売りませんよ、という言葉にメディスン・メランコリーはかちんときた。
彼女の手に握られているのはとても綺麗な、繊細で薄弱な光を放つ青い石だ。
石の中には細い白の煙がゆらゆらと蛇のようにのたくっている。どこか幻想的な意匠である。
人形の矮躯を見つめ、香霖堂店主、森近霖之助はやや語気を強めた。
「何が何でも売りませんから」
頑として人の意見を聞かぬその言い様にメディスンは反発する。
「店に置いてあるのは買って良いって言ったじゃない!」
基本的にはそうですが、と霖之助は言う。
「あなたにこの品は向いていません」
「買うかどうかは私が決めるの!」
「売るかどうかは僕が決める」
まるで買い手より売り手が高位に立っているのだと言わんばかりのその態度にメディスンは唖然とする。
馬鹿にされているのだろうかとすら思ってしまう。
押し問答はかれこれ半刻ほど続いていた。霖之助の表情にも些か疲労の色が濃い。
それでも無理に話を切り上げようとせず根気よく説明をしようとしているのは彼なりの優しさであろうか。
妖怪の幼年期の経験はその後の一生を大きく左右する。彼はその事を理解していた。
「この商品は玄人向けです。生半可な妖怪には推薦しかねます」
馬鹿じゃないの、とメディスンは笑った。
「宝物を見つける道具なんでしょ? そんなの誰だって使えるよ」
有り得ません、と霖之助は首を振る。
「そもそも宝物とは何を指すのか分かったものではない。
宝とは人によりその価値が様々です。道具があなたの恣意を反映するのか、制作者の意図通りに作動するのか、道具自身の考えにより宝を見いだすのか。
いずれにせよ、この道具が幸福を運ばぬ事は必定でしょう」
どうして、とメディスンは言う。
「宝物が見つかるのなら、それは幸せな事でしょ?」
霖之助はまた首を振る。
「若しくは最悪でしょうね」
この男の話はメディスンには些か難解であった。
宝物が見つかることが何故最悪なのか、彼女には全く理解できなかった。
霖之助は続けて言う。
「その品は外に放り出しておくのが危険だからこの店に置いてあるのです。
僕には扱えない――というか扱いたくない品だから、誰か処分してくれる人が現れるのを待っているのです。
それについては見なかった事にした方が良い。重ねて言いますが、僕はそれを薦めませんよ」
古来、と彼は言う。
「猿の手をはじめとして人に幸運をもたらすとする道具はろくな結果を生み出さないのは周知の事実。
欲に目を濁らせた愚者か、もしくは純粋で無知な赤子か。
もしこのような道具を手にしようとするのならば、その何れかでしょう。
そして、あなたは後者です。前者であるならば僕は何も言いません。あなたが自滅した後に道具を回収させて頂きます。
ですが、あなたは後者です。だから僕は何度も警告するのです。幼いあなたには分からないかもしれないけれど、堪忍して欲しい。
この道具はあなたを不幸にする。そんな道具に頼らなくても、幻想郷はあなたを幸せに導いてくれる」
うるさい、とメディスンはやや声を荒げた。
「こういう道具で駄目になるのは心が小さい人間みたいな奴だけだよ。私はそんなんじゃない」
「だからこうして警告しているんだ。君は毒からなる妖怪だが、それ以前に妖怪は精神により成り立つものだと知るべきだ。
そも人形というその形が、あまりに他者の影響を受けやすい。
そんな汚れた道具に触ることで君を歪ませることはできない。道具屋として、人を不幸にする道具を売ることは出来ない。
重ねて言うが、これは売り物じゃない。処分待ちの品なんだ」
「うっさい」
じりじりとメディスンは後じさった。彼女には分かることがあった。霖之助は言葉を弄ぶだけでこちらには決して手を出してこない。
つまり自分に触れられないのだ。無理矢理この手の中にある道具を奪い取ることが出来ないのだ。多分、この男は弱い。
妖怪、人間。そのどちらを以て形容して良いのか判然としない不思議な店主がこの道具を売りたくないという考えはメディスンにもよく分かった。
しかしメディスンには絶対に大切にしていきたい宝物が無い。
宝物というものがよく分からない。だからこそ憧れていた。それを欲していたのだ。希求する心は渇望の域に達していた。
だから。
「うっさいのよ、あんた!」
そう言って、彼女は駆けだした。
走った。走った。走った。飛びもした。攻撃も仕掛けた。
それでも変わり者はついてきた。
メディスンは、ぜえはあと荒い息を吐く。
対する霖之助も左胸を押さえてひゅう、と息を吸った。
「なによ。万引きを怒るつもりなら、お金をたくさんお店に置いてきたけど」
「それは……売り物じゃない」
「別に良いけど。もうあんたに話しかけない」
メディスンはつんとして歩き始めた。無視すればどんな奴でも大抵諦めるのを知っていたからだ。
けれど、変わり者はついてきた。てくてくと、てくてくと。メディスンが返事をしなくても勝手に話しかけてくる。
「君を怒らせてしまったのは済まないと思ってる。宝物を欲しがる気持ちも分からない事はない。だけど、僕の話も聞いて欲しい。
宝物はそれに頼らねば見つけられないものなのかい?
よく見てみると良い。その煙といいなんといい君の持つ石ころは実に禍々しいじゃないか。
希望と煙ほど対極的なものも少ない。例えばそう、火災での死因の大半は煙に因るものだ。恐ろしいことこの上ないね。
ならば何故そんな禍々しいものをこの道具を作る上で組み入れた? ほら、制作者の意図が見えてくるだろう?」
霖之助はメディスンの横を歩きながら身振り手振りを交えて説明する。
メディスンは無視した。
「青という色がまた良くない。希望を象徴する色であるかのように見えるそれは、同時に『修羅』を表す色でもある。
寒冷や陰気を含んだ色としてもまた、青は存在する。血の気が引いた時も、顔面蒼白になる、などと使うだろう?
とかくその青色というのがまた良くない。止めた方が良いよ、そんな呪いのアイテム」
「あんたの服だって青いじゃん」
ぶすっとしてメディスンは言った。やはり子供に沈黙を守りきることは難しかったようである。
そうでなくとも霖之助は能弁な男だ。幾ら無視され続けてもしつこく話しかけてくるだろう。
もっとも、彼が店の外まで客を追うのはこれが初めてなのだが。特殊なケースなのである。
この妖怪はあまりにもデリケートだ。幻想郷のざっくばらんな常識で扱って良い存在ではない。
閻魔様の側にしばらく置いておきたいくらいだと霖之助は思う。
「僕の服の青色は問題ない。知性、高尚を表す青。それが僕の纏う青だ。根本的にその呪具とは別物なんだよ、この色は」
「嘘っぽい」
じろりとメディスンは霖之助を睨め付けた。あんまり綺麗な目の色じゃないなと霖之助は思った。
同じ人形でも上海人形とこの人形では愛らしさに差がありすぎる。
宝物を見つけ出す石のことを禍々しいと霖之助は評したが、むしろこの人形の方が余程気味が悪かった。
憎悪の塊のような子である。今のこの子の気分はそうではないのだろうが、そういう物で構成されているように思えてならない。
若しくは毒か。精神、肉体。影響を及ぼすものに違いはあれどいずれも負の要素から成り立つ物である。
「嘘なんかじゃないさ。僕は道具屋だ。信頼が命だからね。今まで売るべき道具は売ってきたし、売らないと決めた道具は売ってない。
それが道具屋としての僕の流儀だ。だから、それを返してくれるまでいつまでもついてくるよ、僕は」
「気持ち悪い」
「結構」
メディスンはぷい、と顔を背け、霖之助はその後をとぼとぼとついてくる。本当ならもっと高くとんで撒くこともできたのだが、
今此処でこの男が見捨てられたら、恐らく自力では家に帰れないだろう。そう思ったためにメディスンは彼を無視することが出来なかった。
そして、彼女のそんな考えを悟った霖之助は、ますます放っておけないと思った。
根本的にこの人形は良い子だ。最早見捨てる訳にはいかない。
霖之助は頑固者である。体力の限りにメディスンを諫めるつもりであった。
森を抜け、二人は小道に出た。霖之助は言う。
「空を見ると良い。道脇の石を見ると良い。月を、星を見ると良い。君は一体何が不足なんだ。どうして宝物が必要なんだ」
メディスンは歩きながら答えた。
「分からないけど、宝物はとてもとても大事なものだって知ってるから」
「その石はそれを与えてくれるとは限らない」
「でも見つけてくれるんでしょう?」
「見つけるだけだ」
「同じ事だよ」
「違う」
押し問答である。しかし、メディスンは空の星や、夜露に濡れた枯れ草に目を遣っていた。
はじめて、その純粋さに心を奪われたといった風である。
紫の桜や彼岸花なんかは喜ぶだろうなと霖之助は思っていたが、
こんな淋しげな風物にも価値を見いだすこの子なら宝物の意味なんて知る必要は無いのではと彼は思った。
「自分の宝物が何か、なんて知らない方が良いよ。楽だからね」
霖之助は念を押すように言った。だけれどメディスンの返事はなかった。
二人は歩き続けた。雪も風もない、静かな夜だった。二人が歩くたびに枯れ草が揺れた。風も無いのにそよそよと。
しんしんと寒さだけが二人を刺した。霖之助は両の掌に息を吹きかけた。湿った息だった。あたたかだった。
白いもやもやとしたものはしばらく彼の視界を漂った。爪先が痛みを訴えはじめていた。
「更に説明を加えよう。「青い石」が象徴するのは、理、真実、失意、そして絶望だ。
