Coolier - 新生・東方創想話

恋しい静葉

2009/01/23 05:15:31
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 博麗神社でお茶をご馳走になった後、こいしはまっすぐ地霊殿に帰らず、寄り道することにした。
「あんまりフラフラとあっちこっち行くんじゃないわよ。特に人里の方には。あんたみたいに陰気に殺伐とした空気振りまいていたら、妖怪でも逃げ出すわ」
 霊夢からはそう言われていたので、とりあえず人里には行かないことにした。人里で、博麗霊夢や霧雨魔理沙のようなおもしろい人間と出会うことも期待していたのだが、むやみに博麗の巫女に反抗してもつまらない。
 鬱蒼とした木々に挟まれた街道や、広大な畑を貫く畦道など、こいしはまわりの景色を楽しみながら、散歩した。
 地底の生ぬるい風に慣れていると、地上の乾いた風が新鮮に感じる。まだ本格的な冬には間があるというのに、肌がきゅっと引き締まるような冷たさがある。こいしは、自分のふわふわした髪を秋風になぶらせながら、心地よさに目を細めた。
 風の香りが、変わった。
 いや、空気そのものが変わった。こいしは立ち止まり、手のひらで口を抑えた。悲しいことなど何もないのに、視界が涙でにじんだ。おそるおそる手のひらを口から離す。ほんのちょっとした変化だ。わずかに温度が下がったとか、風向きが変わったとか、些細な変化だ。だがこいしには、これ以上ないくらいはっきりと感じられた。
 秋が終わってしまった。
 境界を過ぎてしまえば変化を肌で感じることはない。今、この瞬間に立ち会えたことに、こいしは感謝をした。
 何かが、視界をかすめた。こいしは吸い寄せられるようにそれを目で追い、そのまま夕日で赤く染まった空を仰いだ。
 赤いスカートをはいた少女の後ろ姿があった。稲穂の色をした髪には、何かがひとひら乗っていた。遠くてはっきりとわからないが、おそらく紅葉だ。
「なんて、綺麗……」
 その姿を見て、こいしの目に溜まっていた涙が、頬を滑り落ちた。
「お姉ちゃん!」
 その時、背後から声がした。こいしの上を過ぎ、朱色の少女に追いつく。似たような色合いの服装だが、朱色の少女より少し幼い風だった。朱色の少女は、追ってきた少女をわずかに振り向くと、速度を落とす。ふたりの少女は並んで、また速度を上げ、夕日に消えていった。


 お燐はお下げ髪を後ろでまとめ上げて、エプロンをつけ、台所で悪戦苦闘していた。こいしが後ろを過ぎても振り向かなかったのは、こいしが無意識に動いていたためではなく、お燐が作業に熱中していたからだ。
「あ、こいしちゃん、待って、ちょっと待って!」
 そのまま出ていこうとするこいしの背中にお燐は呼びかける。こいしは立ち止まり、のろのろと振り向く。
「……どうしたの、お燐」
「待って、ね。よし……と」
 ボウルから離れると、お燐はテーブルに並べたハート型の容器を手にとり、こいしに差し出した。
「えへへ、作ってみたんだ。食べてみてよ」
「なあに? これ」
「チョコレート。せっかくだからこいしちゃんの弾に似せてみたの」
 蓋を取ると、黒く光るチョコレートが姿を現す。
「まあ、おいしそう。いただくわ」
 容器から銀紙ごとチョコレートを取り、銀紙を剥いでかじる。
「あら、ほんとにおいしい」
 そう言うと、そのままばくばくと頬張り、綺麗さっぱり食べてしまった。お燐は複雑な顔をしている。
「どうしたの、お燐」
「もうちょっと形とか、よく見てほしかったな。それに」
 お燐は人差指で、こいしの口のまわりについたチョコレートをなぞり、舐め取った。
「こんなにがっつかなくてもいいよ。こいしちゃんが言えば、いくらでも作ってあげるのに」
「ほんと?」
「うん。それに、なんかこいしちゃん今日元気ないみたいだし……」
 そこでお燐の言葉は止まった。突然こいしがお燐の腰に抱きついてきたのだ。抱きついてきた、というよりは跳びかかってきたと言った方が正しいかもしれない。お燐は危うく倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。ここで倒れたら、まわりの材料が飛び散って大変なことになる。
「おりーん、聞いてよ聞いてよー、ねえねえねえねえ」
「わ、なに、いきなり、おかしいよこいしちゃん。っていつもか」
「今日ね今日ね、えへへへへ、うふふふふ」
「はいはい、聞いてあげるから、離れてよ。これじゃゆっくり話も聞けやしない」
 聞こえてないのか聞く気がないのか、こいしはお燐の腰に両腕をまわしたまま、お燐を見上げる。
「私、今とってもときめいているの」
「へ?」
「そのひとのことを考えるだけで胸が締めつけられる。思い出すと涙が出るの」
「よっぽど嫌な目に合わされたのかい? 確かに巫女の弾幕はえげつないけれど、そんなトラウマになるようなものかな」
「違うの、違うのよお。巫女じゃないし。もう、何でわからないかなあ。年中発情期のお燐ならきっと理解してくれると思ったのに」
「ひと聞きの悪いこと言わないでおくれよ」
「ほらこの前だって、いい死体が入ったって言って、狂ったように悦んでたじゃないの」
「だーかーら、誤解されるような言い方やめなよ、もう」
「いいじゃん、他に誰か聞くひとがいるじゃなし」
 こいしは自分の口のまわりに残ったチョコレートを人差し指でなぞり、お燐に差し出す。
「はい」
「……嫌」
「なんでよー、さっきはしてくれたじゃない」
「なんか意味が違う。こいしちゃんだと」
「もう」
 こいしは自分で舐め取る。
「ねえ、お燐」
「なに」
「しよ?」
 淀んだ空気が辺りに満ちていく。ぐねぐねと歪む赤いバラがそこかしこに現れる。すでに台所はこいしの空間に呑みこまれつつあった。
「やっぱりおかしいよ、こいしちゃん。今日は」
 エプロンを外し、上げていたお下げ髪を垂らす。徐々にお燐も臨戦態勢に入りつつある。
「そうかな」
「そうだよ」
 こいしは自分勝手のようでいて、実際は相手のことをよく見ている。強引にお燐を弾幕遊びに誘う場合も、あの手この手でお燐の気分を盛り上げてから始める。雰囲気が盛り上がらなかったらおとなしく引く。今日のように、なんの前振りもなく突然弾幕を発動することは、滅多にない。
「上の空のままだと怪我するよ、こいしちゃん」

 さとりが台所に入った時には、もうお燐しかいなかった。床にだらしない格好で転がっている。テーブルの上の諸々の材料が無事なところを見ると、物理的なやりとりはなしで、しょっぱなからこいし特製空間でのキツめの弾幕遊びになったようだ。
「お疲れのようね、お燐」
「ふにゃー。……あ、さとり様」
「いいわよ、そのままで。こいしが久々にこっちに顔を見せたと聞いたから、言いたいことがあって来たんだけど、もう遅かったみたいね」
「やっぱりこいしちゃんは強いですね。誰も勝てないや」
「おくうは?」
「パワーだけなら、こいしちゃんとは比べものにならないくらい強いです。でも心が隙だらけだから、おくうじゃ絶対勝てないです」
 そのことをこいしもわかっているから、弾幕遊びの相手に駆り出されるのはたいていお燐だ。まっとうな弾幕勝負なら、おくうはすでにお燐の手に負える相手ではなくなっている。そんなおくうも、こいしと弾ると手も足も出ない。八咫烏を呑みこんでも、相性の悪さはどうしようもないのだ。
「それでさとり様、こいしちゃんに言いたかったことって、なんですか」
「たいしたことじゃないから、いいわ」
「こいしちゃん、地上の誰かにぞっこんみたいですよ」
「らしいわね。心配?」
「はい。というか私は、心配していそうなさとり様が心配です」
「らしいわね」
 台所に沈黙が落ちた。お燐の言おうとすることをすでにさとりがわかってしまうため、こんな会話のテンポになる。お燐は猫に変化した。さとりの腕を伝い、肩に乗り、頬に体をすりよせる。さとりは微笑し、お燐の顎を指でくすぐる。
「あの子は少し要領が悪いの。それを教えてあげないと、と思っているのだけれど、言葉ってなかなか探すのが面倒なのよね」



