Coolier - 新生・東方創想話

どぎゅん! 少女だらけの野球大会っ! 1

2009/01/24 19:13:18
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ふと、スッと夢から現実に戻るように目が覚める。辺りを見回してみると真っ暗で何も見えない。どうやら、私は頭から布団を被っているみたいだ。

布団の温さを惜しく思いつつも、私は仕方なく布団から顔だけを出す。室内なのでさほど寒くはないが、それでも頬にヒヤリと伝わる寒気にはどうも慣れない。

このまま布団を被り二度寝してしまいたい衝動に駆られるも、時既に遅し。瞬間、一気に昨日までの記憶が頭を巡り、目が冴えてしまったからだ。

私は、少し損をした気分になりながらも布団から体を出し、窓へと向かう。目が覚めたからといっても、太陽の陽射しを浴びないとどうも起きた気がしないからだ。

窓に向かう途中にさっきまで見ていた夢の内容を思い返してみるも、さっぱり思い出せない事に気が付く。不思議なものだ、夢を見ている時は記憶に残っているのに、夢から覚めるとごっそりとその記憶が抜けてしまうなんて。

窓のカーテンをガラリと開けると、日が出て間もない頃なのか朝焼けが湖全体を包み込むように淡く綺麗な風景が見える。窓をフッ、と軽く開けると、朝独特の寒さと陽射しが交じり合い、私の体に伝わる。…気持ちがいい。

私は、ベランダに出てスッと息を吸い込み、朝焼けに向かいこう叫んだ。

「野球大会じゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」








「…で、私たちはなんで呼び集められたの?」

「何故か? 無論、野球をするためよ!」

カリスマたっぷりに馬鹿げたことを私たちに告げるこの幼女は、レミリア。その左後ろには専属のメイドの咲夜が前に手を組んで待機している、目線がチラチラと他に移っているのは気のせいか。私たちは、紅魔館の入り口近くのホールに集められていた。

…、今日の朝頃か。私こと博麗霊夢は、神社の縁側でまったりとお茶を飲んでいたらレミリア直々に『野球大会をするわよ!』と寝ぼけたことを告げられ無理やり館に連れ込まれてしまった。拒否権は無いらしい。

途中、レミリアに他の連中は誰がいるのか、そしてあんたは日光に当たったら駄目なのではないのかを聞いたら『咲夜に人選を募らせているからわからないわね。まあ、顔見知りの人なんじゃない? 後者は、何回も日に当たって灰になっている内に慣れたわ』と得意げに悲しい事をさらっと言われてしまった。
どうなの、それ?

「…まあ、いいじゃねえか霊夢! 地霊殿騒ぎ以来異変も起きず、暇だった事には変わりがないからな! ちょうどいい暇つぶしだぜ!」

咲夜に招待されてはい、はい! と二つ返事に来たのだろう。友人、霧雨魔理沙が私の肩を叩きながら楽しもうぜ! と話し掛けてくる。
あんたはいいわよね、こういったイベントがあってもまず被害を被る事はない。私は別なのよ、むしろ積極的に被害を受けているわ。
今回の野球大会だって、第一ほとんどの場所に雪が積もっている幻想郷のどこで野球をしようっていうのよ? まさか、私の神社のところに幻想入りしたグラウンドを持ってきたとか?
ないない。それはない。

「…霊夢。そんな、嫌な顔をしないで」

後ろから幽霊を引き連れた白髪でおかっぱの女の子で、庭師の魂魄妖夢が慰めてくる。何よ、大きなお世話ねとつっぱねようとしたが、妖夢の瞳を見ると心からの同情というか、日頃理不尽を受けているからその気持ちは果てしなくわかるよといった同類者としての憐れみの瞳をしていた。
…彼女、普段から幽々子にこき使われているんだっけ。今度から、彼女に優しく接してあげよう。

他にも周りを見回すと、魔理沙と妖夢以外に永遠亭のうさぎやアリス、冬の妖怪となんか征服がどうとか言ってたかぜいわい? 巫女ね。まあ、いた。あの巫女の名前、早苗だったっけ? やめて欲しいわね、そういう二番煎じみたいなの。あんたはともかく私まで被害被るんだから!
…でも、他の皆はしぶしぶながらレミリアの野球大会の案に賛成しているのにも関わらず、早苗だけ一人状況を飲み込めていないのか『野球…?』と呟いたりしていた。ああ、なんかあの子が独り言呟いていると様になっていて可愛いわね。むかつく!

「…え? 野球って、どういうこと?」

お、ついにあの緑髪の巫女がレミリアに質問したぞ。レミリアってより、その後ろの咲夜に言っている様に見えるけど。

「…あら。咲夜から聞いていなかった? おかしいわね、咲夜には事情を説明するように言ったはずだけど。咲夜、どういうこと?」

「はい。…とりあえず、野球というゲームをするためにそこの5人に呼びかけました。その後に、私の私用で守矢神社へ行き、早苗ちゃんにお嬢様の用件が済んだら暇になるから紅魔館まで来てくれないかと伝えました」

お前の私用かよ!

「…全く、仕方ない子なんだから。でも、今日は駄目よ。あなたには、野球に参加してもらう予定なんだから」

「…え? なんでですか?」

「もちろん、紅魔館の代表だからよ。私は監督をやるから、消去法で代表があなたになったの。朝に、ちゃんと告げたでしょう?」

「…え、そ、そんな? 私は、てっきりこの後自由になって早苗ちゃんと甘味屋に行こうと予定を立てていたのですが」

「のろけはもう聞き飽きたわよ。早苗も、悪いわね。咲夜が変なところ抜けているばかりに。悪いんだけど、参加してもらえるかしら?」

「え? あ、はい! せっかくの皆が集まったまたと無い機会ですしね、参加させて貰います!」

「…ふふ。ありがと、早苗」

何、この家族ぐるみの付き合いですよっていうような空気。何レミリアまで早苗にちょっと馴れ馴れしくなってるの? いつの間に二人は関係を進めていたの?
世の中謎だらけだわ。

「ほら、早苗だって参加するっていってくれたわよ? それに、咲夜の悪いところは一人にのめりこみすぎること! 偶には二人きりではなく大勢の人とも触れ合いなさい」

「そうですよ、いつも二人きりだと新鮮味が無いじゃないですか。偶には、こういったことも必要ですし、楽しいですよ!」

「え、だ、だって! そんなことを言われましても、私! それに代表が1人でいいのなら門前で突っ立ってる美鈴にでもやらせればいいじゃないですか!」

「美鈴? …彼女は駄目よ、咲夜。うん、駄目よ。彼女は私のおっぱいまくら、いや、記録係的な、…。駄目なものは駄目よ! おとなしく参加しなさいっ!」

「…ぷんっ!」

二人が咲夜をなだめるも、咲夜の表情はみるみるうちに無表情で隙の無いものからぷくーっと頬を膨らましそっぽを向いて涙目へとなっていった。腕も胸のところに組んである。
…あんな咲夜、初めてみたよ!? なに、この二人! できる!

「咲夜さんっ! 一緒に野球やりましょうよ!」

「…二人きりがいい」

「咲夜さんったら! 二人きりだなんて、試合が終わった後にいくらでもなれるじゃないですか!」

「…今がいいんだもんっ」

咲夜が早苗にそういうと、とうとう後ろを向いてうずくまってしまった。どうやら、完全にへそを曲げたらしい。…周りの皆も、普段の咲夜の様子のギャップに戸惑いを隠せないらしい。
私だってそうだ、こんなことが起きるだなんて全くの想定外だ。いやあ、それにしても面白いものを見た。今度咲夜と話す時ネタにしてやろう。

「…んもうっ! わがまま言ってたらメッメッですよ! …仕方ないなあっ!」

そして、早苗は咲夜の様子を気にすることもなく、うずくまりのの字を書いている咲夜に近づいて行き、振り向いた咲夜の唇に軽く自分の唇を当てる。…。



!、!!!??