揃いも揃って悪い意味ばかりに充ち満ちたそんな石ころを後生大事に持ち歩く必要はない。
今すぐ僕に返してくれ。それは君が持っていて良いものじゃない」
メディスンは振り返らずに反論した。
「私は毒に満ちてる所に居ると心地良いのよ。だからそういうのも多分大丈夫」
「毒と絶望は別物だ。毒は生命活動に支障を来す物だが、絶望は精神活動に異常を来す。
絶望を糧とする妖怪なんて居ないよ。みんなお気楽に楽しく生きてるんだ」
「宝物と一緒に?」
「そう、大切な宝物と共にね」
メディスンは歩みを止めない。
「あんたも宝物を持ってるの?」
さあね、と彼は曖昧に返答した。
「僕には分からないな。時々、宝物を見つけられない人も居る。持っているのにその事に気が付いてない人も居る。
僕はそのどちらかなんだろうな。好きな物はたくさんあるけど、譲れない宝と問われると、すぐには思いつかないな」
「それって、無いのと同じなんじゃないの?」
「違う。気が付かない程身近にあるというだけの事だ。だからその石は危なっかしいんだよ。
宝物を探し出すということは、気が付かないほど近くにある宝物を見せつけるということだからね」
「良い事じゃない」
「悪いことだよ」
さやさやと風が吹き出した。それが鋭く頬を一撫でする。乾いた風だ。
月の淡い光では影が生まれることはない。
そのためにぼんやりとした視界の中で黒と白の濃淡で描かれた風景が目に入る。
枯れ、萎れた草木に加えて、それに付着した丸い夜露。凍て付く地面は足の裏に鋭い痛みを伝え続ける。
一歩踏み出すごとにざっ、ざっ、と音がした。
僧は推す、月下の門。
敲く、ではなく敢えて推す、と小さく口ずさみながら霖之助は小さな人形の後に続く。
メディスンは霖之助に合わせてゆっくりと彼の横を飛ぶことを選んだようだった。
緩慢な歩みである。二人はゆたりゆたりと歩を進める。どれだけ歩こうとも同じ風景が広がるばかりである。
しかし、どこを見渡しても浮かぶ心象は別のものであった。
枯れ草も、石ころも、それらを構成している物々は同一の語彙で表現されるというのに、形状や配置の些末な相違が与える印象を異にしていた。
「宝と言えば、こんななんて事のない風景を何よりとする少女も居るね」
霖之助は何とはなしに言葉を紡いだ。どんな一言がこの小さな人形の心を揺さぶるか分からない。
だからこそ思いついたことをつらつらと口に出してみようと彼は思った。メディスンは返す。
「目に見えないものでも、宝物なの?」
そうだね、と霖之助は頷いた。
「少なくとも、その少女にとっては何よりも大切な宝物だよ。
目に見えないものだって、宝物になりうる。そしてその石ころはそんな宝物を暴く」
ひどく無粋だ、と霖之助は付け加えた。
「でも、気づけないより気づけた方が良いよね」
メディスンの言葉は冷えた夜によく響いた。
「確かに、気づけないよりは気づいた方が幸せな時もあるかも知れない。だけど、覚えておいて欲しい。
そういうのはふとした瞬間に何となく気が付くものなんだよ。
なんとなく、本当になんの前触れもなく、ああ、自分がこんなものが大好きなんだなあ、と分かる時が来る」
「絶対?」
「……多分」
なにそれ、とメディスンは小さく笑った。自信満々に石ころの説明をする霖之助との差異が面白かったのかも知れない。
「確かに、僕には何より大切なのはこれだ、と言えるようなものは無いかも知れない。
それでもたくさんの大切なものがある。小さな宝物とでも言うべき物がね。
それは、道具だったり、友人だったり、思い出だったり――まあ、色々だ。
そういったちっぽけだが大切なものを積み重ねていくことで、そのうち本当の宝物が見つかるんじゃないかな」
メディスンは半眼で霖之助を睨め付けた。
「本気で言ってる? 心の底から?」
霖之助は咳払いをして顔を背けた。基本的にメンタルな事には無頓着な男なのである。
精神論は怒濤の蘊蓄のように語れるものではないので彼としてもやりにくくて仕方がないようだ。
「ま、まあ逆に考えてみるといい。僕のように長く生きていても宝物は見つけられないんだ。
ならば君みたいにまだ幼い妖怪がそれを見いだす必要なんて無いんじゃないか?」
「でも、見つけようとするのを諦める必要もないよね」
「……ぐ」
子供に、何で、何で、と質問される大人の心境であった。空は何故青いのか。月は何故落ちてこないのか。
そんな事なら霖之助は実にスラスラと(真実かどうかは定かではない)説明することが出来る。
だが子供の詭弁――我が儘ほど御しがたいものはなかった。
難しい言葉を連弾のように浴びせればよいのだろうか。いやいやそれは駄目だろう、反発されてしまうだけだ云々……。
ぶつぶつと難しい顔をして歩く霖之助をくすくす笑ってメディスンは見上げていた。
この時点で既に彼女の目的は訳の分からぬ石ころから奇妙奇天烈な店主に移っているのだが本人は無論気づかない。
熱中すると我を忘れて空回る。それが彼のいつものパターンであった。
「いいかい。そも言葉というものには力が宿るというのはご存じの通りだ。だから言葉には気を付けなくてはならない。
これはありとあらゆる物に霊が宿るとする原始的なアニミズムの考えより後に起こったものであり、極めて近代的なものだ。
今でも山言葉、沖言葉のように言霊の力への恐れに関連した風習は残っている」
旧約の解釈を持ってくれば言霊信仰は遙か昔から存在するものであり、
そうでなくとも日本においてすら万葉の時代には既に確認される思想であるため新しいとは言い難い。
よほど長いスパンで世代交代が起こる妖怪の集団に所属していなければこれを新しい考えと呼ぶことは出来ないだろう。
しかし、アニミズムの時代に比べれば新しい考えであることは間違いない。
話すことが出来なかった旧人類ですら物に対する信仰を行っていたのだから。
「だから魔的なアイテムを制作しようと志すものならば誰でも言葉には気を遣うものだ。
その道具の効果がまるっきり逆のものになってしまうこともあるからね。
そして件のこの石に話は移る。イシという音は、遺志、縊死、と非常に縁起の悪い意味をその内に内包する。
それに希望を託そうとの考えがまずおかしいだろう。煙もまた、怪し、そして、無理、と分解する事が出来る。
死を孕み、怪しさに満ちあふれ、更に不可能と来たものだ。この道具を作った人はまともじゃあない。
よほど才能がなかったのか、もしくは人を陥れようとする輩だ。そんな愚人の制作物は君が持つべきじゃない」
濁流のような勢いで霖之助の言葉は紡がれる。
不思議で妖しげな雰囲気に充ち満ちた香霖堂の中でなら、なるほど、と納得してしまいかねないくらいだ。
しかしここは静謐な冬の夜の景色広がる野外である。メディスンは余裕をもって彼の話を楽しむ事が出来た。
青い石ころを見て彼女は微笑む。これを持ってる限りこの人は面白い事を話してくれるんだ、と。
霖之助の説得は雪についた足跡を消そうとしてあちこち走り回っているのと相違無かった。
彼らは歩き続ける。かんっ、とどこかで音がした。てくてくと、てくてくと歩き続ける。
野を越え、小道を渡り。時に足を止めて水の流れを眺め。二人は滞りなく歩き続ける。
てくてくと、てくてくと。空には月が照っていた。しかし、煌々と、と形容するにはその明かりは些か弱々しい。
霖之助は冷え切った手に息を吹きかけ吹きかけ歩く。時にメディスンと言葉を交わし、ひたすら歩く。
空は暗い。道は淡く照らし出されている。二人は歩き続ける。歩き続けて――霖之助はようやく疑問にぶち当たった。
「――僕たちは、何処へ行くというんだ?」
はっとして霖之助は我に返った。危機一髪。何故かそのような言葉が彼の首筋をゆたりとなめ回した。
ぞくぞくと全身に粟立ちが走るのを感じる。延々と話し続けながら、我々はどこを目指して歩き続けていたのか。
気が付けば、見渡すばかりの鈴蘭であった。土砂と枯れ草の風景はいつの間にやら終結していた。
さきほどまでその風景を愛でながら歩いていたはずだ。それに気づかぬ程没頭していたのか。何に対して。何故。
そんな単純な質問にも答えられぬ程霖之助は狼狽していた。自らの立っている場所は辛うじて理解している。無名の丘だ。
鈴蘭の花が綺麗に咲き乱れている。鈴蘭。小型の多年草だ。小さな鈴の様な白い花が可愛らしい。
鈴蘭。楕円状の葉を持つ繊細な植物だ。誤って食用すると、最悪の場合死に至る。この花を活けた水を啜っても同じ事である。
鈴蘭。花言葉は純粋。五月二日の誕生花であり、そもこの時期には咲かぬ花である。
鈴蘭。いや待て。先程の人形は何処へ行った。鈴蘭。君影草。思考が定まらぬ。知識が奔流する。頭が痛い。鈴蘭――。
「……鈴、蘭?」
ゆらゆらと、白いものが揺れている。無名の丘を、無風の丘を、ゆらゆらと、何の規則性もなく無機的な白さを持つものが揺れている。
太い茎が地中から這いだし、うねうねとのたくっている。鈴蘭。まるで蛇のようだ。土をこねくり回し、ゆたりゆたりと。
病的なまでに白いそれには細く青い筋のようなものが浮いていた。鈴蘭。その先端部には同じ色の花弁が五つ、ぐねりぐねりと手招きするように蠢いている。
手招き。言い得て妙だ。茎はうねり、花は招く。その花弁は白く、五枚。やけに分厚い花びらであることだ。鈴蘭。
鈴蘭、鈴蘭、鈴蘭。
――否、違う。
脳を勝手に支配するそのイメージを払拭し、霖之助は震える唇で、言葉を紡いだ。
「これは――腕だ」