 戸を開けると寒風が身に染みた。境内の地面には霜が降っていた。道理で朝からずいぶんと冷えていたわけだ、と静葉は思った。
「ん……お姉ちゃん?」
 横で眠っていた穣子が、舌足らずな口調で言う。
「あら、起こしてしまったかしら。ごめんなさい」
 秋が終わって久しい。豊穣を司る穣子は、最近は一日の大半を寝て過ごしている。何かをやろうとしても、体に力が入らず、動かないのだ。
 それは静葉にしても同じだった。ただ、静葉の方が活動期間が穣子より秋の終わりへずれこんでいるから、まだいくらかは動ける。
「それはいいんだけど。まだ外寒いよ? というか、今日は一日中寒いよ。明日はもっと寒いよ。眠ってようよ。来年の秋まで」
「そうもいかないでしょう。春や夏にも何度か起きて、やることをやっておかないと」
「とにかく今はいいよ、何もしなくて。この毛布暖かいよ」
 穣子が秋の残滓で編んだ毛布は、薄っぺらい外見に似合わず、保温性に優れておりとても温かい。寒さに悩まされる人家に一枚与えれば、神の施しとして大喜びされるだろう。だが、冬の防寒対策は秋姉妹にとっても死活問題だった。今の穣子の力では、姉妹ふたりが使える程度の毛布しか作れない。本当は、収穫のピーク時に持っている力をいくらか温存しておけばもう少し毛布は作れるのだが、穣子はそこまで計画的に自分の力を使うことができなかった。
「その毛布は魅力的だけど。ちょっと用事があるの」
「用事って?」
「野暮用」
 社を出ると、よりいっそう寒気が堪えた。静葉はスカートを手で押さえながら、身を縮めて階段を下りていく。境内の木の葉は悉く散っていた。秋の終わり際、境内では一時期紅葉が盛り返したが、それも今では何事もなかったかのように、ありきたりな冬の一景色となっていた。
 静葉は手を口に当て、小さく欠伸した。眠くて仕方がなかった。おそらく、まともに活動できるのも今日ぐらいまでだろう。すでに穣子は立って歩くことすらままならない。静葉は枯れ木の中の、適当に目を止めた一本の前に歩み寄った。
 野暮用だ。
 長い眠りの前に、少しだけ戯れてみようと思った。
 穣子と違って、堅実に自分の力の残量を図りつつ日々を過ごす静葉にとっては、珍しい思い付きだった。
 細い、しなやかな指を枯れ木に伸ばす。すると、枯れ枝に紅葉が生まれた。色彩の乏しい冬景色の中、そこだけ、赤々とした空間が生まれた。静葉な満足げにうなずいた。
「綺麗ね」
 唐突に、その声はかかった。静葉は肩をびくりと震わせた。今の今まで、この境内に誰かがいるなど思いもしなかった。振り向くが誰もいない。改めて境内に視線を巡らすが、やはり声をかけた者の影も形もなかった。
 胸騒ぎを感じながら、枯れ木に視線を戻す。
 目と鼻の先に、少女の顔があった。
 ふわふわと波打った白髪は、わずかに緑がかっている。黒帽子を頭にのせている。静葉より頭ひとつ分小さい。
「こんにちは。私は古明地こいし」
 邪気のない笑顔を見せる。
 邪気がなさすぎて、静葉は怖かった。冬に入りほとんど力をなくしているとはいえ、静葉は神だ。自分の領域に何者かが侵入すればすぐにわかる。だというのに少女は、まったく感づかせず、たやすくひとの領域に踏み込んできた。
 こいしと名乗った少女は、頬を紅潮させ、食い入るように静葉を見る。
「やっと見つけたわ。会えて嬉しい。あなた、名前は?」
「あ……あ……」
 舌が上あごに張り付いて、言葉が出ない。本殿に逃げ込もうと思うが、体が動かない。薄青く光る刃物のようなものが、静葉のまわりを旋回している。無数の落葉が宙を舞う様子に、似ていた。それは地面に吸い込まれ消えたかと思えば、また頭上から新しいものが生まれてくる。わずかに身じろぎしただけで、青白い刃物が服をかすめた。芯まで凍りつくような冷気がそこから伝わる。この世の冷気ではない。
 こんな弾幕は初めてだった。
「お姉ちゃん」
 少女が呼びかける。静葉は、それが誰のことを指しているのか、一瞬わからなかった。だが状況からして、自分以外にはありえない。
「……って、呼ばれてたね」
 以前に穣子と会話していたのをどこかで聞かれたのだろう。静葉はそう推測した。
「ねえ、名前、教えてよ。今のすっごく綺麗だった。その紅葉も素敵だけど、それをしているあなたの立ち姿が、とても良かった」
 少女の言葉、視線、それが静葉を縛りつける。神としての力そのものが、こうして少女と接しているだけで、削ぎ落とされていくのを感じる。
 異質の存在。異界の使者。
 逃げなければ。
 だがどこへ?
 すぐそこの本殿に逃げ込んでも、妹を巻き添えにするだけだ。
「秋静葉」
「へえ、静葉かぁ。いいなあ、素敵な名前ね」
 名前を教えただけで、心の奥まで土足で踏み込まれた気分になる。青い刃物はますます数が増えていく。視界を埋め尽くさんばかりだ。それなのに、こいしと名乗る少女の姿と、声だけはどこまでもはっきりと知覚できる。抵抗する気も失せるほどの力強さで、侵されていく。
「静葉。私と遊ぼう。地霊殿においでよ。地面の下にある私の家。なかなかいいところよ」
 静葉は想像し、青ざめた。このままこいしと一緒にいつづければ、遠からず自分は神として存在できなくなってしまうだろう。同じ世界にいていい者同士ではないのだから。静葉は勇気を振り絞った。
「いいえ、誘っていただいて申し訳ないのだけれど、私とあなたでは住む世界が違うの。お互いの境界を越えたら、そこではもう生きられない……」
「お姉ちゃん? 誰、そいつ。こいしって?」
 穣子が本殿から出てきて、階段のところにいた。今にも倒れそうな、おぼつかない足取りだった。穣子は精一杯の気迫で得体のしれない少女を睨みつけている。静葉は、ますます青ざめた表情で妹を振り返る。
「穣子、あなた、起きたら駄目よ」
「こんな禍々しい臭いをうちの庭で垂れ流されたら、たまったものじゃないわ」
「なあに? だあれ?」
 こいしはあまり関心のない様子で、静葉の肩越しに穣子を見る。
「お姉ちゃんから離れなさい、妖怪め! こんなところにお参りに来たって、なんにもあげないわよ」
「いけない、穣子、逃げて……」
 静葉の耳元を、何かが高速で通り過ぎていった。ハート型の弾が一発、穣子にまっすぐ向かっていく。あとには噴射後の煙のようなものが残っている。
 レーザー状の弾幕を展開しようとしていた穣子は、ハートの直撃を受け、物も言わず吹っ飛ばされた。衝撃で、小さな本殿の屋根は吹き飛び、柱は折れ、壁は崩れた。
 秋姉妹の神社は一瞬で、台風か地震が過ぎたあとのような、無残な有様となった。
「穣子……!」
 静葉は駆け寄ろうとしたが、鼻の先や喉元を過ぎ去る青い刃物に、行く手を阻まれる。
「ねえ静葉、今何か変な邪魔が入ったけど。気を取り直して、遊びましょうよ」
 穣子のことなどまったく眼中にない。彼女を案じる静葉の心情も、まったく汲み取らない。
「あなた、自分が何をしているかわかってるの」
 刃物をかいくぐろうと、足をあげる。
「あ、動いちゃ駄目よ」
 ハート弾が飛ぶ。静葉の左足が吹き飛んだ。右足だけになった静葉は体を支えきれなくなる。地面に倒れる時、肩や頬に青い刃物が当たり、いくつも切り傷ができた。
「地霊殿に来たら確かにあなたは長くは生きられないかもしれないけれど、大丈夫。死体はエントランスに飾っておくから。もちろん手入れは欠かさないわ。ずっと綺麗な静葉にしててあげる。私、こう見えても地底一の化粧師なの。腕は確かよ」
 そこに悪意はない。妖怪が人間を喰うように、人間が獣を喰うように、悪意がない。静葉が拒めば拒んだ分だけ、彼女は悪意のない攻撃を繰り返すだろう。それはさっきみたいに、静葉以外の者にも危害を及ぼすだろう。
 静葉は覚悟を決めた。
「ええ、遊びましょう」
 こいしは顔を輝かせる。
「よかった! 嬉しいわ」
 少女の表情があまりに悦びに満ちていたため、静葉は我知らず、どきりとした。そんな顔をさせた原因が自分にあるということを考えると、ますますどぎまぎした。
 まわりを漂う青い刃物が消えた。こいしの体から青と緑、二本の紐が生まれる。それは螺旋を描きながら、静葉の体にまとわりつく。二重螺旋に、静葉は身動きできないほどきつく縛りあげられた。自分がまるでひとつの人形になってしまったかのように感じた。
 こいしは、静葉の頭に乗っている葉っぱに指を伸ばす。静葉に力がある時はひとひらの紅葉だが、秋が終り、神としての力が少なくなっている今は、ただの枯葉だ。その枯葉が、たちまち真っ赤な薔薇の花になった。
「あなたには、薔薇の花も似合うわ。暗い地底で、ひときわ陰惨で美しい花が咲きそうね」
 静葉は頭に薔薇の花を乗せられた途端、視界が朦朧となり、高熱にかかったように体の節々が痛みだした。目がかすみ、吐き気がする。喉に指を突っ込んで何かを掻きだしてしまいたいが、静葉の中はもう空っぽだった。空洞に、こいしの声が甘く反響する。身も心も自由を奪われた。もうこいししか感じることを許されない。
「私、あなたのこと気に入ったわ。だからあなたも、私のこと好きになってくれると思うの。静葉、そうでしょう?」
 住まいを破壊され、妹を、自分を傷つけられ、身動きひとつできないほど拘束されたこの状況で、そう問われて、いったいどんな答えようがあるのか。静葉は、怒りと呆れと、わずかな憐憫の情をこいしに感じた。
「ええ、そう思うわ」
 反抗する気力を奪われた静葉は、無表情に答えた。静葉の体を戒める螺旋の力が、強まった。ぷち、と音がして、螺旋の一部が切れ、静葉の首に絡まった。青と緑、二色の首飾りのようにも見えたし、虜囚をつなぐ首輪のようにも見えた。