「ちょ、ちょ、ちょっとあんた! 何してるのさ!」

「? 何って、キスですよ?」

なななななな何をあたかも当然の事の様に言いやがって!
なにさ! あいつらはなんなのさ! 乙女ってもんはもっと自分を大事にしないと駄目なんです! それが、なんだ! こんな大勢の人が集まっているところで、軽率な!
け、決して羨ましいとか、そんなことは断じてないわよ!

「なななななな何をあたかも当然の事の様に言いやがって!
なんだ! お前らはなんなのさ! 乙女ってもんはもっと自分を大事にしないと駄目ななんだぜ!? それが、なんだ! こんな大勢の人が集まっているところで、軽率な!
け、決して羨ましいとか、そんなことは断じてないぜ!」

魔理沙が私に代わって意見を述べてくれました。ありがとう。

「…そ、そうよ! 早苗ちゃんったらなんてハレンチな! 早苗ちゃんだって、二人きりになれない悲しみを隠す為に私にキキキキスをしたのでしょう!? まるわかりなんだから!」

あれ、こっちのほうは慣れてないみたいだ。なんだ、よかった。なんだかあそこだけ二人きりの世界が創られているから、慣れきっているのかと思った!

「…ふふ。試合に参加した後、続きをしてあげますよ」

「…。そんなこといわれたら、参加しない訳にはいかないじゃない」

咲夜がしょんぼりとしながらこちらへ近づいてくる。早苗は、咲夜の様子を見て満足したのか円満の笑みを浮かべている。

…いちゃいちゃしやがって!






一応館に集まっていた皆の了承を得たレミリアは、善は急げと足早に私たちをグラウンドへ連れて行く。何でも、あのスキマ妖怪との交渉が成立して幻想入りしたもののちゃんとした設備の整った巨大な球場を用意したらしい。すげえ。

でも、そんなでっかい球場を置く土地、どこに用意したんだろう? 疑問を頭の片隅に浮かべながら、永遠亭のうさぎと妖夢と軽く話しをしながら球場へ向かう。どうしよう、あのうさぎの名前忘れちゃったのよね。でも、あっちは気軽に私の名前出してくるし、話を始めたから今更名前聞き返せないわ。どうしよう。

ちなみに、私たちは前から2番目の位置で飛んでいる。目の前にはレミリアと門番が先導して飛んでいる。門番の肩や手には一目見てギョッと驚くような荷物がもはや乗せられるようになっていたが、門番はそれを気にもとめないのか平然とレミリアと話しながら飛んでいる。門番すげえ!

後ろにはそれぞれ魔理沙とアリス、早苗と咲夜と冬の妖怪がグループとなってついてきていた。なんだか咲夜がレティに対して嫉妬の目線を向けているように見えるのは気のせいだろうか。逆に早苗はレティに気を配るようにしているように見える。ううむ、難しいものなんだな、恋とは。

紅魔館の目の前に広がる湖を飛び越え、辺りの森を抜け、雪が降り積もり除雪さっぱりやってませんよと全面的にアピールしているやけに長い階段や鳥居…。私は半ば思考を停止しつつレミリアの『ついたわよ!』と言う声を聞き仕方なしに向き合いたくない現実と向き合った。空飛んでるから既に視界に入ってるんだけどね、気持ちの準備って大切じゃない?

そこには、少々壁にひびが入っているものの広大な観客席とちょっと低いフェンス、そして看板文字には『広島市民球場』とかいてある球場

「どっせええええええええええええええい!!!!!!!!!!!」

何で私の神社が跡形もなく消えてるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!! わかってたけど!

「なんで私の神社があった場所に球場が出来てんのよ!」

「…あー、今日もいい天気だぜ」

「そうね。絶好の野球日よりだわ」

「そこおっ! 私の方目を逸らせながら普段絶対にしない会話しないでよおっ! あんたち、本当にいいの!? 由緒正しき神社が無くなっちゃったのよ、幻想郷やばいよ!」

私は目を逸らすアリスと魔理沙に語りかける。しかし、魔理沙からだってなあと『いつものことじゃん!』そう言われてしまった。もちろん殴った。アリスに至っては目を逸らしつづけながら人形に『ああ、駄目よ上海。心躍る気持ちはわかるけど、急がないの!』と語りかけていた。余りに悔しいからレミリアに憎悪の目線を送るも

「咲夜~、霊夢が感激の余り私に感激の目線を送ってるわ!」

「今早苗ちゃんと一緒にいるんですから邪魔しないでください。私は嫉妬深いですよ」


「素っ気無い態度に心がきゅんっとしたわ」

余り気にしていない様子だ。咲夜の返答にざまあと思ったが、流石に大人げないなと自己嫌悪してしまった。

「…霊夢」

「ご愁傷様」

うさぎと妖夢だけが私を慰めてくれる。私の怒りは一旦収まったものの、この試合終わった後絶対おこちゃま吸血鬼とスキマババア容赦しない。絶対しない。

「…全く、器の小さい巫女ね。先に私が対戦相手となる強敵(レミリアは友だとかほざいてたけど面倒くさいからスルーした)を招待して中に呼んでおいたわ。さあ、向かいましょう」

レミリアが監督面をして意気揚揚と一旦空から地上に降りて球場に入る。今まで飛んで来たんだからそのままグラウンドに入ればいいじゃないかと考えたが、もうなるようにな~れ! あっは!

「ふふ、霊夢。だからこそ、私たちは前を向くのではなくて?」

いちいちカッコイイのがむかつく!

「…ついたわ。あそこにいるのが、今日の対戦相手よ」

えっと、ホームベースから外野に向かって右が一塁だっけ? 忘れた。まあ、右側のベンチから球場に入る。そして、反対側のベンチに待機しているやつらの面子を確認して、私たちは目を疑った。

「…八雲の式に永遠亭の薬師。普段すばしっこいブン屋に、普段さぼってる渡り船の先導。全員、大物じゃねーか!」

魔理沙がすっとんきょうな声を上げる。一緒にやってきた永遠亭のうさぎが『師匠!?』と驚いているし、後からやってきた早苗も『か、神奈子様と、諏訪子様!?』と驚いている。私だって、息を呑んだ。

そこにいた面子は、魔理沙があげた人物の他に鬼二人に地底の猫、不死鳥、あとなんか蛙と蛇の神? だよね。まあ、いた。概ね幻想郷にて名前を馳せてる面子ばかりだ。…こいつらを相手に野球するというのか!?
なにこれ。無理じゃね?