丘から腕が生え、うねうねとうごめき、それらは一糸乱れぬ動きで霖之助の方へとその五つの食指を踊らせた。
鈴蘭。
はっとして、霖之助は顔を上げた。酷く息が乱れている。ぜえぜえと息を吐くたびに肺が焼け付きそうである。
痛む胸を押さえようと右手を伸ばし、手を当てる。ぐっしょりと、服は汗で濡れていた。
鈴蘭。
「――ッ!!」
椅子を蹴り倒し、霖之助は立ち上がった。恐慌に陥る寸前の面持ちであった。
しかし、寸でのところで彼は冷静さを取り戻していった。
ぎょろり、と目を動かして今自分のいる場所を確認する。丘ではない。そこは香霖堂である。
椅子が転がっていた。倒れる音は聞こえなかった。ぽたり、ぽたりと汗がカウンターに滴る。
ストーブに火がついていないためか、冷え切った店内は彼の熱を急速に奪い取っていった。
普段ならそれを不快に感じるであろうが、今の彼にはかえってそれが有り難かった。
霖之助は切れ者である。自身の置かれた状況をゆっくりと考える余裕があった。
自分の履き物はしっとりと湿っている。また、枯れ草の端が付着しているのも目に入る。
あの薄気味悪い丘の光景を思い出し、しかし霖之助は断定する。夢ではない、と。
そして、彼はまたもう一つの重要な事柄を発見する。
二度、三度と店内をなめるように見渡した後で、彼は大きく頷いた。
「あの子がいない」
呟き、店内を見渡し、そしてもう一度その言葉を味わうように、
「あの子がいない」
そう呟いた。
背中を未だ伝う汗。じっとりと夜露に濡れた足。震えの止まぬ手。
あの出来事は夢ではなく、そして自分が今ここに居るのもまた事実であると霖之助は確信する。
先ずは、助かったということで良いのだろう。全ての思考をそこからはじめよう。
では、どうして自分は助かったのであろうか。
考えられる理由は多々ある。多々あるが考えるだけ無駄であることも確かだ。
助かったというこの事実だけは変えようがないのだから。
ならば、と霖之助は考える。
自分は助かり、メディスンは助からなかったのだろうか、と。
その可能性は極めて高い。自分を助けた者が居たとして、メディスンと自分を引き離す利点が理解できない。
双方共にお互いが居なければ目を覚ました時に恐怖を感じるはずだ。出来うる限り側に置こうとするはずである。
そして、と霖之助は無造作に放置されている時計を見やる。それは月日をも表せる優れものであった。
但し、外の世界とこちらでの月の表し方に違いがあるのであまり役には立たないが。
とにかく、と霖之助は結論づける。
「某月某日某刻――。あの子がここに来た頃か?」
奇妙である。世界の時間を巻き戻すような狂った能力の持ち主はこの幻想郷には居らぬ筈である。
そしてまたおかしな事に、時計の針はその時から動いてはいないのである。停止しているのだ。
気味が悪いな、と霖之助は思った。彼はゆっくりと体を伸ばした。節々が強張っていた。
眼鏡のずれをただし、彼は思う。これは自分の過ちであると。
もっと上手く彼女を言いくるめていればこのような事にはならなかったであろう。
自分が助かったということは、あの場には誰かが居たということに他ならない。
そうであるならば最早己に出来る事は何もない。なるようになっているのであろう。霖之助は頭ではそれを理解していた。
しかし、どうしても彼女の安否を確かめたいとの思いが彼の心を支配していた。最早それは強迫観念に似ていた。
妙だ、と彼の冷静な部分は告げる。普段の自分ならそのようなリスキーな真似をしようとは思わないはずだ。
だが実際に霖之助の心は定まっていた。再び行かねばならぬ。あの丘へ行かねばならぬ。行かねば、ならぬ。
ふらりと彼は一歩を踏み出した。彼は理性の警告を無視した。
がちゃんっ、と大きな音がして香霖堂の扉が大きく開いた。外は漆黒の闇夜であった。月はない。墨を塗ったような単色の空があるばかりだ。
霖之助はふらり、ふらりと導かれるように店の外へとさまよい出ていった。その直後、扉がばたんと閉じた。彼は振り返らなかった。
香霖堂の時計の針は、ぐるぐると丁度半刻分動き、霖之助とメディスンが外を出た時間を指し示して、止まった。
鈴蘭……。
月がない。星がない。風がない。だが前途は白黒の世界として視認できる。霖之助とメディスンが通った道である。
彼は闇に覆われた道を選ばず、視認できる世界をひたすら歩き続けた。野に揺れる草も、転がる石も無い。
ただ道が道として続くだけの道を歩む。彼は酷く消耗していた。背を猫のように曲げ、左右にふらつきながら歩み続ける。
その姿はまるで誘蛾灯に集まる羽虫の様である。それほどまでに彼は矮小に見えた。両手は未だにかたかたと震えている。
その震えは収まるどころかますます振幅を大にしていた。ぎょろりと動く目と脆弱な腕の対比が奇妙であった。
毒されている。その言葉が彼を形容するものとして最適であるようだ。
森近霖之助は折角窮地を脱したというのに再びそこに舞い戻るような愚策を採る男ではない。
例え他の皆が狂乱するとしても冷徹に事態の把握に努める男である。故に、彼は狂っているのではなく、毒されていたと評されるべきであろう。
しかし毒されていながらもなお、彼の理性は抵抗を諦めてはいなかった。妙だ、妙だ、妙だ、と警告を発し続ける。
それに対し、おさえつけるようにメディスンへの罪悪感が沸き上がってくる。
一度しか出会っていないただの客に対するものにしてはあまりにも強すぎる感情である。
その「思い」の奔流に霖之助の理性は逆らい続けるが、警告は何の意味もなさぬと判断するや発想を転換した。
どうすればこの感情の暴走を止めることが出来るのか、と。
考えられるのはあの青い石の効力である。宝を見出す。その効力の解釈を自分は見誤っていたのではないか。
あれは見える物を宝であるかのように思わせる石なのではないだろうか。
効力の正誤はあれ、大凡この不可解な行動の原因はあの石にあるのであろうと霖之助は結論づける。
そうであるならば何ら戦闘能力を持たない自分に逆らう術はない。
しかし、と霖之助は思った。道具を扱う商人が道具に翻弄されるとは何事であるか、と。
魔理沙あたりにバレてしまえば大笑いである。
霊夢あたりにバレてしまえば、ねちねちと苛められるに違いない。
どちらも嫌である。
霖之助は歩を進める。進めながら考える。メディスンメディスン、鈴蘭鈴蘭、との叫び声がうるさい。
頭の中で小人が喚き続けているような不快感を覚える。思考の邪魔だ。
空は暗い。まるで鉄板で覆ったかのようである。ただただ前方のみが薄明るい。
食虫植物の甘い蜜の誘いにみすみす乗るような、蟻地獄の深みにはまるような、その種の危うさを感じる。
進んではならぬと理性が叫ぶが、感情がそれを否定する。頭が痛い。割れそうだ。
痛む頭を右手でおさえながら霖之助はふらふらと歩を進める。ずきんずきんと刺すような痛みが断続的に襲う。
側頭部を揉み込むようにしながら、一歩、二歩。そしてまたふらふらと足は理性の言うことをきくことはなく。
――何かがおかしい。
歩みを進めながら、霖之助は僅かばかりの思考が垣間見せた一本の糸を掴んだ。
先程の自分の行動はどこかおかしい。だが、何がおかしかった?
霖之助は逐一思い出す。空を見た。頭痛がした。頭をおさえた。側頭部を揉んだ。
にやり、と笑みが浮かんだ。
霖之助は掴んだヒントを大切に自らの武器として記憶の鞘に保存する。何時でも抜刀出来るよう、柄に手をかけて。
分かったことは、一つだけある。自分は操られてはいないのだ。
その証拠に、頭が痛いと思ったらそこに触れ、罪悪感に蝕まれているというのに、そんな中で笑みすら浮かべることが出来る。
このことは、覚えておけば必ず役に立つ。歩みを進めながら、霖之助は視線を鋭くする。
ぎょろりと恐怖に見開かれていたその目は、今や冷徹に薄暗い風景を睨め付けていた。
それは、霧雨魔理沙が八卦炉を前に突き出したその時の表情に酷似していた。
勝利の瞬間を逃すまいと、一瞬の世界を掌握せんとする目であった。好戦的な目であった。腕の震えは最早止まっていた。
罪悪感に押し潰されそうになりながらも、同時に彼は昂揚していた。
難問が転がっている。今まで克服してきたどの問題よりも奇妙奇天烈な問いが与えられている。
これは天が自分を試しているに違いない。武器はない。体は思うようには動かない。力もない。
この状況で、勝ってみろと天が言う。
良かろう、と霖之助は不敵に笑んだ。
余裕である。余裕綽々である。世界が暗かろうが、罠に向かっていようが、そんな些末な事態はどうでも良い。
簡単な事だ。時間制限以内に謎を解けば良く、それで万事解決である。しかし、と霖之助は思った。
虎穴に入らずんば、とも言う。今の限られた風景、推論からでは解決の糸口はこれ以上掴めそうにない。
ならばと霖之助は更に発想を変える。
感情に支配され、自分は動けぬ。しからば、その感情の異様さを指摘すればそれで束縛から放たれるのでは無かろうかと。
この推論を補強する証拠ならばある。目を覚ましたときには罪悪感にのみ囚われていた自分であったが、今となっては思考の殆どを理性的考察が占めている。
感情に対し更に鋭い考察を加え、矛盾点を突くことで、この束縛から逃れる事が出来るのでは無かろうか。
紫には度々飛躍しすぎであると失笑される彼の考察は、少なくとも今この時においては必殺の剣に双肩する切れ味を誇っていた。
