Coolier - 新生・東方創想話

お菓子の日

2009/02/12 23:50:24
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射命丸文は眼前に集う少女達を見て満足そうに頷いた。知名度の低い新聞、立地条件の悪い店。
参加者は集まらぬかとも彼女は覚悟していた。しかしそれは誤算であった。
「バレンタイン講座」と銘打たれた会の参加者は比較的多数であった。
陽暦二月十四日に行われる、主として女性が男性にチョコレートを送るという微笑ましいちょっとしたお祭りの日を商売に利用する手法は、ものの見事に成功した。

幻想郷の少女達は恋に無縁であるような輩が多いということ、
幻想郷においてチョコレートを作ることの難しさ、
そしてこの店の持ち主が頑固であることの三点が文の心配事であったが、それらは杞憂に終わったようである。

前者二点はバレンタインデーの意味を「好意を持っている者に菓子を送る日」とぼかす事で解決した。
しかし後者が難儀であった。今も仏頂面で腕を組んでいる男、森近霖之助は文が思っていた以上に頑固で己を曲げぬ男だったのだ。
ここは道具屋だ、道具以外を扱うつもりはない、霖之助はそう言って頑なに首を横に振り続けた。
参加費を取れば儲かるだろうにと唆しても無駄であった。利益よりも店の在り方が重要なのだと彼は断言した。
新聞は真実を求めるものであるとの考え方を決して曲げぬ文にしてみれば彼の考えはよく分かるものなのだが、今回の件に限るのであればそれは困った問題であった。
彼の賛同がこの講座の必要最低条件であった。そもそもバレンタインデーという日のことを彼女に教えてくれたのが霖之助なのである。
故にバレンタインデーを説明できる者が彼をおいては他に居らぬのだ。
議論は平行線をたどったが、結局は包装紙を売れば一応道具屋の面目は立つとの事で霖之助が折れる事となった。
彼自身は、誰も扱い方が分からず困っている道具を扱うのが香霖堂だ、と今も不服気味であるのだが。
しかし、贈り物を綺麗に包む風習があまり浸透していない幻想郷において、それを広めるのも一興ではないかとの文の意見にも一理あると彼は思ったのである。
参加するとなれば彼も商人。道楽と呼ばれようとも意地はある。霖之助は最高の包装紙を用意してこの会に臨んでいる。

「それにしても、驚いたよ」

霖之助はすっかり様変わりしてしまった店内を見つめて、そう言った。薄暗く、乱雑に商品が転がっている店は今は無い。
その代わりに、不可思議な形状のキッチンのようなものが備え付けられていた。文はにやりと頷いた。

「河童の技術力を確認するだけでもこの会は意義のあるものだと思えませんか?」

霖之助は肩を竦めた。内心その通りだと思っているのだろうが、負けを認めるのは口惜しいのであろう。意地っ張りな男だと文は苦笑した。
そんな彼女の隣には水色を基調とするゆったりとした服を纏った少女が居る。髪もまたその服の色を反映したかのような色だ。

「へへ。そこまで言われると照れるなあ」

頬を掻きながらそう言う少女の名は河城にとり。そのだぼだぼに見える服や大きな緑色のリュックには工具が山のように入っている。
エンジニアである彼女には香霖堂はまさに夢のような場所であった。
実はパソコンなども解体してみたいなどと思ってはいるのだが、人見知りをする性質なのであろうか、なかなか言い出せずにいるようだ。
今は自分たちの技術力が認められて単純に喜んでいる様子である。持ち運びできるキッチンなど霖之助は聞いたこともなかった。
一体全体排水はどうなっているのであろうか。どこからエネルギーを得ているのであろうか。全ては謎であった。
香霖堂に置けば飛ぶように売れるだろうにと彼は思う。だが妖怪の山は閉鎖的な種族が多く住むためそれは望めまいと彼は諦めている様子だ。
因みにこれらの道具を運んできたのはにとりでもなければ当然文でもない。無論霖之助であるはずもなく、

「結局、雑務は全部私の仕事か……」

いつもの衣装にエプロンと三角巾をつけくわえた白狼天狗、犬走椛は大げさに嘆息した。
基本的に人の頼みを断れぬ性格をしているのか、はたまた相手が文であるためか、彼女もまた不承不承これに参加した部類であるようだ。
道具運びから菓子作りの指導まで、全てを椛が兼ねるとの事である。
因みに霖之助も文も料理は人並みに出来るのだが、
前者は男が作ってどうする、後者は事件を待つのが仕事です、と見事な亭主関白ぶりを発揮してこの会には直接参加しないつもりのようだ。
勿論簡単な説明は行うが、それが済めばそそくさと奥の間に撤退して酒盛りをはじめるつもりである。
菓子が完成すれば霖之助が包装紙を売りつけ、大音量が鳴り響けばカメラを片手に文が飛び出す。そういう予定である。
ちなみにあれだけ反対していたというのに霖之助はちゃっかり参加費も取っている。本人曰く臨時収入とのことだ。
にとりは技術者であるため、無論料理には口出しすることない。
今回の彼女の参加は自分達がつくった道具のテスト、そして外界の道具を扱うという河童垂涎の道具屋の店主との人脈作りが目的である。
ただ、つくった道具に関しては絶対の自信があるのか、はたまたただ単に怠惰なだけなのか、彼女もまた奥の間でまったりするつもりであるようだ。

つまり働くのは椛一人ということになる。それほど大変な仕事ではないとのことだが、それでもなおやはり腑に落ちない。
このぐうたら三人組を見ているとどうしても何か言いたくなる彼女であった。
しかし、と椛は集った少女達を見やる。
参加者が色恋に狂った女共であるならば椛も文句の一つは垂れたかも知れないが、目の前の少女達を見ているとそれも出来そうになかった。

一人はあの迷惑な妖怪の式の式、橙である。主人の胡散臭さとは正反対に、実に純真そうな子だと椛は思った。
未だ八雲姓を持たぬ事から推すに未熟なのであろうが、その一生懸命さには共感を覚える。
恐らく世話になっている二人にお礼の意味を込めてお菓子を作りたいのだろう。そう思ってなけなしの小遣いを持参してきたのであろう。
よろしくお願いしますっ、と元気いっぱいに頭を下げる彼女を前にして、つんとした態度を取るわけにもいかず、椛は曖昧に笑んだ。
その時霖之助は、そもそも紫や藍に運良く遭遇できるのか、と現実的かつ空気を読めない意見を呈そうとしていたのだが、文の殴打により事なきを得た。

二人目はなんとも愛らしい人形の妖怪、メディスン・メランコリーだ。
聞くところによると、今まで世話になった――特に永遠亭に住む人々へ友愛の気持ちを伝えたいとの事だ。
結構なことである。まだ生まれて間もない妖怪だと聞いていたが、しっかりとしている。少なくとも文や霖之助よりは真面目な妖怪だと椛は思う。
毒を操る能力の持ち主という点が少々気がかりではあるものの、それでもなんとかなる、いや、してみせるとの意気込みが彼女にはあった。
椛は勿論そんなやる気を前にして仏頂面をするわけにもいかない。

さて、三人目は人里で皆に慕われる教師、上白沢慧音である。今は霖之助と談笑している彼女だが、作ろうと思っている菓子の数は誰よりも多い。
教え子の家を一軒一軒尋ね回って手渡しするとのことだ。一つ一つに心を込めると、彼女は真面目な表情でそう語った。
固い性格をしていると一目で分かるというのに子供達に人気がある理由が椛にはなんとなく分かった。
お菓子くらい一人でも簡単に作れるだろうに、
バレンタインデーの歴史について真摯に耳を傾け、わざわざメモまで取っていたのは彼女くらいのものである。その熱意に応えねば、と椛は身を固くした。

そして、四人目と五人目なのだが――。椛は表情が引きつるのを禁じ得なかった。
両人とも、不可思議なお面を身につけているのである。片方は『F』と洒落た字で描かれた面、他方は『R』と流れるような筆致で描かれた面を被っている。
一方の少女の背には他の誰も持たぬような奇怪な羽があり、もう一方の少女はステレオタイプなこうもり羽を背負っている。
正体など推すまでもない。霖之助と文は即座にその正体を見破っていた。
吸血鬼の姉妹、即ちフランドール・スカーレット及びレミリア・スカーレットであろう。
何故わざわざ面を被っているのか、そもこの者達は誰なのか、未だ椛には正体が掴めぬらしい。
また、それは二人にしても同じ事なのか、互いの存在に気が付かぬまま、和気藹々と会話を楽しんでいる。
普通気づくだろう、と霖之助は突っ込みたかったのだが、文にそれを禁じられてしまった。曰く、今日一番のネタになる、との事である。

やれやれ、と自分の疲れ果てた表情を見せつけるつもりで椛は後ろに居るであろう三人を頭に思い描きながら振り返った。
しかし、そこに人影はない。奥の間の前に、靴が三人分転がっていた。椛は前を見た。真摯な目で五人の少女がこちらを見ている。
椛はまた大きく溜息を吐いた。そうして、彼女にとっての長い長い一日が始まった。
















「いやあ、店主さん。あの時の椛の顔見ました?」

「ああ。見たからそんなにはしゃがないでくれ。あちこち文献を積んでいるからね」

「あやや、失礼失礼」

椛の心労など何処吹く風、お気楽三人組は卓袱台を部屋の中央にどすんと置いてそれを囲う。
初めてここを訪れたにとりの表情は未だ硬いが、数年来の付き合いである文と霖之助は打ち解けた雰囲気だ。
特に文よりも霖之助の方が気を置いていないようである。
文々。新聞にも彼のコメントが散見されるが、大抵の場合のりのりである。
本人達の会話においてもそれは同じことであり、霖之助がとぼけた事を言い、文がそれに対して突っ込むと言った調子だ。
彼を良く知る人々にしてみれば珍しいことだと思えるだろう。因みに、対する文は特に他の人と話す場合と霖之助と話す場合で態度を変えてはいないようである。
今は一応仕事をしているということもその理由の一端であろうか。
公私混同をするか否かが二人の相違点であるようだった。

「しかし、思った以上に集まりましたねえ」

「僕の店の評判が上がったということだろう」

霖之助はうんうんと頷いた。

「いえいえ。私の新聞も順調に発行部数を伸ばしていますよ?」

「やはり店主が良いからね。着実に客が増えるのも当然のことか」

「人の話は聞きましょうよ」

興が乗ってきたのか一人で納得している霖之助を見て文は苦笑いを浮かべた。
にとりはきょろきょろと忙しなく奥の間の観察に勤しんでいた。
めぼしい道具は全て倉庫に収められているということで、目新しいものはなかったのだが、その中で唯一彼女の目を引くものがあった。
ストーブである。
それ自体は何も珍しいものではない。あちこちに転がっている外来の品だ。焦げ付きからして火を出す道具であろうとは推測していた。
だが実際に動いているのを見るのはこれが初めてであった。しかも、外と同じ原理で動いているのだそうだ。
にとりはそれについて尋ねたくて仕方がないのだが霖之助がいつまで経ってもそも香霖堂は云々、
という誰も聞いていない長話を止めないのでそわそわと手混ぜをするだけで声をかけることが出来ない。
そんな彼女を見かねたのか、文がすぱこん、と霖之助の頭を叩く。

「何をするんだ」

むっとして霖之助は文を睨め付けるが、文は気にせずいつもの笑顔でにとりを指した。

「いえ、さっきからこの子が何か言いたそうにしてましたから」

指さされたにとりはたまったものではない。まだどのように話を切り出して良いのか考えている途中だったので、大わらわである。
両手をばたつかせて、あわ、あわ、と言うだけだ。霖之助はその様子を興味深げに見つめている。

「なるほど、これが河童の川流れか。実際に川を流れてはいないがその様子がよく分かるね」

「それは違うっ!」

ちんぷんかんぷんな霖之助の言葉に、ばんっ、とにとりはちゃぶ台を叩いた。
どかん、がしゃん、という音が店の方から聞こえるが、文は見向きもしない。この程度の騒音は想定の範囲内なのであろう。
時折椛が誰かをどやしつける声も聞こえる。にとりは自分が怒鳴ったのが恥ずかしかったのか、こほんっ、と咳払いをした。

「いや、その。今のはちょっと焦ったんだよ、うん。でさ、私が言いたかったのは、その」

「何を言っているのかわかりにくいよ。もう少し考えてから発言してくれ」

霖之助はやれやれと溜息を吐いた。人見知りもここまで来れば少々傷つく。もう少しフランクに接してくれても構わないだろうに。
文も見かねたのかにとりの肩をぽん、と叩いた。