「甘いわね、霊夢。試合は諦めたら終了なのよ?」

「それ、野球とは関係ありませんよ」

試合すら始まってないのにどこか頭のネジが抜けたレミリアの発言に、早苗がそれを言うならバスケですと付け加えながら指摘をする。指摘されたレミリアは、薄い笑みを浮かべながら『まげ?』と聞き返す。早苗が『まげです』と答えた瞬時、レミリアは燃え尽きたかのように真っ白になりグラウンドに倒れこんだ。

「面倒臭いからほおっておきましょう。あ、霊夢! そこのロージンベンチから避けといてください!」

早苗が私たちに指示を出して、荷物からバットを取り出したりメットをロッカーに用意したりなどとテキパキと行動する。おお、キャプテン向きだなあ。どうでもいいから全て早苗に任せるわ。
レミリアは誰にも相手にされずとうとう灰になりかけたが、後からついてきていた美鈴が大急ぎでベンチにまで連れてきて日陰で休ませてた。もう疲れた。

どうでもいいけど、早苗って結構腹黒いのね。

「…ふう。一通り、準備は終わりましたね。後は、レミリアさんが起きるのを待つだけです。その間、向こうのベンチにいる神奈子様と諏訪子様に挨拶してきますね」

「あ、じゃあ私も師匠に」

そう早苗とうさぎが告げると二人は足早に向こうのベンチへと向かっていった。用意が終わったとのことで辺りを見回してみると、紅魔館の門番がケロッとしつつも私一人では到底半分も持てない量の荷物が入ったバッグがベンチの片隅に置かれていて、バットやヘルメットなどがきちんとロッカーに入っていた。グラブのみ、かごの様なものに入っていた。
よくよく観察すると先ほどまで埃が乗っかっていたベンチやロッカーの上なども綺麗にふき取られている。早苗、出来る子…!

「待たせてしまいすみません。神奈子様たちも、レミリアさんに呼ばれていたのですか? 一言、言ってくれればよかったのに」

「いや、私たちも面食らったよ。あの吸血鬼の話で誰が来るかわからないとは聞いていたけど、まさか早苗とはね。なにがともあれ、私たちは全力でいくよ! よろしく、早苗!」

「はい、こちらこそ!」

「…早苗? おお、これはあの時のお嬢ちゃん! 久しぶりだね、悩みなんかは無いかい?」

「はい、藍さん! お久しぶりです! 悩みも無く、日々楽しく生活しています!」

「はっは、そうか! それに越したことはないよ!」

「ほう、八雲の式は早苗と面識があったのか。一体、どこで?」

「いや、前にお嬢ちゃんが家に遊びに来てね。その時に知り合ったんだ。最近めっきり来ないから心配でね、いや、なにより」

「師匠、いつの間に今回のイベントに参加していたんですか! あと妹紅!」

「おいおい、私は輝夜の尻拭いで呼ばれたのに、呼び捨て扱いかい」

「あらあら。妹紅ったら、なんだかんだで融通が利くんだから」

「だって、前々から約束してあるのに土壇場でやっぱ無理だなんて、そんな話はないだろう。だったら、代わりとして私が参加するのもやむを得ないさ。…守矢の嬢ちゃん! 元気だったかい?」

「はい、妹紅さん! 有り余ってるくらいですよ!」

あれ、なんで早苗こんなに顔が広く知れ渡っているの?
なんで幻想郷に長くいるうさぎよりも居心地がよさそうなの? 謎ね。

「…じゃあ、長居しすぎても迷惑だし、戻ろっか。えっと、鈴仙さんだよね?」

「本当は鈴仙・優曇華院・イナバなんだけどね。好きに呼んでいいよ、早苗さん。よろしくね」

「うん、よろしく!」

また一人仲良くなってるし! あとうさぎの名前鈴仙だったね! ナイス早苗、ありがとう!

「お待たせしました。レミリアさんは、目覚めましたか?」

「ええ、危なかったわ。後もう少しで腰痛が悪化する思いだったわ」

「いっその事一度完全に灰になってみたらどうですか?」

あの巫女恐い

「…ハアッ、ま、間に合った? …レティー! 応援しに来たよーっ!」

バックネットの方向からわんぱくな少女の声が聞こえる。振り返ってみると、そこにはいつも紅魔館辺りでよく見かけるちびっ子軍団がなにやら応援に来ていた。
具体的に誰がいるかをチェックすると、お馬鹿な妖精、その妖精の金魚の糞みたいな妖精(ごめんね、あなた私数回しか見たこと無いけどそんな印象があるの)、蛍、鳥、式の猫が後ろにある観客席の入り口から階段を下ってきて、バックネットの最前列でフェンスをガンガンと叩き存在をアピールしている。
一名、フリルのついた帽子を被った金髪のお世辞にも少女とは言えない婆さんがいるように見えるのは気のせいか。あ、保護者か!

「あらあら、霊夢ったら私が来てくれたことが嬉しくて照れ隠ししてるの~? んもう、そんなことしなくたって私にはあなたしかいないわよっ!」

「話しかけてない」

「霊夢ったら冷たいわねえ」

怨みは大きいよ

「おお、チルノ達じゃないか! 場所を伝えてなかったのに、どうしてここがわかったんだい?」

冬の妖怪はベンチからバックネットへと駆け寄っていって、ちびっ子たちに近づいていく。冬の妖怪がちびっ子たちに手の届くところまで行くとちびっ子たちはさっきよりも一層きゃいきゃいと歓喜をあげる。ああ、ちょっと和んだ。かわいいなあ。

「うふふ、甘く見ないでねレティ! あたいにかかればレティの居場所なんて一発でわかるのさ! …まあ、本当はそこのお姉さんに教えて貰っただけなんだけどね。ヤキュウ、やるんでしょ? いいとこみせてねレティ!」

チルノは舌ったらずに野球という単語を交えながら冬の妖怪に伝える。ああ、微笑ましいなあ! さっきまで憎悪の気持ちでいっぱいだった私の胸中も今では晴れるようにいやそこまではいかないけど紫がぶら下げている結構大きなバスケットを見てあー微笑ましいなあと思うくらいには、まあ。
いいな、ピクニック。私も今度皆に提案して、…駄目ね。飲み会になるビジョンしか見えないわ。

「…へ、あの、あれっ!? あなた、今私にお姉さんって言ってくれた、の!?」

「? だって、お姉さんがお姉さんって呼んでって言ったんじゃあないの?」

「うわああああそれはもちろんそうだけど理想というか言葉のあやというかあああああああ藍ーっ! やったわ、私やったあ! お姉さんって言われちゃったぁっ!」

「あのババアなんとかしろよ」

「紫しゃま…」

「藍…?」

最近の式恐い

「…さて! もうそろそろ試合を始めるわ! 私と美鈴は監督だから、試合はあなたたち8人でつくっていくのよ!」

「ウオッス!」

「美鈴、あなたが返事してもあまり意味がないのよ」

「すんませんッ!」

元気いいなあ。

「え、あの。美鈴さんも一緒にやるのではないのですか?」

早苗が、レミリアに質問を向ける。なんだよお前、今日いちいち目立ちすぎなんだよ! いつもは空気の癖に!
一つ一つの動作が様になってかっこいいしかわいいところがまたむかつく!

「ええ、美鈴は私の大切なちちまくら、ち、ちち、…記録係だから。参加させるわけにはいかないわね。でも、どうかしたの? あ、そうだ! 皆のポジション決めないとね!」

今完全にちちまくらって言ったよね?

