Coolier - 新生・東方創想話

恋愛小説 痴人用

2009/02/04 23:32:08
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 どうしてこのようなことになってしまったのかを考える前に、一つ言わせて貰わなければならないことがある。
 結論から言ってしまえば、僕ほどに鈍感ではない奴などいない。そして、それはこの地においても変わりようのないということだ。
 常日頃より他人から向けられる視線には恐るべき繊細さをもって迎え入れ、僕の口蓋から紡がれる言葉の一つ一つが愛すべき彼女たちを傷つけやしないかと無様に怯えながら接している。そして自分のことを二の次にして、相手の事情を優先させた。しかし、そんな僕に与えられるものといえばことごとく、相手の忘恩くらいなのだ。
 僕はそれを、自分が特別な厄介を背負い込んでいるとは微塵も思っていない。人がどれだけ僕を頼りにしているかということを、よくよく知っているからだ。随分と昔の話になるのだが、隣人たちの瑣末なことから生じた不和を仲裁してやったことがあった。といってもそんな大それたことはしていない。それぞれに根気強く、それこそ四六時中付き合ってやって隣人愛による幸福感を語りつくしただけだったのだから。程なくして、隣人たちは疲れた表情をしながらも手と手を結んだのだった。僕の苦労は彼らの友情として結実されたのだ。きわめて些細なことだったが、その後の隣人たちはどうにも僕に対してよそよそしくなり、彼らは仲間というよりも呉越同舟のような危うい雰囲気を漂わせた。恐らくは、くだらない揉め事に親愛なる友人であるところの僕を巻き込ませてしまったことを恥じているからなのだと思う。
 とにかくこのように僕は誰かを傷つけることにはどうしても耐えられない種類の生き物なのだ。ばかげたことなのだろう。しかし、僕には僕なりの理想があるのだ。これは正しい。これは間違っている。そういった性格をしているのだと思う。ただ、自分自身の報われるべき権利を主張したりする段になると、まったくどうしようもなくなるのが悩ましいところなのかもしれない。
 思い出の糸をたぐってみると、いつもそうだ。相手の配慮なき振る舞いを前に僕はなにも言わずに折れてしまうのだ。勿論、僅かながらの要望が目に見えないまま霧散するのは、僕が身の丈に不釣合いな注文をしたわけではなく、相手のあまりに放漫な注意力がこちらの精一杯の訴えをするりと逃がしてしまうからだということは言うまでもない。僕という哀れな輩はあまりに騙され、利用され、踏まれ、捨てられ、傷つけられてきたのではないのだろうか。
 ああ、それにしてもだ。決して断絶することのない呼吸とそれに連なる心音が喧しい。自分の体さえ僕の都合には従ってくれないのかと文句の一つでも言いたくなる。いや、これは文句ではない。子を叩いて諭す親の愛情だ。耐え難い悲劇から相手をこっそりと逃がすための厚意なのだ。
 だが、そんなものは知ったことではないとでも言うように僕の二本の足は余力をたっぷりと溜め込んでいるくせに泣き言を洩らすのだ。まったく腹立たしい。それに引かれるように視界も高度をがくりと下げた。崩れた体勢を無視して、そのまま足を走らせる。
 まったく僕という奴はどうにもか弱い男に生まれたものだ。生きるのにさえ、一苦労なのだ。
 こうまで苦しいとまるで僕自身の罪のように思えるが、事実はそうではない。それだけは言っておこう。そしてこの場合においては、人は生まれながらの罪である、などという模範的解答はお呼びではなかった。つまり、他人の感情に無感情になれない、僕の気遣いの過剰分から滲み出る甘さのせいに他ならない。なにも知らない俗人はその蜜の味には口やかましいが、出所については一切の無関心を装っている。
 そのような余人の無遠慮な要求に、擦り切れた僕の体は沈黙を守りながら必死で応えるのだ。それは自衛のためだ。凍死をしないためのささやかな抵抗なのだ。
ふさふさの羽毛がまだ備わっていない生まれたての鳥のように、孤独の寒さに打ち震える。そのような事態だけは避けたがるのも、あまりに優しすぎる僕には当然のことだった。
 ぜいぜい、と。
 喉元から体腔の、くたびれてしまったから休ませてくれという信号が這い出てくる。こいつもまた僕の都合に合わせてくれないのだから、乾いた苛立ちが辺りに蔓延するのも仕方のないことだった。土を踏みしめる音も次第にその間隔を広くする。ぶつぶつ口の中で自分に向かっての悪態が蠢いた。
 そうして、上下する肩も大分落ち着きを取り戻した頃にふと後ろを見やる。
 森閑とした木々の合間には闇路が潜んでいるだけだった。醜悪な鉄臭さや不愉快な布の擦れる音は影すらも落とさなかった。
 先ほどまでの恐怖が徐々に波を引いていき、代わりに舌の上で溶け残っていた不愉快な第三者に向けての正当な怒りが肥大していった。
 どうして、どうして僕が。僕よりも奴らの胃袋に似つかわしい輩はいくらでもいるじゃないか。それなのになぜ、僕が追われなければならないのだ。最早、僕の繊弱な神経は多分に参ってしまっていた。腹の中にはぶよぶよの肉の脂をしこたま胃袋に落とした後に延々と続く消化不良のような苦痛が居座っている。
 畜生め。声に出してみたが胸中にいる厄介な居候を追い出すにはどうにも足りなかった。僕はポケットに入っていたものを思い切り正面に向かって投げつけた。
 ただの八つ当たりでしかない。しかし、心身が同時に軽くなったような気がする。
 木の幹が硬い返事と共にそれを開いた状態にして落とした。しかし、昨日に確認したとおり暗い沈黙を保っているままだった。まるで僕の先行きを暗示しているように見えて、苛立ちが再び息を返しそうになる。
 ああ、どうして何もかもが僕の都合を無視するのだろう。どうして誰も、僕が彼女たちを思うような気持ちをこちらに向けてくれないのだろうか。
 ああ、わからない。