何故ならば、彼の考察には多分に恣意が含まれるからだ。
「こうあって欲しい」と霖之助が望むのであれば、その考察は霖之助の望みに沿う形で進められる。
咲夜に甲羅を売りつけた時然り、メディスンに石の説明をしたとき然りである。
つまり、「この感情は間違いだ」と霖之助が疑ってかかる以上、彼の考察はその推論が正しい事を裏付けることをのみ目的として行われる。
考察の真偽を確かめるために行われはしないのである。故に彼の考察は毎回飛躍をし、そして今回に限ればそれは武器に成り代わるのである。
先ず、と霖之助は考える。鈴蘭という声のことであるが、これは保留する。意味不明であるためだ。この言葉が自分の内から響いてくる理由が分からない。
恐らく石と何らかの関係があるのであろう。このことは更に証拠が揃ってからの課題である。
そして、次が本題である。メディスン・メランコリーに対する体を束縛する程度の罪悪感。
この感情はバグである。本来生じる筈がない。自身をよく知る霖之助は感覚的にそう確信する。
しかし、それを補強する証拠が無い。では、それを得ればよいだけのことだ。背理法で確かめてみる事にしよう。
先ずは命題である。
『森近霖之助はメディスン・メランコリーに対し体を束縛される程の罪悪感を感じている』
これを真であると仮定しよう。
では、これが真であるために必要な条件は何であろうか。
当然ながら自責の念及び彼女自身に対する個人的好感が無ければ罪悪感は生じぬであろう。
では、自責の念はどのようにすれば生じるのか。
自責と言うくらいなのだから自己に責任を感じねばその感情は生まれまい。
この感情は常態の自分であっても抱いて然るべきであると霖之助は断定する。
彼女を窮地に追いやったのは間違いなく自分の手腕が拙かった事に原因の一端がある事は火を見るよりも明らかであるため、これを否定することは出来まい。
よって、自身に生じる自責の念は正当な物であると霖之助は結論づける。
鼻先を艶やかな香りが過ぎゆく。それは鈴蘭の漂わせるものであると霖之助は気が付いた。足先にぬめぬめとしたものを感じる。
次に彼女に対する個人的好感であるが、と霖之助は一切の感情の介入を許すことなく考察を更に深める。
自分が好感を感じるために必要なものは何であろうか。
例えば、霊夢や魔理沙に対して自分は常に甘い。逆に八雲紫に対しては何かしら身構えてしまう。
なのでここでは霊夢と魔理沙を好意の持てる者の例、八雲紫をその対極に置くとする。
では、何故自分は霊夢と魔理沙に好感を覚えるのか。
まず主要な理由として付き合ってきた時間の長さが挙げられるであろう。
これは当然メディスン・メランコリーが持ち得ぬものである。
二人が居る時は霖之助も楽しいし、会話が弾む。蘊蓄も垂れ流しになる。気楽だ。
これも、メディスンがいる時には感じなかったことだ。
それに何より、霊夢と魔理沙はなんだかんだで自分に気を使ってくれている。
魔理沙のそれは明らかだし、他人をすべからく同一視していると自他共に認める霊夢もまた霖之助を心配して香霖堂に駆けつけた事があった。
当然ながらメディスンは霖之助に対しそこまでの好意を抱いてはいない。
次に、と霖之助は思う。
八雲紫を敬遠する理由は何であろうかと。
簡単である。胡散臭いからだ。
結論を出してすぐに、失敗したかな、と霖之助は苦笑する。
彼女は特殊な例だ。どうせ挙げるなら魂魄妖夢あたりにするのだった。というか、妖夢も紫も別に嫌いではない。やれやれ、と首を左右に振る。
メディスンを嫌っている訳ではないのだ。彼女と自分は基本的に客と店主の関係であるのに、今宵はその垣根を越えて会話をした。
基本的に気心の知れぬ相手とその境界を越えて会話する事を霖之助は好まない。理由は単純で、疲れるからだ。一応緊張もする。
とにかく、と霖之助は思う。自分はメディスンに対して大した好意を抱いてはいない、と。
では自分が満たしている条件は自責の念のみということになる。つまり、責任感だ。
その責任感からメディスンを助けようと思うことはあろう。
だが、それは自分に誇りがあるからだ。店主としての矜持があるからだ。
もし助けようとそう思うのであれば、それはメディスンが特別だからではなく、誰に対してもそうするはずなのだ。
そうであるからにして、頭の中でしつこく響く、メディスン、というその言葉は明らかに奇異なものなのである。
自分が責任を持つべき相手は商売相手である「お客様」であり、メディスンという一個人ではない。
よって条件が満たされる事はないために、
「元の命題は――偽だ」
霖之助は大きく両手を広げて憫笑した。口は、彼の思うがままに言葉を紡いだ。腕は彼の思うがままに広げられた。
四肢の支配権は道具に過ぎない青色の石から、古道具屋の主、森近霖之助へと戻っていた。否――奪い返されていたと評するのが適当であろう。
言葉によって、考察によって、彼は何らかに左右されていた感情を自身のものとして奪い返した。そして、それと共に体の支配権も彼のものとなった。
彼の笑いは、道具に過ぎぬ身でありながら道具屋に刃向かうその愚かさへの憐憫を多分に含んでいた。
いつ現れたのであろうか。あの白い腕は体にからみつき、自分を呑み込まんとする。彼の立っている場所は、またも無名の丘であった。
だが、今や彼には理解できる。先程までの自分の愚かな行いと、そして事の真実が。
森近霖之助という複雑な人妖を考察することに比べれば、この世界を紐解くことなど造作もなかった。
「空は黒い」
霖之助は言う。やはり考察は口に出した方が心地よいものだ。うねり、と下腹の辺りで指が蠢いた。
「時は動かない」
もぞもぞと爪を立てることなく、しかし俊敏に五指が這う。
「世界は暗黒に包まれてここばかりが明るく、しかしこのように罠に充ち満ちている」
更に、と彼は続ける。五指は彼を引き込もうと腕を引き足を引くが、その力は何故だろうか、動きの迅速さに比べとても弱々しい。
「普通このような状況は『異変』と呼称され、その中心地には活発化した妖精が溢れる――が」
今や憫笑は嘲笑、あるいは冷笑に変わっていた。最早彼の表情には侮蔑以外の何物も浮かんではいなかった。
畢竟するに、森近霖之助にとってこの程度の石くれの餌食となることは、言葉通りに役不足――役割が彼の力量に及んでいないこと――以外の何物でもないのである。
はてさて、と霖之助は腕をあしらいながら誰にともなく問う。
「僕にはその妖精の姿が見えない。これはおかしい。とてもおかしい。第一こんな事になったのならば、博麗の巫女が動くはずだ。
もし本当に「時が止まっていた」ならば時を操る少女が動くはずだ。はてさて、その気配も全くないねえ」
それで、と霖之助は蠢く腕の一本の手首を無造作に掴みあげ、自身の眼前に晒す。
「君たちは僕に一つの固定観念を植え付けた。つまり、『メディスンを助けるために丘に行かねば』という思いだ。
これには二重の策が打ってあることになる。僕が体の自由を取り戻せねばそれで良し。
もし取り戻したとしても、商人としての僕は当然責任を取ろうとするだろうね」
そして、と彼は自身の脇に空いた大穴を見つめる。穴の直径は広く、しかし比較的浅い。
「ちょうどメディスンが居なくなったのがこの辺りであり、しかして僕はこの穴に彼女が落ちたのだと思い、取り敢えず降りてみるかも知れない」
霖之助はやれやれと器用に肩を竦めてみせる。
「だが、僕はこの穴には降りない」
何故なら、と彼は憫笑でも冷笑でもなく、自信たっぷりに笑ってみせる。
「幻想郷から訳の分からぬこの場所に落とされたのはメディスンではなく、僕だからだ」
びくり、と腕の全てが硬直する。だが、もう遅かった。
「メディスンを助けなければとばかり思っていたから、彼女が犠牲者で僕が助ける側だと勘違いしていたんだな。恥ずかしい。
全く、その秀逸な思考誘導には敬意を払おう。これが僕でなければきっと上手くいっていただろうね。
まあともかく正解は全く逆で、僕こそが助けを請う側にあり、しかしてこの穴に落ちるのはまさに愚行以外のなにものでも無いわけだ。
考えてみれば簡単なこと。幻想郷にしてはこの世界は奇妙に過ぎる。大体空が真っ黒というのが狂ってる。
そういうものだと僕が納得するとでも思ったのだろうか。馬鹿にするのも大概にしろという。
こんなにも明らかに、この世界に空などというものが存在しないことを指し示しておきながらここを幻想郷などと言うつもりか?」
迫る腕の一本を彼は蹴飛ばした。
「僕らの住む理想郷を愚弄するのも大概にしてくれ。あそこはこんな陰気な場所じゃない」
霖之助は穴から一歩離れて続ける。
「君たちの攻撃が今まで緩やかだった理由だって単純明快だ。もしいきなり強い力で僕を引きずったりしたら逃げられてしまうかも知れないからだろう?
しかし、穴に入ってしまえば君たちのものだ。非力な僕をおさえ込むのは容易いだろうさ。
ただ一つ不思議なことは、幻想郷において僕をどうにかすることは出来なかったのか、ということだ。
こればかりは今でもよく分からない。
わざわざこの世界に落とす理由は何なのか。まあ、ここに僕を害そうとする何かが居るからなんだろうけどね。推論で終わってしまうのが残念だよ」
腕は一斉に霖之助の首を目指す。
「ううむ、もしくはあまりにも醜悪すぎて、全てを受け入れると言ったあの妖怪少女ですら幻想郷に住まわせるのを躊躇ったというのが原因かな?