「…そうそう、そうです」

早苗はやや不満げな表情を浮かべつつも、質問した内容がポジションのことなのだろうか、うんうんと頷く。
今まで会話に参加せずバックネットの方をずっと見ていた魔理沙が、ポジションを決めると言う言葉を聞いたからだろうか一目散にこちらに振り返り会話に参加し始めた。

「はい、はいはい! 私は1番で打ちたいぜ! やっぱり弾幕だって何だって大切なのはパワーだからな! パワーとは勢い! この中で一番勢いのある魔理沙さんが1番をやるのが道理ってもんだぜ!」

「そうね、そこにいるふとましい妖怪さんは体型ががっちりしてるからキャッチャー。打順は3番ってとこかしら。庭師、あなたは何でも出来そうだから2番。ポジションは…、なんだか考えるのが面倒になってきたわ。適当でいいんじゃない? まあ、8人で頑張るのよ!」

「私は無視か! もういい、私がチームを導いて見返してやるんだぜ!」

「ふとましくないやい! ちょっと体型がしっかりしてるだけだい!」

「まあ、ほどほどには」

「ちょっとまったああああああああああああああああああああ!」

早苗が物凄い形相でレミリアに詰め寄る。レミリアは、何がおかしいのかときょとんとしながら早苗を見上げる。

「何をいってるんですかレミリアさん! それじゃあ、試合が出来ませんよ!」

「え、だって、別に8人も入れば十分じゃないの?」

「十分だとか、そういった問題じゃあありませんっ!」






「野球は9人じゃないと出来ないじゃないですか!」






「え?」

早苗の質問に、レミリアが少しうろたえる。しかし、すぐに平然を取り戻したのか、レミリアはベンチに座ってだらけている咲夜に目線を泳がせ、助け舟を呼ぶ。戻ってねえじゃん。

「…咲夜。野球って、9人なの?」

「…存じません。私の意見としては、とりあえず4人くらいいれば成り立つものかと」


「馬鹿ね、それじゃあ外野にボールがいった時誰が対応するのよ! 外野に飛ばせば絶対有利のヌルゲーじゃない!」

「知らない。お嬢様が悪い」

「咲夜…?」

あのメイドまじ恐い

「…おほんっ! そっちのチームたち。私たちはもう試合を始めたいんだが、どうかしたのかな?」

私たちがベンチ内で揉めている事を見かねたのか、向こうのチームの面子がこっちのベンチまでやってきた。
その内の渡し守が妙に怯えているのは気のせいだろうか。なにやら『やばい、やばいこれはやばい…、あたいとしたことが四季様から完全に逃れられない所へとサボリに来てしまうなんて! あああ、あたいセンサーがビンビンと四季様の来客を四面楚歌いや呉越同舟かうわあああああああああああ』駄目だこりゃ。

「いや、なんでも野球って9人でやるものなんですって」

レミリアが流暢に語る。さっきまで知らなかったくせに!

「…え?」

瞬間、完全に場の空気が凍りつく。あれか。お前らも8人と思い込んでいた口か。

「ややや野球って10人じゃないの!?」

もう何人でも代わりないよ

「…霊夢、霊夢! 表情がどんどん不機嫌になっていってるぜ!」

「…え? 別に、隠さなくてもいいんじゃない。私、そもそも野球って複数人でやるものだって初めて知ったし」

魔理沙に表情が不機嫌だと指摘されるが、それを言われて直したとしても何か変わるわけでもない。
どーすんのよ、この状況。まさかこのままお流れだなんてそんな話はないわよね?

「…うっし! なら、私が行こう!」

がやがやと対談をしている時、一匹の鬼が高らかに声をあげる。

「9人で試合をやるってんなら、誰か一人がそっちにいけば十分じゃないか! それに、悪いけど贔屓目に見てもそのままじゃそっちのチームにゃ勝ち目が薄そうだからね! 一丁、私が一肌脱いでみようじゃないか!」






「…いいこと」

ベンチの日陰でレミリアは早苗に意見を聞きながら、私たちに続ける。

「ポジションと打順は私と早苗が話し合って決めたわ。知識としては早苗はゲームでやったくらいしかないらしいけど、それでもましなほうでしょう。
来た球は体で捕る! 無理にグローブで捕ろうとすると後ろにそらすわ。
…野球は、チームのことをナインと呼びの。カリスマナイン、張り切っていくわよッ!」


「「おうッ!」」

チーム、いや。ナイン全員が円陣を組み気合を入れる。あいつってこういう所だけ無駄にかっこいいのがむかつく。なによ、カリスマナインって! どこらへんがカリスマなのよ!
むしろあっちのほうがカリスマ溢れてるじゃん!

「何、霊夢? 大切なことはベストを尽くすことよ。ちなみに、相手のチーム名は大物ナインだわ。私が名付けたわ」

駄目だこりゃ。

「…おほんっ。ポジション発表するわ! 1番! ライト、魔理沙!」

「おっ! 流石はレミリアと、あと…。わかってるじゃねえか! この幻想郷最速の魔理沙さん、張り切っちゃうんだぜ!」

「なんで私の名前言おうとしたとき口元が濁ったのですか」

「2番! セカンド、妖夢!」

「…。はい」

「3番! キャッチャー、ふと」

「言わせねえぞ!」

「ふとましい!」

「ちくしょう!」

クスリと笑っちゃった。ごめん。

「レティー! がんばれえええええ!」

「ちょ、ちょっと、チルノちゃん! まだ試合は始まってないよ!」

「あ、そ、そうなの? それでも応援するに越したことはないさ! いっけえ、レティー! 早苗ー! かっとばせー!」

ちびっこ応援団の高らかな歓声がこだまする。ああ、あの妖怪って好かれているんだな。

あとなんでまたあの憎たらしい所詮私の二番煎じ巫女の名前があがるのよなんでよなんなのよどこに接点があるというのよああああもうちくしょうチッショー!

「ムッキー!」

「ど、どうした霊夢! いきなり奇声あげながら腋からハンカチ取り出して思い切り噛むなんて!」

「ほ、ほっといてよ魔理沙! そうよ、私は生まれながらにしてのロンリーウルフですよーだ!」

「そっか」

ま、魔理沙…?

「4番! ピッチャー、勇儀!」

「…、へえ。一番目立つポジションと打順じゃないか。これは期待に応えないとね!」


地底の鬼、勇儀は嬉しそうに両肩を後ろに回す。
やはり、鬼は目立つことや期待されることが好きなのだろうか。

「5番! レフト、霊夢!」

「…私?」

「そう、霊夢よ。何か不満?」

「…いや」

その5番という打順がどのような役割かよくわからないが、まあそこそこ精一杯やるだけだ。

「6番! サード、…」

「鈴仙です」

「7番! センター、咲夜!」

「はい」

「私飛ばされた!」

「8番! ショート、アリス!」

「…どうせ私は最後のほうですよっと。あまりものですよ」

「ま、まあまあアリス! 8番だからこそ次につなげられるんじゃないか!」

「…ふんっ」

魔理沙がアリスにフォローをするも、アリスは自分が呼ばれたのが最後のほうだからとすねてしまった。まあ、気持ちもわからなくはない。このオーダーを決めたのは早苗とレミリアだから、実質最後ってことだもんなあ…。

「9番! ファースト、早苗!」

「はいっ!」

早苗がほがらかに元気よく挨拶する。レミリアは、オーダー表を審判に提出しにいくだとか言ってどこかへ言ってしまった。…そうだ。そういえば、そもそも審判って誰がやるんだ? 少し気になったので辺りを探ってみる…、あ。

「提出ご苦労さまです。では、試合を始めますので各チームそれぞれの線側の集合してください。…小町ッ!」

「きゃんっ!?」

ホームベースの方から甲高いような地響きのするような、なんとも矛盾した声が響く。ホームベースを見てみると、妙にちんちくりんで青と金で彩られた閻魔の制服? まあ、そのような服装と球場という背景が見事にミスマッチしている。
…先ほどの渡し守が何故いきなり挙動不審になったのか、今わかった。普段花映塚で閻魔をしているはずの四季映姫が、主審の位置にいるからだ。わざわざ、呼んできたと言うのか!?

