」
しっとに囚われ、アベックどもにその拳をぶつける永琳、
屈指の実力者がしっと団に入ったことで幻想郷のアベックの未来は閉ざされたかに見えた。
「あ、いたいた、えいりーん!」
「なんの用でしょうか姫様、今バスケで忙しいのですが」
「永琳の為にチョコを作ったの!」
「……えっ?」
じゃーんじゃーんじゃーん。
「げぇっ! チョコ!」
だがアベックの真の恐ろしさはその逆転力にある、
つい先程までしっとのオーラを放っていたはずの永琳が、
輝夜のチョコという単語を聞いた途端にアベックオーラを放ち始めたのだ。
「チョコを作るのは初めてだからあまり上手にできなかったんだけど」
「手作り……!」
「ま、待つのだしっとドクターよ! それを受け取ってはなら――」
「八意有情猛翔破!!」
「あべばぁっ!!」
殴り飛ばされ、天高く舞い上がるしっとパルスィ、
もはやこの二人の愛を邪魔する事は誰にもできないのだ。
「では早速いただきますね」
「とりあえず、てゐのアドバイスどおりに琥珀とか重曹とか入れてみたんだけど、どう? 美味しい?」
「……ぐふっ」
「永琳? ど、どうしたのよ! 永琳! 永琳ってばー!」
―――――
「こうなれば……私一人でもアベックを撲滅してくれるわ!」
「んもぅ、早苗ったらぁ~」
「諏訪子様うふふふふ」
「ぐはぁっ!!」
しっとパルスィはアベックを撲滅せんが為に人里へと降り立った、
だがそこはアベック率99%とも言えるアベックの聖地、
しかし、それでもしっとパルスィは退く事無く戦いを挑んだ。
「みすちー、そんなに腕に抱きつかれると恥ずかしいよ~」
「だーめ、ずっとりぐるんとこうしていたいの!」
「へい! そこのラブラブアベック!」
「あっ、なんでしょう?」
「二人の愛を永遠にする腕輪を差し上げよう!」
「わー本当ー! 頂戴頂戴!」
「ええっ、そんなの悪いよー」
「細かい事は気にしない気にしない、それじゃ二人とも手を出してー」
「はーい! ほらりぐるんも!」
「しょ、しょうがないなぁ~」
ガチャリ。
「まぁ、ただの手錠なんですけどね」
『ええーっ!!』
盲目のアベックをだます事など朝飯前である。
「(ククク……所詮は空気に囚われただけのにわかアベック、
永遠の拘束の前にその無様な姿をさらけ出すがよい!)」
「ど、どうしようりぐるん、外せないよこれ!」
「……ぼ、僕はこのままでもいいかな?」
「えっ?」
「ほら……ずっと、一緒にいられるじゃないか」
「りぐるん……!」
「みすちー!」
『愛してるーっ!!』
「ぐはっ!!」
しかしアベックは強かった、睡眠も入浴も、トイレですらも永遠に一緒だというのに
それを歓迎し受け入れる愛の深さ、さすがのしっとパルスィも吐血せざるを得ない。
「こうなれば実力行使のみよ!!」
よろしい、ならば正攻法だ、と言わんばかりにしっとパルスィは
しっとのオーラを携えてアベックどもへと襲い掛かった。
「……申し開きは?」
「ございません」
そして五分で捕まった。
「まったく、こんなめでたい日にチェーンソーで暴れまわる馬鹿がどこにいるというんだ」
「すみませんね、アベックが凄く妬ましかったもので」
「んん? 恋人の一人ぐらいいないのか?」
「がはぁっ!!」
慧音の一言がしっとパルスィの心を深く深く突き刺す。
「う……うぉぉぉぉん! 私だって、私だってぇ……うおおおおおーん!」
「慧音ー、チョコ持ってきたよチョコー」
「も、妹紅、それは私から貰いにいくって言ったじゃないか!」
「ちきしょぉぉぉ! このアベックどもがぁぁぁ!!」
全身を縄で縛られている為、尺取虫のように跳ね回りながらしっとの意を示すしっとパルスィ。
「……何かあったの?」
「ああ、ちょっと孤独で可哀想なやつの心の傷を抉ってしまってな」
「孤独って言うなぁぁぁ!!」
二人の哀れみの目がしっとパルスィにちくちくと突き刺さる。
「私が悪いんじゃない……この世の中が悪いのだ……」
「こりゃ重症だね」
「まるで私と出会う前の妹紅のようだな」
「やっ、恥ずかしいこといわないでよ慧音ー」
「いいじゃないか、二人だけの秘密だ」
「ちきしょぉぉ! 私を無視してきゃっきゃうふふするんじゃねぇぇぇ!」
強制的に見せつけられるアベックのキャッキャウフフタイム、
しっとパルスィにとってそれは地獄の業火に焼かれるも等しい。
「私だって……チョコが欲しいわよ……!」
「んー? チョコ?」
「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい……」
「ふむ、事情はよく分かった、ならば逆に考えるんだ、チョコを貰うのではなくあげればいいと」
「妬ましい妬ましい妬……あげる?」
あげる、その一言にしっとパルスィの顔色が変わる。
「そうだ、受身でいる必要などないだろう?」