 どうしてこのようなことになってしまったのかを考える前に、もう一つ言わせて貰わなければならないことがある。
 それは、僕が出会った愛すべき彼女たちはまったく人を見る目がないということだ。
 だが、誤解してはいけない。こう制するのは、不快なる先見短慮の第三者はこういったことを耳に入れると途端に下卑た想像にこの僕を結びつけようと、ご苦労なことにわざわざ自分からその余計な労働に従事するからだ。まったく浅はかというほかない。
 僕は女性や少女が嫌いというわけでは決してないのだ。あらかじめ、そう言っておこう。ことに少女という生き物は完全無欠なものに見える。すでに形は出来上がっていながら、みずみずしく、なんともいえない愛らしい姿をしているからだ。そしてふっくらとした豊饒の大地を思わせる体躯の柔らかさ、抱きしめたときにじんわりと染み渡る心地よい体温、それらのそのまま人の心に解けこむようなおもむきがより愛らしくさせる。さらに小枝のように折れやすく、両手でそっとすくってやらなければ粉々に砕けそうな危うさは、こちらがあれこれ世話を焼くには丁度よい具合なのだ。華奢な肩の線、まるいふくらはぎ、可憐な微笑み、布に圧迫された体のわずかな曲線。ああ! ニンフェットの持つ凄まじい引力の前では僕の熱で浮かされた心など一瞬で意識もろとも吸い込まれてしまうに違いない!
 ……さて、僕が彼女たちを愛しく思うその理由はご理解して頂けただろう。そして、愛すべき彼女たちを実際に目の前にしたときの恋しさがどれ程の熱情であったかは想像に難くない。体内の血が沸々とわき立ち、心は興奮で苛立つのだ。
 例えば、最初に出会ったのは霊夢だったのだが、その健やかな血色といい、弾力性に富んでいるような唇といい、目にしたときから心は陶酔の波に揺られたのだった。そのため、僕が必要不可欠な事前の準備を怠っているということを忘れたまま、白い蜜の流れる起伏の美しい眺めを我が物にしようと企むのも仕方のないことだと言えるだろう。当然、この万金に値する絶好の機会がようやく巡ってきたというのに、僕はそれをむざむざ逃す結果となった。今でもその結果である、耳の端にあるいくつかの隙間風の通り道がじくりと痛むのだ。ピアスなどする趣味もないので扱いに困ってしまう。
 しかし、痛みに苦しむのはまったく問題ではない。重要なのは、いくら僕という男の目が隠しようもなく物欲しそうに霊夢をつけまわしたとしても、にべもなく拒絶するような真似を彼女がしたことなのだ。一体どういうことなのか、未だにはっきりとした理由がわからずにいる。彼女の様々な姿を僕は知っているというのに、向こうはこちらの一面しか見えていないかのようなのだ。なぜ……なぜなのだろうか! 愛しさがじわりと燻っているというのに! 僕の腹部の少し上にはぽっかりと小さな穴が開いてしまった。この場に留まっていては穴はますますその領域を広げるのだろうと感じた僕は、すぐさま石段を降りたのだった。
 そして、このような顛末を第二、第三の愛すべき彼女たちに巡りあう度に繰り返した。勿論、準備を怠ることなどしなかったにも関わらずだ。人里を少し外れたところでは、アリスと。竹林を入ってすぐのところでは、妹紅と。
 そのほかにもいくつか出会ったが、結果は全て等しく、僕を受け入れずに手負いにさせるのだった。まったく奇妙なことで、訳も分からなかった。最早、僕は悲しみに暮れるほかないのだろうか!
 ……しかし、ただ一つの例外があった。だが、これもまた僕の望むべき結果となったわけではなく、この悲運を打ち砕く手がかりとなるものでは到底ないと思う。
その枠外とは、妖怪の山の入り口を彷徨っていた頃に出会った。比較的記憶に新しいその姿はこいしだった。古明地こいし。彼女はふわふわと風のように宙を流れていたのだが、こちらがじっと目に入れているのに気付き、僕の眼前に降り立ったのだ。このときの僕は、受け入れられるはずの彼女たちに散々に打ちのめされ随分と悲観的になっていた。なんといっても、その理由の見当もつかないのだから。そのため、通常とは違う彼女の対応に、僕は暗く悩ましきこの胸中を打ち倒す一筋の光なのだと勘違いした。ああ、そうだ。まったくの勘違いだったのだ。甘い心地に満ちた言葉の交し合いなどではなく、単純な疑問を解決するための付き合いでしかなかったのだから。
 よく私が見えるのね、と。
 彼女はちょっとした不思議にでも遭遇したように目を輝かせて、僕に言ったのだ。残念ながらその意味するところがまったくわからなかった僕は曖昧に頷いて、そのまま無言でいるしかなかった。彼女の方はそんな哀れな僕をどうにかしようという気もなく、自己完結したようでさっさとどこかへ飛び去ってしまったのだ。
 ……このような経緯を辿れば、傷ついたときほど沈黙を守る美徳を遵守していた僕と言えども、熱を帯びた意気をすっかり冷ましてしまい、ひび割れた理想の重りをつけて奈落の底へと沈ませてしまうのも仕方のないことだった。
 そこまで考えて、僕は思考よりも体を働かせる必要があると確信した。
 がさり、と。
 そんな音を連れて、無限に広がるように見える暗闇からぼんやりとした輪郭が浮かんだからだ。すぐさま、僕の肌に衝突する空気の壁に煩わしさを感じながらも、このなにもかも足りていない二足を最大限に活用する。しかし、先は見えていた。内側を巡る生ぬるい命の炎がとろとろと緩慢に流れ出ている。
 ああ、どうして。どうして、僕だけがこのような悲運に塗れるのだろうか。わずかばかりの思い出に浸る余裕すらも与えられないとはどういうことだ。人々に快くあっても、寛大であっても、配当の場には一度も出られないというのは、どうしたわけなのだろう。他人の幸福を真っ先に考える人間は不幸でなければならないのだろうか。よくわからない。あまりにもごたごたしている。
 ああ、わからない。
 僕にはずっとわからないままなのだ。