 見渡す限りのバラ園だった。ツタを這わせた石造りのアーチや噴水もある、本格的なものだ。
「明るいオレンジのがウェスターランド、ふわふわしてるでしょう。こっちの赤いのはニコロ・パガニーニ。ちょっと尖った感じが好き。白いのはロイヤル・プリンセスと白秋。同じ色でも全然違うでしょう。咲いていく途中で色が変わっていくのもあるの。丹頂、フレンチ・パフューム、夕霧、アクロポリス・ロマンチカ……」
 こいしは熱に浮かされたように、まわりのバラを指差しては、話していく。二重螺旋に上半身を戒められた静葉は、倒れるのを必死で堪え、なんとか自分の足で歩いていた。生え変わったばかりの左足は、特に動かしづらい。もちろん、こいしの話など聞いている余裕はない。
「ああ、ひとつひとつに思い出があるわ。話してあげたいわ。でもそんなに時間が残されているのかしら。静葉、歩ける? 無理だったら、私が運んでいくわ」
 こいしは振り向く。静葉は顔を上げ、無言で首を振った。必要以上にこいしに身を委ねたくなかった。それが神のささやかな、無意味な意地だとしても、だ。
「……ふーん、そう。無理しないでもいいのに」
 こいしは気落ちした風だった。今まではしゃぎながらしていたバラの話も、ぱったりしなくなった。ふたりはそのまま無言で地霊殿に入った。

 地霊殿は、洋風の広大な館だった。至るところに怨霊や獣がいた。彼らはお互いに会話を交わしているようだが、地上の神様である静葉にはまったくわからない。照明は薄暗く、空気はじめじめとしていたが、屋敷全体に清潔感があった。
 その中の一室に静葉は案内された。二重螺旋は解かれたので、体の自由は戻った。扉は鍵がかかっているらしく、外には出られない。室内も洋風の造りになっていて、ベッドやテーブル、クローゼットなどひと通りそろっている。宙に怨霊が二、三浮いている。触ると、力をごっそりと削られるので、移動する時は迂回しなければいけない。虫ほど頻繁にではないが、勝手に動いたりするので、ベッドに横になっても油断できない。これでは気が休まらない。それでも、今までずっとこいしが傍にいた時に比べれば、幾分か楽になった。吐き気も寒気も収まった。
(聞こえる? お姉ちゃん)
 ふと、聞き覚えのある声がした。辺りを見回すが、場所を特定できない。
(ここだよ。お姉ちゃんの具合が良くなったからかな、やっと声が届くようになったみたい)
 シャツの胸ポケットを探ると、ドングリの実が出てきた。声はそこから聞こえてくる。
「穣子、無事だったの」
(まあ、あんまり無事でもなかったけれど)
「よかった」
 静葉は胸をなでおろした。自分自身もハート弾の直撃を足に受けたからわかる。あの妖怪は、別次元の強さだ。山の神様や、天狗たちと同じところにいる。
(お姉ちゃん、今、どんな感じ? 地下であいつに何かされていない?)
「されているといえばされているけど。体に全然力が入らないわ。やっぱり、私たち地上の神がこんな地底まで来たら駄目ってことね」
(早く地上に帰りたいでしょう)
「帰れるならね。でも、ここまでどうやってきたかもわからない。私ひとりじゃ、戻ることもできないわ」
 窓の外には、地上では見慣れない景色が広がっている。庭園があり、空がある。それは通常の館と何ら変わりはない。だが、空は常に夜のように暗く、庭園は明るい。バラの花ひとつひとつの色がくっきりと見える。この世界のモノは、太陽の光を受けずとも、それ自体で光を持っているかのようだ。
(諦めたら駄目よ、お姉ちゃん)
「そうね……ところで穣子、どうして私が地底にいるとわかったの」
(聞いたの。親切なひとから。あの妖怪をやっつける方法も聞いたよ)
「誰?」
(何度か会ったことがあるひとよ)


 鍵山雛は寒さにかじかむ両手を口元に寄せ、息を吐きかけた。
 寒々しく晴れ渡った空を見上げる。元旦を過ぎてまだ日が浅いので、大気は澄みきっている。大晦日までの一週間は、馬車馬のように働いた。厄神の面目躍如だった。年が明けての三が日は、魂が抜けたように、神社の奥でぼんやりとしていた。博麗神社の巫女もかくやと言わんばかりに、茶ばかり飲んで過ごした。
 最近になってようやく体力も回復したので、そろそろ外に出て、勘を取り戻すのも兼ねて厄を集めようと思っていた。ところが正月休みが祟ってか、回転が鈍い。意地になって、早朝出かけて、昼になってもまだ神社に戻らずにいた。体は冷え切っている。
 さすがに昼食抜きで活動し続けるのは辛いものがあるので、いい加減戻ろうとした矢先だった。
 莫大な厄が湧きだして来たのは。
 それは、雛が普段触れている厄とは違うものだった。というより、今まで雛が触れたことのあるどんなものとも違っていた。放っておけば大惨事になる可能性がある。自分の手に負える規模の厄であることを願いつつ、現場に向かった。
 そこは秋姉妹が住む神社の境内だった。雛は、倒壊した神社と、気を失っている秋穣子の姿を見出した。
 瞬時に、秋静葉の不在を察知した。
 そのことを聞くため、穣子を自分の神社に連れていき、介抱した。穣子は胸に強烈な一撃を受けていた。左腕ももげかけていたが、こちらは吹っ飛ばされた時に木の幹か何かに腕をぶつけたせいだと思われた。胸に手を乗せると、黒い蛇のようなものが、雛の腕を這いあがる。
「くっ……重い」
 手を引いて、振り払う。
「何なのこの厄は」
 自分と穣子の双方に急激な負担を与えないようにして、少しずつ取り除いていく。一時間ほどして、穣子は目を開けた。
「う……あ、あれ」
「気づいた?」
「あ、確か、あなたは厄神の……」
「鍵山雛よ」
「あ、どうも、秋穣子です。って、そんなことしている場合じゃないわ、お姉ちゃんが! 早く連れ戻さないと」
 穣子は上半身を勢いよく起こす。それから胸をおさえて悶絶する。
「まだ動いていい体じゃないわ。それに、お姉さんがどこにいるのか、知っているの?」
 穣子は言葉に詰まった。
「わからない。あいつは、地面の下って言ってたけど」
「地面の下。そのままよ。あなたのお姉さんを浚った奴は、地底にいるわ」
「わかるの?」
「あなたの胸に刺さった弾幕のかけらに触ってみたけれど、明らかに地上のものではない」
「だからってどうして地面の下ってわかるの」
「厄は空に舞い上がるよりは地面に降り積もるもの。私も多少は地底の妖怪や怨霊と付き合いがあるわ。地底で誰が力を持っているかって言うのも、少なくともあなたたちよりは知っている」
「誰、お姉ちゃんを連れていったのは」
「名前は? 名乗っていなかったの」
「確か小石とかなんとか、言っていたわね」
 雛はため息をついた。
「……古明地こいし。とんでもないものに、あなたのお姉さんも目をつけられたわね」
「え、え? やばい奴なの」
「今までにも何度か地上に出てきたみたいだけれど、毎度おおごとになっているみたい。博麗の巫女や、それに匹敵する妖怪が出張らないと収まらないような」
「ひええ……」
 穣子は頭を抱えた。もはや自分でどうにかできる範囲を遥かに超えてしまっていることを、ひしひしと実感した。それに比べて、雛はそれほど動揺していない。
「穣子さん、確認しておくけど、どうしてお姉さんは連れ去られたの」
「よくわからないけど、なんだか、気に入られたみたい」
「だったら勝てるわ」
 穣子は、とっさに雛の言った意味が理解できなかった。
 勝てる? あの化け物に?
「お姉さんと連絡は取れる?」
「え、ええ」
 穣子はゆったりとした袖の中から、ドングリの実を取り出す。
「これで、取れると思うわ。あとはお姉ちゃんの調子次第だけど」
 雛は妖艶に微笑んだ。
「さとりとは、心を見透かし、心を武器にする妖怪。そういう手合いは、心の攻撃に一番弱いのよ。しかも古明地こいしは自ら第三の目を閉じている。姉よりも脆いわ」


 台所からほのかに甘い香りが漂ってきたので、お燐は吸い寄せられるように中に入った。
「あら、バラの紅茶。おいしそう」
 鼻をくんくんいわせながら、テーブルに並んだふたつのカップに近づく。カップの横には、赤や白、紫、色とりどりのバラが並んでいる。
「ふむふむ、ずいぶんデリケートに混ぜたね」
「言っておくけど、お燐のじゃないからね」
 いつの間にかお燐の真横にこいしがいた。手袋をして、鉄板を持っている。鉄板からは、これまた甘い匂いを漂わせるホットケーキがこんがりと焼き上がっていた。
「おや、いたの、こいしちゃん。気づかなかったわ」
 お燐は何でもない風を装ったが、内心舌を巻いていた。お燐は、自分が地霊殿の中の誰よりも機敏であると自負している。自身の動きが素早いだけでなく、何かちょっとした物音や、風の流れの変化にも敏感に反応できる。見えないところで異変が起きても気づきやすく、非常事態に強い。そのお燐の能力を持ってしても、こいしの前ではまったくの無力だ。気づきようがない。
「どうしたのさ、珍しく料理なんか作っちゃって。こいしちゃん、筋はいいのに面倒がってあんまり作らないから勿体ないって、前にさとり様が言ってたよ」
「うん、まあ、たまにはね」
「……どうしたの?」
 こいしの、あからさまに沈んだ様子に、お燐は眉をひそめた。
「どうもしないわ」
 ころりと表情が変わり、いつものあっけらかんとした様子に戻る。だがその変化があまりにも急激だったため、かえってお燐は不審を覚えた。
「こいしちゃん?」
「どうもしない。だって、どうにもできない」
「え、何の話」
「あの子、笑ってくれない。笑わなくても綺麗だと思ったんだけど。駄目。私、あの子をどんどん綺麗じゃなくしている」
 そこで、お燐はようやく思い当った。
「ああ、今日の昼、そういえば誰かを連れてきていたね」
「地上の神様。赤い花を咲かせるの」
「花?」
「葉っぱだったかな。どっちでもいいんだけど。でも私を見てくれない」
「いいじゃん、見なくても。死体にして飾っちゃえば。その代わり丁寧に、心をこめて、だよ」
 こいしは首を振る。
「駄目なの。それじゃ、全然いけない。静葉は飛んだり、葉っぱを赤くしたり、話してないと駄目」
「じゃあそうさせりゃいいじゃん」
「してくれないから困ってるのよ」
「で、お茶とお菓子を持っていこうと」
「そうよ。他に方法がないもの」
 こいしは鉄板を置き、ホットケーキを皿に移す。皿とカップをトレイに載せて、台所を浮いて去っていった。お燐はテーブルに残ったバラの一本を手にとり、白い花弁を口元に寄せた。濃厚な香りが立ちのぼる。
「こいしちゃん……こんなそそる匂いじゃ、相手逃げちゃうよ」