「全く、あなたはまた勤務を抜け出してサボリかと思って幻想郷を探してみたら野球大会に参加ですって? あなたがそんなことだから」

「ほ、ほらほら四季様! 皆を待たせちゃまずいですし、パッパッと始めましょう!」


「…む。まあ、そうですね。整列~!」

どうやらサボリの口実に野球大会に参加することを知って小町を捕まえに来ただけのようだ。まあ、整列と言っているし恐らく試合が終わるまでは待っているつもりなのだろう。なんだ、本人だってノリノリじゃないか! やっぱ白黒つけることが趣味なんだな、閻魔。
…ともかく、私たちはホームベースに平行になるように相手と並ぶ。

「…例ッ!」

お願いします、と様々な声色が混ざった声が、グラウンド中に響き渡った。




バッターの妹紅がバッターボックスの手前で何回かスイングをして、ボックスに入る。

同時に、地底の鬼勇儀が、炎天下の太陽と空を背中にピッチャーマウントへと立つ。先ほど各チームの代表同士のじゃんけんでこちらのレミリアが勝ったため、後攻を攻めることになったのだ。
勇儀は、1、2回ボールを自分のグラブに軽くバシンバシンと投げると、手に持っていたロージンをマウントへ置き、投球の構えを取った。

「…投球練習は、いいのですか」

「いらないよ、そんなもん。鬼の勝負は最初ッからだよ!」

主審の閻魔が少し困り顔をしながらも『プレイボール!』と大きく声を張り上げ試合の開始を宣言する。同時に、外野側のポールについているスピーカーからウオオオオオオン、と始まりを告げるサイレンがけたましく響く。
ウウウウウウンとサイレンが鳴り終えると同時に、勇儀は地につけていた左足を空に向かって高らかに上げ始めた。

(ゆ、勇儀! 何をやっているのさ、まだコースとサインを…!)

「ふん、そんな小細工はいらないさ。鬼なら投げる球全部ストレートのどまん中で勝負だッ!」

「…へん、いい気になりやがって。あとで泣くはめになっても、知らないよ?」

勇儀はレティのあたふたしている様子を見てさぞ余裕とレティに答える。そのやりとりを見て妹紅はお高くとまった鼻をへし折ってやると言わんばかりの皮肉を呟く。(妹紅はピッチャーの方向を向いているが、いきなり勇儀が馬鹿げたことをいったことから推測したのだろう、妹紅すげえ)

…動作自体はゆっくりなのだが、豪快で、思い切ったフォームをしている。勇儀は、足をゆっくりと下げながら右腕を大きく振り上げる…!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

勇儀が雄叫びをあげる。瞬時、勇儀の右腕が昼間だというのに何か特別な照明で照らされたかのように光り始める! …キュピイイイイイインとけたましい音を立てながら、なんと勇儀を中心に風の渦が立ち上がっているではないか! 
まだ試合が始まってまさに一投目だというのにマウントに並々と盛られたはずの土の大体が風の渦に巻き込まれ吹き飛んでしまっている!

「らあああああああああああああああああああああああ」 

勇儀は体をしならせるように回転させ、体全体を使って弧を描く! そのまま勇儀は高く上げた足を地に付け、円を作った腕を思い切り振り回すッ! 
ズガガガガガガアンと、勇儀を支えているはずの右足から砂柱が思い切り立ち上げられる!

「ああああああああああああああああああああッ!」



「! あれは…!」

「ど、どうしたッスかお嬢様!?」



「…龍が、降りてきた」




手からボールが離れようとする瞬間、雲一つない快晴だというのに辺りが暗くなり、前のめりになる勇儀の背中に一匹の龍が舞い降りたかのように見えた。

「…―ッ!?」



バッゴオオオオオオオオオオオオオオオオン! …と、およそ投球ではありえないような、もはや爆発音のようなボールとミッドの当たった音がこだまする。本当にあの鬼は投げたのかと思ってしまうくらいの、尋常ではない球速のボールだ。
キャッチャーを勤める冬の妖怪は、あまりの球威に一応は受けるもののザッシャアアアアア、と審判と一緒に後ろへと押し出されている。

「…ストライク、ワンッ!」

しばらくの間音を無くしていた球場に、主審である閻魔の声が球場中に広がる。そして、次に聞こえる音は『すっげえええええええ!』と言った歓声とどよめきであった。

「どうだ。これでも、ほんの少し力を入れただけだぞ?」

「…ふざけやがって!」

バッターの妹紅は息を呑み唖然とした顔を引きつらせ、『勇儀!』と大声を上げバットをギリギリと締め付けるように持つ。

「ふんッ! 威勢はいいね、気に入ったッ! だけどね、あんたじゃ私の球は打てないさ、…どらあああッ!」

勇儀の放った球は先ほどの球よりも球威を強めて冬の妖怪のミッドへと吸い込まれていく! 妹紅は、予想以上に速い球が来た為か少し反応が遅れるものの球に合わせようとスイングをするッ! …しかし、反応が遅れたのが痛手だったか、妹紅のバットは球に触れることなく虚しく空を切った。
バグウウウウン、と何か物理法則を間違えたような捕球した音が球場中に広がる。冬の妖怪は予測が出来ていたためか、球に押されず留まれたようだ。

「ストライッ、ツー!」

閻魔が高々と手を上げて宣言する。これで、妹紅は追い込まれてしまった。次に最悪でもバットに当てなければ、妹紅の打席は終了してしまう!

「…ふん、一回しか見てないのによく振ったよ。その根気だけは認めてあげる。…いくぞ」

勇儀がワインドアップのモーションから一気に球を放つ。シュゴオオオオオという音が外野を守っている私のほうにまで聞こえてくる。恐らく、今投げた3球の中でも飛び切りの球なのだろう、どんな球威だというのか…!

「…ぬうおおおおおおおおおおッ!」

妹紅が雄叫びをあげ、球に喰らいつくようにバットを左手で引き寄せる! そのまま、妹紅は思い切り歯を食いしばり歯軋りをギリギリと立てながら少しずつバットをボールへと近づけてゆく…!

「まあけるかああああああああああああッ!」


妹紅の背中に、不死鳥が宿った。




ガコオッ!




鈍い音がすると同時に、妹紅は衝撃に耐えられずバッターボックスから相手のベンチ側へと吹っ飛ばされてしまった。バットは少しの間宙を舞っていたものの、すぐにカラン、カランと私たちのベンチの近くに落ちてきた。バットは金属製であるにもかかわらず、へこんでいるところにひび割れが出来ていて、使用することが出来ない状態になっていた。
肝心のボールは、冬の妖怪のミッドにしっかりと収まっていた。

「…ストライッスリー! バッターアウッ!」

閻魔がアウトのモーションをとる。バットに球を当てたはいいが、球威は衰えずそのままファールチップになってしまったというのか…!
どんな化け物だ、勇儀!