「深呼吸ですよ、深呼吸」

その言葉に頷いて、にとりはすう、はあ、と何度か深い息を吐いた。
そうやってようやく落ち着きを取り戻したのか、今度は滞りなくにとりは質問をすることが出来た。

「あの機械、動いてるのを見たことがなくてびっくりしたんだ。それで、何を燃料にしてるんだろうなあって」

なるほど、と霖之助は納得した。彼自身その燃料を紫から仕入れている身であるため、疑問はもっともだと思ったのだろう。
幻想郷ではお目にかかれない品であることも手伝って、河童には馴染みのない液体であるに違いない。

「言葉くらいは聞いたことがあるだろうが、灯油だよ。このストーブはそれを燃やしてこのように部屋にあたたかさをもたらしてくれる。
因みにこのぱちぱちという音が実に風流だと僕は思う」

「私も思います」

霖之助の言葉に、にとりは感心したように手を打った。文の合いの手は無視されたようだった。

「灯油かあ。見ても良い?」

やや厚かましいその質問と、先程まで見せていた内気にも見える性格との差違に、
河童という種族についての書物をなんとなく思い出しながら、霖之助は答えた。

「ああ、構わないよ。ただし今は駄目だ。火を消した後でなら勝手に見てくれていい」

せんべいに手を伸ばす文の手をぱちん、と叩くのを見てにとりは苦笑した。
気難しい男だが話が分からないわけではなさそうだと判じたらしい。
ただ、とにとりは思う。こういう奇っ怪な男と文がしているような親密な付き合いは出来そうにない。
嫌いではないのだが、このような類の男はにとりは少々苦手のようだった。出来れば奥の間に上がるのは今日限りにしたい、などとも考えていた。
そんなこんなでややぎくしゃくとしながらも和やかに時間が過ぎていたのだが、それは途端に打ち壊される事となる。

奥の間が空くや否や、

「ええい、他の人の迷惑だと言っているだろう! 少しそこで反省していろ!!」

という椛の怒声とともに、少女が一人奥の間に放り込まれてきた。異形の羽、華奢な足。金の髪。間違いなく、それは仮面少女「F」であった。
幼く愛らしい容姿に似合わぬその意味不明な仮面に、訪問時に嫌と言うほど笑ったにもかかわらず霖之助とにとりは硬直した。面白い物を好む文の表情ですらやはりやや硬い。
「F]は尻を打ったのか、うう、と唸りながらその部分をさすっている。いち早く我を取り戻した霖之助は、ふう、と息を吐いてせんべいを囓った。
そして、右手の肘をちゃぶ台に突いた姿勢で、やや前傾に身を乗り出して尋ねる。

「その変なお面は何の象徴なんだい、フランドール」

直球であった。何の捻りもない質問であった。あまつさえ何の躊躇もなく匿名希望の訪問客の名前を口に出した。
森近霖之助は今日もマイペースのようである。対する少女も少女で、

「ええっ、何でバレたの!?」

などと、とぼけることすらせず素直に驚いている様子だった。

「バレるもバレないもありませんよ。そんな型にはまった変装……」

文は呆れたように言うのだが、少女「F」――改めフランドールはお面を取るのに四苦八苦しながら反論する。

「だって、変装はこれで完璧だって咲夜が言うんだもん――あいたっ! いたたたたた! 髪が紐にからまったーっ!」

言葉の途中で畳を転がり、目に涙をうっすらと浮かべている少女に吸血鬼としての威厳は全くなかった。
どうやらこの怪奇にして単純明快な変装はあのメイド長の立案らしい。霖之助はとりあえず、と快音を立ててせんべいを囓った。
文が物欲しそうにしているが彼はそれを無視した。

「あの子は頼りになるようで案外抜けているところがあるからね。信頼しすぎるのもどうかと思うよ」

「あなたの蘊蓄と同じですね」

むくれた文の茶々に、霖之助はせんべいの置いてあった盆で頭を殴打することを以て反撃とした。文はへらへらとしている。

「ま、咲夜はどーでも良いんだけど……」

フランドールは話題を転換した。子供の無邪気さは存外残酷なものだとにとりはしみじみとそう思った。

「ねえ香霖堂、バレンタインデーって前に教えてもらった事があるけど、こーいう日のことを言うんだっけ。
なんか、今日の説明はちょっと違ってた気が――」

「あなたの勘違いですよ」

文は営業用の笑みと共にフランドールの言葉を封じた。

「でもなあ――」

「君の勘違いだよ」

どこからかべっこうあめを取り出し、霖之助も文に続いた。

「汚いなあ」

にとりがしみじみとそう言うが、誰も取り合わなかった。

「というかですねえ」

文は筆記具と文花帖をいそいそと取り出しながら問う。

「店主さんも言ってましたけど、その格好は何なのですか。
わざわざ変装などせず堂々としていればいいでしょうに」

それに対し、フランドールは苦笑して言う。

「あいつにばれるとちょっと厄介かなあ、って」

む、と文は小首を傾げる。

「あいつ、とは?」

「紅魔館のお嬢様だろう」

ずず、と茶を啜りながら霖之助が応える。フランドールもそうだよ、と肯定した。

「今日……今日になったばっかりの本当に真夜中なんだけど、ちょっと派手に喧嘩しちゃって。
それで謝ろうかなあ、でも恥ずかしいなあ、って悩んでたら咲夜がこの会を紹介してくれたのよ」

ありがちだな、姉妹喧嘩は門番も食わぬ、と人情味の欠片もない店主と記者が言い出しそうだったので、ぐいぐいと二人を押しのけてにとりが問う。

「それで? ちゃんと許可はもらってきた?」

「……あいつからはもらってないけど」

ぷく、とふくれる少女の頭をばむばむと叩き、破顔一笑してにとりは言った。

「構いやしないさ! 兄弟喧嘩姉妹喧嘩は原因がどうでも年上が罰を受けるって相場が決まってるんだ。
それに、こんな可愛い妹さんならお姉さんも許してくれるって。なっ、二人とも!」

にとりの笑顔が眩しい。その眩さに、霖之助と文は思わず目をそらした。

「どうだろうねえ」

「何せ、あのレミリアですからねえ」

世界は私のものだーっ、と平気で言い出しかねない、今は「R」の仮面を被っているのであろう少女を思い、二人は韜晦するようにずず、と茶を啜った。
これでレミリアがここに来た大凡の理由も見当が付いた。
案外詰まらない展開ですねえ、と文は文花帖をしまい、霖之助は端から興味が無いのかてかてかと手沢の光る古書を広げる。
残されたにとりはたまったものではない。

「だ、大丈夫大丈夫! あそこの二人はああ言ってるけど絶対許してくれるって!」

「……うー」

フランドールは上目遣いににとりを見上げながら唸った。

「ほ、ほら! 二人のせいで何か沈んじゃったじゃないか!」

「へえ」

「ほう」

二人の答えはにべもない。ただ、霖之助の表情がやや不審そうに動いたのは気がかりであった。

「とにかく、絶対大丈夫だからさ!」

「でも、外に出ちゃ駄目だって――」

「椛にも許してくれって私が頼んでやるから! 行こう!」

ドラマだねえ、青春ですねえ、と失笑する二人を見て、にとりは決意した。絶対こいつらの尻子玉抜いちゃる、と。
兎にも角にも、にとりは何とかフランドールをなだめ、すかして奥の間から外へ連れ出していった。
がちゃん、と戸が乱暴に閉じられたのを確認し、霖之助はおもむろに下足を、文は一升瓶をそれぞれどこからともなく取り出した。

「そういえば、店主さん」

霖之助に呑ませるつもりはないらしく、瓶を両手で持ってラッパ飲みしながら文が問う。

「さっき一瞬、妙な目つきになりましたよね」

笑顔ではあるが詰問調の文に、抜け目ないな、と霖之助は舌を巻いた。

「いやなに。フランドールはああ見えてかなりのお転婆娘だからね。喧嘩したその日のうちにあそこまでしおらしくなるのは妙だと思っただけだよ」

そのように言うと、文は、むぅ、と目を細めた。

「つまり彼女のアレは演技だったと?」

霖之助はゲソを囓っていたが、苦笑して左手をひらひらと振った。

「それは無い。天狗を、それも射命丸文を騙し通すような技術をあの子は持たない」

「ですよねえ……」

一転して文は脱力したようになる。その様子を見て、霖之助は軽く息を吐いた。

「大事件や怪事件なんてそう簡単に起きる筈がない。期待するだけ馬鹿を見るだけだよ」

「はいはい。分かってますよ」

説教はこりごりだ、と言わんばかりに文はしっしっと霖之助を追い払う仕草をとった。
流石の彼も少々かちんときたのかやや腰を浮かし――

「摘み食いをするなッ! 出ていけバカ共!」

椛の手によって放り込まれた少女二人の頭突きを受け、見事ちゃぶ台の中央に顔面を叩き付けるに至った。ごぉん、と鈍い音が響く。

「……僕が、何をした」

至極もっともな繰り言と共に霖之助は額をおさえて顔を上げる。眼鏡は無事であった。
彼が、はてさて自らの背に痛烈な一撃を放った馬鹿は誰であろうか、と振り返ってみると、
そこには目をぐるぐる回して倒れ伏している緑のリュックサックと黒い羽をばさばさ忙しなく動かしている「R」仮面が転がっていた。
二人は痛む頭をさすりながら起きあがり、恨みがましげな上目遣いで霖之助を睨め付けた。

「さっさと退いてくれよ、ぐずだなあ」

「全くね」

随分と口の悪くなったにとりに、霖之助はげんなりとする。河童の口調はころころ変わるというが、まさかここまでとは――。

「で、レミリアににとり。僕に何か言うことがあるだろう?」

ふうむ、と二人は顎に手を当てて考える。

「ぐず」

「のろま」

打ち所がかなり悪かったのか、二人の目にはうっすらと涙すら浮かんでいる。しかしそれは霖之助にとってはどうでも良いことだ。

「というか今、「R」仮面さん自分がレミリアだって認めちゃいましたね」

「……ぁ」

仮面に隠れて見えないが、そのマヌケ面は容易に想像しうる。妹とほぼ同じ手法にひっかかるとは、やはり姉妹だなあと文は少し微笑ましく思った。

「くそぅ……咲夜はパーペキだって言ってたのに」

仮面を外しながらレミリアはぼやいた。どうやら彼女をさしむけたのもまた咲夜らしい。紅魔館はいつも通り策謀が渦を巻いているようだ。
未だに痛む頭をさすっているレミリアに、霖之助は仏頂面をして言う。

「あなたより咲夜が来た方が美味い菓子が出来そうなものですが」

上手い誘導尋問だ、と文は親指を立てた。レミリアはうーむ、と唸った後で答える。

「ま、アレだねえ。うちの愚妹が身の程知らずにも喧嘩を挑んできたからけちょんけちょんにしてやったけど、
ここで優しさをアピールして姉の偉大さを見せつけてやろう大作戦。だから咲夜じゃなくて私が来ないと駄目なのよ」

これまたいつも通りの偽悪者ぶりに二人は苦笑する。仲直りしたい、後悔している、という空気が彼女から滲み出ていた。
霖之助は欠伸をかみ殺しながらレミリアを半眼で見やる。

「聞いてもいないのに良く喋りますね」

「どこぞの店主さんみたいですねえ」

お盆が舞う。快音が響く。文はへらへら笑っている。

「とにかく、そういうことで辛いケーキでも食わせて許してやろうという訳よ。あいつがもだえる姿が目に浮かぶわ」

妹より狭量の姉が此処にいた。それともこれも強がりであろうか。
自身に対する絶対の自信は有事の際は頼もしいが日常に埋没すればごらんの通りである。
しかし、ここまで聞いてしまうと色々と気になってくるのが性であり、

「そういや、喧嘩の原因って何なのさ」

にとりがそう問うのもごく自然な成り行きであった。レミリアは、よくぞ聞いてくれた、と服の内側をごそごそとまさぐり――

「これよ!」

そう言って一枚の紙を取り出した。三人はそれをのぞき込み、そしてはてなと首を傾げた。
そこにはアバンギャルドな手法で何かが描かれていた。線は不自然に揺れ動き、所々霞んでいる。描かれているのは実に不安感を誘う、何か、としか形容のしようがないものだ。
もしかして、とにとりは笑みを引きつらせる。そして、絵を指さし、次にレミリアを指さした。
レミリアは、難しい表情で、うむ、と頷いた。