地底にすら居住できないとは。もしそれが真相なら、救いようがないね」
少なくとも、地底の連中は気さくで良い奴ばかりだよ、と付け加えて彼は言う。
「さて、僕の帰る手法だが、これまた簡単だ。大体見当は付いている。下に行けば食われるのだから、上に行けばいいだけだ。
しかし、これがなかなか難しい。体の自由が利かなければ、若しくはこの世界の真相に気が付かなければ、上に行こうなんて馬鹿な事は考えないだろうからね。
何せ、僕はメディスンは下に居るとばかり思っていたのだから」
はし、と両足を掴まれる。しかし、もう全ては遅すぎた。霖之助が右腕を高く天に突き出した。虚空から、にゅっ、と腕が伸びてきた。
細い、しかし血の通ったあたたかさのある腕だ。総計二十本の柔らかでしなやかな指が、霖之助の腕をしっかりと掴み、そして思い切り引っ張った。
下賤な世界を見下ろしながら、霖之助は強い調子で言い切った。
「これにて証明と講義は終わりだよ。僕を楽しませたくばもう少し骨のある奇問を用意して貰えると嬉しいね」
言葉を終えると同時に、彼の視界の全てが黒に包まれる。しかしそれは寒々しい今までの漆黒とは異なっていた。
全てを受け入れる、幻想郷の夜のあたたかさが、彼を包んでいた。それに安心し、霖之助はようやく意識を手放した。
ずきん、と右側頭部及び右肩に鈍痛を感じて霖之助は目を開いた。
火の爆ぜるぱちぱちという音、天井のぼんやりとした照明、そして古びた畳のにおい。香霖堂の奥の間である。
視線を僅かに動かすと、少し離れた場所にちっぽけな少女が背筋を伸ばして正座しているのが目に入った。
その表情には疲労の色がやや濃い。彼女は霖之助が目を覚ました事に気が付くや否や、ほう、と小さく息を吐いた。
その事で、霖之助も確認する。ここは幻想郷だ、と。ぼんやりと明るく、ほのかにあたたかいこの世界は、間違いなく彼の大好きな世界である。
万感の思いを込めて、彼は一つの言葉を口にする。
「疲れた」
その言葉を聞いて、少女――つまりメディスンも微苦笑と共に肯定する。
「うん、疲れた」
小綺麗だった衣装も、光を弾かんとするばかりの金紗の髪も、すっかり泥埃にまみれてしまっていた。
霖之助は体を起こそうとしたが、四肢に走る肉離れにも似た苦痛にそれを諦める。
メディスンは膝立ちで彼ににじり寄ると、額に乗せていたらしい手ぬぐいを冷えたものと交換した。
氷漬けにしていたのであろうかと疑ってしまうほど、それは冷たかった。
その冷たさがかえって現実的に思われ、霖之助は嬉しかった。取り敢えず、と彼は言う。
「道具屋の言うことはきちんと聞いておくべきだって事くらいは分かってもらえただろうか」
やや皮肉が混じってしまったのは仕方がないことかも知れない。彼の口許には余裕と少しばかりの好意を含んだ笑みが浮かんでいるので、それでとんとんであろう。
メディスンはうんうん、と二度頷いて答えた。
「そうだね。まさか私じゃなくて霖之助がピンチになるっていうのは予想外だったけど」
「……ぐう。今回は君の運が良かっただけだよ」
「はいはい」
メディスンはくすくすと笑った。人を生死の境に追いやっておきながら何て子だ、と思いはしたが別段怒りは沸いてこなかった。
妖怪というのはえてしてそのような生き物である。むしろメディスンの幻想郷の妖怪らしい仕草に霖之助は少しばかり安堵した。
彼が直感的に抱いていた彼女の様は恨み辛みをためこんだ古来からの日本の妖怪の性であり、それでは幻想郷では生きられまいと思っていたからである。
とにかく、ここに住む妖怪というものは恩義に、そして友情に篤い。こうした着実な人脈形勢が後々生きてくるのである。
現時点においては訪問客は増えるが購入客の数は上昇していない。しかし、ともかく霖之助は人脈には力が宿ると信じている。
商人の武器は何と言っても信頼と人脈と知名度。そう考えれば霖之助は最強の武器を持っていると評する事が可能である。
がしかし、彼の店の売り上げはどうにも伸び悩んでいる。これは今後の課題である。
「頭、思いっきり地面にぶつけてたからちょこっと切れてるよ。一応縫っといたから抜糸してもらってね」
「人形が人妖を縫うとはまたこれ如何に」
「うっさいなあ」
ぺしんと手ぬぐい越しにメディスンの手が霖之助の額を打った。座っている彼女の脇に青い石が置いてある事に気が付き、霖之助はほっと息を吐いた。
「ああ、それ要らない」
苦笑と共にメディスンは言う。その選択が正しいよ、と霖之助も首肯した。青い石は未だに白々しく艶やかな光を放っていた。
「ねえ、霖之助」
一息吐いたところでメディスンが彼に問う。少し部屋が温すぎるかな、と霖之助は思った。
「あの時の事なんだけど」
そう前置きして、メディスンは少し困った顔をする。
「あの時っていうのはつまり――」
「二人で散歩していた時」
「そうそう、二人で散歩してた時の事なんだけど」
まさか捕り物と言うわけにもいくまい。自身の思考に、霖之助は小さく笑んだ。
「ずーっと聞こえてきたのよ。スーさん、スーさんって」
「鈴蘭の事かい?」
「そう」
今はもう聞こえないが、執拗に響き続けたその言葉を霖之助は思い返す。鈴蘭。
「あれって、何だったの?」
問いに、霖之助は難しい表情を作った。流石に今となってしまえばその答えは出ている。
しかしそれをそのまま包み隠さず語って良いものか彼には判断がつかなかった。
語らねばならぬ事である。だが今語るべき事であるとは限らない。
霖之助はじっと天井を見つめた。これだけ不自然に時間が空いたのだ。メディスンも何か悟るものがあっただろう。
今や沈黙は何の意味も持たぬ。選択肢は二択であり、騙すか、教えるか、である。
メディスンが友人だというのならば、選ぶのは前者である。
大事な客だというのならば、選ぶのは後者である。
選ぶべき選択肢はこれで判然としたが、しかし非情なものだなと霖之助は嘆息する。
生まれて間もない幼子がこれほど苦労する事も無かろうに。
端的に、霖之助は嘘偽り無い正答を提示した。
「あれは恨み言だ」
言っていてあまり心地よい言葉ではない。
しかし、自分の道具が招いた事故の状況説明はきちんと行わねばならない。それが商人としての筋というものである。
「恨み言? スーさんへの?」
おうむがえしに問い返すメディスンに、その通りだと霖之助は首肯する。
「君は無名の丘を主な根城にしていると聞いたが」
「そうだよ」
メディスンは肯定する。
「だったら、その丘が何故『無名』と名付けられたかは知っているかな」
きょとんとして、彼女は首を横に振った。
「どうでも良いから無名の丘なんじゃ、ないの?」
まるで当然としてきた常識が突如瓦解したかのような表情だった。
「それならば、わざわざ無名の、などという冠詞をつけたりしないよ。
無名の丘、というのは立派な意味のある固有名詞だ。
後、無名の、という言葉は丘という言葉にかかっているわけじゃない。君はそこのところを勘違いしている」
「うーん。でも、人里からは見つけにくい場所にあるし、やっぱりそういう意味なのかなあって。誰も来ないしさ」
「昔は、ちょくちょくあの丘を訪れる人が居たんだよ」
思い出すように、霖之助は言う。それに対して、メディスンは少しだけ驚いたようだった。
「あんなところに? 日は当たらないし気温は低いし、それに季節によってはスーさんが元気いっぱいだし。あんまり心地良い場所じゃないよ」
霖之助は曖昧な笑みを浮かべた。
「その鈴蘭が咲き乱れる季節にこそ、多くの人が訪れたものさ。
数としては多くないが、それでもやった行為を考えれば、多くの、と表現すべき数の大人がそこを訪れた」
意味が分からない、とメディスンは不服そうな顔をする。
「お花見でもしたいのかしら」
「それが理由なら今だってたくさんの人が訪れるはずだろう?
でも、幻想郷の人達はあんまりあの丘を訪れようとは思わない。僕自身、行けと言われても気が進まない」
メディスンは問う。
「何で?」
やはり答えづらそうな表情で、しかし躊躇うことなく霖之助は言った。
「あそこは昔、間引きの名所だったからだよ」
間引き、という聞き慣れない言葉にメディスンは、はてな、と首を傾げた。
それを見て、霖之助は、ああ、と確信する。幻想郷は本当に変わったのだなあ、と。
「間引きっていうのはね……親が我が子を殺す行為のことを言うんだよ」
メディスンの表情が、はじめてぎょっとしたものに変わった。
「親が子供を……? なんで?」
どうして自分がこんな事を話さねばならんのだ、と霖之助は苦々しく思った。いつも語る蘊蓄と違い、こんな知識、語ったところで面白くも何ともない。
後味の悪さと暗澹たる思いが残るばかりだ。だが話さねばならない事だ。誰かがやらねばならぬことだ。
それを何故自分がせねばならないのか。結局思いは堂々巡りだが、それでも霖之助はこの幼い妖怪を放っておくことはしなかった。
「食糧問題だよ。昔は今みたいに平和じゃなかった。飢饉は酷いし鬼が平気で略奪に来るし、人間同士で食べ物を、土地を奪い合うことだってあった。
だから、親に子を養う経済力が無かったんだ。端的に言って、殺す以外の選択肢がなかった。だから、間引く」
そして、と霖之助は言う。
「昔は今みたいに幻想郷と外が区切られてはいなかったから、それこそたくさんの親がこぞってあの鈴蘭畑を訪れたんだ。どうしてだと思う?」
「スーさんの、毒?」
メディスンはおずおずと尋ね返した。霖之助はまあ、と肯定する。
「理由の一つはそれだ。鈴蘭の毒。確かに。でもね、理由は他にもある。
一つは、死体が残らないこと。なぜなら、妖怪が食うからね。
そして、もう一つは……ごくまれにだけど、赤子を拾って育てる妖怪が居るからだ。
親たちは丘に子供を捨て去っておきながら、その実子供達は妖怪に拾われて今も生きるんじゃないか、と幻想を抱き続けたわけだ。
つまり――罪の意識の軽減をしようと思ったわけだ」
間引く親の苦痛も、時代の苦しさも霖之助は知っていた。その上であえて皮肉った。
そういう偽善を振りかざすことくらい許して貰わねば、メディスンのような子供にはこの話は辛すぎた。
適当な悪を置くのが、お互いにとって気が楽だった。
「そんなのって、最低だと思う」
メディスンはそう言った。霖之助はそれに答えなかった。止むにやまれず子を殺し、狂死した親も居る。
ならば少しは頭を使い、子を産まねば良いだろうと思う者も多かろう。だが、あの頃には知恵を付ける術が無かった。
貧民は愚かなまま生きる以外の方法を持たなかった。
だから、霖之助はメディスンの言葉を肯定することも、彼女の考え方に訂正を求める事もせず、話を先に進めた。
メディスンはあくまで客であり、娘でも友人でもない。
「最低かどうかはともかくとして、それは確かに歴史上の事実として残っている。
たくさんの子供があそこで死んだ。鈴蘭の毒で死んだ。まだ『名もない』幼い子供が殆どだった。もう分かるね、無名の丘の名の由来」
嫌な顔をして、メディスンはうつむいた。お気に入りの場所。
大好きな鈴蘭の咲き乱れる場所にそんな逸話があっただなんて、知りたくも無かったに違いない。
霖之助は息を吐いた。体が軋み、苦痛が走った。
「だけど、そうやって死んでいった子ども達の中には、有る程度物心が付いている子も稀にだが居た。