 ノックする小さな音がした。もう、何度も聞いた音だ。かすむ視界の中、ベッドに横になったまま、扉を見つめる。扉は横になっている。やがて、控えめにドアは開き、緑がかった白髪の少女が現れる。やはり横向きになっている。
「静葉、具合はどう?」
 静葉をこういう状態に追いやった張本人が、恐る恐るといった様子で聞いてくる。まるで大切にしている玩具が今にも壊れてしまうのを危ぶむ子供のように、少女は怯えている。
 静葉が壊れることを。静葉を壊してしまうことを。
「紅茶とケーキ、持ってきたわ。よかったら食べて」
「ありがとう」
 かすれた声しか出ない。
「体、起こせる?」
 こいしの問いに、静葉は首を横に振る。
「ちょっと待ってて」
 サイドテーブルにトレイを置き、部屋から出ていく。隣の部屋から何か物音がし、ぱたぱたと足音を立てて、こいしが戻ってくる。クッションを抱えていた。
「これを使って」
 そう言いながら、壁にクッションをそえる。それから、繊細な造りの工芸品でも扱うように、静葉の肩をそっと起こし、クッションに背中が当たるようにした。静葉の視界は元に戻った。
「どう、これで私の顔が見えるかな」
「ぼんやりと」
 静葉はそう言って、差し出されたトレイからカップを取り、紅茶を口に含んだ。舌が焼けるかと思うほど甘かった。すぐにカップを戻す。
「口に合わなかったかしら」
 こいしは悲しそうに眉をひそめた。甘さと同時に、濃密な芳香が静葉の中に広がっていく。味も、匂いも、ここまで甘ければもはや毒だった。常用すれば、正常な感覚がひとつひとつ削ぎ落とされていき、代わりに、歪な快楽にすげ換えられていくだろう。
「合わないけど、おいしいわ」
 静葉は本心を言った。
「合うようになれば、もっと楽になるわ。私の顔ももっと見える。私も、こんな辛そうな静葉の顔、見たくない」
 こいしの言葉に静葉はうなずいたが、カップに手を伸ばそうとはしない。こいしはナイフでホットケーキを切り分けた。
「えと、こっちはどうかな、これは……」
 出会った当初の饒舌な印象に反して、今のこいしは静葉が驚くほどしどろもどろな話し方になっていた。ここにさとりやお燐がいれば、同様に驚いただろう。
「もし、がんばって食べられたら、これから私、もっと作ってくるから。も、もっと持ってくるから。ええと、あなたが……」
「がんばってみるわ」
 こいしの言葉を遮り、静葉は切り分けられたホットケーキをひとかけらつまんだ。口元に持っていき、ひと口かじる。
「こっちは食べられる」
 こいしの顔がぱあっと華やいだ。
「ほんと? おいしい?」
 静葉は一拍置いて、答えた。
「ええ」
「よかったあ」
「紅茶は、蜜を入れ過ぎたのよ」
「きっとそう。でも、甘くしておかないとどうしても怨霊の味が混ざっちゃうから、静葉には合わないかもって思ったの」
 静葉は、急に口の中がべとつきだしたように感じた。思わず唾を飲み込む。
「やっぱり、嫌だった?」
「地底の怨霊はね……さすがに。私の存在自体が消えてしまう恐れがあるの」
「そんなの絶対嫌だわ。静葉が消えるなんて」
 そこまで言って、こいしは何かに気づいたように、口を閉ざした。数秒の沈黙を経て、言葉を出す。
「ひょっとして、私がいる時も?」
「そうね。あなたが近づいてくれれば近づいてくれるだけ、私はどんどん力をなくしていく」
「そんな……」
「こいし。私はあなたに、傍にいてほしい」
 ぶるりと、こいしの体に震えが走った。その震えは、波が寄せては返すように、こいしを襲っていた。その間こいしは目を細め、悦びに打ち震えていた
「ねえ、静葉。どうすればいいの? 私、どうすればいい」
「頭が重いわ」
 こいしは静葉の頭に咲いたバラに手を触れた。するとバラはたちまち萎れた。静葉はこいしの手に自分の手を重ねようとする。しかし、こいしは静葉の手が触れた途端、電流が走ったかのように慌てて手を引っ込めた。静葉は自分の手でバラに触れる。すると、枯れた花弁は赤から朱へ、花から葉へと変わる。
 もとの紅葉に戻った。
「そうね、やっぱり私のバラより、そっちの方が似合う」
「こいし、あなたも」
 静葉が手を伸ばすと、こいしはおとなしく頭を垂れた。静葉の指先から秋の雫が垂れ、こいしの髪につく。そこからひとひらの紅葉が生まれる。
「わあい、おそろいね」
 こいしは立ち上がってはしゃいだ。静葉は弱々しく微笑む。
「ごめんね、今はまだそれだけしかできない」
「元気 になったら、もっと色々できるのね。あの、秋の終わりの空みたいなのも、ここでできるのね」
「秋の終わりの空?」
「私、あの時初めてあなたをみたの。夕日に照らされて、あなたは飛んでいた。世界が変わっていくのをみんなに告げ知らせるように。それとも、あなたがあの時、世界を変えていたのかしら」
 心当たりがあった。秋に冬の兆しが差すあの数日間、静葉の力は頂点を迎える。自由気ままに空を飛んでいた。その時期のいつかを目撃されたのだろう。
 静葉は一拍置いて、答えようとして、もう一拍置いた。それからようやく声が出た。
「そんなことできないわ。あれは、私の力じゃない。秋から冬へ移る、季節そのものの力よ。一介の八百万の神にどうこうできるものではないわ」
 今のこいしなら、静葉が秋を操っていると言っても、信じただろう。それはさらにこいしを悦ばせるに違いない。こいしの判断力を奪えるだろう。だが、静葉はそこまで偽ることができなかった。やってしまえば、自分が寄って立つ、秋に対する冒瀆になってしまう。
「ふーん、そう。よくわからないわ。それで、どうしたら静葉はもっと綺麗になるの?」
 こいしの関心は結局そこへ収束する。
「地上の気が欲しいわ」
「地上にはあげないよ。静葉は離さない。ここに地上の気を持ってくればいいのね」
 静葉はまた、言葉に詰まる。
 なぜこうも思い通りにことが進むのか。
 この少女は、疑うことを知らないのか。
「ええ。そうなの。あなたも、もっと地上の気をまとえば、傍にいられるようになるわ」


 こいしは毎日何かを作っては、静葉の部屋を訪れた。回数を重ねるたびに、静葉は元気になっていった。反対に、こいしは少しずつ元気をなくしていった。注意力が散漫になり、階段を踏み外してカップを割ったり、浮かぶ時目測を誤って柱に頭をぶつけたりした。
 静葉が快復すればするほど、こいしが衰えれば衰えるほど、こいしの頭に飾られた紅葉は美しく輝いた。


   ***


 ひとが何を考えているかわからない、という気持ちが、かつてのこいしにはわからなかった。近くにいて、少し心を落ちつければ、流れるように相手の思考が染みわたってきた。それは雨漏りに似ている。無視したり、掃除したりすればその場はどうにかなるが、またいつのまにかじわじわと部屋を濡らしていく。
 それで、ずいぶんと嫌なことがあったので、今、彼女は第三の目を閉じている。自分の指先がもたらした痛みも、淡い記憶としてしかよみがえらない。
 ぼんやりした映像としてしか。
 姉は、その時静かな目で、地べたにはいつくばったこいしを見ていた。痛みに震えながら、こいしは姉を見上げた。
 さとりという種族同士では、お互いの心を読むことはできない。できない、というのは正確ではないが、それとほぼ同義だ。遠く隔たった者の心を読んだり、狂人の心を読んだりするのが極めて困難なことと同じように。
 さとりの心中は、本人の思考と、本人が読み取った誰かの思考が複雑に入り混じっている。根を詰めて解きほぐせばその区別がつけられるのかもしれないが、精神に莫大な負担がかかる。同種族の心をそうまでして読み取りたいという者は今までほとんどいなかったし、やはりこいしも姉の心をそんな形で暴こうなどとは思わなかった。
 だから、第三の目を閉じる前も、後も、変わらず姉の思考はこいしには不可解だった。
「痛いの」
 姉は言った。それが、問いなのか、あるいは姉自身のことを言っているのか、それすらこいしにはわからない。姉は屈んで膝をつき、血を滴らせる第三の目に手のひらを当てる。
「こんなになるまで、我慢していたのね」
 姉の手が当たると、痛みがやわらいだ。その代わり、得体のしれないものに触れられているという居心地の悪さがあった。スプーンやティーセット、窓、ドアノブ、鏡、タオル、そういったモノと同じく、そこからは何の感情も伝わってこない。だというのに、モノとは違い、自動で動く存在。
 他者というのは、そもそもこういうものなのだ、とその時こいしはおぼろげながら理解した。自分たちの種族が異常なだけで、近づいたり、触れたりするだけで相手のことがわかったりするのは、あってはならないことなのだ。
 だから自分は嫌われた。
 今はまだ安堵より傷の痛みが勝る。だがそれが治まったら、あとには、肩の荷が下りた清々しい気分が待っているはずだ、そうこいしは思った。