 どうしてこのようなことになってしまったのかを考える前に、どうしても言わせて貰わなければならないことがある。
 金髪の少女が、見ているとこちらの口内をたっぷりと潤す程に美味そうに、見ているとこちらの胸の内を蕩ける心地で満たす程に満足そうに、四肢を平らげている。なるほど、愛すべき彼女たちへの対応の正解はこれではないのだろうかと考える。つまり、入念な言葉による準備でもなく、獰猛にその魅力を貪ることでもなく、指でもしゃぶらせれば良かったのではないのだろうか。赤ん坊が自分の指を咥えることからも予想がついたというのに。簡単なことだったじゃないか!
 しかし、今更正解に辿りついたところでどうしろというのだ。
 ああ、わからない。
 僕にはずっとわからないままなのだ。
 僕はこれからどのようにすればいいのだろうか。
 そこまで打ち込んで、僕は上半身を仰け反らせた。活発でない骨の、小気味いい音が体内を走る。白く発光する画面が少しだけ眩しく感じた。
 ああ、それにしてもだ。
 近ごろは愛すべき彼女たちを蔑ろにする輩が目立つ。まったくどういうことなのだろう。所詮は薄い板の向こう側の存在だとでもいうのだろうか。そのような輩は精々、この話のような顛末を辿るのだろう。
 僕は違う。僕はそんな輩とは違うのだ。僕が一番愛してやれる。僕だけが。僕こそが。僕のみが。
 双方の意思などまるで必要ない。向かう先にいるのが許されるのはこの僕だけなのだから!
 そこまで考えて、ふと後ろに誰かの息遣いが聞こえた。上半身を捻り、後ろを見た。
 誰もいない。ただ無機質な壁があるだけだ。気のせいだと断定し、再び画面に目をやる。
 赤黒く発光していた。
 無数の目という目がこちらを睨んでいる。ひっ、と短い声を思わず洩らしてしまった。なにが。なんで。どうして。どうなって。距離を置こうと座っている椅子ごと後ろに逃げる。逃げようとする。
「では、どうぞ。ご自由にいらっしゃい」
 誰かの手が、貴重な食材を料理人が慈しむように、僕の肩をそっと包んだ。そうして、その柔らかい受け止め方からは想像もできないような力強さで前方へと押し出される。
 すぐさま訪れるであろう壮絶な衝突のショックに耐えるように僕の目は硬く閉じられた。しかし、衝撃はやってこなかった。目を開けると周囲は先ほどのおぞましい空間だった。遠くに赤黒くない四角の窓のようなものがかろうじて見える。じっと眺めてみると、紫色の布を纏った女と見慣れた風景がそこにあったのだ。
 つまり、ああ……つまり!
 どうしてこのようなことになるのだろうか。愛すべき彼女たちは一体どうして。なにを思って。僕を一体どうしたいのだ!