間引きの隠語として戻す、とか返す、とかと同じに薪拾いにやる、なんて言葉があるように、
本当に珍しいことだけれど、労働力にすらならないひ弱な子供が捨てられる事があった。
その子は思ったわけだ。自分はこの鈴蘭の毒で死ぬんだな、と」
霖之助は一息に話す。
「怖かったろう。辛かったろう。なんで折角手に入れたこんな素晴らしい命を手放さなければならないんだと、そう思ったことだろう。
それこそ力の限りに恨み続けたんだろうね。親と、自分を殺す鈴蘭とを」
そして、と霖之助は続ける。
「何らかの――恐らくは石の影響によって、彼らの意志は単純な二元論として統一された。
あの石は宝物に対する意識を刺激する。つまり、彼らにとっては、命を、だ。
そうであるならば当然その対局に位置するものもまた、浮き彫りとなる。
それが死。ひいては、死を引き起こす鈴蘭。
生を求めるものがあの手なら、死を憎むのがあの声だと言えよう」
鈴蘭、鈴蘭、としつこく響く声。無機的なあれは、恐怖からくるものであったのか、憎悪からくるものであったのか。
貪欲な白い手と照らし合わせてみると、身の毛がよだつ。
「じゃああれは、スーさんが憎くて憎くてたまらない……っていう声だったの?」
霖之助はメディスンから顔を背けたかったが、痛みのためにそれが出来なかった。
「毒というものは、元来そういうものだ。恨みを買い、恨みを育て、恨みを執行するものだ。
そして、君はそういうものから構成されている。何故君が無名の丘なんかに転がっていたのか。推察くらいはできるだろう?」
「……うん」
しゅんとした顔だった。だから、霖之助は付け加えるように言った。
「一応言っておくけど、毒に関しても、鈴蘭に関しても、君が変な劣等感を覚える必要はない」
「……うん」
メディスンの表情は、晴れない。当然だ。こんな面白くない話はなかなか無い。後味が悪すぎる。最悪である。
店主としての義務は確かに果たした。事件の詳細の説明も終えた。が、しかし。
「毒を食らわば皿まで、か」
霖之助は小さく呟いた。仕方があるまい。少々のサービスはいつものことだ。それが子供なら尚更である。
彼は言う。
「毒はイコール悪ではない」
メディスンはきょとんとして顔を上げた。顔を上げると言っても、霖之助は臥せっているのでうつむいた顔の向きを少し上向ける程度だ。
ぱちぱちと火が爆ぜ、部屋は仄かに暗く、ぼんやりと明るく、そしてあたたかい。包まれるような静けさと、少しばかりの妖しさ。
香霖堂。そこは森近霖之助の領域である。外で語ればなまくらであるが、ここで語る蘊蓄は、絶対の信憑性をもたらす。
「アトピリン、ストロファンチン、ストリキニーネ。これらは総じて毒薬と呼ばれている。知っているかい?」
ううん、とメディスンは首を横に振った。霖之助のやや低く落ち着いた声は柔らかく心の奥に響いた。
「例えばストリキニーネ。鈴蘭もコンバラトキシンという毒を持つが、これもマチンという植物に含まれる毒でね。
中毒すると過敏症や痙攣なんかを引き起こす厄介極まりない代物だ」
しかし、と彼は言う。
「これらは何故か永遠亭に置いてある。嘘だと思うなら、今度行って聞いてごらん。あるよ、という答えが返ってくるはずだ。
さて、毒がどうして毒に敵対する場所にあるのか。君には分かるかな」
「……研究して、薬をつくるため?」
違うよ、と霖之助は笑った。
「そういうことだったらやっぱり毒は悪者じゃないか。違う違う。毒は悪者なんかじゃないって言っただろう。
永遠亭に毒が置いてあるのはね、メディスン。それを薬として使うためなんだ」
「え?」
意外な言葉にメディスンは目をまん丸にした。
彼女にとって毒の対極は薬であった。
自分が今まで用いてきた人を苦しめるはずの毒が、直接薬に結びつくなど思いもしなかった。
しかし、彼は両者をある意味ではイコールであると断言した。
引き込んでしまえばこちらの物である。霖之助は怒濤の勢いで言葉を紡ぐ。
「いいかい、もう一度念を押しておく。毒薬にはでかでかと毒、という文字が記されている。外の文化のためだろうか、大抵は白文字でね。
それにもかかわらず、毒は薬になりうる。例えば先程挙げた痙攣や過敏症を起こすストリキニーネ。
これは五感を鋭敏にする興奮剤としてでなく、健胃剤としても使えるし、出血多量の虚脱やアルコール中毒なんかにも効果がある。あと、夜尿症にもね」
「それって、薬じゃない」
「毒だ。毒薬と書いてあるからには毒に違いない」
薬である。ストリキニーネは間違いなく薬であるのだが、確かにその容器には毒、と明記されている。
「でもね、メディスン。君の言葉にも誤りはない。薬なんだよ、ストリキニーネは。毒にも関わらず、ね」
「毒、の薬?」
変な言葉に霖之助は小さく吹き出した。
「だから毒薬って言うんだよ。毒でもあり薬でもある。よって毒薬」
「でも、それって――」
「あらゆる薬は毒だ」
霖之助はメディスンの言葉を遮り、強くそう断言した。
「ストリキニーネみたいな過剰な効果を持つ毒薬に限った話じゃない。
ちょっとした風邪薬だって毒になりうる。知っているかい? カフェで出されているコーヒーだって、僕のお気に入りの水煙草だって毒なんだよ。
酒だって毒だ。あの忌々しい二日酔いはエチルアルコールから転じたアセトアルデヒドから生じる。だが」
気分が乗ってきたのか、霖之助の声の調子は段々強くなる。諭すような最初と違い、今では本人がのりのりである。
メディスンを慰めよう、というよりもむしろ、語りたくて語りたくて仕方がない、僕の話を聞け、といった様子だ。
やはりしんみりとした話ではなく単なる軽い知識自慢やそれを使った常識の転覆(本人は意図していないが)などが彼の好みであるようだ。
「僕はコーヒーも水煙草も酒も大好きだ。全部毒だが全部好きだ。それを悪者だなんて言って貰ったら困る。
僕の友人達だってみんな酒が大好きだ。毒だけどね。しかも困ったことに酒は百薬の長なり、なんて言葉もある。有害なのにね。
これはまたどうしたことだろうね。面白いだろう。毒と薬の表裏一体性は」
「お酒は……その、私も好き」
ぼそぼそ言うメディスンに、霖之助は小さく頷いた。
「それは良かった。ともかく毒が認められないんじゃあ医者は薬を出せないし、僕らは酒を呑めやしない。全く、毒様々だよ」
じゃあ、とメディスンは言う。
「スーさんも?」
スーさんもだ、と霖之助は頷く。調子に乗っているのか、殆ど思考していないようにも見える。
一応、彼の頭は物凄い速度で回転してはいるのだが。ただし、その方向性はいつもながら保障できたものではない。
「薬なんてものは毒を上手く調整して使っているに過ぎないんだ。あらゆる毒は薬になりうる。
確かに鈴蘭の毒は人を殺すが、それだって薬に使えないことはない」
「でも……実際に使ってる人は居るの?」
心配そうにそう言うメディスンだが、霖之助の解答はその遙か斜め上を行く。
「なら僕がそれを薬として使おう。鈴蘭の毒を抽出して永遠亭の名医も吃驚な奇跡の薬を作りだして見せよう。
きっと香霖堂は大もうけだ。その時は素晴らしい発想をくれた君に一割の利益を与えることにしようかな」
自信満々のその言葉に、メディスンはちょっとだけ自信を持った。
「そしたらスーさん、嫌われたりしないかな」
やれやれと霖之助は溜息を吐く。
「いいかい、メディスン。鈴蘭はそもそも大人気だ。外の世界の洗剤にも鈴蘭の香り、なんて銘打ってあるものが多いしね。
あの柔らかな香り、清純な白い花、鈴のような繊細さ。どれをとっても素晴らしい。あんな可憐な花は他にない。
毒くらいあったって大したマイナスにはならないさ。君、彼岸花なんてもっと悲惨だぞ。子供達には怖い、とか気味悪い、とか言われるし」
「へへ……そうだよね」
メディスンは頬を掻きながら、照れくさそうに笑った。
「あ、でも」
メディスンは言う。
「私が弾幕に毒を使うのは変わらないよ? やっぱり毒って攻撃のイメージだし」
それは構わないさ、と霖之助は頷く。
「僕が言いたかったのは、毒は嫌われ者なんかじゃないって事だけだ。
それを分かった上で毒を攻撃に使うのならそれもまた良し。でもね、メディスン」
ずきずきと走る鈍痛に小さく呻いた後、彼は言う。
「君の毒は、ありとあらゆる薬性を秘めているということを理解し、たまにはそれを癒しに使ってみるのもまた一興なんじゃないかな?」
うーん、とメディスンは照れたように顔を背けた。基本的に自分自身にダークなイメージを持っていたのかも知れない。
いきなり良い子だ凄い子だと言われても、照れるしかないだろう。
「じゃあ、気が向いたらそういうことも考えてみる」
「ああ。そうするといい」
それだけ言うと、霖之助は大きく息を吐いて、目を閉じた。
「……もう駄目だ。本当に疲れたよ。ちょっと寝る」
あたたかい空気が、柔らかな照明が、休め、眠れと彼に甘言を放ち続ける。
メディスンから少し棘が抜け、それで霖之助は安心し、どっと疲れが押し寄せてきたのだ。
少し重く感じる布団が心地よい。
「じゃあ、朝までは一応看病するね。明日になって起きれるみたいなら、ごはん作って帰るから」
「はは。ごはんまで作ってもらえるのか。こりゃいいな。毒にあたってみるもんだ」
「あててないってば!」
くすくすと、二人して笑う。そうしてしばらくの談笑の後、香霖堂の灯りはようやく一日の役目を終える事となった。
後には小さな小さな寝息が、すう、すう、と響くだけである。夜はゆっくりと更けていった。
それから数日経った満月の夜遅く。霖之助は再び丘を訪れていた。妖精も妖怪も、音を立てるものは何一つ無い。
そんな中で、彼は目立つ服装をした背中を見つけた。大きな傘を持つその少女に、彼は見覚えがあった。
居るだろうなと思ってはいたが、やはり実際に居るとなると話は別である。なんだかなあ、と彼は思った。
案の定、声をかける前に彼女はこちらに気がつき、いつもの妖艶な笑みで挨拶した。
「ごきげんよう」
対する霖之助も
「ええ、こんばんは」
と丁寧に挨拶を返す。てくてくと、彼は緩やかな斜面をのぼる。一面鈴蘭が咲き乱れることもあるその場所は、今ではものさびしい。
きっかり五十歩歩いた後で、彼はようやく彼女の隣に至った。そこから彼が歩いてきた道のりが一望できた。
何もない、枯れ草と石だけの道である。しかし、月に照らされた静かでおだやかな道である。
視線を動かすと、妖怪少女の立っている場所から少し離れたところで寝息を立てる小さな人形が目に入った。
寝床が無いのであろうか。それとも気紛れであろうか。しかしそれは彼の興味の範疇に無かった。霖之助は問う。
「……近年稀に見るおぞましさだったのですが」
それだけで意図は通じるであろうと彼は思っていた。しかし、少女の答えは彼の予想していたものとは違った。
「何のことかしら?」
韜晦する様子もなく、ただ彼女は首を傾げた。長い金髪がさらりと揺れた。八雲紫は笑みをたたえたまま、彼と応対する。
「ごまかさないで下さい。冬眠でぐっすりのあなたがわざわざ出てくるのですから、大事件でしょう」
「だから、何の事かしら?」
間髪を入れず、にやにやと。八雲紫は扇で口元を隠して笑む。やっぱり胡散臭い子だな、と霖之助は思った。
「何の事だ、とはまたまどろっこしい。僕が気がつかないとでも思いましたか?