   ***


 静葉が立って歩けるようになったので、ふたりは地霊殿のバラ園に出た。病み上がりの静葉の足取りは危なっかしかったが、それ以上にこいしの症状が重かった。目が虚ろで、まっすぐ歩けていない。静葉の隣を歩こうとしているのだが、近づきすぎたり遠ざかったりしてしまう。近すぎて静葉に触れてしまうと、火傷したように慌てて体を離す。それでまたバランスを崩して、膝をつく。
「大丈夫? こいし」
 静葉はこいしに手を伸ばす。
「うん、平気平気。頭くらくらするけど、こんなことなんでもないわ」
 こいしは笑う。
「こうすることで、静葉の隣にいられるなら」
 こいしの髪についている紅葉は、地上の気でつやつやと輝いていた。反対にこいしは、元々透き通るような白い肌だったが、それがますます白く脆くなっていった。人形や死体の静謐な美しさを、静葉は連想した。
「本当に苦しくないの」
 静葉は問う。静葉はもう、耐えられそうになかった。
「ええ。だから、行きましょう。ふたりでバラ園を散歩するの。ここのバラは全部私がひとりで植えたの。設計も私ひとりよ。そりゃ、少しはお姉ちゃんの知恵も借りたけど、直接手を入れたのは私だけなの」
「苦しくない?」
「全然。変よ、静葉。そんなに何度も聞いて。どうかしたの」
「私が嘘を言っていても?」
 こいしは首を傾げた。
「何のこと?」
 こいしの目に、悪意はない。ないからこそ、容赦なく、静葉に痛みを与える。
「私があなたと一緒にいたいというのは、嘘なの」
「嘘」
 こいしは、ぽつりとそれだけを言った。それが、静葉の言葉をただ反復しただけなのか、言葉そのものを否定したかったのか、静葉にはわからない。その目が、その声が、あまりに空っぽなことに、静葉は恐怖した。
「私はあなたを騙しているの。あなたの力を削いで、私がここから逃げ出すために」
 言えば償えるかのように、静葉は捲し立てる。
「私のこと、嫌いなの」
 こいしは言葉少なに問う。静葉は首を振った。
「私はただ、私の家に帰りたかった」
「だって、ここは私の家だよ」
「あなたの家は地底、私の家は地上! 私たちは全然違う世界に住んでいるの、出会うべきではなかったの、出会ったことが何かの間違いだったのよ!」
 静葉は思わず叫んでいた。
「だって、夕焼けに飛んでいく静葉は、とっても綺麗で……」
「ふうん、それで自分勝手な思い込みで静葉を傷つけ、捉え、苦しめ、地下に連れ去ったのね。静葉の求めることを何ひとつせず、自分のしたいことだけを押しつけて、それで一人前にそんな悲しそうな顔をするのだから、図々しいにもほどがあるわ」
 いつの間にか、バラ園に黒々とした煙が立ち込めていた。それは次第に一ヶ所に集まっていく。煙のようなものは、やがて人型となる。
 黒に近い濃い緑色の髪を、襟もとで結わえている。黒いドレスをまとった少女だ。
「雛……」
「静葉、疲れたでしょう。もういいのよ」
「だあれ? あなたは?」
 こいしは虚ろな表情のまま、雛を見る。歪んだバラが宙にいくつも出現する。バラ園全体が、こいしの空間へ移り変わろうとしていた。
 雛は襟もとの髪止めのリボンを外す。髪の毛は伸び、広がり、波のようにこいしに押し寄せ、足首を絡め取った。こいしは何の抵抗もできずに転んだ。リボンは大きくなり、今にも倒れそうな静葉をやさしく包み込んだ。
「へえ、あなた結構強いのね」
 尻もちをついたまま、こいしは雛を見上げる。静葉に言われたことを、こいしは考えないようにしていた。「嘘」という言葉だけが、頭の中でいつまでも渦巻いていた。
「いいえ、弱いわ」
 こいしの願望を、雛は拒む。微笑みながら。
「少なくとも、本来のあなたの力があれば、私みたいな厄神、物の数ではないはずよ。でも、現実に、あなたは私の前で倒れている。静葉の与えた秋のせいで」
 こいしは意識せず、頭の紅葉に手を触れる。
「静葉にとって地底の風が毒であるように、あなたにとっても地上の気は毒。それでも普段なら何でもないんでしょうけど、直接流しこまれたら、やっぱり辛いわよね」
「これは……静葉がくれたものよ」
「ええそうよ、知っているわ。私がそう指示したのだから。静葉は始めからあなたの力をそぐために、それを送ったのよ」
 こいしは紅葉をぎゅっと握り締めた。そのまま破り捨てるかと雛は思ったが、彼女の予想に反して、こいしは手をだらりと下げ、そのまま呆然と立ち尽くした。その目に、感情らしきものは映っていなかった。
「同情はしないわ」
 雛が回転すると、地を這っていた煙が噴き上がり、雛と、リボンに包まれた静葉を包み込んだ。煙はバラ園全体を覆い尽くさんばかりに広がった。煙が晴れた時には、こいしの他、誰もいなかった。

 地霊殿の誰も、こいしに声をかけられなかった。なぜなら誰もこいしに気づくことができなかったから。
 こいしはぼんやりと物思いにふけっていた。自分がどこをどう移動しているかなど、意識していなかった。ただ、なるべく邪魔ものがいなくて、ゆっくりできる場所……温度、湿度、風の強さ、座り心地、匂い、そう言った何もかもが、一番自分にしっくりくる場所、そんなところを探していた。
 そこへ近づけば近づくほど、あの朱い秋の神からは遠ざかっていくことを、心の隅で認めていた。自分が最も落ち着く場所では、あの少女は逃げ出すことしか考えないだろう。あの少女が好む場所は、自分にとっては乾燥して、眩しく、気忙しく、すぐに居たたまれなくなってしまうだろう。
 出会うべきではなかったのだろうか。
 その考えに思考が触れた途端、こいしは激しく首を振った。そんな考えを一瞬でも浮かべた自分自身があまりに愚かに思えてきた。
 静葉の傍にいられたというだけで、すべての痛みは報われたというのに。
 それでももう一度、叶うことならば何度でも、静葉の声を聞きたい、彼女に触れたい。
「ああ、静葉」
 こいしはその場にぺたりと座り込んだ。居心地のいい場所だった。そこで、静葉に抱かれることを夢想する。現実には、一度も触れたことはない。秋の雫を垂らしてくれたこと、あとは何度か事故のように、服と服が触れ合った程度だ。雫は思う存分感じたが、服の接触の時は、いつもこいしが慌てて避けていた。あと一秒でも長く触れていると、何か知ってはいけないものが自分の頭に流れ込んできそうで、怖かった。それが嫌で第三の目を閉じたというのに、体は、それでもひとに触れることを恐れていた。こいしがお燐たちにことさら触れたがるのも、その反動だ。
 でも、だから、触れたい。
「恋しいよぉ……」
 膝を丸め、両腕を交差し、自分の体を抱きしめる。これが静葉だったら、と想像する。
「もっと、強く、ねえ」
 ひとり呟く。馬鹿げたふるまいだと自覚しつつも、こうして自分で言っていれば、いつか本当にそんな感覚に陥られるのではないかと期待して、呟く。
「もっと……静葉」



 レティ・ホワイトロックは雪の混じった寒風を全身に受け、気持ちよさそうに両腕を広げた。
 今朝は一段と冷え込んだ。地面は雪化粧を施されている。人家に近寄ると、ただでさえ寒さで戦々恐々としている人間たちが何をしてくるかわかったものではないので、野原や山を飛び回っていた。もちろん、今のレティに、ただの人間ごときが束になってかかったとしても到底敵わない。だが人間には鬼さえ駆逐する知恵がある。油断はならない。それに、下手に争いがこじれて巫女に動かれるのも、レティとしてはなんだか決まりが悪かった。
 レティが山中にある神社を横切った時、見慣れぬ影が、鳥居の柱の下に座り込んでいるのを見た。唇を紫色にして、ガチガチと震えている。
「あら、どうしたの。こんな季節に」
 秋穣子は、真っ青になった顔を上げた。相手がレティと知って、ますます青ざめる。
「うひゃあ、あなた出てきたの。いったい今はいつ? そしてここはどこ?」
「寝ぼけているのか錯乱しているのかわからないけど、今は冬。そしてここは……」
 レティは苦笑しながら、鳥居を見上げ、そこに書いてある字を読む。
「厄神様の神社よ」
「ああ、そうだったわ。そうだった。ああもう、どうすればいいの」
「私でよかったら、相談に乗ろうか?」
「乗れるものなら、乗ってほしいわ」
「早く問題を解決して、眠ってしまいなさいよ」
 穣子は眉をしかめ、唇を突き出し、思い切り渋面を作った。
「それができないから、ここでこうして冬の妖怪にいじめられているんでしょうが」
「不眠症なの?」
「私じゃなくて、お姉ちゃんがね。地底から戻ったきり、一睡もしていないの」
「あなたは関係ないんでしょう。放っておいて寝ればいいじゃない」
 穣子はちらりとレティを見て、手で口元を押さえながら欠伸をした。何気なさを装っているが、かなり深い欠伸だ。
「心配で放っておけないわ。お姉ちゃんは、しっかりしているようで、いっぺん思い詰めたら視界がこう、ぐぐーっと狭くなっちゃうんだから」
 両手のひらを伸ばして、顔の真横から平行にして前に動かす仕種をする。
「私が見ていてあげないと」
 レティは微笑み、穣子の頭をやさしく撫でた。
「な、何よ。冷たいでしょ……っくしゅん!」
「いい妹さんを持って、あなたのお姉さんは幸せね。いい子いい子」
 そう言って、また撫でる。
「もう、やめてよ、ほんと寒いんだから」
 穣子は立ち上がってレティから離れる。鼻がぐすぐすいっている。
「それで、どうして厄神様のところにいるの?」
「うーんそれが、私にもよくわからないの。厄神様は、お姉ちゃんを地底にいかせたくないみたい」
「意見がわかれたのね。それじゃあ、話し合いをするしかないわ。それか弾るか」
「やめてよそんな物騒な話。だいたい、とっくに力をつける時期は過ぎてるから、今のお姉ちゃんは普通の人間よりも弱いよ。厄神様が変なことしなきゃいいけど」
「厄神様って物騒なひとなの? 何度か顔を合わせたことあるけど、あまりそういう風には見えなかったわ」
「うん、困った時にはよく助けてくれる、いいひとなんだけど、お姉ちゃんが相手だとちょっと雰囲気変わっちゃうの。私が思っていたよりもずっと、ふたりは付き合いがあったみたいだし」
「特別なひとなのね。きっと」
「……適当なこと言わないでよ」
 穣子は、レティの言葉を完全に否定できないことに苛立っているようだった。
「まあ、風邪ひかないうちに、あなたも早く寝ることね」
「そうしておくわ」
 レティは一陣の吹雪とともに、どこかへ去っていった。穣子は真っ白な息を吐き、浮かない顔で、神社の方を見た。