「あいつ、私を夜中にたたき起こしたと思ったらこんな絵を叩き付けてきたのよ。お姉様を描いてみた、とか言って。
これが絵が下手くそな妹が頑張って書いたっていうんならともかく――」

「明らかに故意としか思えない構図ではあるね」

冷静に霖之助はそう感想を述べた。そうなのよ、とレミリアも頷く。

「ま、こいつが私にちょっかい出してくるのはいつものことだし。
喧嘩もたまにやらかすしね。お互いのストレス解消には丁度良いわよ。
仲直りも大切だし、今回みたいのは有り難いわ」

「そりゃどうも」

文はぺこりと頭を下げた。霖之助は場所を貸しているに過ぎないので特に何かを言うことはなかった。
さて、とレミリアは再び「R」の仮面を被る。

「私もいきなり飛び出して来たからねえ。万が一フランドールにバレたら癪だし……あんた達も私が来てるって絶対言うなよ?」

「言わない」

「言いませんよ」

霖之助と文は真剣な表情で頷いた。見事なポーカーフェイスである。

「そんじゃあ、またちょっと頑張ってくるかなあ」

うーん、と背伸びをしながらレミリアは立ち去っていった。
紙は、にとりに手渡したまま、受け取ることはなかった。
こんなものを渡されてもどうしようもなく、にとりは呆然とするしかなかった。
彼女の後ろ姿を見送った後で、ううん、と霖之助は低く唸った。

「納得いかないな」

何がですか、と問う文に、霖之助は難しい表情をして述べた。

「喧嘩の動機がいつも通りだからね。フランドールがあんなに落ち込むなら、何か然るべき理由があると思ったんだが……」

彼はちらりと絵を見やった。そこには化け物としか思えないものが描かれていた。とてもとても、真面目に姉を描いてみた、とは言えぬ代物である。
その絵は、悪戯の産物以外の何物でもないように見える。

「これは、何かあるかもしれませんねえ」

文もまた、ううむ、と腕を組んで悩み出した。
にとりは、とりあえず切れ者二人が姉妹喧嘩の解決に荷担してくれるようなので、少しだけ嬉しかった。













犬走椛は、ふぅ、と額の汗を拭った。橙とメディスンの両人は和気藹々と言葉を交わしながら切磋琢磨しているようだ。
慧音は最初から心配していなかったが、やはり大量の仕事量をてきぱきとさばいているようであった。
問題は、と椛は唸る。「R」仮面と「F」仮面。正体不明の少女二人(椛には未だ正体が掴めぬらしい)は料理の才能が壊滅的であった。
前者は破壊工作に力を入れるばかりで料理の練習をするつもりが全くないようであるし、
後者は力加減が分からないのか慎重に慎重を重ねて器具を扱うあまり作業が遅々として進まぬようであった。
前者、即ちレミリアはトラップ付きの菓子をつくる予定であるし、
後者、即ちフランドールは道具を使うことに何故だか少々の不安を感じているようなのである。
ちらりと時計を確認する。正午をとうに回っている。各々勝手に休憩をとるようにと言ってはいたが、自分が休んでいない事に気が付き、椛はどんよりと溜息を吐いた。
そろそろ休ませてもらっても良いだろう。いい加減奥の間でのんびりとしている彼らにも文句を言うべき時だ。
そう決断し、椛は疲れた体を引きずって、奥の間の戸を開いた。

「……は?」

そこは、異質な空間であった。努力と可愛らしい雑談に満ちた店内の甘い雰囲気が、酒臭さに押し流されていくのを椛は感じた。
だが、最も妙なのはその空気の中に佇む三人が三人とも素面であることだ。顔に朱がさして居る者すら居らぬ。
皆真摯な表情で何やら語り合っている様子であった。とりあえず、椛は下駄を脱いで奥の間にあがった。それに気が付いたにとりが早速声を掛ける。

「へえ、エプロンとお菓子の汚れが似合ってるなあ」

本当に感心したようなその言葉に、椛は、へへ、と照れて頭を掻いた。悪い気はしなかった。

「ああ。良い母親になるだろうね」

「おだてるな」

霖之助の言葉は軽く流した。こいつに構っても良い事はあんまりないぞ、と椛は思っている。
一応信頼はしているが、信頼と友愛は別物である。

「そういえば、椛」

文がぴん、と指を立てて尋ねる。

「あの先生は大丈夫なんですか? たくさんお菓子を作る必要があるとの事でしたが」

ああ、と椛は頷いた。

「なんでもクッキーを作るそうで。一人一人きちんと包装して持って行くと言っていました」

霖之助の体がぴく、と反応した。分かりやすい奴だな、と椛は苦笑する。
きっと自分が作った包装紙を自慢したくて自慢したくてたまらないのだろう。
それこそ濁流のような勢いで語るのだろうなあ、と椛は数時間後に見られるであろう情景を思った。

「そういえば、霖之助」

「なんだい?」

カップ酒に古本という取り合わせに、らしいな、と思いつつ椛は質問する。

「メディスンと橙はよく一緒にここに来るのか? やけに仲が良かったが」

へえ、と霖之助も意外そうな表情を作った。

「仲良くなったのはここに来てからだろうね。少なくとも二人で一緒に来店したのは見たことがないよ」

「へえ。意外だな」

とても良い雰囲気だったのだが、と椛は目を丸くする。

「でも、本当に良い子達だぞ。料理も最初はへたくそだったんだが、頑張って今じゃあちゃんと食べることのできる物が作れるようになってきたしな」

「僕には君が料理出来ることの方が驚きだよ」

「……一度その頭をかち割った方が良さそうだな」

「遠慮しておこう」

霖之助はぺいぺいと手を振った。この仕草は文もよく行うので、もしかしたらどちらかがどちらかを真似たのかも知れぬと椛は思った。
とりあえず疲れを取るためにここに来たので、椛はどっこいしょ、というやや古くさいかけ声と共に畳に座り込んだ。

「そういえば、やっぱりどうしても気になるんだが……」

服の乱れをただしながら、椛は言う。

「あの「F」と「R」、一体何者なんだ?」

ぶっ、とにとりが酒を噴いた。どうやらむせたようである。アルコールのもたらす特有の熱が妙なところを刺激するのか、喉をおさえて苦しそうにしている。
因みに文と霖之助はその噴霧を見事に回避していた。

「まあ、椛は知らなくても良いかも知れませんねえ」

文はのんびりとそんな事を言い、椛はそうですかと納得した。
下っ端故に知りたくとも知ることが出来ないという経験が多々あったのであろうか。ひどくあっさりとした諦め方であった。

「まあ正体はともかく、二人の馬鹿騒ぎはちょっと困る」

自身の汚れたエプロンに視線を落とし、椛はそう言った。にとりは少々不思議に思って尋ねた。

「そういう風に聞いてると、なんか二人が仲良さそうだなー、とか思ったりするけど」

ん、と椛は頷いた。

「かなり仲が良いみたいだよ。「R」はふざけてて、「F」は真面目にやってる所とか見ると、性格は結構違うみたいだけどね」

職業柄か、性格故か、椛の態度は三者それぞれに対して違っていた。文には敬意を、霖之助には対等者意識を、にとりには友情をそれぞれ示しているようである。

「しかし、仲が良い……ねえ」

きしし、とにとりは笑った。やっぱり良い姉妹じゃないか、と。
しかし、あの二人は憎まれ口をたたき合いながらも本当のところは仲良しこよしであることを百も承知の霖之助と文にとって、そのような些事はどうでも良いことであった。

「仲が良いのはまあ構わないが、もう少し真面目にやってくれたらなあ」

ぼやく椛に文が言う。

「そもそも幻想郷で真面目に何かに打ち込む馬鹿はそんなにいませんよ?」

ぐ、と椛は言葉に詰まった。事実上の馬鹿者通告であった。

「まあ、その直情は美点でもある」

霖之助はそう前置きし、

「だからそろそろ仕事をしておいで」

自身は悠然と畳にあぐらを掻いてそのような事を言った。椛は感情に身を任せ、電光石火の勢いで抜刀し、彼の頭を打った。
空を切る音は、ひゅかっ、という何とも気の抜けたものであった。刀もこのように遣われてはたまったものではないということであろうか。

「まあ、仕事は仕事でやってもらいますけど、取り敢えず聞きたいことがあるんで店主さんは黙ってくださいね」

文は怒る椛に助け船とも引導とも分からぬ台詞を突きつけた後、ちゃぶ台の上に広げていた絵を見せた。

「コレ、どう思います?」

いきなりなんなんだ、と文句を言いたいのをこらえ、椛はとりあえず絵を見やる。
何とも前衛的なその意匠である。何時も通り自分をからかいたいだけなのだろうか。それとも本当に尋ねたいことがあるのだろうか。彼女は、ううむ、と唸った。
とりあえず思った事を口にしよう、と椛は決断した。

「鉛筆画、ですよねえ。それにしては線が太すぎるところもちらほらですけど。ただ、相当気合いの入った絵ではないかとは思います。
いえ、私には絵のことなどよく分かりませんが」

「いえいえ、十分ですよ」

文は絵をちゃぶ台に置いた。フランドールがこの絵を頑張って描いたというのはこれでもう間違いなさそうだ。
しかし、必死になってこのような意味不明の作品を仕上げようとする意図が読めない。
レミリアが怒り出すことは当然理解できていた筈である。急に芸術に目覚めたとでもいうのだろうか。いや、それはあり得ない云々云々……。
ちらりと横を見てみると、霖之助もまた思い悩んでいるようで、文は苦笑した。
彼はどうせ、フランドールのこの絵が象徴するものは何か、世の破滅ではないだろうか、などとてんで的はずれな方向に思考が飛んでいっているのだろうけれど。
少しだけその思考が見てみたいと文は思った。きっととてもとても愉快な事であろう。

「それでは」

椛は立ち上がった。実は彼女はずっと正座であった。文さえ居なければストーブの前でごろごろ出来たのになあ、などと思っていたのは勿論おくびにも出さない。
天狗は社交の術に長けているのだ。

「皆も待っていると思いますのでここで――」

その時、どぉん、という大音声が戸の向こう側から響いてきた。椛は剣の覆輪と柄に手を当て、にとりはびくりと震え、
待ってましたと文は立ち上がり、やっぱりこうなったかと霖之助は頭を抱えた。
緊急事態にこそ人の本性が出るという。この場合まともなのは奇しくも霖之助であった。にとりがまともなのは当然述べるまでもないことであるが。

「こらっ、誰がやったんだ!」

抜き身の刀をひっさげて、まさに押っ取り刀(実際は「押っ取り」ではないのだが)の椛を見やり、文もまた元気よく駆けだした。

「さあ、お二人も行きましょう!」

残った二人は、淀んだ溜息を吐き、ゾンビか何かのようにのそのそとついてきた。

















菓子の匂いが酷い。あちこちに薄力粉だか強力粉だか知れない何らかの粉がこびりついている。想定内の最悪のパターンだ、と霖之助は呻いた。追加料金を取るしかないな、と。
受領は倒るる所に砂をも掴め。転んでもただでは起きぬ商人根性はさすがであった。因みに受領と商人には何の繋がりもない。あしからず。
はてさて、どうやら先程の爆音の原因はケーキの中に時限爆弾をしかけたレミリア改め「R」らしい。
火薬の量が少なすぎたか、などとぼやいているあたり、反省が足りていないようだ。
菓子と硝煙の臭いは予想以上にきつく、霖之助は一大決心を固めた様子で、ごくりと唾を呑んだ。