あの時下の世界から僕を引っ張り上げた指は二十本、つまり手は四つでした。メディスンと共に僕を引っ張り上げたのは、あなたでしょう」
霖之助のやや剣呑な口調に、紫は小さく笑いを零した。それは悪意のない失笑とでも形容すべきものであった。
「ああ。あなたはあれを下の世界、という風に見ていたのね。つまり、手に引きずられて地下に引きずり込まれた、と」
くすくす、くすくす、と紫は笑った。霖之助はううむ、と頭を回転させるより他に無かった。
紫は空を見上げた。そこには月が浮いていた。丸い丸い月だ。
たまに真っ赤になってみたり、沈まなかったりと、他に迷惑をかけること甚だしいが、それでもやはり愛着のある綺麗な月。
丘にはなだらかな傾斜があり、それはずっと向こうの人里まで続いている。あそこではきっと妖怪と人間との酒盛りが行われている事であろう。
ここから遙か遠く、反対側に位置する妖怪の山の天狗達は、もう眠っている頃であろうか。紫は四方八方をゆっくりと、そして満足そうに見渡した後に言った。
「あんな禍々しい手も、それにあんな暗い世界も、幻想郷には存在しませんわ。だって、ここはこんなにも美しいのですから」
しかし、と霖之助は不服そうに言う。
「僕は確かに見ましたよ。ここから生えてきた幾本もの腕を」
やはり、紫の表情は変わらなかった。
「そんな昔の霊魂達は、とっくの昔に成仏していますわ」
続けて、彼女はなんでもないことのように言った。
「貴方達二人は、ただ夢を見ていたのです」
「夢、ですか」
霖之助は曖昧な調子で返した。紫は彼に近づくと、彼が右手に握っていた青い石を取り上げた。
元々、適任者に預ける予定だった石だ。八雲紫の手に渡るのであれば不満はなかった。
「この丘に着いた時に、石が貴方達に夢を見せた。
この石は宝物を見せる石。あの恐ろしい夢を通して、あなたがメディスンに毒、という宝物を見いだしてあげました。大した効力のある石ねえ」
今度こそ、韜晦するような口調だった、霖之助は呆れたように言う。
「そんな与太話を信じると思っていましたか? 夢云々は真実かも知れませんが、その石に関する話は嘘です。
それはそんな綺麗なものじゃない。ただそれだけの石なら、あなたがわざわざ僕を助けてくれた理由が説明できない」
「説明できなくてもいい。世の中、幸せな結末が一番ですわ。何せ、幻想郷はちょっとばかし残酷な世界でもあるのですから」
ですが、と言う霖之助に、紫は言う。
「折角幸せに夢を見ている子供が居るのに、悪夢の話をするのは無粋ですわ」
幸せそうに寝息を立てているメディスンを前にしては、霖之助もぐうの音が出なかった。
紫が話さないと言うのだから、この決断はてこでも動かないだろう。
未だに痛む右肩を思うと、ただの夢では片づけられない何かを感じるのだが、しかし霖之助はそれを考えるのを止めた。
幻想郷を誰よりも愛するこの少女が大丈夫だと言ったのだ、大丈夫でないはずがない。
「では僕があの暗い世界で必死に難問に取り組んでいたのは無意味だった、と」
霖之助は苦い表情でそう言い、紫はくすくすと笑った。
「あら、私は楽しめましたわ。
落ち込んだ顔で店から出てきたと思えば、にやにやと自信満々に訳の分からない事を喚き散らす。
やっぱり見ていて飽きないわねえ」
「飽きて下さい。思い返すだに恥ずかしい」
霖之助は左手で顔を覆った。あんな自信満々に色々口走らなければ良かった。まさに道化である。顔に血が集まるのを感じた。
何が奇問を、だ。馬鹿か。マヌケか。
「まったく、霖之助さんもお調子者ねえ。見ていてとても面白かったわ」
少しばかり砕けた口調で紫はそう言う。
「僕は面白くありませんが」
堅苦しい口調で、拗ねたように霖之助はぶつくさ言った。
「大体、見ていたのならすぐ助けてくれれば良いではないですか」
駄目よ、と紫は言う。
「だってあなたはあれくらいの経験をしないと人助けなんてしないじゃない。
良い機会だと思ったからまた香霖堂の株を上げてあげたのよ。感謝してもらってもいいわ」
「ああまで苦労しないと天下の商人にはなれませんかね」
「なれませんわ」
やれやれと霖之助は溜息を吐き、くすくすと紫は笑った。
またとはなんだ、また、とは。以前にもそういうことをやったのか。霖之助は心の中の愚痴をのみこんだ。
「人助けなら霊夢や魔理沙にやらせれば良いでしょうに。あの子達ならもっと上手くやりますよ」
せめてもの反撃にそう言うと、とんでもない、と紫は首を横に振った。
「妖怪は人間の敵、というスタンスをあまり崩したくないのです。
霊夢や魔理沙なんて、典型的な妖怪の敵じゃない。そんな簡単に妖怪を助けてもらっても困るわ。
だから人間嫌いのあの子にはあなたくらいが丁度良いのよ、森近霖之助さん」
「人間嫌い、ですか」
とてもそういう風には見えなかった。
「いやしかし、彼女が人間嫌いなのはおかしい。あの手が真に象徴するのはつまるところ――」
「紫色の桜の前で、あの子は似た経験をしましたもの。あの子が人間が嫌いか好きななんて些末な問題ですわ。
あの子が人形である限りにおいて、人間はそれに手を伸ばし、恣意によってぐちゃぐちゃにしてしまう。
死者はそれが特に顕著ですわ。きっとあの子にはあの手がよほど恐ろしかったのでしょうね。夢に見るくらい。
まあ、見えてはいなかっただろうけど」
紫の桜。無縁塚に咲く桜の事か。縁起でもないものを見た子なんだなあ、と霖之助は思った。あんな悲しい桜は幼子が見るものではない。
「ふふ。生まれて間もないというのに閻魔様の説教を受けた子ですもの。嫌いなものでも理解しようと努力奮闘中ですわ。
でも毒についての講義は誰にも受けていなかったから、あなたは適任よね」
紫は笑い、霖之助は益々むっとした。
「永遠亭の人々に任せればもっとはやくに事は済んだかと」
「月の連中とはあんまり関わりたくないのよ」
むすっとして紫は言った。こんな子でもそういうところがあるらしい。
「それはつまり、あの遙か昔にあったという――」
なのでその事を武器に少々からかってやろうかと霖之助は口許を僅かにつりあげたのだが、そこには既にあの胡散臭い少女の姿はなかった。
勝ち逃げである。その代わりに、のそりと小さな少女が頭を起こす。寝起きでぼーっとしているのか目は半分閉じている。
ぐしぐしと右手の甲で何度か強く目を擦ってから、彼女はやはり眠そうな顔をして、霖之助を見つめる。
そして、その手で彼を指さして言った。
「霖之助」
思わず霖之助の頬がゆるんだ。人形は人の恣意を受けるというが、人形が人の精神に影響を与えることもまたよくある話だ。
もぞりとメディスンが体を起こした。ぱらぱらと土塊が落ちる。
「どうしたの? スーさんの季節にはまだ早いよ」
確かに、と霖之助は思う。石を持っていない自分がここに居る理由は最早無い。どうしたの、と問われても彼は確たる答えを持ってはいなかった。
なので
「どうしたんだろうね」
と訳の分からない返答をしてしまい、メディスンはくすりと小さく笑った。
「変なの」
お互いに話題を持っていなかったので、黙り込むしかない。
メディスンは長い間この鈴蘭畑に閉じこもってきたし、霖之助は一々人に気を使って話題を提供する男ではない。
結果として、前者はあたふたとし、後者は木訥として空を眺めるに至った。
人脈は武器だと霖之助は言うが、味方を作ることが大切なのは、メディスンにしても同じ事であった。
人形解放。森近霖之助とも仲良くなれれば、もしかしたら夢への一歩に近づけるかも知れない。
だけれど、メディスンは知っている。そんな自分勝手ばかりを押しつけても他者と仲良くなることはできない。
あの長い耳の兎にはたぶんまだ自分は信頼されていない。いきなり攻撃を仕掛けてしまったのだから、当然である。
信頼は簡単に崩れるし、築き上げるのは難しい。特にこの霖之助という男はそれが顕著だとメディスンは思う。
ある程度優しいけれど、それはある程度止まりだ。優しい話も、難しい話も、心を打つ事はあっても、心の中に踏み込んでくることはない。
それは所謂良い客と良い店主の関係なのだが、メディスンにはそんなことは分からないし、仲間がほしい彼女にとってはそれは不都合だった。
人の痛みを知らないと、人の心に共感できないと、仲間は作れない。あの鈴蘭が咲き乱れる日にメディスンはそれを学んだ。
霖之助の心を知らないと、霖之助と仲良くできない。
「うー……」
メディスンは唸った。それは難しい。とても難しい。この男が何を考えているのかなんて、全く分からない。
今も空をぼおっと見つめているが、一体何を考えているのやら。もしかしたら星座と三年後の天気について考えを巡らせているのかも知れない。