 本殿の中、静葉と雛は座布団に正座して、お互い向き合っていた。もうずいぶんと長い間そうしていた。静葉は、目を開けているのもやっとという状態だった。体には、巨大化した雛のリボンが巻きついている。
「早く眠りなさいよ、静葉」
「あなたがこれを解いてくれたらね、雛」
「そうしたら地底に行くでしょう」
「行くわ」
「あの妖怪のところに」
「多分」
「どうして? 騙してしまったことの罪悪感? それならお門違いもいいところよ。先に強引な手段で来たのは向こうなんだから。暴力に知恵で対抗しただけよ」
「わかっている。そういうのじゃない。……それは雛、あなただってわかっているでしょう」
 雛は唇を噛んだ。他者の厄を耐え忍ぶ時に唇を噛むことはしばしばあったが、今、彼女は自分の感情のままに唇を噛んでいた。
 雛は、静葉の首にかかった、青と緑色の輪に指をかける。
(私より遥か遠くにいるのに、この輪はこの子を縛り続けている……)
「だから、どうしてよ、静葉」
「わからない。もう一度会ってみないと」
「会う必要なんかないわ。あなたはあの妖怪を憐れんでいるだけ。それを、何か他の感情と混同しているのよ」
「雛、ねえ雛。どうして私が眠れないのか、わかる?」
 静葉は立ち上がった。彼女を包んでいたリボンは力なく床に垂れ、元の大きさに戻った。静葉は外へ向かう扉に手をかける。
「忘れられないの」
「静葉……」
「本当は、眠りたくて眠りたくて、しかたないのよ」
 振り向き、微笑む。その笑みがあまりに儚くて、雛は何も言えなかった。
 静葉は神社の外に出た。穣子は姉の表情を見た瞬間、何かを諦めたように、うなずいた。雛は開いた扉から静葉の背中を見ている。
 静葉は境内の中央付近に立ち、地面を見下ろす。
「こいし」
 ぽつりと、呟く。
 答えるものは何もなかった。少なくとも、穣子と雛は何も感じなかった。静葉は地面を見下ろし、その底にあるものを見据えていた。
「……こいし」
 さっきよりも、強い声で、呼ぶ。地面がかすかに震える。穣子は目をこすった。視界がぼやけたような気がした。軽い立ちくらみに似ている。金属の噛み合う音が聞こえる。
「こいし!」
 叫ぶ。地面から白い柱が飛び出してきた。地底の霊気の塊そのものと言える柱だ。その数、十を超える。白い柱は互いに交差しながら上昇していく。やがてまた、交差しながら下りてきた。静葉には直接触れず、その周囲を駆け抜けていく。地面にはいくつもの穴が空いた。地面に裂け目ができる。静葉の足元が崩れていく。
 大量のハート弾が地面から噴き出した。その数、二十、いや三十をゆうに超える。数えきれない。静葉は抵抗せず、それを受け入れた。以前のような痛みのある弾ではなかった。
 嵐が過ぎ去った時、宙に浮いた静葉の足元にはぽっかりと大きな穴が空いていた。そこから地底の風が立ち上ってくる。
 追い風が来た。噴き上がったハート弾が戻ってきた。その流れに乗り、静葉は地底へ降りる。今度は、自ら望んで。


 バラ園は、以前に見た時より荒れていた。
 こいしの姿は見えなかった。先程の柱やハート弾にも、明確なこいしの意志は感じられなかった。今、こいしが無意識の状態にあるならば、静葉自身の力で探さないといけない。かといってどこにいるのか見当もつかないので、差し当って園内の知った道を歩いていると、自然と地霊殿についた。
 地霊殿は特に変わった所はなかった。相変わらず人気がなく、静かで、薄暗く、圧迫感を与えない程度に清潔だった。全体的に味気なかった。かといって、以前ここにいた時が楽しくて充実していたかというと、そういうわけではない。
 静葉は混乱していた。今、自分が求めているものは、何なのか。少なくとも過去にあった何かではない。過去、ここには痛みや苦しみ、後ろめたさがあるばかりだった。それでも静葉はここに来た。今までではなく、これから、何かがあるような気がしていた。
 もう一度こいしの名を呼べば、またさっきみたいに無意識の弾幕で導いてくれるかもしれない。そう思った矢先だった。
「呼ばうの?」
 こいしによく似た声がした。けれどもまるで異質の声だった。
「いや、夜這うのかしら。顔に似合わず厚顔なところがあるのね」
 ふわふわと浮きながら、小柄な少女が現れる。紫色の髪をした、こいしとよく似た印象の少女だ。だが放つ雰囲気はまったく違う。明確な悪意が、少女の言葉、表情、仕種から感じられた。
「あなたがこいしを騙したことは、なんとも思っていないわ。あの子は力を用いてあなたを浚った、そして別の力であなたに敗れた。それだけのこと」
 静葉はいたたまれなくなる。自分の心が丸裸にされる。恐れも、躊躇いも、企みも、悦びも、何もかもが、この少女の前では見透かされる。
「でも、今のあなたは、弱った獲物を捕らえようとしているに過ぎない。浅ましい下心ね」
 静葉は進む。少女とすれ違う。
「ふうん、認めるの。図太いのね」
 静葉と少女の距離は遠ざかっていく。
「すでにどこにいるか、わかったのね」
 少女のまわりに、バラが咲く。咲いては瞬時に枯れる。続いて、静葉の行く先にバラが咲く。避けて通ろうとするが、通ろうとしたところにまた咲く。床や壁からもツタが生え、静葉に伸びてくる。逃れようと、後ずさる。
「どこに逃げようというの」
 振り向くと、少女を中心にして円の軌道を描きながら、バラが咲いていくのが見える。
「想起・サブタレイニアンローズ」
 こいしの匂いがする弾幕だ。しかし、匂いの濃度がとても薄い。こいしの弾幕を形式だけ模倣したようにみえる。少女は邪悪に微笑んだ。
「そう、形だけはあの子の弾幕。当然、私自身の意識が入っている。多分、あなたにとっては悪意と受け取れるような意識がね」
 花弁が、荊が、静葉を取り囲む。清々しいほどの悪意とともに。