「…くッ」

バッターの妹紅は不本意そうに、転がっているバットを左手に持ち、スッとベンチへ戻っていった。

彼女のベンチから『…すまない』と申し訳なさそうに謝る妹紅の声が伝わる。勇儀はというと、得意げになって腕にボールを転がして遊び始めていた。

「…スポーツだけが取り柄のもこ姉が負けちゃうだなんて、いったいなんだよ、あの人!?」

「え、もこ負けたの!?」

「負けたも何も、チルノ! 見てなかったのかよ!? あのもこ姉が不死鳥まで出して打とうとしたのに、吹っ飛ばされたんだぞ!?」

「わっは! やっべえ!」

どうやら妹紅はちびっ子軍団にそこそこ顔が知られてるらしく、応援の声を飛ばしているはずのちびっ子たちは唖然と静まり返ってしまった。
馬鹿みたい。

「…大丈夫だよ、皆! だって、次の打順は藍様だもんっ! ね、紫様っ!」

「…ハッ、あ、え、そうねえ! 藍ならきっと、やってくれるわ!」

あまりの球威にどうやら腰を抜かしていたらしいスキマが、微笑みながら式の猫に応える。しかし、その額には汗がたまっていて『私でもあれは打てないわね、でも式って基本的に私以上のことは出来ないのよね…』と独り言を呟いていた。
…私は外野にいるのに、ここまで聞こえるくらいの声出しちゃってどうするのよ?

「がんばれぇ~、藍様っ!」

式の猫が健気に応援の声をあげる。しかし、周りのちびっ子たちは無理だと思っているのかその声に便乗することはなかった。
せめてスキマ、あんただけでも声出してあげなさいよ!

『ん、橙が応援してくれてるのか。ようし、頑張っちゃうぞ!』といわんばかりの表情でスキマの式が左のバッターボックスへと入る。あいつ、左打ちなのか。考えが表情に出ていますよ。
私の心の忠告も虚しく『ようし、こい!』と言わんばかりのキリッとした表情をして「ようし、こい!」とスキマの式が勇儀に向かい、キリッと言った。ああ、サトラレってああいうやつのことを言うのね、納得!

しかし、勇儀は気にも止めないでワインドアップから第一球を投げる。ヒュオオオオオと、妹紅の打席でいう三球目くらいの球威のとんでもない球がスキマの式を襲い、バシイイイとアホみたいなボールをキャッチした音が球場に広がる。案の定スキマの式はのけぞるように避ける形になってしまい、閻魔からストライクを告げられてしまった。表情を読み取ってみると『無理』ってところかしらね。

スキマの式はあまりの球威に『ちょ、ちょっとタンマ』といいたそうな表情をするもあえなくストライクになり、「早い」と泣きそうな声色で呟いているといつの間にかストライクになっていたらしくベンチへ帰るように閻魔に言われてしまった。
スキマの式はこれ以上無いくらい涙目になりながら、ヘルメットを脱ぎつつベンチへ帰っていった。南無。

「け、ケロ! 次は私の打順だよ、頑張っちゃうよ!」

ズバーン!

「あーうー」

神様なのにかわいい。チェンジ!





「いやあー、良い球投げるじゃねえか勇儀! 見直したぜ!」

「はっは、鬼を馬鹿にしちゃ困るな! あれくらいお茶の子さいさいさ!」

「お陰で私の手は大惨事ですけどね」

ベンチには軽やかな会話が飛び交っている。恐らく、あそこまで相手がコテンパンにされてるもんだから例えこっちが1点も取れなくてもまあ負けはしないだろうといった余裕から会話が弾んでいるのだと思う。
相手のピッチャーは射命丸だ。確かにかなりの良い球は投げるだろうが、勇儀ほど馬鹿げた球は投げられないだろう。この試合、貰ったか…、!

「ピッチャー、交代を告げるよ。ブン屋をサードにして、元々サードにいた私がマウントを登ろう。勇儀、鬼と鬼の真剣勝負だ!」

なんと、もう一人の鬼である萃香がマウントに登り始め、登板するといい始めたではないか!

「…面白い! 鬼と鬼の一騎打ち、受けて立とう!」

え、あの、勇儀さん? 野球って、九人でやるもんなんじゃないかと

「ああん?」

滅相もございません

「…うっし! 先頭バッターだし、もうそろそろ行きますか!」

「え、魔理沙。あんた、大丈夫なの? ひょっとしたら萃香は勇儀以上に球威の強い球を投げてくるのかもしれないのよ?」

「弱気になってどうする、霊夢! それに、例え萃香が勇儀よりも凄い球を投げられるとしても、私は打てるさ!なんでか? 私は、幻想郷最速だからだ!」























「三振したぜ」

「見直した私が馬鹿だったわ」

表現が面倒だったから表現しなかったけど、萃香の球も案の定ゴオオってなってギュウウウウでバーンなびっくりする球でした。馬鹿みたい。

あ、キャッチャーは地底の猫でした。ご愁傷様。

「…私か」

ネクストバッターサークルに入っていた妖夢がそう呟くと、立て膝をして座っていたネクストバッターボックスからスッと立ち上がり、ゆっくりと右のバッターボックスに向かっていく。

「ふうん、次はあの庭師か。まあ、誰でも関係ないけどねッ!」

「…笑止ッ!」

萃香が勇儀と同じくワインドアップの構えから一気に球を放つ。球は唸りをあげてキャッチャーの薬師のミッドへと向かっていく! 
…バシインととんでもない音が響き、閻魔からストライクと告げられる。誰もが、そう思っていた。

音が、どこからも響かないのだ。いや、音自体は微かに聞こえた。なんだか、『スキッ』と、何か物が切れた音。ボールはどこにいったのか? ホームベースの辺りを目で探ってみると、キャッチャー前の所に見事にまっ二つに切れたボールがゆらゆらとそれぞれの曲面を地面に転がっていた。
肝心の妖夢はバットを前に構えながら一塁線に沿って残心をとり、一塁ベースを軽く右足で踏むとホームベース側へクルリと振り返りバットを前に構え直した。

「…フッ、これくらいの球筋で私を手玉に取ろうなど、甘く見られたものだ」

「あなた余裕でアウトです」

3番のレティは三振でした☆




二回表、相手の4番からの攻撃。バッターの神奈子が右打席に入る。神奈子はヘルメットのつばを右手で少しつかみ、すぐにキッと勇儀に鋭い目線を飛ばす。
神奈子はバットを構え、主審からプレイが言い渡された。

(…この人にはきちんとサイン決めたほうがいいんじゃない?)

(いや、ノーサインだ。真ん中にしか投げたくないからね。…エゴで悪いが、これは私なりの挑戦さ。大丈夫、打たれるようなことになったら素直にあんたに委ねるさ)

勇儀は首を横に振り、第一球を投げるために腕を大きく振り回し左足をあげる。
やはり先ほどまでのフォームと同じくゆったりとした投げ方なのだが、球をリリースした後『バッグウウウウウウウウウウン!』と唸りをあげて球はミッドへと押し込まれていく!
…バアアアアアンッと、すざましい音が木霊するッ!

「ストライッ!」

閻魔が手をあげて宣言する!ひゃあ!

「…霊夢。あなた、段々適当になってきてない?」

センターの咲夜がやることが無いですよと言わんばかりにこちらへ近づいて来た。私は、こう伝えた。

「暑い中真面目に考察するのがおっくうになってきたのよ」

バグウウウンッ! …勇儀の右腕が、唸る。

「ストライッ! ツー!」

「…くッ」

バッターの神奈子が一度バッターボックスを離れ、2、3度スイングをする。そして、なにやらマウントからホームベースまでの距離を確認してもう一度バッターボックスへと入った。
神奈子の左足を見てみるとどうも落ち着きがなく、リズムを取っているらしい。

「いいテンポの中、中断して悪かったね」

「ん、いいさ。例えどんな小細工をしようと私の球には触れられないだろうからねッ!」

「…小癪なッ!」

勇儀が相変わらずのフォームでステップ足を踏み出し、球を放つ! 神奈子は、リズムを取っていた左足の動きを止め、体全身を使い前へ押し出すようにバットを振り抜く!