それくらい訳の分からない事を平然と考えていそうな男だった。そうやってメディスンが唸り続けているとさすがの霖之助もそれに気が付く。
「どうしたんだ? まるで熱に冒された子供みたいだよ」
そんなんじゃないけどー、とメディスンは言う。
「どうしたらあなたを仲間に……こほん。友達になれるかなあって」
別に言い直す必要はないだろうに、と霖之助は思った。仲間と友達の間にいかほどの差があるというのだろうか。
どうしたもこうしたもねえ、と霖之助は言う。
「そういうのには時間が必要だ。つまり君が足繁く香霖堂に顔を出しに来るのが一番の近道だと僕は思う」
軽やかに宣伝行為を行う霖之助。純粋なメディスンはもちろん彼の甘い誘いにころりと騙される。
「そっか。じゃあいっぱい遊びに来る」
「ん。そうするといい」
まさか、買いにこい、と直接言う訳にもいかず霖之助は取り敢えず好意的に対応しておいた。
物を買ってくれなくとも看板娘くらいにはなるだろう。
対するメディスンは、霖之助を仲間に引き入れようとの熱意を赤々と燃やしていた。
駆け引き半分真意半分の言葉のやりとりはお互い様であった。
それからはやはり話すことはなく、五分ほどお互いに黙っていたが、寒さがいい加減身にしみてきたので霖之助はさて、と一歩身を引いた。
ん、と顔を上げるメディスンに彼は言う。
「僕は帰る」
わざわざ宣言するのがおかしくて、メディスンはやはりくすりと笑った。
「帰れば?」
少し意地悪にそう言うと、やはり霖之助はむっとした表情を作った。予想通りで、それが何とも面白かった。
「嘘。また来てね。私も遊びに来るから」
まったく、と霖之助は溜息を吐く。猫の悪戯に困らされる飼い主のような表情であった。
愛嬌で何でもごまかせると思っていそうなのが腹立たしい。実際上手くいっているのがもっと腹立たしい。
なので霖之助は軽く手を振るだけにとどめ、去っていった。
そして、丘には誰も居なくなった。残されたのは小さな人形だけである。メディスンはぼんやりと空を見上げる。
もう寝てしまおうか。元々朝まで寝るつもりだったし、それが正しいだろう。でも、他にするべきことがあるような気もする。
ああ、そうだ。メディスンは思い出した。鈴蘭の毒だ。それを霖之助は薬にしてみせる、だなんて奇抜な事を言っていた。
面白そうだと思った。出来るものならやってみろと思った。そんな好奇心だけじゃなくて、本当に実現してほしい、という願望もまた、あった。
明日、香霖堂に行ってみよう。日が昇ったら、すぐ行こう。行って彼にお願いしよう。毒を薬に変えてくれ、と。
それが、彼との第一歩。彼を仲間にするための、彼と友達になるための、大事な大事な第一歩。
楽しみだな。すごく、楽しみだ。ゆっくりとメディスンは体を起こして、両腕を広げた。ふわりとドレスが空に舞った。
とん、とん、と彼女は地面を蹴っては踊る。踊っては蹴って、蹴っては踊り、そして呪文を口にする。鈴蘭が咲いて無くったって、できるはずだ。
はやく、明日が来ないかな。
そう思い、舞い続ける彼女の鼻腔を柔らかな匂いが突いた気がした。どこから漂ってきたのだろうか。それは見知った鈴蘭の香りだった。
純粋で繊細な匂いに包まれ、メディスンは丘を駆け上った。小さな小さなその姿を、月影が柔らかく映し出していた。
「コンパロ、コンパロー、毒よ集まれー」
それにしても霖之助かっこいいな。
知性の空転具合が自分の霖之助像に近くて楽しめました。
紫を結局嫌いではないとか言うあたりもにやにや。
のでしょうね。この話では毒性が重要なのですから。
良い作品でした。
いつものことながら題材が素晴らしい
それにしてもメディ可愛いな ぜひ看板娘にしてあげてください
相変わらず、紫の使い方がすばらしいです。
そしてなんだかんだで、人のいい霖之助。
与吉さんの作品は大好きです。
いい感じです。
与吉さん……あんたすごいよ!
メディはいらない子じゃなかったよ!(すごい失礼)
そしてルーミアの時といい幼女との絡みがよく合う。
急にメディが可愛く思えてきました。
あんな立ち位置にいて、かような難儀な性格をしているのか。
このSSを読んでようやく腑に落ちた。
与吉さんの霖之介はいつ読んでも素晴らしいです
在り様がとても素晴らしいですね。
抜くべきところは抜いて、締めるべき場所をきっちり締めていて
とても良かったです。
霖之介とメディスンのこれからの親交もきっと良いものなのでしょうね。
面白かったです。
次々と頭の中でイメージ映像が出てきましたよ
すごく読みやすかったです
ちょっと鈴蘭買ってくるw
全ての登場人物がしっかりと役割を果たしていて良かったです。
二転三転する展開が面白かった。
命題~の霖之助の思考に少々違和感を感じました。
霖之助は論理よりもひらめきや直感といったものに重きを置く考え方をするので、
好きや嫌いを構成する要素を分析して……という現代人の考え方はそぐわない気がします。
メディスンや霖之助のキャラがつかめていてとても良かったです。
青い石の使い方に心惹かれました。
しかし、大人だなぁ。霖之助・・・
実に霖之助らしい霖之助で楽しめました
与吉さんの霖之助はすっかり主役ですね。
紫が出てきてまとめる流れにも一工夫欲しかったかな。
こんぱろー、こんぱろー
そして紫の使い方と言うか、立ち回りがしっくり来ます。
こんぱろ、こんぱろー
それゆえにだと思うのですが、メディスンの興味が石→霖之助へと移り変わる過程の描写が不足していると感じました。
メディスンが石を持ち出す場面と、霖之助に対してイラついていた筈が面白くなってくる、という場面でメディがなんかちぐはぐ。もっとイラついてたんじゃないの? とか。
鈴蘭畑の描写は、今までの作者さんの作品のなかでも非常に緊迫感のある場面であったと思いますし、気合が伝わってくるような面白さでありました。
序盤の流れ以外はしっかりした屋台骨があり、非常にしっかりとした作品だと思うので、序盤だけが残念です。
与吉さんの幻想郷のキャラクターは、なんか全キャラ霖之助を好きになりそうな気がします。同じ流れ(話を聞いていたらいつの間にか)で。
それぞれのキャラを活かした交流ではあるんですけれども。霖之助を好きになることだけはとりあえず先に決まっているというか。
120点の部分と40点の部分で合わせて80点ということでひとつ。……なんだろうこの上から目線の感想。すみません、偉くなさそうに感想を書く術を学びます。
ただただ物語に圧倒されっぱなしでした
霖之助に違和感を持っておられる方もいらっしゃるようですが、
私は与吉さんなりの霖之助像をしっかりと持っているからだと思っているので
そういったものは気になりません。
最後に、作品だけでなくあとがきの素晴らしさに今回も甚く感動しました。
すごく面白かったです。良い作品、どうもありがとうございました。
命題とかそういうところはもう少し削れたのでは。
あ、内容はとても面白かったです。メディスンと霖之助という珍しい組み合わせが活かされていました。
大空転を続ける霖之助がらしすぎたのでこの点数を捧げさせていただきます。
俺も、氏の描くこーりんが好きだが。
ただ最初の方の霖之助が一回崩した口調をまた丁寧に直すのにちょっと違和感
ごちそうさまでした
>「……研究して、薬をつくるため?」
>違うよ、と霖之助は笑った。
>「永遠亭に毒が置いてあるのはね、メディスン。それを薬として使うためなんだ」
>「薬?」
この部分、言いたいことは分かるんですがもうちょっと言い回しを変えた方が分かり易かったかなと思います。
違うと言い切るには、メディスンは一部とはいえ言い当ててるわけだし、自分で薬について言及しながら、
「薬?」というのも会話としてちょっと変かなあと。
全体としては、発想・内容、引用ともにぐいぐいと引っ張られるような吸引力で文末まで一気に読まされました。
飢えて死なない霖之助なら、幸せな暮らしのまま何度でも冬を越せるでしょうから、二人の長い今後の時間、その一部を、
いつか覗き見て、その幸せを分けてもらいたいという気にさせられます。
ぶっちゃければ続編希望。
メディスンの興味が石から霖之助へ簡単に移ったりするのを見ると、まだ幼い妖怪なんだ、という実感がわきますね。
次回もメディとの絡みがあることを信じて!
自分のメディスンに対する理解がないせいな気もするのですが
あと
>僕らの住む理想郷を愚弄するのも大概にしてくれ
のセリフに違和感を感じました。
霖之助は今の幻想郷をやや否定的に斜めから見ている感があったような気がします。
植物毒を挙げていた様ですので…
細かいところでスイマセン
キャラが確立されていると読みやすいですね
途中の思考の考察?のような場面がやけに長く感じてしまい、途中で読むのを諦めました。