 地が、空が赤い。どこからか物寂しげな風の音がする。その風には、地底のもっとも濃い霊気が含まれている。力を使いつくした静葉は、その風に吹かれるだけで意識が朦朧としてきた。服は荊に無残に裂かれていた。スカートもぼろぼろだった。肩やわき腹、太ももなど、あちこちが露出している。静葉の滑らかな肌から血が流れる様は、痛々しくも艶めかしかった。
 もういつ倒れてもおかしくない。それでも目を開き、前を向き、廃獄を歩く。まだ眠るには早い。今、子守唄を聞く気があるのは、たったひとりだけだ。
 猫の鳴き声がする。いつの間にか足下に黒猫がいた。黒猫は静葉を誘うように、時々振り返りながら、先を進む。静葉はおとなしくついていった。
 中庭から火炎地獄跡へ入ったすぐは、ただ赤い炎と黒い煤ばかりの世界だと思っていたが、次第に細かい部分までわかってきた。火山の火口付近を思わせる荒涼とした地だ。赤茶けた地面がどこまでも広がり、そこにごつごつした黒い岩が無数に転がっている。崖のように極端な傾斜があるわけではないが、平坦とはほど遠い。ところどころ丘のように盛り上がったり、逆にすり鉢状に大きくへこんだりしている。静葉は、以前人里で読んだ、砂漠というものに関する絵と記述を思い出した。あれに、形は似ていた。
 どういう現象でそうなったのか想像もつかないが、波が起こり、それがそのまま固まったような形状をした岩があった。かなり大きい。巨人の手のようにも見える。その根元に、背を持たれかけさせた少女がいた。
 静葉は走ろうとして、前に突っ伏した。走るような体力はもう残っていなかった。
 目の前を黒猫が横切る。まるで動けない静葉を嘲笑うようだ。静葉は腕を前に伸ばし、地面を引き寄せるようにして、這い進む。岩の根元に座る少女は、こちらを見ていない。外界の何ものにも気を取られていないようにみえる。頭には、ひとひらの紅葉がついている。
(あれを取ってあげなくちゃ……)
「がんばるねー、お姉さん」
 黒い靴が見える。見上げると、赤いお下げ髪の少女がこちらを見下ろしていた。
「さっきの黒猫……?」
「そうだよ。でも、がんばってるけど、もうさすがに限界だね。一歩も進めないね。さとり様からあれだけ攻撃を受けたら、そりゃそうなるよ。あんなさとり様、見たことない」
 お燐はしゃがみ込み、まじまじと静葉と見つめ合う。
「お姉さん、全然強くないけど、確かにちょっと綺麗だね。いい死体になりそうだ」
「動けるわ」
 静葉はそれだけ言って、また腕を伸ばし、這う。
「そうだね、まだ這えるね。でもそのうち腕も動かなくなるよ」
「足があるわ」
 地面を蹴るようにして這う。
「足も動かなくなるよ」
「肩がある。腰がある」
 体全体をねじるようにして這う。
「それも動かなくなったら?」
「首があるわ」
 顎を地面につき、うなずくようにして這う。顎がこすれ、血が出る。
「体全部、指一本、舌先一寸に至るまで悉く動かなくなったら?」
「見る」
 岩の根元にいる少女を。
「目で、見るわ」
「それも潰れたら?」
 お燐は、そっと二本の指で、静葉の瞼をあげる。
「このまま、すとんとあたいが指を落としたら、もう見ることもできないよ。それとも、神様だから、また再生したりするのかな。でもまたあたいが突くよ」
「叫ぶわ」
 お燐は指を静葉の喉に当てる。
「このまま、力をこめたら? 体も動かず、目も見えず、口も利けず、まるで死人のようになったら、どうする?」
 お燐は笑う。それはさとりの笑いに似ている。ぱっと静葉から手を離し、立ち上がる。
「帰りなよ。ここは地上の神様がいていい場所じゃない。こいしちゃんが悪さして、無理やり連れてきて、悪かったと思ってる。お詫びにあたいがロハで地上に帰してあげるよ。もちろん生きたまま」
「……わ」
「こいしちゃんもね、ちょっと最近おかしかったんだよね。地上でイキのいい人間たちに会ってさ、それから芋蔓式に強い奴がどんどん出てくるもんだから、舞い上がっちゃって」
「……もう、わ」
「お姉さんもいい迷惑だったと思うよ」
「想……」
 立て続けにしゃべり続けていたお燐は、ぴたりと口を閉ざした。廃獄に沈黙が落ちる。どこか遠くで、風の音と、燃え立つ炎の音が聞こえてくる。
「さっきから何を言ってるのさ」
 お燐の声のトーンが一段落ちる。静葉はぼんやりした目で、口は半開きのまま、それでも、ひとつの方向から顔の向きを変えていなかった。
「想うわ」
 お燐は自分でも気づかぬ間に足を振り上げていた。それが静葉の頭に当たる直前、紐がお燐の足首を絡め取る。そのままお燐はバランスを崩して転倒した。
「っく……! 何すんのさ」
 岩にもたれかかっていた少女が、立ち上がった。
「こいしちゃん」
 こいしはやつれていた。紅葉だけが、赤々と輝いている。
「お燐、ありがとう。もういいわ」
「こいしちゃん、そんな、さっきまであたいが声をかけても全然反応なかったのに。なんで、今」
「決めたの。私」
「どうしたのさ、この子を、入口に飾るんじゃないのかい」
「そんなことしたくない。静葉はここにいちゃいけないの」
 お燐は言い返そうとしたが、結局何も言わず、車を押して去っていった。お燐の背中をしばらく見ていたこいしは、不意に静葉に視線を移す。静葉は体の痛みも忘れて、こいしの目を見た。
「立てる? 静葉」
 静葉は首を振った。
閉じられた第三の目が、静葉にまとわりつく。目から続く紐状のもので、静葉を柔らかく絡め取っていく。静葉の体が浮き上がる。螺旋の食い込みはやさしい。
「これで、向かい合える」
 自分の意思通りには体を動かせないが、静葉はそれを束縛とは感じなかった。こいしは静葉の二の腕についた荊の傷に顔を近づける。
「ずいぶん、お姉ちゃんにひどいことされたみたいね」
 赤く滲む皮膚に舌を這わせる。静葉は背筋に震えを感じた。それは全身に広がる。冷たく、痛く、そして甘い痺れが。
「何を言えばいいのか、ずっとわからなかった」
 静葉は言う。
「今もわからないけど」
 こいしは黙って静葉の目を見る。
「私とあなたじゃ、住む世界が違うし、お互い一緒にいても力を削ぎ合っていくだけ。これ以上ないくらい不毛なの。あなたの顔を見たら、何かわかるかもって思ったけど、結局わからない」
「私と一緒にいたい?」
 静葉は首を横に振る。
「じゃあ、どうしてここに来たの」
 また首を横に振る。
「お別れを言いに来てくれたの」
 静葉の首の動きが止まる。
「……かも、しれない」
 静葉はこいしの髪についている紅葉を取った。あふれるほどの秋の力が静葉に流れ込んでくる。静葉は目を大きく見開いた。
「これは……こんなに、どうやって」
「あなたがいない間、溜めていた」
「だから、どうやって。もう、外は雪が降っているのに。私たち秋の神に、できることは何ひとつないっていうのに、どこにこんなに秋があったっていうの。あなたが自分をこんなに追い込んでまで作ってくれた力なんて、私がもらえるわけないじゃない! なんで私のためにしてくれるのに、私のことを考えてくれないの!」
 言っている途中から、静葉の胸に重たい後悔の念が渦巻き出した。だがもう止まらなかった。こいしは表情を変えず、静葉の詰る言葉を聴いていた。
「静葉、秋は、死んでなんかいないんだよ。冬になっても、土に、空に、草木に、空気に、ひとに、言葉に、記憶に、とどまり続けている。四季は、いつもそこにいるの。春になったからと言って、夏と秋と冬が死んでいるわけじゃない。ただ、その時はその季節に舞台の表を任せているだけ。いつだって、そこにいるの。秋は、冬の間は、地面にもぐっていることが多いみたい。地底ではよく見かけるわ。だから安心してよ。私は無理なんかしてないから」
 感情を爆発させてしまった静葉は、こいしの言葉の前に自制心を保つすべを知らなかった。
「どうして……秋の神の私が……地底の妖怪なんかに秋のことを言われなきゃ……いけないのよ」
 こいしは静葉の首についている青と緑の輪を外した。静葉に絡まっていた、第三の目の尾がゆっくりとほどかれていく。
「これで帰れるでしょう」
 静葉はうなだれ、こいしに背中を向ける。浮きあがろうとする。
「さようなら、こいし」
こいしの中で、何かが吹っ切れた。後ろから静葉に飛びかかり、腰に手をまわした。
「きゃっ」
 静葉はそのままうつ伏せに倒れる。こいしは静葉にのしかかったまま、動かない。
「こいし……」
 静葉は背中に温もりを感じる。動悸が激しい。それが自分のなのか、自分にぴったりと身を寄せている少女のものなのか、判別つかない。
「嬉しかった。静葉が、傍にいたいって言ってくれて。とっても気持ち良かった。ありがとう」
「こいし」
「たとえ……」
「違う!」
 静葉は起き上がり、こいしの顔を真正面から見る。
「嘘じゃない」
 こいしは静葉の剣幕に、少し怯えた様子を見せた。静葉はこいしの肩をつかんで引き寄せる。はじめこいしは小さく体を震わせ、身を引き離そうとしたが、すぐにおとなしく、静葉に抱かれるままになった。
「嘘じゃないから……」
「わからない。私はさとりだけど、目を潰したから、見えないの。誰の心も」
「そんなの、当り前でしょう」
「目が開いていた頃、触れたら、そのひとの思っていることが流れ込んできたの。目で見るよりも、もっと露骨に。嫌なことの方が多かった。だから他のひとに触るのが怖かった。お燐とか、家のペットだったら安心だった」
「今は?」
 静葉は抱擁を強める。こいしは恐る恐る静葉の背中に手を伸ばし、そして思い切ったように抱きしめる。
「何も流れてこない。けど、わかる。そんな気がする」
 ふたりは長い間そうしていた。やがて、風と炎の音に混じって、車輪の音がしてきた。
「お帰りの時間だね」
 お燐だった。こいしは静葉から離れた。
「また地上に遊びに来てもいい?」
「いいわ。ただ、次の秋が来るまではほとんど起きてないと思う。特に今回は眠りにつくのが例年よりずっと遅いから」
「わかった。じゃあ来年まで待つ」
「待っているわ」
 静葉はそう言って、こいしと見つめ合う。お燐が苛立った仕草でふたりの間に割って入った。
「ほら、乗った乗った。地上まで連れていくよ」
「さっきのと違うわね」
 お燐が押して来たのは小振りな一輪車ではなく、頑丈な木枠で作られた四輪車だった。静葉が何気なく言った一言に、お燐は眉をしかめる。
「あたいの猫車は死体専用、ナマものは乗せらんないよ」