(こいつの球は速い! 速いだけじゃない、重みだって十分にある! だからこそ、こいつは今天狗になっている!2球ともど真ん中ストレートを投げられちまえば、プライドの高い鬼なら3球目のコースだって読めちまうさ! 問題は、…今ッ!)

「らッらああッああああああああああああああああああああああ!」

(…やばい! おい、地底の鬼! 打たれるぞ!?)

「…なんら、問題はないさ」

グガンッ! と、金属の割れた鈍い音がナイン中に響く。神奈子頭上にはシュルシュルとバットとボールがそれぞれ宙に舞っている。
冬の妖怪はキャッチャーマスクを取り、球の回転を見定めてガッチリとフライをキャッチした。瞬時、誰も居ない左側のバッターボックスに宙に浮いていたバットがガコンと鈍い音を立て落ちる。

「…アウトオオオオッ!」

閻魔が力を込めてアウトのモーションを行う。今更で本当どうかと思うけど、これボールがフェアラインに行った時、一塁とかの塁審いないから判断不可能じゃない? どーすんのよ、これ。

「まあ、連続三振記録が早いところで途切れちゃったのが悔いだけどね。いい眼してるよ、当てるだけでも」

「…~ッ!」

守矢の神、神奈子は悔しそうに地団駄を踏み、ヘルメットのつばを下げべしゃんこになったバットを持ちベンチに向かう。
なんかまだ2回なのに熱い展開が多すぎて私疲れちゃった。どっと、肩に疲労感が。やばい。

「…打てなくてすまなかった。いや、凡退した私がいう言葉ではないが、あの球に対して何か対策をしなければならない。普通に当てていっちゃあ、バットの耐久力が球威に負けてボロンボロンになっちまうよ。どうしたもんか…」

「あらあら、確かに見るからに異様な球速と球威だけど、やってみなくてはわからないわ? ひょっとしたらお二人とも当たり所が悪かっただけかもしれないもの」

ネクストバッターボックスにいる永琳がベンチに座る妹紅と神奈子に語りかけ、二人は恥ずかしそうに顔の面を下げる。
…そうだ、次のバッターは月の頭脳とも言われている永琳だ。ひょっとしたら、この打席で勇儀に対する決定的な何かを攻略されてメッタ打ちされてしまうなんて可能性も…!



























「無理ね」

特に何も無くナチュラルに三振でした。馬鹿みたい。

「まあ、そんな日もあるさ! だが、あたいの打順が回ってきたからにはもう大丈夫! この6番、小野塚小町が綺麗に花を咲かせてみせよ~ぅ!」

さっきまでベンチで死んでいるかのように動かなかったサボリの伝道師こと渡し守が意気揚々とロッカーからバットを引き抜き、左のバッターボックスへ入る。
しかし、左打席に入るのだったら本来ならば右手が下のはずだが、あのサボリ魔は見事と感嘆せざるを得ないほどビシッと持ち手を逆に構えている。ヘルメットも被ってない。ううん、見事だ。

「いんやー鬼さんも運がなかったねーいやいや別に鬼さんが弱いだとかそういうことを言っている『バッスン』『ストライッ!』わけじゃなくて単純にあたいが強すぎるだけなんだよこれがねえあたいったら昔から何をやっても1番でさ『バゴオンッ』『ストライッツー!』ー不得意なものがないってな現状なんだよあっはっは神は二物を与えずとかよく言うけどあたいに限ってはそれに外れるっていうかなっはっはっはっは!『ズッバアアアアンッ』『ストライッバッターアウッ!』」

「…え?」

「帰ってください」

渡し守はしょんぼりしながらグローブを持って自分の守備位置につきました。ちなみに彼女の守備位置はファーストです。

「…ふう、次は私の打席か。投げたり打ったりで忙しいね」

額からじゅくじゅくと出る汗をベンチに置いてあるタオルで拭いながら、勇儀が言う。勇儀は私たちの返事を待たずにサッとバットとヘルメットを持ち、打席に入っていった。

「さあこい、萃香! 鬼と鬼との一騎打ちだ!」

「受けてたとうじゃないか!」

「…プレイッ!」

閻魔による暑苦しい宣言がベンチ内に広がる。私は球場をさんさんと照らす太陽の陽射しに耐えられなく、ぐたあと日陰になっているベンチに横たわった。誰にも座られてなかったベンチのひんやりとした感触が気持ちいい、ああ、極楽…!

「…霊夢。デレデレとした表情を恥ずかしげもなく見せびらかすのは結構ですが、次のバッターはあなたですよ。はい、バットとヘルメット。あ、なんならスプレーもしておきます?」

早苗が私の顔を覗きこみながら言う。なによ、別にダラダラするのだって人の自由じゃない! それに年頃の乙女のプライベートを覗き込むなんて、なんたるハレンチな…!
私は、全国の乙女諸君の為にこの社会や恥というものを知らない少女に一言エチケットを授けようと告げたのだ!

「…私をあの日陰の無い地獄へ引きずりこもうとしているのかあ~!」

本音でた。

「はい、そうです。諦めて行って下さい!」

早苗強し

…萃香がフッと腕を振り上げたかと思うと、なんと既に萃香が投げ終えた格好になっていた。すると、キャッチャーの地底の猫が主審の閻魔と一緒にごろごろと後ろに転がり回り始めたではないか!
地底の猫のミッドに注目すると、そこにはボールがピシリと食い込む様に入っていた…! 音も鳴っていないのに、既にボールが投げ込まれているだと!?

ふと、どこからともなくボスッと空気が抜けた音がした。そして、すぐにボガラバアアアアアアアアアアブガッデイイイイイインッ! と、言葉で言い表し難い擬音がバーンとベンチや球場内はもちろん幻想郷中に響いたんじゃない? 余りの音響に鼓膜破けるかと思ったわよ。

自分のベンチ内を見渡すと、やはり皆もはや騒音に等しい衝撃音に堪えたのか耳を押さえて苦虫をすり潰したかのような表情をしている。鈴仙に至っては普段からいつも垂れているうさ耳を手に取り放棄してまで騒音から逃れようとしていた。…付け耳かよ!

「…ふうん、いい球投げるじゃんか」

「にっひっひ、お誉めいただいて光栄ですね~。さあ、二球目だよッ!」

当の二人は今の騒音も物ともせず、平然と減らず口を叩いきつつ第二球目に移ろうとしている。化け物か! いや、鬼だから化け物か。あいやー!

「ちょ、え!? ちょっと待った、タイム、タイムっ!」

「…タイムッ!」

何か不都合でもあったのか、地底の猫が腕で英語のTの字を作り閻魔へと向ける。閻魔は、それを受け入れ皆にタイムの旨を伝えた。

「なんだなんだ、どうしたんだい。折角良いところだったのに水をさしちゃって、もう~」

鬼の萃香が不満げにマウントへ近付いてくる地底の猫に愚痴る。しかし、地底の猫は萃香のへそを曲げた様子も気にせずおもむろに左手に付けているミッドを外し、その手を萃香に見せ付けた。

「音もならないくらいの速度のボールって、なんなんだい! あたいの手はデリケートに出来てるって言うのに、あんたと来たら! こんな球ばかり投げられたらいつかあたいの手が破裂してなくなっちゃうよ!」

地底の猫の手は真っ赤に晴れあがって、…いる様子はないがまあとりあえず耐えられないくらいの激痛が全身に巡ったのだろう。想像に容易い。
しかし、臭いものには蓋をするレベルMAXの私たちに隙はなかった。閻魔も空気を察したのか、何事も無く『プレイ!』と再開の合図が宣言された。
地底の猫の瞳にはみるみる内に涙が溜まっていく。ごめん、この試合終わったらあの心を読む妖怪に凄かったよって伝えておくからさ!