 ああ、わからない。
 僕にはずっとわからないままなのだ。
 僕はこれからどのようにすればいいのだろうか。
 考えろ。



---2月5日追記---
>誤字に関して
誤字を訂正しました。
読者の皆様に不愉快な思いをさせてしまったことをお詫び申し上げます。

>改行に関して
この男が痴人であるという点を強調するための仕組みでしたが、読者の皆様の意欲を削いでしまったことについて反省するばかりです。私の意識が痴人であるばかりに皆様の貴重な時間を余分に奪ってしまい、申し訳ありません。
智弘
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コメント



0.660簡易評価
2.30名前が(ry削除
読みにくい
改行をこまめにしてください
6.100名前が無い程度の能力削除
なんというか、凄いものを書きましたね………
誰もが「面白い作品」を目指す中で、あえて「面白くない・読み難い作品」をここまで突き詰めるとは………
いやはや、何事も中途半端が一番いけませんね。ここまで突き抜けた貴方に敬意を表して、この点を送ります。
ただ一点。こいしの苗字は「小明地」だと思うのです。
子供用だとかこれだとか、ブラックな作品も偶には良いですけど、
次回はやっぱり貴方の書く可愛い幻想郷(童話シリーズとか)を読みたいです。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
>古明寺こいし

正:古明地こいし

名前だけは間違えてほしくなかった。
8.無評価6削除
馬鹿やった………orz
ごめんなさい。
9.80名前が無い程度の能力削除
なんだこれは。訳がわからない。
でも最後まで読まされてしまった。
これこそ踊らされたというべきだろう。
あぁ僕は一体どうすればいいというのだ!
10.80名前が無い程度の能力削除
いつも読ませて頂いてますが、ここまで改行せずに「書き殴った」形は初めてではなかったかと思います。
ちょっと近寄りがたくはありましたが、読み始めるととめどない逼迫感に吸い寄せられるような気持ちを覚えました。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
途中から文を読むのを諦めました。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
なんでハンバード・ハンバードが主人公?
13.100名前が無い程度の能力削除
なるほど…
14.100☆月柳☆削除
だめだ分からない……。
12sのハンバード・ハンバードも調べたけど分からなかった。
あんた一体誰なんだ!

2回目じっくり読んでやっと……。
これ自b・・
17.70名前が無い程度の能力削除
ああ、確かにハンバートこんな喋り方するよね
19.10名前が無い程度の能力削除
知人用の間違い?
20.90名前が無い程度の能力削除
読者が幻想入り?
23.100名前が無い程度の能力削除
なるほどこうすれば幻想入りできるんだなよしわかった!
30.100名前が無い程度の能力削除
エゴだよそれは!

タイトル見返して「ああ…まさに痴人用だったな」と思いました。