「これは……消臭剤を使うしかないな」

文は、ああ、また始まったな、とお手上げのポーズをとったが、
にとりと椛は彼の話に興味を抱いてしまったようである。二人とも視線を霖之助に移した。

「消臭剤……だと?」

「店主さん。何なのさ、それ」

二人の神妙な表情に、霖之助も苦々しい表情で額に浮かんだ冷や汗を拭い、頷く。

「確かにその名は消臭剤。臭いを消し去ることの出来るアイテムだ。因みに香のように他の香りで悪臭を掻き消すわけではない。本当に臭いそのものを消し飛ばすんだ」

そこまで言って、霖之助は首を横に振った。絶望的な表情だった。

「いや、違うな。あれは、臭いを消すんじゃなくて、吸収するんだよ」

「吸収、だと?」

「どういう意味さ?」

どこか禍々しい響きをもつ吸収という言葉のためか、霖之助が身構えるのももっともだ、と二人は思った。彼は腕を組み、語り始める。

「はじめは僕も風か何かを用いた道具なのだろうと思ったが、不思議なことに消臭剤を粉々にしても風を起こせそうな装置は見つからなかったよ」

「こ、壊しちゃったのか?!」

何て馬鹿なことを、と見上げてくる椛に、霖之助も苦虫を噛み潰したような様子で頷く。

「あの時は僕も愚かだった。まさか消臭剤の中核をなすものがアレだとは思わなかったんだ。知っていれば、僕はその危険性をもっと早く紫に伝えられただろうに」

因みに霖之助の持論を聞いた紫は抱腹絶倒だったという。

「しかして、その中核をなすという物は何なんだ?」

戦々恐々と尋ねる椛に、霖之助は一呼吸置いてかつては科学雑誌を並べていた棚のあった場所(今は橙とメディスンが悪戦苦闘している)を厳しい視線で射抜き、そして言った。

「ブラックホールだ」

沈黙が降りた。店内全てがその不穏な言葉によって無音の境地に達した。皆が料理の手を止めて霖之助を見やる。

「ブラックホールって、何だ?」

厳しい表情で問う椛に、同じ表情のにとりが答える。

「そういや、聞いたことがある。確かブラックホールは全てを呑み込む暗黒の石の塊だって」

その通り、と霖之助は頷く。

「その破壊力たるや、外の人々をもってして、生半可な掃除機では真似できない吸引力だ、やはりブラックホールは格が違ったと言わしめるほどだよ」

何っ、とにとりは目を見開いた。

「あ、あの吸引力が変わらないただ一つの掃除機でも太刀打ちできないってのか!?」

ああ、と霖之助は頷く。二人の言葉の意味が分からない皆も、何か難しく、深遠な事を話していることは理解できた。

「書物によれば、ブラックホールは光すら吸い尽くすらしい。その吸引範囲に近づいた者は、何人たりとも逃れられはしない」

じゃあ、と椛は問う。

「その消臭剤っていうのも何でもかんでも吸い尽くしちゃうんじゃないのか?」

然り、と霖之助は肯定した。

「目に見えないほど小さなブラックホールでも香霖堂程度なら丸飲みにするだろうね。だから、外の世界の人々は幾重にも魔法を重ねてその力を封じ込めたんだ」

「魔法?」

ああ、と霖之助はあの無害そうな外装を思い出しつつ、答える。

「触ったときに湿っていたから、おそらくは水に起因するのだろうね。
消臭剤は外の人間の努力によって辛うじてその内部の化け物を封じ込めている、危ういバランスの上に成り立つアイテムなんだ」

それじゃあ、とにとりが言う。

「あんたが消臭剤をバラしても無事だったのは――」

「運が良かったと言う他ない。安心してくれ。どこかに転がり落ちたであろうブラックホールは紫が処理してくれたようだ」

世界の終わりのような表情でブラックホールを消してくれと頼む霖之助を見たとき、紫は呼吸困難で危うく死にかけたという。
ここ数年で彼女を最も追いつめた男が、実は霖之助なのである。

「だから、実を言えば消臭剤なんてものは怖くて使えたものじゃないんだ。手元が狂えば世界の終わりだからね。だが――」

真摯な表情で霖之助は右手を握りしめ、宣言する。

「香霖堂を明日にも訪れるかもしれないお客様に迷惑をかけるわけにはいかない。だから例えこの身を危険にさらすとも――」

「使うのか?」

深刻そうに問う椛に

「ああ」

と霖之助は首肯した。事の重大さを理解したのか、皆の菓子作りに対する情熱は鰻登りである。
しかし、何故スペルカード戦のような緊迫した空気の中で料理をせねばならぬのかと文は苦笑していた。
まるで戦場に佇んでいるような気分である。だがしかし、幻想郷の少女達にそのようなシリアスな雰囲気を保ち続ける能力はなく、
慧音を除く皆がまたすぐに雑談に花を咲かせはじめた。文は何か面白い情報を得られぬものかと「F」と「R」の両人を注視していたが、

「頑張って作ったものは絶対認めて貰えるってよくいうけど……本当かなあ?」

「ええ。そんなのはどこにも欠損のない綺麗な真実に決まってるじゃない」

「……そうかなあ?」

「そうよ」

などとむせかえるほど青臭く、甘い話しかせぬのですたこらさっさと奥の間へ戻っていってしまった。出ていくのも最初なら戻るのも最初。それが文であった。











何人かは菓子作りも佳境ということで邪魔をしてはならぬと霖之助もにとりも引き上げたが、そこではじまるのはやはり酒宴であった。
山海の(山「海」の、である)珍味や、仰々しい銘の打ってある酒瓶が方々に転がっている。
文は寝転がり、にとりはちゃぶ台に伏し、霖之助は顔に広げた本を乗せ、それぞれ一端休憩をとっているようだ。
因みに、つまみが美味いために少々食べ過ぎたのが屍が累々としている原因である。酒を呑みすぎたためではない。
いくら酒で満腹中枢が鈍化しようとも、限度があるというものである。ぽん、ぽん、と大儀そうに腹鼓を打つ三者は実に幸せそうであった。が、

「あのー」

幼い声と共に戸に手がかけられた瞬間、彼らは覚醒した。
にとりは妖怪の山が誇るエンジニアに、霖之助は気難しく知性溢れる店主に、文は幻想郷最速の新聞記者にそれぞれ変身した。
某吸血鬼姉妹と違い、彼らの擬態は完璧であり、一片の隙も無かった。
なので。

「あれ、何かちょっと酒臭かったような……」

「あー。確かに、何かちょっと臭ったかなあ」

というメディスンと橙の問いに対しても、

「気のせいですよ」

と冷静に対応することが出来た。そうやって笑む三人の手には香霖堂謹製の消臭スプレーが握られていた。
本人曰く、消臭剤より安全で消臭力も高いが、最大出力のパワーでは劣るとのことだ。
ブラックホールの吸引力に霧吹きで挑もうとした豪気だけは評価に足るであろう。
文はカメラを取り出し、二人の元へと近づいた。

「はい。じゃあ出来上がったものを見せて下さい」

「あ、はい」

「どうぞ。なかなか美味しく出来たとおもうよ」

それぞれの菓子のできばえを写真に収めるのも参加条件の内であった。因みに包装が済んだものも撮る予定である。それは霖之助と文の間での協定だ。
文はこんな小さくて可愛らしい少女たちが何を作ったのだろうか、と興味津々だったのだが、二人が作った菓子を見て、うわぁ、と微妙な表情を作った。

「こりゃまた古風な……」

霖之助も熊か何かのようにのそのそとやってきて、それを覗き込み、

「ああ。またステレオタイプな唐菓子だねえ。紫のあの医者達も、昔を思い出して楽しんで欲しいという事だね?」

「えへへ。椛さんがアドバイスをくれました!」

嬉しそうに橙が言った。犬走椛、さりげなくオールラウンダー、ジェネラリストである。伯楽である文の目に狂いは無かったようだ。

「でも二人とも大丈夫なんですか? 渡すお相手、どちらも簡単に会える訳じゃありませんし。
唐菓子なら悪くならないので良いでしょうが……やっぱり今日中に渡したいですよね」

霖之助が事前に問おうとした際には口止めしたというのに今になってさも心配そうに問う彼女はさすがであった。
友達にはなりたくないよなー、とにとりは苦笑した。

「ま、あの迷惑な妖怪だったら呼べば出てきそうなもんだし、竹林だって最近は無敵の道案内がついたとかいうし、なんとかなるさ」

「ああ、あの忍者ですか」

「そういえばそういう伝承もあったねえ」

にとりの励ましも、どこか視点のずれた二人にかかれば台無しである。

「私だったら、竹林の妖怪なんていちころだけどねえ」

メディスンは自信満々にそう言うが、

「鈴蘭の季節はまだ遠い。大人しく彼女に頼るべきだよ」

霖之助はそうたしなめた。でも、とメディスンは渋ったが、仲間が欲しいのならそういう子とも知り合いになった方が良い、という霖之助の正論には勝てず、こくりと頷いた。
事実、それが最も安全に永遠亭に辿り着く方法であった。健康マニアの焼鳥屋。彼女にかかれば迷いの竹林など中有の道を行くが如しである。

「まあ、それはともかく」

彼はぱん、と手を叩いて自身に注目を集め、

「どうぞ。これが包装紙だよ。何か箱に入れた後に、これで包むと良い。殺風景な贈り物も随分華やぐだろう」

そう言って橙には薄い黄色の、メディスンには紫の包装紙をそれぞれ手渡した。

「わあ……すごく綺麗な色ですね!」

橙がその明るい発色に驚くと、霖之助はえっへんと胸を反らした。

「そうだろう、かなり努力したからね。花の色だけでここまで鮮やかに染まるとは僕もびっくりだよ」

呵々大笑する霖之助に対し、にやりと笑って文が問う。

「花、ですか?」

ああ、と霖之助は頷いた。

「知り合いから色がよいものをお裾分けしてもらったから、それを使って良い色を出そうと四苦八苦してねえ。
やっとこさ結論に辿り着いたところで、偶然やってきた魔理沙がこの色を出したというわけだ」

「それって、別にあんたは何もやってないような――」

「ところで、この包装紙だが」

にとりの疑問は黙殺された。文はくすくす笑っている。霖之助のヘマが面白くて面白くて仕方がないらしい。

「色だけじゃなくて、熱も圧力も水もものともしない究極の品だ。どんな極地においても立派にその役割を果たしてみせるよ。水なんか軽く弾き飛ばすしね」

「弾くんですかっ!?」

「ああ、すごいだろう」

霖之助は文の隣で益々天狗になっているようであった。鼻が伸びてもおかしくはない。

「でも、別にそこまで色々効果付いていても逆に困るよね。そういう紙じゃ紙鍋できないだろうし」

メディスンの言葉に、霖之助はぐう、と言葉を詰まらせた。紙鍋をしようにも水が弾き出されてはそれも出来ない。
撥水性が高すぎるのも問題だと霖之助は少しばかり反省をした。創意工夫を凝らしてでたらめに効果を注ぎ込むのも考え物である。
魔理沙の八卦炉についても少し考えた方が良いかも知れない、と彼は思った。
空気を綺麗にする機能はさすがに必要ないだろう。今度除いておこう、と。
数日後、彼は魔理沙をかんかんに怒らせることになるのだが、それはまた別のお話だ。
目覚めが良い、最近は空気が美味いと喜んでいた魔理沙のことなどすっかり忘れているらしい。

「では……」

メディスンと橙の両人から代金をもらい、(菓子を入れる箱と三百枚セットお徳用折り紙及びはじめての折り紙という古くさい本をセットにして売りつけた)霖之助はほくほく顔になった。
二人ともありがとうございました、と可愛らしく頭を下げて出ていこうとしたのだが、そこを文が

「ちょっと待って下さい」

と呼び止めた。二人は何だろうと思って首を傾げる。

「お二人とも、ちゃんとそれで箱を包めますか? 意外と綺麗にやるのは難しいですよ」

嘘である。簡単である。すこぶる簡単である。しかし、そう言われると不安になってしまうのが人情というもので、二人はどうしよう、と思い悩んだ。

「ほら、店主。出番だぞ」

仕事は終わった、とばかりにぼーっとしていた霖之助の腰をにとりは思い切り叩いた。
その一撃で我に返ったのか、彼はのそのそと二人に先程売りつけた紙と箱を受け取ると、ちゃぶ台に向かってちまちまと作業を始めた。
少女達と比べてずっと大きな背中を小さく丸めて箱を紙で包んでいる彼を見て、こんな奴が商売成り立たせる事が出来るのはなんでだ、とにとりは不思議に思った。
そんな疑問もなんのその、立派に商売が成り立ってしまうのがこの店の最大の謎であった。
文もそんな彼の姿を確認した後、それでは、と二人に向き直る。

「それでは、ちょっと時間が空きますので」

「もうできたよ」

「あ、き、ま、す、の、で!」

自慢げに菓子包みを見せびらかす霖之助に睨みを利かせた後、文はにこやかに笑って続ける。

「ちょっと質問を良いですか?」

両人はちょっとだけ怯えたようにこくこくと頷いた。文は少しだけ傷ついた。
しかし、そのようにばかりもしてはおれぬとあの絵を二人に見せる。

「この絵を見てどう思います?」

はてな、と二人は首を傾げた。

「あんけーと、っていうやつですか、それ」

興味深げに問う橙に、

「そうです、アンケートなのです!」

とのりのりの文。調子の良いことこの上ない。

「へえ、そういうのって初めてだなあ。ぱーせんとっていうのがでてくるんでしょ?」

「でちゃうのです!」

両手を広げて言う文に、おおーっ、と二人は感嘆の声を上げる。大蝦蟇の件でチルノの思考を誘導した事といい、今回といい、文は子供を調子づかせるのが得意なようである。

「と、いうわけで」

こほん、と咳払いをして文は問う。

「この絵を見てどう思います?」

二人はむむう、と難しい顔をして絵に向かった。文は何が何でもこの絵の謎を解きたいようであった。
子供の視点は時として思いがけない突破口を見いだす。彼女はそれに期待しているようである。

