Coolier - 新生・東方創想話

未来はあなたで壊される

2009/02/14 00:55:57
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あと百年隠し通す自信はない。だからきっと遠くない未来に口にしてしまうのだと思う。
十年先も二十年先も百年先も二百年先も続いていく筈だった、生ぬるい幸せな日々に別れを告げる日はいつか必ず来る。どれもこれも、全ては十六夜咲夜が悪いのだ。


「ちょっと美鈴」
「どうしました?」
「また侵入者が来てたわよ」
「はぁ」
「はぁ、じゃないでしょ」

両腕を胸の前で組んで、咲夜は仁王立ちで美鈴を見下ろした。さっき魔法使いに無理やり通られてからずっと寝転がったままだった美鈴は、よっと声を立てて地面に座り込む。足元の土にフリルの影がきれいに出来ていて思わず見とれた。
だって仕方無いじゃないですか今日は負けちゃったんだし。そう口の中でもごもごと言いながら、それなりにしおらしい顔を作ってはみたが咲夜は眼すら向けてはいなかった。刃物に似た目で、出てきたばかりの屋敷を睨んでいる。

「咲夜さんこそいいんですか?」
「何が?」
「だから、侵入者」
「……通られたのよ。さっきお茶を入れてきたわ」
「お疲れ様です」
「そうそう、お嬢様から伝言よ、いい加減たまには食い止めてみなさい、って」
「善処しまーす」

見上げれば咲夜はいつものように胸を張って、人間とは思えないくらいに堂々と吸血鬼の領地を踏みしめている。彼女越しに見上げた太陽が眩しくて、美鈴は眼を細めた。地面に落ちた影はきりっと背筋が伸びていて、当たり前だけどとても彼女らしい影だと美鈴は思う。綺麗で純粋で、長い時間見ていると気持ちが悪くなりそうだった。
屋敷に来た頃の彼女と言えば、態度ばかりは毅然としていてもいつだって眼の奥は不安でぐるぐると濁っていたというのに、いまやその名残は微塵もない。人間でいながらここまで変われるのか、人間だから変われるのかは美鈴にはわからない。
ただ、咲夜といると変なことを考える。どうしてこの人間はこんなに強いのに何百年も生きられないのだろう、とか、もっと気持ちの悪いことを考えてしまう。

「美鈴」
「は、いッ!」
「今私が言ったこと聞いてた?」
「……すいませんもう一回言ってもらえます?」

返答変わりにナイフが飛んできて、美鈴はぎりぎりで避けて背筋を冷やす。たった今投げたばかりなのに、咲夜の手にはもう別のナイフがあって、美鈴は躊躇わずに土を蹴った。逃がしてくれる訳などないと知っているから、これもある種のポーズにすぎない。怒鳴られて身をすくめたり、しおらしい顔をしてみるのとそんなに変わらない。

「咲夜さん殺すつもりですかああああッ!?」
「あなたは妖怪だし、これくらいじゃ大丈夫でしょう」
「あの、さすがに死なないけど、痛いものは痛いんでッ」

叫びながら、迫ってくるナイフをかわす美鈴の口元は緩んでいた。振りかえれば、目前に切っ先が光っていて慌ててはたき落す。
焼かれようが符を投げられようがナイフが飛んでこようが無理難題を押し付けられようが、美鈴はこの屋敷にあるもの全てが好きで好きで仕方無かった。何十年何百年経とうが、何も変わらないままこの場所で生きていけると信じ込んでいた。

「あの、咲夜さん!」
「なに?謝っても無駄よ」

どんなに好きでもきっと、この日常を自分で壊して、目の前の人間に口にしてはいけないことをありったけぶつけてしまう時は来る。今となってはその日が来るのを恐れるだけしか出来ない。

「……好きな人とかっていますかッ!?」

無言で、にこりと寒気がするような笑顔を浮かべて、もはや塊と言った方が近い量のナイフを咲夜は投げてきた。かわす場所もなくして美鈴は立ちすくんだまま、諦めた顔で笑う。ナイフ越しにひらひらと手を振りながら咲夜が笑っていて、体中をすりつぶされたような心地がした。


十六夜咲夜が好きで好きでどうしようもないのだ、と言っても言わなくても苦しいのには変わりがない。ぬるま湯のような幸せだった日々を自分で壊すその時を想像して、僅かに美鈴は震えた。
・初投稿です。よろしくお願いします。
・短くてすいません…プチの方と迷ったのですが…
・バレンタイン全力でスルーですごめんなさい
・美鈴と咲夜の、種族とか年とか立場とかが複雑すぎて好きです
タツアキ
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コメント



0.1610簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
さくめーはいいものだ。どうしようもなく寿命が違うからどうにもやるせない気分になりますが、それでもいいものだ

しかしこれは咲夜さんサイドが気になりますね。美鈴の質問をどう思っているのか
6.100白徒削除
>・美鈴と咲夜の、種族とか年とか立場とかが複雑すぎて好きです
俺も好きだぁあああああっ!!
ふふ、最後の1文になんかこう、ゾクッとキました。
16.80煉獄削除
短いながらも美鈴の咲夜さんへの想いが詰まっているようでした。
面白かったですよ。
21.90名前が無い程度の能力削除
続編希望と言ってみる。
26.無評価タツアキ削除
まさか1000点超えるとは思ってもいなかったので、とてもうれしいです。ありがとうございました!

今は続編というかこれの咲夜さんverをもそもそ書いてるのですが、長いものが書けない割に筆が遅いので気長に待っていただけると幸いです。
29.80名前が無い程度の能力削除
これはいいめーさく。

プチにするか否かは著者次第だろ。長さは関係ない。
ってもこーが言ってた。