しかし、萃香は今の地底の猫の意見を聞き強く投げすぎたと思ったのか、二球目は先ほどの球よりも若干球威が緩まったかのように見えた。それでも球が投げ込まれたあとに音が付いて来るといったアホを凌駕した球だったけど。
勇儀はグッと左足を踏み込みはするもののそのままスイングをせずに球を見る。その後にズッ、とやはり空気の抜けたような音がして、それからゴッパグワアアアアアアアアン! と湾曲してんじゃねーのと問い詰めたくなる摩擦音が球場全体に響く。

それでもやはり力を抜いた証か、さっきの世紀末かと思うくらいの衝撃音にくらべればまだ耐えられるほうでベンチ内でも耳を塞ぐ人はいなかった。その後、すぐに閻魔の『ストライッ!』とコンパクトな声が響く。
勇儀は、チラと審判を流し目で見るもすぐにその眼差しの対象は萃香へと向けられたみたいだ。

3球目。萃香はどこか力を抜いたように見えるものの、それでも振りかぶったと思ったら既に投球を終えている。勇儀は目に見えない球に反応できたのか、左腕を思い切り引き付けて豪快なスイングをするッ! 正直はたから見てると何も無いところにスイングをしているように見える。
しかし、勇儀のスイングも空しくミッドには相も変わらずいつの間にかボールがのめり込んでいて地底の猫は何とか踏ん張りザアア、と後ろに転がり回らずグラウンドに足の跡をつける! …跡には摩擦の熱からだろうか、煙が立っている!

「ストライイイイッ、バッターアウッ!」

閻魔がこれまでの試合の中で一番を張れる位大げさなアウトのモーションをとる。勇儀は悔しそうに、しかしどこか清清しそうにバットを左肩に担ぎ萃香に言う。

「いやあ、落ちる球とはやるね」

「ふふん。あんたと違って私はストレートだけで勝負なんて言ってないからね、しかしいいスイングだったよ。当たってたら、間違いなくスタンドだっただろうね」

馬鹿みたい。

「…霊夢っ! 何をボーっと座っているんですか! 次の打席はあなたですよ!」

ベンチから早苗の声が聞こえる。仕方ないじゃない、こっちのネクストバッターボックスは陽射しを遮る物がなくてもろに太陽の熱を受けるんだから! ボーっとするのも仕方ないじゃない!
プンプン! と軽く声に出しながら私はバッターボックスへと向かっていく。ベンチと観客席の一部から鼻血が吹き出るような音がしたのは気のせいだろう。でも、ちょっと嬉しい。私は左利きだから、左のバッターボックスで、ええと。

「ピッチャーから見て左のバッターボックスが左打席。それと、左で打つ場合バットを持つ右手は下だよ」

ネクストバッターボックスから鈴仙の小声のフォローがあり、円滑に打席に立つことが出来ました。ありがとう!
…ともかく、今はこの打席に集中。さっきの打席は勇儀だからとは言え、もはや目で認識できないボールに反応できたんだ。妖夢だってそう。あの庭師の場合はボール切ってアウトになったけど。
それに、今までのことから考えると萃香は鬼の勇儀以外には一応目で見えるくらいの球を投げてくるはず。ということは、私次第で例え当たらなくても反応はできるんじゃ…!

バギュゴオオオオオオオオオオオオンベッ!

「ストライイイイイーッ! ワンッ!」

無理。































満身創痍でベンチに戻る私。しょんぼりと面を下げながらベンチに戻る私。ああ、ああ! なんという!

「はい、グラブ。鈴仙さんには悪いけれど、もう守備の準備しておいたほうがいいでしょう」

早苗がなんか出来すぎててひどい

ともかく、一応応援をしようと鈴仙の状況を確認する。スコアボートには本来ネクストバッターボックスの人がカウントが記すはずだが、やはりピッチャーがピッチャーだからかもはや誰も記してはいない。閻魔の『ストライッ、ツー!』と言う声から、ああ、追い込まれたのだなとわかった。
しかしこのまま三振で終わるのも味気ない。私は声を振り絞って『いっけえー、鈴仙!』と応援の声を送る。け、決してさっきまで名前知らなかったことをばらさないようにするためにこういった小さなところから配慮を配るだなんてそんなセコイ真似はまさかもう!

「…!」

鈴仙が2球目の打席よりも腰を入れたフォームを取る。そして、3球目。ボッピシグウウウウウウウンとお前はどこの国の言葉を話してるんだと言いたくなる球がミッドに向かい放たれる。ああ、終わった。チェンジ。と、誰もがそう思ったであろう時だった…。

「…フッ!」

すると、なんと鈴仙がバッターボックスからホームベースへ踏み込み始めた! このままではモロに体にボールをぶつけてしまう…! 何を考えているんだ!

危ない!!













その時、時間が緩やかに進んでいるかのように見えた。









「なッ!」

なんと鈴仙はとめどない勢いで向かってくるボールに対して、あ、足でコントロールしているではないかッ!
一度ボールをトラップし、逆サイドへロングパスを出そうと足を踏み出したが、ボールは鈴仙の軸足の後ろへ転がっている! 

「! あれは…!」

「ど、どうしたッスかお嬢様!?」






「クライフ、ターンだ」









華麗なテクニックでディフェンダーを翻弄し振り抜いた鈴仙はそのまま一塁へと走り、シュートを試みる…! ゴーーーーーールッ!

『1-0、チームカリスマようやく一点を奪取~ッ!』

「私の目をもってすればこの程度の球、容易いものだ…!」

射命丸の躍動感のある実況で私たちのテンションはもはや有頂天に達した! 両チーム敵味方関係無しに、鈴仙の勇気あるプレイに感動し盛り上がっている!
やった、やったわ鈴仙! あなたはチームの火付け役となったの! これを皮切りに、どんどん攻めていくわよ、皆っ!

「「オオオオーーーーーーーーーーッ!」」



「あなたたち余裕でアウトです」
前に話をいっぺんに投稿したことを反省して、話を分けることにしました。
よろしくお願いします。
ばらしー
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コメント



0.480簡易評価
2.20名前が無い程度の能力削除
作者が興奮しすぎてるような文章で読んでて冷めました。
5.30煉獄削除
野球というのは悪くはないとは思うのですけど、
どうにも投球音が異質なのと、変にグダグダしてしまっている
ように思いました。
良いとは言えないし、出鱈目に悪いとも言えないですが、

地の文にしても面白いとは言えないものでした。
あとは参加者に萃香と勇儀を使ったのは少し不味いと思ったことです。
あの二人は出鱈目に力などが強いと思いますからね。
ちょっと人選ミスかな……と思ったりしました。
13.100名前が無い程度の能力削除
結構、おもしろかった。レティw
16.50名前が無い程度の能力削除
「ミッド」じゃなくて「ミット」ですよ?

それと雪とかが積もってるということは、冬ですよね?
いくらスポーツをしてるとはいえ、ほとんど守備として動く機会の無い試合展開で日差しを嫌がるほど暑いでしょうか?

超剛速球をトラップして平然としてる鈴仙すごいww