「かなり、頑張って描いてると思います」

橙の意見に、やっぱりそんなところかな、と文は少々落胆した。

「でも、ちょっと描いてる絵が変だし。あと、うーん……」

それも一目で分かること。この程度かな、と切り上げようとしたとき、

「あ、そういえば」

と橙は手を叩く。

「何か、絵がちょっと黒ずんでる気がします」

む、と文は絵を見直した。そう言えばそうだ。何となく黒っぽい。

「何か黒い粉とか塗りたくった感じだよね」

メディスンが続けて言った言葉にも文は奇妙な点を見いだした。
黒い粉。しかし、この絵は明らかに鉛筆画である。わざわざ背景を黒くする為に鉛筆を横倒しにして塗ったということだろうか。
いや、違う。それにしては塗ってある箇所がまばらだ。絵の右半分は特に黒ずみがひどく、左半分は割と綺麗なままだ。
これは――もしかすると重大なヒントではなかろうか。思いがけない収穫に、今回の私は冴えてるな、と文は自画自賛した。

「ご協力ありがとうございます。じゃあ、集計が出たらお知らせしますから、お楽しみに」

ぺこ、と頭を下げて文は言った。恐ろしく分母が小さいのでまともな結果は出ないだろうが、まあ構うまい。
綺麗に紙に包まれた箱を受け取り、二、三言葉を交わした後、二人は元気に香霖堂を去っていった。
謎は解け始めましたね、と文はそう言おうとして振り返ったが、そこに霖之助の姿はなかった。また、絵も置いていない。

「ええと、彼は?」

問う文に、にとりはさあ、と首を傾げ、

「絵とにらめっこした後、難しい顔してそれ持って外に行ったけど」

と続けた。













所変わって、寒風吹きすさぶ香霖堂の外に霖之助と慧音はいた。

「これはまた奇っ怪な絵だなあ。私の教え子達の中には、少なくともこういう類の物を書く子はいないよ。上手く言葉に出来ないが、無理に言うならば――」

いつもの難しい顔で彼女は言う。

「頑張ったけど、失敗した。そんな感じだな。私の印象では」

なるほど、と霖之助は相槌を打った。教師という人間を良く観察する物の意見は役に立つに違いない。
小さく頭を下げて霖之助は言う。

「参考にさせてもらいます。この寒い中無理をして連れ出したかいがありました」

全くだ、と慧音も苦笑する。

「こんな寒いところに連れ出されてつまらん話だったらさすがの私も怒る。
あと、それから敬語はよしてくれ。あなたが使うとどうにもちぐはぐな感じがして笑えてきてしまう」

「……それはどうも」

客の頼みとあらば仕方あるまいと霖之助は口調を改める。

「そういえば、クッキーは上手く焼けたのかい? 僕はそれが気になって仕方がないんだが」

何でも出来る可動式万能台所。夢の品である。慧音の発言如何によっては今回の儲けの全てを費やしてでも購入せねばなるまいと彼は思っていた。

「ああ。こんがりきつね色で良い感じだ。もう半分もじき焼き上がる」

しかし、と彼女は言う。

「あの包装紙はすごいな。保温まで出来るんだろう? まったく、痒いところに手が届くなあ。これで出来たてほやほやの味を皆に楽しんでもらえる」

嬉しそうに慧音は言った。

「本当に教え子の事が大切なんだな、君は」

霖之助はそう返し、慧音は照れくさそうな表情を作った。

「最高の褒め言葉だよ。ありがとう」

吐く息は白く、冬はまだまだ終わりそうにない。二人は一度大きく体を震わせた。日は大分西に傾いていた。
朝早くから皆頑張ったものだ。さて、というかけ声と共に霖之助は伸びをする。

「今日は大儲けだし、しばらくは楽が出来そうだな」

対する慧音はやれやれと息を吐いた。

「そんな根性だから売り上げが伸びないんだ。もっと真面目に仕事をやれば、きっともっと儲かるぞ?」

「マイペースで良いんだよ」

「あなたのマイペースは速すぎたり遅すぎたりで困る」

「君が困ることはないだろう」

む、と慧音が唸った。そして、すぐに頭をぺしんと叩いて小さく笑う。

「これは一本取られたな。だが、あなたは困るだろう」

「困らないよ。生活には苦しんでないからね」

「……どこから来るんだ、生活費」

「秘密だよ」

つくづく妖怪という生き物は分からないなあ、と慧音は思った。
遊んでばかりにみえるのに、一体全体どうやって生計を立てているのだろうか。
どう考えても支出に収入が追いついていないのだが。真面目に働いている人間が可哀想だ。
絵に目をやりながら、そんな事を思う。
この絵についてだが、霖之助が見せてきたときは、流石は彼、実に奇抜なものを持ってきたな、というのが慧音の第一印象であった。
しかし、見れば見るほど違和感が募る。霖之助も、慧音がそれを見ていることに気が付いたのか、視線を絵にやる。
なんとなく、二人とも言葉少なになってしまう。雰囲気こそ気まずくならぬものの、どうにも口を開きにくい状況になってしまった。

仕方がないので慧音は更に集中して絵を見る。自分が最も違和感を覚える箇所はどこであろうか、と。
詰まらない事でも良いから教えてくれるようにはじめに霖之助は言った。
この子は一体どういう風に絵を描いたのだろうか。
絵を描いたフランドールの気持ちになって、考える。そして、慧音はひとつの発見をした。

「顔のパーツだ」

はあ、と霖之助は息を吐いた。彼女が何を言いたかったのか分からなかったのかも知れない。慧音は続けて言う。

「輪郭と左目は鋭く細い線で描かれているが、他の部分はかなり線がぶれているとは思わないか?」

「……あ」

盲点であった。「変な絵」という全体像にとらわれ、細部を見落としていたのだ。慧音は更に言う。

「右目、口、鼻、髪、耳、首、肩。この順に線がどんどん太くなっていっているのも気になる」

「そうかい?」

そうだ、と慧音は頷く。

「確かに私が今挙げた隣り合った二つの項目には差は無いかも知れない。
だが、右目と肩を比べてみると良い。全然違うだろう、線の太さが。それに、ぶれも大きくなっている」

「まあ、多少はね」

文であれば大ヒントだと食い付くのだろうが、
霖之助は自身の閃きに影響を与えることの出来る意見以外は気にしないのか、取り敢えず相槌を打つ、といった様子である。

「とりあえず、この絵を完成させるのに相当時間がかかったこと。そして、特異な状況下で描いたことは最早明らかだ。むむ……なんとなく、答えが見えてきたぞ」

さすがは教師といったところか。彼女は顎に手を当てて厳しい表情で絵を見やっていたのだが――

「慧音さん。クッキーもう半分焼けましたよー」

という椛の声に、タイムアップを悟ったのか、眉をハの字にした。

「……済まない。教師として喧嘩は放っておけないんだが、どうしても日が落ちる前に子供達のところに行ってやりたいんだ。あんまり遅くなると親御さんの迷惑にもなるし」

良いよ、と頷く霖之助に、慧音は指を立てて言う。

「自慢じゃないんだが、私の意見はそこそこ参考になると思う。
あなたは結構人の心の機微に疎いところがあるから、私の意見を他の人に伝えてくれ。多分――答えが出ると思う」

分かったよ、と霖之助は頷いた。それじゃあ、と慧音は軽く手を振って店の中に入っていった。後には椛と霖之助の二人が残された。椛は問う。

「口説いてたのか?」

なんとなく申し訳なさそうな顔だった。霖之助はやれやれと溜息を吐き、そして彼女を無視して店の戸を開く。

「こ、こら! 人の話を聞け! 口説いてたのか、不埒者が!」

すぱこん、という何かを叩く音と、若い男のうめき声が響く。慧音はそれを聞いて、苦笑した。この二人では、百年かかっても謎は解けないよなあ、と。

















奥の間に戻った霖之助と文は集めた情報を前にむむむ、と難しい表情を浮かべていた。
酒をぐいぐいあおり、つまみを頬張り、そして書き出した絵の疑問点を睨む。
分からない。本当に答えが分からない。慧音はすぐに分かるだろうと言ったのだが、文と霖之助の二人には全く分からなかった。
一度深みに入ってしまえば霖之助はおしまいである。無限の思考の深みにはまり、二度と這い上がる事は出来ない。
今も、この背景の黒色のまばらさは幻想郷を徐々に覆い尽くす暗雲の象徴で、もしかしたら近々異変が起こるのでは、などと考え出す始末だ。
文は文でステレオタイプな「今目の前で起こっている」真実ばかりを書き綴ってきたため、こういう考察は苦手である。
二人は頭を抱え、あー、うー、と唸り、時々ちゃぶ台を、ばんばんばんばん、と叩きながらああでもないこうでもないと騒ぐ。

これに我慢できぬ者も当然居る訳で。

「あーもう、なんなんだよ二人とも! 人が気持ちよく昼寝してたのにさあ!」

ストーブの前でごろんと横になっていたにとりは、がばちょ、と起きあがると二人を指さしてわめいた。
なんなんだよ、と言っておきながら、彼女もまた二人が何に対して騒いでいるのかはよく知っていたので、のそのそとちゃぶ台にやって来る。
そして、箇条書きにされた様々な妖怪の意見を纏めた紙を見て、うげぇ、と呻いた。

「ここまで徹底的に調べ上げたのか。本気だねえ……」

まあねえ、と霖之助は片方の肘をちゃぶ台につき、詰まらなそうな顔で言う。

「調べたのは良いんだが、答えが分からなくてね。慧音はあと一歩のところまで推理したらしいんだが」

彼女は彼女なりに時間を割いてくれたらしく、出ていくときは猛ダッシュであった。鬼気迫る表情であった。
まるで授業に遅刻する寸前の子供のようであったと後に椛は語った。それだけ今回の件が気がかりだったのであろう。
さて、とにとりは霖之助と文を見やる。二人はてんで役に立たないようだし、仮に事件を究明しても喧嘩解決の手助けはするつもりは無いだろう。
よおし、と彼女は腕まくりをした。それなら自分が事件を解決して、そしてあの二人の仲直りを手伝ってやろう、と。
今日はバレンタインデーだ。バレンタインデーくらいみんな仲良くやって欲しい。
にとりは気合を入れて、絵と情報を見比べた。

「先ずは、鉛筆画である、っと」

その絵は確かに鉛筆で書かれている。これは子供が見ても分かる真実だ。文と霖之助もうんうん、と頷いている。

「んで、次。絵、全体が黒ずんでいる」

これもすぐに分かる。

「その黒ずみは右半分がひどくて、左半分は大したことがない。ふむふむ。でも、左端の方は結構汚れてる感じがするなあ」

そんな風に書いてある情報に批判を加えながら、更に進める。

「頑張って描いてる。違和感がある。ここら辺は感想か。ま、どーでもいいね」

なんとなく分かってきたぞ、とにとりは思う。答えの全体像は見えないまでも、答えが出そうな予感がする。

にとりは最後の情報に目を遣った。

「輪郭とか目とかの太さと線のブレが違う。んで、右目の所からそのブレは始まってる、か」

そこなんですよねえ、と文は唸った。

「どーしてそうなるのか、分かります?」

考えすぎて頭が沸騰しているのか、文の声はどこか間延びしていた。
にとりは思った。考えすぎて思考が狭くなってるのかな、とりあえず確かめられる事は確かめてみればいいのに、と。
にとりは絵をひっくり返す。そして、右目の描いてあったあたりを軽く撫でた。
ある一カ所で、違和感があった。そこだけ、少しだけ紙が盛り上がっていた。丁度鉛筆の芯ほどの大きさだ。
もう一度絵をひっくり返し、そしてにとりは絵を見直した。ああ、と彼女は思う。