「そういえば昔、恋とは攻めだ! って慧音が言ってた」
「まったく、よく覚えているなもこたんは~」
「慧音のことなら何でも覚えておきたいからね」
「チョコを……あげる……」
やがてしっとパルスィは情状酌量の余地ありとのことで開放された、
そして今彼女の手の中には、一つのハート型のチョコレートが。
「ありがとうございましたー」
「(……買ってしまった)」
あれほど忌み嫌っていたチョコを見て、後悔を感じるしっとパルスィ、
そのまま自宅への帰路を辿るが、心はもやもやしたままだ。
「……これを、誰に渡せばいいっていうのよ」
パルスィの頭の中で友人や知人の顔がぐるぐると回る、
しかしそんな深い仲の相手はおらず、答えが出ない。
「で、でもやっぱり渡すなら男の人よね!」
パルスィは自分がノーマルな事を確認しながら、がらりと自宅の戸を開けた。
「そうと決まればおめかしでもして――」
「おいーっす、酒勝手に飲ませてもらってるよー」
「人が決意を決めてる時になにやっとんじゃおんどれはぁぁぁ!!」
「ぶっ!!」
家の中では不法侵入していた勇儀が勝手に人の家の酒を飲んでいた、
その虚を突きすぎた行動の前に、ついパルスィは手に持っていたあれを投げつける。
「だぁぁぁ! 鬼のその暴虐無人っぷりが妬ましい!! 本当に妬ましい!」
「あははは、ごめんごめん……ん?」
「あっ、それは!」
勇儀は投げつけられたそれを手にとり、包装紙を破いて中身を確かめる。
「……チョコ」
「か、勘違いしないでよね! それはあんたの為に買ってきたんじゃないんだから!」
「成る程、つまりわざわざ私の為に……」
「違うってばぁぁぁ!」
パルスィの言ってる事に何一つ間違いはない、
惜しむらくは、地底でツンデレが一足遅れて流行っていた事だ。
「パルスィィィィ!!」
「きゃぁぁぁ!」
「あんたの愛、しっかりと受け止めたよ! 今度は私の番だ!」
「やめて! 離して! 私にそっちのケはないのよぉ!!」
鬼の驚異的な身体能力によって抵抗する間もなく組み伏せられるパルスィ、
目の前にある勇儀の顔をみれば、その頬は赤く染まり、吐息は闘牛のように荒い。
「今夜はたっぷりと可愛がってあげるよフゥハハハー!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
星熊勇儀、通称アネキ、彼女は地底でもっともソッチの方を向いているお方であった。
ピーナッツの詰まった弁当箱やるから落ち着くんだ。
それにしても勇×パル派であるわたしに対してなんという甘い話を……
はっ、まさかこれが噂の逆チョコ!?
ひしひしと嫉妬の心が伝わってきた!
しかしツンデレももう幻想入りしてしまうんですかなあ。なんともさびしいことで。
つ100点
今日だけは家から一歩も出てはいけないよ・・・!
まあ、なんだ。強く生きろ
いや面白かったですよ。
ラブラブ空間が発動したり勇儀がパルスィに猛烈アタックするのとか。
ニヤニヤしながら読ませていただきました。
元気出せって意味を込めて100点入れておくwww
>「成る程、つまりわざわざ私の為に……」
確かに今の世の中だと勇儀のためにといってるようにしか聞こえないw
何を悩むことがある奪い取れ!
今は悪魔が微笑む時代なんだ!!
奪い取った所で一層虚しくなるだけなんですけどね。
ってかまず奪い取れないし。
買ったチョコを受け取らずに出ようとする。
店員に手渡される。
という作戦を友人が言ってました。
とりあえずパルスィは常識に囚われない方がいいと思うよ。
またお前かw→何時もどおりですね、分かります→やめて!パルシィ!永琳のライフはもうとっくに0よ!→なんでジョインジョイントキィなのか?ああ、天才医者つながりか→トラップカード!孔明の罠発動!→そしてしっとテロへ→まあ、しっと団ってモブだしねー→「チョコが貰えないならあげればいいじゃない」――天啓だった→ツンデレの誤解→そして伝説へ……
パーフェクトだ、ウォルター。褒美にチョコをやろう
つ売れ残りチョコ
ちくしょうちくしょう! チョコレートちくしょう!
つチョコ
嫉妬=しっと団。パターンだね
しかも一時とはいえ同士にクソルアッパーとか害悪極まる
> PTI通信などによると、インド警察当局は14日、バレンタインデーを祝うカップルに> 危害を加えようとしたなどとして、インド中部マディヤプラデシュ州など各地でヒンズー
> 教至上主義の過激派メンバー計約50人を拘束した。
パルスィ様なにやってるんすか(笑)
それはそうと、ぶっちゃけありがち過ぎるネタで、ここまで読ませる力量は流石としか。
月の頭脳吹いたw
命は投げ捨てるもの、ですよね
チョコ故に苦しまねばならぬなら、チョコなど要らぬ!
…時に作者さん、その後はどーなった?
パルスィ…そのセリフは今の世では
ただのツンデレにしか聞こえんよ…