 翌年の秋は、なかなか終わらなかった。冬はとっくに始まっているのだが、あちこちに秋の残滓が見受けられた。綺麗な秋の終わりを期待していた者たちは、有終の美も飾らずに、なし崩しに冬に舞台を明け渡していく秋の不甲斐なさを嘆いた。
 穣子は、毛布をかぶって本殿の隅で丸くなっていた。今年はあらかじめ貯蓄を多めにしておいたから、毛布も豪快に三枚重ねしている。一時は崩壊した神社も、里の人間の協力で、改築されて生まれ変わった。静葉は目をこすりながら、体を起こした。
「うう……ん」
「お姉ちゃん、起きた?」
 穣子は毛布から頭だけひょっくり出して、姉を見た。
「寝過ぎたみたい……穣子、今、いつ?」
 春に二度、夏に三度目を覚ましたところまでは記憶にある。
「もう冬始まっちゃったわ」
「秋、終わったのね」
「終わってないよ。でももうない」
「……悪いことしたわね」
 静葉は立ち上がった。体の節々に妙な違和感がある。寝過ぎたせいで疲れているのかもしれない、と静葉は思った。
「お姉ちゃんの来年の信仰が心配だわ。きっと暴落している」
「かしらね」
「今年、私が多めに溜めておいたから、来年はお姉ちゃんががんばってね」
 そう言って、穣子は毛布を頭からかぶった。静葉は立ち上がって、本殿を出た。
 境内に、黒い大きな穴が開いていた。まわりに雪が積もっているので、その黒さが余計引き立つ。そこから、少女が身軽な動作で浮かび上がってきた。
「静葉!」
 黒い帽子をかぶった少女は、地面に降り立ち、静葉に向かって駆けてくる。
「おはよう、こいし」
「何言ってるの、もうお昼よ」
「さっき起きたばかりなの。やっぱり、前の冬、遅れて眠ってしまったのがいけなかったみたい」
 静葉が目をこすりながら言うと、こいしは急にしょんぼりとなった。
「ごめん、私が来たからよね」
「ああ、そういう意味で言ったんじゃないわ」
「ほんと?」
 途端に明るくなる。
「……まあ、あなたが来たせいで眠るのが遅れたのは確かだけど、そのおかげであなたと会えたし、もう色々といいわ」
「でも、もう眠るんでしょう」
「そうね、体が冬に起きるのに慣れてしまうといけないから、もう寝ておかないといけないわ。起きたばかりだけど」
「それじゃあ、ちょっとその辺歩かない?」
 こいしの提案に、静葉はうなずく。こいしはややためらって、それから思い切って静葉の手を取る。
「行こう」
 こいしは勇んで神社を出た。手を引かれながら、静葉もあとに続く。
「散歩はいいのだけれど、行くあてはあるの?」
 車の轍と人間の足で土の色もあらわになった道を歩きながら、静葉は尋ねた。
「ないわ」
「そう」
 適当に道を進み、ふたりは川の土手に腰かけた。川は凍っていた。
「こうして静葉と並んで、体を動かしているだけで、なんだか気分がいいの」
「私は悪いわ」
「どうして?」
「秋の神様は冬が一番苦手。地上の生き物は地底の風が一番苦手」
 事実だった。さっきから寒気はなくならないし、こいしが近づくと、腹の辺りがぞわぞわとかき回されるようになる。
 それでも、こいしといると楽しい。
「あらあ、最悪のシチュエーションね」
 今度はこいしは悪びれなかった。
「私、今練習しているの。地底の風をまとわなくても、地上にいる練習。あと何年かしたら、少しは慣れると思うわ」
 こいしは、服の胸ポケットから紅葉を取り出してみせた。
「無理はしないでね。妖怪が神様ほど融通効くとも思えないわ」
「しないよ。きつくない程度に、少しずつしてるだけだから。何年、ひょっとすると何十年かな。その間、待っててくれる?」
「幻想郷から、秋がなくならない限りはね」
「わあ、じゃあ安心ね。よかったあ」
 こいしは静葉の手を、自分の両手で挟み込んだ。
「あったかくしてあげる」
 静葉は目を細めた。こんな関係を誰かと築いたのは、初めてだった。
 背後で足音がした。振り向くと、孫らしき子供の手を引いた人間が、不思議そうにふたりを見ていた。静葉と目が合うと、男は柏手を打ってお辞儀し、去っていった。
「爺ちゃん、知ってるひと?」
「秋の神様じゃねえか、なんでこんなところに……風邪ひいちまうぞ」
 そんな声が寒風に乗って聞こえてくる。静葉も、秋祭りで何度か見かけたことのある顔だった。以前は鼻垂れ小僧だったが、最近は白髪交じりの貫録ある親爺になった。確かに、自分がいるにはあまりに場違いな季節だった。こいしに視線を戻すと、さっきから静葉の手を摩擦しつつ、じっと静葉を見上げている。
「帰ったら眠る?」
「そうさせてもらうわ」
「一緒に眠れないのが残念ね」
「私もよ」
 そう言って、静葉は控え目に欠伸をした。妹の毛布が恋しかった。
静葉、綺麗ですね。
こいし、かわいいですね。
そして人気投票の発表が明後日なので今からwktkです。
そして新作体験版発表(多分)の例大祭まで二か月切ってます。
これからも東方漬けの日々を送ることになりそうです。

話全然変わりますけど、孤独のグルメ、あれおもしろいですねえ。
東方界隈で人気があると、某作家さんの後書きに書いてあったのを見て、同志を見つけた気分でした。
野田文七
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コメント



0.2660簡易評価
7.80煉獄削除
読んでいたときは一体どうなってしまうのかと
ハラハラしたけど収束して良かった。
静葉とこいしの絡みぐらいが良かったです。
面白かったですよ。
9.100名前が無い程度の能力削除
こいしずは!そんなのもあるのか。
13.80名前が無い程度の能力削除
「こい×静を」「静×こいじゃなしにこい×静の方ね」

あなたの文体は色気があって好きです。片思いの苦しさや歪みがよく伝わってきました。
しかし静葉が艶かしくて困る。
14.90白徒削除
弾幕表現が素晴らしい、この弾幕を此の件で持ってくるかと。
こいしちゃんの弾幕総動員ですねっ…っと遺伝子とロールシャッハはどっちだ?

まぁそんな事はさておき、ぞっとするような恋模様をありがとう。
静葉姉ぇの美しさにはそりゃあ惹かれるよねっ!(何
17.100名前が無い程度の能力削除
静葉とこいしたんキタ!!!
まさかこういう絡みだとは思いませんでした。とても意外で面白かったです。先を急いで読みました。
他にもレティや雛といったメインクラスで扱われることが少ないキャラがすばらしく生かされていて感激です。
静葉と雛の、昔の恋人風な訳有りっぽい関係にもときめきました。
24.90名前が無い程度の能力削除
よくわかんねぇけどなんか来た
29.100謳魚削除
静葉姉さんに想いを隠してそうな雛さんが良いなぁと。
静葉姉さんとこいしさんの組合せはどことなく艶っぽい。
31.100名前が無い程度の能力削除
なんとなく艶っぽい文章で素敵です。ごちそうさま
異色の組み合わせだけど、違和感なく受け入れられました
38.100名前が無い程度の能力削除
自分百合百合したのはあんま好きじゃないんですが、これはそれを上回って読ませてくれる作品でした。
毎回プロットが明確でテーマも捉えやすいので、読んでいて余計な雑味がなく大変素晴らしいです。
40.100名前が無い程度の能力削除
野田さんの書き方は本当にいいなあ。言い尽くせない味がある。
不器用で残酷で、儚くて綺麗な恋ですね。妖怪が精神依存の存在だって、つくづくわかる気がします。
45.無評価野田文七削除
>煉獄さん
やっぱ物語はハッピーエンドでしょう!

>9さん
なんだ……この「弾幕パラノイア」ってのは
うんよしこれだ、これはいい描写ができる
パラノイアとは気がきいてるじゃないか
↑この作品の成立過程

>13さん
いやあエロいだなんて。
照れますね。

>白徒さん
静葉の首飾りは遺伝子です。ロールシャッハだと数が多過ぎるので。
あと妖怪ポリグラフも入れられませんでした。「嘘」ということがテーマにはなってますから、広い意味では入っていますが……
こいしの弾幕はひとつひとつが想像力を掻き立てられます。
あのつんのめるような音楽といい、地霊EXはほんとすばらしい。

>17さん、謳魚さん、31さん
前回静葉書き足らなかったなーと考えながら地霊EXしてたらいつのまにかこの話を思いつきました。
EXのラストはたいてい心臓バクバク言わせながら終わるので、その状態でキャラグラみると吊り橋効果(?)でさらにぐっときます。
やはり神主は神。
レティにしろ雛にしろ、あれだけ音楽や弾幕、設定を作り込んでくれているのだから、どれだけでも想像が広がりますよ。

>24さん
言葉を読むのではなく、言葉を感じるのですよ……

>31さん
誤解を恐れず言えば、東方はすべてにおいて煽情的なのです。
それがいい。

>38さん
あら。そしたら「ファーストキス」とかはキツかったですか?
自分の好みと、ひとに楽しんでもらう境界の匙加減は永遠のテーマですね。

>40さん
エキストラボスだから絶対に2面ボスには余裕勝ち、というのはないと思います。
昔話でも精神攻撃や、騙すことで、強者から奪いますしね。
幻想郷の妖怪は、外の生き物より物語に敏感、といいますか。
だから書きがいがある。
あれ、何言ってんだろ自分。
48.90名前が無い程度の能力削除
うん。
やっぱり氏の作風は好きだな。
もどかしいぐらいに何も言えんのが悔しいが。
52.100名前が無い程度の能力削除
描写が美しすぎて心がキュンキュンした。
大事なことだから二回言うけど、とにかく文章が美しすぎる。
狂気とか憎しみとか情愛とかがダイレクトに感じ取れた。
57.100名前が無い程度の能力削除
えろいです
狂おしいまでのラブが
69.100つつみ削除
会話と会話の間の文が美しくてしょうが無かったです。
 だれることなく読めるのがすごい
73.100サク_ウマ削除
これはとても良いこいしちゃんだ・・・