「こんな簡単な問題も分からないって……。二人とも、ちょっとばかし頭が固すぎるんじゃないかなあ」

へ、と霖之助と文の二人は勢いよく顔を上げた。にとりは仕方ないなあ、と絵を持って起きあがる。

「え。あれ、にとり。答えは教えてくれないんですか?」

文が慌てて立ち上がり、霖之助も遅れてのそりと腰を上げた。前者はともかく、後者にはどうもやる気というものが感じられない。
そもそも答えを知りたかったのではなく、答えを探る過程を楽しんでいただけなのかも知れない。
そんな二人を見て、自分が答えを見つけて良かったなあ、などと思いながら、にとりは腰に空いた手を当てて、ネタ晴らしはあの二人の問題を解決しながらする、と言った。
あの二人と言われて浮かんでくるのは当然レミリア、そしてフランドールの二人である。
どうしてあの二人が関係するのか、その理由はとても簡単な事で。
つまりは、絵の謎が解ければ自然と仲直りにつながってしまうからなのである。

今回の喧嘩は、お菓子の渡しあいでとんとんになってしまうものではない。
あの二人の仲の良さなら、きっととんとんになってしまうのだろうけれど、それでは駄目だとにとりは思った。
真実を、教えるべきだと思った。だけど、まだつめが甘い。推論を確定する資料が足りない。だから、にとりは文にあることを頼んだ。
紅魔館に飛んでくれ、と。
半刻以内に帰ってくれば良いのだが――。にとりは、全ての答えを得ているだけに、やるせなかった。















参ったなあ、と「R」の仮面を被ったレミリアは思う。既に日は暮れてしまっている。橙とメディスンはずいぶん前に帰ってしまったし、慧音も先程慌てて飛び出していった。
その後椛と霖之助がちゃんばらしていたが、それからはまた静かなものだった。レミリアと「F」は騒ぎたてながら菓子を作った。
ただ、とレミリアは思う。騒ぐ「F」にはどこか元気がなかった。空元気とでもいうのだろうか。
レミリアの元気に合わせてくれているような、自分を無理矢理奮い立たせているような、ある種のむなしさがあった。
大はしゃぎしていても、次の瞬間にはしゅんと沈み込んでしまってしまいそうな、そんな脆さが彼女にはあった。

レミリアは「F」をなんとなく気に入っていた。元気だし、活発だし、良い子だ。時々物凄いへまをやらかしてしまうけれど、そんなところも可愛らしい。
だからレミリアはめいいっぱい「F」を助けた。紅魔館のレミリア・スカーレットはそんな事はしないだろうが「R」ならば気にすることなくそれが出来た。
それでも、「F」の顔から影を拭い去ることは出来なかった。最後には、その影を含んだままでも楽しそうだったけれど、出来ることなら暗い部分を全部消してあげたかった。
「F」は、頑張って、頑張って、本当に一生懸命努力して、美味しそうなケーキを完成させていた。霖之助からもらった箱と包装紙で厳重にガードされたそれは、開封するまで絶対に品質が落ちることがないのだという。
こんなに心のこもったケーキを食べられる奴は幸せ者なんだろうな、とレミリアは思った。

しかして、その「F」は今、疲れ切ってしまったのか、椅子に座ったままぐったりと寝転けている。レミリアが菓子を完成させるまでは帰らぬとの事であった。
「F」は「F」なりにレミリアの事が心配なのだろう。失敗ばかりしているのだから、当然である。
こうなりゃ適当に普通のお菓子を作って帰ろうかな、とレミリアは思った。
本当は罠の一つでも付けて吃驚させてやりたいけれど、「F」を待たせるのも可哀想だし、なによりこの子を見ているとフランドールにそういう事をするのも可哀想に思えてきた。
腰は痛いし腕も痛い。人間の母親というやつはよくやるなあ、とレミリアは感心した。因みに咲夜もそれくらい頑張っているのだが、かなしいかな、レミリアの頭に彼女のことは浮かばなかった。

しかし、それはそれで良いのだろう。優れたメイドはさりげなく主を立てるものである。裏方の頑張りなど、咲夜は一片たりともレミリアに見せたことがなかった。
なのでレミリアは咲夜が楽勝で仕事をこなしているように誤解してしまっているのだ。故に無茶なお願いをバンバン飛ばすし、すぐ怒る。
しかし咲夜はそれらを涼しい顔で受け入れて、朝飯前であるかのように要求を呑み、そして結果を出す。時には失敗するが、その後の処置は完璧だ。
今回の喧嘩の件にしても、仲直りさせてやろうとして二人を香霖堂に遣ったのは咲夜である。右手での善行を左手にも悟られぬように遂行する。まさにメイドの中のメイドであった。
さて、とレミリアは伸びをする。あと一時間、二時間くらい頑張ってみるか、と。その頭に、こつんっ、と何かが当たった。柔らかなものだった。紙か何かだろう。
そう思って、レミリアは下を見やる。足下には、丸まった紙の束が二つ落ちていた。周りに人影はない。椛もいつの間にかどこかへ行っていた。やれやれ、とレミリアは肩を竦める。

「これが噂の天狗の投げ文というやつかしら?」

そんな事を呟いて、一枚目を開く。予想通りであった。それはフランドールがレミリアに送った、あのへたくそな絵である。
しかし、本当にへたくそな絵である。見れば見るほど下手だ。どうしてこんな絵を描いたのか分からない。
でも、あんなに怒る事はなかったかも知れないな、とレミリアは思った。なんだかこの絵を渡す時のフランドールはおそるおそる、といった感じであった。
あれはもしかして、怒られるかも、と思っていたのではないだろうか。あの上目遣いは、不安に満ちていて、それでも少しばかりの期待があった。
いつも悪戯をするときの、ニヤニヤと細められた目ではなかったのだ。フランドールはレミリアと同じく、人を騙すのがあまり上手ではない。
レミリアなら、フランドールがいたずらをしたかったのかそうでないのかくらいすぐに見抜く。
それでもあの絵があんまりにも酷かったから怒ってしまったのだ。女の子が自分の絵を滅茶苦茶な化け物に仮託して描かれたら、怒って当然である。レミリアに非はない。
それでも、と彼女は思う。フランドールのあの時の表情は、悪戯をするときのそれではなかった。

「う、ん……」

その時、「F」が苦しそうに呻いた。仮面が邪魔なのかも知れない。そんなもん付けて寝るから、とレミリアは苦笑した。
眠ったまま、無意識だろうか。もぞもぞと両手を動かして仮面を取ろうと四苦八苦している。しかし結構紐がきついのか、なかなか取れない。
やがて業を煮やしたのか、彼女は右手でそれを掴み、無理矢理紐を引きちぎった。ぶち、と音がしてそれは千切れ、仮面は、かたん、と音を立てて床に落ちた。
それからようやく安心したように、少女は寝息を立て始める。はらり、と汗をはらんだ金色の髪が揺れる。

「え」

ぽかん、と開いた口から間抜けな声が漏れた。レミリアは、ぐしぐしと己の目を擦った。そして、もう一度目を開く。いやいや、と首を振る。目を擦る。見る。二度見どころか三度見である。
それだけやって、ようやくレミリアは理解した。今椅子に座って寝転けているのは、自分の妹、悪魔の妹、フランドール・スカーレットなのだ、と。
「F」がフランドール・スカーレット。衝撃を受けつつも、何故かすんなりとその事を受け入れている事に彼女は気が付いた。
あの可愛げのある笑みも、天真爛漫な行動も、ひたむきさも、全て小憎らしい自分の妹のそれだったではないか。
だからこそ、自分もあんなに親身になって「F」に構うことができたのだろう、と。
だが、レミリアは何か違和感を覚えた。

「あ、れ……?」

そうだ。おかしな事が一つだけある。もし「F」がフランドールだというのなら、何故この子は此処にいるのだ。
レミリアは思い出す。「F」は自分とケーキ作りをしていた時に何と言っていたか。そういえば、誰かと喧嘩してしまった、みたいな事を言っていなかったか。
仲直りのためにケーキを作る、とか言ってなかっただろうか。言っていた、ような気がする。なんだか暗い調子でそんな事を言っていた。
確か「F」はバレンタインの事を知っている、と言っていた。そのことで気になることがあり、霖之助に質問したのだが、どうにも納得できる答えが貰えなかった、と。
そして、こうも言っていなかったか。バレンタインの事を知っていて、だから大好きな人に喜んで欲しくてプレゼントを用意したのだけれど、それが嫌われてしまったと。
そうだ。確か、霖之助や文たちが皆奥の間から出てきた時だ。その時にはまた、こんな事を言っていた。



「頑張って作ったものは絶対認めて貰えるってよくいうけど……本当かなあ?」
「ええ。そんなのはどこにも欠損のない綺麗な真実に決まってるじゃない」
「……そうかなあ?」
「そうよ」



一字一句余さず、あの時の会話を思い出すことが出来た。あれは、もしかして。レミリアは、へたくそな絵を見やった。
あの言葉はもしかして、このことを指していたのではないか。頑張って絵を描いたけど、認めて貰えなかったから、あんな事を言ったのではないだろうか。
そうであるのならば、やはりフランドールがここに居るのは絶対におかしい。道理に適っていない。
彼女の話が全て真実ならば、フランドールは今回の喧嘩に関しては何の非もなく、悪いのは全てレミリアである。
ならば、どうしてこの子はあんなにも必死に、仲直りをしたいんだ、謝りたいんだと言って、真剣にケーキに向かっていたのだろうか。そんな事をする必要は全くないのに。むしろレミリアがそれをするのをふんぞり返って見ていたっていいのに。
フランドールは、寝息を立てている。疲れと達成感の入り交じった安らかな表情だった。すう、すう、と静かな音が店内に響く。甘い菓子の匂いが漂っていた。夜の気配がすぐそこまで迫ってきていた。
でも、とレミリアは思う。でも、フランドールはあそこまで壊滅的に絵が下手ということはないだろう。あんな絵は悪戯でなければ描けぬ筈である。
そこで、レミリアは思い出した。投げ入れられた紙束は二つ。もう一つを、彼女はそっと拾い上げた。先程と違い、かなりの枚数を丸めているようだ。
そのうちのひとつはどうやら領収書のようである。フランドールが買い物に行くとしたら、どうせ香霖堂しかあるまい。くしゃくしゃによれていたが、文字は読める。
そこには、代金の他にしっかりとこう書き記されていた。

鉛筆、一本。鉛筆削り、一個。スケッチブック、一冊。日付は、二月一日となっていた。十三日前だ。

領収書の後に続くのは、全て同じ大きさの紙である。より正確に述べるならば、あの奇っ怪な絵が描かれたのと同じ大きさの紙である。
その絵のほとんどが、領収書以上に酷くぐしゃぐしゃにされた形跡がある。あるものなど、テープで裏から補強してあった。
薄暗がりの中、それを慎重に広げてみて、レミリアは、あっ、と息を呑んだ。
描かれていたそれは――全て、レミリア・スカーレットであった。
笑っていたり、怒っていたり、拗ねていたり。いろいろなレミリアが、その紙に描かれていた。
何枚も、何十枚もの、くしゃくしゃにされた絵の中に居るのは、全てレミリアであった。
そのどれもが、あの最後の絵に比べて、とても上手だ。一枚一枚捲りながら、ああ、私はこんな顔するよなあ、と思ってしまうくらい。
総計、二十五枚。おそらくは、購入したスケッチブックに描いたのであろうその絵の全てに日付が打ってあり、そしてその三分の一に、二月十三日の日付が記されていた。
もしかしたら描いた絵はもっと多かったのかも知れない。この紙束を投げ込んだ奴ら(大体想像はつくが)が修復出来なかった物も少なからずあるだろうから。
それら全ての絵と、自分が貰った絵を、レミリアは見比べた。やっぱり、その絵が一番劣っていた。

しかし、後一枚、紙切れが残っていた。それは領収書よりも小さな、メモ用紙のようなものであった。
レミリアは、そっとそれを拾い上げ、表に返した。そこには、短い言葉があった。

「これだけ頑張れば、鉛筆の一本くらい使い果たしてしまうだろう」

憎らしいくらい素っ気ない字だ。誰が書いたか容易に想像が付く。
その小さな紙には、何やらゴミが包まれていた。木のくずであった。二つに割れた、木のくずであった。
二つを丁度合わせると、一本の、限界まで削りきってしまった鉛筆の形をなしていた。
しかし、その中で、一つだけ足りない物があった。芯が、抜けていたのだ。
レミリアは、慌ててあのへたくそな絵を持ち上げた。輪郭だけは、今までの絵と同じくちゃんと描けている。左目だって可愛らしい。
しかし、右目の途中でそれは一変していた。まさか、と思ってレミリアはそっと紙の裏を撫でた。一カ所、少しだけ盛り上がっている箇所があった。
絵の表側を、穴の空くほど見つめてみる。右目のある一部分だけ、少しだけ色が濃く、そして凹んでいる。それで、全部分かった。全て、納得がいった。
レミリアは、呆然として、絵を見やる。へたくそな、どこまでもへたくそなこの絵が、どうして出来上がってしまったのか、分かってしまったのだ。

「芯が……折れたんだ」

これだけ沢山描いたのだ。鉛筆は短くなってしまっていただろう。メモに書いてあったとおり、もう削れないほど短くなってしまっていただろう。
もう鉛筆削りは使えない。だから、フランドールは暴挙に出た。鉛筆を二つに裂いて、芯だけを引っ張り出したのだ。
吸血鬼として、レミリアもフランドールも、とても爪が長い。あの細い芯を握って絵を描くのは、困難を極めただろう。
それでも、フランドールはそうするしかなかった。あの子の部屋には何もない。あるのかも知れないが、絵を描く道具なんて、ある筈がない。
それがあるのならば、わざわざ禁を犯してまで香霖堂に買い物に行くはずがない。
フランドールは、バレンタインデーを知っていた。大切な人にプレゼントをする日を知っていた。だから彼女は一番大事な人にプレゼントをしたかった。
駄目だと言われていたけれど、無理をして館を抜け出して、香霖堂の店主から道具を一式購入した。
二週間近く前のことなど、朝風呂丹前長火鉢の彼にとっては記憶するまでもない些事に過ぎないが、フランドールにとっては、一大決心だったのだ。
その日から、フランドールは必死で必死で絵を描いた。大好きな姉を描こうと、頑張り続けた。
だけれど、駄目だった。どうしても上手く描けなかったのだ。納得のいくものが描けなかった。
だから、描いてはそれを破り捨てた。そんな事を、二週間近く続けていたのだ。あの狭い屋敷の中で。
特に、最後の一日は必死だったのだろう。駄目だ、駄目だと。半狂乱になりながら描き続けたのだろう。
破り捨て、破り捨て、破り捨て。描き続け、描き続け、描き続けた。
そして、気が付いてみれば、二月十四日は目前に迫っており、スケッチブックに残された紙はあと一枚、鉛筆は最早絵を一枚仕上げられるかどうか妖しいほど短くなっていた。
すっかり真っ黒になった右手で絵が汚れるのも構わず、フランドールは描いた。気が付けば絵の右側は黒く汚れてしまっていたが、頑張って描いた。
だけれど、その想いが強すぎたのか、右目を描いている途中で鉛筆の芯がぼきりと折れてしまう。鉛筆削りに突っ込んではみるものの、もう削れる長さではない。
それでもフランドールは諦める事が出来なかった。もう高望みはしなかった。へたくそな絵でも良い。自分の気持ちを伝えたかった。
頑張って作ったものは絶対認めて貰える。それだけを信じて、彼女は鉛筆を解体し、その芯を握った。
冷静になっていたのならば、助けを求める事を考えただろう。図書館の魔法使いなどは、鉛筆くらい持っていてもおかしくない。
それでもフランドールにとって、道具を手に入れる場所は道具屋しかなく、第一そんな事を暢気に考えていられる精神状態ではなかった。
元々、情緒不安定な子なのだ。
泣きだしてしまいたいくらい辛い思いに苛まれながら、
それでもあの姉なら理解してくれるんじゃないか、こんなへたくそな絵でも、気持ちくらいは汲んでくれるんじゃないか。
苦笑して、下手な絵ねえ、と言いながら、嬉しそうに頭を撫でてくれるかもしれないと。
その一縷の希望に縋って、フランドールは絵を仕上げた。ゴミ箱に捨てた絵など、大好きなあの人に渡せる訳がなかった。
描かれた絵が上手でも、そんな汚らしいものは、渡せなかった。
フランドールは、走って、走って、走って。二月十四日、その始まりの時に、レミリアの部屋の扉を開いた。
そして――。

「――ッ!!」

はあっ、はあっ、という荒い息が響く。レミリアは右手で自分の頭をおさえた。段々と、体に熱が戻ってきていた。
運命を操る程度の能力。普段は戯れにしか使わぬその力が、フランドールが辿った運命を、追体験させていた。
レミリアは、汗の滲んだ右手を、ぐっ、と力強く握りしめた。その先の運命を、決して見ぬように。未来を見ぬように。
もう一度、あの奇っ怪な絵を見る。へたくそな絵だった。そこに描いてあるのは、不格好な自分の絵だった。
あの時の、フランドールの表情が思い出される。きっと、裏切られた、と思ったことだろう。
あそこまで声荒らかに罵られるとは思わなかっただろう。普通、そんな事をされたら怒る。もう、こんな奴どうでも良いと、思う。
徹底的に嫌って、無視して、謝るまで話しかけてやるものか、と憤って当然だ。それなのに。それなのに――。
今、ここでフランドールはすう、すう、と満足げに寝息を立てている。最高のケーキを完成させ、本当に嬉しそうに眠っている。

「なんで、あんたはここに来てんのよ……」

鉛筆の芯で真っ黒に汚れていたであろう手を、今度はクリームで汚して、フランドールはまた頑張った。今度こそ、喜んで貰えるように。
くたくたになるまで、頑張った。レミリアと仲直りがしたいという、ただそれだけのために。あんなに酷いことをした姉と、仲直りをするために、だ。
フランドールは一切の手抜きをしなかった。最初に失敗続きだったのは、道具というものの使い方がそもそもへたくそだからだろう。
だけれど彼女は頑張った。包丁が手からすっぽ抜けて、椛に怒られながらも、それでもめげずに頑張った。今度こそ、満足のいく菓子が出来上がるまで頑張ったのだ。
フランドールは、それくらい、レミリアの事が好きだった。
努力を踏みにじられてもいい、と。今度ので認めさせてみせる、と。がむしゃらに努力をしてしまうくらい、自分を見失って頑張ってしまうくらい、レミリアの事が好きだったのだ。
フランドールは今、満足そうに寝息を立てていた。今度こそ、姉をびっくりさせてみせる。今度こそ、喜んで貰う。そして、仲直りする。そんな幸せな夢を見ているのだろう。
レミリアは、自分の作っていた爆弾付きのケーキを叩き潰した。そして、「R」の仮面も脱ぎ捨てて、それを右足で叩き潰し、やや震える、それでも低い声で言った。

「椛、私にケーキの作り方を教えてよ」

先程まで居なかったはずなのに、いつの間にか、彼女は側にいた。エプロン姿に、三角巾。疲れ切っているだろうに、疲れを見せない真面目な表情。
その顔には、少しばかりの驚きがあった。自分がレミリアだと教えられていなかったのかもしれない。まあいいさ、と彼女は思う。
恥が怖くてフランドールの想いに応えられる筈がない。

「今度は、本気でやるから」

椛は頷いた。少しだけ安心したような表情だった。

「あなたは……」

椛は少しだけ言いよどんだ後に、照れくさそうに。

「やっぱり凄い人だな」

レミリアは、ふん、と鼻を鳴らし、そしてぐしぐしと目元を拭った。

「ご託は良いから、さっさとはじめるわよ」

静かな夜に、小さな寝息と、二つのひそひそ声と、そして新たな、甘い匂いが漂いだしていた。
夜は、ゆっくりと更けてゆく。

















結局、二つの仮面は香霖堂に残される事となった。レミリアが要らないと言ったからだ。
さすがの霖之助もこの状況で金を取るはずもなく、無言で小綺麗な箱に美しい包装を施して彼女に手渡した。
変にごてごてしておらず、かといって気品が薄れるわけでもない。そんな赤い包装紙だった。
妹を背負い、自分の分と妹の分、二つの菓子包みを持ったレミリアは、どこか照れくさそうだった。
どこまでも素直な、ありがとう、という彼女の言葉はそう簡単に聞けるものではないだろう。それだけで満足か、と彼は大きく息を吐いた。

開け放たれた扉からは夜の寒風が容赦なく吹き込んでくる。
二月十四日。春が訪れて久しいというのに月光に白い息がよく映えた。
なるほど、夜に店の扉を開くのも乙なものだな、と彼はそんなことをしみじみと思った。
店内には彼を残し、他に誰も残ることは無かった。
文は今日のことを早速まとめたいと言い、そそくさと帰り、
椛は店内の掃除をきれいに行ってから、挨拶と共に、
にとりは二人が消えた後に大あわてで。
それぞれらしさが出ている去り方だったな、と彼は可動キッチンの流し台に腰掛けて小さく笑んだ。

しかし、と霖之助は苦笑する。
スケッチブックと鉛筆を与えたのが霖之助だと判明した時のにとりの呆れた表情は面白かった、と。
彼はくつくつと笑みを漏らす。
果たして、霖之助は本当にフランドールにそれらを売却したのを忘れていたのか。
はたまた、覚えていて敢えて口を噤んでいたのか。
彼は頭が切れるのだから前者であるならば妙なことになり、
また、事の真相が判明したのであれば能弁な彼のこと、怒濤の勢いで語り出してもおかしくはない。
前者であれ、後者であれ、違和感が残る。彼がどこまで真実に迫っていたのか、それは謎であり、また知る必要のないことでもあろう。

あれほど騒がしかった店内は、耳が痛くなるほどの沈黙に包まれていた。
ふわりふわりと白い煙が立ち上る。しかし、それは彼の息だけがなすものではなかった。
霖之助は、自身の右手にそっと包まれた洒落たカップの水面をじっと見つめた。
並々と注がれているのはチョコレート――ではなく、ただの苦々しいコーヒーである。
豆が酸化しているのか、本当に酸っぱくて不味いそれを、霖之助は苦もなく飲み下していった。それくらいきつい刺激が欲しかった。
大騒ぎの後のがらんとした雰囲気は嫌いではないが、そのどこか寂れた様子はもの悲しさを覚えるものだ、と祭りの後などに彼はしみじみとそう思うことがあった。
しかし、まさか香霖堂がそんな雰囲気に包まれるとは。あの何も変わらないような陰気な店が、だ。生きていると何が起こるか分からないものである。

勿論こんな空気は嫌いではなかった。
騒ぐ少女たちを端から見つめて、たまにくすりと笑う。そんな、どこか皆から一歩距離を置いた自分の在り方を彼は気に入っていた。それこそが店主の立ち位置であると確信していた。
扉は、にとりが慌てて蹴り開けた時から、開かれたままである。時たま風と共に、きぃい、きいぃ、と軋んだ音を立てる。
霖之助は口をすぼめ、ふー、ふー、と鋭く息を吐いてコーヒーの表面を揺らした。煙は不規則に揺れ、それでもやはり天井へと向かって伸びてゆく。
その軌跡をぼんやりと眺めた後、彼はそっとカップの縁に口づけた。熱く、苦々しく、そして酸っぱい味が口内にゆっくりと広がっていった。
味わうともなくそれを転がした後、彼はそれを喉の奥に通した。ごくり、という音が店内に響くほど大きく聞こえた。
そっとカップから口を離し、空を見上げる。満天の星に、美しい月。きっと少女達は素晴らしいバレンタインデーを過ごしたことだろう。
ああ、そういえば。彼はくすり、と苦笑した。
僕は一個ももらえなかったなあ、などとコーヒーを啜りながらそんな事をぼやく霖之助はどこか嬉しそうでもあった。

彼はゆっくりと腰を上げ、緩慢な動きで扉に向かう。開いた扉を閉めなかったのは、祭りが終わるのが名残惜しかったからだ。
商人として反対したが、それでもやはり始まってみると、その会は楽しいものだった。だが、始めたからには終えねばならぬ。
誰も見ていないが、自分が終わらせねばならぬ。そうせねばバレンタインデーは終わらない。彼は時計を見上げる。

ほら、もうすぐ二月十五日だ。はやくしないと。

何かに急かされるようにして、それでもどこか名残惜しくて、そんな思いが渦巻く中で、そっと彼は扉に手を当て、閉じてゆく。
差し込む月の光の総量が減り、店内はどんどん暗くなる。きいぃ、という音はどこか恨めしげだ。
それでも、ぱたん、と音を立てて扉は閉じた。祭りはそうして、終わった。同時に、ぽーん、ぽーん、ぽーん、という音が古ぼけた時計から響く。
二月十四日もまた、そうやって終わった。

彼は今度はまっすぐに奥の間に向かう。もうそろそろ寝る準備をせねばなるまい。明日も早いのだから。
履き物を脱ぎ、奥の間の戸をそっと開いたとき、一陣の風がふわりと彼の鼻先を掠めた。風は甘い、菓子の匂いがした。
祭りは確かに終わった。しかし、その残滓はどこか儚い匂いとともに、いつまでも店の中をくゆっているのであった。
バレンタインデーでも霖之助は霖之助らしく、飄々としていて欲しいなあと思いつつ筆を執りました。
周りにうじゃうじゃと少女達がたむろしていても、結果として誰からもチョコレートは貰えない。
少女達と仲良く炬燵を囲んでのほほんとしているのもまた良いものなのですが、
他人以上友人以下、そんな微妙な距離感もまた好きです。
ところで、飲み物としてのチョコレートがあることを最近知りました。
友人がそれについて語っていた時に、わざわざ湯煎するのか、面倒な事をするなあ、と言って大笑いされてしまいました。やれやれ。



――――――――――――――――――
追記
誤字脱字修正しておきました。
煉獄様を始めとし、皆様には毎回ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。
反省をしていないのではないかと問われようとも、この様では反論のしようもありません。
大好きなスカーレット姉妹に関する件でのツメの甘さなど、己を呪ってやりたい気分です。
何度修正をかけたか知れないというのに、私の目は節穴なのでしょうか……。
キャラクター達は素晴らしいというのに作家がこれでは浮かばれません。
もっと納得のいくストーリーで彼ら彼女らをいきいきと活躍させる事が出来るよう、精進して参りたいと思います。

追記2 チョコレート貰えませんでした。霖之助と同じなので悔いはありません。
与吉
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コメント



0.5680簡易評価
2.40名前が無い程度の能力削除
顔隠すだけでお互いを認識できないって、お嬢様と妹様は何かの病気ですか。
霖之助を引き立たせたいのは分かるけどただのバカの子になってるよ
4.90名前が無い程度の能力削除
話自体は大変素晴らしいものだと感じましたが、
如何せんキャラの人数が多すぎて今一つ纏まりがなかったように思えました。
しかし、執筆速度もさるものならば、其々のキャラの良いところを書こうとしている様は
私も見習わなければと考えさせて頂きました。
10.90名前が無い程度の能力削除
誤字報告
加薬→火薬
そうなあ?→そうかなあ?
各キャラの生き生きした様が伝わってきました。面白かったです。
というかブロント語がまたwww
13.90名前が無い程度の能力削除
初めがギャグでも、その羽持ってる吸血鬼って意外にいたりするの?とか
そんなくだらない疑問はおいておいて
姉妹愛って、美しいですよね
16.90名前が無い程度の能力削除
スカーレット姉妹の姉妹愛と霖之助と文の息の合いっぷりが素晴らしかったです
18.無評価名前が無い程度の能力削除
何だろう?何か違和感を感じてしまいました……
22.100名前が無い程度の能力削除
耳時→みみじ→もみじ→椛
で良いんですかね。

魔理沙が偶然~の下りで、文との漫才を思い出して吹かざるを得なかったw
28.100名前が無い程度の能力削除
基本的に長寿なキャラクターばかりだから、
恋愛も友愛も何もかもが人間のように生き急いでない感じがなんとも言えずにいい感じ。
騒がしい構成が宮藤官九郎っぽくて僕は好きです。
ただ、視点がサクサク入れ替わるんで読むのに若干体力が必要かもw
38.60名前が無い程度の能力削除
毎回感心するのは、感情や季節感の描写と、新しいキャラとの交流を丁寧に書くところ。
でも最近は両方ちょっと変な力が入りすぎかもね。というか盛り込みすぎ?
下手な絵の謎だけで話にできるのに、バレンタイン講座で山の面々でしかもきちんと霖之助メイン。
プロットの割りにキャラ多い、描写くどい、そんなだから端々のギャグも流石にめんどくさく感じたよ。
部分部分では唸らされるだけにとても惜しい。次期待してます。
43.70名前が無い程度の能力削除
キャラのよさは相変わらずなんだけど、過去作に比べてごちゃごちゃしているように感じられた。
霖之助か文のどちらかが動きを真似てるとか頭が春の私にはフラグにしか見えない
44.80名前が無い程度の能力削除
ブラックホールだと…ごめんなさい。笑いが止まりません。
100点分以上に楽しませて貰いましたが、お面をつけた姉妹が互いに気付かないのが
違和感でしたのでこの点数で。何か仕掛けのあるお面なのでしょうか。
46.90名前が無い程度の能力削除
ブラックホ-ルとか・・・ね-よwwww
47.80煉獄削除
橙とメディスンの調理状況などももっとあって欲しかったなと思いますね。
それでも色々と面白かったですけど。
ブラックホールとかね……。
レミリアのフランがどうしてこの絵を描いたのかというのが解ったのと、
今度はちゃんとケーキを作るという行動が良かったです。

脱字の報告
>「……そうなあ?」
「か」が抜けていますよね?
52.100名前が無い程度の能力削除
椛が良い子で良いですねぇ。

絵の謎とか、バレンタイン講座とか、あちこちに話が飛んじゃってるので
見逃しがちですが、キャラ達のかもす空気が一番好きです。
53.100名前が無い程度の能力削除
文と霖之助がまるで夫婦漫才でいいなぁ
プチでもあったけど、この組合せが凄い好き
55.80名前が無い程度の能力削除
文はへらへら笑っている。
定番の繰り返しネタなのに笑ってしまうw
ちょっとレミリアの心中がくどかったですが、それ以外はいいテンポに雰囲気で、とても楽しく読ませていただきました
期待してお待ちしています
59.100名前が無い程度の能力削除
脳内イメージを簡単に表すと・・・
いつもの→あれ?→与吉さんが壊れ気味だww→おお→いつもの!
そんな感じでした

登場人物は賑やかですが、皆それぞれキャラが立っているのもこれまでの積み重ねの結果なのかなあ。
やや後半が説明で長くなっていることが気になって90点を入れようと思ったのですが、不当評価分を勘定に入れて100点とさせていただきます。
68.90名前が無い程度の能力削除
相変わらずの突然のブロント語に吹かされるw
こっそり出てる紫が面白かったなぁ。てか笑い死にかける紫とか新鮮すぐるでしょう?

他の皆さんが言ってるとおりちょっとごっちゃりしてましたが、楽しませていただきました。
いつもありがとうございます(*- -)(*_ _)
71.80名前が無い程度の能力削除
いつもながらキャラがしっかりたっていてよかったです。
80.80クロスケ削除
いや、貴方の書く幻想郷は今日も賑やかで良いですね。後半少しダレているような感じを受けましたが、とても面白かったです。
色々笑い所はあったけど、最後の締め方が何とも寂しい感じで一番のお気に入りシーンです。
ついでに、幾つか誤字脱字?の報告を。
>にとりは技術者であるため、無論料理には口出しすることない。
→ことはない。
>霖之助は下足を囓っていたが、苦笑して左手をひらひらと振った。
「ゲソ」の事ですよね?一応辞書でも調べたのですが、「下足」と漢字表記すると履物の事を指すようです。
>「でも、本当に良い子達だぞ。料理も最初はへたくそだったんだが、頑張って今じゃあちゃんと食べれる物が作れるようになってきたしな」
→食べられる(これは個人的な印象なのであまり書くべきでないかも知れませんが、霖之助はら抜き言葉を使わないと思うのです。)
82.60名前が無い程度の能力削除
お面で互いを認識できなかったのは咲夜の力かキャラごとの素なのか話の都合上なのかが疑問に残ります
消臭剤の中身がブラックホールという解釈は抱腹絶倒でしたが、霖之助式解釈としては界面活性剤のほうがよりらしいと感じました
包み紙はすごい商品だと思います、これでいつまでも温かい弁当でも売ったらいい商売になりそうです
フランがレミリアに対してかなり素直に甘えようとしていて二人ともいい関係に見えました
メディスンが他人と関係を持つことによって成長していると感じられてよかったです
あとにとりは結局灯油を見なくてよかったんだろうか
83.70名前が無い程度の能力削除
一個人の感想、にすぎないのですが
楽しいんだけど何か違和感を感じるなー、と考えてみて思い当たったことをひとつ
ただのこき下ろしたようなコメは気にする必要ないと思いますが、スカーレット姉妹について
単体のキャラクターとしては非常に可愛らしくていいのですが
前作までの人物関係の設定を引き継ぐもの、と考えて読んだ場合にどうしても違和感が残るのです
ことレミリアにおいて、メインで出てくる前2作においては有ってもさほど感じなかった差異が、ギャグとはいえ何か別人のようなものに感じてしまうレベルになってしまっている気がします
同じ理由で、コレはほんとに個人的なものなのですが、椛との応対がサバサバ、というよりドライな、といった表現がつく関係に感じてしまいました
非常に楽しめたのですがその点だけが気になったもので、偉そうな事を書いて申し訳ありません
次回の作品も楽しみにしてお待ちしています
84.80名前が無い程度の能力削除
与吉さんの近作は作者様どうこうというより
読者側が肩肘張って読みすぎてるんじゃないかと思います。
なまじ骨子の出来が良いだけに、冗長さやその場面の雰囲気とズレたネタ文が目に付いてしまうんでしょうけど。
89.60名前が無い程度の能力削除
キャラよりも描写や展開で勝負できるところまで来ているのではないでしょうか。
次も期待してます。
91.無評価名前が無い程度の能力削除
最近の氏の作品、書き手側も読み手側も“固い”と感じます。
前作ではそれがよい方向に出ていたように思いますが。

今回は、キャラウターを量的に“盛り込みすぎ”たように感じましたね。
これまでと相対的に見てですが。

試行錯誤の過程とは別に、一度ゆるりと書かれてみては如何でしょうか。
92.無評価名前が無い程度の能力削除
キャラウターってなんだよ……
大変失礼致しました。
96.70名前が無い程度の能力削除
お面の件はギャグが半分、あとは昔話や伝承によくあるモチーフを持ってこられたのかな、と思いました。
面をかぶったり特定のにおいを纏ったりしただけで妖怪はその対象が誰だかわからなくなる、ってやつかなあと。

ゆかりんを追い詰めた消臭剤のくだりで笑いました。
おたがい違う意図で一歩引いている文と霖之助がいいですね。
98.100名前が無い程度の能力削除
個人的には今までの中でもトップクラスに好き。
ただ皆さんが言ってる固いという印象は私も最近受けます。
ひとつポンと軽いのを一度挟むといいかもしれませんね。
99.100名前が無い程度の能力削除
いいね。とてもいいね。

なんというか、ギャグも葛藤も人情劇も程よいバランスに仕上がってると思います。
そしてスカーレット姉妹が美しい…
100.100名前が無い程度の能力削除
面白かったですよ
106.100名前が無い程度の能力削除
こうしてずっと与吉さんの世界を眺めていたい
107.無評価コメ80番 クロスケ削除
あの発言は椛の物でしたね。失礼しました。
113.100名前が無い程度の能力削除
キャラクターの立て具合が本当に上手いですね。毎度毎度読んでいて楽しいです。
与吉さんの作品は全部目を通しているので、キャラクター同士のやり取りに思わずニヤリとするところもありました。

最後に、消臭剤のくだりで自分も紫と同じ状態になりました。
116.100名前が無い程度の能力削除
スカーレット姉妹最高です。
ゆるいギャグもほのぼのとしていて良いと思いました。

やっぱり与吉さんの小説には引き込まれます。
117.100名前が無い程度の能力削除
たぶん与吉さん作を読むのは始めてだと思いますが、これはとても楽しめました。
確かに読みづらさはあった気もしますが私は気にならない程度だったかな、と
何より「気になった」のはフランが描いた絵でしたねw
結局答えを読み終わるまで分からなかった私は頭が固いのでしょうかね・・・w
120.90名前が無い程度の能力削除
個人的には、むしろバレンタインっていう本題の中でいろいろ話が展開していて、
ボリューム満点で読み応えあり、みたいな印象だったかなあ
もちろん、「声でお互い分かれよw」とか微妙な点もぱらぱらあったけれど、
こういう緩急が激しく入れ替わる方が好きかな

読み手も増えて、様々な意見が出てくると思いますが、
与吉さんの全力を出せた文章であれば別にどうであれ構わないんじゃないですかね?
と、上から目線で言ってみる、サーセン
133.60名前が無い程度の能力削除
橙とメディスンについて、あんまり話に絡んでこなかったから
正直いなくても良かったんじゃ?と思いました。
145.80名前が無い程度の能力削除
俺もこーりんと同じだから悔いは・な・・・い・・・
ごめんなさいやっぱ悔しいです(泣